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「聖夜の再会」 沢田 佳(さわだ けい) 良かったら押してください。 現在 有難う!また来てください。 「映画 みたいだな、聖夜に雪が降ってる・・・」 佑一(ゆういち)は、そう思いながら同時に忘れたはずの彼女を想っていた。電車が遅れてちょっとだけイライラしていた時だったのに、何故か彼女のことを思い出していた。 「もう、この街には居るはずも無いのに・・・」 そう思って佑一は頭を振った。彼女の面影を消すように・・・ 早くしないとこのまま雪が降り続いたら、電車が止まって下北まで行けなくなってしまう。佑一はそれが心配になってきた。日本中、今夜は2人きり、もしくは気の合った人たち、そして家族で聖夜を祝う、いや、楽しむかな?どっちにしても一人きりのアパートに居ては気が滅入る。TVも街もみんなクリスマス一色なんだから。 恋人もいない、家族もいない佑一はここ何年かは毎年下北沢にある、落ち着けるジャズハウスでいい音を肴にバーボンをゆっくり時間をかけて飲み、街が静かになった頃タクシーを拾って自分の部屋へ戻る。それが恒例となっている。 プレゼントをあげる人もいない。この位の贅沢したっていいだろう、年に一度のことだ。そういうふうにいつも自分を納得させている。 電車の到着を知らせるアナウンスが聞こえた。銀色の車体がゆっくりスピードを落としながらホームに入って来た。電車はいつも以上にゆっくり時間をかけて止まった。それだけ積雪が心配なんだろう。佑一の目の前に見える線路も白くなっていた。いつものようにドアが開き、乗客を吐き出す。降りようとする乗客が絶えた頃を見計らって今度はホームで震えていた人たちが入れ替わりに乗り込む。佑一は二つ目の駅で乗り換える。だからいつものようにイスに座らず、ドアのすぐ傍に立った。佑一の視界に一人の女性が入って来た。彼女は、イス席から立ち上がり彼と同じドアの前に立とうとしたのか、身体の向きを180度変えて足を踏み出したところだった。佑一の顔を見たとたん、なぜか彼女は急に立ち止まった。急だったからバランスを失い、身体が大きく揺らいだ。とっさに佑一は手を伸ばし、彼女を支えた。彼女は礼のひとつも言わない。 「別に礼を言って欲しくて支えた訳じゃないが・・・おもしろくない」どんな顔をしてるんだ、見てやろうという気持ちが起きた。 佑一が顔を覗いたとき、彼女の顔は強張っているように見えた。何かに驚いているように見えた・・・次の瞬間!「佑一!?」 佑一は頭をハンマーで殴られたようなって、このことか!そう感じた。「あ、歩(あゆみ)!?」 二人は思わず歩み寄り手を取り合った。何も言わず・・・いや、正確には、突然の再会に言葉を失っていた、と言うべきだろう。
2010.11.23
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・・・つづき やがて二人は同時に周囲の目に気付いた。特に、直ぐ近くにいた海外からのペアはニコニコして見ている。佑一は悪い事してるわけでも無いのに、弁解するように彼らに言った。「We met after an interval of ten years.」「オー!ほんとですか、10ねんぶり!今夜は奇跡起きるよ」男性の方がそう言って自分のことのように嬉しそうに手を叩きだした。(なんだよ日本語しゃべれるのか)彼らにつられてまわりの日本人たちも拍手をはじめた。これには佑一も歩も参ってしまった。乗り継ぎの駅で電車を降りたふたりは足早にホームから遠ざかった。「此処まで来たら大丈夫。ちょっと止まろう」「ええ、びっくりしたわね」お互いに顔から目が離せない。佑一が先に口を開いた。「君はあれからどうしてた?」「それは、私の台詞よ。あなたこそ今までどこで何をしてたの」雪は、まだ止む気配すらなく降り続いている。「このままじゃ、ふたりとも雪に埋もれてしまうよ。とにかく何処かへ入ろう」二人は一番近くのこじんまりした喫茶店を選んだ。運ばれて来た温かいコーヒーを一口すすると、さっきの続きが始まった。「ねえ、あの日あなたは何処に居たの?」しばらく間があった。佑一の顔が上を向いた。「あの日は君の結婚式だった・・・・・」歩は肯定するように、そして泣き出しそうになった佑一を励ますように彼の手を握って「続けて」優しくそう促した。「だから、ぼくは予定どおり、この街を離れたんだ」今度は歩の上半身が小刻みに震えた。 「九州の叔父を訪ねて、そして叔父の仕事を手伝って暮らしてた」「一人で?」「ああ、他に誰がいるっていうんだ!」佑一は握っていた手を離そうとした。でも、歩が強く握り返して離れなかった。「ごめんなさい!本当にごめんなさい私どうかしてたの、自分でも未だに信じられない」 「そんなこと言うもんじゃないよ!ご主人に悪いだろ」今度こそ佑一は手を離した。「結婚は・・・してないわ」「え!」「できなかったの、・・・当日の朝になってどうしてもあなたの事が忘れられなくて・・・結局ドタキャンしたの」 また、しばらく間が空いた。「どうして?・・・ぼくはやっとの思いで君を諦めたっていうのに・・・」「それが分からなかったの!どうして私を諦めなければならなかったの?」周りの客が一斉に二人を見た。「ちょっと声が大きかったかな?」プッ!歩が吹き出した。「相変わらずね、その言い方。ちっとも変ってない」「そ、そうかなあ・・・」「あなたは、本当は素敵なのに・・・少しは格好つけたら?そしたら今だって、たいていの女性はあなたに夢中になるわ」「そんな事は無いと思うけど・・・」「それって、私に男性を見る目が無いって事?・・・あなたに夢中だったのに、ふられてやけになって、親のすすめる結婚話に乗って、挙句の果てにあの人を悲しませて、勝手に生きてきた私はただのピエロなの?」「ちょっと待って!ぼくが君を振ったって?今、そう言ったの?」歩の目に涙が溢れている。あの気の強い歩が泣いている!ぼくはいったいどんなひどい事をしたんだ?思い当たることがないだけに、佑一の困惑は普通ではなくなった。そのことがようやく彼に強い意志を、彼自身の中から呼び起こしてくれた。「教えてくれないか、もう遅いかもしれないけど・・・知りたいんだ、どうしても」その言葉を聞いて、初めて歩は嬉しそうに微笑んだ。長い指で涙を拭った。はっとして佑一はハンカチをポケットから取り出す。「今のは遅いわね。・・・でも私たちはまだ間に合うかもしれないわ・・・世話のやける人ねぇ・・・」 歩はやっと昔の優しい笑顔になって話し始めた。「10年前のあの日、あの公園で私、言ったわよね?・・・」「・・・どの話だろう?いろんな事話したような・・・」「・・・ま、いいわ。今ここであなたを責めていたんじゃ先へ進めないものね・・・あの時、私はこう言ったわ。『私、来週の日曜日、お見合いするの。両親がどうしてもってうるさいから・・・一応お見合いするだけは、しないとね・・・ほら、そうしないといつまでも五月蝿く言われちゃうから、ね』・・・どう?憶えてない?」「その話なら・・・忘れるはずないよ。あのお見合いの話を聞いて、ぼくは君を諦めたんだから・・・」「・・・やっぱりね。でも、どうしてそこで諦めちゃったのかなあ?ほんとに好きなら、そんなの断っちゃえ!とか言ってくれるんじゃない?普通は・・・」「え!じゃあ、あの時、ぼくが止めたら君はお見合いを断るつもりだったの?」歩はテーブルの上に置いたぼくの手の甲に彼女の白くて長い指先で、意味のない模様を書き始めた。昔と同じ仕草。懐かしい・・・「私、昔からこうやってあなたの手に触れていたわよね?」「ああ、そうだったね・・・」「こんな事、好きでもない男性に対してすると思う?」「・・・ああ、やっぱりぼくは鈍感だったんだね」「ええ、最上級のね・・・」歩はそう言ったけれどちっとも怒ってないみたいだ。笑顔のまま。
2010.11.23
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・・・つづき 「じゃあ、君が今まで一人を通してきたのは、ぼくのせい?」フーッ!歩の溜め息。「やっとお分かり頂けて、とても嬉しいわ・・・・・ねえ、知ってた?」「何を?」「知ってるはず無いわね、気付くわけないか・・・私はね・・・あなたの声を聞いてるだけで幸せな気分になれてたのよ。中学生の頃からずっとね」「え!そうだったの?」 「・・・もういい・・・ねえ、今日は聖夜よね?」 「ああ、そうだね」「だったら、私たちにも何か特別なことがあっても不思議は無い訳よね・・・」「もう、すでに特別なことがあったじゃないか」「いいえ!違うわ。それは10年前に戻っただけのことよ・・・私が言ってるのはこれからの私たちにとって特別なことよ」「・・・例えば、何?」「決まってるでしょ。この10年間私を待たせた償いをしてもらうのよ」「何か、ちょっと怖いなあ・・・」歩は、それには応えず「そろそろ出ましょ。まだ今のうちなら電車も動いてるだろうから・・・早く」いつの間にか雪も止んでいてふたりは無事、駅に着いた。佑一のアパートまでは歩いて15分。佑一1人なら10分だ。そう言ったら歩に睨まれた。「今夜は私の家に来て」「そんな、こんな時間にお邪魔しちゃ悪いよ」「両親なら出かけて居ないわ・・・好都合ね」「こんな日にお出かけって・・・一体どこに」「伊豆の温泉よ、まず2~3日は帰らないわ。だから大丈夫。もっとも私が男性を連れて帰ったら大喜びで大歓迎してくれるわね。なんせ誰かさんのおかげで売れ残ってしまって、顔を見れば結婚しろって五月蝿いんだから。・・・あ、そうだあそこのコンビニで何か食べるもの買っていきましょ」買物の途中、急に歩が佑一に身体を寄せて囁いた。「寒かったよね?暖まるにはお風呂が一番よ。替えの下着とか持ってないでしょ?」佑一はすぐには分からなかった。でも歩の顔を見ると・・・彼女の顔がほんのり赤い。・・・・・「あ、そうか・・・・・これから部屋まで取りに戻ってたんじゃ、しらけちまう」ようやく気付いた佑一は、赤くなったであろうその顔を見られないようにとその場にしゃがみ込んだ。ビンゴ!目の前に・・あれ・・があった。買物を済ませ、二人はコンビニを出て歩の家に向かう。当然佑一の両手は塞がっている。大通りからひとつ狭い道へ曲がると直ぐに歩の家が見える。・・・・・そして通り過ぎる。 「おいおい、君んち通り過ぎちゃって、・・・どうかしたの?」「公園に行くの!」佑一にはなんとなく、彼女の考えていることが分かったような気がした。あの公園から始まるんだ・・・10年間、彼女を待たせた、その償いが・・・たぶん・・・なぜなら・・・あの日、歩がお見合いの話をしたのが、あの公園だったから・・・寒い夜のこと、公園には誰もいない。薄っすらと積もった雪の上に足跡ひとつ無いことで分かる。「この公園でこれからのスタートを切るの、いい?」「ああ、ここには思い出が一杯ある・・・」「そう、だから・・・今から新しい思い出をひとつ作るのよ、あなたと私で・・・さっき言ったわよね、10年間私を待たせた償いをしてもらうって・・・」「ああ、うん何でもするよ」(やっぱりな・・・)「あなた、クリスマスのプレゼント、何か欲しいものある?」「うーん・・・急にいわれてもなあ・・・」「じゃあ、後回し。私の欲しいもの頂戴!?」「いいけど、何が欲しいの?」歩は軽く下唇を噛んで俯いたが、すぐに上を向いて佑一の目の前まで近づくと「これよ!」そう言うと歩は佑一の胸に飛び込み、顔をそこへ埋めた。そして「抱きしめて!ここで!」佑一は何も言わず彼女の細い背中を抱きしめた。「こうして欲しかったの!・・・ずっと、ずっと昔から!・・・こうして欲しかったのよ・・・」佑一は歩のことが愛しくてたまらず、髪をなでようと片手を背中から放した。「嫌!手を放しちゃ嫌・・・私がいいって言うまで・・・お願いよ・・・」佑一の手はまた彼女の背中に戻った。そして手に力を加えた。言うとおりにするよ。・・・そう言っているように・・・「歩?」「なあに?」そう言いながら歩は佑一の胸に預けていた顔をあげて両手を彼の首にまわし、佑一の目を覗き込むようにした。佑一の望むものが何であれ、歩の2番目の要求はもう、決められていた。「ぼくも欲しいものを思い出したんだけど」「言ってみて」「一晩中、君とひとつになっていたい!」歩はとろけそうな表情になって言った。「今夜だけでいいの?」「いや、これからずっと・・・ずっと」「毎日?」「ああ、そうだよ。だって10年分償わないと・・・そうだろ?」「嬉しい・・・」歩は佑一の首に廻した手に力を入れて引き寄せる。佑一もそれに応じて歩の唇に唇を重ねた。そして彼女の背中を優しく抱きしめた。いつの間にか、また雪が降り始めた。まるで二人の姿を隠すかのように・・・ E・N・D
2010.11.23
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「聖夜の再会」 沢田 佳(さわだ けい) 「映画 みたいだな・・・聖夜に雪が降ってる・・・」 佑一(ゆういち)は、そう思いながら同時に忘れたはずの彼女を想っていた。電車が遅れてちょっとだけイライラしていた時だったのに、何故か彼女のことを思い出していた。 「もう、この街には居るはずも無いのに・・・」 そう思って佑一は頭を振った。彼女の面影を消すように・・・ 早くしないとこのまま雪が降り続いたら、電車が止まって下北まで行けなくなってしまう。佑一はそれが心配になってきた。日本中、今夜は2人きり、もしくは気の合った人たち、そして家族で聖夜を祝う、いや、楽しむかな?どっちにしても一人きりのアパートに居ては気が滅入る。TVも街もみんなクリスマス一色なんだから。 恋人もいない、家族もいない佑一はここ何年かは毎年下北沢にある、落ち着けるジャズハウスでいい音を肴にバーボンをゆっくり時間をかけて飲み、街が静かになった頃タクシーを拾って自分の部屋へ戻る。それが恒例となっている。 プレゼントをあげる人もいない。この位の贅沢したっていいだろう、年に一度のことだ。そういうふうにいつも自分を納得させている。 電車の到着を知らせるアナウンスが聞こえた。銀色の車体がゆっくりスピードを落としながらホームに入って来た。電車はいつも以上にゆっくり時間をかけて止まった。それだけ積雪が心配なんだろう。佑一の目の前に見える線路も白くなっていた。いつものようにドアが開き、乗客を吐き出す。降りようとする乗客が絶えた頃を見計らって今度はホームで震えていた人たちが入れ替わりに乗り込む。佑一は二つ目の駅で乗り換える。だからいつものようにイスに座らず、ドアのすぐ傍に立った。佑一の視界に一人の女性が入って来た。彼女は、イス席から立ち上がり彼と同じドアの前に立とうとしたのか、身体の向きを180度変えて足を踏み出したところだった。佑一の顔を見たとたん、なぜか彼女は急に立ち止まった。急だったからバランスを失い、身体が大きく揺らいだ。とっさに佑一は手を伸ばし、彼女を支えた。彼女は礼のひとつも言わない。 「別に礼を言って欲しくて支えた訳じゃないが・・・おもしろくない」どんな顔をしてるんだ、見てやろうという気持ちが起きた。 佑一が顔を覗いたとき、彼女の顔は強張っているように見えた。何かに驚いているように見えた・・・次の瞬間!「佑一!?」 佑一は頭をハンマーで殴られたようなって、このことか!そう感じた。「あ、歩(あゆみ)!?」 二人は思わず歩み寄り手を取り合った。何も言わず・・・いや、正確には、突然の再会に言葉を失っていた、と言うべきだろう。やがて二人は同時に周囲の目に気付いた。特に、直ぐ近くにいた海外からのペアはニコニコして見ている。佑一は悪い事してるわけでも無いのに、弁解するように彼らに言った。「We met after an interval of ten years.」「オー!ほんとですか、10ねんぶり!今夜は奇跡起きるよ」男性の方がそう言って自分のことのように嬉しそうに手を叩きだした。(なんだよ日本語しゃべれるのか)彼らにつられてまわりの日本人たちも拍手をはじめた。これには佑一も歩も参ってしまった。乗り継ぎの駅で電車を降りたふたりは足早にホームから遠ざかった。「此処まで来たら大丈夫。ちょっと止まろう」「ええ、びっくりしたわね」お互いに顔から目が離せない。佑一が先に口を開いた。「君はあれからどうしてた?」「それは、私の台詞よ。あなたこそ今までどこで何をしてたの」雪は、まだ止む気配すらなく降り続いている。「このままじゃ、ふたりとも雪に埋もれてしまうよ。とにかく何処かへ入ろう」二人は一番近くのこじんまりした喫茶店を選んだ。運ばれて来た温かいコーヒーを一口すすると、さっきの続きが始まった。「ねえ、あの日あなたは何処に居たの?」しばらく間があった。佑一の顔が上を向いた。「あの日は君の結婚式だった・・・・・」歩は肯定するように、そして泣き出しそうになった佑一を励ますように彼の手を握って「続けて」優しくそう促した。「だから、ぼくは予定どおり、この街を離れたんだ」今度は歩の上半身が小刻みに震えた。「九州の叔父を訪ねて、そして叔父の仕事を手伝って暮らしてた」「一人で?」「ああ、他に誰がいるっていうんだ!」佑一は握っていた手を離そうとした。でも、歩が強く握り返して離れなかった。「ごめんなさい!本当にごめんなさい私どうかしてたの、自分でも未だに信じられない」 「そんなこと言うもんじゃないよ!ご主人に悪いだろ」今度こそ佑一は手を離した。「結婚は・・・してないわ」「え!」「できなかったの、・・・当日の朝になってどうしてもあなたの事が忘れられなくて・・・結局ドタキャンしたの」 つづく
2009.12.24
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