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「うちの親父さんとお袋さんは、同じ年の同じ月に・・それも2週間のうちに仲良く逝ってしまった」そこへ奥様が「やはり、幼馴染だったからかねぇ・・・」「ただの幼馴染とは違う・・・」「そうねぇ・・・あんなに仲の良い夫婦はめったにおらんわね」お二人は冷えた麦茶を飲みながら、遠くをみるような目になった。ぼくはとても興味をそそられて、たずねてみた。「そんなに仲の良いご夫婦だったのですか?」「そうだねえ、一度も夫婦喧嘩してるところを見たことが無いから・・・」奥様がそう仰ると・・・ご主人が「息子のわしでさえ、物心ついて以来あのふたりが言い争いをしておるところ、見たことないから」 と強調した。僕にはちょっと信じ難いことだけれど・・・もし、それが本当のことならば・・・僕のそのときの寒々とした心を暖めてくれそうな、そんな気がして・・・「良かったら、もっと詳しく話していただけませんか・・・」ご主人は、意外なほど気軽に応じてくれた。「わしの両親は、同い年生まれの幼馴染で家も近い・・・お袋さんの実家はあれだよ」ご主人は、庭木の向こうを指差して僕を振り返った。彼の指し示した方に目をやると、塀に囲まれた立派な門構えの大きな屋敷が見えた。蔵もあるようだ。ここからだと、直線距離にして大体200メートルほど有りそうである。「大きな家ですね・・・」「ああ、昔はこの辺りの土地はほとんどあの家のものだった。あれだ・・・大地主ってやつだな」なるほど・・・ここのお宅はあの家に比べるとはるかに小さい・・・ま、あちらが大きすぎなんだけど・・・ぼくは、少しだけ話の先が見えてきたように思えた。
2008.10.30
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若い頃は誰でもそうなのかも知れないけれど、心の中に隙間風が入ると、ぼくは一人旅に出た。今から20年以上も昔のこと・・・ディーゼルエンジンの列車で、あてもなく各駅停車の旅に出た僕は、山あいの谷を過ぎて急に開けて、見えてきた田園と山並みとが、まるで風景画のように思えて・・・たまらずに初めて訪れた小さな駅で列車を降りた。駅前でレンタカーを借りてしばらく走っていると(この地域は紅葉狩りで有名なところらしく、秋になると結構賑わうらしい) 田んぼの向こうに数軒の農家が贅沢な間隔をおいて点在しているのが見えた。僕はなんとなく興味を覚えて、アクセルペダルを開放し、ゆっくりブレーキをかけた。車を降りると、特に気になった一軒の農家の庭先へ「こんにちは・・・」声をかけながら入って行った。人の姿も見えないのに・・・こんなことは初めてのこと。見知らぬひとの家に、たとえ庭先とはいえ、許しも得ずに入ってゆくなんて・・・そこへ現れたのは、60才くらいの麦藁帽子をかぶったおじさん。温和な表情ながら、がっちりとした体格だ。タオルで顔や首のあたりの汗を拭きながら突然の訪問者へゆっくりと歩み寄る・・・「お父さん、誰かお客さんかね?」声のする方から質素な身なりのご婦人が現れた。「旅の者ですが・・・喉が渇いて・・・でもこのあたり、自販機も見当たらなくて・・・お水でも一杯いただけたらと・・・」我ながら、そこそこ妥当な言い訳をみつけたと思った。このお二人は、この家のご主人とその奥様だった(ひと目で大体そうじゃないかと、誰でもそう思うだろうけど・・)「ま、そこへ掛けなさい」ご主人は縁側を指差しながらそう言うと、奥様に飲み物(たしか、麦茶だったと思う)を入れてあげるように頼んでくださった。 よく冷えた麦茶を飲みながら、おじさんは「暑いねえ」から始まり、僕の素性とこの時期にここへやってきた訳を一通り尋ね、僕が正直に答えると(言わなくても良い事まで、なぜか話してしまった・・・) 納得されたようで・・・頷かれて・・・「昨日はわしの親父さんの法事だった・・・」と、唐突にご自分の亡くなった父親のことを話しはじめた。その時は正直言って「何で、初対面のおまけによそ者の僕にそんな身内の話を?」だったけれど、後になって分かったように思う。あの時、僕の心の中で隙間風が吹いていたこと、多分おじさんは直感で感じ取られていて、それで僕の心を温めてくれようと、あの貴重な話を聞かせてくれた・・・きっとそうだと今でも、そう思っている。
2008.10.27
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