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2008.07.15
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カテゴリ: Movie
<きのうから続く>

1950年代の初め、コクトーとマレーの間には明らかに距離ができていたが、一方でマレーとアメリカ人ダンサーのジョルジュ・ライヒとの仲は蜜月を迎えていた。ジョルジュは、シャイで勤勉で礼儀正しい青年だったが、マレーを驚かす習性ももっていた。彼はバレエダンサーという職業ゆえか、自分の肉体に対してほとんどまったく羞恥心をもたず、2人が暮らすハウスボート「ノマード(放浪者)号」にいるときは、夏といわず冬といわず、裸同然で歩き回っていた。ジョルジュに最低限の下着をつけさせるのに、マレーは苦労をした。

ある日、マレーと全裸のジョルジュが部屋にいるところに、料理と掃除をやってくれているジャンヌがドアを開けてしまった。年老いた善良なジャンヌは、ソドムの罪を目撃した修道女のように十字を切り、慌てふためいてドアを閉めた。その表情がおかしくて、2人は思わず顔を見合わせてクスクスと笑い出した。笑いはだんだん爆笑になり、抑えられなくなった。

ノマード号の周りには相変わらず熱心なファンや、盗み撮りを狙うカメラマンがたむろしていた。したがって、ノマード号の窓のカーテンは1年中しめっぱなしだった。マレーは狭い川船での生活に限界を感じ、早くマルヌに家を建てたいと思っていた。ジョルジュが気に入るように、アメリカ風のコロニアル様式を取り入れるように建築家に頼んでいた。

マレーとジョルジュはしばしば一緒に外出したが、その服装は対照的だった。マレーはちょっとしたところに出かけるにもたいていスーツで、一着40万フランから60万フランはかけて、専属のデザイナーにオーダーメイドで仕立てさせていた。夏でもシャツのボタンを手首のところでぴっちりと締め、上着の袖を折り返してシャツの袖口をみせていた。コートの袖も折り返して着るのだった。そのスタイルがジャン・コクトーと同じだとジョルジュが気づくのは、ずっと後になってからだった。

ジョルジュはといえば、肩まで露出したシャツ(それはマレーに言わせれば下着だった)、よれたジーンズを履きとおした。マレーは自分のデザイナーのところでオートクチュールの服を仕立てさせようとしたが、ジョルジュは拒否した。そこで最低限、デパートのプレタポルテ売り場に行くよう頼んだ。だが、値札を見てジョルジュは再び拒否した。

「請求書はジャン・マレーあてに送らせればいいよ」
なんとかジョルジュに、「まともな」服装をさせたいマレーが言った。
「君はぼくの弟同然なんだから」
「君がぼくの兄だったら、普段着にこんな無駄使いはさせないよ。いくらなんでも常軌を逸してる」
マレーにそんなことを言ったのは、ジョルジュが初めてだった。コクトーはむしろ逆だった。戦争中、コクトーとマレーは一時破産状態になり、コクトーは身の回りのものをいろいろと売って生活費に充てていた。だがそれでも、コクトーはマレーが帰ってきて、しかるべき場所に出るときに着る服を仕立てるための金だけは手をつけずにとっていた。

コクトーは小食だったが、常にパリの一流のレストランで食事をしていた。ジョルジュはといえば、体重に異常なほど気を遣い、美味しいものにはまったく興味を払わず、家でシリアルや野菜ばかり食べていた。少しでも体重が増えると、食事はセロリだけになることもあった。
「ぼくは、基本的にピューリタンなんだな」
ジョルジュはマレーに言った。
「ピューリタンって、何だ?」
「カトリックじゃないキリスト教徒の一大勢力。ピューリタンにとっては、美味しいものを食べるのも、贅沢なものを着るのも、罪なんだよ。子供のころから、なんとなくそう教えられてきた」

2人の誕生日が近づいた12月、料理人のジャンヌがジョルジュに、誕生日に何を食べたいか聞いた。サラダ、とジョルジュは答えた。面食らったジャンヌはそれでも、市場で新鮮な卵を手に入れてマヨネーズを作り、ジャガイモを茹でてマッシュにし、それに緑黄色野菜やレンズ豆や果実やナッツも加えて、手の込んだ「ジャンヌ風サラダ」を作った。

誕生日の夜、ジョルジュはあまり食が進まないようだった。
「生野菜を切ってくれる?」
遠慮がちにジョルジュが言った。
「どんな野菜?」
と、ジャンヌ。
「レタスとキュウリとにんじん。ドレッシングはなしで」
ジャンヌが野菜を洗い、ただ切って盛った皿を持ってくると、ジョルジュは満足そうに塩をかけ、勢いよく食べ始めた。マレーはジョルジュの肩越しに、ありありと浮かんだジャンヌの落胆の表情を見た。ジャンヌ風サラダを全部たいらげるのは、マレーの義務になった。

ジョルジュはジャン・コクトーの著作をほどんと読んでいなかった。
「詩なんて、ぼくにはわからないよ」
ジョルジュは言った。
「むしろフランス人がなんでそんなに詩が好きなのか、聞きたいくらいさ」
そこで、マレーは若いころ――まだコクトーと出会う前に――自分を魅了したコクトーの小説『恐るべき子供たち』をジョルジュに半ば強制的に読ませた。難しいフランス語が読めないジョルジュのために、わざわざ英語版を探して買った。

だが、数十ページ読んだところで、ジョルジュは投げ出してしまう。登場人物と自分に距離がありすぎる、とジョルジュは言った。
「誰にも感情移入できない」
マレーには意外だった。
「ぼくはダルジュロスに感情移入したけどね。君は『恐るべき子供』じゃなかったんだね、きっと」
「完全に平凡な普通の子供さ。田舎町で普通の家庭に育った。映画館が1つ、商店街は百メートルもいけば終わってしまう、そんな町で、家は上流でもないけど、それほど下層階級ってわけでもなかった」
「なんでバレエを始めたんだ?」
「小学校からの帰り道にバレエ教室があった。練習してるのは女の子ばかりだったけど、どうしても習いたくて、窓の外で1人で中を見ながら踊ってた。そのうち先生が気がついて、誘ってくれたんだ。親はそのうち飽きるだろうと思ってたみたいだけど、ぼくは続けた。でも、いつまでたってもバレエにをやめないぼくを見て、だんだん親は怒り始めた。学校の成績が悪いのは、バレエのせいだと思ったんだな。で、高校生のとき、とうとう親と大喧嘩になって、家出同然にシティ(=ニューヨーク)に出た。働きながらバレエスクールに通ったんだけど、そこでクラシックバレエのダンサーは無理だってわかったんだ」
「なんで?」
「たぶん、始めるのが遅すぎた。あと5年早く始めていれば違っていたかもしれない。クラシック1本でやってる連中とぼくでは、もうどうやったって埋められない差があることに気づいたんだ。だから、クラシックは諦めて、モダンバレエやジャズダンスを習った。で、ブロードウエイでオーディションを受け始めて、少しずつ舞台に出るようになった。だんだん仕事が来るようになって、パリのリドでのショーの話が来た。それで、パリに来て、すぐに君に会って…… 今はここにいる」

「学校をクビになったことはなかったわけだな」
「ダルジュロスみたいに? あるわけないよ。まじめだもの。高校を自分で途中下車しただけさ」
「ぼくは、ものすごくバカでさ。最初サンジェルマンの高等中学にいたんだけど、成績が悪くてコンドルセ高等中学に転校させられた。そこでも勉強に興味がもてなくて――つまり、ぼくは役者になりたかったから、朗読と体操以外の授業は無駄だと思ったんだよ…… まあ、言い訳だけどね。で、コンドルセでも成績不良で退学させられた」
「2度もかい?」
「そういうこと。コンドルセをクビになって、次は全寮制のジャンソン・ド・シャイユに入った。全寮制の学校というのは、普通の学校と違ってた。そこの教師や自習監督生はぼくをやたらと気に入って、自分のそばにおこうと奪い合うことしか考えなかった」
「つまり、ジャン・コクトーの言う、美の特権は絶大である――ってやつだな」
「先生のお気に入りになったものだから、友達がいなくなった。それで先生に嫌われるために、とにかく暴れなくちゃならなかった。嫌われるためにあらゆることをしたよ。暴力をふるったり、たばこを吸ったり。だんだんとエスカレートして、教師もぼくをもてあまし始めた。ある日、兄貴の拳銃を持ち出して遊んでいたら、学校にそのことがバレて、自主退学させられた」

「次はどこへ行ったんだ」
「サン・ジェルマン高等中学に戻った。半寄宿生になることで入れてもらったんだ。そこでもガキ大将で、学校の物は盗むわ、授業中は大声で叫ぶわ、喧嘩はするわ。まじめな先生の前でわざと転んだりね。そうすると先生は自分も転ぶんだけど、必ずぼくを心配して、怪我はないかって聞くんだ。仲間はわざとだってわかってるから、一斉に爆笑する。先生はそれを見て驚いて、みんなを叱りつける」
「ひでぇガキだね」

「だろ? ダルジュロスなんて、ぼくに比べたら品行方正なほうだよ。そのうちぼくは、どうしても変装がしたくなった」
「変装?」
「そう、舞台に出てもおかしくない衣装を着たかったんだ。ぼくは祖母と叔母とロザリー(=母)と住んでいたんだけど、家にはロザリーや叔母が若いころ着ていたドレスがたくさんあった。それで叔母さんに、衣装の裁ち方や縫い方を教えてもらった」
「それで今でも、衣装が気に入らないと、自分で直すわけか」
「まあ、そういうことかな。とにかく変装がしたかったから、いろいろな格好をしたよ。女の子になったこともある。変装をしてれば、近所の人も誰もぼくに気づかないと思ってた。それもだんだんエスカレートして、学校の友達とキャンプに行ったときに、完璧な…… と自分で思ってただけだけど、女装をした。ロザリーのドレスを着て、絹の靴下にかわいい靴をはいて、ハンドバックをもって、帽子をかぶって、ストールを巻いた。化粧も少しね。そしたら、引率の教師がぼくを午後中かかって口説いた。ぼくもすっかり入り込んで、完全に空想上の役者になってた。つまり口説かれ役ってわけ。でも、それが学校にバレて退学だと言われた」

ジョルジュはあっけにとられてマレーを見つめる。

「頭に来たぼくは、校庭のアスファルトの塊を取って…… つまりアスファルトが溶けるぐらい暑い日だったんだ。それで玉をつくって、教室のドアの錠前に塗りこめて、カギを開けられないようにした。誰も中に入れなくて、先生も生徒もドアの前で立ち尽くしていたよ。それを見届けてから、今度は石を投げて、教室のガラスを19枚割ってやった」
「そこまでしたら、確実に退学だね」
「最後は自分で出て行ったけどね」
「たしかに、ダルジュロスか、それ以上だね」
「ジャンの『恐るべき子供たち』を読んだとき、まるで自分がモデルになってるみたいで怖い気がした。ぼくとジャンは、まだ会ったこともなかったのにだよ」
「ぼくには『恐るべき子供たち』より、君の話のがおもしろかったよ」

2人の会話はいつもこんなふうに延々と続き、笑いで途切れた。2人には話すことがいつもたくさんあった。






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最終更新日  2008.08.08 20:24:11


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