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2008.07.19
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カテゴリ: Movie
1954年6月、舞台の合間のバカンスをマレーはハリウッドで過ごそうとしていた。ジョルジュがローラン・プティらとの仕事のためにハリウッドに滞在していたのだ。ジョルジュをプティに紹介したのは、もちろんコクトーだった。
「ねえ、仕事が空いたら、君もハリウッドに来てよ」
出発前、ジョルジュはマレーに懇願した。
「何ヶ月も離れ離れなんて、淋しいじゃないか」
淋しいじゃないか、淋しいじゃないか、淋しいじゃないか――それは、まるで『カルメン』の長期ロケで、コクトーから離れてイタリアに旅立つときのマレーの想いだった。ロケは最初3ヶ月の予定だった。そんなに長くジャンと離れていられるだろうか? 出発前、マレーは胸が締めつけられた。淋しさをまぎらわすために、犬のムールークを連れて行った。ムールーク相手にコクトーの話をしていた。

ジョルジュといると、ときにフーガの旋律のように、コクトーとの過去の瞬間が蘇ってきて、マレーは眩暈に似た感覚を覚えることがあった。

「ハリウッドねぇ……」
実のところマレーにはピンと来なかった。
「用もなしにハリウッドに行ったら、仕事探しと思われないかな」
「大丈夫だよ。ハリウッドっていったって、ぼくらは下町に家を借りるつもりだし、そこは映画関係者なんていないもの。プライバシーは守られてるよ。近くにはローラン(=プティ)の借りてる家もある」

結局マレーはニューヨーク行きの飛行に乗る。国際線では乗客リストがマスコミ関係者に配られるため、ニューヨークに着くと常駐の記者が寄ってきた。
「ニューヨークにご滞在ですか?」
「……ええ、まあ」
「ちょっとお待ちいただけませんか。専門記者を呼んできます」
マレーは逃げ出した。目立たないように国内線に乗り換える。国内線は乗客リストが公表されない。ロサンゼルスに着くと、空港ではジョルジュが1人で待っていた。

ハリウッドの下町の家では、マレーは料理や皿洗いなどの家事をしてジョルジュが仕事から帰るのを待っていた。ジョルジュの仕事がないときは、一緒にプールのあるローラン・プティの家に泳ぎに行ったり、ソールトン湖やサンフランシスコに出かけたりもした。

近くに市場があった。買い物に出かけても誰一人彼が「ジャン・マレー」だと気づかなかった。フランスでは正体がバレずに過ごせることはほとんどない。マレーには新鮮だった。
「あんた、フランス人かい?」
売り子が聞いてくる。
「そうだよ」
「何してる人?」
「絵を描いてる」

そんなのんびりとした時間を送っていたある日、エドゥアール・デルミットから電報が届く。

――ジャン、心筋梗塞。容態悪し。

マレーは凍りついた。

あわてて荷物をまとめフランスへ帰る準備をする。飛行機の予約は?――やり方がわからなかった。これまでリュリュにまかせっきりで、自分で予約したことはない。英語に自信がなかったし、どこに電話していいのかもわからなかった。とにかく空港へ行こう、そこで一番の飛行機に乗ればいい。

床にスーツケースを広げて荷造りしているところへ、ジョルジュが帰ってきた。
「どうしたの?」
「ジャンが倒れたって」
電報を見せるマレーの顔は蒼白で、体は震えているようだった。
「連絡はしてみたの?」
「電話のかけ方がわからない」
ジョルジュは受話器を取り上げ、交換台と話し始めた。
「だめだ。ここからフランスにはつながらないって」
「とにかく、飛行機に乗るよ」
「予約したの」
「いや」
またも電話をかけるジョルジュ。
「ニューヨーク便は1時間半後だ。空席はあるって」
「なあ、ジョルジュ、飛行機に電報って届くの?」
「え? 何言ってんだ、届くわけないよ」
「どうしたらいいんだ。ぼくが飛行機に乗ってる間にジャンにもしものことがあったら……」
「……そんなに、悪いのか」
「わからない、わからないよ、わからないから言ってるんだ!」
ほとんど怒声だった。ジョルジュはたじろいだ。いつもの快活で大らかなマレーとは別人のようだった。
「とにかく、空港まで送るよ」
ジョルジュはクルマを取りに出た。

空港への道々、マレーは腕を組んで険しい表情だった。
「なんでジャンはあんなに体が弱いんだろうな」
と、マレー。
「ぼくときたら、自分でも呆れるぐらい健康なのに。まるでジャンの健康をぼくが奪って生まれてきたみたいだ」
「こんなこと言ったら何だけどさ、ジャン・コクトーはもう若くないよ。心筋梗塞って、つまり心臓だろ? そんなに珍しくないんじゃないの」
奇妙なほど、冷静な言い方だった。マレーは運転するジョルジュの横顔を見つめた。いつもと変わらない、整った美しい横顔。そこに心配を読み取ることはできなかった。
「なあ、ジョルジュ。ぼくはね、ファウストの契約なんて愚かしいと思ってた。自分はファウストは演ることはないだろうって。でも、もし今メフィストが現れて、ジャンとぼくの年齢を取り替えてくれるっていうんなら、ぼくの健康をジャンにあげられるんなら、喜んで契約するよ」
ジョルジュは一瞬押し黙り、静かに頭を振った。
「どうしたんだよ、そんなこと言って。君らしくないよ。君はたとえどんなに危険な撮影でも、いつも平然としてる人じゃないか」
「危ない現場なんて、どうということはないよ。最悪でもぼくが死ぬだけだ…… ああ! 教えてくれよ、ジョルジュ。ジャンに何かあったら、一体ぼくはどうしたらいいんだ」
ハンドルを握りながら、ジョルジュはマレーに視線を投げた。度を失った、子供のように不安な表情。こんなマレーは見たことがなかった。
「そんなにまで、ジャン・コクトーが大切なのか。君の命より?」
「ジャン・コクトーに比べたらジャン・マレーの命なんて、ものの数じゃないよ」
「……そんなふうに思ってるんなら、どうして今まで、ぼくに打ち明けてくれなかったの」
「えっ?」
「最初に君はぼくに、そう話すべきだったと思うよ」
「何のことだ?」
「つまりさ……」
ジョルジュの声は沈んでいた。
「君は大西洋の真ん中でロケをしてる。ぼくはアメリカ、ジャン・コクトーはフランスにいる。ぼくとジャンが同時に瀕死の事故に遭ったら、君はどっちに行くの?」

マレーは黙りこんだ。ジョルジュは何を言っているのだろう? コクトーはジョルジュの仕事のためにも、人脈を生かしてさまざまな仲介をしてくれた。短いバレエ作品の台本を書いてくれたこともある。そのコクトーが重病に倒れたというのに、明らかにジョルジュは、マレーと心配や不安を分け合おうとしていなかった。それはあまりに偏狭な態度に思えた。できれば、ジョルジュにも仕事をキャンセルして一緒に駆けつけてほしかった。少なくともそう言ってほしかったのだ。だが、ジョルジュへの愛が、非難したがるマレーの感情を押しとどめた。

「大西洋の真ん中で、ロケの予定はないよ」
努めて冗談っぽく言う。
「せいぜい、地中海だろ。コルシカかサルディーニャか」
「……ごめん。悪かったよ」
ジョルジュも何かを抑圧するように言った。
「ジャンによろしく。早くよくなるように祈ってるから」

ロスからニューヨークへ。機上の時間はあまりに長く、マレーは不安に苛まされた。ニューヨークでパリのリュリュと電話がつながった。
「ジャンの容態は?」
「それが……」
リュリュは口ごもった。
「まったく動けない状態よ」
「動けないって?」
「フランシーヌが経営してるパリのホテルに今いるわ。高級ホテルが病院みたいになってるのよ」
「危ないの?」
「命の危険は何とか脱したみたいだけど、私には何とも……」
もどかしい思いでニューヨークからパリへ。ホテルへ駆けつける。ところがすぐには面会の許可が出なかった。ドゥードゥーが主治医のスウリエ博士の伝言を伝えに来た。
「ジャンは今、君がハリウッドにいると思い込んでいるから、いきなり帰ったことを知ったらショックを与える恐れがあるそうだ。自分の容態が悪いと思ってね」
「そんな…… 仕事で帰ったと言ってくれよ」
ますます不安と恐怖が募った。

翌日、主治医のスウリエ博士がマレーを呼び出した。
「会ってもいいよ。ただし、あまりジャンにしゃべらせないようにね」
「先生、どうなんですか?」
「大丈夫だよ。今はモルヒネを使っているけれど、だんだんに量を減らしていく。まもなく一滴も使わなくてすむようになるよ」
ほっとするマレー。

こうしてようやく2人は会うことができた。コクトーをしゃべらせないため、普段は聞き役のマレーが懸命におしゃべりをした。そのときの話は自伝に綴られているが、一種謎めいた、2人にだけ通じる物語だ。

「サモア島で、ジャンは真裸になり、日光浴をしながら寝込んでしまいました。そして眼を覚ましたら、若いイギリス人があなたの前に立っていました。あなたの裸は、沢山のとかげやばったやちょうちょで被われていました。そしてあなたのセックスには、礼儀を重んじる若いイギリス人が、一冊の本をのせていました。彼の持ち物でもあるその本は、あなたの戯曲『オルフェ』でありました」(石沢秀二訳『ジャン・マレー自伝 美しき野獣』新潮社)

コクトーのほうも、マレーが飛んで帰ってきてくれたことがよほど嬉しかったらしく、回復期を南仏のサン・ジャンで過ごし始めると、見捨てられた小鳥のように、パリで超多忙のマレーをさかんに呼んでいる。

「1954年7月18日 淋しいのは、ただ1つ、愛する君の顔が衝立の上に現れないこと。ぼくは1分ごとに君のことを考えています」
「1954年7月23日 相変わらずすっかり弱っています。それに、嬉しい君の訪問がない。泣きたい思いです」
「1954年7月25日 君のほうの様子も教えてください。家のことも、劇場のことも。ぼくの苦痛は、病室に入ってくる君が見られないこと」
「1954年7月29日 電話をくれたとき、ちょうど家にいませんでした。かけなおしたのですが、君はもう船(=マレーのハウスボートのこと)にいませんでした。ぼくたち2人はいつだって一緒だと、ぼくにはそう思えます。君を思っています」
「1954年8月12日 君に手紙を書いて昼食に上がっていくと、君から手紙が届いていました。哀れなぼくの病んだ心臓は幸せです」(『ジャン・マレーへの手紙』より)







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最終更新日  2008.07.19 00:42:57


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