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2008.09.09
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カテゴリ: Movie
<きのうから続く>

「そうだった……?」
「ムッシュー・コクトーは、あなたに何も言わなかった?」
「どうだったかな、言われたかも」
「気にしてないのね」
「そういうわけじゃあ、ないんだけどね」
「……私がこんなふうに、あなたと友達になれたのも、ママンとムッシュー・コクトーの友情があったからよね。――ムッシュー・コクトーがサント・ソスピールの私の寝室に描いてくれた素敵な壁画を初めて見た日の感動は忘れらない。犬と一緒に眠っている美青年の絵で、ママンはそれがディオニソスだと説明してくれたけど、私はモデルはあなただとすぐわかったわ。――ムッシュー・コクトーは自分が幸せであることを求めない、なのに、彼の絵は人を幸せにするのね。私は毎晩犬と眠るディオニソス……いえ、あなたと一緒に、幸せな気持ちで眠りについたものよ。――それからサント・ソスピールには、いろんなスターがやって来た。グレタ・ガルボもマレーネ・ディートリッヒも。ジェラール・フィリップと食事をしたこともある。アラン・ドロンが『恐るべき親たち』の役をやりたいって売り込みにきたときは、彼は今ほど有名じゃなかったけど、星のような美青年だった。彼はムッシュー・コクトーにコートをもらって、ものすごく感激した様子だったわ。――こんな体験ができた女の子は、私以外にそうはいないと思う。――でも、13年たって、ママンはジャン・コクトーに反発し始めた。ママンは結局、天才といても平凡な女性でしかなかった。それ以上でも以下でもなかったの。ママンの中の平凡さがムッシュー・コクトーの天才に反発したのよ」
「プリンセス、ねえ、もうその話はやめよう」
「でも、私はあなたに聞いてほしい」
キャロルは一途な眼でマレーを見つめた。
「誰かに聞いてもらわなきゃ、私が押しつぶされてしまいそうなの」

声を震わせている妹に、マレーは何も言えなかった。黙ってキャロルの肩を抱き寄せると、キャロルは話し続けた。

「平凡な人間の武器は『冷淡さ』なのよ。ママンはそれまで崇めたてまつっていた天才に背を向けて、あらゆる関心を失ってみせることで、自分の大きさを彼に認めさせようとしたの。――でも、同時にママンは、私が崇めたてまつっていた女神の台座からも転げ落ちてしまった。私は子供のころから、ずっとママンを崇拝してた……パパは退屈な人だと思っていたわ。ただね、パパとムッシュー・コクトーは全然別の世界に住んでいたけど、お互いを認め合っていたのよ。ムッシュー・コクトーもパパの話に合わせるのに努力してくれた。パパが競走馬をもっていると知ったら、競馬が好きなふりさえしたわ。――パパとママンはもともと、ムッシュー・コクトーが現れる前からずっと疎遠で、パパは外に女性がいたの」
「プリンセス、そんな……」
「いいの。私はパパの女性のことは昔から知ってる。パパを悪く思ってもいないわ。パパは立派な紳士だった。一度も彼女を家に入れたことはないのよ。家でママンといるときは、いつもよき夫を演じていたし、ムッシュー・コクトーが家に来れば、ママンをはさんで2人で座る。――誤解しないでね。パパとムッシュー・コクトーの間にはまったく嫉妬はなかったわ。でも、ママンとムッシュー・コクトーがこんなことになって、私は生まれて初めてパパと真剣な話をしたの。パパはイギリス式の完璧な紳士教育を受けてきた人よ。彼は自分の感情を表に出すには、あまりに慎み深い性格だけど、そのとき私に打ち明けたの。ムッシュー・コクトーとママンがいくら一緒にいようと、それはまったくかまわない。だけど、娘の私が、まるで本当の父親のようにムッシュー・コクトーを慕っている姿には、大変に苦しんだんだって……」

マレーは虚をつかれた。

「アレックが……?」
キャロルはこっくりと頷いた。両眼から涙があふれ出ていた。
「ムッシュー・コクトーは、私にとっては父親以上の存在、彼は本物の教育者だった。本当にいろいろなことを教えてくれたわ。私はもう映画の世界で生きることしか考えれらないけど、それもムッシュー・コクトーの『オルフェの遺言』の撮影現場をつぶさに見たせいだと思う。――でも、パパに言われて、私は気づいたの。誰かと誰かの愛は、別の誰かを傷つけることもあるんだって……」

マレーの脳裏に再び、去ってしまったジョルジュの怒りを含んだ表情が浮かんだ。
――君はアレックが、彼らを本当に許してると思ってるの? 偽りの家族は、きっといつか崩壊するよ……
ジョルジュがほとんど憎しみを込めて非難した、フランシーヌとコクトーを中心にした擬似家族は、確かに崩壊してしまった。
マレーにはコクトーの悲しみと苦悩が痛いほどわかった。フランシーヌとキャロル、そしてドゥードゥーとその家族が良好な関係を保つために、ジャンはどれほど心を砕いてきただろう!

「でもね、私とムッシュー・コクトーには共通点がある。それは『愛することをやめない』ってことよ。ムッシュー・コクトーはいろいろな友人に裏切られてきたわ。彼に世話になった人たちが彼を悪く言うたびに、ムッシュー・コクトーはただ悲しんでいた。私もそれを見て悲しかったわ。――でもムッシュー・コクトーは、友情を交わすことをやめようとしない。むしろ、きっと、愛を交わすほうが、ずっと簡単で楽なのに、彼はひたすら友情に生きようとする。――私は、そんな彼がたまらなく好きなの。だから……だから、こうやって私がムッシュー・コクトーのところに来ることで、たとえパパを傷つけることになったとしても、私はムッシュー・コクトーを愛することをやめない。私はもう決して、彼のそばから離れられないの」
「キャロル、わかるよ」
初めてマレーはキャロルを名前で呼んだ。
2人はいつの間にか、外部の共通の敵から身を守り、支え合う同志のように身を寄せ合っていた。
キャロルは、20歳の若さでしかもちえないような純粋さで、マレーの瞳をまっすぐに覗き込んだ。
「ムッシュー・コクトーはあなたを誰より愛してる。――だから、お願い。あなたと彼の愛がたとえ誰かを傷つけても、たとえ友人すべてが彼のもとを去っても……あなただけは、天使ウルトビーズのままで、詩人の行く道に松明を灯し続けてほしいの……」

マレーは黙って、強くキャロルを抱きしめた。キャロルはだらんと腕をさげ、半ば麻痺したようにマレーに身体をあずけていたが、次第に甘い、しびれるような感覚が自分の内に湧き上がってくるのを感じた。乾いた煙草に深いトワレの香りが交じり合う、大人の男性の匂いをかいだ。それはキャロルの心に、これまで経験したことのない安らぎをもたらした。
2人は緑の庭に面したサロンのソファで、長い間影絵のように寄り添ったままでいた。

体力が回復してきたコクトーは、執筆を始めた。主治医は体力を消耗させる戯曲や小説ではなく、校閲か脚色などの比較的軽い仕事から始めるとよいとマレーに言った。そこで、マレーはバーナード・ショーの『悪魔の弟子』の脚色をコクトーに頼む。コクトーは苦もなく仕事に取りかかり、マレーを安堵させた。

6月の終わりのある日、できあがった『悪魔の弟子』の台本をマレーにわたすと、コクトーはそろそろミリィ・ラ・フォレに戻ろうかと思うと言った。
「サント・ソスピールのぼくの荷物を送ってもらうことになっているんだ。その整理をしないと」
「ここに送ってもらえばいいじゃないか」
「いや、ぼくのジャノ。そんなことで君の使用人に迷惑はかけられないよ。ミリィで自分で少しずつ整理したい。――やることがあれば、ぼくの気持ちも少しは奮い立つかもしれないしね」
「そうか……」
「ミリィに食事に来ておくれ。よければ、セルジュも一緒に」
セルジュは兵役に出ていた。秋には戻る予定だった。
ミリィ・ラ・フォレにはコクトーの誕生日に戻ることに決めた。
「救急車を頼むよ」
とコクトーは笑いながら言った。

マレーはコクトーの顔色が依然として蒼白なのが、気にかかっていた。コクトーがいつまでの自分の家にいてくれればと願っていた。
若いころ、「仕事」と称してデパートに盗みに出かける母に付き添って行ったとき、自分だけが彼女を守れると思っていた。同様に、コクトーの病魔を追い払うことができるのは、自分だけのような気がしたのだ。
だが、マレーはその想いを振り払った。コクトーはずいぶん快復した。それは間違いない。南仏のフレジュでの壁画の仕事も残っていた。以前どおりの仕事に戻ることが、今のコクトーには一番なのだろうと自分に言い聞かせた。

キャロル・ヴェズヴェレールは、この時期の2人の様子をこんなふうに書いている。

「ムッシュー・コクトーはやっとの思いで体力を回復していった。ジャン・マレーはコクトーが自宅にいる気がするよう、愛情と献身を込めて彼の看病をした。私がコクトーの最後の幸せそうな姿を見たのも、そこでだった」 (キャロル・ヴェズヴェレール『ムッシュー・コクトー』東京創元社、花岡敬造訳)

<明日へ続く>

<追記>
キャロルが「モデルはジャン・マレー」と思った眠るディオニソスの壁画は、以下の動画で見ることができる。

http://jp.youtube.com/watch?v=l1muKBMMCiE

約1分後に犬と眠るディオニソスの画が紹介されている。

コクトーのこの画に影響を与えたと考えられるのは、 レイモン・ヴォワンケル が1938年に撮った(貴重な)ジャン・マレーのヌード。

jean marais1938-2
前景に汗をかいた巨大な蘭の花を配し、背景は人工的な煌きを見せる布のドレープで覆っている。ミケランジェロのダビデを彷彿とさせる裸体の上半身に強いライトをあて、モデル(ジャン・マレー)は眼がくらんでいるようなポーズ。こわばった全身は筋肉美を強調するとともに、羞恥に耐えないとでも言っているような、モデルの倒錯した心情をも垣間見せる、一種扇情的なムードの写真。

jean marais1938
こちらはくつろいで眠る青年(ジャン・マレー)。完璧な横顔の輪郭をあえて全部あらわにせず、額においた指を青年の頭部を覆う冠のようなイメージに変化させている。閉じられた眼はどこかナルシスティック。顔を支配する光と影の強烈なコントラストは、モデルの美青年の顔をもっとつぶさに見たいという欲求とそれに伴う――見たくても見えないという――飢餓感を見る者に起こさせる。背中は闇に沈んで台座と一体化し、あたかも土から掘り出されたギリシア彫刻のよう。間違いなく、キアロスクーロの名手レイモン・ヴォワンケルの最高傑作の1つ。





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最終更新日  2008.09.09 05:54:16


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