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2010.01.05
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カテゴリ: Essay

<きのうから続く>

テレビで紹介されていた職人。それはおあつらえむきに、陶磁器の割れやヒビの修理を専門にしている人だった。

もともとは骨董商で、独学で陶磁器の修理を学んだという。最初は同業者からの依頼がほとんどだったのが、だんだんと一般の人からの注文も増えたのだとか。

六屋 」という工房を文京区にかまえているらしい。

「案外、愛着があるから直してまた使いたいという方が多いんですよ」

職人の言葉は、Mizumizuの思いそのままだった。

「金継ぎ・銀継ぎ」という手法を使うとかで、テレビで説明されていたのだが、

「???」

とにかく、非常に細かく、凝った作業をやるらしい。さっそく、行って相談することにした。

もともと文京区千駄木が本籍地のMizumizu。六屋工房のある小石川のあたりは、なんとなく懐かしい場所だ。

クルマが轟々と通る春日通りのビルの1階。道すがら窓ガラス越しに覗いても、古っぽいものが雑然と並んでいて、何をやっているのかよくわからないような店だ。

入っていくと、目指す職人さんは、部屋をパーティションで区切り、わざわざ「隅っこ」のほうに応接セットと作業用の机を置いて、そこに座っていた。入り口に近い空間は・・・外から見たとおり、古っぽいものが雑然と並んでいて、ただ単に無駄なスペースになっている・・・ような気がした。

しかも、無駄にしてる空間のが広い・・・

変わり者の雰囲気ムンムン・・・(苦笑)。

隅っこに置かれた応接セットに、うながされて座り、パキーンと見事に2つに割ってしまったリモージュのソーサーを見せた。

「直せますかね?」

「う~ん」

唸りながらひっくり返して見ている。

「模様はあまりないんですね。ほとんど白か」

「そうですね。ですから、継ぐだけでいいんですけど」

「どのくらいまで元通りになるか、わからないけど・・・」

「まあそのへんは・・・もちろん新品みたいになるとは思ってませんから」

「これだと、昔ながらのやり方ではなくて、化学的な接着剤を使ったほうがよさそうですね」

は? 化学的な接着剤? もしかしてそこらのセメンダインの類ですかね? 金継ぎナンタラとかは、関係ないわけで?

「実際にかかる時間は、もちろん、すぐなんだけど・・・少しイメージトレーニングしてからやりたいから」

は? い、イメージトレーニング? 

「しばらく預からせてもらっていいですかね?」

「どうぞどうぞ、いつでも気分が乗ったときで(←これは大事だ)。できたらご連絡いただければ。別に急ぎませんから(←職人はせかせてはいけない)」

そんな話のついでに、「どこからいらしたんですか?」と聞かれたので、杉並だと答えると、

「ぼくも杉並にいたことあるんですよ」

とのこと。ちょうどそのころMizumizuは家(新築・中古を含めて)or土地orマンションを探していて、馴染みのある文京区も当たっていたのだが、不動産は杉並よりやはり一段値段が高かった。そう言うと、驚いたように、

「へええ? そうですか? 文京区のが高いんだ」

などと言う。

「・・・」

文京区はいわゆる「山手線の内側」で、江戸時代から将軍のお膝元。武家屋敷跡地が高級住宅街になっている。それに比べれば杉並なんて、もともとは別荘地として不動産開発が始まった。不動産価格がどっちが高いか、普通の感覚でもわかりそうなものだし、ましてや両方に住んだことがあるというのに、気づいてないって・・・

商いにはむいておへんな(←どこの言葉?)。

職人になってよかった。

ぬぼ~っとした風体もやっぱり、

ホントに骨董を商ってたんどすか?

間違いなく地味な職人作業が向いている人だ。

だいたいの見積を聞いて、もちろん十分に良心的な言い値だったので、そのまま預けてきた。

1週間もたたずに、「できましたので」の電話があり、取りに出向くと、「化学的接着剤」で「イメージトレーニング」して、仕上げたらしい修理は思った以上に見事にできていた。接着剤が漏れているわけでもなく、ぐるりの模様がズレてるわけでもない。遠目には割れ目さえわからない。

「おお~!」

と、感嘆符のあとに、さらに丁寧にお礼を言おうとしたのだが、なんだか照れたようにすぐ向こうを向いてしまって、「よろしいですか?」の言葉もない。

最初の日はわりに饒舌だったのに、どうしちゃったんだろう。

社交的なのか内気なのか、よくわからない人だったが、仕事にも値段にも満足して店を出た。それをちゃんと口で伝えられなかったのが残念だったのだが、向こうを向いてる人に、しつこく話し続けるのも変だしね。

六屋で修理

これが現在のソーサーの割れ目。かなり拡大して撮って、やっと手前から向こうに一直線に縦に走っている割れ目が写った。

肉眼だと、よっぽど目を近づけてみて、「ヒビかな?」と思う程度。ヒビどころか、真っ二つだったのですよ。

使っている間にコーヒーの液が入り込んで、割れ目が目立つようにならないかな・・・と懸念していたのだが、案外大丈夫。

六屋で修理

裏は多少カケが目立つ。なんだか、それこそ骨董品みたい(笑)。

割れてしまったものは割れてしまったものだが、あえて自分の足で直しにいったことで愛着は深まった。別に売るわけではない、使い倒すつもりで買ったモノなので、それで十分だと思う。

リモージュ金彩のはげ

こちらはお揃いのデザートプレート。金彩がやはり、少し剥げてきている。これは割らないように気をつけよっと。






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最終更新日  2010.01.06 03:19:39


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