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<きのうから続く>
テレビで紹介されていた職人。それはおあつらえむきに、陶磁器の割れやヒビの修理を専門にしている人だった。
もともとは骨董商で、独学で陶磁器の修理を学んだという。最初は同業者からの依頼がほとんどだったのが、だんだんと一般の人からの注文も増えたのだとか。
六屋 」という工房を文京区にかまえているらしい。
「案外、愛着があるから直してまた使いたいという方が多いんですよ」
職人の言葉は、Mizumizuの思いそのままだった。
「金継ぎ・銀継ぎ」という手法を使うとかで、テレビで説明されていたのだが、
「???」
とにかく、非常に細かく、凝った作業をやるらしい。さっそく、行って相談することにした。
もともと文京区千駄木が本籍地のMizumizu。六屋工房のある小石川のあたりは、なんとなく懐かしい場所だ。
クルマが轟々と通る春日通りのビルの1階。道すがら窓ガラス越しに覗いても、古っぽいものが雑然と並んでいて、何をやっているのかよくわからないような店だ。
入っていくと、目指す職人さんは、部屋をパーティションで区切り、わざわざ「隅っこ」のほうに応接セットと作業用の机を置いて、そこに座っていた。入り口に近い空間は・・・外から見たとおり、古っぽいものが雑然と並んでいて、ただ単に無駄なスペースになっている・・・ような気がした。
しかも、無駄にしてる空間のが広い・・・
変わり者の雰囲気ムンムン・・・(苦笑)。
隅っこに置かれた応接セットに、うながされて座り、パキーンと見事に2つに割ってしまったリモージュのソーサーを見せた。
「直せますかね?」
「う~ん」
唸りながらひっくり返して見ている。
「模様はあまりないんですね。ほとんど白か」
「そうですね。ですから、継ぐだけでいいんですけど」
「どのくらいまで元通りになるか、わからないけど・・・」
「まあそのへんは・・・もちろん新品みたいになるとは思ってませんから」
「これだと、昔ながらのやり方ではなくて、化学的な接着剤を使ったほうがよさそうですね」
は? 化学的な接着剤? もしかしてそこらのセメンダインの類ですかね? 金継ぎナンタラとかは、関係ないわけで?
「実際にかかる時間は、もちろん、すぐなんだけど・・・少しイメージトレーニングしてからやりたいから」
は? い、イメージトレーニング?
「しばらく預からせてもらっていいですかね?」
「どうぞどうぞ、いつでも気分が乗ったときで(←これは大事だ)。できたらご連絡いただければ。別に急ぎませんから(←職人はせかせてはいけない)」
そんな話のついでに、「どこからいらしたんですか?」と聞かれたので、杉並だと答えると、
「ぼくも杉並にいたことあるんですよ」
とのこと。ちょうどそのころMizumizuは家(新築・中古を含めて)or土地orマンションを探していて、馴染みのある文京区も当たっていたのだが、不動産は杉並よりやはり一段値段が高かった。そう言うと、驚いたように、
「へええ? そうですか? 文京区のが高いんだ」
などと言う。
「・・・」
文京区はいわゆる「山手線の内側」で、江戸時代から将軍のお膝元。武家屋敷跡地が高級住宅街になっている。それに比べれば杉並なんて、もともとは別荘地として不動産開発が始まった。不動産価格がどっちが高いか、普通の感覚でもわかりそうなものだし、ましてや両方に住んだことがあるというのに、気づいてないって・・・
商いにはむいておへんな(←どこの言葉?)。
職人になってよかった。
ぬぼ~っとした風体もやっぱり、
ホントに骨董を商ってたんどすか?
間違いなく地味な職人作業が向いている人だ。
だいたいの見積を聞いて、もちろん十分に良心的な言い値だったので、そのまま預けてきた。
1週間もたたずに、「できましたので」の電話があり、取りに出向くと、「化学的接着剤」で「イメージトレーニング」して、仕上げたらしい修理は思った以上に見事にできていた。接着剤が漏れているわけでもなく、ぐるりの模様がズレてるわけでもない。遠目には割れ目さえわからない。
「おお~!」
と、感嘆符のあとに、さらに丁寧にお礼を言おうとしたのだが、なんだか照れたようにすぐ向こうを向いてしまって、「よろしいですか?」の言葉もない。
最初の日はわりに饒舌だったのに、どうしちゃったんだろう。
社交的なのか内気なのか、よくわからない人だったが、仕事にも値段にも満足して店を出た。それをちゃんと口で伝えられなかったのが残念だったのだが、向こうを向いてる人に、しつこく話し続けるのも変だしね。
これが現在のソーサーの割れ目。かなり拡大して撮って、やっと手前から向こうに一直線に縦に走っている割れ目が写った。
肉眼だと、よっぽど目を近づけてみて、「ヒビかな?」と思う程度。ヒビどころか、真っ二つだったのですよ。
使っている間にコーヒーの液が入り込んで、割れ目が目立つようにならないかな・・・と懸念していたのだが、案外大丈夫。
裏は多少カケが目立つ。なんだか、それこそ骨董品みたい(笑)。
割れてしまったものは割れてしまったものだが、あえて自分の足で直しにいったことで愛着は深まった。別に売るわけではない、使い倒すつもりで買ったモノなので、それで十分だと思う。
こちらはお揃いのデザートプレート。金彩がやはり、少し剥げてきている。これは割らないように気をつけよっと。
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