仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2015.10.09
XML
カテゴリ: 国政・経済・法律
過日、大潟富士について調べた際に気になっていたこと。
日本一低い山より低い山 (2015年10月7日))

通常、地方公共団体の誕生(新設)は、廃置分合によって生じるのであって、その区域は従前はいずれかの地方公共団体の区域に含まれていたはずである。しかし、大潟村は、干拓によって全く新しく生まれた自治体だろう。その区域が全く新たに出現したのだろうから。

これに関係するのかどうか、昭和39年法律106号「大規模な公有水面の埋立てに伴う村の設置に係る地方自治法等の特例に関する法律」というのがある。気になった。何が原則に対する特例なのか。そもそも区域の新規出現に際して、地方自治法はどういう姿勢で臨んでいるのか。

また、細かいことだが、干拓事業の途中で出現していた陸地は、大潟村誕生までの間、どこかの町に属していたのかどうか。属していたと考えれば、そこから分離して新しい団体となったのか。そもそも干拓前の八郎潟の水面はどこかの町に属していたのでないか、などなど。

この疑問は、以下のように整理されるようだ。


1  新たに生じた土地 の帰属に関する法理

「市町村の区域内に 新たに土地を生じたとき 」は、市町村長は、議会の議決を経て確認し都道府県知事に届け出なければならない(知事は直ちに告示する)とされる(自治9条の5)。

昭和36年11月法235による改正で設けられた条文である。「確認」という議会提出議案もユニークな気がするが、この立法内容の意味を知るには、前提として、以下2から5までに記したような自治法の規定及び経緯を理解しなければならない。

2 従来地方公共団体に属しない地域の処遇

なお、注意すべきは、自治6条2項後段、7条の2に、「 従来地方公共団体の区域に属しなかった地域 」という語が登場する。これは、わが国土を構成するが地方公共団体に属していない地域のことで、次の手続が規定されている。

○(法律で別に定めるものを除く外、)編入する必要があると認めるときは、内閣が定める
(※法律で定める場合とは、割譲等により相当に広い土地が我が国の領土となるような場合が考えられる。現在までに法律は存在しない。)
○ あらかじめ、利害関係のある都道府県又は市町村に意見を聴く
○ 意見については議会の議決を経る(以上、7条の2)
○ 都道府県の境界は(法律を要せずに)変更される(6条2項後段)

この対象となる地域(地方公共団体に属していない地域)とは、具体的に言えば

○ 地方自治法施行前から我が国の領土ではあるが、いずれの地方公共団体にも属していない地域
○ 新たに領海外の海中に造成された島嶼で、我が国の領有となった地域
○ 新たに我が国の領土に属せしめられた地域

と例示される(松本英昭『逐条地方自治法』)。領海内の埋立地は、元来領海であればいずれかの普通地方公共団体の区域であるはずだから、この対象とならないと考えるようだ。

従って、この規定が発動されたことはまれであり、青森、秋田両県の沖合に存在し、長く両県で争いがあったため、どの地方公共団体にも帰属していなかった 久六島 について、内閣が青森県(深浦町)の区域に編入することを定めた(昭和28年)ことがある(松本上掲)。

なお、7条の2を加える法改正は編入告示前年の昭和27年8月成立(法律306)であり、久六島問題を解決が現実の目的だったようだ。
(この久六島周辺はアワビやサザエの宝庫で、久六サザエという有名ブランドだそうだ。)

3 市町村の境界に関する争論及び決定について

上記の2は、「いずれの地方公共団体にも属していない地域」の問題だが、これと異なるケースとして、「市町村の境界に関して争論があるとき」(自治9条)と「市町村の境界が判明でない場合」(自治9条の2=昭和27年8月法律306追加)がある。

前者の場合には、市町村の申請(議会の議決経由)と知事が調定に付すること又は裁定することが定められており、後者の場合は、知事が関係市町村の意見(議会の議決経由)を聴いて決定することが定められている。

これらと上記2との場合分けは、やや微妙な感じもするが、上記2は、どの自治体も「自分のところだ」と主張せず、「(新たに)ウチに編入されるべき」という主張だった、と理解しておこう。現実感覚としては、遠く離れた岩礁である九六島のケースと、蔵王などの良くある境界争いとでは、たしかに違う。

4 公有水面のみに係る特例

さて、昭和36年11月法235は、新たに第9条の3を設けて、 公有水面のみに係る境界決定等の特例規定 を置いた。その理由は、公有水面埋立地の所属について、関係市町村の意見が一致せず、埋立竣功後長期間に所属が決定しない事例が多かったため、これを未然に防止すべく事前に確定させる趣旨のようだ(松本上掲)。

○ 公有水面のみの境界変更は、関係市町村の同意(議会の議決経由)を得て知事が県議会の議決を経て定める(7条1項の例外。市町村の申請を要しない。)。
○ 公有水面のみに係る市町村の境界に争論があるときは、知事は職権で調定に付することや裁定ができる(9条1項2項の例外)。

この法改正では9条の4も設けられた。

○(総務大臣又は)知事は、 公有水面の埋立により造成されるべき土地 の所属すべき市町村を定めるため必要があると認めるときは、できる限りすみやかに前2条に規定する措置を講じなければならない。

すなわち、法改正の趣旨をより確実にするために、努力義務を課したものだ。

5 小括

ここまで、地方自治法の規定をみてきたが、第9条の5の存在は、それに先立つ第9条の2から第9条の4までを前提にしている。

「市町村の区域内にあらたに土地を生じたとき」、すなわち埋立や干拓などがあった場合は、予め(埋立前に)確定されていた境界を、埋立後に改めて確認するという手続を設けたのである。

随分と慎重な規定を設けたように思える。昭和36年改正以前には、「所属未定地編入処分」なる制度があった。しかし、地先の水面埋立の造成地の帰属に紛争が生じるケースが多く、知事の編入処分ができない(知事が編入処分する法制だったようだ)事例が相次いだことから、法改正に至ったもののようだ。

6 特別法の意義

さて、ここまで来ていよいよ、特別法の話である。昭和39年法律106号「大規模な公有水面の埋立てに伴う村の設置に係る地方自治法等の特例に関する法律」である。

規定内容は概ね次のとおり。

○  大規模な埋立 の場合、造成土地であらたに村を設置するのが適当と認める場合、 内閣 が関係地方公共団体の意見(議会の議決経由)を聴いて、あらたに村を設置することができる。
○ その他、設置選挙、職務執行者、組織や条例の特例等。

直接に国が村を設置する。それも、自治(総務)大臣ではなく、内閣が定めるというのだ。

村の発足は、昭和39年10月1日。この特例法の適用によって設置されたのかどうか、今のところ調べ尽くせないが、このような法律が存在していることからすれば、そうだったのだろう。

埋立で紛争が絶えなかったので自治法を改正した。その頃に動いていた巨大プロジェクトについては、さすがに、通常の法理とは別の特例法に仕立てて対応しようと考えられたのだろう。そして、三権分立の建前から、内閣や地方自治の権限であるべき個別自治体の監督権限を国会が直接処置するように見えることを避けて、一般的な定めとして定立した姿を纏っているのだろう。

それにしても、大潟村は、特別な存在だ。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2015.10.11 23:59:49
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

コメント新着

おだずまジャーナル @ Re:仙台「6時ジャスコ前」の今むかし(11/14) 仙台フォーラスは来月3月から長期休業。再…
クルック@ Re:黒石寺蘇民祭を考える(02/18) ん~とても担い手不足には見えませんけどネ…
おだずまジャーナル @ Re:小僧街道踏切(大崎市岩出山)(12/11) 1月15日のOH!バンデスで、不動水神社の小…

プロフィール

おだずまジャーナル

おだずまジャーナル

サイド自由欄

071001ずっぱり特派員証

画像をクリックして下さい (ずっぱり岩手にリンク!)。

© Rakuten Group, Inc.
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: