仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2023.06.14
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カテゴリ: 仙台
戦国時代の 書状 は、いわば現代の私文書。公文書にあたる 文書 (もんじょ)が、例えば、誰かの権利を保証するために、書式が決められ年月日と印判(判子)が捺されるものであるのに対して、書状の用途は多様で、公的な内容も私的な内容も書かれていた。

電話やメールのないこの時代は、相手に使者を派遣する場合に、書状を持たせるのが普通だった。書状には、自分が書いた証明として直筆で花押(サイン)をするのが通例。
(公文書ももともとは花押を用いたが印判が普及していき、反対に書状に印判が捺される場合もあった。)

相手の手元に直接伝わる書状には、気持ちを伝えるための大変細かいルールが定められていた。それが 御書礼 である。 書札礼 (しょさつれい)ともいい、書状の書き方である。

具体的には、文言はいうまでもなく、紙の種類、折り方、封の仕方、署名の仕方、宛先の書き方など多数のルールがある。家格や身分の上下、実際の力の強さなどさまざまな要因で、微妙に書札礼が使い分けられていた。

伊達稙宗は、分国法の塵芥集を制定し、はじめて奥州守護に補任されるなど、伊達氏が戦国大名として発展する基礎を作った人物だ。ところで、稙宗の父尚宗は、文亀3年(1503)に越後守護上杉房能の支援を求めて同国人の中条藤資に書状を送った。このとき、守護上杉氏の家格が高いのは当然として、伊達氏と中条氏はともに国人で本来同格だが、尚宗は中条氏に対して「被官同然」、つまり家臣に対する書札礼で書状を認めた。これを知った上杉房能は「はなはだもって口惜しい」「上杉は大名である。伊達は国人に過ぎない」と怒りを表した(中条文書)。

稙宗が受け取った書状には、古河公方足利高基の重臣である簗田高助が稙宗に対して「忠節を尽くしたので、御書礼を改めて(古河公方が稙宗に)書状をお書きなされます。今後ますます忠節を尽くしてください」というものがある。稙宗の忠節の礼に、古河公方が今まで以上に丁寧に書状を書くと、簗田が伝えたのである。当時、古河公方は書札礼を恩賞の一つとして用いていた。いかに書状の書き方が重要であったかが、わかる。

伊達稙宗と子の晴宗は、天文11年(1542)に伊達天文の乱をひきおこし、天文17年の和睦成立まで激しく戦ったが、もともと仲が悪いわけではなく、天文6年ころには、稙宗と晴宗がそれぞれ高野山の観音院に宛てて、贈り物に対する返礼についての同日付でほぼ同内容の書状を送っている。ここで、稙宗は観音院から「水原」をもらった礼を述べているが、水原は、杉原(すいばら)の当て字で、当時武家が珍重した紙である。室町初期に成立した『書札作法抄』には、「武家に対しては杉原紙でなければ文を書いてはいけない」と記されており、貴重な贈答品でもあった。

親子で書状を送っているのは、子の晴宗が政治的な活動を開始していたものとして注目される。書状の末尾には「詳しくは〇〇が申します」という形で、書状の内容を補足する家臣の名前が書かれることが通例で、こうした役割の家臣を 取次 (とりつぎ)といった。稙宗と晴宗はおなじ中野親時を取次として書状に記載している。

晴宗は天文の乱が終結すると家臣に対して恩賞を与えている。土地はもちろんだが、中には、古河公方と同様に、家臣に対して書札礼を改めることを恩賞として用いた場合もあった。伊達家内部でも、家格に基づく書札礼が細かく定められており、自身の書札礼の格が上がることは極めて重要だった​から、恩賞となりえたのである。

晴宗の子の輝宗の書状では、仮名書きの書状が注目される。一般に仮名書きは女性宛の消息に使用されることが多いが、輝宗は家臣に対して用いている。これが政宗にも継承されたという。

政宗の場合は、書状や印判状などの文書は現在4500点ほどが知られる。少なくとも4人の祐筆(曾根四郎助、石田(大石)長門、武山修理、大和田重房)がいたとされるが、しかし、直筆文書も1400点以上が確認されており、他の武将と比べて割合が格段に高い。

書状は、一般的に年号を書かずに日付のみを書くのが当時の習わしだった。このため、文面に書かれた政治状況や花押の形状から年次を判断することになる。

■佐藤貴浩『「奥州の竜」伊達政宗 最後の戦国大名、天下人への野望と忠誠』KADOKAWA(角川新書)、2022年 から





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最終更新日  2023.06.14 07:40:39
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