Serendipity

2011.08.15
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カテゴリ: 思い出
世の中にはいろいろな先生がいます。
おもしろい先生、友達のように親しみやすい先生、厳しい先生、怖い先生・・・。

皆さんの心に残る、思い出の先生は、どんな方でしょうか?


************



大学時代、私に忘れがたい恐怖を与えてくれた先生がおりました。


K先生は、当時でもう60代かそれ以上であろうという年齢の女性でした。

大変品のある話し方をされる先生で、上品なスーツに身を包んだその風貌は「品の良いご婦人」といった感じでした。

しかし、その風貌に似合わず、K先生は大変厳しい方で、毎回の授業で生徒を恐怖に陥れるのでした。

K先生が担当する授業は、英国の女流作家、ヴァージニア・ウルフの短編を、翻訳しながら精読していく授業でした。

高校を卒業したての大学1年生の生徒たちにとって、ヴァージニア・ウルフの英語は難解です。翻訳しろと言われても、わからないことの方が多いのです。

ですから、たいていの生徒は、K先生から指名されても、途中で翻訳ができなくなり、言葉につまってしまいます。

そうすると、待ってましたと言わんばかりに、K先生のキツイご指導が始まります。

「あなた、この文章は、必ずおわかりになるはずよ・・・・・・もしあなたに brain があるならば。」

これがK先生の決まり文句。

brain とは、言うまでもありませんが「脳みそ」のこと。

「脳みそがあるならば、必ずおわかりになるはずよ・・・!」

なんて皮肉で、意地悪な言葉なんでしょうか。

そして、K先生に婉曲的に(いやかなりダイレクトに)「脳みそがない」と言われた生徒たちは、授業後「ううっ」と肩を寄せ合い、お互いを慰め合うのでした。


そんな風に、K先生の恐怖におびえながら挑んだ授業はいつまでも忘れがたく、私の中でのK先生のイメージは「まったく、とんだばーさんだ!」でした。


************



卒業後長い時が経ち、昨年大学から送られてきた広報誌で、K先生がお亡くなりになったことを知りました。その知らせを読んだ時、なぜだか意外なほど悲しくなりました。目の奥に涙がたまってくるのを感じました。

K先生は今もお元気で、あの古い教室で、生徒たちを「脳みそがないのね、オホホホホ」と、いじめていると思っていたのに・・・・・・そうじゃなきゃ、いけないのに・・・・・・。

先生の訃報にショックを受けている自分に気付き、私は本音のところではK先生のことが好きだったということに初めて気付きました。

いやだとか、怖いだとか思いながらも、実際はK先生のその厳しさに育てられた自分がいたのかもしれません。

K先生は、天国でも相変わらず、厳しい授業を続けられているような気がします・・・・・・ヴァージニア・ウルフの本を片手に、生徒のおびえる姿にほくそ笑みながら。






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最終更新日  2017.10.14 14:37:56
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これまで翻訳業界を中心に、英語を用いていろいろな職業を経験してきました。

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