2006年03月22日
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カテゴリ: 歴史と絵画


 秋田に行った時、足を伸ばして小田野直武の故郷角館にも行ってみました。冬の時期で町全体が雪につつまれて静かな落ち着いた雰囲気でした。秋田新幹線の停車駅にもなっているのでもっと開けてくるだろうと思いますが、純朴な田舎の城下町といった感じでとてもこの町が気に入りました。
直武の生家や歴史館にも行きましたが、秋田蘭画の紹介や小田野直武の年譜等も展示されていましたが、実物の秋田蘭画にはここでも出会えませんでした。

 小田野直武は秋田蘭画の代表的な画家である事より、「解体新書」の解剖付図を描いた人として知られています。前回の雑記帳でもふれましたが改めて、その生涯を振り返ってみます。
小田野直武は寛延2年(1749年)秋田支藩角館城代の家臣直賢の四男として角館に生まれました。幼い頃から絵を好み八歳頃から仏画等を描き始め、十五歳には藩のお抱え絵師について狩野派の画法を学んだといわれています。

 二十五歳の時、領内の鉱山開発のため平賀源内が秋田、角館を訪れます。ここで源内は直武の描いた屏風絵を見せられ、細密で巧みな直武の絵に驚嘆します。源内は物産の図譜製作を手がけていたため細密な絵が描ける画工を探していたところだったので、直武を源内の宿舎によんでもらいました。
これが彼の生涯の大きな転機となります。
この時直武は初対面の源内から、真上から見た重ね餅を描くようにいわれ二重丸を描いたところ、源内は「これではお盆なのか、ただの二重の輪なのかよく分からない」といい自ら筆をとって直武の描いた二重丸に濃淡をつけて立体的にし、西洋画の遠近法や陰影法を教えたという話が伝えられているそうです。
これらの手法は当時の東洋画にはなく、直武の驚きも大きかったでしょう。直武は源内に入門しそばについて西洋画を学びました。やがて源内は鉱山開発の仕事を終えて江戸に戻ります。しかしその直後、秋田藩から直武を産物取立役して源内のもとへ三年間出張させるとの藩命が下ることになります。

 この頃江戸では、蘭医の杉田玄白が「解体新書」の翻訳を終えその解剖付図が描ける画工を探していました。江戸に着いた直武は源内から杉田玄白を紹介され、「解体新書」の解剖付図を描くようにいわれ、解剖図の模写に取り組むことになります。半年あまりをかけて直武は解剖付図を描き上げます。
「解体新書」の刊行とともに直武の名が高まり、同時に解剖図の模写により直武の画業も進みました。この頃、源内の弟子であった司馬江漢が直武のもとに入門します。江漢はのちに銅版画を創始して日本洋風画の第一人者となる人です。
又、同じく蘭画を描いていた藩主佐竹曙山も参勤交代の折には、直武を呼び主従ともに蘭画製作に励むようになります。

 やがて、三年の任期をはるかに越え五年が経過した安永六年(1777年)直武は秋田に戻ります。秋田では藩主付きの絵お相手という勤務を命じられます。これより本格的に曙山と直武の蘭画製作がすすめられました。
 その年の秋、直武は参勤交代で曙山とともに江戸に出府、しかし、曙山は江戸で病に倒れます。
 その一年後、直武は突然藩から国元で遠慮謹慎の旨を申し渡されます。理由は身分もわきまえず画業におぼれ、勤務を怠ったというものでした。身に覚えがない罪により直武は角館に戻り罪に服すことになります。
この事について実際の経緯は不明ですが、当時老中田沼意次の権勢が急速に凋落していて、田沼と深く繋がっている源内の屋敷に秋田藩の小姓が出入りするのは危険との判断が藩上層部にあり、曙山が病床にあるのをよい事に直武を江戸から遠ざけたのではないかとも憶測されています。

 そんな折、源内が江戸で殺人を犯し捕らえられ、獄死するという事件が起こります。直武はこれを聞いて衝撃を受け、やがて直武も病に伏せます。安永九年(1780年)五月、藩主曙山からの赦免を待ち望みながらも直武は32歳で短い生涯を終えます。曙山からの赦免状が届いたのはその死の翌日だったといいます。
 直武の死により秋田蘭画の命も終焉することになりました。しかしながら、その後直武の弟子司馬江漢により、新しい流れとしての洋風画に受け継がれていくことになるのです。





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最終更新日  2006年03月22日 22時26分25秒
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