事業における人権侵害の根絶に取り組む非営利団体ビジネスと人権リソースセンター(Business & Human Rights Resource Centre)のタルシ・ナラヤナサミー(Thulsi Narayanasamy)=シニア・レイバー・リサーチャーは、「労働者が貧困状態にあるのは偶然ではなく、そうなるように制度が作られているからだ。生活できないほどの低賃金で働かざるを得ない女性は6000万から8000万人いる。こうした労働者らはコロナ禍以前から極貧状態にあり、その17%は飢餓に直面している。新型コロナウイルスよりも飢餓を恐れる労働者のほうが多いぐらいだ」と作中で話している。
ファッション業界は世界全体で2兆5000億ドル(約270兆円)程度の市場規模を持つ巨大な産業だが、近年は人権を含めた環境問題で批判されることも増えている。国連の専門機関で、労働者の労働条件と生活水準の改善を目的とする国際労働機関(International Labour Organization)などが定める指針やイニシアチブに署名しているアパレル企業も多いとはいえ、縫製産業従事者の労働環境の改善を訴える非政府組織「クリーン・クローズ・キャンペーン(Clean Clothes Campaign以下、CCC)」が19年に発表したリポートによれば、発展途上国の労働者に生活賃金以上の賃金を支払っていると証明できるブランドはないという。
「ラナ・プラザの悲劇」から1カ月後の13年5月に、安全監視機関として「バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全に関わる協定(The Accord on Fire and Building Safety in Bangladesh以下、アコード)」が設置され、「H&M」や、「ザラ(ZARA)」の親会社であるインディテックス(INDITEX)など欧州を中心とする200社以上のアパレル企業が署名した。「ユニクロ(UNIQLO)」などを擁するファーストリテイリングも13年8月に署名している。
事故から1カ月後の5月には、安全監視機関として「バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全に関わる協定(The Accord on Fire and Building Safety in Bangladesh以下、アコード)」が設置され、「H&M」や、「ザラ(ZARA)」の親会社であるインディテックス(INDITEX)など欧州を中心とするアパレル企業222社が署名した。なお、「ユニクロ(UNIQLO)」も13年8月に署名している。アコードには法的拘束力があり、参加企業はバングラデシュにある縫製工場などの安全検査を実施し、問題があると判明した場合にはその改修費用を負担する仕組みとなっている。
同様に、主に米国の企業が参加する「バングラデシュ労働者安全連合(Alliance for Bangladesh Worker Safety以下、アライアンス)」も同時期に設置され、1000カ所近い工場の安全を監視していた。しかしこれは法的拘束力がない上に、もともと5年間でバングラデシュの政府関連機関などに業務を引き継ぐという期限付きだったため、18年12月末で活動が停止された。
米非営利団体「国際労働権フォーラム(International Labor Rights Forum)」のジュディ・ギアハート(Judy Gearhart)=エグゼクティブ・ディレクターは、「労働者に銃を向ける国の政府が、彼らの権利を守るとは思えない。バングラデシュ政府は労働者の安全より、世界で最も安い労働力を提供することを優先している」と話した。