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2024年8月刊レジーナ文庫著者:今川幸乃さん小さなころから我が儘な妹に振り回され、虐げられていた公爵令嬢のエリサ。十四歳になったある日、王太子の婚約者であることを妹に妬まれ、根も葉もない噂を流されてしまう。噂を信じた父親に王太子との婚約を解消され、エリサは遠く離れた辺境伯レリクスの元へと嫁ぐことになった。嫁いだ初日から、レリクスはエリサを冷遇し、新しい家にも居場所がない。せめて得意な料理だけでも手伝おうと、エリサが厨房で腕を振るい始めたところ……!? 文庫だけの書き下ろし番外編も収録! ↑楽天ブックスより、あらすじ引用登場人物 エリサ=公爵家の長女。 妹の策略により王太子との婚約を破棄され辺境に嫁がされる。 レリクス=辺境伯当主で書類上のエリサの夫。 シシリー=公爵家の次女。姉を妬み様々な嫌がらせを繰り返していた。 ケビン=王太子。ナルシストで自分以外に興味が無い。 マルク=辺境伯家の執事。オルロンド公爵家の長女・エリサは食べることが大好き。好きが高じて料理までするようになった娘を両親は腹立たしく思っていた。だが、令嬢らしからぬ趣味を持つとはいえ、彼女は頭も良く優秀であった。気に入らない面もあるが、エリサは王太子・ケビンの婚約者。未来の王妃の実家となれば王宮での発言力は今よりもっと高くなる。公爵はそう考え、そりの悪い娘の行動には目を瞑ることに。そんなある日のこと、何かとエリサと張り合い嫌がらせを仕掛けて来ていた妹のシシリーが、婚約者を譲れと言い出した。そもそも、これは政略結婚であり個人でどうこうできる話ではない。唖然としながらもきっぱり断るが、今回はいつになくしつこい。しかし、ドレスやアクセサリーを強請られるのとはわけが違う。エリサをよく思っていない父でさえ、シシリーの我儘は許さないだろう。短絡的な妹にも判るよう説明し、この話はもうお終いと切り上げた。これだけ言えばさすがに理解したはず。そう思っていたエリサは自分が世界の中心でないと気が済まないと言うシシリーの性格を侮っていた。数日後、怒り心頭の父から部屋に呼び出されたエリサはケビンとの婚約を解消すると告げられたのだ。おまけにどうしても公爵家から王太子妃を出したい父はシシリーを新たに婚約者にすると言い、既に国王に許可を貰ったらしい。いきなり何でそんな話に。納得がいかず問い詰めると、父はエリサを我が家の恥さらしと罵った。何と、この数日の間にエリサが複数の男性と遊びまわっているという悪評が広がっているらしく、元々娘を疎んじていた両親は鵜呑みにして激怒。噂を耳にしたケビンからも事の真偽を問い苦情が来たと言う。やられた。どう考えても根も葉もない噂を流したのはシシリーだ。だとしてもここまでする?両親と折り合いが悪いことも徒になり、いくら潔白だと説明しても聞く耳持たずで万事休す。こんな娘を公爵家には置いておけないと、父が命じたのは王都から遠く離れたロンドバルド辺境伯との結婚。エリサも噂で聞いたことがある。魔物討伐や異民族と戦い国境を守っている当主は戦いには優秀だが、偏屈で人嫌いだと言う。しかも、軍事費がかかり枯れた土地故に作物の出来が悪いせいで、貧しい領地だと。正直、不安もあるが状況は覆せそうもない。少ない荷物を纏めると、ご機嫌なシシリーと厄介者を追い出せたと大喜びの両親に見送られ、エリサはロンドバルド領へ。王都から馬車に揺られて七日。舗装もされていない道なので何度も揺れで酔いそうになりながら、道中立ち寄った町でエリサは水の精霊を助けた。精霊が言うには、ロンドバルド領を流れる河の上流にあるラーザン子爵領が勝手に貯水池を作ってしまい、水源が半減してしまったのがこの領地が枯れている原因らしい。人工の貯水池は精霊の力も弱まらせ、雨を降らすことも出来ないと嘆いていたが、エリサのおかげで多少の回復が見込めたと言う。精霊はいつか借りを返すと彼女に鈴を渡し、困ったことがあれば読んで欲しいと告げて姿を消した。そしてようやくたどり着いた屋敷は、貧しい土地故かまだ教会や施設の方が立派に見えるほど寂れていた。当然使用人も少ない様子。一応、夫となった当主のレリクスが出迎えてくれたが、例の噂のせいか冷たい態度。エリサのことも執事のマルクに丸投げして早々に執務に戻って行った。輿入れする前に色々レリクスの評判も耳にしていたのだが、これは中々に手強そう。30歳になる彼には当然ながら縁談も多数来て、幾人もの令嬢たちがこの地に訪れていた。しかし、贅沢な暮らしをしていた令嬢は皆一ヶ月もしないうちにこの屋敷を出て行ったと言う。心なしかマルクの態度もそんな感じがするし、悪評もあるから余計に良い印象が無いんだろう。とはいえ、もう自分には行き場が無い。何とかここでやっていくしかないのだ。公爵令嬢ながら質素で堅実な彼女にとって、別段ここでの暮らしは苦ではない。使用人が少ないなら何か手伝おう。料理ならできると厨房に行くと、マルクと数名の男たちが不器用な手つきで包丁を握っていたので驚いた。執事自ら料理?事情を聞けば、先日料理人が辞めてしまい、今は慣れないながら彼らが食事作りをしているのだそうだ。そんなわけで味はイマイチ以下。これでも上手くなった方だと言われても基本が成ってない。これからは私も食べるのだし、それなら美味しいものがいい。エリサが率先して料理作りに加わり、具材の切り方などを指南。出来上がった料理はレリクスにも褒められたとマルクも喜んでいた。一方、レリクスは悪名高いエリサを警戒し、いつ彼女が根を上げて出ていくか様子を伺っていた。だが、一ヶ月以上経ってもエリサは出て行くどころか、使用人たちと仲良くなり、マルクまでも味方に付けている。以前、マルクから歯切れ悪く実は料理の腕が上がったのは奥様のおかげなのですと白状された時は驚いたものだ。その後、彼女は辺境伯夫人らしく、この土地のことを考えて、痩せた土地でも栽培できるサツマイモを主食、及び名物にすることを提案。小麦が育ちにくいなら別の物に力を入れればいい。サツマイモは仕入れ値も安く、苗も安価だった。馴染みのない食べ物に抵抗もあったが、蒸しただけでも美味で甘味にもなることが判ると、領民たちも率先して育て始めた。その際、やはり多少の湿り気は欲しいと水の精霊に頼んで雨を降らせてもらっていたエリサの姿を偶然目撃したレリクスは、この頃にはすっかり彼女のことを見直し、エリサと本当の夫婦になることを望むように。自ら、徐々にコミュニケーションを取り始めた彼は、後にエリサにこれまでの態度を詫び、筋を通したいと結婚式と披露宴をしようと提案。蓄えを大放出した宴は領民たちも大喜びだった。その頃、念願の王太子の婚約者となったシシリーは現実に打ちのめされていた。見目麗しいだけでなく文武両道に優れたケビンは、ナルシストで自分にしか興味のない男だったのだ。美人ともてはやされたシシリーすら、彼にとっては自分以下の他愛ない娘。それどころか教養の欠片も無い彼女が王太子妃だなんて何の冗談だ。実は、他人に興味のないケビンでもエリサの奥ゆかしさと聡明さは気に入っていた。王太子妃としても及第点。何の文句も無かったのに、いきなり不自然な悪評が出回った。不快だったのでこんな噂、公爵家の方で上手くもみ消しておけと注意したはずが、オルロンド公爵は不評を買ったものと思い込み、エリサとの婚約解消を申し出て、あれあれよという間に婚約者がこの気の利かない女に取って代わっていた。エリサのことは本当に惜しいことをした。辺境伯領で幸せにやっているようだが、その辺境伯と以前から貯水池問題で揉めているラーザン子爵とシシリーが何やら共謀していると耳にした。領地間でのもめ事は正直迷惑なんだが、そう独り言ちるケビンの嫌な予感は的中。貧乏貴族に嫁いで不幸せなはずの姉から盛大な式と披露宴を開いてもらい幸せだという手紙を貰い、シシリーの妬みが爆発。ケビンに蔑まれた彼女は姉とその嫁ぎ先であるロンドバルド領が困るよう、子爵と密会。援助するからと貯水池の拡張を提案し・・・。頭が悪い上に我儘な妹の嫌がらせもここまで来ると犯罪。シシリーはレリクスに謀反の疑いがあると言う噂まで広め、姉が困る姿を妄想して悦に浸っていました。でも、エリサは早々にこれが妹の仕業と看破。実家に戻って父にも妹のしでかしを見ないフリし続けるつもりかと責めます。が、父は相変わらずエリサの言うことなど聞かず、逆にシシリーの罪を隠ぺいするよう命じてきたので、彼女は断固拒否。妹の部屋に乗り込み、子爵との手紙を見つけたエリサはケビンの協力を仰ぐのでした。彼もシシリーの行動が目に余るとし、捜査の権限をエリサに与えます。証拠の手紙と権限の行使で追い詰められたシシリーは逮捕されるとあっさり悪事を白状。しらを切り、河のせき止めなど悪辣なことまでしていた子爵はケビンの命により軍を動かしたレリクスに敗れ領地を失う羽目に。シシリーはその後修道院送りとなるも、オルロンド公爵家はエリサの活躍でおとがめなし。でも、次女の不始末の責任を取る形で公爵は長男に家督を譲るという結果に。兄とは仲が良いのでエリサにとっても良い状況になった5年後、水源も潤沢となりすっかり豊かになったロンドバルド領を仲良く切り盛りする夫婦の姿が描かれて本編は幕。書き下ろしの短編は、エリサが嫁いできて間もない頃、レリクスが彼女を見直す一因となった出来事のお話でした。妹の身勝手のせいで、公爵家だけでなく嫁ぎ先とその周辺まで騒動に巻き込まれるという内容の今作。ナルシーなだけかと思っていた王子が実は聡明で人を見る目も兼ね備えてたと言うのが意外で、よくある婚約破棄もののザマァポジとは一味違うと思いました。ぶっちゃけ、レリクスよりキャラが立ってる(笑)面白く読ませてもらいましたが、絵がちょっと残念。女の子は可愛いんですけどねぇ(^_^;)評価:★★★★☆
2024.09.02
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2020年8月刊エタニティ文庫著者:栢野すばるさん周囲に正体を隠しながら「官能小説家」として活躍している詩織。実はお嬢様でもある彼女は、子供の頃からの許婚と、この度めでたく結婚することになった。密かに憧れていた彼との生活は嬉しいけれど、家族にも内緒にしている自分の職業がバレたら、きっと婚約破棄されてしまう! 焦った詩織は、なんとか秘密を隠し通そうと奮闘するが……!? 彼女の全てを知りたい彼×隠したい彼女の恋愛攻防戦スタート! 文庫だけの書き下ろし番外編も収録! ↑楽天ブックスより、あらすじ引用登場人物 古河詩織=女性向け官能作品をメインに書いている小説家。 孝弘には職業を隠している。 小早川孝弘=金融系企業の御曹司で後継者。女性向けエロ作品を読むのも書くのも大好きな詩織。やがて書く方に重きを置き始めた彼女の作品が出版社の目に留まってデビューしたのは5年前のこと。ありがたいことにその界隈ではちょっとは名も知られるようになっていた。著作は20作にも昇る。エッチだけどほんわかと優しい作風が受けているようで、ありがたいことに仕事の依頼も途切れず、今年はあと5作発売される予定だ。大手ゼネコン企業の創業者を祖父に持つ詩織は、実はかなりのお嬢様。産まれた時から親同士の約束で決まった婚約者の小早川孝弘とは本来5年前に入籍寸前だったのだが、当時はまだ短大生で中退したくも無かったし作家デビューが決まった頃であった。孝弘のことは好きだけどまだ結婚という実感も無く、修行のために数年海外赴任するという彼に付いて行く度胸も無かった。それに新人作家が海外在中とか、担当さんにも色々迷惑だろう。だが、一番の理由は孝弘に仕事と趣味のことを隠していたから。両親ですら詩織の職業を聞いたら卒倒しそうなのに、いくら孝弘が優しい人でも受け入れてくれるか甚だ疑問だ。故に隠しておくのが無難、と結婚を熱望する孝弘に苦しい言い訳をして延期にして欲しいと頼んだ際の悲しそうな表情が忘れられない。渋々了承してくれた彼が海外赴任に旅立って5年。帰国した後は暫く父親の元で働くと言う。高級レストランで久しぶりに再会した彼は男前に磨きがかかり、向こうでもさぞかしモテたんだろうなと思う。正直、婚約解消されても仕方ないほどの不義理をしてしまったのだ。今日は何を言われるののかとドキドキしていると、赴任先で購入したらしい小豆大のピンクダイヤをあしらった見事な婚約指輪を渡されてビックリ。育ちはお嬢様でも金銭感覚は一般人並みの彼女は、落としたらどうしようと戦々恐々で、改めて結婚の話を切り出されても上の空だった。孝弘にしてみれば5年も待ったのだから、流石にもう応じて欲しいと言う考えのようで、君の部屋でゆっくり今後のことを話したいと言われて慌てて散らかってるから別の日にして欲しいと頼み込んだ。なにせ、プロットを書き散らしたノートやら、献本。購入したTL小説の数々があちこちに散らばっている部屋になんて招待できるわけがない。間取りだけは父の名義で借りている高級マンションのそれなのだが、あの有様を見たらきっとドン引きされる。指輪を受け取ってもらえたからか、今日の所は引き下がってくれたけど、原稿の合間に献本と購入した本にはカバーを付けてどこかに仕舞わないと。あれ以来、デートを重ねてはいるものの、孝弘の王子様っぷりにドキドキしっぱなし。だから余計にこんな私でいいんだろうかと不安になる。それを結婚したくないと取られたのか、孝弘に詰め寄られ強引に体を奪われてしまった。以降、彼に遠慮は無くなり、自宅ではなく詩織の暮らす部屋に帰って来るように。毎日7時には出勤して0時過ぎに帰宅する彼の身体を心配しながら、孝弘の為に少しでも役に立てるよう勉強する決意をした詩織。それにしても、最近の彼はエッチの時にやたらと特殊プレイを強要してくる。結局流されて気持ちい思いをしているから良いのだけれど、このシチュエーション、見覚えがあるような。ネクタイを使ったり、鏡プレイとか、全部自分で書いたものばかり。まさかね?孝弘は詩織のペンネームすら知らないはずだ。でも、BLにも偏見無いようだし、それどころか趣味嗜好のエンタメはかなり需要があるのだと力説もしていた。それも義父から今度出版会社を任されるからだろうか。孝弘からの溺愛は留まるところを知らず、しびれを切らしたのか詩織の両親を焚き付け入まんまと二人から入籍の許可を得ていた。この頃になると自分も彼に惚れていると言う自覚もあったし、結婚に何の文句も無いのだが、本業のことは結局話せていない。転寝してPC点けっぱなしにしてたり多々あるから実はバレてるんじゃと思わないでもないが、そうでなかった場合打ち明けるのに勇気がいる。そんなある日、力試しに応募した一般作が奨励賞を受賞。そのお祝いに兄の友人で、ベストセラー作家のヒカルがお祝いしてくれた。しかし、偶然二人の様子を見かけた孝弘が詩織の浮気を疑い・・・。ちょっと変わった思考のヒロインと彼女を溺愛し一筋のヒーロー。終始コメディ調でクスリとするシーンが多数。ヒカルさんは実はゲイで、詩織の兄にホの字なんですけど、孝弘に誤解されやれやれと言った様子。彼の機転で疑い自体はすぐに晴れることになり、孝弘は詩織の著書を全部読破したことを告げます。ペンネーム自体、留守電で呼ばれていた名前から推察されていたようで、入手できる本全て読破。詩織らしい優しい話ばかりだったと褒めるのでした。彼は妻がエロ小説を書いてようが気にしておらず、結局詩織の杞憂に終わったわけですが、彼の言葉を受け自らも孝弘のことがどんなに好きか打ち明けます。ようやく念願の入籍を果たし、ラブラブな夫婦の様子が描かれて本編は幕。文庫版用の書下ろしは本編ラストから約4年後、長女・沙織を交えた小早川家の日常でした。評価:★★★★★
2024.08.29
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2024年7月刊アルファポリス文庫著者:硝子町玻璃さん多くの人々があやかしの血を引く時代。猫又族の東條家の長女、霞は妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。そんなある日、雅に縁談が舞い込む。お相手は絶対的権力を持つ鬼族の次期当主、鬼灯蓮。逆らえない要求に両親は泣く泣く縁談を受け入れるが、「雅の代わりに私がお嫁に行くわ!」と霞は妹を守るために、自分が生贄として鬼灯家に嫁ぐことに。そんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年でーー!? 政略結婚からはじまる、溺愛シンデレラストーリー。 ↑楽天ブックスより、あらすじ引用登場人物 東條霞=猫又族・東條家の長女。妹の代わりに鬼灯家に嫁ぐことを決める。 東條雅=霞の二歳下の妹。 鬼灯蓮=鬼の一族・鬼灯家の次期当主。鬼灯八千流=蓮の母。 鬼灯正嗣=蓮の父・蔵之介の従兄弟。多くの人々があやかしの血を引いている時代。猫又族・東條家の長女の霞は赤ん坊の頃に事情あってこの家に引き取られた養女だった。母の薫とは少々折り合いが良くないものの、妹の雅は霞を慕ってくれているし、父や亡き祖父は姉妹を分け隔てなく可愛がってくれた。そんな家族に囲まれ、平穏に過ごしていたある日のこと、東條家に縁談が持ち込まれた。お相手は鬼族の鬼灯家の次期当主・蓮。東條家の娘宛というので父は雅を嫁がせるつもりの様で、薫も霞も狼狽。なぜなら彼女はまだ16歳。いくら豪胆な性格をしていても鬼灯家の嫁になんて。一応、2年間は許嫁として鬼灯家に住み込み、行儀作法などを習い、正式に結婚するのは18歳になってからだというけれど、薫は娘の性格と気性を知っているだけにこの世の終わりだと嘆いていた。当の本人は全く動じておらず、家族だけがお通夜状態になった数日後、ついに鬼灯家から迎えが。でも、雅がどうにも心配で、思わず私が嫁ぎます!と霞は声を挙げた。薫も娘可愛さと早晩騒動を起こしそうな雅を行かせるのは忍びないのだろう。東條家の娘という条件なら霞でもいいはず、と後押しし、珍しく我を通した霞の意を汲み、彼女を行かせることに渋々父も納得。だが、そんな姉の姿を見て何を思ったのか雅も霞の世話係としてついて行くと言い出した。血は繋がっておらずとも姉妹はお互いの身を案じていたから。いくつもの会社を経営する鬼灯家の屋敷は大きく、当主の蔵之介に挨拶に行くと次女のはずが長女が嫁ぐことになったと聞いてもあっさり承諾。やはり東條家の娘、というのが重要な条件らしい。雅が一緒に付いて来たのも人質が二人の方が都合が良いだろう?と妹の明け透けな言葉も肯定し、二人を歓迎。夫となる蓮は二十二歳。その美麗さに霞は彼に一目惚れ。蔵之介の側仕えの黒田からは今は蓮が会社を継いだこと、くれぐれも彼の邪魔にならないよう言動を慎んでくれと釘を刺されてしまった。連を始め、許嫁は誰でも良かった的な雰囲気だし、この先が思いやられる。猫又族なんて下に見ているくせに、どうして縁談の打診をしたんだろう。しかし、蓮に一目惚れしてしまった霞はそんなことよりも彼が気になってしょうがない。雅に相談するとアタックあるのみ、と力強いアドバイスをくれたので、得意の料理で蓮の胃袋を掴む作戦に出た。東條家でも使用人に混ざって料理を作っていたのもあって少々自信がある。早速、翌朝の朝食作りから参加すると屋敷の使用人たちは困惑。当主夫人の八千流に報告が行き、調理場に来た彼女にどういうことかと尋ねられ食事を作ってます、と答えた霞は出来たばかりの味噌汁の味見を頼むと味付けが気に入られたらしい。明日の味噌汁の具のリクエストを貰い、料理をする許可も得たのだった。でも、蓮の反応がとっても薄い。元々食に興味が無いのかもしれないと内心がっかりしたが、食事作りは続行を決め、屋敷に来てから知り合ったネズミのあやかし・韋駄天ネズミが雅の傘下に入ったことでその協力を得て蓮の書斎にグッドタイミングでコーヒーを差し入れることに成功。一方、蓮の方も霞と会話するチャンスを狙っていた。が、そもそも朴念仁な性格も相俟って中々上手くいかない。そんなある日のこと、蔵之介の従兄弟で、一族の中でも高い発言力を持つと言う正嗣に目を付けられた霞。正嗣は彼女の外見からある人物を思い出していた。しかし、あの女は猫又族でもないし東條家の者でもなかったはず。霞に付いて調べると東條家の遠縁として引き取られた養女と判った。それにあの時の赤子なら年齢も合う。そこで霞が本当に猫又族なのか、手下に命じて飲食物に仕掛けを施すと二つ目で明らかに猫又族ではない確証を得た。間違いない、霞はあの神城家の生き残りだ。かの家の者が持っていたと言う異能を確かめるために、雅に毒を盛った正嗣の策に嵌り霞は妹を助けたい一心で癒しの力を発動。無事危機を脱した雅を見て嬉し泣く霞を横目に、正嗣は彼女を手中に収め、本家乗っ取る策を練り始めたのだった。そして自ら霞に歩み寄ろとしていた蓮は彼女に休日デートを申し込み、お互い充実した一日を満喫。段々距離も縮まった頃、体調を崩したり諸々の騒動で休校状態だった高校に久しぶりに登校。だが、昼休みに屋敷で一大事があったと黒田が彼女を迎えに。慌てて、車に乗り込むと見覚えのない道にどんどん入っていく。到着したのは山奥の別荘。霞は黒田によって別荘の一室に閉じ込められ・・・。屋敷では当然、霞が帰ってこないと大騒ぎ。幸い、かくれんぼをしていて霞のカバンに隠れていた子ネズミが別荘の位置と状況を知らせに屋敷へ帰ることに成功。報告を受けた雅がネズミたちを使い、姉の救出に向かうことになり、蓮も八千流に止められるも蔵之介の協力により独自にその足取りを追います。正嗣は雅と蓮の活躍により追い詰められ、自棄になったのか過去の悪事を自ら暴露。彼女の本当の家族を殺したのが正嗣と判り、怒りに任せた霞のもう一つの力の発現し、彼は片腕を失い捕縛されるのでした。黒田も鬼灯家を裏切ったとして処罰を受け、騒動後に蔵之介や東條家の両親が語る霞と神城家の真実とは?って感じの展開です。ラストの展開等含めあまりネタバレしてもアレなので、敢えて割愛。タイトル含め帯の煽りも微妙に内容に合っていないため、シンデレラストーリーを期待すると若干戸惑うかも。ぶっちゃけ、思ってたのと違う(^_^;) 溺愛されてた?っていうか。いや、内容的にこれはこれで面白いんですよ。ただ、イラストレーターさん繋がりで鬼の花嫁みたいな話を想像すると相当違うので、あまり煽り文とかは気にせず読むのが良いかと。評価:★★★★★お話自体は凄く面白かったです。
2024.08.05
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2024年7月刊レジーナ文庫著者:ラキレストさん出産を間近に控えた、公爵令嬢シャーロット。そんな彼女のもとに、ひとりの男爵令嬢が訪ねてきた。なんとその男爵令嬢は、シャーロットの夫と浮気しているというのだ! シャーロットが夫の様子を窺ってみると、確かに浮気しているとしか思えない、怪しげな行動ばかり……。--自分の立場をわかっていないクズな旦那様には、おバカな女ともども痛い目を見ていただきましょう。シャーロットは、二人を『ざまぁ』するために奔走し始めてーー!? ↑楽天ブックスより、あらすじ引用登場人物 シャーロット=公爵家の一人娘。出産間近に夫の浮気が発覚し復讐を目論む。 ラルフリード=王国の第一王子でシャーロットの初恋の人。 アレクシス=サンチェス公爵家当主でシャーロットの父。 スティーブ=シャーロットの夫。 マイア=スティーブに浮気相手の男爵令嬢。サンチェス公爵家の一人娘・シャーロットには、婿入りした夫がいる。両家の祖父同士が大親友で、互いの子供を結婚させるという約束を交わしたのだが、残念にも男しか産まれず、約束は孫に受け継がれることに。夫・スティーブはトンプソン伯爵家の次男。幼い頃から二人は許嫁という関係で学院を卒業してすぐに結婚。正直、シャーロットには彼に対しては特別な感情を抱いたことは無い。とは言え、この結婚は祖父の悲願。スティーブは婿入りまでしてくれたのだし、将来は二人で家を盛り立てて行こうと思っていた。だが、このスティーブ、シャーロットに言わせれば所謂お馬鹿さんであった。とにかく努力が嫌いで、父から公爵家での仕事を徐々に覚えて行くようにと言われても、サボってばかり。結局仕事は妻に丸投げで、シャーロットが妊娠してからもそれは変わらなかった。父が引退するなり亡くなれば自分が当主になると勘違いしている様なのが笑える。そもそも、この家の後継者はシャーロットなのに。出産予定日が間近に迫ったある日のこと、馬鹿夫の浮気が発覚。馬鹿の相手はやはり馬鹿の様で、スティーブとの不倫関係を堂々と宣言しにやって来た男爵令嬢・マイアの態度には呆れたが、おかげで妻にバレたことにも気付かず出張だと嘘を吐き1週間も浮気旅行に出掛けるスティーブ。いつ産んでもおかしくない妻を置いて旅行とは良いご身分だ。しかも文官が出張なんて判り易い嘘を吐く夫に殺意が沸いた。祖父には悪いがこんな馬鹿とは離縁する。だが、ただ離縁するだけでは腹の虫がおさまらない。どん底まで突き落としてやるべく、先ずは父・アレクシスに相談。娘を溺愛する彼は激怒しシャーロットの計画に乗ってくれた。決行はスティーブの帰宅する日。その前に彼女はスティーブの素行調査を依頼、幼馴染の第一王子・ラルフは離縁含め諸々の未届け人になってくれると言う。祖父とスティーブの実家・トンプソン伯爵家の面々にも声をかけ公爵邸に来てもらうと、調査結果をもとに離縁する旨を伝えるとトンプソン一家は息子のしでかしに卒倒せんばかりで、少々気の毒になった。祖父たちは自分たちの約束事で結婚を決めたことを謝罪し、やるなら徹底的にと許可も得た。そして、やはり夫が不在中にシャーロットは産気づき、無事長男を出産。ラルフに頼んで名付けられたその子の名前はルーカス。数日後、何も知らずにご機嫌で帰って来たスティーブは、鬼のような形相の面々に出迎えられて窮地に立っていた。何やら言い訳をしていたが調査で何もかもわかっている。離縁を言い渡され、僕がこの家の後継なのに追い出す気かと宣ったので、皆はやはり理解していなかったかとあきれ顔。この国では10年ほど前から第一子なら女性でも後継者になれるという法律が制定され、この国の次の王もラルフではなく姉のスカーレットと決まっている。そもそも、この家の後継はシャーロットであり、離縁されればスティーブは赤の他人。公爵になれるはずがないと彼は漸く気付かされたのだった。浮気の件もマイアとその父・キャンベル男爵が呼び出され、しっかり糾弾された。後に乗り込んで来た男爵夫人のせいで少々揉めたが何とかけじめを付けさせスティーブ共々屋敷から追い出したシャーロットは出産後の疲れもあってぐったり。騒動から数か月後、独り身になった彼女の元には毎日寄せられる釣書にゲンナリしていた。皆、金と公爵家の後ろ盾は大きいのだろう。すでにルーカスがいるので後継者問題もクリアしているシャーロットは再婚する必要も無いので悉くお断りの返信を出していた。しかしそんな中にもしつこいのがザカリー・キキモワール侯爵。一度父から正式に迷惑だと言って貰っているというのに聞く耳持たず。ラルフも眉を顰める程の問題行動の多い人物なだけに関わり合いたくはないのだが。数日後、国王に正式に公爵家の後継者に決まったと報告に行ったシャーロットは運悪くザカリーと遭遇。何を思ったのか侯爵は無理矢理彼女を連れ去ろうとして・・・。浮気夫とその愛人を成敗できたと思いきや、独身になった彼女の元には釣書がわんさか。そんな最中、シャーロットはラルフから告白をされ戸惑います。悩んでいると、王城での事件のせいで国王からキツイ処罰を受けたザカリーはシャーロットに逆恨み。ルーカスの誘拐を企み、以前、公爵家で働いていた使用人の子供達を脅しますが、すぐに侍女たちが気付いて事なきを得得ます。子供達の自供によってザカリーの仕業と判明し、彼が孤児院の院長を巻き込んで人身売買をしていたことが判るとシャーロットは自ら囮になってラルフの協力の元ザカリーの捕縛に成功するのでした。しかし、バツイチ子持ちの自分が王子さまと結婚していいのか、思い悩む彼女の背中を押したのはスカーレットとその友人達。結局、自分が傷つきたくないから迷っているフリをしていたんだと気付き、ラルフのプロポーズを受け入れたシャーロット。5年後、ルーカス以外にも子供を授かり幸せそうな家族の様子が描かれて幕。書き下ろしの番外編はラルフとの娘・リリアーナの誕生日エピソードでした。スティーブ目線のその後や浮気に至った経緯などのお話も差し込まれてましたけど、この人もあんな馬鹿令嬢に引っかからなければシャーロットと仲良く暮らせてたのにね、と思うと少々気の毒に。とはいえ、祖父たちの約束事が諸悪の根源のような親同士(国王と公爵)の方はラルフと結婚させるつもりだったと終盤描かれてて、なんで国王の権限使ってでも強行してくれなかったのか。二人とも両想いだっただけに可哀想。評価:★★★★☆
2024.07.27
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2024年6月刊ノーチェ文庫著者:マチバリさん幼い頃の事件をきっかけに、家族から疎まれてきたエステル。姉の婚約者を誘惑したと言いがかりをつけられ、修道院へ送られることになったはずの彼女に、とある高貴な男に嫁ぎ、彼の子を産むようにとの密命が下った。その男アンデリックとかたちだけの婚姻を結んだエステルは、初めこそ不安を抱いたものの意外にも穏やかな彼に、うまくやっていけるのではとの希望を抱く。けれどエステルの胸に安らぎが訪れる度、過去の記憶が彼女を苛んでーー ↑楽天ブックスより、あらすじ引用登場人物 エステル=代々魔力持ちを輩出しているクレメール家の次女。 とある理由で家族から疎まれていた。アンデリック=強大な魔力を持つ魔法使い。 人嫌いだが王命によりエステルを妻に迎える。 ラシェル=エステルの姉。 クロード=ラシェルの婚約者。 パブロ=アクリア国の将軍。 ジェルジュ=エステルの弟。幼少期に誘拐されて現在行方不明。豊富な水源を持ち豊かなアクリア国は同時に水害の多い国でもあった。水害を防ぐための治水は魔法使いと呼ばれる一握りの強大な魔力持ちによる魔法に頼らざるを得ず、魔力持ちを輩出する家は貴族として優遇されていた。クレメール家も代々コンスタンスに魔力持ちが産まれる家系だ。現当主夫妻は二女一男の子供に恵まれ、長女と長男は宝石眼という魔力があるもの特有の瞳をしていて、彼らは殊の外二人を可愛がった。次女のエステルは残念ながら宝石眼でもなく魔力を持たなかったが、クレメールの子なら嫁ぎ先には困らない。扱いの差こそあれ、それなりに大事に育てられていた。だが、ある日を境にエステルの待遇がガラリと変わった。旅行先で長男のジョルジュが誘拐されるという事件が起き、それがエステルのせいにされたのだ。当然、まだ幼かったエステルがどうこうできる状況ではない。実は我儘な長女・ラシェルが護衛騎士を連れ町に遊びに行ってしまい、当日、エステルとジョルジュを守る者がいなかった。お目付け役の年老いたメイドは殺され、エステルも攫われかけたと言うのに、ラシェルは責任追及されるのを恐れ、妹が我儘を言って自分達を追い出したのだと嘘を吐き、それを信じた両親は激怒。八方手を尽くして探したがジョルジュが見つからない焦りもあって彼らはエステルを責め、以降、彼女はいない者扱い。いずれ修道院に行かせると宣言した。宝石眼を持つ者は男女問わず高く売れる。国も対応に追われていたがいつも後手に回って被害者は増えるばかり。ジョルジュの行方はようとして知れず、数年が経ったある日、エステルは父からとある高貴な男に嫁ぐよう命じられた。修道院入りが間近に迫った頃、姉の婚約者・クロードに襲われたエステルは被害者なのにもかかわらず、ラシェルの婚約者を誘惑したと父の怒りを買ったのだ。屋敷を警護していた騎士が悲鳴を聞きつけ幸いにも未遂に終わり、証言もしてくれたのに、両親は宝石眼の長女だけを可愛がりその嘘を信じた。ここまで来るともう諦めの境地で、父の言う通り嫁ぐことを了承した彼女は、旅立つ日、必ず子を産めと言い含められた。それだけがお前のできることで贖罪であると。ラシェルはいい気味とばかりにほくそ笑み妹を見送ったが、何故だか幼い頃から姉から敵視されていたように思う。国の重鎮・パブロ将軍肝入りだと言うこの婚姻。エステルのお相手は辺鄙な地にある古い館に住む魔法使い・アンデリックで大層人嫌いだと言う。膨大な魔力を持ち角が生えている容姿も相俟って縁談が纏まったことが無い。業を煮やした国王が王命という形で彼に結婚を命じ、パブロに花嫁の選定を頼んだらしい。そこで白羽の矢が立ったのがクレメール家で婚約者のいないエステルであった。稀少な魔法使い、何としても子孫を残してもらわなければ。明け透けな意図にアンデリックは怒り、当初はエステルのことも受け入れなかった。だが、屋敷の唯一の使用人・ベルタとも気さくに接し、おおよそ貴族令嬢らしからぬ彼女のことが段々気になり、やがて少しずつ心を開いて行った。しかし、輿入れして数か月経つのに一向に懐妊の報告が無いのでパブロは業を煮やし、媚薬をエステルに渡すと何としてでも関係を持つよう彼女を脅した。追詰められたエステルは自ら媚薬を煽り、情に訴える形でアンデリックに迫りなんとか初夜を完遂。彼女への好意もあって彼はこの日からエステルの身体にハマった。だが、それでも懐妊の傾向が無く、パブロは刺激が必要だと、彼の許可なしにラシェルとクロードを屋敷に迎わせ・・・。当然ながら姉達の来訪によって悶着が起こります。間の悪いことに定期的な治水のための魔力供給で王宮に行っているアンデリックは留守。以前からエステルに色目を使い隙あらばセクハラしていたクロードは彼女に襲い掛かり、丁度帰宅した彼の怒りを買います。ラシェルたちを氷漬けにして兵に引き渡す算段をしていたアンデリックは、隙を突かれてパブロにエステルを浚われてしまいます。この将軍、怪しさ大爆発だったんですけど、やっぱり悪人でした。魔力至上主義の彼は、実は国王の落胤であるアンデリックを王に担ぎ上げて国の大改革をするべく目論んでいました。でもアンデリックは素直に言うことを聞くとは思えない。そこで今となっては彼の唯一の弱点となったエステルを浚ってきたのです。パブロは並行して宝石眼持ちの子を手ごまにするため、ならず者たちに誘拐を指示。ジョルジュを浚ったのもパブロの手の者だったんですね。色々明かになって怒りに燃えるエステルでしたが、それ以上にキレていたアンデリックが、パブロを捕縛。彼は厳しい罰を課せられることに。長い事パブロに踊らされ、宝石眼の保護をおろそかにしていた国王は退位。アンデリックの異母兄の王太子が王位を継ぎ、今度こそ間違えないと弟に誓います。無事に救出されたエステルが屋敷に戻って暫く経った頃、ラシェルの自供によりジョルジュ誘拐時の真実、クロードのセクハラなどが発覚して目が覚めた両親はエステルとの面会を望むも彼女は拒否。謝罪で済まされるには時が経ち過ぎていました。新国王は攫われた宝石眼の子供達の捜索に力を入れ、アンデリックの協力もあって漸く姉弟は再会を果たします。幼過ぎてエステルのことを彼は覚えていなかったけれど、生きていてくれただけでありがたい。その頃にはエステルは妊娠しており、数か月後元気な男女の双子を産みます。新国王の計らいで暖かな領地に越して来た家族の日常の一コマが描かれて本編は幕。文庫版の書下ろしは本編の10年後、未だ新婚時のようにラブラブな二人のお話でした。魔法がある世界のストーリーなのでTLながら、ファンタジー度は若干高め。不遇ヒロインと偏屈な魔法使いの恋物語でした。評価:★★★★☆
2024.07.19
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2024年5月刊アルファポリス著者:如月雪名さん異世界転移し、リーシャという公爵令嬢として生きていくことになった椎名沙良。リーシャは継母に蔑まれており、生活環境は最悪。そして、沙良に与えられた能力は異空間にあるアパートを自由に使えるというちょっぴり変わったものだった。異世界でどうやって生きていくか途方に暮れていた沙良だったが、異空間のアパートはガス・電気・水道使い放題で、食料もおかわりOK! しかも、家を出たら……すぐさま町やダンジョンに直結!? こんな超・快適なアパートがあるのなら、もう窮屈な公爵家にいる必要はない……? そう思った沙良は実家を出ていくことを決意してーー自由気ままな異世界二拠点ライフ、スタート! ↑楽天ブックスより、あらすじ引用登場人物 椎名沙良=アラフィフの日本人女性。 突然死した後、異世界の公爵令嬢・リーシャに転生した。 椎名賢也=沙良の2歳年上の兄。 外科医をしていたが沙良によって異世界に召喚される。 旭尚人=沙良と賢也の幼馴染。ある日のこと、外出先で倒れて亡くなった椎名沙良は、異世界転移していた。どういうことかと慌てる彼女の側には、この状況について綴られた差出人不明の手紙が。沙良宛だったので読んでみると、何者かの手違いによって自分が死んだこと、詫びと称して異世界転移させられた挙句、別人の身体で第二の人生を過ごして欲しいと言う、ふざけたもの。48歳の自分が今更12歳の少女として暮らせってか?公爵令嬢とのことだが、今自分の魂が入っているリーシャという娘。どうやら、継母に虐待されているらしい。食事も碌に与えられていないのか痩せ細り、普段から暴力を受けているのかあちこちあざだらけの身体を見下ろしため息が出た。実父である公爵は娘を溺愛しているようだが、多忙で屋敷を留守がち。旦那の目が届かない所で継子を虐待とは、連れ子可愛さもあっての行動か。となるとこのリーシャ、相当詰んでない?差出人からの説明続いており、読み進めると沙良に色々な恩恵を与えてくれているのが判った。先ず、時空魔法というカテゴリで、どういうからくりなのかいつでも出入り可能なアパート一棟(12室)が与えられ、電気ガス水道は無料で使い放題。このアパート自体、沙良が住んでいたものと同じ作りで家具家電も全て揃っていた。他の住人は当然住んでいないが彼らの所有物はそのまま使えるようになっていて、食材などは登録すれば365個まではコピーして増やしアイテムBOXに保管できる。風呂やトイレも使用できるし、早くもこの世界のトイレ事情が受け入れられそうもなかったから、ありがたいシステムではあった。気になるのは希望の人物をこの世界に召喚できるという能力。これについては誰を呼ぶかじっくり吟味することにした。それから数日経って、いよいよ父が帰宅。継母からは余計なことは言わぬようけん制されていだが、中身は酸いも甘いも味わったアラフィフの女性。自分より随分年下の継母など怖くも無い。父が帰ったら継母にされたことをチクってやった。当然ながら亡き妻の忘れ形見であるリーシャへの仕打ちを知って、公爵は激怒。後妻とその連れ子、実家から連れて来たと言う使用人共々屋敷から追い出した。おかげで多少は溜飲が下がったけれど、それでも継母からの虐待の末に亡くなったのであろう本当のリーシャの気持ちを思うとやりきれなくて、長らく気付かなかった公爵にも怒りが沸いた。優しい人だとは思うが、一緒には暮らせない。リーシャと継母、その連れ子、追い出された使用人たちの部屋から金目の物を持ち出し、ホームの魔法で彼女は屋敷から姿を消した。一週間後、アパートでゆっくり過ごしていた沙良は、公爵領にあるミリオネという街を拠点に働くことにした。ギルドに登録すると汚物処理や荷運び、薬草採集など価格は安いが簡単な仕事が受けられる。体が小さく体力の無い彼女は先ず店から店の荷運びを引き受け、大金が稼げる討伐依頼を受けられるEランクを目指し少しずつ仕事をこなしていた。見るからにお嬢様な彼女はある意味目立っており、注目の的であった。町自体は気の好い者が多く治安も悪くないのでそこまで警戒はせずに済んでいるが、それ以前に孤児が多いことに驚いた。親が冒険者で、討伐に行ったきり帰ってこなかったという子供がああして路上生活をしているらしい。お人好しなわけではないけれど、見ていると辛い。自分はアパートに帰れば風呂にも入れるし、腹いっぱい食べられる。討伐依頼を受けられるようになるまでに装備と武器を買おうと金を貯めていたが、サラは貰った依頼料でパンや串焼きを買い、子供たちに配り始めた。大して稼げないだろうにあんな少女が孤児に施しをしている姿に驚き、彼女に賛同する冒険者たちも増えて来た。それからまた暫く経って、サラは漸くEランクに昇格。武器と防具も揃えてはみたものの今イチ心許ない。ここはやはり召喚を試すべき?思い浮かぶのは家族なのだが、70代の両親は除外として呼べるのは一人だけなので無難に頼れる長男・賢也にした。外科医としてバリバリ働いている兄には申し訳ないが、これからの人生に付き合ってもらうべく賢也を召喚。そして、目の前には14歳くらいの少年が一人。驚いている彼に状況を説明し、謝り倒していると例の手紙が兄の元にも。自分と違い、現代では行方不明扱いになっているであろう兄はショックを受けていたが事情が分かるとサラに付き合うことを承知してくれた。兄は主に魔法が得意で攻撃も治療も万能。日にいくつも仕事をこなして1ヶ月ほどで賢也のランクが上がり、討伐依頼を受けるようになると稼げる金も大幅に増えた。その分、防具や魔石採取用の解体ナイフなど必要経費も嵩んだが、サラには一つの目標があった。孤児たちに家を。賢也にも相談し貯めた金で中古の家屋を数棟購入。子供たちを住まわせ定期的に差し入れもしている。子供たちには清潔を心がけさせ、働ける年齢の子にはギルドの登録費用も立て替えてやった。街の人たちの協力もあって子供たちの心配も無くなったし、この街に来てもう4年。兄と相談した結果、ダンジョンがあると言うリースナーの街に拠点を移すことに。ミリオネに比べると冒険者含め質の悪い者が多く、違法の奴隷商も横行しいて治安も良いとは言えない所ではあるが、ダンジョンはやっぱり稼ぎが違う。そして、この街の孤児たちが暮らす劣悪な環境が気になり、つい色々と支援してしまっている。治安が悪いのであまり派手にやるとこちらが狙われる。最初は差し入れと炊き出し程度に収め、徐々に他の冒険者と親しくなった頃、タダで賢也が治療してやった恩義からか、支援活動にも賛同してもらえるようになった。並行してダンジョン踏破は進み、最下層ではドラゴンではなく、かつての幼馴染・旭と再会し・・・。何者かの手違いにより予定外に突然死した上、虐待された挙句死亡したらしい公爵令嬢・リーシャの身体に魂が転移した沙良。以降、リーシャとして生きていくことになったものの、お詫びとしてもらった時空魔法という便利な力で家にも食うにも困らない生活を手に入れた。継母は追い出したけど公爵にも蟠りがあって屋敷を飛び出した彼女はアパートで暮らしながらも、異世界の町でギルド登録して金を稼ぎ、孤児たちの支援活動にも乗り出します。その頃には頼りになる兄・賢也も召喚し、拠点を違う街に移してからは名の知れた冒険者になるまでに。支援に関しては生活に余裕があるからこそできたことだと思うんですけど、やらない善意よりやる偽善、行動することに意味がある。現に彼女達に救われた子供達は多く、町の人々にも良い影響を及ぼすのでした。そののちに、サラと賢也はかつての長馴染み・旭と再会。彼もまた現代で突然死していてあの手紙を携えていました。更にダンジョンから出られないと言う過酷な制約があり、ずっと一人で暮らしていたと言う彼を召喚という形で制約から解放すると、それから3人で行動することに。裏では娘の無事を心配する公爵の様子や、自分勝手な継母の心情なども綴られます。当のサラはもしかしたらあの子にもこの世界で会えるかも、と未来に向けて希望を膨らませつつ〆あの子って?と少し疑問を残して終わってたのを見るに続編があるんでしょうかね。あと、アパートの施設とその周囲の店舗などが使えるなら、異世界転移してもなんとかやってけそうな気はします。評価:★★★★★
2024.06.03
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2018年2月刊レジーナブックス著者:夏目みやさん一年前、異世界に聖女として召喚された紗也。持ち前の責任感で渋々ながらも役目を果たす彼女は、護衛のリカルドに淡い恋心を抱いていた。しかし、彼には婚約者がいるという噂もあり、紗也は役目が終わり次第、諦めて日本へ帰ることを決める。そして聖女退任後、王城で帰還の儀式に臨んだのだが、なぜか裏山へ飛ばされてしまった! 今さら城へ戻るに戻れず、紗也は日本に帰る方法を探しつつ街の教会で歌い手となることに。そんなある日、彼女のもとにリカルドが現れ、有無を言わさず彼の屋敷へ連れていかれる。彼の真意がわからないまま保護されていた紗也だけど、、新たな聖女が現れたことで、事件に巻き込まれーー!? ↑楽天ブックスより、あらすじ引用登場人物 川本紗也=異世界召喚された日本人の少女。 1年間の聖女としての役目を終え現代に帰るはずだった。 リカルド=サヤの護衛騎士。エルンハス=ローラント国の王子。ギルバート=リカルドの幼馴染で侯爵家子息。 オリガ=次代の聖女として城にやって来た少女。1年前、天涯孤独の少女・川本紗也は異世界召喚されてこのローラント国にやって来た。お偉い人達の話によれば自分は聖女としてここに呼ばれたらしい。期間は1年。彼らにしてみればたった1年ではないか、と言いたいみたいだがそう簡単に割り切れるものではない。それでも、お役目を全うすれば相応の報酬を支払い、何でも願いを聞いてくれると言う。ならば、必ず元の世界に戻して欲しいとサヤは彼らに約束を取り付けた。聖女の仕事は、毎日国の平和を願い神に祈りを捧げること。祈りの言葉には旋律があり、歌が大好きで亡き母にも褒められたサヤには打って付け。最初は渋々ながらだったのでいくら大好きな歌う仕事でも抵抗感はあった。だが、真面目な性格故かしっかりと日課をこなし、1年後無事に役目を終えることとなった。最初は不満を爆発させて護衛騎士のリカルドにしょっちゅう突っかかっていたものだが、今思うと単に八つ当たりしていただけで申し訳なく思う。実は密かに想いを寄せていたのだけど、リカルドには婚約者がいると知り告白する前に失恋確定。結局、当初の予定通りに現代に戻してもらうことにした。こちらの金銭は現代では使えないが、その代わりにと宝石をいくつか貰ったので、これを換金すれば暫くは生活に困らないだろう。何かと気遣ってくれて友人関係になっていた王子のエルンハスと、リカルドと共に護衛や雑事を引き受けてくれたギルバート。そして、何か言いたげなリカルドに別れを告げて、魔術師達による転移魔法陣の中央に立ったサヤは光に包まれて次に目を開けた時には現代に戻って来ているはず、だった。草むらに投げ出されたサヤは、周りを見回してここが城の裏手にある山の中だと知って愕然。まさか、転移に失敗したの?魔術師達は全員優秀だから送り返すことなんて造作もないとか言ってたくせに。と怒りも沸いたが、城には戻らないことにした。やはりまだリカルドに未練があるのか、いざこうして帰還に失敗すると複雑な気持ちになる。一応、金銭も多少は受け取っていたので市井で仕事を探せば暮らせるだろう。いつの間にか降り出した雨の中、出会った気の好い女将が気に入りその宿で暫く過ごすことを決めた。そんなある日、近くの教会で祈りの歌を歌う歌い手が突然辞めて困っていると耳にし、代理の歌い手を務めることになったサヤ。彼女の歌を聞くと体の調子が良くなったなどの声が多く寄せられ、数日の間に彼女は人気者に。教会預かりの子どもたちからも好かれ、楽しい日々を過ごしていた。それから暫く経った頃、教会の新しい歌い手が素晴らしい、という噂を聞きつけてリカルドが来訪。サヤと再会した。もしやと思って来てみれば本当に君だったんだな、と安堵の表情を浮かべる彼に思わず胸が高鳴ったが、リカルドは強引に彼女を自分の屋敷へと連れ帰ってしまった。どうしてまだこの世界にいるのか、聞きたいのは私の方。どちらにせよ、儀式は失敗したみたいだと告げると、ならすぐに城に助けを求めるべきだったと叱られる羽目に。元とはいえ、聖女だった人を邪険にするはずがない。しかし、リカルドへの想いから城に戻れなかったとか言えるはずも無く、一人で色々考えたかったからとごまかした。その後、リカルドの伝手で賢者と会うことになったサヤは、そこにいた賢者の娘なる人物にこれからのことを含め帰還魔法の失敗の理由を占いと言う形で見てもらった。先ず、帰還の失敗については何者かの意図的なものだろうとのこと、そして、サヤ自身は色々厄介事に巻き込まれるもこれは気の持ちようで状況も変わるだろうとアドバイスされた。一番の懸念事項は失敗の原因だったので、もしも誰かの策謀なら現状誰にも言わない方が良いだろう。そして、報告しないわけにもいかなかったようで、城に呼び出されたリカルドによれば国王たちがサヤに会いたいと言っているそうだ。更に頼みたいことがあるという。どうやら、現在城には新しい聖女がいるらしく・・・。こんな短期間のうちに次代の聖女が?実は聖女自体、稀有な存在で早々現れないので、オリガと名乗る少女の扱いに困っていました。そこで、サヤにオリガの指導役を頼みます。それはちょっと無神経じゃ、とリカルドは反対するも、彼女自身は構わないと引き受け、オリガに聖女のノウハウを教えます。でも、田舎育ちらしいオリガはエルンハスに見初めてもらうことの方が重要なようでてんで聞いちゃいない。まだ16歳と聞くし、自覚が無いのも仕方ないかと根気よく指導することにしたサヤは、自称リカルドの婚約者・ルイーゼとバチバチ。未来の妻ならどんと構えてればいいのに、何故かルイーゼの方が随分焦っている様子に首をかしげている中、オリガとその知人らしい青年との会話が耳に入り、彼女が聖女だと偽っていたことを知り唖然。しかも、サヤの元護衛の一人であるギルバートが首謀者だったようで、彼が自分の地位向上のために仕組んだことだと発覚。その理由がねぇ、ライバル視していたリカルドに立場上勝ちたいから、でした。オリガを聖女に仕立て自分が護衛騎士になれば親族にも認められると。あまりにも自分本位な動機に上層部は呆れて、彼に相応の罰を与えます。オリガはただ都会暮らしと玉の輿に憧れた子で利用されていただけと判り、故郷に強制送還となるようだけど、根は良い子だったのでこの程度で済んで良かった。一方、サヤには未だに聖女の力があることが判明して、あと1年だけお役目を引き受けることに。そして、婚約云々はルイーゼの独り相撲と判って誤解が解けた後、リカルドからの告白で晴れて二人は交際に至って終わっています。タイトル通り聖女ものです。でも、お役目を終えてからのお話なので、そこから展開すると言う珍しいパターン。その時はお互い告げられなかった想いも再会後に再燃し、次代の聖女の出現というトラブルに巻き込まれながらも、聖女時代よりも距離を縮めて行くのでした。帰還の失敗の原因はエルンハスによるものと後に自らがばらしてましたが、それは二人が焦れったかったから。お互い両想いのくせに想いを告げずに二度と会えなくなったらきっと後悔する。それは本当にそう。荒療治だったけど、上手くいったのは彼のおかげだったというオチでした。評価:★★★★☆聖女モノにハマりたての頃にアママケで購入したうちの1冊。どうして、書き下ろしがある文庫版を買わなかったのか激しく後悔。
2024.05.26
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2020年8月刊レジーナ文庫著者:秋風からこさんお城で働くメイドのアレットは、ある晩、媚薬を飲まされ、我を忘れた憧れの王太子リオネルと、一夜を共にしてしまう!! 彼とはそれきりの関係だと思っていたのに、アレットの妊娠が判明! 一方リオネルは、あの夜の相手をずっと探していたらしく、アレットの妊娠を知ると大喜び!! アレットは身分差に悩みながらも、リオネルのそばで出産することを決意。すると平凡で地味な暮らしから一転、お妃様のような生活が始まってしまいーー!? 文庫だけの書き下ろし番外編も収録! ↑楽天ブックスより、あらすじ引用登場人物 アレット=王宮で働くメイドだが、リオネルの子を身籠ったことで妃として迎 えられた。 リオネル=王太子。5人もの側妃を持ちながら不妊で悩んでいた。リュシエンヌ=リオネルの側妃の一人。王宮で働くメイドのアレットは夜会の後、掃除を終えて部屋に戻る途中で苦しそうにしている王太子・リオネルと遭遇。密かに憧れていた人の一大事に思わず声を掛けた彼女は切羽詰まった彼に客室に連れ込まれ、純潔を奪われてしまった。優秀で人格者なリオネルは国民からの支持も高くこの国の将来も安泰と言われる人物だった。少々様子がおかしかったとはいえ、そんな彼がまさか自分にこんなことするなんて。暫し茫然とした後、横で寝ているリオネルが起きないうちに彼女は部屋を飛び出し逃げ帰ったのだった。一方、リオネルは目を覚まして昨夜のことを思い出し自己嫌悪に陥っていた。夜会の日、側妃の一人であるリュシエンヌの父・カノヴァス侯爵にいつまでも世継ぎが産まれないのは足繁く妃たちの元に通わないからだとチクリと言われ気分を害し、友人の静止も聞かず飲み過ぎてしまい、注意を怠ってしまったのだ。まさかリュシエンヌが淹れてくれたお茶に媚薬が仕込まれているとは夢にも思わず飲み干し、身体に異変を感じた時には彼女がしなだれかかっていた。だが、リュシエンヌの香水のキツさに吐き気がして何とか逃げ出したはいいものの、高ぶりは抑えきれず、心配して声を掛けてくれたメイドにあんな酷いことを。いくら薬のせいとは言え、自分のしたことは犯罪だ。何とか謝罪をして償いをしなければと考え、気心の知れた友人であり側近のエルネストにメイドの捜索を頼んだ。黒髪で黒瞳、小柄で華奢な少女という特徴の該当者は相当数いる。彼にも仕事があるため少々時間がかかり、漸く数人にまで候補者が絞り込めたのはそれから1ヶ月以上経ってからのこと。果たしてこの中にいてくれれば良いが、と資料を読み始めたリオネルの元に王族の主治医を務めるドミニクから至急診察室まで来て欲しいと連絡が。エルネストと赴くと、そこには探し続けていたメイドが横たわっていて、ドミニクの話では彼女は妊娠しており、胎児からリオネルの魔力を感じるとのことだった。この国は魔法を使える者が多く、王族は特に力が強い。だが、魔力の高さ故に男女共に子供が出来にくい体質で、リオネルも例に漏れず5人もの側妃を持ちながら8年も子に恵まれなかった。いくら優秀でも世継ぎが出来ない事でリオネルは悩み、側妃たちとも最近は疎遠になっているほど。なのに、たった一夜でこのメイドが彼の子を身籠った。アレットは妊娠していると告げられショックを受けていたものの、あの夜のことを彼から真摯に謝罪された上に媚薬を飲まされた故だったと事情を聴き、リオネルを許した。迷惑にならない様、実家に戻って子供と暮らすと話す彼女をその場にいる全員が必死に止めた。アレットのお腹の中にいる子は待ち望んだ世継ぎであること、そしてその子は強い魔力を放ち魔力を持たないアレットの身体に不本意ながら悪さをしている状態らしい。仕事中にアレットが倒れたのもそのせいで、胎児の影響を受けないよう毎日魔力供給を受ける必要があるとのこと。子の父親であるリオネルの魔力が一番適しているのもあり、君の為にも殿下の側で暮らしなさいと説明された。まさか生死に関わる事態だったとは夢にも思っていなかったアレットは少々迷ったものの、リオネルの世話になることに。早々に彼の部屋の隣に居を移し、世話係として専用の侍女まで付けてくれた。扱いとしては妃の一人ということで、安静を言い渡されていた身には上げ膳据え膳の生活はありがたい。リオネルも足繁く彼女の様子を見に訪れていた。その隙間を塗って彼がしていたのは両親への報告と側妃たちとの離縁にむけての準備。両親、特に母はアレットを歓迎し孫が出来たことを大層喜び、義母として彼女に寄り添い何かと世話を焼いていた。父もアレットを正妃に迎えることを了承してくれたので、あとはどう傷つけずに側妃たちとその実家に話すかだ。公爵家の娘である二人の令嬢は割とあっさり身を引いてくれたのだが、残る三人には渋られた。慰謝料や再婚について便宜を図るなど好条件を提示し何とか納得してもらい、後はアレットに正式に結婚を申し込むだけ。だが、密偵によりアレットの存在を知ったリュシエンヌが他の元側妃たち二人を唆して騒動を起こし・・・。大筋的にはシンデレラストーリーなんですが、なんせヒーローには側妃とはいえ妻が5人もいるので悶着が起こります。そもそもリュシエンヌたちにしてみれば8年も連れ添ったのにポッと出の新参者に夫を奪われた挙句、子供まで出来たと聞けばそりゃ面白くないよね。唆された側妃たちもリオネルが好きだったからという事情も後に判り、アレットの願いもありリュシエンヌ含め減刑されるのでした。王族殺害未遂と言う結構悪質な事件だったため処刑もやむなしだったのに、国外追放や修道院行きで済んだのは相当温めの判決だけど、アレットもお腹の子も助かったからこそできた慈悲よね。つくづくリオネルも罪な男よ。本気で好きな子が出来たから彼女一筋に愛したいんだ。だから側妃はもう要らないんだよね(意訳)いや、夫からこんなこと言われてたら普通怒るよ。だから、やらかしたことはともかく暴走してしまったリュシエンヌたち三人の気持ちも判らないでもない。好条件の方に乗って離縁に応じた公爵二家の令嬢たちは単に切り替えが早いんでしょう。その後、無事にアレットは正妃として迎えられ、数か月後に早産ながら王子・マティアスを出産。仲睦まじい夫婦の様子が描かれて本編は幕。文庫版の書き下しの短編は、本編ラストから5年後の話で、第二子の妊娠発覚のエピソードでした。評価:★★★★☆お話自体は非常にシンプルな内容です。
2024.04.30
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2024年3月刊レジーナ文庫著者:マチバリさん伯爵令嬢ロロナが事故死したという知らせが舞い込んだのは、彼女が王太子に婚約破棄を告げられた翌日のことだった。妹を虐げたなどといわれなき罪で糾弾されながら、その咎めをあっさり受け入れたロロナ。その死を知ったロロナの妹は喜んだ。「これで王太子は自分のもの」と。王太子は笑った。「もっと早く死んでくれればよかったのに」と。しかし、彼らは知らなかった。ロロナの死がもたらすものは、幸運だけではないということを…… ↑楽天ブックスより、あらすじ引用登場人物 ロロナ=リュース伯爵家の長女。 アステル=隣国・ステラ帝国の皇子。 ルミナ=ロロナの異母妹。ベルビュート=王太子。ロロナの婚約者。学院の祝祭の日、婚約者である王太子に公衆の面前で婚約破棄されてしまった伯爵令嬢・ロロナ。しかも王太子はロロナの異母妹・ルミナと浮気をしていたらしい。解消に至った大義名分として商売をしている事や妹を虐げていた等の罪状が挙げられたが、ルミナを虐めていたと言うのは事実無根だけれど商売についてはやむに已まれずでも本当のことなので弁明のしようが無い。内心でため息を引きつつ了承したと答えれば今度は可愛げが無いと罵られた。とはいえ、王太子はこんなやり方で本当に大丈夫だと思ったのだろうか。ロロナと婚約破棄したらルミナを妃にと考えているようだが、不貞行為とみなされ貴族院に許可されない可能性が高い。そして、この婚約自体、いくら王太子とは言えどもそう簡単に覆せない約束事なのに。20年近く前、戦時下にあったこの国は一人の戦上手の伯爵によって勝利を収めることが出来た。その伯爵こそロロナの父・リュースであり、彼は英雄として祭り上げられ多額の報奨金を受け取り、当時3歳であった娘は王太子の婚約者に決まった。つまり、この婚約自体、リュース家への褒賞の一つ。それを勝手に取り上げる形になったと言うのにどう落とし前を付ける気なのか。一般的にも、どうあっても婚約破棄したいのなら話し合いを重ね、双方合意の元でなければならず、常識知らずの二人の行為には頭痛がした。ロロナは大きなため息を吐き、やってられないとばかりにその場を去ったのだった。だが、その翌日、ロロナの事故死が報じられ、周囲は騒然。馬車が横転し、美しかった彼女の顔は打ち付けられたのか無残なありさまだったらしい。知らせを聞いたリュース伯爵は、かまってちゃんな性格から娘の死に嘆き悲しむ父親を演じ、その妻であるロロナにとっての継母は邪魔な先妻の娘が死んだとほくそ笑んでいた。ルミナも昔は憧れていたが厳しい性格の姉を疎んでいたので、これで何の憂いも無く王太子妃になれると思っていた。しかし、その直後、ある問題で彼らは追い詰められることに。まず初めに、ベルビュートが勝手な婚約解消について国王夫妻にキツイお叱りを受け、貴族院と教会からリュース家に対して違約金と見舞金の支払いをするよう命じられ、その額に青くなっていた。叱責を受けた際、自分に割り当てられた個人資産から払うと豪語しただけに両親には頼れない。一方、貴族院は結婚自体が無くなった事で、王家が渡していたロロナの輿入れの為の支度金の返済を伯爵家に要求。宝石狂いの伯爵夫人は継子の支度金を使い込み一銭も残っておらず、なんとか王太子に出してもらえないかと考えていた。伯爵は伯爵で別邸に集めた剣士崩れを養う費用が家計を圧迫し、散々管財人のシェザムからも程々にして欲しいと訴えられていた。彼らは知らなかったのだ、今まで伯爵家が回って来たのはロロナが影で商売をし、その収益で不足分を補填していたことを。ベルビュートは伯爵家の現状に唖然とし、ルミナとの結婚は貴族院と教会によって反対された。金に困った伯爵夫妻は別邸と宝石を手放したくないからとルミナを成金の男爵に売る気だから助けて欲しいと縋られても手立てがない。つまらない劣等感で浮気に走り、ロロナを手放したツケによりベルビュートは追い詰められて行った。ルミナはベルビュートに会うと馬車を走らせ、不幸にも姉と同じく事故に遭い美しい顔に消えない傷が残って絶望。醜い言い合いを繰り返す両親に嫌気がさしてきた頃、思い出すのは姉のことだった。その頃、ベルビュートはヤケ酒によりメイドに乱暴を働いたとして王籍を剥奪の上、辺境の地に飛ばされることとなり、伯爵夫妻はそれぞれご禁制品をを購入したという罪で投獄の憂き目に。結果、伯爵家はお取り潰しとなり、残されたルミナはロロナが熱心な福祉活動をしていたこともあって、教会が引き取り行く行くは修道女になるだろうと噂されていた。一人の令嬢の死からたった五日の間に目まぐるしく境遇が変わってしまった彼女の周囲の者たち。影から初恋の人を見守っていた隣国・ステラ帝国の皇子アステルもまた、彼女の死に嘆き後悔していた。そんな頃、屋敷をクビになったシェザムと知り合ったアステルは、彼が受け取ったと言うとある養護院のシスターから送られて来た手紙を読んで驚愕。ロロナお嬢様が高熱で倒れ、お預かりしています。という迎えを要請するもので・・・。聡明で心優しいヒロインを顧みなかったり疎んでいた者たちは、当初は彼女の死を喜んでいました。しかし、それも束の間、彼らは不運に見舞われます。まぁ、不運というより、普段の行いのツケと言うべきか。みんな悪人とかではないんですよ、どこにでもいる心弱い者たちなだけ。ベルビュートも最初はロロナに惹かれていたものの、彼女の優秀さに非凡な自分と比較されているようで苦痛だったと浮気をした理由をモノローグで語っていました。でも彼も伯爵夫妻にしても、影ではロロナに支えられていたことに気付けなかった。ロロナの商売のパートナーだったゼリオと、異母妹のルミナはギリギリで気付けたおかげで、手痛いしっぺ返しを受けつつもどん底までは落ちなかった。ロロナが無事というのは、先ず、遺体の顔の損壊が激しく着ていたドレスだけで判断されてたっていうシチュエーションからして、フラグはあったというか。この辺りの真相は作品の肝の一つでもあるので、実際に呼んでもらった方が良いかも。最後はちゃんと報われてハッピーエンドです。文庫版の書き下ろしの短編はその後のルミナのお話。改心した成果か、妹も救われて良かったなぁ。周りの破滅っぶりが痛快でしたが、助かった者たちとの線引きが見事。評価:★★★★★
2024.04.17
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2022年12月刊エタニティ文庫著者:にしのムラサキさん須賀川美保、二十六歳、結婚適齢期。警察庁長官である父親の薦めでお見合いした相手は、コワモテで無愛想な警察官僚の鮫川修平さん。トントン拍子に縁談は進み、晴れて夫婦になったけれど……修平さんが結婚を決めたのは、将来の出世のため? 大事にしてくれるのは、私がお偉いさんの娘だから? 美保の疑念をよそに、旦那様は「君と結婚できて、幸せすぎて訳がわからない」と、口下手ながらも破壊力抜群の甘い言葉を囁いてきて……!? 激甘注意な無自覚系いちゃラブ新婚物語、文庫だけの書き下ろし番外編も収録! ↑楽天ブックスより、あらすじ引用登場人物 鮫川美保=警察庁長官の娘。父の薦めで修平と見合い結婚をした。 鮫川修平=キャリア官僚で美保の夫。 一見無愛想で強面だが妻を溺愛している。 小野=美保の元カレ。 羽鳥清美=修平の大学の先輩。性格に難ありな人物で修平に嫌われている。父は警察庁長官で母は茶道の家元。兄姉もエリート街道まっしぐらな須賀川家の中で、末っ子の美保は至って平凡だった。子供時代はコンプレックスだったけど、彼らは美保を馬鹿にするどころかとても可愛がってくれていたし家族仲は良い方だと思う。そんな彼女も大人になり、一般企業に入社して今はマンションで一人暮らし。先日父から見合いをしてみないかと連絡が来たので、今は彼氏もいないし会ってみようかと思っている。娘馬鹿な父が結婚相手に選ぶ人ならば間違いはないだろう。イケメンのキャリア官僚と聞いているので多少興味もあった。キャリア官僚か、あのカッコイイ人みたいな感じかな。ほんの数日前、飲み会の後、電車でふらつき足を踏みつけた挙句ワイシャツに口紅迄つけてしまった彼は、なんと同じマンションの住人でその後何度か遭遇した上、間一髪のところを助けてもらったこともある。少し会話した際、彼も読書が好きで同じく宮沢賢治好きと聞いて好印象。そしてお見合いの日、両親と出向いた席には彼がいてビックリ。鮫川修平さんの階級は警視で年齢は31歳。イメージ通りに真面目な人で父のお気に入りらしい。恙無く見合いが終わると先方からまたお会いしたいと連絡があり、何度かデートを重ね二人は結婚。新居は彼が元々暮らしてた部屋がファミリータイプだったので、美保が移り住むことに。修平は仕事柄多忙で式の翌日には出張で数日留守にしたり、普段も帰宅が遅かったりもするが、自宅にいるときは美保を労い溺愛。無口な方なのでほとんど美保一人が喋っているようなものだが、興味深そうに耳を傾け、彼女の料理を褒めてくれる。本当に良い人と結婚した。あの無表情のせいで少々本心が判り難いのがネックだが、とにかく真面目で浮気の心配も無さそうだ。まぁ、政略結婚みたいなものだし、修平の出世に役立つなら何より。あれほど溺愛されていながら、美保は愛されている自覚が無く、修平の無口さも相俟ってお互いに後々まで誤解する羽目になるのだった。そんなある日、美保は街中で目の不自由な老婦人と派手な女との諍いに巻き込まれた。女の理不尽な言いがかりに腹が立ったが、後日思わぬ形で性悪女と再会。女は修平の大学の先輩で、同じくキャリア組の羽鳥といい、その頃から彼にあれこれしかけてはすっかり嫌われているのだそうだ。しかし、羽鳥はめげずに何かと構って来ていたので、海外交流でフランスに飛ばされた時は清々したと心底イヤそうに話す修平は、もう帰って来たのかとうんざりしていた。美人で成績も良いのに空気は読めない上に性格も悪い羽鳥は、警官になっても問題行動が多いらしい。でも、修平への態度はどう見ても意地悪とかじゃない。女の勘で美保は羽鳥の言動にヤキモキ。おまけに彼女からどうせ親がお偉いさんだから結婚したんだろうと痛い所を突かれ、悔しいと言うより悲しくなった。それは常々彼女を悩ませていることで・・・。感情が表情に現れにくい夫のせいで、誤解しまくりの美保。羽鳥の登場によってさらに二人の関係は引っ掻き回される羽目に。元カレの小野も別れてから彼女の良さが判ったのか、美保とよりを戻したいと強硬手段に出るも、修平に気付かれ大騒動へと発展。それでも美保はもう小野に気持ちが無いこと、今は修平を心から愛していると心中を告げると漸く身を引きます。この件で修平と少しギクシャクしてしまい、しつこい羽鳥から彼と離婚しろと迫られたり間男の次は間女の襲撃に二人はゲンナリ。ここで修平からきっぱりと昔から大嫌いだったと告げられてフラれた羽鳥は、以前トラブルを起こした老婦人にと偶然にも再び遭遇。性格の悪さが徒となり事件を起こして羽鳥は自らの将来を棒に振ることになるのでした。小野さんはまぁ許し難い事しかけたものの猛省した上、美保に許されてたからいいけど、羽鳥さんはもう救いようがない。キャリア官僚が器物破損に暴行とくれば報道されるレベルよな。マジでウザイ女だったけど、結構な報いを受けたようなのでこの展開には少し驚きました。そんなことになってるとは露知らず、修平と美保はお互いの本音を打ち明け合って誤解も解けて、今じゃすっかり仲睦まじい夫婦になって終わっています。この修平さん、先日感想を書いた「エリート自衛官に溺愛されてる・・・らしいです?」のヒーロー・鮫川康平さんの長兄に当たり、本編に出番はないけど弟夫婦のトラブル解決に手を貸してたりしてましたね。文庫版の書下ろしは相変わらず妻LOVEな修平目線のお話。評価:★★★★★
2024.02.25
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2024年1月刊レジーナ文庫著者:砂礫レキさん老人ばかりの村でたった一人の癒し手として診療所を営むリリアは、患者であるはずの村人から日々虐げられながら暮らしている。彼女の師である先代の癒し手に比べ、未熟者だからという理由で蔑まれ続けてきたのだ。そんなリリアのもとに、王都からお忍びで女騎士・ロザリエが訪ねてくる。彼女はある事情で癒し手を求め、この村までやってきたらしい。リリアの力が稀有なものだと見抜いたロザリエは、リリアを自分の専属としてスカウトし…… ↑楽天ブックスより、あらすじ引用登場人物 リリア=稀少な治癒能力を持つ「癒し手」だが、親代わりのエルシアが失踪し た後は村人から虐げられていた。 エルシア=規格外の癒しの力を持つリリアの養い親兼師匠。 アドニス=ロザニエの護衛騎士。 ロザリエ=王都からやって来た女騎士。 グラジオ=ロザニエの乳兄弟で護衛騎士。 ヴェイド=村長。とある事情から村民たちから軽視されていた。王都から遠く離れた小さな村に暮らすリリアは、癒しの力を持つ「癒し手」都ならばもてはやされたであろう、その力を持ちながらも彼女は村人たちからバカにされた挙句、タダ同然で治療させられていた。師匠で養い親でもあるエルシアと暮らしていた時は、彼らはリリアのことも敬い可愛がっていたのだが、10年前にエルシアが失踪して以来、扱いが180度変わってしまったのだ。それというのもエルシアは規格外の癒し手であったから。とにかく生きてさえいれば彼女はどんな怪我でも直すことが出来た。そんなエルシアを師とするリリアも実は相当な使い手なのだが、その差は歴然で遠く及ばない。不世出の癒し手の失踪は、彼女に依存し切っていた村人には受け入れがたい出来事だったのだろう。暫く経つと大した怪我でもないのにリリアの住む小屋を訪れては治療をさせ、その際に何かとケチをつけては彼女を罵倒し時には暴力を振るうように。リリアとてこの理不尽な扱いから逃げようとしたこともある。しかし、貴重な癒し手に逃げられては拙いと思ったのか、彼らはお前がいなくなったらこの小屋を燃やすと脅した。いつかエルシアは帰って来ると信じているリリアにとってその脅しは効果覿面。それに薬剤のレシピや今までに作った薬を失うわけにはいかない。結局、リリアは何処にも行けず、この地で飼い殺しにされ続けていたのだった。ある日、いつものように深夜近くまで治療させらていたリリアの元に、3人の客人がやって来た。騎士と思しき2人の青年に、ベールで顔を隠した若い女性。治療して欲しいうのは女性で、ベールを取ると顔を含めあちこちの皮膚が石化した鱗に侵食されていた。どこからも匙を投げられたらしい症状もリリアは治せると宣言。多少日数はかかるが効果のある薬があるのでと説明された女性と騎士2人は胸を撫で下ろしていた。女性はロザニエ・ルクスと名乗り、女騎士だという。青年達は金髪碧眼の方がアドニス、赤毛がグラジオ。ロザニエは伯爵令嬢でもあるためその護衛を務めているらしい。貴族と聞いて村長は彼らをもてなしたが、ロザニエはリリアの小屋で療養することを望んだ。同年代の女性とのおしゃべりは楽しく、笑顔も零れたけれど卑屈な性格は簡単には治らずおどおどしている彼女の様子に、3人はすぐリリアの事情に気付いた。彼女の癒しの力は王都で教会に囲われている聖女以上のものだ。本来ならこんな辺鄙な田舎で搾取されていい身分ではない。ロザニエは薬師としても優秀なリリアに自分の専属になってほしいと頼んだ。ここを離れられない理由を鑑みて本拠地はここでいいからと説得を続けると、リリアの気持ちも傾いてきた。実際、傍から見ても胸糞が悪いこの村に彼女を住まわせたくは無いのだが、ここで師匠を待ちたいと思う気持ちも判る。小屋に押しかけてリリアを恫喝し、手を挙げようとした中年男はグラジオが殴って黙らせたが、同じ頃、リリアの扱いについて真偽を確かめるため村長を呼びに行ったアドニスが、それ以上の悪意と向き合っていて・・・。エルシアという規格外な癒し手は、尊敬と共に一部の者には畏怖を抱かせる存在でした。現村長のヴェイドは後者の方。事故で全身複雑骨折で死にかけた息子のレストはエルシアに救われたものの、どうにも不気味に思えて見る見る回復した我が子を疎みます。それというのも癒し手ってそこまでできるのか?と疑ってしまったから。ヴェイドは目の前で実際に目にしていながらも実は息子は死んでいてこの子はどこかから連れて来た取り換え子なのではとバカな考えに陥り、村では珍しいエルシアアンチに。でも、最愛の妻がクマに襲われた時は彼女に縋ってるんですから、ホント自分勝手だなぁと。結局妻はほんの一歩の差で間に合わずに亡くなり、ヴェイドはエルシアを逆恨み。アンチを通りこして恨み全開で彼女を憎んでいました。その矢先に彼女の失踪事件だったので真っ先に村長が疑われたのも当然。以降疎まれ始めます。が、村長は金品で村人たちに媚びを売り始め、その怒りの矛先ががリリアに向くよう仕向けたのでした。真相を聞いたアドニスは激怒。彼は一途で優しいリリアに心惹かれており、彼女を傷つけたこの村にずっと怒りを覚えていたことから、突如魔物に変異した村長を倒します。村長の変異については色々彼にも自分勝手ながら事情があったんですが記載すると長くなるので割愛。エルシアが来たことで追いやられた薬師の娘・ミゼリの不幸など、ここの連中クズ過ぎて逆に笑えてきます。人間ここまで堕落するのか。善意からだったとはいえ、彼らを歪ませた責任はエルシアにもあってリリアは完全にとばっちり。それが当たり前だと思い込む彼らに改善の余地はなく、リリアもこれ以上期待することは止めて村を去ることを決意します。終盤エルシアも帰還し、あの突然の失踪の理由も語られたのですが、規格外って癒しの力だけじゃなかったのね、と色々予想外の展開でした。あと、リリアはアドニスと上手くいきそうなので、王都に行ってからは幸せになってほしい。書き下ろしの番外編は2本。エルシア目線で語られる自分の素性に関することと過去バナ、もう1本はリリアとアドニスの街中デートのお話。それはそうと、この本もタイトルと内容に結構なギャップが(^_^;)評価:★★★★★村人が本当にクソ野郎者どもだったけどお話自体は面白かったです。
2024.02.09
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2023年12月刊アルファポリス文庫著者:木村真理さん家では虐げられ、女学校では級友に遠巻きにされている初音。それは、異能を誇る西園寺侯爵家のなかで、初音だけが異能を持たない「無能」だからだ。妹と圧倒的な差がある自らの不遇な境遇に、初音は諦めさえ感じていた。そんなある日、藤の門からかくりよを統べる鬼神ーー高雄が現れて、初音の前に跪いた。「そなたこそ、俺の花嫁」突然求婚されとまどう初音だったが、優しくあまく接してくれる高雄に次第に心惹かれていって……。あやかしの統領と、彼を愛し彼に愛される花嫁の出会いの物語。 ↑楽天ブックスより、あらすじ引用登場人物 西園寺初音=侯爵家の長女。異能を持たないことから家族に虐げられていた。 高雄=鬼神。かくりよのあやかしの統領。東峰寺百合子=初音の級友。学校の女王様的存在。 西園寺華代=初音の1歳下の妹。 西園寺侯爵=初音と華代の父。舞台は明治、大正時代の日本に似た架空の国・大統国。異能を持つ四家のうちの一つである西園寺家の長女として産まれた初音は異能を持たず、家族から虐げられて育った。妹の華代が7歳の時に使役の力を発現させてからというもの父の愛情は妹だけに注がれ初音は放ったらかし。蝶よ花よと育てられた妹に比べ、離れのみすぼらしい部屋に住まわされている初音。あからさまな姉妹格差ぶりに我儘な性格に育った華代は姉を馬鹿にした。食事も家族と採ることも許されず食べるのは使用人たちと同じもの、着物は華代のお下がり。女学校には通わせてくれているが、級友たちからは「無能」ということで遠巻きにされる毎日。それでも学校の女王様的な存在で、同じく四家の一つ・東峰寺の娘の百合子だけは初音にも欠かさず挨拶をくれていた。そんなある日、女学校内にあるかくりよの門の藤棚が季節外れにも関わらず開花し、門が開いた。そしてそこから現れたのはかくりよを統べるあやあしの統領・高雄であった。この国では神にも等しい帝より、更に上の存在である原初の神と伝えられている鬼神の来訪に校内は騒然。高雄の気に圧倒されて皆が膝をつく中、その情景に呆気にとられつつも初音だけが立っている。高雄は彼女を見つめると「そなたこそが俺の花嫁だ」と告げるのだった。状況の呑み込めないながらも初音は自分は「無能」なので鬼神の花嫁など何かの間違いでは、と尋ねると高雄はこれだけ強大な力を持っていて「無能」なはずが無いと言う。しかし、よく見ると初音の力は何かに押さえつけられている状態のようだ。その理由は判らないが、かくりよに行けばそれも解けるだろうと彼女を連れて行こうとしたが、人界では嫁を貰う時に親に愛さるするものだと高雄の側近の一人・雪姫の助言により、西園寺侯爵に結婚の挨拶はすることになった。急遽呼ばれた父は高雄に対しても下種な態度で、華代に至っては「無能」な姉より自分こそが花嫁に相応しいのだと講釈を述べており、初音はこの浅ましい家族が恥ずかしくてしょうがない。とはいえ、帝も高雄と繋がりを持ちたいのかこの結婚を歓迎しているようなので、侯爵も立場上断ることなど出来ない。それならば精々結納金をぼったくろうという考えに変えたようだ。母は元々娘二人に興味が無いからどうでも良いと思っているだろう。唯一納得してないのが華代でいつまでも文句を言い、これ以上無いと言う縁談を掴んだ姉を妬んだ。この顔合わせで家族ともお別れかと思いきや、荷物を取りに教室に戻ると、気に圧されながらも百合子が高雄にせめて結納の儀くらいはしてやってくれと物申し、雪姫もそれも尤もと同意したことで急ごしらえだが三日後に正式な結納を執り行うことに。意図せず、三日の猶予を与えられ、その間に碌に自分の物を持っていない初音の為に雪姫たちが色々手を尽くしてくれて、百合子とその友人達を呼び、流行りの着物や髪型のレクチャーも受けた。初音にとっては級友たちとこんなにたくさん話したことも初めてで楽しいひと時だった。一方、高雄は側近の一人に命じて西園寺家の実情を探らせており、初音の力を抑え込むものの正体を知った。長年初音を虐げたクソみたいな家族で、華代に至ってはあの暴言の数々。いっそ消してやろうかと思ったが彼女から止められたので我慢しているのだ。そしてなんと心優しい娘よと惚れ直してもいたのだが。どちらにせよ、初音に付いている存在が共にかくりよにくればあの家の守りは消え破滅する。しかも、百合子からの報告によれば華代が初音の為に呼んだ級友を脅して大暴れしたらしい。初音に話すと消す必要はないが、お灸を据えてやって欲しいと頼まれ結納の時に沙汰を言い渡すことに決めた。帝にも了承済みだし、これで初音の憂いも晴れるはず。その頃、西園寺家は初音が高々二日不在だっただけで禍々しい気配に侵食されていて・・・。不遇ヒロインものです。「無能」と言われていた子が実は相当ハイパーな力の持ち主だった、ってのは割と王道なパターンですけど、このお話ではその発現シーンは無し。でも、この力は強すぎて彼女自身にも影響が出るため、とある存在がその力を抑えていました。この存在に関してはあまりネタバレしてもアレなので敢えて記載しません。どちらにせよ、侯爵がどクズだったせいで、西園寺家は被らなくていい呪いを受け侵食されてたわけで、後の華代のやらかしもこの影響のせいもあったのだろうと初音と高雄にも判ってました。とはいえ、そのやらかしは帝の身内も危険に晒す行為だったので、西園寺家はかなり重い罰を受けることに。母親の絹子さんもある意味被害者で、つくづく侯爵の過去の行いは許し難し。こうして、初音の報復は終わり、高尾に連れられかくりよに行って〆出会いの物語とあらすじにも記載されてるからシリーズものなんですかね?百合子さんとそのお友達二人も良いキャラしてたし、高雄の側近達も曲者揃い。この巻で終わるには少々勿体ない気が。ぶっちゃけヒロインが一番影が薄かったかも(苦笑)評価:★★★★☆
2023.12.30
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2023年6月刊アルファポリス文庫著者:朧月あきさんあやかしの帝である朱道と結婚し、幸せな日々を過ごしていた里穂。后としてあやかし界に貢献したいと考えた彼女は、恵まれない境遇の子供たちが生活するための施設・「育児舎」を作ることに。順調に運営をしていたある日、里穂は育児舎の前に幼い妖狐の子供が倒れているのを見つける。彼を保護した日から、彼女は不思議な夢を見るようになって…… ↑楽天ブックスより、あらすじ引用登場人物 花菱里穂=あやかしの帝・朱道の后。 朱道=里穂の夫。あやかしの帝で強大な力を持つ。百々塚涼介=代々あやかしを支える人間の一族の次期当主。 花菱煌=花菱家の跡取り。 樹=里穂に保護された妖狐の子供。シリーズ3作目です。朱道と結婚し、幸せな毎日を送る里穂。無事に高校も卒業し、彼の恥にならないよう后として自分に何ができるか模索していた。そんなある日、彼女は町で狸のあやかしの姉弟に出会う。孤児の彼らは日々食べるのも苦労していると聞き、心を痛める里穂。朱道が帝になってからというもの、大分治安は良くなったそうなのだが、先の戦で親たちを亡くした孤児は多い。屋敷で働く使用人たちの子供を世話している里穂は、現在路頭に迷う子供たちを保護できないかと考えた。だが、言うは易し。施設の運営には何かと金がかかる。里穂の一存では決められない。一先ず、朱道に相談してみると、お前の望みならと快諾。元旅籠だったという建物を改築すると、里穂は町にいた孤児たちを保護。あの狸のあやかしの長女・鈴音がしっかり者と判り、手伝いを依頼。朱道が寄越してくれた使用人の力を借り、育児舎の運営は始まった。忙しい毎日だったがこの活動が人々の耳に入り、寄付も多く寄せられかなり助かっている。しかし、想像以上に孤児は多く、大分手狭になって来た。早めに二棟目の建物を用意しなければ。余りの忙しさに屋敷に帰れない日も多く、朱道の機嫌が悪いらしい。さすがに拙いと思い始めていた頃、里穂は育児舎の前に行き倒れている妖狐の少年を保護。目覚めた彼は樹と名乗り、何故か最初からやけに里穂に懐き執着しており、しびれを切らせて妻に会いに来た朱道を牽制する始末。その夜、里穂は白い髪をした美しい男に抱かれる夢を見て、目を覚ました彼女は狼狽。まさか私って浮気願望でもあるの? さすがに内容が内容なだけに誰にも相談できないまま、幾度となく同じ夢を見る里穂。そんな折、朱道との仲を嫉妬した樹が施設を逃げ出した。そのまま人間界に迷い込み、里穂に恨みを持つ麗奈に捕まってしまうという騒動に。樹を人質に里穂に痛い目を見せようと企む麗奈達だったが、煌の機転によって彼女は難を逃れ、迎えに来た朱道はついに麗奈とその母に罰を与えた。煌にも過去結構虐められたが、以前謝罪もされていたし今回も助けてくれた。里穂は彼に花菱家の当主として生贄という悪習を正し、良き家にしてほしいと頼むのだった。思いがけないトラブルに巻き込まれたが、これで麗奈と義母との悪縁も切れた。少し肩の荷が下りた気はしていたものの、樹の里穂への執着は増すばかり。ある日、育児舎の様子を見に来た涼介と歩く彼女の姿を見て暴走した樹は本来の姿を現し・・・。樹の正体は実は300年前、この地を収めていた帝の生まれ変わりで、その后であった彩妃の生まれ変わりの里穂に執着していました。でも彼女は既に人妻。嫉妬に狂った先帝の妖狐は里穂を浚うも、探しに来た朱道に奪い返されます。彩妃の霊が後押ししてくれて彼は漸く自らが過ちを犯したと気付き妻の霊と共に成仏。樹も意識を取り戻して、育児舎でなく屋敷で預かることになって終わっています。妖狐さんが割といい人だったのと彷徨っていた夫の霊を見守っててくれた奥さんの霊によって、大ごとにはならなかったものの、それよりムカつくのは麗奈と義母でしょう。こいつらあんなに釘刺されててまだ恨み晴らそうと機を伺ってたのね。煌の方はとっくに改心して事を荒立てる気なんてなかったのに。姉と母のやらかしによって花菱家は大破し、地獄の監獄行きが決まった二人。相応の報いを受けたわけですが里穂の望むように煌が家の間違いを正してくれると思います。この子は1巻のラスト辺りから謝りたそうにしてたし、根は悪い子じゃなかったんでしょう。今後は大変だろうけど煌くんには頑張ってほしい。今回ラストで子供を欲しがってる風だった朱道と里穂のやり取りを見るに、このシリーズもまだもうちょっと続きそうですね。評価:★★★★★
2023.12.04
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2023年9月刊アルファポリス文庫著者:瀬戸呼春さん会社帰りに迷子の子だぬきを助けた縁で、“隠り世”のあやかし狸塚永之丞と結婚したOLの千登世。彼の正体は絶対に秘密だけれど、優しく愛情深い旦那さまと、魅惑のふわふわもふもふな尻尾に癒される新婚生活は、想像以上に幸せいっぱい。ところがある日、「先輩からたぬきの匂いがぷんぷんするんです!」と、突然後輩から詰め寄られて!? あやかし×人ーー異種族新米夫婦の、ほっこり秘密の結婚譚! ↑楽天ブックスより、あらすじ引用登場人物 狸塚千登世=ごく普通のOL。あやかしである永之丞とスピード婚をした。 狸塚永之丞=狸のあやかしで千登世の夫。人界では物書きの仕事をしている。 紺野美玖=千登世の後輩社員。異種族の二人の新婚生活を主にしたお話です。迷子の狸を助けたことで出会った永之丞と千登世。もふもふに目が無い千登世は彼のふさふさで大きな尻尾がお気に入りで、おまけに永之丞の作るご飯は本当に美味しい。ちょっと嫉妬深い面もあるけれど、穏やかな性格の彼と新婚生活を楽しむ千登世。自分の後輩がまさかの狐のあやかしで、猫又の彼氏との恋の悩みを相談されたりする中、気の好い者たちとしか付き合いの無かったあやかしの中にも、不幸を呼ぶ恐ろしい存在がいて、少しずつ隠り世のもう一つの一面を垣間見ることに。そして、終盤夫婦仲に亀裂が。出来の良い兄に長年コンプレックスを持っていた千登世が、永之丞の何気ない言葉に傷付いてしまい、何となく素直に接することができなくなったことからギクシャクしてしまいます。それが元でつい声を荒げてしまった彼女は自己嫌悪に陥り実家へ帰ってしまい、永之丞は茫然。まぁ、人間誰しも、これを言われたらキレる言葉があると思うのですが、そんなの事情を知らない彼にしてみれば予防しようもないわけで。そして永之丞も兄の様になんでもそつなくこなす天才肌だった。おかげで普段はしまい込んでたコンプレックス刺激されまくっちゃったんだねぇ。多分、千登世ちゃんは自分に期待しがちな人なのかなぁと。ぶっちゃけ傍から見るとめんどくさい性格してたわけですが、変なこだわりを持ち続けて永之丞と別れることになったらどうしよう。と思い直し、彼もまたこんなことで別れたくないと行動。最後は雨降って地固まるって感じで終わっています。あやかしものではあるんですが、特にその手のバトル展開は無し。夫婦喧嘩の件までは割と緩い展開でサクサク読めるので、異種族婚系がお好きな方におススメです。因みに「狸塚」は<まみづか>と読むそうで、流石に一発変換では出ませんでした。評価:★★★★★
2023.10.19
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2022年7月刊アルファポリス文庫著者:朧月あきさんあやかしの帝である朱道と結ばれ、幸せな毎日を過ごしていた里穂。だが、ある日、ひとりのあやかしの女性と出会う。そのあやかしは遠い昔に人間の男と結婚し、種族の寿命差によって一人取り残されてしまったのだ。--自分が死んだあと、朱道は、どうなってしまうのだろう。彼の幸せを考えた里穂は、自ら朱道に別れを告げたが、実は二人の別れは、ある人物によって仕組まれたものでーー ↑楽天ブックスより、あらすじ引用登場人物 里穂=あやかしに生贄として捧げられた女子高生。 紆余曲折を経て、朱道の婚約者となる。 朱道=あやかしの帝百々塚涼介=代々あやかしに仕える百々塚家の御曹司。 雪成=朱道の側近。結局気になって1巻を読み終わった後、すぐに2巻も購入。おそらくこれで完結かと。(と言いつつ、3巻以降も出たりして)朱道と婚約を果たし、麗奈が転校してからと言うもの学校も楽しく、正に充実した毎日を送っていた里穂。あと数カ月もすれば婚礼の儀式があり、彼女は正式に妃となる。しかし、ここ最近はどうにも体調不良でしんどい。友だちも増えたし、朱道からは溺愛されて幸せなのに、この不調の原因が判っているだけに気を遣わせてしまいそうで口に出しにくい。里穂は、ある異能力をもっており、人間故にその返りが凄まじい。おかげで寝込むこともままあった。そんなある日、御殿周りの村にてあやかしの子供たちの行方不明事件が頻発。とうとう朱道が出張ることになった。朱道が不在になってすぐ、またしても里穂は体調を崩して昏倒。そんな彼女を介抱したのは、たまたま迎えの任を引き継いだ百々塚家の跡取り・涼介だった。この百々塚家の先祖はあやかしの女を嫁に迎え入れた一族で、直系はその血を引いている。涼介にも異能力があるらしく、里穂は彼に親近感を持つが、彼から百々塚に嫁いだあやかしがまだ存命していること、人間との寿命の違いは互いを傷つけるだけと聞かされ衝撃を受ける。朱道といくら愛し合っていても、いつか自分は彼を置いて死んでしまう。思い悩む里穂を、調査から戻った朱道は気遣っていたが、暫くして昨今の誘拐事件は人間の仕業という噂が流れ、同じく人間である里穂まで悪し様に言われ始めた。仲良くしていた御殿内の使用人たちにまで冷たい態度を取られ、寿命の違いについての悩みも相俟って、彼女は朱道の元から去る決意をして・・・。見るからに怪しいのが、今作から登場した新キャラ。彼にも色々事情があって、燻っていた感情に火をつけたのが1巻のラスボスだったのです。でもその前ラスボスは再び封じられたことから、以降彼は独断で動き、里穂を手に入れるべく策を練ります。里穂も丁度思い悩んでた時だったのでまんまと引っ掛かったという。寿命云々は、異種族同士の恋に立ち塞がる永遠の壁みたいなもので、これに限ってはホント、どうしようもないもんね。とはいえ、里穂の素性もちょっと謎なんですよね。今回若干触れられていた施設に引き取られた経緯とか。そして、転生ネタも仕込まれてたし、もしかして続刊あるのかな。(1年くらい出てないので、2巻で完結だとは思うけど)何があっても二人の仲は引き裂けない、某有名アニメ的な展開の後、誘拐事件も解決。それから暫く経って、ついに朱道と里穂が祝言を挙げて終わっています。大団円って感じのラストだったのもあり、里穂の素性も気になるけれど、続きがあるならまた辛いトラブルが起こりそうなだけに、これで終わっていて欲しい感はあります。評価:★★★★★
2023.06.05
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2021年10月刊アルファポリス文庫著者:朧月あきさん天涯孤独で養護施設で育った里穂。ある日、名門・花菱家に養女として引き取られるも、そこで待っていたのは、周囲の皆から虐めを受ける過酷な日々だった。そして十七歳の誕生日、里穂はあやかしの「生贄」となるよう養父から告げられる。だが、絶望する里穂に、迎えに来たあやかしは告げた。里穂は「生贄」ではなく、あやかしの帝の「花嫁」になるのだとーー。あやかし和風・シンデレラストーリー、ここに開幕! ↑楽天ブックスより、あらすじ引用登場人物 花菱里穂=名家・花菱家に引き取られた養女。 朱道=あやかしの帝。 雪成=朱道の従者。 花菱麗奈=花菱家の長女。 花菱煌=花菱家の長男で、麗奈の双子の弟。大名の血を引く名家・花菱家に養女として引き取られた里穂。天涯孤独だった彼女はそれまで施設で育ち、漸く家族が出来たと思ったら長女の麗奈と義母に虐められる日々。麗奈は清楚な美貌を持つ里穂が気に入らないのか、学校でも根も葉もない悪評を擦り付けて里穂を貶め、そんな最低女は痛めつけられてもいいはずと麗奈の取り巻き達まで虐めに加わる始末。長男の煌は外面は良いものの、影で里穂に暴力を振るい、里穂の味方は彼女を養女に迎えてくれた義父と親友の亜香里のみ。義父は仕事が忙しく、滅多に会えないが誕生日になるとちょっとした贈り物を寄越し、その日ばかりは家にいて優しい言葉を掛けてくれていた。里穂にとって、義父は恩人であり大好きな人であった。もうすぐ誕生日、義父に会える日。いつものように学校では手酷い虐めにはあったものの、楽しみな気持ちが勝っていた里穂であったが、その日、彼女は義父から衝撃的な命令を受けた。麗奈の代わりに、生贄になってくれないかと。その昔、あやかしが人間界に蔓延り悪さをしていた。その状況を憂えた花菱家の当主は、あやかしの帝を説得し、ある条約を結んだ。人間界での悪行を禁じる代わりに、100年に一度花菱家の女を生贄として捧げると。以降、あやかしによる人間への蛮行は無くなったのだと言う。そして、今年、その生贄を捧げなければならない。本来なら麗奈がその役目を担わなければならないのだが、当然可愛い我が子を捧げるつもりなどない。大事な約定だというのに、義父はそれを破るつもりなのだ。かくて、麗奈の代わりに同い年の里穂を養女に迎え、身代わりに仕立てようという算段だった。義父の本音を知り、内心裏切られた気持ちに苛まれた里穂だったが、命令に従うしか道はない。指定された祠を通ると、そこはあやかしの国で、雪成と名乗るあやかしが迎えに来ていた。自分は早々に帝に食われると覚悟していたものの、いざ、帝の朱道に対面すると、それが思い違いであると判った。帝の花嫁。それが本来の花菱家から送られた女たちの役目であったのだ。当初、朱道は里穂に興味を持たず、早々に追い返される所であったが、既に帰る場所の無い彼女が必死に頼み込み、屋敷に置いてもらえることとなった。そこでも色々悶着もあったけれど、朱道の誤解も解けて妃扱いをされるようになってからは待遇もよくなり、穏やかな日々を送れるように。朱道の態度も軟化し、アレコレ心を砕いてくれるようになった頃、何かと虐めから庇ってくれていた親友の現状が気になり、人間界に帰りたいと溢してしまう里穂。彼女の心をくみ、あやかしの息がかかった花菱家以上の名家・百々塚家に彼女を住まわせ、復学させてやると、麗奈に生贄の真実がバレ、自分こそが帝の妻に相応しいのだと、里穂との成り代わりを画策し・・・。花菱家の面々がもうクズばかり。頂点が両親なのは当然なれど、この親にしてこの子ありってことで、特に麗奈は救いようがない。でも、当然そんなこと朱道が許すはずがなく、花菱家に手痛い罰を与えます。そもそも、あの約定も一方通行なわけないじゃんね。あやかしにばかり禁止してると思い込んでたのが、花菱家の愚かな所で。とはいえ、約束事も時が経てば伝承も色々誤った伝えられかたされるものなんですね。クライマックスでは、里穂の秘められた能力も判明し、一人難を逃れた煌の反応が、もしかして好きな子ほど虐めちゃう的な?な感じで、若干続編を示唆した風に終わってます。まぁ、続編自体発売されてるので、その通りでしたね。評価:★★★★★
2023.05.30
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2022年2月刊ノーチェブックス著者:砂城さんわがままな姉に代わり、辺境の騎士のもとに嫁いだリリアン。彼はリリアンを追い返しはしないものの、彼女が気に入らない様子。初夜の床で「俺の愛を求めないでほしい」と言われてしまう。それでも、これまで虐げられていたリリアンは、自分を家に受け入れてくれたユーグに尽くそうと奮闘する。その姿に、彼はリリアンと真摯に向き合おうと決意。自分の心の傷をさらけ出し、彼女に愛を乞うようになる。冷たかった態度は急変し、熱くとろけるような彼の執愛にリリアンは心も体も蕩かされ…… ↑楽天ブックスより、あらすじ引用登場人物 リリアン=侯爵令嬢。異母姉の代わりにユーグに嫁いだ。 ユーグ=辺境伯家の跡取り。とある事情により人間不信となる。パトリシア=ユーグの幼馴染で治療師。積読本を減らそうシリーズで、身代わり花嫁ものです。タイトルやあらすじでは、夫に溺愛されて不遇ヒロインが初めての幸せを味わう、的な内容に見えるでしょうが、そういう展開になるのは、本当に最後の方。不器用なヒーローとヒロインが愛し愛される夫婦になるまでのお話となっています。マチス侯爵家の二女・リリアンは、第二夫人の娘と言うことで、実母亡き後は侯爵夫人に虐げられて育った。使用人同然の扱いを受け続け、挙句の果て異母姉の代わりに嫁がされる羽目になり、結婚相手のいる辺境伯領ラファージュへと一人赴いた。夫となるユーグは先の戦争にて大けがを負ったことから、左足に障害が残り顔にも目立つ傷があった。そのせいか、どこかとっつきにくい印象の青年である。約束事を違えたマチス家側は批難されても文句は言えない立場なれど、辺境伯夫妻はリリアンを責めることなく、歓迎してくれた。特に夫人はリリアンを気に入り心を砕いてくれたものの、問題はユーグの態度だ。「愛を求めないでくれ」ときっぱり言われてしまっては取りつく島も無い。それでも、夫として誠意は見せるという言葉を信じ、次期辺境伯夫人としての勉強を始めるリリアン。実家では慎ましく生きて来た彼女には、領主の妻として経済を回すことも重要と諭されるも、自分に振り分けられた予算をどう使っていいか頭を悩ませていた。それに未だに歩み寄れないユーグとのことも。だがある日、ユーグは賊と遭遇し右足を負傷。その担当治癒師として、邸にやって来た彼の幼馴染だというパトリシアと彼とのやり取りで、リリアンが二人の仲を勘違いし・・・。とにかく、ユーグの態度が煮え切れなくて読んでて本当にイライラしました。マジで、いつになったらリリアンは執愛されるの?と(苦笑)ユーグが頑ななのは実は理由があって、それが人間不信へと繋がり、良い子だとは思うものの、リリアンに対して心を開けなかったって感じなんですけど、本人も自覚があった通り、甘えなんだよなぁ。碌に理由も言わないくせに、察してくれオーラだけ出してるって狡いですよ。そんな態度だから、妻から別居を切り出されちゃったりする。でも、ギリギリのところで思い止まり、お互いに態度を改め夫婦としてやり直すことを決めた二人。その間、リリアンも必死に学び、領地に湧き出る温泉を利用し、湯治を考案。ユーグの足の治療だけでなく、将来的に領地の発展にも役立つという貢献を果たしたのでした。最後の方でしたが、あれこれ上手く行ってなにより。それにしても身代わり花嫁ものとしては、実家の面々が何かしらザマァされるのかと思いきや、特に何もなく終わってたのが意外。評価:★★★★☆
2023.05.20
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