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海賊とよばれた男 百田尚樹 2012年 出光佐三だそうだ。 石油の有用性に信念を持ち事業化に成功した偉人伝。既成業界、官僚支配、世界大資本を乗り越えて、信念と合理性と公徳心を貫き通した傑人。数々の試練と克服する意気に溢れた武勇伝は感動的です。 基本となる価値観は、大地域小売りモデルの実現、搾取の排除、黄金の奴隷となるなかれとの商い規範、共に乞食となろうとの意気上がる潔い仲間、家族主義、教育と壮絶な仕事振り、士魂商才社員、人間尊重と反骨などで、こうした精神性が、石油メジャー、イラン、英国、石油連盟、通産省相手にいかんなく発揮され、石油事業を社会に貢献させていく姿は、清廉で祖国愛、人類愛に溢れている。 戦争が石油を求めて始まり、石油がなくなって終わる。戦後の復興の格闘も石油で始まり、石油で支えられたと作者は言うが、これが日本の宿命、呪縛なのか。綻びゆくアメリカ ジョージ・パッカー 2013年 - ディーン・プライス - ノースカロライナの220号線沿いは大規模に地域経済が崩壊してしまったらしい。大量生産・大型量販・フランチャイズ小売りにより地域の循環型経済・社会が失われてしまったと作者は観察している。 その中で地元への還流産業モデルの実現を目指す起業家の浮沈が描かれている。バイオディーゼル燃料の事業化により、原材料生産として農業を復権させ、自家精製し、地域流通させ、廃油リサイクルするモデルで、地域から価値が流出してしまうのを防ごうとの試みだが、石油大資本との競争であり、商業ラインは遠く苦戦。成功を暗示しきれていない状況で本書では終章となる。 アメリカの地域循環経済の崩壊とは、製造業の域外海外への移転、失業、治安悪化、人口流出、コミュニティー崩壊、中間層の減少、富の二極化といった悪循環で、その渦に追い込まれる市民が現実化しているらしい。 9月16日の日経によるとアメリカは今年上期、エネルギー関連輸出が140億ドル増え、輸入は105億ドル減り、石油の自立が確立できたらしい。寺島実郎も米国景気は好調で石油の自給が確立され転換期を迎えたと評していた。地域循環社会は消え失せ、大資本大規模生産、低価格大規模流通、低賃金単純労働社会が徹底されていくのだろうか。勁草の人 高杉良 2014年 中山素平の年代記。疾風勁草の人として産業振興、国際協調、企業支援の姿勢を貫いた中山素平の躍動が活写されている。 冒頭は、国策としての石油会社の設立、合併推進、サウジアラビアとの関係構築などに尽力する姿が描かれている。石油の確保のために、政、官、財、銀行が腐心し、石油会社を育てていく時代が描かれる。海賊とよばれた男の対極に位置する話となるが、国策としての石油確保、供給に銀行が産業振興の立場で推進した物語で、こちらも意気あがる大義のある話になっているが、石油が日本の死活を握る現実はあまりに重い。 当時、タンカー業者、自動車販売会社までが、石油の海外調達の起業に進出していたのには驚く。平和になっても石油は経済戦争の火種となり、また、中東では、石油で苛烈な戦争となる状況にかわりはなく、リスク覚悟の海外投資に取り組む銀行、産業界は勇ましくもあるが、資源貧国がやるせなくもある。その中では勁草の人しか正しい事業展開はできないと証明しているのだろう。
Sep 30, 2014
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高熱隧道 吉村昭 1967年 黒部第三発電所の第三ダム建設用の資材運搬用軌道トンネル、水路用トンネルの削岩工事の苛烈記録。 昭和11年に軍国主義、全体主義に変質しかける民族意識を背景に、関西での軍需産業電力の確保に向けて国家目的完遂の号令の下、新聞社が煽りきる異常な雰囲気の中で、技術者と労働者と切羽を仕切る人足頭が高賃金のみを支えに同床異夢の生死を賭けた格闘を繰り広げ、犠牲者延3百名を超えながら、最期には完工成就させた記録。 貫通が近づく程激しさを増して行く人足達の狂ったような奮闘と、遂になしえた時の狂喜の爆発に、高密度に練り込まれた暴発寸前の怨念を自らの心の中から恐怖して、暗い長い坑道を足早に山麓に向かって急ぎ出す技師、人足頭の怯えが、読んでる幸せな者に冷たく響きます。 恩讐の彼方の会得とは全く違う、貫通完成による恩讐の爆発、勝者なき成功を仕上げきる人間集団の所業記録と思います。まさに戦争です。死の淵を見た男 門田隆将 2012年 福島第一原子力発電所を冷却し東日本の壊滅を生死をかけて回避させた電力人たちの奮闘記録。責めるべきは、通商産業省、土木学会、原子力学者、原子力発電製造業者、歴代与党、新聞社、そして最大責任の東京電力歴代経営者と歴代技術者達。歯止めを誰もかけず、気づかず、気づいても自ら拾わず、状況に短絡してきたことがよくわかる。なおさら、絶命危機に立ち向かった現場の使命感と成し遂げた成果は尊い。 高熱隧道を完成させた人々と何か似たようなやるせないものを感じます。電力と震災 町田徹 2014年 東京電力福島第一原発と同じ規模の津波を受けたのになぜ東北電力の女川原子力発電所は事故をおこさなかったのかがよくわかりました。東北電力の経営者が正しい原子力発電所を建築していたからだということがよくわかります。 正しい企業判断ができた企業風土の源流の説明には、東北振興電力として地域のためを理念に発足したことが説明され、企業理念の形成には、松永安左エ門、白洲次郎も登場し、驚きますが、震災回避できた最大功労者は、1968年に海抜15メートルへの設置を意見具申した平井弥之助とそれをいれた経営者にあるそうです。郷土愛が真摯な技術的結論に信念を持たせ、短絡収益思考に勝ったのだと思いました。 新潟県知事は、東京電力の新潟刈羽原子力発電所が再稼働するには、東北電力が運転するのであるならば検討できると言ったそうです。 東北電力は、震災後にIAEAの立ち入り調査を自らの発案で招き、外国の調査員にオープンに丁寧に説明し、成功事例として開示できたとの記事を読んだことがありましたが、この本をよんで、東北電力では、理念が脈々と受け継がれているんだなと思いました。
Sep 29, 2014
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綻びゆくアメリカ ジョージ・パッカー 2013年 ジェイミー・オリバーの食育キャンペーンの放送を見て、大量生産されるジャンクフードに支配されたアメリカの家庭料理、調理とは名ばかりの冷凍食品料理、まさに食環境の崩壊に驚いたことがあるが、この本では、地域社会、地域産業・経済、地方政治、農村循環経済が、ジャンクフード、安い衣服に代表される大量生産の低価格製品に支配され、人々は低賃金・低価格商品大量消費生活に追い込まれ、生活水準を変えられない姿が描かれている。中央政治への期待と腐敗と現実、各種再生・循環社会への取組などが描かれるが、成功の事例は少なく、取組中の姿を描写して本書は終わる。 片や、サム・ウォルトンは、ウォルマートを一代で築き、下層30%の人たちの資産に匹敵する資産を一族に形成した勝者で、気のいい家族的経営手腕が持ち味とされるが、地方商店地域に狙いを定めて進出し、とってかわり、地域循環経済を崩壊させ、低賃金・低価格・大量消費の構造を作り上げた象徴としている。 その頂点が、金融と絶対まけることのない互いにつるんだエスタブリッシュメント達と描ききる。 ジェフ・コノートンは、ジョーバイデンから、ビル・クリントンまでに仕え、ホワイトハウススタッフを経験したロビイストで、ロビイスト時代に財を成したが、リーマンショックで投資に失敗した経験をしている。その後、カウフマン上院議員のスタッフとして金融改革、金融界の訴追に挑むも、エスタブリッシュメントに敗れ、回顧録執筆の隠遁生活に入った人物だそうだ。南部人の一部の良心が最後には残ったらしい。 期待されたオバマは妥協し、エスタブリッシュメント側に立つ。政治家の俗物振り、ロビイストの強欲、バイデンの疑問多き人格などが指弾され、リーマンショックを起こしても誰一人訴追されないエスタブリッシュメント達は、絶対に負けないつるんだ輩であると断言する。
Sep 26, 2014
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紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 佐々涼子 2014年 震災からの復興を成し遂げる日本製紙石巻工場の関係者、支援者、地域の奮闘と製紙への責任感、愛情に頭が下がります。本の感触を楽しむようになりました。一丸にさせた人、一丸になれる人、きれいごとではすまない行動に及ぶ人などもきちっと記録され、成し遂げられた工場の再開、つながれた紙がますます尊く思えます。舟を編む 三浦しをん 2011年 辞書づくりの小説ですが、十年以上にわたる根気、熱意と製品化する努力・探究・品質追求の姿勢を表現していて、実証的な雰囲気が感じられます。ぬめりの話は石巻工場の紙の性能・風合いの職人芸とかぶり、思わず手許の辞典の感触を確かめました。映画も上手にできていました。
Sep 26, 2014
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零式戦闘機 吉村昭 1966年 性能要求、設計、試作、試験、製造、実戦、終焉までの実録。目標性能実現への努力、創意、成功の歓喜、戦果の短命、戦略・戦術の欠陥、最期、これらが克明に機体を通じて描かれ、関わる人々の実像が迫ってきた。事跡の記述の積み重ねが悲劇の密度を上げていき、統帥・戦略に技術が握られる恐ろしさに悲しみがこみあげる。永遠のゼロ 百田尚樹 2006年 組織の権力者の保身、狭隘な戦略、扇動新聞社、抑圧思考、観念の横暴が断罪され、利用され犠牲にされた親兄弟姉妹同胞愛・誠実で高貴な精神がもの悲しい。虹の翼 吉村昭 1980年 二宮忠八による世界に先駆けた飛行原理の探求と実証成果を陸軍は幾度も認めず、発明の芽を摘み、革新の機会をみすみす逃してしまう日本と、従来からすると奇なる事柄にも目をとめ、投資して競いあい実用化する米欧社会が好対照。推定脅威 未須本有生 2014年 戦闘機の設計、開発、製造、運用を舞台に組織で勝ち残る人と組織に抗う人との間の復讐と連帯の推理小説。松本清張賞受賞。清張の魅力は、情念、悲哀が読者も共感させられるかのように復讐・犯罪に結実してしまう事であるが、この本は趣が違い、固い技術開発組織の枠を超えた連帯が痛快に展開する娯楽小説。JAL再建の真実 町田徹 2012年 「沈まぬ太陽」と同じような経営者、労使関係、政・官との関係がまだあったことがよくわかる。やっと普通になったということがよくわかる。事業戦略の勝利とはほど遠い、矯正であったようだ。
Sep 25, 2014
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