マックス爺のエッセイ風日記

マックス爺のエッセイ風日記

2019.03.08
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カテゴリ: 読書
~維新前夜を読み解く~



 司馬遼太郎著『竜馬がゆく』全8巻文春文庫を読了した。4か月もかかったが、全く飽きることはなかった。この原作を元にした大河ドラマも放送された頃、私は別な歴史小説を読んでいた。いずれも埼玉県のブロ友Cさんから譲ってもらったものだ。それをなぜ今頃になって読んだのかは触れないが、やはり今で良かったと感じた。本の内容を受け入れるだけの素養がようやく備わっていたと思うからだ。

  大黒屋光(幸)太夫(左)

 元々日本の古代史や考古学関係の専門書ばかり読んでいた私が幕末期に魅せられたのは、吉村昭著の『大黒屋光太夫』を読んでから。伊勢国白子(現在の鈴鹿市)の船頭であった光太夫の乗った廻船が、難破して漂着した先がロシアのアリューシャン列島。帝都サンクトペテルブルクの女帝エカテリーナに日本への帰国を願い出、根室に帰るまでの10年間の苦労と当時の国際情勢が手に取るように分かった。

      楠本イネと娘高子  

 日本初の女医、楠本イネの生涯を描いた吉村昭の『ふぉん・しいほるとの娘』も名著だった。日本への研究心に満ちたシーボルトの実態。日本人妻お滝との間に生まれたイネ。外国勢に開国を迫られる幕末日本の動転ぶりと各藩の動き。その中でのシーボルトの国禁騒動と追放。唯一外国に開かれた港町長崎の姿。女医イネの誕生と苦労。イネの成長を通じて幕末と明治の日本、そして国際状況が学べた。



 イギリスの外交官で後に枢密顧問官となったアーネスト・サトウの著『一外交官が見た明治維新』が実に秀逸。彼は幕末期の日本と日本人を冷静な目で観察していた。日本語を理解して候文も書け、各藩の主要人物と交わり、「生麦事件」にも遭遇。『竜馬がゆく』では2人が2度出会ったと書かれているが、実際はどうだったのだろう。明治には駐日公使として来日し、近代日本をつぶさに見ている。



 歴史小説は歴史そのものではないが、歴史の一面は捉えている。迫り来る先進国の脅威と各藩の激しい動き。竜馬の脱藩からその死に至るまで、動乱の日本が余すところなく描かれた小説だった。原作は昭和37年から41年にかけて産経新聞夕刊に連載された。これによって竜馬の考え方と生きざまが、あまねく世に認知されたようだ。大河ドラマの脚本もこれに拠ったようだ。



 激しく変動する日本と諸外国の動静。慌てふためく各藩の対応。元寇などそれまでも国難はあったが、過去最大の国難が日本に迫っていた。水戸藩、土佐藩、長州藩などでは藩士同士が殺し合い、薩摩と長州では外国船を砲撃して戦争にもなった。それ以前の啓蒙思想家に対する厳罰と安政の大獄。そして戊辰戦争で国内が真っ二つに割れ、新政府誕生後も西南の役などの混乱。(写真は左から岩倉具視、西郷隆盛、大久保利通、高杉晋作)



 大城立裕の『小説琉球処分』にはペリーの黒船来航と沖縄が日本に組み込まれる過程が描かれている。だがそこには列強の侵略を乗り切った「内地」の苦難と流血は存在しない。国際認識が違っていたし人物もいなかった。それは現在も同様に思える。島の利益だけ考えていたら、いつかとんでもない事態を迎えるのではないか。『竜馬がゆく』は独創力、判断力と、先を見る目の大切さを教えてくれたように思う。





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Last updated  2019.03.08 00:00:24
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