うたのおけいこ 短歌の領分

うたのおけいこ 短歌の領分

2008年10月16日
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20世紀以降、つねにグローバル経済の前衛(ヴァンガード)として振る舞ってきた超大国アメリカが、このたび大失態の自爆の形で脆くも崩れ去ったことは、短中期的に全世界に深刻な影響と懸念をもたらさずには置かないだろう。

今、何が起こっているのか、無い知恵をしぼって僕なりに考えてみたい。

省みれば、アメリカの相対的な力と地位の低下は、戦後一貫して進行してきたと考えられる。
その典型的なメルクマールは、戦争遂行能力である。

第二次世界大戦では、ナチス・ドイツおよび大日本帝国という2大強敵を相手に回して、イギリス・ソ連などの助太刀もあったが、最悪の場合挟み撃ちの危険もある2正面作戦を敢行し、ノルマンディ上陸作戦や硫黄島など個々の戦闘では苦戦もあったが、最終的には完膚なきまでに相手を叩き潰す圧勝だった。

僕たちが、その叩き潰された方の辛酸を知っていることは言うまでもない。国が滅んでしまった。

戦後になってやっと封切られた、戦前の“総天然色”アメリカ映画「風と共に去りぬ」や「白雪姫」などを見て、ああ、こんな凄い映画を作る国と戦争して勝てるわけがなかったと、日本の全ての男たちは思った、・・・と、あらゆる映画史の本に書いてある。

アメリカに全ての希望があった、とさえ思われた時期である。

ちなみに、海軍首脳部のエリートたちは、すでに戦前に外地で「風と共に去りぬ」を見ており、この戦争に勝ち目がないことを知っていたと伝えられる。
それならそうと、ど~してもっと早く言わないのっって、今さらあとの祭りか。

その後、ほとんど引き続き行なわれた朝鮮戦争では、金日成(キム・イルソン)の共産主義による朝鮮統一の野望で戦端が開かれ、受けて立ったアメリカは、当時のソ連および共産主義中国の後ろ盾による代理戦争の中で、相当いいところまで攻め込んだが、結局は水入りのドローが精一杯だった。

その結果による北朝鮮の存在と38度線は、今も人類のお荷物となって、ご存知の通り日々新た、我々を悩ませているのである。

ベトナムでは、やはり同じようにソ連のバックアップがある代理戦争だったとはいえ、今度は泥沼の敗退。

現在も、イラク一国を相手に四苦八苦中である。

このように、徐々に、しかし顕著に国力は落ちて来ていたのだが、今回の事態は、ついにそれらのごまかしが利かなくなって、経済のメカニズムの中で、それが劇的に表現されたものということも出来よう。

顔面蒼白、蒼ざめた馬を見よ、である。

アメリカはこれまで、破壊と創造の重厚長大型製造業からサービス業立国への転換(ITもその一つといえる)に世界で最も早く成功し、さらにこれらを“原始蓄積”の原資として、「金融立国」へのシフトを強めていた矢先の大事故であった。

ご承知の通り、ハイリスク・ハイリターンのサブプライム(低所得層向け)ローンの証券化、およびリスク分散化としての他の証券との複雑な抱き合わせ販売などという、頭脳アクロバット的なマネーゲームで、世界の貨幣(マネー)を一身に掻き集めてきた。

どこまで本当か知らないが、これらの金融派生商品開発の最前線は、ITやバイオテクノロジーの最先端部分と同様、MIT(マサチューセッツ工科大)卒あたりのIQ200なんて連中が、統計学などを駆使しつつ当たっているという噂も聞く。

こちとら十人並みの脳味噌の凡人に詳しく説明しろと言われても、はなから無理な注文である。

アメリカの金融機関従事者は、全労働者の5%程度であるという。
それが、近年ではマネー総量の実に40%を動かして来たという。

意図はどうあれ、マネーゲーム、うたかたのバブルだったと言わざるを得ないだろう。

このうち何ポイント、何10ポイントが消失したのか、専門家でもない僕には分からないが、相当なことになってしまっている危惧も多分にある。

いやしくも一国のマクロ経済に関する指標で、何10ポイントの減少なんていうのは、人間にたとえていえば、大量出血の瀕死の重体のようなものだと言っていいだろう。

大量輸血(公的資本の注入)と止血(不良資産の処理)しか、根本的な治療方はない。

アメリカって国は本当に変な国で、こういうベスト&ブライテストな秀才連中が、いろんな分野で時々大きな誤謬をやらかして来た。

苛烈な資本主義社会の中で、自分を見失ってしまう(自己疎外を惹起する)のか、自分に酔ってしまう(ナルシシズムが作動する)のかは不明だが、結果として経済という巨大な怪物レヴィアタン(リヴァイアサン)の餌食になってきたのが、これまでのSTORYのあらすじであった。

サブプライムローン一つ取ってみても、世界のどこの金融機関にどのぐらいばらまかれ滞留しているのか、ほとんどトレース不可能だという。
食品業界で叫ばれているトレーサビリティ(追跡可能性)のかけらもない。

当然、銀行同士の疑心暗鬼による“流動性の流失”が起こっている。経済の血液である、貨幣(マネー)が流れていないのだ。

しかしまあ、この点は、各国協調しての必死の公的資金の資本注入オペレーションを待つほかはないし、ある程度の効果は見込めるであろう。

問題は、すでに第2ステージに移りつつある。
実体経済というステージである。

特にアメリカ、ついでヨーロッパのリアルな経済だ。

「信用収縮」という言葉がよく使われているが、これはやや品格がありすぎる表現ではあるまいか。
「信用崩壊」ぐらいにいう方が、事実に即しているのではないか。
そのぐらいのインパクトである。

他方では、“ドル本位制”の崩壊とも言われている。

外需(輸出)頼みの日本経済にとっても、考えれば考えるほどお先真っ暗という感じがする。

これからたぶん数年間は、実体経済の縮小均衡への過程である。
言い換えれば、縮小再生産の収束点の追求である。

これと就かず離れず、自己の論理で上下する株式市場は、本日も再び大暴落し、乱高下を繰り返している。

今日の下落は、直接にはアメリカの小売り統計の悪化による実体経済への市場の懸念が原因であるが、背景には、特にアメリカ政府の対処方針に今ひとつ具体性と徹底性が見えないことへの、市場の激しい苛立ちと、強迫に近いような督促が表現されている。
そういう意味では、権力は市場にある。

まあ、デイトレーダーなどの投資家でもなければ、日々の株式市況に一喜一憂するには及ばないと思うが、これがひとまず沈静化を見るだけでも今年一杯、本格的な均衡点に達するまでには数年かかるだろうと囁かれている。

ただ、この数年間を油断なく、何とか持ちこたることが出来れば、その先には、あわれ零落し老いさらばえ疲弊したアメリカの姿と、相対的に威信を増した日本とヨーロッパ(EU)の巨姿が浮かび上がるのも事実であり、歴史と言うものの残酷な一面をも浮かび上がらせるであろう。

日本の信用秩序は比較的健全である。今、モーニング娘。の歌詞と別の意味で、世界がうらやんでいる。
「貯蓄から投資へ」のスローガンが掛け声倒れで、実際は個人の金融資産がそれほど証券・株式に注ぎ込まれていなかったというシニカルな事実が、日本を救っているともいえる。

ただ、輸出産業は大きな痛手をこうむる。トヨタ、ソニー、社名を変更したばかりのパナソニックなどの業績が本当に心配される。

財政出動の必要性は問答無用であろう。

今は緊急事態である。
財源は、赤字国債発行に踏み込むことも、むろん好ましくはないことだが、タイムテーブルに乗ってくるのは避けられまい。

さらに事態の深刻化によっては、「ケインズ経済学」の出番となるかも知れない。

1929年の世界恐慌からアメリカが脱出できたのは、掟破りのケインズ的「ニューディール政策」が功を奏したからであることは、よく知られている。

これは簡単に言えば、資本主義の枠の中で、一時的・部分的に共産主義的政策を導入する手法と言ってもよかろう。

フーバー政権の自由放任から、ルーズベルトの全面関与政策への変革だった。

うまくすれば、的確で大規模な集中的公共投資による、雇用の創出と景気の刺激、そしてインフラストラクチャーの整備という、一石三鳥が期待できる。

具体的に、ただちに思い浮かぶのはIT(情報技術)関連であろう。
ITに集中的に投資し、社会のデジタル化をさらに推進する。

ITは、確かに最尖端部分においてヴァーチャル(仮想的)な側面はあるが、レッキとした実体経済の一部門のサービス業である。
というより、むしろこれからの実体経済のインフラであり、ハイウェイであり、牽引車であるといって間違いないだろう。

今どき、70歳以下でパソコンもケータイも使えないなんて大威張りで言ってるのは、中尾彬あたりが言う分には、芸能人のダンディズムとかで笑って見過ごせるかも知れないが、一般的には単なるディジタル・ディヴァイドの局外者(アウトサイダー)に過ぎない。
本人の努力が足りないといわれても仕方があるまい。

こういう人がいったん切り捨てられるように見えるかも知れないが、国に金がないのだから、どこかの分野に偏るのはやむを得ない。
今や、貨幣のユビキタス(遍在)は無理なのだ。

景気が回復するとともに、「金は天下の回り物」効果に期待できるだろう。
資本主義の宿命だから、仕方ない。

もう一つ思いつくとすれば、「東京オリンピックの招致」か。
巨大な波及効果が期待できる。

しかしこれは競争相手も多く、実現するのかどうかも疑問である。
現時点では、やや雲をつかむような話である。

当分我々は、日本人の十八番のお家芸たる“地道で清貧な”生き方をするほかはあるまい。

・・・さらに視点を変えれば、今回の顛末は、「権力」が「市場」から「政治」へ歴史的に「移動」または「回帰」する過程になり得るという趣旨の説もあり、一読してぶっ飛んだ~(読売新聞10月13日付朝刊1面、佐々木毅・学習院大学教授、前東大学長談話)。

・・・さすが、世間ってところにはアタマのいい人がいるもんだ~と、平身低頭。視野が広すぎ~っ、思考が根源的すぎ~っ!

なうほど、言われて見れば、政治は曲がりなりにもそれぞれの国民が制御している。

今回のように、しばしば完全にコントロールを失う経済の暴風雨の中に、揺れる木の葉のごとく身を委ねるよりは、政治のリーダーシップというシップ(船^^;)に身を委ねる方が、確かにずっとマシなことかも知れない。
プラトン政治学の泰斗・佐々木氏も、肯定的・積極的な文脈で書いている。

この快刀乱麻の論理の展開に、おそれ入谷の鬼子母神ですた~。





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最終更新日  2008年10月19日 11時15分24秒
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