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2008.07.16
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カテゴリ: Movie
<きのうから続く>

マネージャーのリュリュが言ったとおり、マルヌに家を新築し始めたマレーにとって、ミリィ・ラ・フォレにコクトーと共同で買った別荘は重荷になってきた。パリからクルマで1時間と、中途半端に遠いミリィはマレーにとって不便で、せっかく作ったアトリエもほとんど使うことがなく、だんだんにコクトーの養子となった画家志望のエドゥアール・デルミット(=ドゥードゥー)が使い始めていた。マレーもジョルジュと暮らていたし、足はすっかり遠のいていた。

そこでマレーは、以前マネージャーのリュリュから提案されたとおり、コクトーにマレーの持分を買い取ってくれるように頼むことにした。リュリュにその話をすると、
「ジャンは買い取ってもいいと言ってくれたのよ」
渋い顔をする。
「でも金額が少なすぎたわ」
「いくら出せるって?」
「400万フラン」
「う~ん、たしかにやや不足かな」
「不足どころか、そんなんじゃ、ダメよ。あなたが出した資金はそんなものじゃなかったでしょ」
「そうだね。あそこは建物が古いから、内装をいじるのにずいぶんかかったし」
「名義がジャンのものになってしまえば、ジャンに何かあったらドゥードゥーが相続することになるのよ。タダでドゥードゥーにくれてやるようなものじゃないの」
「もしかして、君、ジャンにそう言ったの?」
「言ったわよ」
「そしたら何だって?」
「ドゥードゥーは道義的にあなたの部屋とあなたの権利は尊重するはずだって。そんなのわかったもんじゃないわ」
「こと金銭が絡むとね」
「誰もがジャン・コクトーみたいな浮世離れした聖人じゃないってこと」
「たとえばさ、いずれまたぼくが買い戻すから、ぼくのミリィの持分をとりあえず600万フランで買ってもらうというのはどうかな。もちろん、ミリィの名義は永久にジャンだけのものにして、600万フランをマルヌの建築費用に充てる。そうしてくれたら、マルヌの家もジャンの名義にしていいよ」
「何言ってるのよ。マルヌの家もジャンの家にする気? あなたが建てるのに?」
「かまわないよ。今必要なのは現金だ。もともとぼくとジャンの間には、『ぼくのもの』も『君のもの』もないんだ」
「呆れた。それじゃあなたはジャン・コクトーのためにせっせと別荘を買って、家を建ててるってことになるじゃないの。私が今言ったこと聞いてたの? いい? ジャンにはドゥードゥーという正式な遺産相続人がいることをお忘れなくね」
「ドゥードゥーか……」
「あなたとジャン2人の問題じゃないってことよ。ドゥードゥーが経済的にひとり立ちできてるんなら、私も何も心配しないわ。でも、ドゥードゥーはジャンにくっついてるだけ。画家とか言ってるけど、全然売れてもないじゃない」
「う~ん……」
「ミリィの別荘の持分を600万フランでジャンに買ってもらう。それであなたはミリィを手放す。それでいいじゃないの。マルヌはあなたの家よ。好きなように建てればいいわ」
「でも、そうなるとジャンはがっかりするんじゃないかな……」

マレーの心配は当たる。400万フランでは不足だから、600万フランでマレーの持分を買い取って欲しい。マレーはマレーでマルヌに家を建てるから――リュリュの事務的な言い方にコクトーはショックを受ける。

「君にとってミリィが負担だということは、わかっていたよ」
コクトーはさっそくマレーに電話をかけてくる。
「でも、ぼくと君の間にそこまで影が差してしまったとは思わなかった」
「ジャン、そうじゃないよ。単に今、現金が必要なんだ。川船は狭いし、ミリィはぼくには遠い。君だって、このごろは南仏にばかりいて、ミリィにはあまり行かないじゃないか。いっそ、売ってしまったらどうかな。あそこは古くて維持費もかかる。ぼくはもうミリィに戻るつもりもないし……」

電話口からは沈黙が流れてきた。重苦しい沈黙…… うっかり言ってしまった「売ってしまったら」「戻るつもりはない」――マレーはその言葉で、自分がコクトーをさらに傷つけてしまったことに気づき、慌てた。

「――いや、つまりさ、あそこは売って新しい家を探すのもいいかもしれないって……」
「ぼくのジャノ……」
コクトーはやさしく、静かに言った。
「残念ながら、ぼくはもう若さの砦を越えてしまった。風化が始まっているんだ」
「風化?」
「そう、ぼくはもう風化し始めている。ぼくには最後の幕を閉じる場所が必要なんだよ。いまさら新しいところを探す力は残っていない。サン・ジャンの別荘はあくまでもフランシーヌの家だ。いくら長く滞在したとしても、ぼくの家じゃない。ぼくが死ぬところは、君と買ったあの家だよ。それ以外にないんだ」
「ジャン! 何を言い出すんだ」
「確かに君はミリィにはわずかしか来たことがない。でもね、あの家は君が支配してる。ぼくは君がバスルームを使ったり、階段を駆け下りて行ったりする音を聞くのが大好きだったんだよ。ミリィでぼくは、君の部屋で仕事をしてる。君の部屋だけが、ぼくに力を与えてくれるんだ。手放すなんて考えられない」
「ジャン。ぼくを許して……」
「許すも許さないもないよ。君がそうしたいなら、ことをはっきりさせよう。リュリュの条件を飲むよ。ただ、600万フランはすぐには出せない金額だ。集めるのに、少し時間をもらえるかな。できれば2回ぐらいに分けてもらえるとありがたいな」
「ジャン、ねえ、聞いてよ。君が出してくれる600万フランは、いずれぼくが買い戻すよ。ぼくは君と取引したくないんだ。今は確かに金は足りないけど、それはコメディ・フランセーズに1年もいたせいさ。すぐにまた取り戻すよ。そしたら、君にこんなことを頼む必要もなくなる。マルヌの家だって、君の家だ。名義は君にするよ」

再びコクトーは黙った。マレーが新築する家をアメリカン・コロニアル様式にするつもりだという話は、リュリュから聞いていた。それが誰のためなのかは聞かなくてもわかった。だが、コクトーの声はどこまでもやさしかった。

「ジャノ、ぼくのものは君のものなんだよ。ミリィはぼくの名義にしよう。そのほうがいい。そうすれば君はあの家の共同責任を免れるからね。確かにあそこは古いから大変だ。先月もボイラーが壊れてね…… でもミリィは永遠に君とぼくの家だ。マルヌの新しい家には行かせてもらうよ。マルヌの名義は君にすべきだ。君が建てる家なんだからね」
「そして、ぼくのものは君のものだよ、ジャン。マルヌの家は平屋にするつもりなんだ。階段をあがらなくちゃいけないモンパンシエのアパルトマンや3階建てのミリィより、君には過ごしやすいよ」

結局コクトーは1954年にミリィ・ラ・フォレのマレーの持分を買い取った。マレーの仕事は、その間に好転した。だが、入ってくるものが増えるにつれ、庭つきのささやかな家だったはずの計画は、プールとアトリエを備えた豪華なものとなり、マレーがつぎ込んでいく資金にマネージャーのリュリュはまたも絶望的になった。

おまけにコクトーの友人が尋ねてきては、「貯めこむだけの人間には、何もないのと同じ。人間は浪費することで豊かになれる」などとマレーをけしかけた。
「そうだよね」
と、すぐ調子に乗るマレー。
「浪費してるときは、絶えず金は転がり込んでくる。節約したくなると、もう入ってこないんだ」
マレーの生活は、この奇妙な方程式を保っていた。

マルヌのマレーの新居は1954年10月に完成する。サン・クルー公園に面した広い庭をもった白亜の豪邸で、庭の並木道にはマレーが「ジャン・コクトー通り」とプレートをかけた。プールはイヴォンヌ・ド・ブレの頭文字から取ったY字型。マレーの衣装係が門の脇に居を構え、門番を兼ねた。

川船の「ノマード(放浪者)号」を売ってマルヌの新居に移るまでに少し時間が空いたため、マレーはそのブランクの時期をコクトーとの思い出のモンパンシエのアパルトマンで過ごし、コクトーを安心させた。だが、いざ新居が完成すると、コクトーは祝福しつつも、 「ぼくには誰もいないミリィの君の部屋を考える勇気がありません」 とマレーへの手紙に書いて複雑な胸中をのぞかせている。


追記: 2007年7月19日付けで朝日新聞電子版 が伝えたところによると。ミリィ・ラ・フォレ(ミイラフォレ)の コクトーの別荘 は、2008年6月つまり先月、記念館としてオープンしたことになる。が、公開になっているのかどうか、詳細は未確認。ホームページを見ると、コクトーの居室やマレーと共同で使っていたリビングルームの修復はすでに終わっているようでもある。

追記2:またも、いい加減なコト書いてる観光案内サイト発見。↓
http://jp.franceguide.com/home.html?nodeID=120&EditoID=33382
「ジャン・コクトーはミイ・ラ・フォレを訪れ、ミイ城に近い中世の街並みが保存された一画にある家で17年間を恋人であるジャン・マレと共に暮らした」

一緒に過ごせる時間はほとんどなかったんだってばぁ。2人がこの別荘を共同で買ったのが1947年、コクトーがマレーの持分を買い取って全体を所有したのが1954年。共同名義だったのはたった7年。しかも、2人が言ってるように、マレーは多忙で、その間ほとんどミリィに来ることができなかった。






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最終更新日  2008.08.08 20:21:53


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