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女子ショート終了。
浅田選手はとにかく、超絶だった。あのトリプルアクセルの高さ。「100年に1度のジャンプの天才」伊藤みどりでさえ、五輪ではショートに入れることのできなかったトリプルアクセルを、この土壇場の大舞台で入れて、文句なく決めた。完璧に回りきって降りてきた。
言葉も出ない。本当に素晴らしい。
昨シーズンまでレベル3だったレイバックスピンも、今年ついにレベル4を取りに来て、そしてちゃんと取った。今シーズン、レベル3に留まっていた、あのちょ~美しいスパイラルでも、レベルを4にした。
そして、全身から漂うエレガントな躍動感。文句なし。
フリーでも迷うことなく、強い気持ちで演技に臨んで欲しい。
鈴木選手は、最初の連続ジャンプの失敗を、次のループジャンプで取り返したところが、光った。もちろんノーミスが前提だが、ミスが出てしまったときにどうするか、どうできるかでその選手のジャンプの地力がわかる。
今のルールでショートの連続ジャンプを失敗し、それをリカバリーしようとすると、リカバリーした連続ジャンプでミスが出て、もっと悪いことになってしまうのが普通だ。
典型は、男子のジュベール選手。まず勝負の4回転で失敗した。予定していたセカンドのジャンプをつけられない。すると頭をよぎるのは? 「あ、これでもう金メダルはない」「でも、切り替えなくちゃ」。そして、単独予定の3回転に3回転をつけてリカバリーしようとする。普通の状態なら、できなことではない。
連続ジャンプにするためには、最初のジャンプを跳んでいるうちに、次のジャンプを「準備」しなければいけない。単独ジャンプを跳ぶときより、力をセーブする。すると試合の緊張で思ったより体力が奪われていて、普段の連続ジャンプのタイミングで跳ぶことができない。結果、最初のジャンプが回転不足のまま失敗する。
これが最悪のパターンで、ジュベール選手はそうなってしまった。
また、チャン選手のショートでのトリプルアクセルの失敗も、シーズン中の失敗が関連していると思う。チャン選手は、ご存知のとおり、4回転を入れなくてもフリーでマトモにトリプルアクセル2度を入れられないという、ジャンプではワールド銀メダリストにまったく値しない選手だ。昨シーズンそうだった彼を、ルールでムリクリ銀メダリストに仕立てあげた。今シーズンの五輪では、4回転は入らないことははっきりしたので、「トリプルアクセルだけ決めればメダルに」という入念なお膳立てがなされてきた。
ところが、グランプリシリーズのカナダ大会のショートで、連続ジャンプのファーストでwrong edge判定、しかも減点必須のEマーク(←昨シーズンは取られたことのない)を取られてしまった。そこで次の国内大会では、絶対にこの違反を取られないことがチャン選手の課題になった。ところが、エッジを気にしたら、エッジ違反は取られなかったものの、連続ジャンプのセカンドがまともに入らなかった。これもよく起こる現象だが、それでも、もちろん「あっと驚く」高得点。
国内大会では、お手盛りになることはあるが、あまりの 「超常現象上げ」 に、かねてから、この採点方法では、男子シングルがダメになると危機感をもっていたカナダの元世界王者ストイコが、疑問を呈した。ちなみに、ストイコは、今回の五輪男子フリー後、カナダ人であるにもかかわらず、「金はプルシェンコ、チャンは、実際にはもっと下」だと、まあ、ごくごく常識的な意見を述べて、真っ向からルールと採点を批判した。ちなみに、ライザチェックの同国人であるサーシャ・コーエンも、「金メダルはプルシェンコ」と言っている。いかに今の採点が、「無理が通れば、道理が引っ込む」ものであるか・・・・・・フィギュア史上に名を残す、超一流のトップスケーターになればなるほど、看過できないレベルにまで来ているということだ。
チャン選手に話を戻すと、国内大会のショートで3+3の連続ジャンプがまともに決まらなかったことで、五輪に向けて、エッジを気にしつつ3+3を決めるという課題を抱えてしまった。五輪では、その問題をクリアした。ところが、もともと少し弱かったトリプルアクセルで失敗が出てしまったのだ。ジャンプミスというのは、このようにシステマティックに起こる場合が多い。
鈴木選手の場合の連続ジャンプの最初の失敗も、「ループが心配」という不安と意識下で連動していると思う。だから、そのループでリカバリーをしたら、ジュベール選手と同様になる可能性は高かった。というのは、鈴木選手は4大陸でループジャンプへの入り方を変更し、ショートで失敗。フリーでも失敗が出ていたからだ。五輪直前にジャンプをいじると、こういうことになる。それがほんのちょっとのことでも。ショートにループを入れたシーズン途中、鈴木選手の最優先課題は、「ループを回転不足なく確実に降りること」だった。それがクリアできたので、「構え」が長いという欠点を五輪に向けて克服しようとしたためにやったことだ。別に戦略が悪いわけではない。あとはそれが吉と出るか凶と出るかだけ。
五輪に向けて失敗の出たループジャンプのプレパレーションをどうするのか。迷う時間が出来た分、不安が生じたと思う。
ところが、不安の出たループではなく、連続ジャンプのファーストで失敗が出た。次をどうするのか? リカバリーは考えず安全策でループを単独で跳ぶという選択もあった。だが、鈴木選手は迷うことなく、3ループ+2ループを跳び、降りてきた。
いやはや、素晴らしい根性だ。もともと5種類のジャンプを跳ぶことができ、ループに強いという鈴木選手の長所が生きた。得意とはいってもループは、かなり危険なジャンプだ。オリンピックでは、(普段は問題なく跳べていても)ループがきちんと降りられない選手が多い。
鈴木選手のショートは、曲の編集が光っている。リバーダンスの「アンダルシア」と「ファイアーダンス」から、「弦」の旋律と「打」のリズムが官能的に絡み合う部分を効果的につなげている。
・・・のだが・・・スイマセン。最初のジャンプの失敗を見て、Mizumizuのほうが頭が真っ白になって、演技がどうだったか覚えてません(苦笑)。曲もほとんど耳に入らず。
安藤選手は、トリプルルッツ+トリプルループのループがダウングレード。今回の五輪、回転不足に敏感なファンなら気づいていると思うが、ダウングレード判定が全体に甘い。解説者も、これまでの試合傾向とのあまりの違いに戸惑っている。言いにくそうに、「どうも判定が読めない・・・」と言っているのは、気持ちはよくわかる。
ダウングレード判定が甘いと見て、挑戦してきたモロゾフと安藤選手の心意気は素晴らしいのだが、跳んだあとに詰まってしまった。回転はむしろ足りていたようにも見えたのだが、高橋選手のフリーでのダウングレードジャンプと同じような詰まり方だった。セカンドがああいう風に詰まって、流れないとダウングレードを取る、という方針では、今回の判定は一貫していると思う(思うが、じゃ、過去のバカみたいに厳しいダウングレード判定は何だったのか?)。
安藤選手はフリップが危なかった( それよりひどいのが、フラット選手の単独ルッツだが。あれが認定とはほとんど暴挙 )。過去の試合での厳しい判定に基づけば、ダウングレードされてしまったかもしれないが、今回は出来栄えの減点(GOE減点)だけに留まった。ダウングレードはこのくらいの基準が適当だと思う。思うが、それでは、過去の試合との整合性はどうなるのか。
解説者がキム選手とフラット選手のセカンドの3回転を、「(降りたあと)だいぶ曲がってる」と言っていたが、降りてから急に極端に変な方向に曲がる。あれはMizumizuも以前書いたが、不足気味のジャンプで起こる現象だ。だが、なぜか、今回は、ああいったタイプのジャンプは全部認定されている。男子もそうだった。
こうした「異変」は選手はコーチには、当然わかっている。だから、ファンも今騒ぎ立ててはいけない。
3+2しかないロシェット選手がなぜあそこまで高得点なのか、理解できないファンは、Mizumizuブログのロスの世界選手権でのエントリーを読んで欲しい。今回の五輪で起こることを予想したが、だいたい当たった(別に当たったって嬉しくもなんともないが)。
選手は点を見て、ここで弱気になってジャンプ構成を替えはいけない。難度を下げなくても、日本選手にはあの点。下げたらどうなるか? 完全に相手のミス待ちになってしまう。難度を落としてミスなくこなして勝てるのか? ジャッジが勝たせたい選手は勝てる。勝たせるつもりのない選手は、何をやっても点が出ない。
今だから言ってしまうが、男子のショートで4+3をもっている選手が次々自爆したのは、プルシェンコ選手と高橋選手のショートの点差が、思ったほどつかなかったということもあると思う(これについては、試合が終わってから詳しく)。
何が起こっても動揺してはダメなのだ。たとえどんなに理解できないことでも。
点が出る出ないは、ルールに対応した完成度の問題? では、完成度が高く、演技にも独自の世界をもっていたジョニー・ウィアー選手に与えられた得点は? ジャッジの感性に合わないから点が出ない? 実績で演技構成点はある程度決まっている? そんな理由で点が出ないとしたら、それはスポーツ競技会ではない。
Mizumizuは個人的にはウィアー選手のショートプログラムは好きではない。だが、今回完成度は素晴らしかった。おまけに、ウィアー選手のショートは、日本では盛んにもてはやされているキム選手のショートとテイストが同じだ(だから、Mizumizuはキム選手のショートも好きではない。1度見せていただければ十分だ)。振付師は、同じようなテイストで2つのショートを作った。恐らく傾向として、キム選手の「007」が好きなファンは、ウィアー選手の「I love you, I hate you」も好きだと思う。だが、ジャッジの判断は?
ウィアー選手の順位については、ストイコ、コーエン両者とも、「あまりに下。チャンより下ということはありえない」と、まあこれもごくごく常識的なことを言っている。ところが今は、常識ではなく、出てきた「誰にも理解できない」点を見て、あとからその理由の辻褄合わせをしなければいけないのだ。プロトコルは一応筋が通っているから、あとは「それに合わせた」理屈をつけるだけ。
もうすべて明らかになったと思う。ここまで来たら、自分にできる最高の演技をするだけだ。挑戦すると決めたら、迷わずに行く。ファンは、結果を見て、ジャンプ構成を「安全策」と「果敢な挑戦」に2分してどちらを批判したり、あるいは点が出なかったのはプログラムが悪いせいだとか、結果論で責めてはいけない。批判は選手にとって、「まだ間に合う」段階ですべきだ。自分の力でどうにもならないことを、選手やコーチのせいにするのは間違っている。
フランケンシュタイン度を増すルールとクレイジーな採点の中で、日本選手とコーチ陣は、できる限りのことをしてきている。ここでもう作戦の変更はできない。
あとは、すべて自分との闘い。
気持ちを強く持って、最高の演技を。
では、みなさん、フリーも日本選手のよい演技に期待しましょう。
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