PR
キーワードサーチ
カレンダー
カテゴリ
購入履歴
<続き>
ジャッジの見つけた「透明で客観的なシステムの穴」とは何か? 結局はこういうことだ。主観点である加点と演技構成点で勝たせるようにする。エレメンツの加点は少しずつ積み重ねることで大きな差にできるから、勝たせたい選手にたとえ1つぐらいミスが出ても、保険になる。演技構成点の「揺れ」は、エレメンツの完成度を高めようとしている選手の努力を一瞬で水泡に帰すことができるほどの「幅」をもたせることができるのだ。
それをヨーロッパ選手権の直後ではなく、わざわざ反ロシア感情の強い北米のバンクーバーに来て、さらにIOC副会長という政治的後ろ盾を確かなものにしたところで言う。完全にドイツ陣営の「作戦」だと思う。
ロシアを落としたがっているのはわかっている。ロシアペアのコーチは誰あろう、ソルトレイクで悪者にされたロシアのペア、ベレズナヤ・シハルリドゼ組のコーチだった タマラ・モスクビナ。
あのときのロシアペアに対する北米メディアのネガティブキャンペーンは、すさまじかった。 ジャンプの着氷でグラッとする映像だけを切り取って繰り返し流し、「ミスがあったのに1位。サレー・ペルティエ組(カナダ)はノーミスなのに2位。不正だ」と騒ぎ立てた。
だから、タマラコーチが、フリーを鉄壁ノーミスで行かせるために、川口・スミルノフに4回転スロージャンプの回避を指示したのは当然の判断だと思う。五輪で大事なのは、なにがなんでもノーミスでクリーンに演技をすること。反ロシア感情の強い北米では、ただでさえロシア選手は不利。だから、「下げる」理由をジャッジに与えないことが大切なのだ。
それは川口選手も理屈ではわかっていたはずだ。だが、Mizumizuが以前指摘した選手のこころの問題。川口選手は「4回転を跳びたくて、投げてもらえるペアに転向した」とまで言っていた。なぜ日本選手がここまでジャンプにこだわるのか、恐らくロシア人コーチには理解できないだろう。本番前の朝の公式練習では4回転を降りていたという。選手にとっては回避する理由はないのだ。
結果は悪いほうに出てしまった。つまり、回避してレベルを落としたハズのスロージャンプで失敗。次でも失敗。2位にいたドイツペアにもミスはあったのだが、こちらのほうがメダル圏内におさまって銅メダル。ロシアペアは総合で4位に落ちた。
試合後の川口選手のインタビューには、4回転ジャンプを回避したことに対する抑え切れない無念さがにじんでいた。演技に入る前も、なかなかコーチのそばを離れなかった川口選手は、必死に気持ちを切り替えようとしていたのだろう。だが、安全策でいったはずのところでミスが出て、さらに「取り返さなければいけない次」でミスをする。これが一番悪いパターンだ。回避して失敗し、さらにメダルを逃す。「失敗してしまった自分」と「本当は挑戦したかった自分」の折り合いがつかず、選手は長く苦しむことになる。
五輪での3位と4位の最終順位自体に間違いはなかったように思う。ドイツペアにもミスはあったが、ロシアペアのミスのほうが演技の流れを止めてしまう深刻なものだった。川口選手が一瞬、手首を押さえるシーンもあった。
だが、驚くのはフリーの演技構成点。この2組の直前のヨーロッパ選手権と五輪の点を比べてみると・・・
ショート (左の数字が技術点、右の数字が演技構成点)
ロシアペア ヨーロッパ:41.44+32.48=73.92
五輪 40.92+33.24=74.16
ドイツペア ヨーロッパ:40.92+33.2=74.12
五輪:42.24+33.72=75.96
と、まるで、ヨーロッパ選手権の点をそのままスライドしたような出し方だ。
ところが・・・
フリー
ロシアペア ヨーロッパ:69.31+69.92=139.23
五輪 57.13+ 64.48 (転倒によるマイナス1)=120.61
ドイツペア ヨーロッパ:66.88+70.72=137.60
五輪:65.08+70.56(マイナス1)=134.64
フリーでの川口ペアは技術点の低下の「ついで」に、ドイツペアより6点以上も低い点をつけられた。ドイツペアと同等レベルの演技構成点をもらっていたヨーロッパ選手権に比べると5点以上下がってしまったことになる。これで川口ペアはフリーだけの順位は7位まで落ちてしまった。そんなに悪かったか? 信じられない。
ジャンプの失敗があったから? だが、そのほかのエレメンツ、たとえば優勝の中国ペアにミスの出たソロスピンなどは、川口ペアは素晴らしかったのだ。
「これぞペアのソロスピンの王道かつ見本」の例を見せよう。どちらもロシアペア。1994年のリレハンメルオリンピックだ。
1位になった ゴルデーワ&グリンコフ
2位になった ミシュクチョノク&ドミトリエフ (コーチはタマラさん)
1位のペアは、もう最初の滑り出しからユニゾンが奇跡。ここまでピタリとすべてのモーションを合わせられるペアは、彼ら以降見たことがない。絵に描いたような美男美女だから、機械仕掛けの人形が見えないレールの上を滑っているようにさえ見える。
ここではスピンの話なので、1:42あたりから始まるスピンを見て欲しい。実はこのペアはここで失敗している。回っている間にタイミングがずれてしまい、1:48あたりで2人の回転がバラバラになった。ところが1:53あたりでスピンから出るときには、タイミングを合わせてきれいに同時にスケーティングに戻っている。つまり、これがペアのスピンの技術なのだ。回転速度がズレでミスが出ても、途中から合わせてくる。そして、最後にはピタリ。だが、途中回転速度がズレたというのはミスであることには違いはない。
ミシュクチョノク&ドミトリエフのスピンはゴルデーワ組のようなミスはない。1:37ぐらいから始まるのだが、2人の距離が狭く、軸足を替えたあとで、さらに距離を縮めている。ゴルデーワ&グリンコフのようなミスもなかった。解説の五十嵐さんも演技が終わったあとにこのスピンを褒めている。彼の解説がすべてを語っているので、追加することはない。
川口選手は、このペアのソロスピンの王道をしっかりと継承している。ビデオをとった方は見て欲しいのだが、さかんにパートナーのほうを見て、回転を彼女のほうが合わせようとしているのがわかる。なのに点を見ると、こうしたロシアペアの努力はほとんど評価されていないのだ。
バンクーバーでの川口ペアと申雪・趙宏博ペアのフリーのソロスピンの点を見ると、点差はほとんどない。わずか0.3点。エレメンツで明白なミスをしたペアと完璧にこなしたペアの点差が、これだけとは・・・
このエレメンツの得点を見て、Mizumizuは心底ガッカリしたのだ。
エレメンツでミスしてもなぜかたいして点が下がらない(GOEで減点されない)選手がいる・・・この「不思議な現象」は、シングルでも顕著だと思う(誰のどんなエレメンツかは、あえて言わないが)。 だから、あとから各選手のエレメンツの「出来栄え」を見て、それに与えられた点を見比べると、明らかに劣っているのに点が高かったり、悪くないのに低かったりといった矛盾が見えてくる。
「なんで、申雪・趙宏博ペアのスピンに加点なわけ?」
↑
この疑問(ときには憤り)は、シングルでも特定の選手のGOEに顕著だ。
だが、それが意図的なのか、あるいは人間が見る以上起こりうるものなのか、明確にはわからないのだ。
そこにあるのは、「限りなく恣意的に見える得点」だけ。加点や演技構成点には、こうした「疑い」が付きまとう。だからこそ、加点割合をもっと抑制するなり、演技構成点を5つのコンポーネンツでなく3つにするなり、主観による操作をできる限りしにくいよう抑制するべきだのだ。客観性を柱にした新採点システムを続けるならそれしかない。逆に、ジャッジの主観を重んじるなら、こんなわけわからない点を「匿名」の裏で積み増しして、結果意味不明の銀河点が出てくるようなシステムではなく、ジャッジの顔が見える旧採点システムに戻すべきだ。
ペアの採点に話を戻すと、1位の中国ペアの演技構成点が72.4点なのに対し、ロシアペアは64.48点。「例によって」8点近くの差をつけられている。
そして、最終順位の点数を見ると
1位 216.57点 (中国)
2位 213.31点 (中国)
3位 210.60点 (ドイツ)
4位 194.77点 (ロシア)
5位 193.34点
解説のカナダ在住日本人スペシャリスト天野氏は、ロシアペアの点が低かったことについて、「(4回転を回避したことで)攻め切れなかった」と説明した。要するに後付けの辻褄合わせだ。技術点が下がると、演技構成点も下がるという傾向は以前はあった。だが、それはどの選手に対してもだった。今は、フリーでコケようがミスろうが、高い演技構成点をキープして出してもらえる選手と、ミスると待ってましたとばかりに演技構成点も下げられてしまう選手がいる。前者のタイプの側にはつまり、ジャッジが「ついていて」、後者のタイプの側にはジャッジが「いない」のだ。
ジャッジは五輪ペアでは明らかにロシア側におらず、ドイツ側にいたのだ。こうしてロシアは、メダルなしに終わり、最強の伝統を誇ったペア王国は崩壊した。
アイスダンスもそうだ。ロシアのカップルは、なんだかんだ足を引っ張られ、粗探しをされ、結局銅メダル。金と銀を北米で分け合うという出来すぎの結果。
<続く>
ジャッジの匿名性をどう考えるべきか 2010.04.04
恣意的操作をできにくくするシステムこそ… 2010.04.03
新採点システムの柱である基礎点重視主義… 2010.04.02