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題名 「かくれんぼ」今日も公園は賑やかだ、暫く眺めていると「かくれんぼする者此の指停まれ。」おきな声で仲間を呼ぶ声が聞こえるとワラワラと数人集まって来た「一番最初に見付かったら罰があるんだからね。」皆が頷く、鬼が缶を蹴った。 「俺の頃はじゃんけんをして鬼を決め、他の子が缶を蹴ったような気がしたが今は変わったんだな。」「ユックリ数えてくれよ。」「ああ任せておけ、い~ち、に~」とてもユックリだ「数えてる間に日が暮れてしまうんじゃないか、確か100だったよな。」暇なので最後まで見ていこうと座って観戦する事にした、矢張り100数える頃には日もとっぷり落ち外灯を頼りに探し出す、狭い公園だ隠れる所など決まっている。 一番最初の者が見付かった「おーい見付かったぞ。」鬼が掛け声を掛けると皆出てきた「あれ、皆が見付かるまで隠れていないのか、鬼が探している間に缶を蹴られたら見付かった者は又解放されるんだったよな。」不思議な思いで見ていると皆安心しきった顔で出て来たそれに反し最初に見付かった者の顔は遠めにも分かる程怯えている。 「さあ罰だよ。」鬼が言うと皆で「罰だ、罰だ。」最初に見付かった者の周りを踊っている「嫌だやめてくれ。」「駄目だよ約束は守らなきゃ。」鬼が言う「今日はあの辺の木の下にしよう。」鬼が指差した木の方向に皆が持参したスコップを持って移動する。 鬼は最初に見つけた者をシッカリ捕まえている、皆汗だくで掘る人間2人は入ろうかと言うほど大きく深く掘ると鬼は最初に見付かった人間を落とすと同時に皆で土を被せていく、必死で這い上がろうとする人を足で蹴りながら埋め終わった、最後は其の上を皆で踏み固め終了した鬼が「今日のかくれんぼは終わりました、今度は2週間後です皆集まって下さいね。」迎えの車に乗り込むと去って行った。 一部始終を見ていた男は「何だ此れは。」慌てて公園に行き先程まで『かくれんぼ』をしていた者に「早く掘り出さないとあの人は死んでしまうじゃないか。」一人一人に訴えたが「良いんだよ。」「だって殺人ですよ。」「違う罰なんだ。」納得がいかない男はスコップを取り上げ掘り出しに行こうとすると皆に「余計な事は止めてくれ、アンタ何処から来たんだね。」「昨日アメリカから帰って来たばかりですが。」「それなら知らんだろうな。」「マア、家に来て見れば分かるよ。」男はその人の後を付いていく、玄関を開けた途端「又鬼に見付からなかったの。」激しい叱責が飛んできた「今度は何時なのよ。」「2週間後だって言ってたな。」「えーあんた2週間も家にいるの。」「すまんが家に入れてくれ、お客さんも連れてきているんだ。」「アンタだけでも厄介なのにお客?いい加減にしてよ。」男は「此処で帰るから事情だけ話して下さい。」 男の話に拠ると少子化が進み老人を支えきれなくなった日本は、何とか老人を減らそうとあの手この手で責めて、今日は遊びながら老人を選らす日だったらしい然し効率が悪いので次はどんな手で来るか恐怖の日々を送っているという。「どっち道70を超えて生きているのは罪悪なんですよ、今迄居たのは老人公園と呼ばれる所で公園の周りにフェンスが張り巡らされていたでしょう、僕達が逃げない為に有る物なんです鬼に捕まらなかった僕は又2週間針のむしろです、早く捕まりたいから見付かるように隠れているんですが駄目なんですよ。」 日本は此処までやっているのか、男は慰める言葉も無く去った男は来年70を迎える。
2007年08月30日
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残暑が続き寝苦しい夜階下から何かを叩くような物音で目覚めた子供が走っているのだろうかそれにしては変だ天井を直接突っつくような音に聞こえたのだが気を取り直して眠りに就くウトウトしだすと先程より大きな音で再び目覚める男はジッと音が何処から出ているのか見極めるようにベットに寝ていると音は階下からではなく直接ベットを叩いているではないか飛び起きた男は電器を点け恐る恐るベットの下を覗く何も居る筈が無いと思いながらもソット覗くとズルズル音を立てて男が出てきて「お前は重すぎるんだよ。」捨て台詞を残し去って行った確かに男は二〇〇Kを超える巨漢だが仕方がない相撲取りなのだから強盗も不運寝室を漁っている時不意に帰って来た住人隠れる場所はベットの下しかなかった住人が寝付いたらソット出て行くつもりが押しつぶされ出られない処か苦しい止む無くベットを叩いたのだ強盗に驚くより「あ~あ又ベットを買わなきゃな。」嘆く住人
2007年08月29日
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題名 「母の代わり」夫婦仲は最悪、顔を合わせれば喧嘩ばかり何処にでも居そうな夫婦中学生の息子がいたが大人しく親に逆らった事もないおっとりしていて父親似だからと言う訳でもないが父親に懐いていた母親は息子の顔さえ見れば成績を責め父親に似ていると嫌悪の表情を浮かべるからだ朝は父親と一緒に家を出る駅までの道すがら父親は毎日息子に言い聞かせ続ける「母さんのような女とは結婚するなよ、一生後悔するからな。」大人しい息子は黙って聞いていたが「じゃあ如何して父さんは母さんと結婚したの。」等とは聞けず「母さんは悪い人なんだ。」漠然と思うだけであった其の日の夜も些細な出来事で喧嘩が始まった一方的に捲くし立てる母、父親は黙って耐えている「父さんが可哀想だ。」心優しい息子は一大決心をした次の日父親が帰宅すると閑静な住宅街に悲鳴が響き渡った「貴方御疲れ様今日は貴方の好きなビーフシチューよ。」血が滴る母親の顔の皮を被った息子に言葉も出ず後ずさりする父親「父さん如何したの、今日から僕が母さんになってあげるのにそんなに驚かないでよ。」父親のカバンを取ろうとして下を向いた途端母親の皮が頭皮毎ズルリと落ちた。
2007年08月28日
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優子は憔悴しきっていた、明日が結婚式だというのに夫となる人は此の世にいない突然の事故で亡くなってしまったから、涙も枯れ食事も喉を通らない気力だけで立っているような姿を見て廻りの人々は心配したが如何してやる事も出来ない。 所が優子は或る日を境に急に明るくなったのだ、親が心配して訳を聞いても「秘密。」とだけしか言わず訳を話してはくれない、或る日来客があった様子も無いのに優子の部屋から何やら話し声が聞こえる「優子、お友達でもいらしたの。」ドアを開けると誰も居ない「今誰と話していたの。」「幸一さんよ。」母親は青くなった、亡くなった婚約者の名前だからだ。 「悪い冗談は止めなさい、幸一さんはお亡くなりになったでしょう。」「でも私が心配で電話を掛けてくるの、ほら着信履歴は総て幸一さんの携帯からでしょう。」確かに優子の言う通りだ、母親は考えた幸一から電話が来る筈が無い多分優子が余りにも落ち込んでいるので幸一さんの御家族の誰かが掛けてくれているのだろう御礼申し上げなくては母親が幸一の家に電話をすると「家ではそんな事はしていませんよ、それに携帯は幸一の墓に入れてやりましたからね。」それじゃ誰からの電話なの、母親は受話器を持ったまま座り込んでしまった、そして慌てて優子の所に行くと楽しそうに話している優子の携帯を取り上げ「幸一さん御願い優子を連れて行かないで。」「ははは、お母さん僕は幸二です幸一兄さんの弟ですよ、実は僕も優子さんが好きだったんです取りあえず今はこんな形でしか話す事が出来ませんが49日には死者があの世に旅立つ日です其の日に全部告白しますから、其れまで内緒にして置いてください。」 母親は安心したが、優子に「何時までもこんな事してちゃ幸一さんも逝く所に逝けないわよ。」一言いって携帯を返した、然し不思議な事に楽しい筈の優子の顔は日に日に悪くなっていく「如何したの優子、幸一さんと喧嘩でもしたの。」「幸一さんは相変わらず優しいわよ、お母さんの気のせいよ。」母親はどうにも気になって仕方が無い、今日が幸一さんの49日「幸二さんもやっと役目が終わったのね。」 母親は49日法要に顔を出し一通りの挨拶を終えると「この度は幸二さんに大変御世話になりました、娘が立ち直る事が出来たのも幸二さんの御陰で御座います宜しくお伝え下さい。」深々と頭を下げると、幸一の両親は顔を見合わせ「お母さん何のお話しですか、家には息子は幸一一人です幸二なんて知りませんよ。」「え、それじゃあの電話は誰が…。」急いで家に帰ると優子は携帯を抱き息を引き取っていた穏やかな顔で。
2007年08月27日
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『友よ』友が泣く、声を殺して心の中で手を伸ばせば光の扉は届くのに其れさえも出来ず泣き続け小さくなって闇を彷徨う友よ貴女の苦しみは私の悲しみ手を差し伸べても触れさえしない為すすべも無く見守る苦しみさなぎの殻は固くなるばかり破ってやる事すら出来ない私の苦しみ、悲しみ、寂しさは何時まで続くのか友よ貴女の総てを受け止める者が居る事を忘れないで
2007年08月25日
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題名 「約束」 妻は朝から浮き浮きしている「昨日の後なのに如何したのだろう。」気味悪かったが深く考えず出社した、夫が家を出た後の妻の行動は早かった家事全般を素早くこなすとデパートの開店時間に間に合うよう出かける支度をしだす。 デパートの開店時は定員がズラリと並んで恭しく出迎えてくれる、あれは何度味わっても気持ちの良いものだ然も今日は買物をするのだ前々から欲しかった「指輪とネックレス」何時もより念入りに化粧してイソイソ出かけ御目当ての物を買い求める「御支払いは如何致しましょう。」丁重に聞く店員に月々夫に渡す小遣いの金額を告げ分割に、合計金額は100万円を超えていたが妻は驚きもしない、夫名義のカードを渡し手続きを済ませると店員総出で御見送りされ最高の気分で帰宅、飽きもせず眺めているうちに夫の帰る時間になっていたが夕食は勿論デパートの惣菜、テーブルに出すだけ。 夫が帰宅した、テーブルには惣菜が並べられている「何だ今日は出来合いか。」妻を見ると驚いた「如何したんだ其れは。」「買ってきたのよ。」「金は如何した。」「勿論分割よ、貴方が指輪ぐらいなら買っても良いって言ったから買ったのよ、領収書は其処にありますから。」金額を見て驚いた夫は暫く言葉が出ない「心配しなくても貴方の御小遣いで月々払って下されば良いだけの分割にしましたから。」「俺に小遣い無しで働けというのか100万も使って如何するつもりだ。」「あら、貴方指輪ぐらいなら買っても良いって言ったじゃない、序でにネックッレスを買っただけよ。」「俺は認めんぞ明日にも返して来い。」それだけ言うと夕食も摂らず寝室に入ってしまった。 次の日妻が目覚めた時夫の姿は既に無くテーブルの上に「今日返品してこなければ離婚。」と書かれたメモが置いてあった「フン、何よこんなもの。」妻はメモを破り捨てゴミ箱に投げ入れ昨日の残り物で朝御飯を済ませ、昨日買って来た物を出してご満悦。 一方早くに出社した夫は頭を抱えていた「アイツの事だ返品しないだろうな、何の為に俺はアクセク働いているんだ。」深い溜息をついていると又後輩が出勤してきて「あれ、先輩今日も早いんですね又溜息なんかついて今度は何があったんですか。」夫は総てを話した「何だそんな事ですか。」人事だと思って軽く言う「先輩そんな金払う必要ありませんよ。」「如何してだね。」「日常家事債務と言って二人で生活する上で必要な物以外の高額な買物は夫が払う義務はないんです、此れも裁判しても勝てますよ。」「そういうものなのか、いやー良い事を聞いたよ、君コーヒーでも飲まんかね。」目の前のモヤがすっかり晴れたような清々しい気分で早速妻に電話する「マアそんな訳だ、如何しても返品しに行かないのならお前が結婚前に貯めてた預金で払うかパートにでも出るんだな。」キッパリ言うと電話を切った。 気分爽快で帰宅すると妻がしょんぼり座っている、指輪を返しにいったのだろう其の姿を見て余りにも哀れになり声を掛けた「あんなに良い物は買ってやれんが、今度の休みに一緒に見に行くか。」優しく慰めると妻の顔は急に明るくなり夫に抱きつき「私が悪かったわ。」「嫌、俺こそ君に甘えて今迄何もしてやらなかったからな、罪滅ぼしだよ。」今迄の険悪さは何処へやら、休日二人で出かける姿はまるで新婚のように微笑ましい。
2007年08月25日
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題名 「約束」男は何時もより早く家を出た、朝から妻と喧嘩をし面白くなかったからだ其れと言うのも自分が悪いのだが、今度の休みには或る有名なレストランで食事をする約束をしていたのだが疲れきっていた夫は約束を守れなかった「今度の休みには連れて行くから。」「貴方と結婚してから『今度とお化け』には会った事がないわ。」散々嫌味を言われた末「約束は守って頂きますからね。」「何か約束したっけ。」「言ってる側から忘れていくんですもの、今度約束を破ったらボーナスで何時も貴方に渡すお小遣いは無しって言いましたよね。」「そんな約束したかな。」「ええ、確かに先週レストランに行く約束をした時言いましたよ。」すっかり忘れていたが朧気ながら思い出した。「だから今度ボーナスが出ても貴方のお小遣いは無しね。」「えー取り消してくれよ其れだけが楽しみで働いているようなものなのに。」「約束は約束です。」取り付く島もない、そんな訳で夫は家を早く出てきたのだ。会社の自販機でコーヒーを飲みながらボーとしていると何時も早い後輩が「あれ早いですね、でも顔色悪いですよ。」人懐っこく寄ってきた「顔色も悪くなるさ。」今朝の出来事を話して聞かせた「何だそんな事ですか。」思いっきり笑う「人が悩んでいるのに笑うなんて失礼じゃないか。」むっとした顔をすると「失礼しました、でも其の契約は取り消せますよ。」「如何して。」「夫婦間の契約は何時でも取り消せるんです、勿論例外もありますけど今の話を聞く限りでは大丈夫、大袈裟ですが裁判しても勝てますよ。」「そうなのか良い事を聞いた。」夫の顔は一気に明るくなり仕事もはかどり、意気揚々と帰宅し妻に宣言した「朝の話しな、俺は取り消すから。」キョトンとした妻は「何勝手な事言ってるのよ。」夫は朝後輩から聞いた話の受け売りを話して聞かせる10万ぐらいの金で夫と裁判をする訳にもいかない、妻は渋々承諾したが腹の虫は治まらない、此の儘泣き寝入りつもり等無い妻は考えた「そうだわ。」急に元気になり或る考えを胸に秘め「ねえ、それじゃ指輪ぐらい買っても良いでしょう。」懲りない奴だと思いながら「嗚呼、買えば良いさ。」夫は又取り消すつもりで軽く返事をし眠りに就いた此れが又頭を痛める原因になろうとは知る由も無く。
2007年08月24日
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題名 「夫婦の夜」 「ねえ貴方今夜辺り如何。」 「そうだな久しぶりにやるか。」 妻はイソイソと風呂に入り 「貴方も一緒に入らない。」 懸命に誘うが夫は 「俺は一人の方が落ち着くから、後から入るよ。」 誘いには乗らない、先に上がった妻は布団をひき 横になって待っている 「あの人ったら本当に長風呂なんだから何だか 眠くなってしまうじゃない。」ウトウトし始めた頃 「待ったかい。」 「待ったわよ眠ってしまうところだったわ。」 「じゃあ今日は止めようか?」 「意地悪。」 甘えた声で夫を責める 「よしやるか。」 「今日は私の番ですからね。」 「良いけど寝ちゃうなよな俺にもしてくれなきゃ 今度からしないからな。」 「分かってますよ。」 夫は妻の身体に乗り力一杯揉み始めた 「アー久しぶり気持ち良いわ。」 「長年夫婦をやってるんだ壷は心得ているさ 「10分で交代な。」 互いにマッサージの仕合をしだしてから夫婦仲は 円満だ。
2007年08月22日
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題名 「痛み」 「痛い。」 「すまん、すまん然しこう言う事は一気にしたほうが傷みは少ないんだぞ、半分だけ一気にしてみるか。」「じゃあ半分だけね。」「ギャー痛い止めて。」「初めてじゃあるまいに、そんなに痛がるなよ。」男は一気にシップを剥がした「な、痛いだろうけど一気に剥がした方が痛みは少ないんだ。」剥がしたばかりのシップを嬉しそうに持っている夫。
2007年08月21日
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題名 「あなた御願い」 「ねえあなた、あれ付けてくれた。」 「あれって。」 「もう、これ程御願いしてるのに。」 「だって面倒なんだよ。」 「危ないから御願いしてるんでしょう。」 「分かった分かった今度な。」 「今度じゃなくて今日よ。」 「ハイハイ分かりましたよ。」 男はめんどくさそうに立ち上がりトイレに向かい 暫くして帰って来た。 「付けてきたよ。」 「有難うあなた。」 「隣に新しいマンションが出来てから家のトイレが 丸見えなんですもの、危ないでしょうこんな御時世ですもの。」 取りあえず新聞で目隠しをしていたものの見っとも無い 量販店で外からは見えないフィルムを買って置いたが 夫の腰は重く中々付けては貰えなかったのだ。
2007年08月21日
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題名「捨てないで」 「あーもう一杯、許してもう入らないわ。」 男は未だ入れ続ける 「壊れる、壊れちゃう。」 黙々と入れ続ける男 「もう此れ以上は無理よ。」 男は抜く気は無いようだ、妙な音がして裂けた 「だから無理だって言ったのに。」 「意外と入らないものだな、大きく見えたんだが たかが3日分の出張用品が入らないとは 男は買ったばかりのバックを投げ捨てた。
2007年08月19日
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題名 「自己破産」 友人と始めた事業が失敗した、二度の不渡りを出せば終わったも同然であるオマケに共同経営していた伊沢が金庫の金を洗いざらい持って行方をくらましたので森本の手元には一円の現金も残されていない、不渡りを出した時点で債権者が雪崩のように押し寄せ昼と言わず夜と言わず押し寄せて来たが無い袖は振れない、妻や子は怖がって実家に帰ってしまっていた。 家は二重三重に抵当権が付けられていたので此の家にももう居られない、死んで保険金で支払うしかない手っ取り早く五階のベランダにロープを架け首吊りを決意した、五階なら万が一にも助かる可能性があるからだ、ロープになりそうな物を探し求めたが見つからない仕方が無いのでカーテンを裂き幾つも結んでロープ代わりにする「考えてみれば俺の人生も大した事なかったな、大人しく会社勤めをしていればこんな事にはならなかったのに伊沢の口車に乗って『社長』って言葉に浮かれたばかりに…母さん先立つ不幸を許してくれ。」 森本の実家は広い畑を持っていたが父が亡くなってからは他人に畑を貸していた、母に泣きついた所で年金と畑の賃料しか収入がないのに、多額の借金など借りられる筈も無い泣きながらロープを作る、やっと作り終えベランダにかけるだけとなった時電話が鳴った「どうせ債権者だろう。」留守電にしてあるので何気なく聞いていると母からだった。 「俊夫、母さんだよ居ないのかい。」慌てて電話に出る「母さん如何したのこんな時間に何かあったのか。」「実はね母さん入院しているんだよ、それで急にお前の声が聞きたくなってね元気でやってるのかい、一度顔を見せにきておくれ。」弱弱しい声で訴える「そうだ死ぬのは何時でも死ねる、母さんの顔を一度みてからにしよう。」実家まで四時間もあればいける、森本は財布の中身を調べた「何とか行けそうだ。」 朝日が昇る前に目覚めた森本は債権者が居無いのを確かめ急いで駅に向かう、切符を買って残った金で弁当でも買おうと売店に行くと「貴方にも出来る自己破産」なる本が目についた「此れだ。」弁当を買ったら本は買えない、森本は迷わず本を買った実家までの四時間ジックリ読み「此れで死ななくても良い、捨てる神有れば拾う神ありだな母さん様様だ。」今迄死んだような顔をしていた森本の顔は生き生きしてきた。 病院に直行した森本は母の病室を訪れたが一瞬声が出なかった、余りにも変わりすぎた母の顔どす黒く変色し、歩けないのか痩せ細った身体には骨に皮が張り付いたようになっているドアの前に立ち尽くす息子に「母さん癌なんだって、もう何日も生きられないらしいよお前には心配かけたくなかったんだけど死ぬ前に一目会いたくてね、忙しいのに御免よ。」「何言ってんだよ、顔色も良い死ぬわけ無いだろ今俺が医者に聞いてくるよ其れでも癌だって言うならもっと大きな病院に移ろう、心配するな。」病室を出ると男泣きに泣いた医者に聞くまでも無く残り僅かな命だろう。 医者の話では持って半年早ければ三ヶ月だと言われた、努めて明るく病室に戻ると「母さん心配しなくても大丈夫だよ、今は良い薬が有って此れから使ってくれるそうだから死ぬなんて言うな俺は未だ何も親孝行してないんだから今死なれたら困るじゃないか。」母は弱弱しく「お前は昔から嘘をつくのが下手だったけど今も変わらないね。」母に言われ不覚にも堪えていた涙が頬を伝う。 「母さん何か食べたい物はないか。」母は首を振る「それじゃ家の風通しでもしてくる。」玄関を開けると黴臭い匂いが充満している、何ヶ月前から入院していたのだろう昨日の電話は看護師から携帯を借りたらしい、自分の足ではもう歩けないようだ家の窓全部開けて風を通し縁側でボンヤリしていると近所の人が通りかかり「俊夫君帰って来たのかね、母さんの按配はどうだい。」「ええ、まあまあです。」「然し母さんもついてないよな、新幹線が通るからって畑の殆んどを国が買い上げてくれたから、此れから楽になるって時に。」「え、オジサン今の話本当ですか。」「ああ、あんたん所の畑は殆んどだから一億や二億じゃきかないんじゃないか。」俊夫は急いで病院に引き返した。 「母さん風通ししてきたよ。」「ああ、ありがとうね。」「処で近所のオジサンに聞いたんだけど畑が売れたって本当なのかい。」「本当だよ、何か新幹線が通るからって家の畑全部国が買ってくれたんだよ郵便局に預けてあるから母さんが死んだら皆俊夫のものさ、今日は何時帰るんだい」「うん仕事があるから今日は帰るけど、今度は泊りがけで来るよ。」「そうかいお前も大変なのによく来てくれたね。」ゴソゴソと枕の下を探っていたが出された手には一万円札が数枚握られ「母さんは寝たきりだから使い道が無いんだよ、子供に土産でも買っていっておやり。」俊夫の手に握らせる「良いよ母さん。」然し母は何か感じ取ったのだろう「良いから持って行きなさい。」俊夫のズボンのポケットに捻り込んだ、そして通帳と印鑑の場所を教えると薬のせいなのだろう眠ってしまった。 俊夫は眠った母に手を合わせ急いで家に帰り其の足で弁護士の元を尋ね、自己破産の手続きを依頼した「今は自己破産が多いですから半年は見て下さいよ。」半年も待ってられない「何とか早くお願いします。」「そういわれても裁判所のやる事ですから。」「其処を何とかお願いします。」土下座して頼む「止めて下さい森本さん何とか上申書を出しておきますから。」申し立てから一ヶ月で審議は終わった。「貴方の場合何も財産がありませんから破産宣告と同時破産止決定が下されると思いますそして二ヵ月後破産宣告と同時廃止決定が出ました後は債権者から異議が出なければ二週間後に宣告が確定します、それから一ヶ月以内に免責の手続きが必要になりますが此れは私がやっておきましょう、貴方には色々御世話にもなりましたからね。」「ああ、其れから森本さん免責決定の為の再度審尋があります、此れが破産宣告の決定書です免責の申し立てが済めば貴方の借金はなくなります。」「有難うございました。」深々と頭を下げ弁護士のもとを立ち去った。 其れからの森本は忙しい日々を過ごした、朝晩と母の病院に電話を架け容態を聞くのが日課になっていた「母さん頑張ってくれ。」毎日祈る、3ヶ月後やっと免責が降り審尋も終わった森本の借金は消えたのある、肩の荷が降りたようなスッキリした気分夕焼けが美しい其の時電話が、母が入院している病院からだ母の死を知らせてきたのだ「お母さん有難う。」森本は母が此処まで生きてくれた事に感謝した何故なら免責決定が降りてからの収入は借金払いしなくてもいいからだ、実家に帰る時に読んだ本が役にたった。 豪華な葬式を出した、一夜にして一生働かなくてもいいだけの財産を残してくれたのだから「それにしても綱渡りだったな、免責が降りる前に母さんが死んでたら相続財産から借金の返済をしなければならなかったんだから、母さん長生きしてくれて有難う。」不謹慎にもこぼれる笑みを隠す事が出来なくなっている森本だった。
2007年08月19日
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題名「女は強し」 結婚して40年今年夫が定年を迎える、然し夫婦には何回目かの危機が訪れていた又も夫の浮気である、もう何回目だろうバレル度に謝る夫の姿も見飽きた、子供達も独立し其々家庭を持っている、年金の半分を貰って少しパートでもすれば生活には困らないでも其の前に夫に少し痛い目を見て貰わなくては腹の虫が治まらない。 妻は預貯金の残高を確かめた、相当額になっている「何の為にチマチマ貯めたのよ老後は有料老人ホームでゆったり過ごし、たまには旅行でもしたいと思ったから一生懸命貯めたんじゃない。」妻は通帳を床に叩きつけた「もう我慢出来ない、私だって好きな物を買って今迄我慢してきた事をするわ。」夫は今日も女の所に泊まるつもりか未だ帰って来ない、待つ積もり等サラサラ無い妻はサッサと寝室に行き明日の事を考えながら眠りに就く。 久しぶりに爽快な朝を迎えた妻は朝食もそこそこにデパートに出かける準備を始める開店に間に合うよう急いでいた、開店直後のデパートはまるで女王様のような気持ちにさせてくれる、数名の店員がドアの入り口に並び深々と頭を下げ「いらっしゃいませ。」満面の笑みを浮かべ出迎えてくれるのだ、其の快感は何度味わっても良いものだ。 「今日は冷やかしじゃないのよ、お客様なんだから。」鼻の穴を広げ定員を見回しながら貴金属売り場に直行、其処でも丁重な挨拶を受け欲しかった指輪やネックレスを数点買いブランド物のバックを数点買うと一千万円は羽が付いたように飛んでいった、妻は大いに満足しタクシーで帰宅「あ~金額を気にしないで買物するのがこんなに気持ちの良いものとは知らなかったわ、明日も絶対いくわ。」デリバリーの夕食を摂っていると珍しく夫が帰宅「飯は。」テーブルに並べられた豪華な夕食を横目にして聞く。 「あら貴方帰って来たの、適当に食べて。」妻がそんな態度を取ったのは初めてなので一瞬たじろいだようだ「貴方とはもう一緒に暮らして行けないわ、訳は言わなくても分かるわよね。」妻は自分の名前と判を押した離婚用紙を夫に差し出した、突然出された用紙にうろたえながら「本気じゃないだろ、女とはもう切れたよ二度と浮気はしないから許してくれよ。」「何度目かしら聞き飽きたわ、仏の顔も三度よ今度こそ本当に別れます退職金と年金の半分其れに今迄の慰謝料として預貯金は全額戴きますから。」「こんなに謝っているのに許してくれないのか。」「何度目かしら。」「だからもうしないって言ってるだろう。」夫の語気が荒くなる「嫌よもう決めたんだから。」「フン。」夫は居直って「お前は簡単に年金の半分は貰えると思っているようだが知ってるのか夫の承諾が必要だって事、其れに退職金、預貯金半分だって、そんな義務は無いんだお前の年で早々働く所なんてあるものか、離婚なんて諦めて俺に尽くすんだな。」 勝ち誇ったように高笑いしたが妻も負けてはいない「そう、じゃあ女と貴方に精神的苦痛を受けたと慰謝料を請求っするわ、ついでに年金と退職金の件もね私は本気よ。」「やれるものならやってみろ。」数ヵ月後夫は妻に土下座して許しを乞うていた、夫は見事に敗訴したからだ「マア私も好きな物が思いっきり買えたし、今後二度と浮気はしないと誓えるなら今回に限り許してあげるわ此れで分かったでしょう昔と違って妻の立場は強いのよ、高い授業料を払ったと思って反省するのね。」 「俺が稼いだから年金も退職金も貰えるのに不公平だ。」ボソっと呟く夫「何か言った。」女は強い。知ってましたか離婚時の年金分割離婚した場合に厚生年金(共済年金も同様)を夫婦で分割できる制度です分割されるのは、婚姻期間中の厚生年金保険料の納付記録(夫婦の合計)です。分割されるのは現実に支給される年金の額そのものではありませんので注意する必要があります。年金分割が出来るのは第一に、今年四月一日以降に離婚した場合に限られ其れまでに離婚した場合は分割できない。第二に離婚後二年以内に請求しなければならず、ずっと後になって申し出ても認められない事に注意。分割の割合は夫婦の話し合いで決めます、分割割合の上限は五割までです分割割合について合意ができたら、社会保険事務局に分割を請求します其の場合、合意内容を公正証書にするか、合意の書面を公証人に認証してもらう必要があります。分割割合について、話し合いで決める事が出来ない場合家庭裁判所に申し立てをして、裁判手続きによって分割割合を決める事ができます。 裁判所で分割割合を決める手続きとしては、調停、審判、人事訴訟があります離婚の調停や裁判と一緒に申し立てることも、それらとは別に申し立てをする事も出来ます 分割割合を定めるために、正確な情報が必要となりますそのため、夫婦のどちらかでも必要な情報を提供してもらうことができますその際、一定割合(通常は五割)で分割した場合の具体的な金額の見込み(ただし、後に多少変動する可能性があります)も教えてもらうことができます。 必要な情報は「年金分割のための情報通知書」に記載されて交付されますこの書類は裁判所に年金分割の割合定める申し立てをする際に必要な書類ですので申し立て前に必ず貰っておきましょう。知ってた方はゴメンなさい、知らなかった方はお勉強しましょう、近い将来のために。
2007年08月18日
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題名 「私を買って」 「私を買って、お盆も終わるし幾等でも良いのよ。」 私の前に立ち止まる人に必死でアピールするが暫く 私を品定めしていた人は顔を背けて行ってしまった 「又振られてしまったわ、今日買ってくれる人が 居なければ親方ににも捨てられてしまう。」 道行く人に声を掛け続けたが、とうとう店仕舞いの 時間になってしまった。 「今日一日ぐらい大丈夫だと思ったが矢張り売れ 残ってしまったか、こいつはもう売り物にならんな。」 私の首を乱暴に掴んで持ち上げた「待って親方、もう 一日だけ時間を頂戴、キット売れて見せるわ若いのより 私のような熟女の方が味は良いのよ。」 私の言葉など聞かずゴミ箱に放り込んでしまった 黒く変色したバナナを。
2007年08月17日
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題名 「百物語」 「ほら其処に。」 「きゃー。」夏と言えば怪談、深夜学生達が一軒の家に集まり百物語をしていた、一話終える毎に蝋燭の灯を一本づつ消して蝋燭の灯が全部消えた時怪奇現象が起こると伝えられているものである残り一話になった蝋燭も一本灯るのみ最後の話は男だった、話し終えると蝋燭の灯を消す部屋は闇に包まれる、皆暫く静かにしていたが 誰かが電器を点けた。「何も起る訳ないだろ昔話なんだから。」今迄の緊張が解け部屋は和やかな雰囲気に包まれた「一寸待ってよ、最後に話した人は何処に行ったの。」皆が部屋を見回す「其れより最後の人誰だったの。」「……思い出した、あいつは去年事故で亡くなった山本じゃないか。」「キャー。」女性達が騒ぎだした。 暫くして男性陣が種明かしをする「実はあいつは双子なんだ、今日の話をしたら乗ってきて君達を驚かせる為に計画をしてたんだ。」「何だ驚いて損した。」皆胸を撫で下ろし「其れで山本君は何処に隠れたの。」「オーイ山本もう出て来ても良いぞ。」声を掛けるが一向に出てくる気配が無い「帰ったんじゃないか。」「まさかフィナーレを観ずに帰る筈がないだろ。」其の時バタバタ慌しく階段を昇ってくる足音が聞こえ部屋をノックする「何だよ山本入ってこいよ。」入って来たのは母親だった「あんた達大変よ山本君が此処に来る途中、暴漢に襲われて今お亡くなりになったそうよ。」全員血の気が引いた、女の子は泣き出し震えている者もいるそして母親の後ろを見ると山本の姿が、部屋の中はパニック。 「山本君に頼まれたのよ、皆を驚かせようってね。」母親は楽しそうに笑いながら降りて行った、山本も母親と一緒に降りて行き一向に上がって来ない「何してるんだアイツ、オーイ山本上がって来いよ。」今度も母親が上がってきた真っ青な顔をして「如何したんだよ、もう種明かしは終わったんだろ。」「今電話で山本君が亡くなったって…」「もう其の手には乗らないよ。」皆が笑う。 「本当なんだよ。」母親は震えて言葉がハッキリしない「病院は何処なんだ。」「今繋がってるから出ておくれ。」学生の一人が電話に出た、間違いなく山本の母親からだ「皆さんには御世話になりました今日の集まりをとても楽しみにしていたのですが…」それじゃ今迄いた山本は…皆逃げるように帰っていった。
2007年08月17日
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題名 「先住人」 「今日の出動要請は多いな。」「ああ、此の暑さだからな熱中症や持病を持った人達には堪えるだろう。」「言ってる傍から出動要請だよ、場所は近いな。」マイクを持って「安田班出動○○区○○番地50歳男性足の骨折。」要請を受けた安田班3名が出動する。 救急車が到着すると男性は携帯を手に部屋の中で寝転がっていた「申し訳ありません御手数をお掛けして。」男の足は見事に腫れ上がっている、隊員は素早く脈を取り血圧酸素を計る「既往症はありますか。」男に聞くと明るい声で「健康そのものですよ。」総てを記録してから2名の隊員が肩を貸し救急車まで連れて行く、1名の隊員がストレチャーを出して待機していた。 「大丈夫ですか、もう直ぐですからね。」優しく声をかけながら車に向かう、例え骨折とは言えどショック症状を起こす人もいるから慎重に誘導しなければならない、無事車に到着しストレッチャーに乗せ車に押し込み搬送先の病院を探す、○○総合病院で引き受ける旨の返事救急車は発車したが数分もしない内に患者の容態が変化、胸を掻き毟るような仕草をしだした隊員達は慌てた明らかに心臓発作の兆候だからだ「○○さん如何しましたか。」声を掛けるが「苦しい、息が出来無い。」を繰り返すばかり、安田隊長が「○○病院に循環器はあったか。」「はい総合病院なので有ると思いますから早速アクセスします。」病院まで後3分もすれば到着する。 「頑張って下さい、もう直ぐ病院に着きますからね。」「隊長、循環器受け入れ態勢出来ています。」其の声を聞いて安心したかのように男の心臓が止まった「心臓マッサージ開始。」男の心臓を15回ぐらい押したところで病院に到着した医師達が出迎えている、心臓マッサージを続けながら救急センターの治療台に移された途端男は息を吹き返した、そして何事も無かったかのように足の痛みを訴える。 皆あっけにとられ「大丈夫ですか?」男の顔を覗き込む「何がです。」「心臓ですよ、今迄貴方の心臓は止まっていたんですよ。」「そうでしたか、救急車に乗せられた途端変な男が出てきて『苦しいじゃないか俺の上に乗るな。』って言いながら私の心臓を掴んで離さないんですよ、其処まで聞いて隊員達はゾッとした何故なら数ヶ月前から此の救急車に患者を乗せると必ず心臓発作を起こす人達ばかりだったのだ、勿論死亡した患者もいた。 決して死亡するような病気では無い筈なのにである、隊員達の間では「死の救急車」などと呼ばれていた、数ヶ月前心臓発作で苦しみ抜いて救急車の中で死亡した患者が居た救急車では日常茶飯事なのだが此の男は死を認めず今も救急車のベットに横たわっているのだ。 「俺がこんなに苦しんでいるのに何故俺の上に人を乗せるんだ、こいつにも俺と同じ苦しみを味あわせてやる、そうしたら俺も助けてくれるかも知れない。」男の上に乗ってくる患者の心臓を鷲づかみにし続けているが男の苦しみは終わらない。
2007年08月16日
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題名 「舐めたらいかんぜよ」 或る会社で忘年会が行われていた「皆さん日頃は御疲れ様です、今日は一年の疲れを労う意味でささやかでは御座いますが宴を設けさせて戴きました、無礼講で楽しんで下さい。」社長の挨拶が済むと皆で乾杯し幕は開いた、何処にでもある風景だ。 洋子は今年45歳、同期入社した仲間は皆寿退社し社内では陰で御局様と呼ばれて居る事も知っている、勤続23年にもなるのに出世も望めず友達の一人も居ない寂しい日々、一人で呑むのは慣れているが今日は特に侘しい宴もたけなわだが帰り支度を始めた其の時「先輩呑んでますか。」洋子が手取り足取り教えた宮田が声を掛けてきた、宮田は確か今度の人事異動で課長になる筈だ「宮田君今度の人事異動では課長ね、おめでとう。」「嫌だな、そんなの噂ですよ蓋を開けてみないと分かりませんからね人事は、若しそうなら先輩の御陰です。」流石に如才が無い。 「其れより先輩、先輩に相談に乗って欲しい事があるんですよ、ソロソロ抜け出して話を聞いて戴けませんか。」洋子も帰宅しようと思っていたところなので「良いわよ、でも私に聞くより課長や部長に聞いた方が良くない。」宮田は真剣な顔で「先輩に聞いて欲しいんです。」嬉しくもあったが何かこそばゆく「それじゃコーヒーでも飲みながら…」集合時間が遅かったせいか早くに切り上げたつもりでも外は既にネオンが煌いていた程好い風が頬を撫でる、先に出ていた宮田が「未だ呑みますか、僕は先輩の部屋でユックリコーヒーでも戴きながら話を聞いて欲しいんですけど。」甘えた声で洋子を見詰める。 幾等可愛い後輩と言えど宮田も男だ女一人の部屋に入れる訳にはいかない然し其の日は如何かしていた、人恋しさに「そうね相談だけならコーヒー代も勿体無いし。」うっかり部屋に入れてしまった「今コーヒーを入れるから其の辺に座って待ってて。 何時の間に来たのか台所に立つ洋子の背後で「そんな物は要らない貴女が欲しい。」洋子を激しく抱きしめた、そんなつもりは全く無かった洋子は激しく抵抗したが男の力には適わず2~3回平手で叩かれソファーに引き倒されて強姦されてしまった、事が終わると「先輩ナイスでしたよ、此れからも宜しくお願い出来ませんか結婚は出来ませんけどね。」冷たい視線を洋子に向けた。 「貴方何をしたか分かっているの。」「何ってナニですよ。」セセラ笑う「強姦罪で訴えるわ。」「いいですよ、でも恥をかくのは先輩ですよ警察で細かく聞かれ恥ずかしい思いをして和姦と判断されるかも知れませんよ、何しろ男を部屋に入れたんですから其の上会社中に知れ渡り会社にも居られなくなるかも、其れで良かったらどうぞ。」宮田は言うだけ言うとサッサと帰ってしまった、悔しさに涙が溢れるが確かに宮田の言う通りだ野良犬に噛まれたと思い諦めなければならないのか、強姦は親告罪だから洋子が訴えない限り罪には問われないと分かっていて強姦した狡男だ。 洋子は考えた、此の儘泣き寝入りするのも悔しいだからと言って警察に駆け込むのも考え様だジックリ一晩考えた末出した洋子の結論は見事であった、翌日何食わぬ顔で出社した宮田は何事も無かったかのように「今晩も行っていいか。」馴れ馴れしく近付く、洋子は無視して真っ直ぐ社長室に向かった。 「アポの無い方との面会はしておりません。」秘書に冷たくあしらわれたが「緊急事態よ取り次がないと貴方の首が危ないかも。」伊達に40数年生きてはいない20代ソコソコの若い女に負けていない、秘書が社長に取り次ぐと社長は前代みもんの取次ぎに驚き面会を承知した。 不機嫌な社長の机に一枚の紙を提出し、昨夜の出来事を話し洋子の要求を求めた暫く考えていた社長は全面的に洋子の要求を呑んだ上で洋子に感謝した、非常幹部会が召集され部課長も出席した席で洋子の話しが社長の口から出た、幹部は驚き特に宮田を次の課長に推薦している課長は下を向いたままだ結論が言い渡された宮田は解雇、課長は左遷。 左遷された課長の後には洋子が座る事となった、朝社長室に提出した紙は診断書だった強姦罪では宮田の言う通り和姦とも判断されかねない、そこで傷害罪で訴えるつもりで病院に行き診断書を書いてもらったのだ、然し例え宮田を訴えたとしても洋子には何の利益にもならない其処で社長と直談判したのだ「会社から犯罪者を出すか、私の要求を呑んでくれるか。」どちらに転んでも洋子の痛みは消える、社長が此の手の話を尤も嫌うと言う噂を信じて賭けた「私は此の紙を持って警察に行っても良いのですが、其の前に社長にお話ししてからと思い踏み止まりました宮田と課長はまるで師弟関係どちらが会社に残っても私は退職しなければならないでしょう、宮田は私の後輩宮田を課長に押されるのであれば私は警察に行きます。」 其処まで言うと社長は総て分かったようで洋子を課長にする事を約束してくれたのだ会社始まって以来の女性管理職が誕生した「私は此れで(小指を立て)会社を辞めました。」宮田が言ったか如何かは分からない。
2007年08月16日
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題名 「根性」 義母が大根を買って来た 「まあ、立派な大根今日は煮物ですか。」 「秋大根と言えば大根おろしですよ、あの 辛さが好きでね。」 「其れじゃ半分ぐらいおろしましょうか。」 嫁が大根をおろしだす。 「駄目よ、そんなおろし方じゃ食べてごらんなさい ちっとも辛くないでしょ。」 確かにピリっとはするがツーンとする辛味は無い 嫁から大根を取り上げた義母が力一杯摩り下ろし 「食べて御覧なさい。」スプーン1ッパイの大根 おろしを嫁に渡す。 舌が痺れるような辛さに飛び上がった 「義母様は何をしても御上手ですわ。」 「料理は心よ、大根おろしと言えど心を込めて おろせば美味しく戴けるんですよ。」 「はい義母様。」 鬼のような形相で大根をおろし続ける義母を見ながら 「別に大根なんか辛くなくても良いわよ、昔から 根性の悪い者がおろすと辛くなるって言うじゃない。」 そう思いながらも「義母様御上手ですわ。」 ニコニコしながら褒めちぎり、血圧の高い義母がポックリ 逝ってくれないかと願う嫁の魂胆等知らず、顔を真っ赤にして 力一杯大根をすりおろす義母、どちらの根性が悪いのか 大根のみが知っている。
2007年08月15日
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題名 「種」 街頭で何かを配布している、人を選んで手渡しているようだ男はその様な物には余り興味が無い、配っている物総て受け取っていたら会社に着く頃には単行本一冊持たされたような重さになってしまう、捨てる場所も無く結局会社まで持ち歩き自分の机のゴミ箱に放り込むしかない何度か苦い経験をしているのでなるべく其の類には近寄らないようにしている然し今日の配布人は違った、俺を目指し人を掻き分け近付いて来て「是非お試し下さい。」何やら固い物をポケットに放り込むと元居た場所に戻って行った。 何を入れられたのか確認する時間など無い、急がなければ乗り継ぎに遅れる何時もの事ながら地獄のラッシュを乗り越え会社に着く頃には一日のパワーが失われている、ポケットに入れられたものを確認したのは昼休み食事の前にトイレに行きハンカチを探していて見つけた「何だ此れは。」透明な袋に蟹の爪程の種と紙が入っている袋を破って読んでみると「幸せの種」大きな文字で書かれていて其の横に「此の種を育てた貴方には幸せが訪れます」等と胡散臭い事が書かれてあった、余程トイレに捨てて行こうかとも考えたが「花になるのだろうか、木になるのだろうか見たことも無い種に興味を持った。 取り合えず又ポケットに突っ込み食堂に向かう、一番安い定食を頼み旨くもない食事を済ませると最近肩身の狭い思いをさせられている喫煙所に行き自分が吸っているのか人の煙を吸わされているのか分からない狭い場所で一本吸うと早々と飛び出した何時もながら面白くも無い仕事が終わり帰宅すると笑い声が玄関の外まで聞こえる、娘夫婦が帰って来ているのだろう。 「ただいま。」声を掛けるが反応は無い、リビングに行くと娘婿が挨拶するぐらいで妻や娘は無視「あなた、食事は何時ものように台所に用意してありますからね。」大分前から食事は一人で摂る様になっていた妻に言わせると「あなたの苦虫を噛み潰したような顔を見て食べても美味しくないから一人で食べて下さいよ。」寝室も食事も別、完全な家庭内別居だった。 今日はすき焼だったようだ、鍋に豆腐と僅かな野菜が残っている男の分の肉などある筈は無いと思いながらも冷蔵庫を開けてみる、見事に空何も入っていない、三リットル入りの焼酎に氷と温い水道水で薄め僅かに残った野菜を肴にチビチビ呑む、娘婿はビールを呑んでいる「俺もたまにはビールが呑みたいな。」大きな声で叫ぶと「駄目よ、あなたは底無しなんだから少しは家計の事も考えて頂戴。」すかさず返事が返って来る、」其の上「御風呂はあなたが最後ですから掃除して上がって下さいよ。」止めも刺す。 梅雨が明けたら灼熱の暑さ、慎ましい食事を終えシャワーを浴びてサッパリしようと服を着替えているとポケットに例の種が、説明書には「どのような悪い土壌でも育ちます、花が枯れた時願いを唱え引っこ抜いて下さいキット貴方に幸せをもたらすでしょう。」信じた訳ではないが一応生き物だ捨ててしまうのは哀れ、台所からマグカップを持って来て花壇の土を少し入れて自分の部屋の片隅に置き「あ~此の種に花が咲いて幸せが訪れるのなら俺は迷わず妻の消滅を願うだろうな。」マグカップを人差し指で弾いた。 虐げられた毎日が続いた或る日マグカップに植えた種から窮屈そうに葉が出ている、男は土を足しドンブリに移し変えた葉は見る見る伸びて花の蕾を持ち始めたではないか「どんな花が咲くんだろう。」毎日其の蕾を見ながら晩酌するのが楽しみになっていた、数日後花は開花した然し男の期待を裏切り世にも醜い然も異臭を放っている、其の匂いに妻が飛んできた。 「あなた、なんなの此の匂いは。」途端に花は枯れ花弁は落ちた「今こそ願いを言うべき時だ。」男が手を伸ばした其の時、種の能書きを読んでいた妻が「又胡散臭い物を買ってきて、此れが本当なら私はもっと甲斐性のある若い男と結婚し直したいわよ。」茎を持って思いっきり引っこ抜こうとした時男も茎を掴み「俺の願いは妻の消滅だ。」二人で叫んでいたまるでマンドラゴラのように人の形をした根が悲鳴は上げなかったが「ケ、ケ、ケ…」不気味な笑いを発して引き抜かれた。 笑って出てきた根っこを掴んだまま妻は茫然と夫の顔を見ていたが「私の願いを叶えてくれるのよね。」「何言ってるんだ育てたのは俺だぞ。」二人は期待を胸に秘めながら数日経過したが二人に何の変化も無く「矢張り騙されたか、そんな旨い話ある訳ないよな。」二人が思い始めた頃、男が帰宅すると妻の姿は無くテーブルに一枚の紙とメモが置いてあった、妻のサイン入り離婚用紙とメモに写真、「あの話は本当だったのよ私此の人と結婚します。」一行書かれたメモ、仕立ての良いスーツに身を纏い仲良く手を繋いだ写真、確かに男より金持ちなのだろう然し男は願いが叶ったにも関わらず素直に喜べなかった。 話し合いも無く突然消えた妻、明らかに合成と分かる写真「妻が危険だ。」男は妻がテーブルに残していった物を持って警察に駆け込んだ、警察は事件として扱ってくれた何故なら同様の訴えが数件届けられていたからである、警察が水際で妻を救出してくれた。「某国が大掛かりな日本人拉致を計画している」との情報を掴んでいたので警戒していてくれた御陰であった、街頭で某国でしか栽培されていない不思議な植物の種を配布し配布した人間の後を付け拉致するものである、自分から出て行ったように工作しておけば疑われないと考えたのだろう。狭い船底に数十名が閉じ込められていた、後数名で出発と言う所だった妻は男の胸で感謝の言葉を言いながら泣き崩れていたが其れも数日、又元の日常が戻ってきた男は後悔の日々を過ごす「如何して俺は警察になんか行ったんだろう。」
2007年08月15日
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題名 「狐の嫁入り」 まさお君は今年一年生になったばかりの元気な男の子、明日学校に持って行く物をカバンに入れていると「カサカサ」庭の方で音がします、野良猫か野良犬が庭に入って来ているのだろうと音のする辺りを見ていました何故なら庭にはお母さんが作った畑があったからです其処にオシッコを掛けられると折角大きくなってきた作物が腐ってしまいお母さんが悲しむので追っ払ってやろうと目を凝らして見ていると三匹の茶色い生き物が大きなトマトを採ろうとしていました。 まさお君はソット部屋を出て玄関にある箒を持って近付き「コラ」思いっきり大きな声で 怒鳴ると三匹の茶色い生き物は腰を抜かして逃げられなくなってしまいましたトマトを持ったままひっくりかえった一匹が「ごめんなさい、もうしませんから許して下さい。」驚いた事に人間の言葉で喋ったのです、よくよく見ると三匹の生き物は犬や猫ではなく狐でした。 テレビや遠足に行った時に見たので覚えていたのです「如何して人間の言葉が話せるんだい。」 「お嫁様の準備をする時だけ喋る事ができるんです。」 「お嫁様?」 「明日は狐の嫁入りなんですが山には食べる物が少なくなっていて、悪い事とは知りながら 『お嫁様』に食べて戴く物を集めているんです、もうしませんから許して下さい。」 三匹の狐は並んで頭を下げました。 まさお君は初めて聞く「狐の嫁入り」が見たくなり「明日僕も行ってみたいな。」狐にお願いすると三匹は困った顔をしていましたが「誰にも言ってはいけませんよ。」約束出来ますか。」 「言わないよ。」 「それじゃ明日此の時間にお迎えに来ますから待っていて下さい。」三匹の狐はトマトを 一つずつ咥えて庭から出て行ったのです。 次の日まさお君は朝から落ち着きません、学校では先生に何度も注意されました何時もなら先生に叱られると「シュン」としてしまうのですが今日は全然気になりません友達に言いたいのを我慢するのは辛かったのですが狐と約束をしたのでじっと我慢していました「早く夜にならないかな。」 其ればかり考えていると一日はとても長く感じられ、学校が終わると何時もは皆と遊んで帰るのに一人で走って家に帰り、オヤツを食べると布団に潜り込んでしまいました。 狐の嫁入りは夜だから折角連れていって貰っても眠くなったら見られません、中々眠れなかったのですがいつの間にか寝てしまい「まさお、ご飯ですよ。」お母さんの呼ぶ声で目が覚め時計を見ると6時、慌てて食卓に着きました「まさお、何処か身体の調子が悪いの?」「如何して。」 「学校から帰って来て寝てしまうなんて初めてだからね。」 「どこも悪くないよ眠かっただけだよ。」お母さんに嘘をつくのはとても嫌でしたが狐との 約束は守らなければなりません、掻き込むようにご飯を食べ終わると自分の部屋に戻り狐が来るまでの間に明日の学校の支度をしておきました。 電器を消して昨日狐が出てきた所をじっと見ているうちに又寝てしまったのですが「コンコン。」窓のガラスを叩く音で目が覚めると、狐が赤いハッピを着て立っています「約束通り迎えにきましたよさあ行きましょう。」 「待ってよ僕の靴、玄関にあるんだ取ってくるよ。」 「そんな時間はありません裸足で行きましょう、私の後をシッカリ付いて来て下さいね。」 ピョンピョン跳ねていきます、まさお君は慌てて窓から飛び降り狐の後を追いかけました。 裏山を少し登ると赤いハッピを着た狐がいっぱい居ます、皆が「ようこそ。」声を掛けてまさお君にタイマツを持たせてくれました、皆がタイマツを持っているので山は昼のように明るくなっています「お嫁様がいらしたぞ。」声のする方を見ると白いハッピを着た狐が二匹の狐に手を引かれ歩いています、後ろには食べ物を持った狐がいっぱい「お嫁様がいらしたぞ。」 叫びながら歩いているのです、其の行列は山の頂上まで続いています。 あんまり綺麗なのでまさお君が見取れていると連れてきてくれた狐が「もういいでしょう、私が送っていきますから家に帰りましょう。」持っていたタイマツを仲間の狐に渡すとまさお君の手を引き部屋の窓まで送ってくれると山に帰っていったのです、何時窓から部屋に入って寝たのかも分からない程疲れたまさお君は、朝お母さんに起こされるまで起きられませんでしたまるで夢を見ていたようでしたが足の裏は泥だらけ、布団にも泥が落ちていています。 お母さんがまさお君を起こしにきて泥だらけの布団とまさお君の足を見て「窓から外に出て遊んだのね。」凄く怒ったので本当の事を言いましたが信じてもらえません「夢でも見たんでしょう。」笑って相手にもしてくれる処か「もう二度と窓から出ては駄目よ。」雑巾でまさお君の足を拭きながら言いました「本当の話なのにな。」朝ごはんを食べているとお父さんが「昨日は『狐の嫁入り』があったな、裏山がタイマツの行列のように明るかったぞ。」まさお君は昨日の出来事をお父さんに話しました。お父さんも笑いながら「そうか、狐の御嫁さんを見たのか綺麗だったか?」あまり本気ではないようでしたが「狐は同じ顔をしているから分からなかったよ。」 お父さんとお母さんは顔を見合わせ「いい経験をしたわね。」「あまり見られるものじゃ無いから良かったな。」まさお君の頭を撫でてくれました、皆が出て行くとお母さんは庭に出て畑仕事を始めました「今日食べごろのトマトが有ったわね。」トマトの所に行くと大きなトマトが三つ無くなっています、ふと、まさお君の話が頭に浮かびましたが「まさかね、誰かが持って行ったのよ。」苦笑しながら他の野菜の世話をし続けたのです。 まさお君は次の日から庭の片隅を見るのが習慣になってしまいましたが、狐は二度と姿を現すことはありませんでした。
2007年08月14日
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題名 「小さな人」 幼い頃両親に聞いた事は有りませんか「ねえ、テレビには小さな人が入っているの。」「そうよ小さな人が一杯入ってお仕事しているのよ。」そう言われテレビをあらゆる角度から見た経験はありませんか、今考えると馬鹿馬鹿しい話ですが幼い頃は本気で悩んだものです。 今我が子が同じ質問をしています、矢張り私は両親と同じ答えをしました未だ幼稚園の我が子はスッカリ信じ私の幼い頃と同じように小さな人の入り口を探しています、其の姿を微笑ましく見て居ると「お父さん有ったよ、小さな人の入り口が。」興奮して報告に来ました今更嘘とは言えず「どれ、どれ。」重い腰を上げて我が子の指差す所を見ると、引越しの時にぶつけて壊れた箇所でしたが「ほう、良く見つけたねお父さんは見つけられなかったよ。」息子を褒めると、得意そうな我が子は「でも如何したら入れるんだろう。」又悩み始めたのです。 暫くすると「お父さん入れたよ、皆が引っ張ってくれたんだ。」「そんな馬鹿な。」テレビの画面の中から我が子が呼んでいる、信じられないが確かに画面の中だ「出て来なさい半狂乱で叫んだ瞬間番組が変わり我が子の姿は消えた、直ぐにTV局にTELしたが「そんな子供は知らない、夢でも見てたんじゃないですか。」軽く一蹴されてしまった妻が帰って来た、事実を話したが相手にして貰えない家中探し居ない事を確認すると我が子の行きそうな近所の家にも連絡をして居ないと分かると警察に捜索願いを出した。 父親は警官に事実を話したが信じては貰えず逆に疑われてしまった事情徴収を受け犯人扱いされた誤解が解けると誘拐の恐れもあると物々しい機械が家に運びこまれ2週間もの間刑事が泊り込み「電話はなるべく長く話して下さい。」などと忠告を受けていたが一向に犯人からの連絡は無く警察は引き上げた、事件、事故両面からの捜査にも関わらず何の進展も無く3週間が過ぎた憔悴しきった両親の耳に聞き覚えのある我が子の声。 声はすれど姿は見えない、耳を澄まして声のする方角を見るとTVの下に小さな人となった我が子の姿が…
2007年08月13日
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題名 「墓参り」 年に一度の墓参り、一家は両家の墓参りを一日で済ませようとしていた、何故なら夫には1日しか休日が無かった朝早く出掛けたにも関わらず妻の先祖が眠る墓に着いたのは夕暮時、雑草を取り花を供え線香を立てた頃にはすっかり夕闇に包まれていた。「遅くなったな、帰ろうか。」「ええ、此れで仏様も気持ち良く 盆を迎えられるわね、貴方御疲れ様。」「君も疲れただろう、一日で二つの墓参りは。」互いに労い帰途につこうとした時娘が眠くなったのだろう、しきりに目を擦りながら「お父さん、お母さん皆も一緒に帰りたいって言ってるよ。」夫婦は周りを見回したが誰も居ない。 「皆って誰なんだ。」「いっぱい。」寝ぼけているんだろうと思いながらも気持ちの良いものではない「さあ、帰るぞ。」親子が車に戻ると「ワーイ車の中にいっぱいいるよ、私お爺ちゃんの膝の上が良いな。」又気味の悪い事を言い出す。 「誰もいないじゃないか、気味の悪い事を言うんじゃない。」 「だって本当なんだもん。」 「そんな事ばかり言ってると怒りますよ、さあ御家に着くまで横になって寝ていなさい。」暫く大人しく寝ていた娘が突然起き上がり 「ねえ、お爺ちゃんとお婆ちゃんが寂しいから一緒に行こうって言ってるよ。」 「未だ寝ぼけているのね、お爺ちゃんとお婆ちゃんは死んだでしょう一緒には行けないのよ。」 「でも私の隣に居るんだもん。」あまり真剣に言うので馬鹿馬鹿しいと思いながらも二人は振り返った。 「お父さん。」「お義父さん。」二人にもハッキリ其の姿が見えた、其の瞬間正面から大型トラックが…五人は仲良く元来た道を引き返して行った。 墓参りの帰りに事故が多いのはコンナ理由があるのです皆さんも気を付けて下さい。
2007年08月13日
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