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題名 「心残り」 男は朝から苛立っていた、朝飯もそこそこに席を立ち何時もより早く家を出る 今日からもたされた弁当をぶら下げて。 弁当を持つとき妻の唇がピクっと上がった、それも苛立ちの一因だ 「クソ、早く行って誰も居ない会社で思いっきり吸ってやる。」胸に入れた 箱を押さえ家を出た、男は昨日の休日に今月分として貰った小遣いを 使い果たしたうえ妻名義の預金に手を付けていた。 「勝ってコッソリ返しておけばいいさ。」暗証番号は知っている 始めは恐るおそる2万円引き出した、次の小遣いで返せる金額だ 「ボーナスが出たら穴埋めしてやればいいさ。」と又2万 今度こそ当たると又3万、とうとう引き出した金額は10万円になっていた。 青くなりながらも素知らぬ顔でカードを胸に入れ「ばれない内に月々 幾等か返していけばいいさ、急に必要になる金でもないだろう。」 たかを括って帰宅ところがばれたのは早くも当日、帰宅すると妻が 食卓の椅子を2つ陣取り恐ろしい顏をして待ち構えていたのだ、取り合えず 平然と「どうしたそんな恐ろしい顏をして。」引きつった笑顔で聞く 妻はイキナリ「泥棒、泥棒。」と喚きながら男に迫って来る。 如何してばれたのか不思議に思いながら「いきなり何の事だ。」 不機嫌に答えると「泥棒、私のカードかえしてよ。」鬼のような形相で 迫ってくる「何で俺なんだ、そんなもん知るか。」あくまでもしらを きり通すつもりだった。 妻は電話の置いてあるリビングに向かって歩き出し「本当に知らないのね それじゃ警察に盗難届けを出さなきゃ。」受話器を取り上げ指が「1」を押した 男は観念し「悪かった、俺だよ。」と言わざるを得ず妻にカードを差し出した 其の途端男の為に作ってあった夕食が飛んできた、避けたかと思うと灰皿 鍋、サイドボードのガラスは粉々になってしまい其の破片が男の頬をかすめ 血が1滴2滴滴り落ちた時男は逆切れした。 「うるさい、元々俺の稼いだ金だ、どんな使い方をしようと勝手だろう。」 すると妻の顔は見る見る赤くなり噴火「あれは私が結婚する前に貯めていた お金よ、泥棒。」喚きながら二階に上がり男の衣類を引っ張り出し 「出てって、出て行け。」 男目指して投げつける、こうなっては手が付けられない。 散乱した自分の衣類の上に座り「悪かった、俺が悪かった許してくれ。」 手をついて謝るが、さかりのついた雌牛のように息を荒げながら 「それで、どうして返してくれるのよ。」仁王立ちで迫ってくる どうしょうか考える隙を与えず、男が帰って来るまで充分考えていた妻が 「タバコを止めるなら許してあげても良いわよ。」と先手を打って来た。 タバコを吸わない妻には常々嫌味を言われていた「壁が汚れる、タバコは 吸う人より傍に居る人の方が肺癌になる確率が高いのよ、私を殺す気。」 数え挙げたらきりがない、男は素早く計算したタバコ代として500円 昼飯代として500円、毎日千円握り締め出勤するのだが朝飯をシッカリ 食べて行けば昼一食ぐらい食べなくても死にはしない、昼飯代をタバコに 廻せる。 「いいよ、それで許してくれるなら。」内心「シテヤッタリ」とほくそ笑むが 飽く迄も苦渋に満ちた表情で答えた「本当に止められるのね。」 あまりにもアッサリ条件を飲んだので疑いの目を向ける「ああ、でも今残って いるのぐらいは吸っても良いだろう。」オソルオソルお伺いをたてると 小さな角が出かかり「どれぐらい残っているのよ。」語気が荒くなる。 ポケットからタバコの箱を取り出すと、ひったくられた「5本…まあいいわ でもそれが無くなったら本当に止められるのね。」しつこく念を押す 「しめしめ。」心の中で思いながらも「しつこいな、第一金がないだろう。」 憮然ととし後ろを向いてペロリと舌を出した。 しかし妻の方が上手だった「そうね、明日から弁当を持っていって貰うんですもの 一円たりと貴方の自由になるお金何てないわよね。」と高笑いする 「エー弁当。」 「何かご不満。」 計算が違ってくる「いや、昼にも色々付き合いがあるし弁当は勘弁してくれ。」 妻の目がつりあがってきた「昼の付き合いですって、今迄そんな事をして何の 役に立ったの同期で平は貴方一人なのはどういう訳?無意味な付き合いが早く 断ち切れて良かったじゃない。」出て来る出て来る妻の口が途切れない 「しまった別の言い訳を言えばよかった。」後悔しても後のまつり 「良いわね明日から弁当よ。」止めを刺しサッサと寝てしまった。 散乱したリビングに戻り幾等か綺麗なソファーの端を確保すると呆然としながら 習慣でタバコに火を点けていた、戦場の後を眺め此れからの事を考えていると 吸ってもいないのに短くなっていくタバコに気づき慌てて思いっきり吸い込んだ。 結局昨夜は4本も吸ってしまった、朝食卓に着くと灰皿に4本の吸殻が綺麗に 並べられ朝食と弁当が置いてあった朝食を済ますと習慣でタバコに手が伸びる 最後の一本だ妻の前で吸うのは腹立たしい。 男の苛立ちはそんな訳だった、カラカラと鳴る1本しか入ってないタバコの箱 「最後の1本なんだから、そう簡単には吸えないぞ。」ポケットから箱を出し 箱の上から香りを嗅ぐバスを待つ間何度もそんな事を繰り返していた。 「それにしても今日は遅いな。」バスの来る方向に身を乗り出して眺めるが 一向に来る気配は無い、男が家を出る時間が早かっただけなのだがそんな事には 気づかない男は段々我慢が出来なくなってきた、直接香りを嗅いでみたい衝動を 抑えきれなくなり大切に箱から取り出しフィルター部分から先端に鼻を移動させる そんな動作を2回程繰り返し慎重に箱に戻そうとした其の瞬間、大型ダンプが 猛スピードで通過した。 無常にも男のタバコは宙を舞いコロコロと車道に「最後の1本車に轢かれて なるものか。」脇目も振らず夢中で追いかけた、待ちに待ったバスは男の上に 手にはシッカリ最後の1本が握られていた。
2007年05月31日
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題名 「ラブウイルス」 何時の時代も悪質なウイルスが発生し人々を悩ます この時代最も悪質なウイルスが発生した、何処を見ても 人間が団子状態で固まっている。 各々が違う方向に行きたいので動かないのだ まるでオシクラ饅頭をしているように見える。 団子の集団が又違う団子と合体してしまう事もあり 大きな集団は道路を封鎖してしまう、数分で離れる 集団もあれば何日も其のままの集団もある、中には全く 合体しない人もいる。 政府はこれを「ラブウイルス」と洒落た名前を付けて 発表、ウイルスに感染した人が咳をすると其の飛沫を受けた人に 引き寄せられる、其の効果は数分で消えるのだが感染者が 咳をし続ける限り次々人を引き寄せる、其の中の感染者が 完治しない限り最悪である。 政府は早急にウイルス撲滅に向けて開発チームを結成し ワクチン開発を急がせた、今日明日に出来る物ではない経済に 支障をきたさない内に撲滅しなければならない。 取り合えずテレビや新聞で臨時ニュースを流し外出時は マスクの着用を義務付け、なるべく外出は控えるよう呼びかける しかなかった現在団子状態になっている人々にマスクを支給。 数日見知らぬ人と離れられなかった人もマスクが功をなしたのか 数分で解放されたが、中にはこれ幸いとウイルス保菌者が 若い女の子を追いかけ咳き込む不届き者も現れたが解放された 女の子は勿論男を訴えた。 何処から飛来して来たものか感染源も解らぬままウイルスは死滅 した為開発チームも自然消滅した、しかし或る部屋で密かに培養 している男が居る事は誰も知らない。 幾つものカプセルに保存している男は40になっても 女性に縁がなく最終手段として培養し続けているのだが 又使われる事が無い事を祈るばかりである。
2007年05月30日
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題名 「フリーマーッケト」 「明日の休みは久しぶりにフリーマーケットにでも行ってみるか。」 父親が提案すると子供達から歓声の声があがった 「今度こそ良いのが有るといいわね。」妻も機嫌が良い 「前回はハズレだったからな。」 「そうよ、ピクリとも動かないのが陳列してあるんですもの驚いたわ。」 「リサイクルの意味をはき違えているんじゃないか。」 「明日こそ子供達の教育になる物知りが居ると良いな。」 「ええ、私達の両親が生きていてくれたら一番良かったのだけど 二人とも孫の顔も見ずに亡くなったんですもの。」 「そうだな、せめて親孝行の真似事でもしたいし僕達がフリーマーケットに 出されないよう今から老人の居る家庭を経験させておかなければな。」 「でもイキナリ寝たきり老人の世話は嫌ですよ。」 「それは僕も同じだよ。」笑いながら話していると子供達も 明日の事を考えているのだろう、興奮して中々寝室に行こうとしない 「いい加減に寝ないと明日連れて行きませんよ。」妻から叱られ やっと寝室に消えた。 嫁と合わずに出されている老人、有料老人ホームに入所するだけの ゆとりの無い老人、一人暮らしに不安を感じ始めた老人など様々な 事情を抱えた老人が出品されたり自らを売りに出す。 たちの悪い家では寝たきり老人を出品し売れ残ったら其のまま 放置して帰る所もあるが、勿論申し込み段階で厳しい審査、規定が 設けられている為即日元の家庭に送還されるのだが放置老人は後を絶たない 開催が終わった後を見回る業者のトラックに回収の札を付けられた 老人が転がされている光景は何時見ても哀れだ。 そんな事とは当分無縁な此の家族は明日のフリーマーケットの 楽しみで頭が一杯だった。
2007年05月30日
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題名 「お母さんと一緒」 「お母さんの傍が一番好き何時も一緒、でも本当は来年から 幼稚園だから少しの時間離れていなければならないかな 寂しいけどお友達が沢山出来ると良いな今から楽しみ。 お父さんが帰って来た、お出迎えしたいけどこの頃二人共 変なのよ私が話しかけても返事もしてくれないし、お母さんや 私の顔も見ないで御酒ばっかり呑んでるの。 お母さんもお父さんが帰って来ても私を連れてお父さんの 後ろに立っているだけ、どうしてかなリビングから押し殺した ような嗚咽が聞こえる。 「どうして俺一人残して…」 「そっと覗いて見るとお父さんは、お母さんと私の写真に向かって 泣いている、どうしてかな。」 「お前達を殺した犯人が何処かで生きているかと思うとたまらない 俺が必ず探し出して同じ目にあわせてやる。」 そう言うと又お酒を呑む「お父さんそんなにお酒ばかり呑んじゃ 身体を悪くするわ、お願い止めて。」 でも私の声は届かない「何時だったかしら隣の小父さんが お母さんにお金を借りに来たけど、お母さんが断ったらポケットから ナイフを出してお母さんと私を何回も刺したの、そうよ隣の小父さんが 私達を殺したのネーお父さん痛かったのよ、あ~声が出ないわ。」 その時チャイムが鳴りお父さんが部屋の中に連れて来たのは 隣の小父さんだった。 「まったく酷い事をする奴がいるもんだ、しかしあれからもう二年 犯人は憎いが貴方もソロソロ立ち直らなくては、警察は何か言ってきた のかね。」心配そうに言いながら持って来た酒を開けた。 いつの間にかお母さんもお父さんの隣に立って 「貴方この人が私達を殺したのよ。」一生懸命訴えているのに 声が届かない「死んでしまったら何も出来ないのね、悔しい犯人が 目の前にいるのに、貴方気がついて。」隣の小父さんは「矢張り一人 暮らしのせいか部屋の中がひんやりしますな。」などと言いながら 少しお酒を呑んだだけで帰っていった、その後お父さんは御飯も 食べずに寝てしまった。 「きっと偵察に来たのよ。」お母さんは青白い顔に殺された時 付いた傷から血をしたたらせ「あ~悔しい何も出来ないなんて、 犯人が捕まらなければ私達このまま悲しいお父さんの姿を見続けなければ ならないのよ、あ~恨めしい。」 いくら二人で思っても一風の風さえ吹く事はなかった、何時までも お母さんと一緒。
2007年05月29日
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題名 「孤独」 チャイムが鳴った、続いて大きく元気な声で 「こんにちわ。」と言いながら私の寝ている 部屋にズカズカ入って来た。 この頃記憶がはっきりしない 「そうだ今日はヘルパーの来る日だった。」 「お婆ちゃん元気だった?」返事も待たず 「今日は何かやって欲しいことある?」 私が何も言わないと 「じゃあ何時も通り洗濯から始めますね、後は 風呂とトイレ、床掃除で良いですか。」 返事をしないとサッサと洗濯に執りかかったようだ 「あら~。」すっとんきょうな声が聞こえたかと 思うとヘルパーが戻って来た。 「お婆ちゃん自分で洗濯したの、良いのよ私達が いるんだから。」少し不満そうに言うと次の仕事を 始めたらしい。 「お婆ちゃんは綺麗好きだから台所も汚れていないのよね 家なんか他所様の掃除はするけど座る場所もないぐらい 荒れ放題、年末に撫でる程度の事しかしないから 恥ずかしくて誰も呼べないのよ。」一人で賑やかに 喋り続けている。 「さて終わった、時間が余ちゃったけど何もする事が 無いから帰りますね、印鑑が欲しいんだけど良く寝て らしゃるようだから次に来た時まとめて戴きますね 風邪なんかひかないように用心して下さいよ。」 流石に最後は静かに言うと、そっと帰って行った。 身寄りも無く天涯孤独、わずかな年金で細々と生活 している者の所に来るのは新聞,宗教の勧誘ぐらいで 役所や民生委員さえ殆ど訪れる事はない、週に3日 ヘルパーを頼んでいるが年末年始は断っていたので 3週間ぶりに訪れた人間だった。 昨年の暮れから起き上がれず、何も口にしていない 私に気づいてくれるのは誰だろう、何時だろうと 思いながらヘルパーの帰る足音を聞いていた 「次にヘルパーの声を聞くことは出来るだろうか。」 薄れいく意識の中、今日も夕暮が私を包む。
2007年05月29日
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題名「退院」 白い巨塔、その一部屋に横たわる女性 青白い顔、か細い手足、窓の一点を見詰めている そこには散りかかり残すとこ数枚の銀杏の葉が。 「あ~あの最後の葉が落ちる時私の命も終わる のだわ。」 伝う涙が枕を濡らす、その時病室がノックされた 医者の回診の時間だ。 「先生今日こそ本当の事をおっしゃって、私は 後何日の命なのか。」 医者は深い溜息と共に 「何度同じ事を言わせるのです、貴女は盲腸なんです いい加減に退院して下さらないと病室待ちの患者さんは 一杯いらっしゃるんですから。」 医者に付いてきた看護師も笑いを堪えるのに必死だ 「いいですか、病気はもう完治しています今日中に退院して 部屋を空けて下さい。」 キッパリ言うと病室を後にした。 「フンつまらない、もう少し病人で居たかったのに。」 病気らしい病気をした事も無く四十年、仕事が忙しい日は 「たまには一週間ぐらい入院してノンビリしてみたいわ。」 何時もぼやいていたら、本当に一週間入院する羽目になって しまった。 初めての入院は快適だった、手厚い看護に優しい医者 同僚や友人の見舞い、すっかり病人になりきっていたのだ しかし盲腸では一週間が限度。 「帰るわよ、帰ればいいんでしょう。」 サッサと荷物をまとめながら「でも盲腸ぐらいで良かった 丁度いい骨休めになったわ。」 ルンルン気分で病院を後にしたが、彼女が病院を出た後 病院では大騒ぎをしていた。 「何、もう出て行った、一足遅かったか最後の血液検 の結果で癌細胞が見つかったと言うのに、至急家に連絡 してくれ。」 そんな事になっているとも知らず退院祝いと称し友人達を 呼び出し焼肉をほおばって快適だった入院生活を 面白可笑しく笑いながら語っていた。
2007年05月28日
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題名「見知らぬ男」 ご多分に漏れず中小企業に勤める此の男の会社にもリストラの波は押し寄せていた前回の波は何とか逃れたが次は分からない、残れば残ったで減った人員の分まで残った人員でこなさなければならない連日連夜のサービス残業、疲れ果て終電で家に辿り着いても暗い自宅「起きて待っていろ。」と言う方が無理な時間なのは分かっていても豆電球ぐらい付けておいて「ご苦労様。」なんて、さり気無くメモを置いて置くぐらいの心遣いがあっても罰は当たらないんじゃないか、心の中でボヤキながら何時ものように冷えたおかずをレンジで温め発泡酒を開ける疲れきった身体は御飯を受け付けない。 男は今年55歳、2歳年下の妻と2人暮らし子供達は既に結婚し独立していた定年まで後10年いや定年まで残れたらの話だが、比較的早くに家を建てていたのでローンは終わっている子供達に金のかかる事もない今リストラされても当分食べていくだけの蓄えはある筈だ、しかしより豊かな老後を送る為には一日でも長く会社にしがみ就いていなければならない。 郊外に家を購入したので朝5時には慌しく家を出る、駅の売店でパンと牛乳の朝食を済まし昼飯は立ち食いソバ、月2回になってしまった休日は昼頃起きて冷蔵庫から適当にツマミを探しビールを飲みながらテレビを観賞しつつ転寝これが唯一の楽しみなのだ妻は何処かに出掛けるのだろう姿が見えない。 「そういえば妻の顔を最後に見たのは何時だろう、3ヶ月いや5ヶ月?思い出せない。」給料日の食卓には夕食と共に小遣いが置いてある「お疲れ様。」でもなければ「御苦労様。」でもない、ただ1万円札が2枚ペロンと置いてあるだけ、其れを見るたび男は此の為にだけ働いているような気になっていた、妻の顔さえおぼろになりかけている。 明日は休日男は久しぶりに妻と夕食を共にしようと早めに帰宅した、灯りが点いている我家を見るのは何ヶ月ぶりだろう男は妻を驚かせようと静かに鍵を開けた、キッチンで鼻歌を歌いながら料理している妻の後ろ姿にソット近付き「ただいま。」 振り返った妻は悲鳴を上げ持っていた包丁を振り回し男の制止も聞かず振り上げた包丁を男の胸に2~3回刺すと携帯電話で警察に電話している「強盗です、後ろから襲われそうになったので夢中で包丁を振り回したら動かなくなってしまったんです助けて下さい。」 「自分の夫を強盗と間違えるとは何事だ、警察より先に救急車を先に呼べ。」苦しみもがく男の声は、声にならない叫びとなって響いた、薄れゆく意識の中で女の顔を見ると其処には見知らぬ女が喚いていた。 間もなく警察が到着し救急車が要請され身元確認の為スーツやカバンの中身が検証される「御主人の氏名は何と仰いますか。」警察官に質問され夫の名前を答える。 警官に付き添われた妻が男の顔を確認しに行き、倒れている男の顔を見ると微かに見覚えのある顔が…
2007年05月28日
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題名 「解雇」 年功序列、定期昇給、退職金、定年制が崩壊して何年になるだろう何時肩を叩かれても可笑しくない時世、不安な毎日を過ごしているのはこの男だけではない。 男は今年40歳を迎えたが経済的な問題と容姿、性格、才能も無ければ技能も無い為結婚も出来ないでいた。世渡り上手な同期が次々出世し不動の位置を占めているのに対し男は不器用だった与えられた仕事は文句も言わず黙々とこなすのだが其れ以外の事は出来ず「使えない男」のレッテルを貼られていたが、男の耳には届いていない。 昨日も入社2年目の若造が男の上司に就任した、昨日まで『君』付けで呼んでいた男を今日から役職名を付けて呼び頭を下げなければならないのだ情けなくて辞めたくなるだが失業率も2桁になっている現在、退職したら次の仕事は望めない。 失業保険制度など遠い昔に廃止されていた失業は即「死」に繋がる、憲法も改正に改正を重ね生活保護もなくなったからだ、どんな事があろうと耐えるしかなかった。 今日は足取りも重く出社、選りにもよって入社以来最も嫌いだった奴が上司になったのだその男にこれから毎日頭を下げなければならない「ああ、気が重い屈辱だ。」しかし生活の為だ、男は意を決して上司となった男の席に向かう。 苦虫を噛み潰したような顔を見られないように挨拶しサッサと自分の席に戻ろうとしたが呼び戻され一枚の紙を手渡された、男が嫌いなら相手の方も嫌いだったらしい「早く目の前から消えろ。」と言わんばかりに顎をしゃくり「今日中に手続きを済ませてくれ。」それだけ言うと背を向けた。 男に手渡された紙には「僕はあんたが嫌いだから解雇を命じる。」何ともふりじんな理由が書かれてあった、余りにも突然の解雇通告に男の頭は混乱し問い詰めに行く勇気すらない。 呆然と机の引き出しを整理しながら涙が頬を伝う、何気なく手にした鋏を見詰めていると男の頭の中で何かが弾けた「あの男が俺を死に追いやるのだ。」若い上司を睨むが上司は素知らぬ顔で仕事をしている。 目の前が白くなり掴んだ鋏を持って一直線に上司の元に走った、異変を察した上司は逃げ惑ったが死の宣告を受けたも同然の男には適わない、捕まえた上司の腹に数ヶ所夢中で突き刺し辺り一面血の海になったが最後の一刺しが心臓を貫き今迄もがいていた上司がピクリとも動かなくなった、誰かが通報したのだろう数人の警備員に取り押さえられ放心状態の男は警察に引き渡されたが警官は「又か。」と言いながらパトカーに連行した。 パトカーの中で警官が発した言葉は信じられないものだった。「最近リストラされたら食えないから、何か事件を起こして刑務所で食おって奴が多くて刑務所も一杯なんだ、家まで送ってやるから他で食う道を考えなさい。」警官は男の住所を聞いた。
2007年05月27日
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題名 「乱入者」 私の寝ている部屋に突然数人の男が乱入してきた 助けを呼ぼうとしたが声が出ない 人間あまり驚くと声が出ないと言うのは本当らしい 乱入者は私が寝ているベッドを取り囲み私の着衣を切り裂き 裸にしてしまった、何とか逃れようと声を出し身動き しようとしたが金縛りに遭ったように動けない 私が動かないのを良いことに一人の男が鋭利な刃物を 取り出したかと思うと喉に突き立て一気に下腹部まで… 「止めて、そんな事をしたら死んでしまう。」 声にならない声で悲鳴をあげた「…痛くない、夢なのね 悪い夢だわ早く覚めて。」その時、腹を裂いた男が私の内臓を 引きずり出した。 「夢とは言え気持ちのいいものじゃないわ、どうしてこんな夢を見るのかしら」 一人の男が「矢張り一酸化中毒による呼吸不全で焼死したと診て 間違いありませんね。」別の男は「半生で発見されて良かった、黒焦げで 発見されたんじゃ解剖なんてもんじゃ有りませんからね。」炭にメスなんて 入らない。」部屋に居た人々から失笑が漏れる。 「何を言ってるの此の人達、私が焼死?……そういえばストーブに灯油を 入れようとしたらイキナリ火が私に襲い掛かってきたのは覚えている 消そうとしたけど消えなくて玄関に向かう途中で熱いのと苦しいのとので 息が出来なくなって…それから覚えていないわ、私死んでしまったのね 道理で痛くないはずね。」 女が思い出すと何も見えなくなっていき聞こえなくなっていった 「これが死なのね。」フーと大きな溜息をつくと意識が消えた 「この仏さん今迄生きていたかのように溜息と共に目を閉じましたよ。」 「良くある事だよ、体内のガスが出て目の筋肉がゆるんだんだろう。」 メスを入れた医者が「では縫合します異存ありませんね。」 部屋の中に居た全員の許可を求めると皆うなずく 縫合が終わると全員が合掌し白布が掛け部屋を後にした この部屋の何時もの光景が又一つ終わった。
2007年05月27日
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題名 ファーストフード 「いらしゃいませ。」店内は今日も賑やかだ、ちょうど昼時だったせいもあり 行列ができている、数分後やっと自分の番が来たがメニューを見ながらアレコレ 考えるのはっ面倒なのでセットで注文する事にした。 若い女の子が元気良く「いらっしゃいませ注文はお決まりですか? お持ち帰りでしょうか、店内でお召し上がりでしょうか」 マニュアル通り軽快に問いかける。 「食べて行きたいが席はあるかな。」店員は素早く店内を見回し 「ご相席で宜しければ用意致しますが。」 一人の客も逃してなるものかと言う気迫だ。 「それじゃ食べていくか、Aセットを頼むよ。」店員はすかさず 「新製品のデザートは如何でしょうか、ご注文頂けますとラッキーカードが 一枚増えますが。」此の店ではラッキーカードの点数により なんらかの景品が貰えるシステムになっている。 景品は月替わりになっていて大人から子供まで楽しめる物が用意されている 「今月は何が貰えるの。」と聞くと「各部所の燻製をご用意させていただきました 全部そろえると入り口にディスプレイされておりますように一体の人間が 完成する仕組みになっております、お部屋のアクセサリーとしても 使えますが勿論お食べになっても結構です。」爽やかな笑顔で答える。 美味しそうなデザートだ、つい注文してしまった 「有難う御座います、それでは合計三つの魂を戴きます。」 席に案内されA型血液をすすりながらカードの隠された部分を削ってみる 三枚貰って5点「まあまあだな。」と脳ミソのスープをかき混ぜながら 足の唐揚げをバリバリ音を立ててむさぼりながら 「最近のA型血液は少し薄いような気がする、薄めているんじゃないか。」 などと思いながらもカンショクする。 此処は地獄の1丁目「閻魔フード」1号店。
2007年05月27日
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題名 「初恋」 私が毎日散歩する通り道にその人は立っていた いつもニコヤカな顔で。 私がこの道を通り始めてから雨の日も、風の日も その笑顔を崩した顔を見た事がない。 私は未だ2歳になったばかり、何時もお母さんと一緒 その人の前を通ると何か変なの、ドキドキするのよ これが初恋というのかしら。 今日は雨、でも早くお散歩に行きたいな 白い服に眼鏡とステッキが良く似合うあの人に 早く会いたい。 問題は歳の差なんだけど愛さえあればキット乗り越え られるはずよ「ねえ、早く散歩に連れて行って。」 「ワン、ワン」 「うるさいわね、もう少し待ちなさい」 ケンタッキーおじさんに恋した子犬の決して むくわれない恋。
2007年05月26日
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題名 「指定席」 今日も来た、同じ時間に来て同じ場所に座る 何かを注文するでもなく、じっと俺を見て ただ座っているだけ。 「いい加減にしてくれ。」何度も言ってはみたが 聞いてはくれない。 数年前妻と始めた小さな喫茶店、札幌では珍しい コーヒー代金だけでトースト、ゆで卵、サラダを 付けたモーニングセットが当たり1年もしない内に 軌道に乗った。 しかし些細な事から争いになり妻を殺してしまった それ以来毎日殺された時と同じ服を着た妻が 腐乱の進んだ姿でやってきて俺を責める。 自分が埋められたカウンターの端に座り。
2007年05月26日
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題名「朝の来ない街」 古い家並みが立ち並ぶ此の街をどれぐらい歩いただろう、戸の開いている家では何度も声を掛けてみたが誰も出て来ない。 何日彷徨っているかも忘れたが此の街には朝が来ない、黒い雲が天上一面を覆い何時も薄暗い「そう言えば私は如何してこんな街に何時から来たのだろう。」思い出せない、気が付いたら昭和三十年代と思われるような家の軒下に横たわっていた。 眠る事なく何日も人を探し求めた「私は何日寝ていないのだろう。」それさえ覚えていない何故かしら「もう嫌よ、誰でも良いから出てきて返事をして。」疲れ果て溜息と共に天を仰ぐと奇妙な現象が。 天上から人が降りてくる、しかも私目指して「何なのこれは、天から人が降ってくるなんて。」降りてきた人は持っていたロープで私を縛り始めた「何をするの、止めて。」いくら叫んでも聞こえないふりをして全身にロープを掛け終えると今度は天上に上げはじめた、身動き出来ない私はされるが儘黒い天上めざし上がって行く。 やがて黒い雲を破ると眩しい光が全身を照らす「オーイあがったぞ。」何人もの連呼する声「まったく迷惑な話だ、誰が自殺の名所なんて名付けたものか今年は此れで三人目だ。」「嗚呼思い出した、私は何もかも嫌になって死体の上がりにくいと言われる、街を其の侭沈めたダムに身を投げたんだったわ何時だったかしら。」 「静かに上げないと崩れるぞ、どのぐらい沈んでいたんだろうな此の仏さん、こんな姿で引き上げられると知っていたら此処を死に場所には選ばなかっただろうな。」 一部白骨化した身体からは肉の塊がボロボロ剥がれ落ち湖底に散っていった「醜い姿を晒さないで。」と言わんばかりに。
2007年05月25日
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題名 「求臓誌」株価は下落し続け8千円を割り、失業者も二十%になると各自治体の生活保護費も底をつき予算が出せなくなっていた、必然的に自殺者や犯罪者が多くなり無法国家となりつつある此の国で昼間から道路に座り込み一心不乱に本を読み耽る人々が居た。公園のベンチは何時も一杯、此処でも目を血ばせらせページを捲る中年男女の姿に混じり若者も幾らかいる。最早求人雑誌等無く求臓誌が飛ぶように売れていた、臓器売買が公然と罷り通り人々は生活の為に為るべく高く自分の臓器を売るため発売と同時に買いに行くのだが質の良い雑誌は直ぐに売り切れるので皆必死だ。求臓誌にも色々有って個人で掲載しているのもあれば仲介業者が掲載しているのもある仲介業者が掲載しているものは当然手数料が取られ手元に残る分が少なくなる、だから個人で掲載し金額が高い所をチェクし取りあえず電話しまくり面接の掛け持ちをする。条件の良い所は時間前に列をなし幾ら並んでいても打ち切られてしまう、矢張り心臓が一番高く売れ二~三年は生活できるだけの金額にはなるが心臓は最後の砦だ、神郷、肝臓、血液、手、足、何でも有り人体で使えない所はない。男は今回心臓を売ろうと思っていた、条件の良い所は早く決まってしまうので本の発売日の前日深夜コンビニに配送され未だ梱包も解いていない時点で買い、夜中であろうが電話しまくる。今回も運良く条件の良い所で決まったので明日に備えて早く寝る事にした、車椅子からベットに移る男の手足、両足、片目は無く達磨のようだったが慣れたもので器用にベッドに転がると口で布団を引っ張り上げ眠りに就いた。男に残された臓器は今回心臓を売れば片目しか残されていない、心臓を売って二~三年後の事は考えられない、早く景気が回復し福祉にまで廻って来るのを待つだけだ其れまで男の命が有るとは保障できない、何時の時代も福祉は一番最後なのだから。
2007年05月25日
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題名 「スティタス」5月とは言え所々に残雪が見える北国の公園日光浴を兼ねて散歩する人達に混じって手首にしっかりと固定させたバンドその先にはリモコンを握りしめた人が数人いる。「おや、お宅も始めたんですか。」偶然隣に住む住人と出会った「そうなんですよ、子供達も手を離れましたし妻と相談して始めたんですが中々大変です、妻が乗り気だったから決めたのに『休みの日ぐらい散歩に連れて行ってよ』と五月蝿くて」「何処も同じですな。」互いが掴んでいるリモコンが警告音を鳴らしだしたその音は次第に大きくなっていく「すいません、未だ日が浅いもので一寸目を離すと逃げ出そうとするんですよ。」「いやいや、家も同じです。」二人がリモコンのスイッチを操作すると100mぐらい先で絶叫が聞こえた間もなく二人の下に特殊な首輪を着けた奴が帰って来た「何度言っても解らん奴だな。」二人はそれぞれ帰って来たものを叱り付けながら別れた。庭の一角に作られた窓一つ無い畳一畳程のプレハブに押し込むとシッカリ鍵を掛け家に入ると市民警察隊員が来ていた「お疲れ様です。」同時に声を掛け合い四方山話の後「如何ですか53号は。」「マダマダですね、今日も100m以上離れてしまってリモコンを使いましたよ。」「そうですか、未だ日も浅いから御苦労も多いと思いますが宜しく御指導お願いします、それでは53号を見せて戴けますか。」夫婦はプレハブに案内し53号と対面させた覗き窓から見ると53号は寝転がっていたが「点検だ。」隊員が声を掛け鍵を開けると正座して待っていた。隊員が「全裸になれ。」と命じると素直に裸になり足を少し開き両手を水平にした「後ろ。」の号令で其のまま後ろを向く体罰が加えられていないか定期的に訪れ点検していく。余りにも増え続ける犯罪者に刑務所や少年院の定員は常にオーバーで収容しきれない状況が続いていた、増設、増築にも限度がある国会は審議を重ね、一般家庭に比較的軽い受刑者を更正させる施設を希望する家庭に設置する案を成立させた。厳正に審査された家庭に畳一畳程の留置箱を設置し囚人には100m以上離れると自動又は手動で電流が流れる首輪とリモコンがセットで渡された、又僅かでは有るが謝礼も支払われる。定期的に市民警察隊員が訪問し更正の度合い、危害が加えられていないか等をチェックしに訪れる、市民警察隊員とは国家試験に合格した市民で構成された警察の下請けのようなもので此の組織が出来た為今迄警察は民事不介入として取り扱えなっかた夫婦喧嘩の仲裁、隣人とのトラブル等も扱えるようになり市民からは好評だった。囚人の刑期満了間際になると公的施設に移され最終審査を受け釈放される、これらの機関が活動する事により国家予算の大幅削減の実現をみた。今日も陽だまりの中、リモコンを持った人が囚人を散歩させているリモコンは今やその家のスティタスになっていた。
2007年05月25日
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題名 「お婆ちゃんの日」「あら嫌だ、今日はお婆ちゃんの日じゃない。」カレンダーを見ながら慌てて二階に声を掛ける「お婆ちゃん、今日はお婆ちゃんの日ですよ支度は出来ているんですか。」静まり返っている二階に、ドスドスと象のような足音を響かせ上がって行くと仏壇の前に身支度を整えチンマリ座って手を合わせている老婆が目に入ったまるで化石になったかのように微動だにしない。「お婆さん今日はお婆さんの日ですよ、お爺さんもきっと待っていますよ早く下に降りてきてくださいね。」振り向きもしない老婆の背に言うだけ言うと又象の足音で降りていくと夫がフィルム新聞を見ながら食卓にいる。「何時だったかな。」ボソっと妻に聞く「何がです、あ~お婆さんの出発時間ね家の前の公園に10時集合ですから、もう少し時間はありますよ。」まるで今日の天気を話すように滑らかに喋る、夫は憮然としながら「ちょと上に行ってくる。」と妻とは正反対の静かな足音で階段を上がっていった。暫くして一向に降りてくる気配のない二人に「幾等なんでもソロソロ集合場所に行かないと置いていかれてしまいますよ、置いていかれたりしたら警備隊に連行されて私達も御叱りをうけるんですからね、嫌ですよそんな見っとも無い事は。」大声で二階に向かって叫んだ。妻の叫び声が終わらない内に化石のような老婆を支えるようにして二人は降りてきた夫の目は充血していたが「あなたが連れて行って下さるの。」妻は素知らぬ顔で聞く「いや俺は仕事が残っているから、お前が行ってくれ。」サッサと書斎に入ってしまった「面倒な事は全部私に押し付けるんだから。」口調は悪いが顔は笑っている「あんまりギリギリでも慌しいから、ソロソロ行きましょうお義母さん。」しわくちゃの小さな手を引き摺るようにして外に出ると、もう殆ど集まっているようだ顔見知りの女性が手を振っている、道路一本隔てた公園に急ぐと何分もしないでマイクロバスが来た色鮮やかにペイントされた国営バスのドアが開けられるとサッサと自分から乗り込む人、足がすくんで動けず数人がかりで乗せなければならない人、様々だが何とか全員乗り込んだ。バスはまるで葬送のようにクラクションを二回鳴らし出発した、後に残された人も様々で泣き崩れる人、何時までもバスの去った方向を見詰めている人妻のようにまるでゴミを捨てた後のように顔見知りの女性と話しこむ者妻は顔見知りの女性に「お茶でも飲んで行かない。」と誘っていた二人で賑やかに帰宅すると玄関に夫が立っている。「あら御主人いらっしゃるの、悪いから又今度伺うわ。」ばつが悪そうに帰ってしまった妻は夫を睨みつけ「何よ何時までも暗い顔をして、そんな顔をするなら自分で行けばよかったでしょう。」夫を押しのけ茶の間に入る、夫は何も言えず又書斎に篭ったが妻は住人の居なくなった部屋の使いみちを考えていた。平均寿命は90歳を超えていたが少子化に歯止めがかからず国家も市民も高齢者を支えきれなくなっていた、苦肉の策として国家が提案したのは「70歳人生定年法であった「満70歳に達した者は国が定める地域に移住し、国家が保障する生活の中で余生を送る権利と義務が生じる。」と言う馬鹿げた法案だった。其の頃バスに乗せられた老人達は国営施設に到着し一人づつ降ろされ大きなベルトコンベアーの上に座らされ施設の中に吸い込まれていった中で何が行われているのか知る者は少ない。バスの運転手同士の会話も無い、只その施設にそびえ立つ大きな煙突から煙の出ない日は無い。
2007年05月24日
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題名 「袋」 「今年は多いな。」竜夫は辺りを見回した、大きな袋を大事に抱えた男が住人中6人はいる 満員の通勤電車、潰されないよう頭の上に乗せている奴もいる 袋の色や大きさ形は様々だが、袋を持った者同士は話が合うらしく殺伐とした 満員電車の中でも一方が降りるまで何やらにこやかに話続けている。 独身の俺はその輪に入れない、会社でもそうだ袋を持った者と持たない者では 集まる場所も違えば話題も違う。 「竜田さん、もうそろそろじゃないですか。」竜田と呼ばれた男は嬉しそうに 「予定では来月の初めなんですが、重くてもう出してしまいたいですよ。」 言葉とは裏腹に笑顔で答える。 「もう暫くの辛抱じゃありませんか、私なんか未だ3ヶ月ですから先が思い やられますよ。」 「どちらにしたんですか?」 「やはり初めは女の子の方が育てやすいと言いますから女の子にしました 竜田さんはどちらですか。」 「妻が女の子を出産しているので私は男の子にしました。」 「それは楽しみですな。」 妙な会話だが男女平等改正法と科学の進化により「女だけが出産の苦しみを味わい 産まれるまで辛い生活を強いられるのは、太古の昔からとは言え不公平。」 大勢の女の声と同時に男からも「女は間違いなく自分の子だと認識できるが 男は言われた事を信じるしかない、男にも出産権利を。」 との声も出始めた。 20xx年男女平等出産法が可決された、これにより男性が出産する時は 常に胎児を身体から話さず之を擁護しなければならないと言うものだ。 へその緒につながる胎盤に代わる物も一緒に持ち歩き、定期的に病院から貰う 栄養剤を補給してやらなければならない勝手に袋を処分したり遺棄した場合 殺人罪が適用されるから細心の注意を払わなければならない、それでも 潰してしまったり落として中の子が死亡してしまった時には医者の診断書が 必要になる、しかし何度も同じ事が繰り返されると疑いの目で見られ 社会的信用もなくなるから男達は必死で袋を持ち歩く。 汗を拭き拭き袋を持ち歩く男達を横目で見ながら「昔は良かった。」 哀れみの呟きをささやきながらすれ違う老人がいた。
2007年05月20日
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