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chiko619 @ Re:新参者(09/22) 「新参者」読みました。 東野圭吾さんは、…
kimiki0593 @ 相互リンク 初めまして、人気サイトランキングです。 …
Twist @ こんにちは! 遅ればせながらあけましておめでとうござ…
Twist @ こんにちは! 遅ればせながらあけましておめでとうござ…
Twist @ はじめまして^^ 先ほどこのロングインタビューを読み終え…
2012.04.15
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カテゴリ: 文芸

 紀元前2世紀、「黄金の世紀」と呼ばれた全盛期をローマにもたらした五賢帝。
 そのトップバッターとして帝位に就いたのが、初の属州出身帝・トライアヌス。
 今巻は、そんな彼の、皇帝としての充実した仕事ぶりが描かれる。

 塩野さんは、これまで「悪名高き皇帝たち」と「危機と克服」のシリーズを、
 歴史家タキトゥスの『年代記』『アグリコラ』『同時代史』を元に書き進めてきた。
 彼の記述は、まるで見てきたかのような臨場感に溢れるものだった。
 そんな記述と解釈に対し、塩野さんは別の解釈を展開してきたのだった。

ところが、タキトゥスは、同時代に生きたトライアヌスについて、叙述を残していない。

信頼を置くに値する文献資料が絶無であることを意味する。
そのことが、前巻までと今巻との間に、大きな趣の違いをもたらした。

例えば、ダキア戦役については、「トライアヌス円柱」という戦勝記念碑に刻まれた、
114を数える戦役の展開を描いた浮彫りから、その経緯を追うしかなかった。
実は、今巻のスタートから、私の本著のページを捲るスピードは、少々鈍りかけていたのだが、
ここに至って、遂に停止してしまったのだ……

およそ3か月の時間を経て、読書再開。
トライアヌスによる、防衛戦の再編や社会基盤の整備、福祉の充実等への取り組み、
アラビア、ダキアの併合成功によって帝国最大の版図を獲得する過程は、とても面白く、
それまでのペースが嘘のように、スイスイとページを捲ることができた。

ページを捲るスピードが鈍ったのは、本著の記述に問題があったのではなく、


   ***

さて最後に、私が今巻の中で特に印象に残った部分のご紹介。

  人間とは実に一筋縄ではいかない存在で、
  好評だったからつづけ、
  悪評だったことはやめればそれでことが済むというものではない。

  悪評だったからとやめて反対の政治をしているうちに、
  かつては悪評を浴びせかけるのに熱心だった側が、
  いつの間にやらその政策の必要性に目覚めて復活を望むように変わっていた、
  などという現象はしばしば起こるのである。(p.74)

全く、人間とは、世間とは、そういうものである。

  なぜトライアヌスがビティニア属州の財政再建に執着したかの理由だが、
  財政が破綻状態にあって利益を得るのは少数でしかなく、
  その他多数は被害者になるからである。
  そうなると、社会は不安定化する。
  その反対である善政とは所詮、
  正直者がバカを見ないですむ社会にすることにつきるのだった。(p.243)

2000年以上も昔の時代についての記述とは、とても思えない。
科学技術は進歩しても、そこに生きる人間自身は、あまり変わっていないと、つくづく思う。

  トライアヌスは、彼に心酔する有能な武将に不足しなかった。
  だが、心酔者とはしばしば、当の人以上に過激化するものである。
  そしてトライアヌスは、忠誠一筋のこの世代の次にくる世代を、
  あまり信用していなかった。
  これもまた、成功者には起こりがちな現象なのである。

これも、前の文章に対する感想と同じ。
2000年以上前の人間も、現代を生きる人間も、本当に同じで変わっていない。





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Last updated  2012.04.15 11:05:52 コメントを書く


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