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神戸を舞台にした『神戸栄町アンティーク堂の修理屋さん』の第2弾。 今巻は、修理file.0で「六甲おろし」など神戸の自然について触れ、 修理file.1では須磨離宮公園を、修理file.2ではハーバーランドを寛人が散歩、 修理file.3では、ルミナリエが行われる仲町通りを寛人と茉莉が一緒に歩きます。 ***修理file.0「アンティーク堂に紫煙ゆれた過去」は、”開かずの引き出し”から出てきた携帯灰皿のお話。ショーウインドウに並べたその灰皿を購入した男性客が、蓋が開かないと再来店。その蓋は接着剤で張り付けられており、そこに1992.6.15と寛人の誕生日が刻印されていました。修理file.1「バラバラのおもちゃで測られた技術」は、子犬の里親探しとビスクドールの修理のため来店した男性客とその息子のお話。その親子連れが来店して以後、店先にバラバラになったおもちゃやトンボがばらまかれるように。それは、「何でも直せる」という茉莉の修理の技量を試そうとする行為でした。修理file.2「修理を重ねて強くなるもの、修理を重ねて強くなるこころ」では、天馬が連れてきてた管弦楽部の後輩・森川春が、祖父から貰ったメトロノームの修理を依頼。さらに、茉莉の指導の下、祖母が作ってくれたポーチの修理に取り組むことに。それらが壊れた理由に気付いた茉莉は、春の口から事実を聞き出すことに成功し……修理file.3「光の中の吐露。主を失ったジャケット。」は、茉莉の様子がおかしくなるお話。そうなるのは、いつもツイードのジャケットを修理している時だと気付いた寛人は、そのジャケットが万のものではないかと考え、様子がおかしい理由を茉莉に確かめようとします。そして、一緒に出かけた夜のドライブで、茉莉と万が交わした言葉を聞かされることに…… ***本著タイトルは「続」ではなく「2」であることから、シリーズものと位置付けて書き進められていたのではないかと推察されますが、この本が発行されたのは、2016年の9月18日。既に4年半が経過しており、「3」が刊行されることは、もうないのかも。せっかくの神戸を舞台にしたお話だったのに、とても残念です。
2025.03.30
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『開業医の正体-患者、看護師、お金のすべて』(中公新書ラクレ) の著者である小児外科医・松永正訓さんが、 一人の看護師に長時間インタビューして書き上げたノンフィクション。 主人公は、若い頃の日記を残していた1973年生まれの千里さん(仮名)。 千里さんは、看護科のある公立高校へ入学し、その後専攻科で学んで正看護師に。 初めて勤務したのは、病床数350のそれなりに大きな6階建ての地方の古びた病院。 2年間勤務した後、1年間の自治医大病院での研修を経て、オペ室ナースとして活躍。 その後、結婚を機に31歳で県立周産期小児医療センターに移って非常勤で勤務。 さらに、32歳からは開業医のクリニックでパートタイム勤務をしています。本著は、この千里さんの半生を通じて看護師の実態に迫ろうとする一冊ですが、著者も述べているように、彼女の看護師としての歩みには、オーソドックスな部分と、ちょっとほかの人とは違っている部分があるようです。私としては、オペ室ナースについて知ることが出来たので、とても満足しています。
2025.03.30
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京都を舞台にした『京都寺町三条のホームズ』や『珈琲店タレーランの事件簿』 鎌倉を舞台にした『ビブリア古書堂の事件手帖』や『海街diary』。 色々なご当地シリーズを読んできましたが、 今回は、神戸を舞台にしたお話です。 ***修理file.0「あとのまつりと、祭りのはじまり」は、新宿にある大手広告代理店でデザイナーをしていた高橋寛人が、実父方の祖父・斎藤万から神戸にある『栄町アンティーク堂』を譲り受け、10年ぶりに思い出の地を訪ねて、そこで修理屋の後野茉莉と出会うお話。修理file.1「古い時計と、壊れたまま蓋をした過去」は、寛人が、元カノ・花沢咲から預かっていたパテックフィリップ・カラトバに纏わるお話。うん百万円の価値のあるその高級時計ですが、動かないようになっていました。意を決した寛人は、茉莉に付き添ってもらい、咲に会うべく新宿へと向かいます。修理file.2「古いビデオデッキに閉じ込められた秘密」では、芦屋マダムと思しき女性が、千鳥格子のタイトスカートの修理を依頼します。しかし、茉莉はベータマックスのビデオテープを見るため、ビデオデッキを修理中。修理を終え、ビデオテープを再生すると、そこには万が撮影した孫・茉莉とその両親の姿が。修理file.3「時間を止めるパズルピース」では、タイヤが1個ないバスの模型の中から、幼い寛人が描いたタイムカプセルの地図が見つかります。一方、昨年12歳の娘を亡くした男性は、ジグソーパズルを完成させて欲しいと茉莉に依頼。やがて、寛人は『埋めてええのは、思い出になったもんだけや』という万の言葉を思い出し……修理file.4「オメロの約束」は、アンティーク堂の象徴・バイオリンのオメロのお話。万は、そのオメロを超美形の少年バイオリニスト・北崎天馬に譲ると約束していました。ただし、一般のコンクール入賞とそれ相応の器を身に付けることの二つが条件。天馬は、店に並ぶものの価値を知らない寛人に対し、激しい敵愾心をぶつけてきます。修理file.5「会いたいと鳴く車椅子 会いたいと語る花」では、谷原真二という男性から茉莉に度々届く手紙が気になる寛人。茉莉は、寛人を誘い、一緒に砥峰高原にある真二の農園へと向かいます。そして、真二や彼の孫・凜と農園で過ごす中で、寛人は真二の言葉に勇気づけられることに。 ***タイトルに「神戸栄町」と銘打ち、冒頭部には、「新神戸」や「三宮」「ピアザ」「南京町」「ポートタワー」の名称が登場。茉莉や天馬の話し言葉については、神戸弁を意識して書かれています。が、これらの名称や言葉を他地域のものに入れ替えれば、全く違和感がないお話になりそう。つまりは、神戸が舞台である必要性が全く感じられない……。お話自体は面白く、文章もとても読み進めやすいので、その点がとても残念でした。
2025.03.23
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本著は、月刊誌『Voice』の平成24年4月号から平成26年5月号に連載された 「オックスフォード留学記-中世の街に学んで」に加筆、再編集をして 平成27年1月に刊行されたものに、さらに加筆・補整して文庫化されたもの。 著者は、女性皇族のおひとりであられる彬子女王。 ***本著について、まず第一に特筆すべきは、その文章の読みやすさ。書かれていることが、一読で無理なくスッと頭の中に入って来ます。読み返す必要が全くないので、思考が中断することなく、そこに書かれている内容に没頭出来る。「こんな風に書けたら良いな」と、強く思わせられるような文章です。次に、私たちが知らない皇族の方々の生活の一端を、垣間見ることが出来ること。慣れれば当たり前になるのでしょうが、やはり色々と制約が多いものなのですね。さらに、海外に留学し、そこで学位を取ることが、いかに大変なことなのかが、本著全体を通じて、ひしひしと伝わってきました。 ***本著を読み終えた後、ある記事を目にしました。それは、母である信子さまが、2004年に寬仁親王邸(現・三笠宮東邸)を出られて以降、母・信子さまと娘・彬子さまとの間で確執が続いており、さらに彬子さまと妹・瑶子さまの姉妹間でも、すれ違いが生じているという内容。本著では、父である故寛仁親王のことは、特別寄稿を含め頻繁に記述されており、妹さんとの思い出も記されているのですが、母の存在感については極めて薄く、何故なのかなと思っていました。その理由を知ることが出来ると共に、皇族の方も色々あるのだと気付かされました。
2025.03.23
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2024年の訪日観光客数の第1位は韓国で、第2位が中国、第3位が台湾。 中国は、コロナ禍の影響でその数を激減させていましたが、現在急速に回復中。 日本国内で中国人を見かける機会は、かつてに比べると本当に多くなりました。 が、それは観光客だけでなく、日本に居住する中国人が増えたことも原因です。 *** 出入国在留管理庁の統計によると、 23年12月末時点で、在日中国人は約82万2000人。 山梨県や佐賀県の人口に相当し、全在日外国人の約3分の1を占める。(中略) 1990年の在日中国人は約15万人。2000年には約33万5000人と倍増し、 2010年にはさらにその2倍以上の68万7000人に膨れ上がった。(p.19)圧倒的な数字、そしてその急速な増加には、驚くしかありません。そんな日本に住む中国人について、著者は次のように述べています。 現在の在日中国人は、10年以上前に私たちがイメージしていた在日中国人とは、 大きくかけ離れているという点だ。(中略) 彼らが意識する、しないにかかわらず、日本人との接点を持たず、 「中国人だけで完結する世界」で生きている人が増えている。 それは一体、何を意味するのか。 人口減が進む日本で、好むと好まざるとにかかわらず、 これから外国人との共生を図っていくことになる私たち日本人は、 それをどのように受け止めたらよいのだろうか。(p.20)気になるのは、『「中国人だけで完結する世界」で生きている人が増えている。』ということ。まさに、日本の中に「日本人が関わらない世界」が築かれつつあるということ。そこは、「日本のなかの中国」。それが、どういうものであるのかを、本著は教えてくれるのです。
2025.03.16
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現在放映されている大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』とは、 主人公が蔦屋重三郎というところが重なるだけで、 谷津矢車さんの手による全く別のお話。 単行本は2014年4月に刊行され、昨年10月に文庫化されたもの。 ***プロローグは、日本橋の老舗地本問屋・豊仙堂の店主である丸屋小兵衛(51)が、店をたたむ決意をしたところへ、吉原の地本問屋・耕書堂店主・蔦屋重三郎が現れ、「あなたが死ぬまで毎年20両の給金を払い続けるので、仕事を手伝ってほしい。ただし、小兵衛さんが死んだあと、この店はあたしが貰います」と切り出すお話。第1章では、売り払った物や離れた職人たちを、小兵衛に3日で呼び戻させたにも拘わらず、重三郎は10日経っても日本橋の店を再開せず、連日真昼間から小兵衛を吉原へ連れ込みます。しかし、やがてそこで同席していた寝惚、六樹、喜の字の正体を知った小兵衛は大いに驚愕。さらに、店にやって来た重三郎の遠縁で絵師の北川勇介の面倒を、小兵衛が見ることに。第2章では、太田南畝・宿屋飯盛・朋誠堂喜三二が手を組んだ新作狂歌集が大成功を収め、小兵衛は、筆名を喜多川歌麿とした勇介と共に、京屋の伝蔵の住む長屋に代金を届けることに。さらに、夫の浮気を疑う妻・お春の依頼で、歌麿と一緒に吉原で重三郎の居場所を探し当てると、そこには、体調を崩した元遣手・お雅が一緒にいたのでした。第3章では、伝蔵こと山東京伝、そこに朋誠堂喜三二と酒上不埒を加えた3人を前に、重三郎が、松平定信の政を馬鹿にした草双紙を作ることを提案、京伝を除く二人が受諾します。喜三二の『文武二道万石通』は、初売りから日本橋耕書堂前を黒山の人だかりに。さらに、不埒が恋川春町の名で書いた続編の『鸚鵡返文武二道』も空前の流行を見たのでした。第4章では、定信から2度目の召喚を受けた春町が、自ら命を絶ってしまいます。喜三二、春町、南畝ら売れっ子作家の戯作が一斉に消える中、更なる本屋統制が実施されると、奉行所に連れていかれた重三郎には罰金の、京伝には手鎖50日沙汰が下されます。そして、歌麿は耕書堂との関係を断ち切って、江戸の町に飛び出していったのでした。第5章では、地本問屋や戯作者が罰を恐れてのびのび書けず、面白くない本ばかりに。重三郎が見出した東洲斎写楽の役者絵も、やがて出来の悪いものになっていきました。経営に行き詰った重三郎は、日本橋耕書堂で扱う商品を変更し、立て直しを図ります。しかし、寛永8年12月に重三郎が仕事中に倒れると、そこに歌麿がやって来たのでした。第6章では、歌麿が小兵衛に、重三郎とお春の恋路を手助けした時のことを話します。そして、小兵衛から耕書堂でやり直してくれるように頼まれ、歌麿が了承すると……エピローグでは、新たな店主となった元番頭の下で、18歳の重三郎の息子・吉蔵が修行中。定信は老中を降り、小兵衛は春町の遺稿となった滑稽本を寛政10年に版行しました。 *** 「人の縁だけが本屋の全てかもしれません」 重三郎の言葉に、小兵衛は相槌を打った。 本は自分一人でできるものではない。 戯作を書き、絵を描く職人たち、文字や絵を版木に彫る彫師、 その彫を元に紙に絵を写し取る摺師、紙を作る漉き師。 色んな職人の仕事を縒り集めて本が生まれ、客の手に届く商い品となる。 はたして版元は、本のために何が出来るのだろうか。 本のために、何をしなくちゃならないのだろうか。(p.176) 重三郎は、自分が何を為すなど考えてもいない。 自分の役目は繋ぐこと。 そして、繋いだ糸を絡めてくっつけて引っ張ることだけ。 重三郎は自分の生きた証など必要ないのだ、そう小兵衛は悟った。 ただ、判じ物を解くかのように人と人とを繋げて、 何か新しいものを世に放つだけで満足な人間なのだ。(p.298) 歌麿は目を細めて口に煙草を宛がった。 「店が潰れて困るのはてめえなのに、そんなことは関係ねえ。 あいつには、てめえの金勘定よりもっと大事なものがあったんだ」 吉原の埒を壊す。小兵衛も耳にしたことがあった。 ようやく小兵衛は、重三郎という男のことを掴むことができた気がした。 (p.327)何れも、小兵衛から見た重三郎という人間を示した箇所です。大河ドラマの蔦重も、この辺りは共通する所が多いですし、また、第2章のお雅については似たようなエピソードがありました。これらは、実在の重三郎について何らかの記録が残っているのかな?
2025.03.15
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