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『コモンの再生』以来、久々に内田先生の著作を手にしました。 本書は主に2024年に書いた時評的な書きものを集めて 一冊にまとめたものです。(p.2) 本著冒頭、「まえがき」には、このように記されています。 そして、巻末には次のような記載も。 ※本書は「朝日新聞」「中日新聞」「信濃毎日新聞」「山形新聞」「日本農業新聞」 「桐生タイムス」「AERA」「週刊金曜日」「通販生活」「月刊武道」「東洋経済」 「蛍雪時代」等に掲載され、ブログ『内田樹の研究室』に再掲載されたものを 大幅に加筆修正し、新書化したものです。本当に様々なメディアに記事が掲載されていることに驚かされますが、取り敢えず、本著を読めば2024年に内田先生がどんなことを考えていたか分かりそうです。 だが、かなり長いスパンの中において見ないと、出来事の意味というのはわからない。 だから、文脈が示されないままに速報記事をいくら読まされても、 今何が起きているのかはわからない。(中略) おそらくもうずいぶん前から日本のメディアは 「現実を観察し、解釈し、その意味を明らかにし、これから起こることを予測する」 といった一連の知的プロセスを放棄してきたのだと思う。(p.47)タイパタイパと皆がせっかちになり、物事の見方が瞬間的、短絡的なものに陥っている。真偽の定まらない情報に対しても、選択的、感情的に過剰に反応し、それが圧倒的世論として形成されてしまうことも珍しくありません。人心の振れ幅はあまりに大きく、常に気分次第の空気に振り回されることになっています。
2025.11.22
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本書第1部「技術解説編」のポイントは、次の2箇所かと。 大切なのは、話が面白くなるような、本の読み方をすること。 重要なのは、本を読む時の姿勢。 - それは、「ネタを仕込むつもりで本を読む」という姿勢です。(p.9) さて、なにかを読んだ時、それを「ネタ」にするためには、具体的にいうと ①〈比較〉ほかの作品と比べる ②〈抽象〉テーマを言葉にする ③〈発見〉書かれていないものを見つける といったプロセスが必要です。そしてこの①~③ができると、さらなる応用編として ④〈流行〉時代の共通点として語る ⑤〈不易〉普遍的なテーマとして語る ことが可能になるのです。 観たもの読んだものに対して、この①~⑤のどれかの鑑賞・解釈ができるようになると、 人に話すことができる状態になります。(p.26)続く第二部「応用実践編」では、上記①~⑤について、『波』連載「物語のふちでおしゃべり」(2022年4月号~2024年10月号)と、WEBサービス「note」に掲載された著者の記事を例として次々に示していきます。この例示に、本書全体の266頁のうち220頁を費やしているため、本書は『「著者」は何をどう読んでいるのか』を示すことが主たる内容となっています。「著者」が「話が面白い人」かどうかは知りませんが……なお、私は次の箇所に至って、やっと本書の著者が何者であるかを認識したのでした。鈍感にもほどがある…… 最近私は『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』という新刊を刊行した。(p.192)
2025.11.16
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気楽に読み始めようとしたところ、 いきなり躓いてしまいました。 毎月、四字熟語をテーマに話している本だという事を書いて下さいと、 編集の人(長い付き合い)に言われたので、ここにそう示しました。 はい。終わり、お役御免。(p.6) 本書冒頭「はじめに」の最初の部分ですが、一読では何が何やらさっぱり分からない…… 一生懸命、自分なりに考えてみても、やっぱり分からない…… しょうがないので、スルーして読み続けることにしました。 すると、次のような言葉が。 内容としては「毎月、一日。ある四字熟語をテーマに話してもらうだけです」という(p.7) ただ解った上でお読みいただきたいのですが、 この本は、僕が話した言葉を活字化しています。 編集の人(長い付き合い)に聞かれ、答えています。(p.8)なるほど、この本は、ニノが手ずから書いたものではなく、ニノが話した言葉を、誰かが文字起こししたものということですね。ただ、「はじめに」については、話したものではなく、書かれたものということですね。やっと、この本のコンセプトが見えてきました。ということで、第1章から第10章まで、「心機一転」「適材適所」「温故知新」「喜怒哀楽」「一心同体」「魑魅魍魎」「輪廻転生あるいは永劫回帰」「猪突猛進」「花鳥風月」「二宮和也」について、編集の人(長い付き合い)が投げかける100の問いに、ニノが答えていった言葉たちが活字となって記されていきます。実はこの手法、今回が初めてではなかった模様。本書の発行に向け動き始めた時、もう1冊別の単行本が同時並行で制作されることになりました。それは『二宮和也のIt(一途)』で、544頁の大ボリューム、定価は4,400円。内容は、2009年から2019年までの10年間、123回に渡って雑誌『MORE』に連載された「二宮和也のIt(一途)」を一冊にまとめたもの。この連載をベースに本書が作られたと、本書巻末「編集者によるあとがき」に記されています。本書タイトルについても「あとがき」で触れられていますが、『高邁と偏見』とは何の関係もないようです……多分
2025.11.15
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『あきない世傳金と銀』シリーズの特別巻全2巻の下巻。 前巻同様、今巻もシリーズに登場したキャラクターたちを主役とする4編。 各話の主役は、五鈴屋八代目徳兵衛の周助、小間物商「菊栄」店主・菊栄、 重追放・闕所を言い渡された音羽屋忠兵衛の妻で、元日本橋音羽屋店主・結、 そしてシリーズの主役でもある五鈴屋七代目で元江戸本店店主・幸。「第1話 暖簾」は、八代目を継いで17年、54歳になった周助が2つの大きな問題に直面。 一つ目は、九代目となる賢輔と幸の結婚を、83歳の治兵衛と95歳の孫六にどう伝えるか、 二つ目は、心斎橋紙屋・伊吹屋からもたらされた智蔵と銀駒の一粒種・貫太への対応。 これらを解決した周助は五鈴屋を去り、太物商として「桔梗屋」の暖簾を再び掲げる。「第2話 菊日和」では、明和11(1774)年に大川橋が完成、幸とお竹は江戸を離れ、 菊栄は次に商う品について考え続けた末、紅掛空色の根掛に辿り着き大評判となる。 井筒屋三代目保晴から菊見の宴に誘われ、分散した紅屋を取り戻す意志を確かめられるが、 きっぱりと否定、その場に現れた女中の丈長をヒントに新たな商いを思いつく。「第3話 行合の空」は、安永6(1777)年、播磨国で忠兵衛と旅籠「千種屋」を営む結が、 桂(10)と茜(7)の二人の娘のうち桂の姿に自身の姉・幸を想起させられ疎ましく思う。 結は現状を打破すべく、件の型紙を手に紙紅をくれた仲買人・源蔵に会いに行くが失笑される。 その後、二人の娘が麻疹に罹患、その際の茜に対する桂の言動にこれまでの考えを改める。「第4話 幾世の鈴」は、天明5(1785)年、五鈴屋九代目徳兵衛を継いで10年の賢輔は54歳、 幸は還暦を迎え、誰に十代目を任すか、五鈴屋の商を後世にどう伝えるかに知恵を絞る。 御用金の下命があった際には、金500両を承わるが相対貸しの相手を尼崎藩としたいと回答、 その後御用金は打ち切りとなるも、尼崎藩への貸し付けはそのまま行うことに。 暖簾を託す者を決めた賢輔と幸は、二人で伊勢に詣で五十鈴川の流れを眺めるのだった。 *** 「あんさんと幸、ええ取り合わせだすなぁ。 商才は五分五分やが、面白さに於いては、あんさんの方が格段に上やよって」(p.98) 「もと嫁ばかりか、あんさんまでが、商い戦国時代の立派な武将だすなぁ。 そらもう、大したもんだす」(p.156)惣次が菊栄に投げかける言葉には、どれもこれも深い思いがこもっています。二人の関係性は、常に絶妙なバランスを保っていて、双方とも「らしさ」が溢れています。このお話に登場するキャラクターたちの中で、私が初期からイチオシしてきた菊栄ですが、ドラマでは、シーズン2まで扱いが軽めで、重要エピソードも度々スルーされてきました。さて、シーズン3ではどんな風に描いてもらえるのでしょうか?そして、第13巻では実は終わっていなかった幸のお話は、特別巻で、大河ドラマでも描かれた田沼失脚の時期までを描き、今度こそ本当に完結。今後は、巻末「作者より御礼」にあった五鈴屋の後継者たちの物語を楽しみに待ちましょう。
2025.11.15
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『あきない世傳金と銀』シリーズの特別巻全2巻の上巻。 シリーズに登場したキャラクターたちのラブ・ロマンス4編。 各話の主役は、五鈴屋五代目徳兵衛で後に井筒屋三代目保晴となった惣次、 五鈴屋江戸本店支配人・佐助、五鈴屋江戸本店小頭役・お竹、 そして「五鈴屋の要石」と呼ばれた元番頭・治兵衛の一人息子で 江戸本店手代相談役頭となる賢輔というお馴染みの面々。 「第1話 風を抱く」は、五鈴屋を出奔した惣次が江戸の両替商・井筒屋店頭で揉め事を解決、 店主から娘雪乃の婿養子にと請われ銭両替の仕事を習得、地廻り酒の酒元への貸付で大成功。 三代目保晴となってからは、明樽問屋とも繋がって、本両替商として新店を開くまでに。 再会した幸には要所で助言、自身も義父や妻に家族の絆を感じる迄に変貌を遂げていきます。 「第2話 はた結び」は、佐助が男女御奉公口入所で出会ったのは、あのさよの妹たち。 近江屋にいた佐助と逢瀬を重ねていたさよは、17年前突如姿を消し10年前には亡き人に。 佐助は、五鈴屋江戸本店に女衆奉公することになった末妹・ちかにさよとの思い出を語る。 丸屋店主からの縁談を断った佐助は幸に、ちかはお竹に背中を押され互いに思いを伝えあう。 「第3話 百代の過客」は、江戸に移り住んで18年間一度も大坂に帰っていなかったお竹が、 古希を迎え隠居仕舞登りする近江屋支配人・久助から、往路を一緒に旅しないかと誘われる。 一方、幸は、お竹が世話になった医師・白鳳に手代・大七を預け医者の道を歩ませることに。 お竹は、大坂には戻らず寿命の尽きるまで傍で五鈴屋の商いの役に立ちたいと幸に申し出る。 「第4話 契り橋」では、40歳になる賢輔が、いよいよ九代目店主にとの話が持ち上がる中、 結婚を控えた同年齢の型彫師・誠二から、自分の気持ちを封じたままで良いのかと問われる。 下野国の白生地を巡る白子組、大伝馬町組への対応が迫られる中、嵐で東本願寺御堂が倒壊。 巻き込まれた賢輔は、生死の淵を彷徨うが生還、幸に九代目就任の決意を伝え求婚する。 ***第1話は、延享2(1745)年から、江戸本店が仲間外れとなった翌年の宝暦6(1756)年までを、第2話は、浅草寺雷門が焼失した翌年の明和5(1768)年卯月から霜月までを、第3話は、五鈴屋江戸本店開業から18年の明和6(1769)年睦月から長月までを、第4話は、明和8(1771)年睦月から神無月までを描いています。第13巻は、明和4(1767)年師走14日、江戸本店創業から丸16年目を迎えた日まででしたから、第2話からは、ほぼほぼ第14巻に当たる続編のお話ということになります。第13巻では、まだ準備段階だった孫六織も、本著のお話の中で商いの道筋がつきました。そして、第13巻では、幸の賢輔に対する感情は次のように記されていました。 かつて、夫だった惣次の怒りを買い、殴られたことがある。 その時、身を挺して幸を守ろうとしたのは、幼い賢輔だった。 小さな身体で惣次に挑み、蔵の壁や扉に叩きつけられても、 惣次の腕にしがみ付いて離れなかった。 師走の暴風が放った青竹の矢から、幸を守ったのも、やはり賢輔だった。 主筋ゆえに守られている - そう思っていた。 否、思おうとしていたのかも知れない。 どうなるものでもないことを、幸自身がよくわかっている。(第13巻p.350)そして、賢輔の方については、 「『賢輔は銀になり、どないなことがあったかて金の傍を離れず、 命がけで金を生かす努力をせぇ』 - 父は私に、強う言い聞かせました。(中略) せやさかい、私は何があったかて、ご寮さんのお傍を離れしません。 生涯をかけて、金を生かす銀となります」(第13巻p.351)それが、本著では次のように記されることになります。 幸と出会った時、賢輔は7つ。 14歳の幸が、賢輔の袖口の綻びを繕ってくれたことを、よく覚えている。 - 本当はね、着たまま針を使うのは駄目なの。でも今だけね 繕い終えて、歯で糸を切った幸。 あの頃から、賢輔にとって、幸は誰よりも尊いひとだった。(p.274)そして、遂に二人は互いの思いを伝えあうことになったわけですが、事はそう簡単にはいきそうもありません……そのあたりは、次巻でということになるのでしょう。
2025.11.08
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出帆篇に続くシリーズ第13巻。 とうとう、幸のお話は今巻で完結。 かなりのスピードでお話は進んでいきますが、それでも波瀾万丈、紆余曲折。 最後の最後まで、目が離せない展開です。 ***長月朔日、30軒程の呉服商が名乗りを上げた吉原の衣装競べが行われる。扇屋の花扇花魁が纏う日本橋音羽屋の装束は、桁外れに金銀を掛けた上全てを考え尽くしたもの。芸者歌扇の漆黒の縮緬の小袖に銀鼠の帯、変わり島田に菊栄の笄の佇まいも人々の心を捉える。その時、引手茶屋の二階には、音羽屋忠兵衛と井筒屋三代目保晴の姿が。花扇と歌扇の一騎打ちは、僅差で花扇に軍配が上がり、日本橋音羽屋は大店のお抱えとなる。しかし、歌扇もそれ以後遊客から引っ切り無しに座敷に呼ばれるように。一方、屋敷売りを専らとする新店を開く準備を進めていた幸は、菊次郎に勧められ、呉服町にある白粉屋・末広屋の間口十間の居抜きを、菊栄と半分ずつ買い上げることに。翌年初午、菊栄の開店日、歌扇が「ただ菊栄の笄ぞ」と唄うと、手代たちも唱和しつつ引き札を配ったことで評判を呼び、江戸中に知れ渡る存在に。また、五鈴屋呉服町店も高家や豪商など合わせて40軒程を顧客に持つようになり、穂積家からは、末娘の婚礼衣装と嫁荷を五鈴屋に任せたいとの申し出を受ける。そして、力造も二代目吉之丞の色「王子茶」を生み出すことに成功、大流行する。ところが、末広屋が家屋敷を二重売り、五鈴屋と菊栄の方は「沽券帳」に記載がないことが判明。幸と菊栄は、両店の立ち退きを求めている名義人・井筒屋三代目保晴と名主宅で対峙、立ち退くか本公事にするかを迫られ、本公事として町奉行所に願い出ることに。商いを続けられなくなった菊栄は店を閉じて江戸本店に戻り、幸は屋敷売りを休む。そして、江戸店近くで出火、逃げる最中、菊栄に似た人影を見つけ浅草寺の方角を目指した幸は、焔を隠し持った風に襲い掛かられ、賢輔に負ぶわれて逃げるも生死の淵を彷徨うことに。浅草呉服太物仲間の5店と会所が焼け、江戸店周辺も被害甚大だったが、見舞いに来た富五郎は、以前借りた反物代と志にと小判20枚を差し出し、客の足が向く工夫のため使ってほしいと言う。幸は会所の再建と田原町三丁目を「ここに来たら何でも揃う」場所にすべく準備を進め、揃いの王子茶の水引暖簾を掛け、店の表と内に床几を置き、双六仕立ての店舗案内を配ることに。菊栄もそこで新店の準備を始めると、浅草寺の四万六千日が終わる頃には客足が戻り始める。そんな時、音羽屋忠兵衛が密告により謀書謀判の罪で捕縛され、大番屋に連れていかれる。幸は賢輔と共に井筒屋を訪ね、音羽屋の手代が栗綿の買占めと末広屋の二重売りの主犯と知る。が、手代は逃亡し行方不明、主人の忠兵衛に奉行所で裁断がなされ、妹の引取を幸が命じられる。 「私は音羽屋忠兵衛の女房です。 一緒に江戸を去り、行きついた先で、必ず立ち直ってみせます。 こないなことで負けしまへんよって」 「身体にだけは気を付けなさい」(p.338)大火から7ケ月、神無月四日の天赦日、揃いの王子茶色の半纏を身に付けた男たちが、田原町の買い物双六を配り始めると、日を追うにつれ人々で賑わうように。師走十四日、創業16年目を迎えた江戸本店に、16年前薬玉紋の反物を買えなかった女性客が、その時背負っていた赤子と共に訪れると、主従は「お待ちしていました」と迎えたのだった。 ***2026年春に放送予定のTVドラマのシーズン3は、第9巻あたりのお話からのスタート。果たして、今巻までのお話を全て描き切るのか、それとも後半部はシーズン4?さて、原作の方も、実はまだ「特別巻」の上下2巻が既に刊行されていますので、私は、引き続き読み進めていこうと思います。
2025.10.29
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風待ち篇に続くシリーズ第12巻。 いよいよお話もクライマックスに近付いてきました。 ここまで読み進めてくると、もはやTVドラマとは違う世界が頭の中に出来上がり、 そこで、登場人物たちがいきいきと動きまわっています。 ***浅草太物仲間の年内最後の寄合で、丸屋の仲間入りと浅草呉服太物仲間の申し入れが決まり、幸は早速、かつて賢輔が考案した「家内安全」の文字散らしの小紋染めの準備を始める。勧進大相撲春場所初日は藍染め浴衣地を求める客で賑わうも、以後8日間は雨で静かな日が続く。一方、市村座で2代目吉之丞の『柳雛諸鳥囀』が始まり、日本橋音羽屋が衣装を盛大に売り出す。そして、奉行所から冥加金1600両を出せば浅草呉服太物仲間の結成を許すとの沙汰が。法外な要求に腰が引ける者もいたが、幸は惣次の助言に従って、蔵前屋に口利きを頼み、呉服切手のアイディアと「家内安全」の小紋染めを示しながら、仲間で扱おうと提案。さらに、千代友屋を訪ね切手を準備し、町奉行所の外倉を訪ね1500両の貸金放棄を願い出る。呉服商い再開後、武家の客も目立ち始めた頃、旗本・本田家から嫁荷の注文が入る。ところが、船荷が届く直前、用人・今井藤七郎が来店し、他店に任せざるを得なくなったと謝罪。解約了承後、輿入れ日が長月朔日と知った幸は、今津村の弥右衛門からの文に記されていた江戸歴には記載のない日食について情報提供するが、今井は腹いせかと立腹し立ち去った。今井は音羽屋に相談、変更不要の返事を得るが、相手家と相談して念のため輿入れ日を一日延期。本田家は事なきを得たが、当日大名を招いての朝茶会を催した音羽屋忠兵衛は不興を買うことに。一方、武家間で五鈴屋の評判が上昇、旗本・穂積家奥方の来店など名家や豪商の要望も増えるが、幸は「今、五鈴屋が何を求められ、どう応えるべきか」を見極め、店主を賢輔へ繋ごうとする。砥川から紹介された吉原の大文字屋市兵衛から衣装競べ参加を要請された幸は、以前断った花鳥楼の衣装競べとは、今回は趣旨が違うことを確認する。そして、帯結び指南に参加していた三味線の師匠・お勢の教え子で、年季明け後も吉原に残って芸一本で身を立てようとしている扇屋の遊女・歌扇に声をかける。 ***この他にも、菊栄が自らが考えた笄(こうがい)の図案を和三郎に見せ、試作を依頼したり、菊次郎が染物師・力造に2代目吉之丞の色を作ってくれるよう依頼したり、鉄助が結婚したりと、色々と変化がありました。中でも注目は、自身の店の名を「菊栄(きくえい)」とすることに決めた菊栄の次の言葉。 「なぁ、幸。 私ら、反物と簪、と商う品は違うけんど、 何か一緒にできる日ぃが来るように思います。 どないな形になるか、今はまだわからへんのだすが、 五鈴屋と私の店、互いに支え合うて何ぞできる日ぃが、きっと来ますやろ(p.86)」第3巻でも同様のことを言ってましたが、最終巻でそれが実現することを期待しています。
2025.10.19
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前巻が発行されたのが2023年08月末。 2年余を経て手にした新刊です。 対局シーンに注ぎ込まれる絵力は圧巻で、まさに羽海野先生の面目躍如! 最近、どんな作品からも感じたことがなかった圧倒的パワーでした。 ***島田八段との対局を前に、屋上で林田と一緒にカップ麺とおにぎりを食べる零。が、対局に向け集中するあまり、ひなたへの連絡が疎かになった零は、心配で三日月堂へ。三角公園で新メニューのおやつを屋台で売るひなたの元気そうな姿に、零は胸の中がキラキラ。しかし、会えない寂しさを忘れようと菓子作りに没頭していたひなたは、零を前に本心を吐露。対局前、普段通り過ごす島田に次々と想定外の事態が発生し18分の遅刻、持ち時間54分を失う。序盤、島田はいつもと違う展開で零を締め付け、その攻めをしっかり封じてからいよいよ開戦。が、零は辛抱強くバランスを取り続け、相手に主導権を握られても渡し切ることは絶対にしない。そして、締め付けが取れ始めると、力づくで畳みかけて来る圧力に押されながらも指運で勝利。対局後、ひなたの作った雑炊を食べながら、二人で語り合う零。一方、上野のおでん屋には、土橋に敗れたスミスを始め研究会メンバーや神宮寺、柳原らが集う。 ***それにしても、対局前から対局中、そして対局後の島田八段の心理描写が本当にスゴイ。どの頁からも、島田の心の奥底に潜む「気」が怒濤のように押し寄せてきます。そして、巻末の羽海野先生によるメッセージには、もう言葉がありません……最終巻、楽しみに待っています。お身体を大切になさってください。
2025.10.19
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合流篇に続くシリーズ第11巻。 今巻は、毎年開業日に訪れる夫婦連れの正体が明らかになることで大きな進展が。 幸はその好機で妙手を重ね、浅草太物仲間と共に大躍進を遂げていきます。 そして、巻末には、これまででも最大級の感動を呼ぶ展開が。 ***開店8年目を迎えた五鈴屋江戸本店は大いに賑わい、お梅と梅松の祝言も滞りなく行われる。明けて宝暦10(1760)年、5年前の夏に縮緬を10反買って行った下野国の呉服商いの男が再訪、下野国では何年も前から綿栽培が試されている様子を語り去って行った。一方、菊栄は二代目菊瀬吉之丞の「娘道成寺」顔見世舞台で披露目される簪の準備を進めていた。しかし、如月に入ると火事が相次ぎ、江戸の街の3分の1近くが焦土と化す。幸は、所縁のひとたちの無事を確かめるが、日本橋音羽屋は全焼、結の安否は不明のまま。そこで、井筒屋3代目保晴を訪ね、結は無事だが音羽屋の証文類は全て焼けたと聞かされる。保晴は、店主不在の夜間に火が回って来た時、奉公人が誰も店や蔵を守らなかったことに触れ、 「忠義に過ぎて命を落とされるんも難儀やが、 大事の時、頼りになる奉公人が一人も居てへん、いうんは店にとって一番の不幸や」 奉公人は店を支える柱やさかいにな、と惣次は話を結んだ。 ああ、この人は変わった - 幸は前夫の背中をしげしげと眺める。(p.73)大火から10日程後、五鈴屋の藍染浴衣地が八ツ小路で倍の値段で売られていると聞き、幸が現地に出向くと、そこで5年ぶりに結に再会、しかし妹は捨て台詞を吐いて立ち去る。日本橋音羽屋が店を広げ、太物商いにも乗り出すことを受け、幸は浅草太物仲間の寄合で、仲間の全店で五鈴屋の型染めの技を共有し、藍染浴衣地を商えるよう道筋を付けることを提案。賢輔の描いた「火の用心」の図案を見せながら、自らの商いに対する信念を語り協力を請う。一方、音羽屋忠兵衛の横やりで二代目吉之丞の『娘道成寺』が差替、菊栄の簪の披露目は白紙に。さらに、木綿の長雨による収穫量の減少に加え、繰綿が買占められ、白生地が入手困難になるも、寄合では、河内屋が先陣を切って直買いしている店が3件、蔵の在庫を仲間に融通することに。そして、五鈴屋の型染めの技が和泉屋出入りの染物師から漏れてしまうが、型紙は無事だった。霜月朔日から始まる市村座の顔見世興行で、主演・源蔵が藍染浴衣を舞台衣装として使い、舞台装束は日本橋音羽屋が揃えると聞いた佐助は、今回の一連の出来事の裏側について皆に語る。しかし、火伏守りの浴衣地は各店でよく売れたものの、白生地の入荷見込みが立たず品薄状態。そんな時、5年ぶりに富五郎が江戸本店を訪れ、幸と菊栄は中村座の千穐楽に招待される。その花道で、揃いの衣装の二人の女形、富五郎と吉之丞が両挿しの簪を揺らし美しく舞い踊った。宝暦11(1761)年如月8日、夫婦連れで毎年創業日に訪れる男性客が巨漢の男児を伴い現れる。男の正体は相撲年寄・砥川額之介で、藍染浴衣を30人程の力士全員に贈りたいと言う。手形の柄と共に各力士のそれぞれのしこ名を柄にしようと、幸は書家・深川親和に会いに行く。そして、店に訪れた砥川には、幕下力士には手形の柄、幕内力士には各々のしこ名柄を提案、同じ反物を浅草太物仲間で扱う了承を得て、半纏用に手形柄を河内木綿に染めるよう依頼される。葉月17日、中村座と市村座が三度火災に見舞われ、幸は菊次郎を訪ねるが面会は叶わなかった。そして、しこ名と手形柄の反物が出来上がり、興行初日に浴衣地が各店で売り出されることに。初日前日、触太鼓を打ち鳴らす男たちの纏う手形柄の半纏が大きな評判を呼ぶと、神無月11日の勧進大相撲初日の取り組み終盤から、反物を求める人々が各店に押し掛けた。神無月25日、浅草太物仲間の寄合では、和泉屋を始め各店店主が五鈴屋に礼を述べる。そして月行事が、太物商に転身する駒形町丸屋が仲間に加わることを次回採決することを告げ、さらに河内屋が、これを機に浅草呉服太物仲間へ看板を書き換えることを提案。それは、五鈴屋が再び呉服を商えるようになる道筋を切り開くものだった。 ***浅草太物仲間では、下野国の綿栽培を支援することも決まります。幸が江戸の地で信頼のおける仲間を増やし、その結束力を高めていったことが、大店に対抗する土台となり、自らの道を切り開いていくことに繋がりました。お話も完結まで残るところあと2冊、一気に読み進めていきます。
2025.10.13
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淵泉篇に続くシリーズ第10巻。 前巻では、結衣に振り回され、臥薪嘗胆の日々を過ごす幸の姿が描かれましたが、 今巻は、それを乗り越え、五鈴屋が太物商として大ブレイクを果たす痛快な展開。 特筆すべきは、幸と五鈴屋を支える、菊栄の先を見越した言動の数々です。 ***力造が仕上げた木綿地の藍染反物を寛ぎ着としての浴衣地に、幸はこれを密やかに進めていく。一方、西隣の提灯屋・三嶋屋からは、遠州に移るので家屋敷を買ってもらえないかとの話が。そして、大坂を出発した菊栄、鉄助、お梅の3人が、長雨や川止めに遭いながらも江戸に到着。翌々日、菊栄は幸と共に蔵前屋に出向き、そこで惣次に出会うが、二人は初対面を貫き通す。幸は、端午の節句に来店した若い母親の一言をヒントに、反物の扱い方や裁ち方の手解きを始め、皐月二十八日の川開きには、主従や力造一家と一緒に花火見物に出かける。その帰途、子猫を拾ったお梅は、その世話をするため暫く江戸に留まることを決意。鉄助は、お梅と既にこのまま江戸で暮らすことを宣言していた菊栄の二人を残し翌日帰坂する。菊栄は足場を固めるべく東奔西走、三嶋屋売却の誘いも五鈴屋に代わり自らが受けることに。さらに、菊栄は賢輔を誘って湯島の物産会へ出かけ、浴衣地の図案に苦しむ賢輔に助言。 「惚れた女子はんでもええし、身近な人でもええ、 自分にとって大事なひとに着せてみたい、と思う柄を描いたら宜しい」(p.147)創業日から12日後、黒船街から出火し、紙問屋・千代友屋は店は無事だったが水浸しに。幸は、紙を買い取ると共に、お結びや貸し布団を手配し届ける。一方、白子から道具掘りの型掘師・誠二が弱り切った体で江戸に辿り着くが、次第に回復。賢輔は両国の川開きの打上げ花火を描いた図案を、力造と梅松、そして誠二に見せる。しかし、誠二はもっと大きい紙に描いた方が良いと助言、しかし大きな型地紙の入手は難しい。また、梅松がこの図案は錐彫りでは無理なので、道具彫りの誠二に任せたいと言うが、誠二は、錐彫りでないと出せない味わいもあると述べ、二人で力を合わせて彫ることに。そして、賢輔の新しい図案が完成し、寸法の大きな地紙も千代友屋の尽力で入手の目処が立つ。鉄助が文次郎の仲介で在方の機屋と繋がることに成功し、大量の白生地が江戸店に運ばれてくる。賢輔は、花火柄、柳に燕、団扇、蜻蛉等の図案を考え、梅松と誠二が型紙を彫って力造が型付け。幸は、菊栄の好意で元三嶋屋の土地と屋敷全てを買い上げると、店舗や蔵を拡大すべく改築開始。浴衣を縫い上げるのは、もと御物師・志乃を中心に帯結びや裁ち方指南の参加者15人と、お才の伝手の染物師の女房10人で、来年の両国川開きの日を披露目の日と定め作業を進める。さらに、近江屋から壮太と長次を奉公人として再び迎えることで接客体制を整えると、湯屋仲間と繋がり浴衣を無料提供、その浴衣を着た湯屋仲間の500人が、川開きの日に20艘の涼船に乗り込むと共に、翌日からは店番が浴衣を着て高座に上がることに。当日、五鈴屋の浴衣は、市村座の役者を伴う豪勢な音羽屋の屋台船を上回る人々の関心を集めた。翌日以降、湯屋の高座に座る店番を通じて浴衣の評判は広まり、店には多くの客が押し寄せる。また、菊栄が奥の小物問屋で商う花火柄の藍染の団扇も評判となり、こちらも大人気。さらに、夏が終わると新柄を売り出し、寝間着や肌着にも使われるように。そして冬、「木綿の橋を架ける手掛かりを得た」梅吉は、ようやくお梅に求婚したのだった。 *** 「ただなぁ、惣ぼんさん、否、井筒屋三代目保晴さんが、敵なんか味方なんか、 私には今ひとつ、判断がつかしまへん。 なぁ、幸、あのおひとに纏わる今までの経緯を、 洗いざらい、話してもらわれへんやろか」(p.71)これは、菊栄の言葉ですが、前巻の記事に書いた私の思いと一致します。やっぱり、少々怪しいのか? 杞憂に終わることを願っていますが……そして、次もやっぱり菊栄の言葉です 「旦那さんの紙入れ、あれは極上の桟留革だす。 御寮さんの簪と櫛と笄はお揃いの白鼈甲。 一見、地味な装いだすが、あそこまでの品を普段使いしはるて、相当だすなぁ」(p.155)こう菊栄に言わしめた、1年に1度、創業の日だけに五鈴屋を訪れる、夫婦連れの買い物客。その夫が幸に耳打ちしたのが、 「私はねぇ、この店が太物に新しい風を吹き込んで、天下を取るに違いない、 と睨んでいるのですよ」(p.155)この言葉から、いつかきっと千代友屋と同じように幸の力になってくれるのでしょう。
2025.10.11
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瀑布篇に続くシリーズ第9巻。 TVドラマのシーズン2を通り過ぎ、シーズン3で放映予定のお話の始まり。 これまでと違って既視感のあるお話ではなく、初めて目にするお話になるので、 ちょっとくどくなるかも知れませんが、少々丁寧に記録していきます。 ***結が型紙と共に姿を消した大晦日、夜になって音羽屋から結は無事との遣いが。そして元旦、佐助と共に音羽屋を訪ねるも、忠兵衛に追い返されてしまった幸は、小正月に薬種商・小西屋五兵衛が現れた際、結と二人で会えるよう頼む。そして、如月二日、姉妹は花嫁の支度部屋で顔を合わせるが、結は自分の感情を幸に激しくぶつけるばかりで、全く聞く耳を持たず、以後、姉妹は二度と交わることのない道をそれぞれに歩むことになってしまう。後日、本両替商・蔵前屋からは、本両替仲間の寄合で音羽屋が後添えを迎えた報告をし、手土産として十二支の漢字を柄にした小紋染の反物を、仲間全員に渡したと聞かされる。その際、井筒屋3代目保晴が、柄の中に『金・令・五』の文字が混じっていると指摘、忠兵衛は顔を朱色に染めると、後添えが、自分は五鈴屋7代目の妹で、型紙は姉が「嫁資」として持たせてくれたものだと述べたという。梅松の尽力で『十二支の文字ちらし』の中に『金・令・五』を潜ませた型紙が無事再現され、音羽屋日本橋店開店の日に、五鈴屋でも十二支の文字散らしの小紋染めを売り出せるように。引き札と口上で江戸中の耳目を集める豪勢な宣伝を大々的に行う音羽屋に対し、十二支の漢字に各干支の絵を添えた刷り物に、小紋染めの端切れを貼り付けるという工夫で対抗。そして売出初日、駒形町紙問屋・千代友屋店主の妻が訪れ、音羽屋での文字騒動を伝えてくれる。心配してくれた女将に、幸は感謝を伝えると共に開店3年祝いに贈られた樽酒への感謝も述べる。また、菊次郎からは、音羽屋は店のつくりから鐘木に至るまで五鈴屋そっくりで、「帯結び指南」や着物にどんな帯を合わせるかの助言をしているとも聞かされたのだった。そんな時、小金井宿で呉服小商いを始める男が縮緬の反物十反を買い付けに訪れる。さらに、菊菱の紋様の裃姿の侍が現れ、縮緬の白生地を百反も購入して行った。しかし、その侍は黒松屋が長年呉服所として関わってきた加賀藩前田家の者だったため、五鈴屋は黒松屋から顧客を奪い取ったということで、呉服仲間から外されてしまうことに。そして富久の祥月命日、幸がお竹と共に松福寺に参った際、井筒屋3代目保晴と出会い、保晴から、70年程前に同じ目に遭ったものの、却って商いを広げた越後屋を例に挙げながら、 「あんたの言う通り、仲間を外れるんは、商道をはずれることや。 五鈴屋の暖簾を守って真っ当な小売であり続けるためには、 呉服太物問屋を作るのが一番やろ。 ただ、五鈴屋のほかは、駒形町の丸屋一件しかないさかい、何軒か揃うまで刻はかかる」 「それまでは、呉服の商いは控えるしかない。 あの越後屋でさえ、店を移したり、おかみの御用達になったり、とえらい苦労してはった。 五鈴屋がいずれ自ら仲間を作るまでは、ほかの者に付け入る隙を与えんよう、 暫くは呉服商いを諦めることや」 「上納金のことも、今回の仲間外れのことも、偶然と違いますで。 早う気ぃついた方がええ」(p.142)宝暦6年元日、京坂に旅立つ富五郎が、江戸紫の十二支の文字チラシ小紋染めを求めたが、呉服商いを控える幸は選別として差し出すも、富五郎はそれは貸してもらうことにすると言う。睦月十五日未明、中村座と市村座が焼失するが、音羽屋が尽力し市村座は1カ月半で再建する。客足遠のく五鈴屋に、3年前修徳の掛け軸の文字を読み解いた今津村の儒学者・弥右衛門が訪れ、彼が幸の兄・雅由の学友だったと分かり、掛軸に書かれていない続きについても教えてくれる。それは「新たな盛運の芽生えは何もかも失った時、既に在る」というもので、幸らを元気づける。葉月二十日に江戸を発った幸、梅松、茂作は、19日で大坂に到着、本店の面々に再会する。10日程の滞在期間に、幸は治兵衛と賢輔の将来について、文次郎とは木綿について語り合い、8代目となった周助については、道善の持ち込んだ見合い相手との結婚話が進められることに。さらに、菊栄が訪ねて来て、兄夫婦から紅屋を追い出されようとしていると聞かされるが、菊栄は飾りが揺れる簪を縁に紅屋を出て独り立ちし、江戸に出ようと考えていたのだった。江戸にもどった幸に、菊次郎は二代目菊瀬吉之丞を襲名する吉次が楽屋で寛ぐ浴衣を発注する。幸が、工夫と検討を重ねながら出来上がった2枚の浴衣を市村座に届けるが、その際、そこで日本橋音羽屋店主・結とすれ違うことに。そして師走十四日、音羽屋から祝い酒が届くが、幸は稲荷神社に寄進するよう人足に依頼する。一方、力造は幸の言葉を切っ掛けに、裏にも表のように糊を置いて染めることに挑戦。賢輔が「木綿さえ綺麗に染める藍を用いるのなら、小紋では勿体ない」と言葉を発すると、幸は、藍染の美しさが際立つ反物で、湯帷子でも単衣でもないものを仕立てることを思いつく。そして、梅松の手による中紋とでも呼ぶべき大きさの鈴が尾で結ばれた型紙が掘り上がり、力造が生地に糊を置いていくことになる。 ***ドラマのシーズン1では、結が幸に対し妬みを露わにする様が何度か描かれていました。原作ではそういう場面が見受けられなかったので「何故かな?」と思っていたのですが、今巻の展開を読んで、なるほどそういうことかと合点がいきました。また、こちらは予想通りに、今巻でも要所要所で惣次が登場し、幸を救ってくれる展開に。しかし、まだ何か秘められたものがありそうな気もします。
2025.10.04
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第21巻が発行されたのが昨年6月。 それから11カ月を経ての、今年5月の新刊発行でした。 望月さんの作品では、最も長く続いているこのシリーズ。 この先も、年1冊のペースで全く構わないので、長く続いていってほしいです。 ***【序章 青天の霹靂】大学卒業後、サリー・バリモアの許で修業する予定だった葵だが、3回生の冬に新型ウイルスが世界中に蔓延、緊急事態宣言も発令され、それは叶わぬ状況に。そんな中、予定を早め清貴と同棲を開始、翌春5月3日に入籍したのだった。【第1章 青花の想い】約1年後、TV特番『あなたの家のお宝を鑑定します』の放映翌日、『蔵』は鑑定希望者で賑わう。その夕刻、クズ三・グループ創業者・久住恵蔵の孫・桃花が染付の香合の複製品を持ち込む。それは、父と母と駆け落ちして生まれた桃花が、2週間後に初めて会う祖父から、20歳の誕生日に贈られたものだったが、桃花は複製品を贈られたことに心を痛めていた。葵と清貴は桃花に寄り添いながら語り掛け、彼女から次の言葉を引き出す。 「成人のお祝いに染付の香合をありがとうございました。 とても良くできた複製品だと褒めてもらえました。 でも私は、あれは香合ではなく、薬壺だと思っています。 薬壺の中にはお祖父様の御心が入っていると信じて、 こらからの人生の万能薬にします」って。 とびきりの笑顔でこう話そうと思います(p.62)【第2章 瑠璃色の空】4回生の秋、葵は就活に苦戦するも、卒業間際に大阪市内の広告代理店から内定をもらう。しかし、入社した職場では歓迎されず小さなセクハラが続き、12月末に退職し蔵で働くことに。【第3章 黄金色の絆】そして翌年春、秋人が兄・冬樹の結婚相手・祥子が割ってしまった人間国宝作の茶碗を持ち込む。蔵はその茶碗を引き取り、秋人から二人への結婚祝いに相応しいものを提案することになる。そして、当日来店していたサリー・バリモアのアシスタント・藤原慶子と清貴の二人は、輪島塗のカップ&ソーサーを、葵は金継したあの茶碗、さらに清貴は朱色の台盤も提案する。【幕間 家頭家の一日】清貴に頼まれた書類を小松探偵事務所に届けて帰宅後、葵は蔵のHPの中に隠し頁を発見。そこには清貴の葵に対する気持ちを表した和歌と写真が掲載されていた。夕食後、清貴は葵に「骨董品店 蔵 チーフ美術補佐人 家頭 葵」の名刺を渡す。【最終章 金泉の思召】清貴の運転するビュートで、葵は太陽の塔、六甲山頂を経て有馬温泉へ。そして、美術キュレーター・篠原陽平が企画するアンダー25・アート・プロジェクトの選考に。6人の候補者の中には、葵が退職した会社の先輩・憎田がおり、見覚えある美術商・田島の姿も。京都国立博物館副館長・栗城祐希が試験を進行し、要と葵、補欠で田島の娘・磨美が合格する。要は久住恵蔵の娘の息子で、桃花へ複製品を贈った張本人、その経緯を自ら語る。実は、恵蔵は本物を桃花に贈るよう言っていたが、要が破損や贈与税等々について心配し、そこらの鑑定士では見破られることはないと踏んで複製品を贈るも家頭誠司に見破られた。しかし、その後見事に葵がフォローしてくれたと桃花から聞いた恵蔵は、感謝の言葉を述べる。【エピローグ】りんご、日本酒、ワイン、牛タンと東北各地から届く美味の数々の送り主の正体は……そして、要の誘いで、葵は清貴と共に篠原陽平がいるロンドンに向かうことに。 ***遂に、葵と清貴が有馬温泉にやって来ました。六甲ケーブルで山頂へ向かい、絶景を楽しんだ後は再び表六甲を下ってから車で有馬温泉へ。豊臣秀吉との繋がりを丁寧に説明し、それを以後の展開に生かしたのは流石!『神戸電鉄殺人事件』で肩透かしを食らったのとは大違いでした。
2025.09.27
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2020年に『流浪の月』で第17回本屋大賞を受賞した凪良ゆうさんは、 2023年にも、この作品で第20回本屋大賞を受賞しました。 映画化された『流浪の月』は、広瀬すずさんと松坂桃李さんのW主演でしたが、 26年公開予定の本作の映画では、広瀬すずさんと横浜流星さんがW主演します。 ***【プロローグ】暁海の夫が、月に一度、恋人に会うべく今治に出発した後、佐久間のおばさんは、暁海にパウンドケーキを手渡しながら「大丈夫?」と心配そうに窺い見た。結は父親が妻公認の浮気をしていることを、電話で平然と友人に話している。島では、北原先生が女を作ったのは、暁海が相当しでかしたからだと噂している。【第1章 潮騒】 青埜櫂(17)は、男好きなスナックのママである母親と二人暮らし。男を追って京都から瀬戸内の島へとやって来た、自分の子どもより男優先の母親に対しては、思うところは多々あるものの、中学生の頃からその仕事を手伝い続けている。物語を紡ぐ才能に溢れた櫂は、絵を描くのが得意な久住尚人と共に、漫画の連載を目指す。井上暁海(17)は、父親が東京からきた裁縫の先生が住む隣島へ出て行き、母親と二人暮らし。母から頼まれ、愛人である林瞳子宅を青埜櫂を伴って訪ね、お茶とお菓子をご馳走になるが、瞳子は暁海が去年こっそり自身の裁縫教室に通っていたことに気付き、覚えていた。それ以来刺繡に興味を持つようになった暁海は、帰宅後母親に父親は不在だったと伝える。林瞳子宅を訪ねて以来、櫂と暁海はその距離を縮めていく。しかし、男に妻子がいたことを知り錯乱状態になった櫂の母親を、一緒になだめ介抱する姿を、スナックの常連客と島で唯一のシングルファーザーで高校の化学教師・北原に見られてしまう。以後、関係を深めた櫂と暁海は瞳子の家を訪ね、暁海の東京の大学進学について父親に相談する。今治の花火大会を見に行った櫂と暁海は、浜辺で北原に見つかり、後日化学室に呼び出される。櫂は来年4月からの連載が決まり東京での新生活に思いを馳せるが、暁海は母親が行方不明に。櫂は北原に連絡、暁海と3人で瞳子宅に行くと、足下で新聞紙が燃えている暁海の母親がいた。その後の修羅場を経ても、暁海の父親は家に戻る意思を示さず、暁海は東京行きを断念する。【第2章 波蝕】 上京して4年、櫂(22)は連載作品が好調で、漫画雑誌の看板を期待される存在にまで成長する。一方、暁海は、島で変わり映えのしない営業補助を続けながら、母親との生活を支えており、遠距離恋愛を続けている櫂の浮気に気付きながらも、破局を恐れ何も言わないでいた。そんな25歳の夏、櫂から「ただいま。今治におる。」と、スマホにメッセージが入る。暁海がホテルを訪ねてきても、仕事に追われる櫂は最低限の返事しか返さない。別れを告げた暁海は、翌朝ベッドで眠る櫂を残し、黙って一人部屋を出て行く。。そして秋、尚人と未成年の恋人との関係が週刊誌に掲載されると、連載は中止になってしまう。絶望する櫂に声をかけてくれたのは、老舗出版社の文芸編集者・二階堂絵理だった。【第3章 海淵】母親が宗教に預金を注ぎ込んだ末自動車で事故を起こし入院、父と瞳子に借金を断られた暁海は、櫂を訪ね300万円を借りるが、帰途の車中で櫂の現状をネットニュースで初めて知り愕然とする。2年後、櫂は仕事もなく酒浸りの日々を続け、毎月3万5千円を振り込み続ける暁海に増額を要求。酔った暁海は島の女性と付き合っていた男性と関係を持ち、島民の知るところになってしまう。そんな暁海に、北原は教え子との間に生まれた娘が結だと打ち明け、結婚を提案する。一方、絵理に促された櫂は、雑誌のエッセイに加え小説も書こうとしていたが貯金が底を突き、バイトで知り合った女性の家に転がり込むが、母親からの電話で暁海が北原と結婚すると知る。櫂はコンビニで10万円を引き出すと封筒に入れ北原に送金、女性の家も出て行くことになる。31歳になった櫂は、半年前に手術で胃の3分の2を切除、引きこもっている尚人の家で居候中。一方、暁海は『注目の刺繍作家』としてファッション誌に記事が掲載される存在になっていた。櫂と尚人は、暁海と尚人の元恋人に祝杯をあげ、2人で漫画に再挑戦しようと盛り上がるが、翌日、櫂が目覚めると尚人は浴槽に沈んでおり、櫂も再び入院することになる。北原と互助会感覚の結婚生活を平穏に過ごしていた暁海は、櫂の母親からの電話で家を訪ねると、酔った母親から櫂の近況を聞かされ、様子を見て来て欲しいと頼まれる。混乱する暁海に、北原はすぐに飛行機で東京に向かうよう促し、10万円の入った封筒を手渡す。北原が運転する車の中で、暁海はもう戻れないかもしれない島の風景を目に焼き付けるのだった。【第4章 夕凪】高円寺で借りた3DKで、抗がん剤治療を続ける櫂と暮らす暁海は、刺繍の仕事で生活を支える。今治の花火大会、対岸の浜には櫂と暁海、北原と教え子の明日見菜々、結衣とその恋人の姿が。対岸の夜空に光が瞬き音が弾けると、強く握りしめてきた暁海の手を櫂はほんの少し握り返した。しかし、次々と花火が打ち上るなか、暁海が握りしめた手は再び握り返されることはなかった。【エピローグ】ぼんやりとしていた『プロローグ』が、少しだけ明確になって繰り返される。絵理から送られてきた封筒の中には、一冊の本『汝、星のごとく 青埜櫂』が入っていた。 *** 尚人くんのことを思い出した。 未成年の彼氏に手を出して、櫂の未来も巻き込んで潰した。 わたしはあのとき尚人くんを恨んだけれど、 尚人くんには尚人くんの言い分や事情があったはずだ。 でも人は自分というフィルターを通してしか物事を見られない。 だから最後は『自分がなにを信じるか』の問題なんだろう。(p.299)最後の2行に全てが言い尽くされている気がします。
2025.09.25
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朝ドラも残すところ1週間になって、ようやく手にした1冊。 これまでに放映された様々なシーンを思い出しながら、読み進めていきました。 本著では、著者の手により全編に渡って史実が淡々と記されていきますが、 アレンジが加えられたドラマに比べインパクトが小さい…… ということは決してありません。 特に、ドラマでは嵩のことを売れずに苦悩する漫画家として描いている感じが強めでしたが、 実際には、マルチに活躍する才能あふれた人物で、関わった著名人も多数おり驚きました。 もちろん、年齢を重ねてから、国民的人気キャラの「アンパンマン」を生み出すわけですが、 たとえ、もしそこに至っていなくても、充実した人生を歩んだと言える人物だと思います。また、ドラマの主人公である暢についても同様で、彼女が嵩と出会ったのは就職後であり、幼少期の思い出を共有したことも、戦争に対する意識が衝突したこともありませんが、本書に記された記述からは、彼女が自己というものをしっかりと確立した人物で、時代の先端を行く生き方を実践した女性だったことが、ひしひしと伝わってきます。しかし、何と言っても、最も驚かされたのは、妻夫木聡さんが演じた八木上等兵です。上等兵は架空の人物であり、軍隊での関りもドラマにおける創作ですが、戦後の実業家・八木さんにはモデルがおり、それがサンリオ創始者・辻信太郎さんでした。これを知った時が、本著を読み進める中で最も驚くと共に、納得がいった瞬間でした。
2025.09.22
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『掟上今日子の忍法帖』に続くシリーズ第15弾。 発行は2025年4月14日なので、4か月程経ってから手にしました。 これまでの私に比べると、割と早めに発行されたことに気付けたかも。 まぁ、とにかく早速読み進めていきましょう! ***ベビーシッターの厄介が、いつものように「探偵を呼ばせてください!」。ところが、今日子さんは「初めまして」ではなく「お久しぶりです」と挨拶……1週間前、厄介がビーチセーバーとして依頼したことを、今日子さんが覚えている?そう、今日子さんはあれから寝ていない、つまり不眠症に陥っていたのです。今巻は、不眠、歯痛、船酔、猫アレルギーの病の中、煙のように消えた赤子、歯のない死体、過去と現在の二重密室、猫による不可能犯罪という4つの謎を今日子さんが最速で解き明かし、冤罪王・厄介を救うお話4編+コロナ禍掌編1話。ただし、第4証だけは今日子さんではなく、被害者が罹患したものなので念のため。それにしても、全編至る処で厄介(というか著者)の言葉遊びが絶好調過ぎて……しかも、今日子さんの謎解きは、いつにもまして超高速。狂言誘拐、証拠隠滅、事故と自死、風が吹けば桶屋が儲かる。これも第4証だけは、「風」から「桶屋」に至る経緯を知らないと「?」ですね。 *** 知識は力ではあるが、同時に恐怖でもある。(p.180)厄介の言葉遊びの一つですが、なかなかに深いです。しかしながら、「未知のものへの恐怖心は絶大」なのも確かでしょう。
2025.09.15
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碧流篇に続くシリーズ第8巻。 富五郎のお練りで江戸紫の小紋染めは話題を呼び、五鈴屋は大盛況。 しかし、出る杭は打たれる、様々な店が小紋染めに参入してきますが、 幸はその状況に全く動じる様子を見せず、逆に楽しんでいるかのようでした。 ***幸が大坂を発つ際、本店常客医師・修徳から餞別にもらった達筆すぎる掛軸。そこに書かれた文字を、暑気あたりのため五鈴屋で休んでいた初老の男が解読。「衰颯的景象 就在盛満中(衰えていく兆しは最も盛りの時に在る)」程なくして、江戸の街に麻疹が大流行、五鈴屋への客足もすっかり遠のいてしまう。そんな中、5人ほどの女たちが訪れ、江戸紫の小紋染めを4寸ほど切り売りして欲しいと言う。それは、熱や痛みを取る江戸紫に、魔除の鈴の紋様で、麻疹から我が子を守りたいという一心。幸は、女たちの思いに気付き、子供用の鉢巻きのために反物を切り売りする。一方、店に立ち寄った茂作は、賢輔に跡目を継がせる件について次の言葉を残し江戸を去る。 「前に大工の棟梁に教えてもろた話です。 柔こい(柔らかい)土地に家を建てたら、いずれ必ず傾く、て。 家建てたあと、どない支えを増やしたところで、傾くのは止められへんそうな」(p.97)老舗薬種商・小西屋が催す恵比寿講への手土産にと、菊次郎が江戸紫の小紋染め10反を発注。それを届けに結と共に小西屋を訪れた幸は、そこで蛸に似た両替商・音羽屋の店主に遭遇。その後、小西屋から結に縁談、40半ばの音羽屋店主・忠兵衛の後添えにという話が舞い込む。さらに、お才からは、糸商・寿屋が賢輔を婿養子に迎えたがっているとの話が。賢輔に五鈴屋の8代目を継がせようと目論み、さら結が賢輔に心を寄せていることを知る幸は、いずれの話にも断りを入れ、賢輔に跡目の件を告げるが、思うような返事は返ってこなかった。音羽屋から結への求婚がなおも続く中、鉄助から孫六が跡目について待ったをかけたと聞かされ、さらに、幕府から上納金1500両を要求された幸は、本両替商・蔵前屋を訪ねることに。そこで出会ったのは思いもかけない人物……駿河町の本両替、井筒屋3代目・保晴となった惣次。 「そない容易うに金銀を借りるもんと違う。 上納金なんぞ、本両替に借りてまで用意するもんやない」 「あんさん、五鈴屋の暖簾を守りたいのやろ。ほな、もう少し頭を使うたらどないだす。 せや、あんさんの得意な知恵を絞りなはれ」 「悪い奴ほど、阿呆な振りが上手いよって、気ぃつけなはれ」 「私は井筒屋3代目保晴ですよ。五鈴屋だの8代目だの、まるで関りのないことだ。 妙な言いがかりをつけるのは、金輪際、止めていただきましょうか」幸は、鉄助を大坂に戻らせ、替わりに周助を白子の梅松と一緒に江戸に呼び寄せると、賢輔には9代目を継いでもらいたい、結には自分は賢輔の伴侶選びに口出ししないと告げる。ところが、結は上納金のことを音羽屋に一人で相談、店の大事を漏らしたことを幸に咎められる。幸は、上納金を年500両ずつ3年で分納、貰うはずの利の倍を献金すると願い出て了承される。賢輔は男女問わず好まれ、飽きが来ない小紋の新しい図案について、梅松と力造に相談。そこで周助が文字を散らした柄について述べると、時を経て賢輔は干支の漢字に思い至る。その後、紙問屋・千代友屋の末娘が賢輔に会いに五鈴屋に来るという騒動が起こるも無事解決。周助は浅草寺で8代目襲名を引き受け、賢輔に然るべき時に9代目を考えるよう促すのだった。この後、音羽屋忠兵衛の件で小西屋が店に訪れるが、結は心に決めた人がいると断る。そして、賢輔と二人で年の市に出かけ気持ちを伝えたものの、良い返事は貰えなかった。さらに、賢輔の図案を梅松が完成させた型紙を、幸と賢輔が受取りに行くのに同行するが、その際、年寄りの青竹売りがよろめいて、手から離れた青竹が幸と結の方にめがけて…… 「危ない」 賢輔は叫んで、咄嗟に、結ではなく幸に覆いかぶさった。(中略) 結は姉と手代を交互に眺めて、暫く虚脱したような表情を見せていたが、 何かを口の中で呟いた。幸には聞き取れなかった。(p.326)怪我は無かったものの、座り込んでしまった結を、賢輔は負ぶって店に戻り、幸は一人で梅松のいる力造の家へと向かう。その夜、完成した干支の型紙は、幸の手で店の神棚に供えられるが、翌朝、「かんにん」という書置きを残した結と共に、姿を消したのだった。***読書の方は、ようやくTVドラマのシーズン2の部分を通り過ぎました。シーズン3は、嵐の真只中の状況からのスタートということになりますね。惣次の言葉、振る舞いには、かつての妻に対する深い想いが感じられるように思うのですが、今後もポイントポイントで登場し、五鈴屋と関わり合ってきそうな感じです。そして、気になるのは、田所屋の陰のオーナー・音羽屋忠兵衛の存在。姉に対し強い劣等感を抱く結の失踪にも、きっと大きく関わっているのでしょう。
2025.09.15
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いつもなら半年毎に最新刊が発行されるので、すっかり油断していました。 前巻発行日が今年の5月2日、そして今巻は8月1日。(発売日は2週間ほど早い) 前巻の次巻予告を見直すと、確かに「最終第⑮巻 2025年7月発売予定!」と。 迂闊でした……しかし、もっと迂闊なことが…… 今巻のお話、最終頁を読んで、私は「?」状態。 左端には縦書きで『「アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり」⑮完』の文字 ここでも私は、15巻のお話が終わっただけと、事態に全く気付いておらず、 「あとがきコラム」を読んで、やっと事の重大さに気付いたのでした……「!」 ***第71話「あの頃の自分」では、優斗が病室で性別違和に悩み続けた幼少期や、「トランスジェンダー」という言葉を知ってからのことを振り返りながら、理解を全く示さない父親や、上辺だけを取り繕う母親に悶々としてしまう。そんな優斗に、産婦人科の宇多川と葵は、先日の対応のまずさについて謝罪する。そこへ優斗の母親が現れ、子宮全摘に激しく反対するが、弟・亮輔が退室を促す。第72話「虹がかかれば」では、手術を焦る優斗に店長が社会の変化を伝えながら、誰かのために手術をするのではなく、100%自分が望んだ姿で生きる選択をするよう助言する。また、宇多川は卵巣摘出について、葵はホルモン療法や定期検査について丁寧に説明する。優斗は、子宮全摘手術は受けるものの、卵巣摘出については慎重に考えることにして退院した萬津総合病院は、誰もが安心して相談でき、様々な事情のある人を想定した病院を目指す。第73話「嵐、過ぎ去りて」では、台風20号の影響で笹の葉薬局がある地域が浸水被害に。葵たちは、帰宅困難者が避難している不二野町南公民館で医療支援活動を行うことに。避難している54名33世帯に対し薬剤師が聞き取り調査を実施し、トイレ掃除も行う。第74話「積もる、募る」では、葵が南公民館支援のリーダーとして奮闘。食事に対する不満を担当者に抗議する避難者を、自身も被災者である館長・桝村が宥め諭す。そんな桝村に葵は声をかけ、開催場所が未定だったお薬相談会を公民会で開くことを提案される。第75話「最後の砦」では、避難所閉鎖前日に起こったノロウイルス感染の疑いは晴れたものの、糖尿病でSGLT2阻害薬の内服者・桝村が倒れてしまい、救急車で搬送される。1か月後、退院した桝村は、公民会で開かれた「お薬と健康相談会」に顔を出し、葵に礼を言う。 ***あぁ、本当に終わっちゃったんですね。とても残念で、悲しい……最近は、現在進行形で課題となっているテーマが扱わるようになって、より興味深いお話になっていたのに……いつの日か、シーズン2が始まることを、心から願っています。
2025.09.13
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本流篇に続くシリーズ第7巻。 幸と湯屋で出会った指物師・和三郎の姉・才は、 5~6人の女将さんたちと五鈴屋の「帯結び指南」に訪れ、以後毎月通うように。 如月八日の針供養で賑わう淡島堂で、幸とお竹は「結び易く、解け易い」帯結びを 前掛けの絎紐で結んでいた女性から教えてもらい、それを指南すると早速話題に。 *** 幸は、人形遣い・亀三から聞いた歌舞伎役者の菊次郎に会いに中村座を訪ねる。「三都一の女形」として名を馳せた亡き兄・菊瀬吉之丞の養子・吉次を支援しつつ、女形として舞台に立ち続ける菊次郎は、表を木綿、裏を絹で仕立てた吉次の稽古着を発注。その稽古着は役者の間で評判となり、座主は五鈴屋に裏地の浜羽二重50反を注文したのだった。ある日、賢輔が広小路で惣次を見かけたと幸に伝えると、お竹も針供養の際に見かけたという。跡目問題が絡む難しい事案であることから、幸は孫六と治兵衛に判断を仰ぐことに。一方、江戸では士分のものとされている小紋染めを、町人に向けても扱えないかと考えた幸は、伊勢型紙を手配すべく、賢輔を五鈴屋本店に送り出し、鉄助と一緒に伊勢の白雲屋に向かわせる。そして幸は、型染めをお才の亭主・染物師の力造に頼もうと考える。しかし、力造の父は、武家の定小紋反物流出騒動で濡れ衣を着せられ、その末に亡くなっていた。以来、力造は型染めから手を引き、黒染めしかしておらず、幸の依頼を頑なに拒み続ける。そんな中、鈴紋の型紙を錐掘りの梅松に発注し終えた鉄助、賢輔と結が五鈴屋江戸店に現れる。惣次については、その存在が厄介事を引き起こす可能性を理由に、女名前延長を願い出ることに。また、月に一度の帯結び指南に結も参加するようになり、こちらも色々と知恵を出し合う。さらに、菊次郎がかつて亀三と繋がりがあったという富五郎を伴い店に現れるが、富五郎は、舞台衣装は座主に一任しているため、五鈴屋には依頼できないと断って立ち去る。そして、伊勢に向かった鉄助から、待ちに待った梅松の手による鈴紋の型紙が早飛脚で届く。幸は、その伊勢型紙を力造に見せようとするが、力造は頑としてそれを見ようとしなかった。後日、稽古着の反物を求めて店に現れた富五郎が、文台の上に置かれていた伊勢型紙に気付くと、これを用いて最初に染めたものを自分に譲って欲しいと申し出たのだった。力造のことを諦めきれぬ幸は家を訪ねるが、力造が妻を押しのけてそこを出て行こうとした際、幸が持っていた文箱を落とすと、力造の足元に転がった蓋の天板の裏に型紙が張り付いていた。型紙を手にした力造に、幸は「町人のための小紋にしたい」と訴えかけ、説得に成功する。さらに、足掛け3年の女名前延長の願いが仲間から許されたとの連絡も鉄助から届く。年が明け、お竹を伴い菊次郎を訪ねた幸は、江州長浜で先月から縮緬製造が始まったと聞く。そして、そこに居合わせた富五郎から、改めてお練りの衣装の見立てと仕立てを依頼されると、幸は、富五郎が持っていた紙入れの色「江戸紫」で染めることを思いつく。その反物が出来上がる日、待ちきれない富五郎が江戸店に姿を現す。 ***ここからが、本巻のクライマックス。これまでのお話を通じて、最高に感動的な至福の頁が続きます。 「15,6年ほど前のことです。ふたりの友との出会いがありました。 齢も近かったし、互いに若く、夢も野心もあって、それが心地よかった。 歌舞伎以外の世界を垣間見られたのも、その友たちのおかげでした」(p.288)富五郎の口から語られたのは、人形遣いの亀三、そしてもう一人は何と智蔵との思い出の日々。迂闊……気付くことが出来てもおかしくないのに、全く気付くことが出来ていなかった……まさに、その時の幸と同じ心境に。流石、伏線回収の天才です。
2025.09.13
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転流篇に続くシリーズ第6巻。 智蔵の急死で後継ぎ問題に直面した五鈴屋に新町廓の番頭・尚助が現れます。 曰く、4代目徳兵衛には馴染みにしていた遊女との間に10歳になる男児がいると。 しかし、幸は冷静に対処、その撃退に成功しますが、騒動は世間の知るところに。 *** 女名前禁止の定法から、女名前3年の慣習へ。 商いの表舞台に立てない女が、せめて3年、自身の名前で家持ちとなり、店主となる。 そうした道を拓くことが出来れば、と幸は心から願う。(p.69)4代目川浪屋や長老の口添えもあって、呉服仲間の了承、そして公儀の許しも得た幸は、7代目を継いだ挨拶に配る小風呂敷を、郷里・津門の木綿で作ることを思い立つ。そして、江戸の佐七からは、近江屋江戸店の一軒置いた隣の店が売りに出されたとの知らせが。幸は治兵衛に相談することで初代の気概に思いを馳せ、その地への出店は見合わせる。幸は菊栄を訪ねる途上、智蔵が五鈴屋を離れていた時期に関わりのあった銀駒とその息子に遭遇。智蔵を深く愛し、その最期を心から案じていた銀駒は、幸からその時の様子を教えてもらうと、息子の名が「貫太」だと答えたものの、智蔵の子かという問いには決して答えなかった。一方、江州波村の仁左衛門は、五鈴屋のためだけに縮緬を作ることは出来なくなったと謝罪。それは、彦根藩の認可を受け、長浜地域全体で縮緬を作ることになったためと知り、幸は了承。ただし、五鈴屋は波村からこれまで通りに羽二重を作ってもらうことになる。そして、江戸の佐七から、今度は田原町3丁目の太物商「白雲屋」が売りに出されたとの知らせが。早速、幸は高島店支配人・周助を江戸に送りそれを買い上げると、天満組呉服仲間の了承を得る。筑後座の人形遣い・亀三からは、自分の名を出して歌舞伎役者の菊次郎に会うよう勧められ、治兵衛からは「買うての幸い、売っての幸せ」のため「蟻の眼と、鶚の眼」を、と餞の言葉。そして、幸、鉄助、お竹の3人は、大津で落ち合った茂作と近江屋で別れ、田原町に到着する。10日ほどで鉄助が大阪に戻った後、幸、佐七、賢吉、お竹の4人は反物の見せ方について検討。幸に同行して浅草寺へ出かけた際に賢吉が思い付いた「鐘木」を指物師・和三郎に作製依頼。和三郎は工夫して3種類の「鐘木」を作製し、これにで反物を縦に見てもらえるように。一方、埃を払い落とす「さいはらい」を絹布を用いて作ることで、呉服で使用出来るようになる。さらに、五鈴屋の暖簾と同じ色で5つの鈴が染め抜かれ、屋号が2か所入った木綿の手拭いを、周辺の神社仏閣の手水舎に奉納して回ると、湯屋に通う人々の間でも謎の店が話題に。さらに、和三郎の助言で、帯の結び方を教えることを、江戸店でも実施することに。そして迎えた師走14日、開店した五鈴屋江戸店に訪れた人々を、幸は暖かい言葉で迎える。 ***TVドラマでは描かれなかった、4代目徳兵衛の隠し子騒動と、銀駒・貫太親子との遭遇。特に銀駒・貫太親子については、幸としては色々な思いが入り混じり本当に複雑ですよね。さて、いよいよ新天地・江戸でのお話がスタートしましたが、幸がどんな新たな知識を得て、どんな新たな知恵を生み出していくか楽しみです!
2025.09.07
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メディアで大量に発信される医療や健康情報の真偽を見極め、 ヘルスリテラシーを高めるための具体的方法を得るための一冊。 著者は、京都大学大学院医学研究科の「健康増進・行動学分野」で 様々な医学情報の「エビデンス」を世界中の文献から収集し、 内容をチェックして評価する研究を専門とする田近亜蘭准教授。 *** ・必ず、情報の出どころ(研究機関などの情報源)を確認する。 出どころが明記されていない、あるいはよくわからない場合はその情報は信頼しない。 ・掲載されている情報のすべてが真実で、また、その後何年も有効であるとはいえない。 (p.27)これは「第1章 日本の新聞の医療情報は偏っている」の最後の部分。一見、当たり前のことが書かれているようにも思えますが、当り前のことが、きちんと書かれているところが本著の優れているところ。続く「第2章 五月病、HSP、カサンドラ症候群、自律神経失調症…それは病気なのか?」では、これらは病名ではないと指摘したうえで、各症状について説明していきます。そして「第3章 『うつ病の再発率が60%』は本当か…3つの観点で読み解く」の最後には、 ①その数値は「率」なのか、「割合」なのか。 もし「率」なら、その時間単位はどのように設定されているのか。 ②そのできごとの「基準」や「定義」が示されているか。 独自の基準を使って過大に、センセーショナルな表現になっていないか。 ③何人の規模の研究から結果を述べているのか。 小規模のデータに基づいたものではないか。 という注意すべき3観点を示しています。「率とは、一定期間内にどれくらい発生するか」「割合とは、ある時点で全体の中のどれくらいをしめているか」を表すもので、野球の「打率」は、本来は「打割合」と表現すべきものだと、著者は指摘しています。そして第4章からの表題は、次のように広告の表現規制について一言で言い表すもの。 「第4章 医療広告に『体験談』『回数無制限』『施術前後の写真』は禁止」 「第5章 健康食品やサプリメントの表示に法律規制あり」さらに「第6章 ギャンブラーの思い込み…確率、数字のトリックを見やぶる」と、「第7章 医療の『エビデンス』には6つの『レベル』がある」については、この2つの章を読むためだけにでも、本著を手にする価値があると思える部分。表面上の数字に騙されないため、その裏側に潜むトリックを知っておくことはとても大切です。「第8章 確かな医療情報は『診療ガイドライン』にあり」「第9章 『がん情報サービス』…わかりやすい公式情報はここにある」「第10章 ジャーナルに掲載の医学論文にアクセスする方法」「第11章 医療情報の『見極めかた』と『誤りを信じ込む心理』」では、信頼できる情報の在処と、そこへのアクセスの仕方が丁寧に記されています。特に第10章には、確認すべきポイントとして、 ①情報発信元はどこ? ②発信者は誰か? ③情報源は何か? ④いつの情報か? ⑤ほかの情報と比較したか? を示すと共に、心理学で立証されている、次の認知バイアスを示しています。 ・ハロー効果 ・アンカリング効果 ・単純接触効果 ・真実性錯覚効果 ・バンドワゴン効果 ・バーナム効果 ・カリギュラ効果 ・ウインザー効果 ・スノップ効果そして、第11章の締めくくりの部分には、このように記されています。 医学的、社会的に正確で、かつ自分にとって適切な情報、つまり本当のこととは、 ドラマや漫画のストーリーのような劇的な展開ではなく、 白黒がはっきりしているわけでもなく、 探している答えは、あいまいな部分を多分に残したまま、 「なんだ、けっきょくそういうことなのか」と思うところにあるでしょう。(p.197)最後にこんなことを言われてしまうと、身も蓋もないような気がしないでもないですが、実際のところは、そうなんだろうとも思います。本著は「医療情報」に接する際の姿勢について記された一冊でしたが、他分野の様々な情報に接する際にも、広く応用が利く内容だと感じました。
2025.08.31
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貫流篇に続くシリーズ第5巻。 桔梗屋買取から真澄屋が撤退し、いよいよ「五鈴屋高島店」が始動します。 奉公人が別家となった暁には、桔梗屋の名と暖簾を引き継げるようにするという 幸の言葉に、屋号と暖簾を失った者達も、心をひとつに商いに励んでいくことに。 ***幸の故郷・武庫郡津門村で母・房が急死し、妹の結は五鈴屋に引き取られることに。そして、智蔵との子を懐妊した幸は、帯地に力を入れていくことを思いつき、早速着手。しかし、月足らずで生まれた子は産声を上げることはなく、幸自身も生死の境を彷徨う。子は連福寺に葬られ、幸は智蔵の言葉によって次第に元気を取り戻していく。本店と高島店両方の蔵一杯に帯地が納まり、手代の屋敷周りにお竹と結が同行、売上げを伸ばす。しかし、真澄屋が「帯の真澄屋」という引き札を、船場を中心に大坂三郷に1万枚撒いて話題に。が、幸は孫六、治兵衛と話す中で「鯨帯」を知り、お竹や結の発想を取入れ「五鈴帯」を考案。それは、二枚の帯地で作る両面帯で、片面は鈴紋の帯地か鈴の刺繡が入った帯地になっている。一方、智蔵は筑後座に通い、人形遣い・亀三が演じるお軽に相応しい衣装の絹織を提供する。「忠臣蔵」は大人気となり、人形浄瑠璃だけでなく、歌舞伎でも大坂山風座で上演されることに。そして、お軽を演じる歌舞伎役者が、亀三のお軽の衣装と揃えたいと言い出したため、その衣装は全て五鈴屋が提供、お軽役の女形が台詞の中に「五鈴帯」の名を入れることに。そして歌舞伎「忠臣蔵」の初日、幸は更なる仕掛けを次々に繰り出す。「五鈴帯」は大評判となり、飛ぶように売れるが、またしても真澄屋が五鈴屋の真似を。しかし、「五鈴帯」の売り上げは衰えを知らず、江戸店開業に向けて動き始める。茂作の伝手で、近江屋の江戸店に左七と賢吉を送り出し、商いの様子や動きを探る。 ***紆余曲折ありながらも、五鈴屋は「浜羽二重」と「五鈴帯」を柱に着々と商いを拡大させ、江戸進出に当たり、「木綿」を用いた「太物」も「呉服」と共に扱う構想も芽生えていきます。一方、幸は娘・勁を失うという悲劇に見舞われながらも、夫・智蔵との仲をより深化させ、二人で「女名前禁止」の掟がない江戸へと思いを馳せる中、最期のページで突然の展開が……
2025.08.28
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先日、映画『九十歳。何がめでたい』を観ました。 とても楽しい作品でしたが、何と言っても草笛光子さんがスゴかった。 90歳であれだけの台詞を頭に入れ、主役を演じきられたことは本当に驚き。 本書冒頭にも、映画で演じられたエピソードがいくつか出てきます。 佐藤愛子さんの作品は、初めて読ませてもらいましたが、 本書はエッセイということもあり、「らしさ」全開の刺激に溢れた一冊です。 年を重ねるとはこういうことなんだと、文章からも行間からもひしひしと伝わってきます。 巻末の「単行本未収録集」も豪華で充実しており、読みごたえがあります。 *** 森さんは「女性が多いと会議の進行に時間がかかる」といっただけである。 それ以上に女性の存在を否定するようなことをいったのだろうか? 私は思った。 森さんの発言は経験を重ねての「実感」であろう。 森さんはそう思った。思ったからそういった。 いくら時代が変わったからといって、他人が「思った」ことが、 自分の考えとは違うからといって文句をいってもいいという常識はないだろう。(中略) 森さんは辞任した。そして1か月が経った。私はまだ釈然としない。 森さんのために釈然としないのではない。 この国の知性に対して釈然としないのである。(p.193)本書の中でも、最も繊細で刺激的な箇所ではないかと思います。そして、こういったことで、今の世の中は満ち溢れており、迂闊に発言すると、大炎上、四方八方から袋叩きにあってしまいます。「頭の中で考える」のと「実際に行動を起こす」のとでは違う、ということは重々分かってはいますが、やはり釈然としないのですよね。
2025.08.23
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「死」のメカニズムについて書かれた一冊。 著者は、監察医在職30年間に2万体の検死・解剖を行い、 死体検案書を発行してきた上野正彦さん。 それ故、実に淡々とクールに、「死」について記されています。 まず、「第1章 日常にひそむ死の危険」では、 本著のタイトル通り、「こんなことで死んでしまうのか!」という21の例を紹介。 例えば「胃痛なのに心筋梗塞で死ぬ」では、健康だった人がある日突然胃がむかついたため、 医師の診察を受け胃散の薬を処方されたのに、2~3日後に心筋梗塞で亡くなったというお話。これは、「放散痛」のためで、胃の不調は心臓の発作が胃に放散していたから。胃だけでなく、左肩だけが異常に凝っている場合は左側にある心臓の影響かも知れないし、背中の左側が痛いというのも、心臓の発作を警戒する必要があるといいます。痛い場所と悪い場所が一致しないというのは、結構多くの人が経験しているのでは?続く「第2章 生と死の境界線」では、呼吸停止や心臓停止、人間の体温の限界等を、「第3章 意外な死の真相」では、切腹や舌を噛み切って死ねるかや、死体の不思議等を、「第4章 死の医学」では、アルコールや薬物についてや、安楽死等を扱っています。。第2章の「心中は美しいのか?」では、監察医ならではのリアルな死体の様子が記されています。
2025.08.23
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「週刊文春」の2021年4月8日号から2023年4月27日号まで連載された 100のエッセイを一冊にまとめて、2023年6月10日に発行された一冊。 副題は「藤井聡太のいる日常」。 著者は、藤井聡太竜王・名人の師匠・杉本昌隆八段。 100回分のエッセイが掲載されているので、読みごたえは十分。 しかも、とても読みやすく、スイスイとページを捲り続けることが出来ます。 「走る棋士」が「ベスト・エッセイ2023」に選ばれたのも、大いに納得。 まぁ、それくらいの筆力が無ければ、週刊誌の連載なんて声がかかりませんよね。本著には、先崎学九段との対談「藤井聡太と羽生善治」が掲載されていますが、私が棋士の世界に最初に触れたのは、先崎九段がコラムを書いていた『3月のライオン』。その18巻が9月末に発行されると知り、今からワクワクしていますが、本書で、先崎九段が「週刊文春」で12年間も連載していたと知ってビックリ。話がそれてしまいましたが、100のエッセイからは、棋士の現実世界がどんなものか、実際に見たことがない私にも、しっかりと伝わってきて、とても親近感を覚えました。
2025.08.17
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前巻ラストシーンでの律子の母親の誤解は、即刻解けるが、 誕生プレゼントの2人の演奏を聴く、彼女の回想シーンは意味深長。 そして再びの「青野くんが律子の彼氏なら大歓迎だよ?」 さらに、夜道でハジメを送る律子は、自分でも思っていなかった行動に…… そんな中、期末テストに向けてのハジメの勉強を、ハルも手伝うと申し出る。 自身の気持ちも、相手の気持ちも、互いに掴み切れないハジメと律子。 そして、オケ部と合唱部の合同クリスマスコンサートに向けての練習が始まる。 その中に織り込まれる佐伯の回想シーンも、これがまた意味深長。市内の教会で開かれたコンサートは、聴く者だけでなく、演奏者にも大きな感動を与える。ただ、客席で隣り合わせたハジメと律子の母親は、今回は互いに名乗り合うこともないまま。そして年が明けての初詣、元旦生まれのハジメに、律子、ハル、佐伯、山田がプレゼント。次は3月の定期演奏会と、今年新たに創設された4月の世界ジュニアオーケストラコンクール。日本の有志の高校生達で合同オーケストラが編成され、最終的には日本代表として他国の学生オーケストラと競い合う。参加を希望する者は合同オーケストラを優先するため、定演参加は1、2曲となってしまうが、ハジメ、佐伯、ハル、山田は合同オケに参加、律子は定演に専念することに。 ***ハジメも律子の行動から、彼女のことを強く意識し始めました。さて、ハルの思いは、これからどうなっていくのでしょうか。
2025.08.16
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奔流篇に続くシリーズ第4巻。 TVドラマで言うとシーズン2に突入し、五鈴屋三代のご寮さんとなった幸が、 最も相性が良いと思われる三男・智蔵と共に、新たな商売を切り開いていく今巻。 終盤は、前巻以上にスリリングで、ワクワクする展開です。 ***庄屋・仁左衛門の言葉に誇りを著しく傷つけられた惣次は店を飛び出し、帰ってこない。惣次は呉服仲間の月行事に隠居願いを提出し、智蔵に五鈴屋を託すと告げていた。迷った末に智蔵は六代目徳兵衛を継ぐことを決意、惣次からは幸への去り状が月行事に託される。そして、幸を伴い筑後座で「曽根崎心中」を観た後、智蔵は自分の嫁になって欲しいと告げる。 何の才もない、木偶の坊の私だす。 いっそ人形になりきって、幸の思うように動かしてもらいまひょ。 遣い手の幸に思う存分、商いの知恵を絞ってもらえるように(p.89)呉服仲間の寄合は、桔梗屋の助けもあって上手く事が運び、店の者にもその旨が伝えられる。智蔵は幸、番頭・鉄助と共に波村を訪ね、仁左衛門と亮介に謝罪、手形の一件は無事解決し、幸は、亮介の母・照から機織りの際に出る「機ずね」と呼ばれる残糸を分けてもらう。そして、町内の披露目での嘲笑や侮蔑の空気も、治兵衛の言葉で一掃されるが、その夜、五鈴屋を百年続く店に、「幸、頼みましたで」の言葉を残し、富久は他界する。「浜羽二重」として五鈴屋が売り出したのは、真澄屋の手代が横流しした物との疑いがかけられ、月行事と共に、智蔵、幸、鉄助は大坂呉服仲間の会所に出向くが、産地を明かせと迫られる。幸は産地を明かすことなく、「浜羽二重」が盗品とは別物であることを証明すべく、懐から「機ずね」を取り出すと、伏見屋為右衛門が幸の言葉に嘘がないことを皆に説明する。智蔵と幸は、波村の庄屋・仁左衛門宅で、治兵衛の妻・お染の叔父・茂作と行商の契約を結び、かつて五鈴屋で奉公していた留七と伝七を、独り立ちした売り手として行商を任す。さらに、幸は筑後座で出会った人形遣いの亀三に、人形の衣装を無償で提供すると、それと同じ桑の実色の縮緬に黄檗の帯で十日間大入りの筑後座に通い続け、評判を呼ぶ。年末、呉服仲間から急な呼び出しがかかり、真澄屋による桔梗屋買い上げの件が話し合われる。真澄屋は、桔梗屋の暖簾は残すものの、店前現銀売りを始め、従来の奉公人は全て解雇すると、大坂組と天満組の統合話や、桔梗屋が既に手金を受取り使ってしまったことを絡め強腰。幸は、新たな買い上げ元が名乗り出たらどうなるかを一同に確認し、買い上げに名乗りを上げる。 ***今巻は、色々と新たな売り方を模索する幸の姿が描かれていましたが、菊栄に会うため、久宝寺橋の近く、鉄漿粉専門の紅屋新店舗も訪れました。そこで、二人で「女名前禁止」について語り合った後、菊栄が取引先への紹介文を書いて幸に渡すシーンは、とても心温まるものでした。
2025.08.15
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人気シリーズの第4巻。 「プロローグ」から「ウルフまんじゅう」までは、ひとつながりのお話。 「ゴブリンチョコエッグ」や「虹色水あめ」は良いお話で好きなんですが…… 児童小説でボリューム制限もあるでしょうから、これ以上を求めるは酷なのかも。 ***プロローグよどみが紫色の炎が揺らめく闇の中で菓子の素を作っていると、赤い水が戻ってくる。そこには、銭天堂で男の子が駄菓子を見つめ、そこに紅子が現れる光景が浮かび上がる。よどみは紅子から、その客を奪うことにした。ヤマ缶詰とずるずるあげもち水野雄太(11)は、銭天堂で紅子からテストに出てくる問題が分かる「ヤマ缶詰」を購入。しかしその後、「たたりめ堂」に導かれ、ずるをすればするほど、なまければなまけるほど、テストの点をあげられる「ずるずるあげもち」を、よどみに食べさせてもらう。その力で、雄太はテストで満点を取り続けるが、その内容を皆の前で全く説明できなかった。雄太が「ヤマ缶詰にしときゃよかった」と後悔すると、よどみが現れその力を奪い去る。ウルフまんじゅう富永洋介(11)は、ウルフまんじゅうを食べると何も怖くなくなり、これまでいじめられてきた佐々木、青山、二階堂を叩きのめし、やられたことをやり返す。さらに、3人を使って最近大人しい雄太に仕返しするが、担任の沢木先生に見つかってしまう。自分の異変に気付いた洋介は、その場から逃げ出し、紅子から説明書の内容を教えてもらう。洋介は自分の力で強くならないといけないと悟り、ウルフまんじゅうの力を放棄したのだった。眠り貯金箱と眠れませんべいウェブデザイナーの健司は、3歳年下の笹井紀子(25)から、余分な睡眠時間を貯金できる「眠り貯金箱」の話を聞くが、銭天堂は見つからず、たたりめ堂で眠れませんべいを食べる。健司は、徹夜も平気で仕事も絶好調になるが、会社が倒産して時間を持て余すように。眠れないことが苦痛で夜中に走り出して交通事故にあった健司に、紀子は注意事項を破って「眠り貯金箱」で貯めた睡眠チョコを食べさせ、自分も眠れなくして二人で夜更かしを楽しむ。ゴブリンチョコエッグ吉田真美(7)は、銭天堂でゴブリンチョコエッグを買って家来のゴブリンを手に入れる。ところが、このゴブリンは素直ではなく、前払いの報酬をけちると良い結果に繋がらない。そんな時、隣に住むおばあちゃんにタケノコの煮物をお裾分けに持って行った真美は、それをお仏壇に供えるよう頼まれ、素早くゴブリンのフィギアを仏壇の奥に隠した。それから、おばあちゃんには思いがけない幸運が次々に舞い込むようになった。虫歯あられ安室誠一(13)は、銭天堂で買った「歯磨きナッツ」で歯磨きをしなくても歯がピカピカ。新たなナッツを求めて銭天堂を探すが見つからず、よどみから「虫歯あられ」をもらう。それは誰かに食べさせると、自分の虫歯を移すことが出来るあられで、誠一の虫歯は消える。そんなあられを気になる樹里に手渡すと、暗闇に放り出され契約違反とよどみに怒られる。我に返った誠一の歯は、1本残らずなくなっていた。虹色水あめデッサン教室に通う等々力まどか(17)は、銭天堂で心が奇麗になる「虹色水あめ」を購入。一方、最高の友人で最高のライバルと思っていた百合子はよどみの「デッサン汁粉」を食べ、周囲の人の絵の才能を吸い取って急速にデッサンが上達、まどかにも悪意を向けるように。ところが、まどかの側で「虹色水あめ」の美しさに心を奪われると、よどみが現れ激怒。「虹色水あめ」を奪おうとするよどみを紅子が押しとどめ、百合子はまどかに救われる。エピローグ紅子がよどみに菓子勝負の終結を持ち掛けるが、よどみは受け入れず立ち去る。
2025.08.14
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コンクール当日、リハを終え、3年生たちが客席から見守る中をステージへ。 バッカナールの演奏と共に、羽鳥、立花、そして佐久間の この日のステージに至るまでの葛藤の日々が描かれていく。 特に、佐久間と筒井は、中学校で立花を支えてやれなかったことを激しく後悔。 その思いを、今回のコンクールに向けて行動で示し続け、この日の演奏に繋げた。 そこから発せられる「怒り」のパワーは凄まじく、聴くもの全てを圧倒。 そして、「今大会最優秀賞は…千葉県立海幕高等学校!」のアナウンス。 閉幕後、滝本は明日から練習に参加しないことを謝罪、全部員が快く送り出す。ハルはハジメと一緒に楽器屋へ、その後食事へ行くが、そこに現れたのは篠崎加奈。中学生の頃、いじめていたハルに、篠崎は一緒にいた友人と共に昼食を奢れと強要。制止しようとしたハジメにも憎まれ口を叩き、さらに律子の不登校にまで言及。度重なる無礼に対し謝罪を要求するハジメの迫力に屈し、篠崎は謝罪して立ち去る。何もできなかった中学生の頃の自分、それが本当の自分だと自らを責めるハルに、ハジメは、高校生になったハルの良いところを次々に挙げ、今のハルが本当のハルだと励ます。一方、ハジメは律子が母親の誕生日にプレゼントする演奏を指導、代わりに勉強を教えてもらう。誕生日当日、律子の家を訪ねると、律子の母親からは次の言葉が。 こんな良い子が律子の彼氏なら大歓迎よ! ***罪作りなハジメですが、本人には全くその自覚がないようで……どう転んでも、誰かが涙することになりそうです。
2025.08.13
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早瀬篇に続くシリーズ第3巻。 形ばかりでなく、真の意味で五鈴屋のご寮さんとなった幸が、 ドラマより格段に印象の良い惣次と共に、その商才を発揮し始める今巻。 しかし、終盤にはそんな幸せ気分が一気に吹き飛んでしまう急展開が…… *** 「あんたを嫁にしたら、私はもっと強うなれるやろ。 どうや、五鈴屋の、五代目徳兵衛の嫁になってくれへんか」(p.23)呉服仲間の了承を得た後、四代目の時より盛大に祝言、祝宴が行われ、夫婦の契りも交わされる。惣次は幸に、5年のうちに江戸へ出店してみせると宣言し、それに向けて改革を断行。年一度の大節季払いを五節季払いに改めるだけでなく、番頭と手代に割り当てを命じた。そして、幸の言葉を受けて智蔵に助言を仰ぎ、浮世草子に五鈴屋の宣伝を掲載する。改革は順調に進み、幸は富久の言葉から屋号を書き入れた番傘を作ることを思いつく。それを聞いた惣次は100張を発注、初雪が降る日に店の者がその傘を差して歩くと大評判に。さらに、幸の言葉から、生糸の産地・江州を絹織の産地に育てることを思いつく。一方、大阪屈指の米問屋・米忠からの婚礼品の注文は、その経営が危ういと知ると手を引く。以後、惣次は長期に渡って何度も江州に足を運び、波村を羽二重の産地として蘇らせ、それを五鈴屋で一手に売って大店にするという壮大なプロジェクトの下地を築いていく。ところが、本両替・山崎屋が分散、惣次が山崎屋の手形を全て波村への貸付に回していたため、幸はすぐ波村へ出発して釈明するよう進言するが、惣次に左頬を張られ蔵の壁に叩きつけられる。後日、波村の中庄亮介と庄屋の仁左衛門らが五鈴屋を訪れ惣次を糾弾、約定破棄を言い渡す。幸は、詫びを伝えると共に、自らの胸の内に秘めていた波村を縮緬の産地に育てることを提案、そして、そうなるまで五鈴屋で支援させてもらいたいと願い出る。それを受け、仁左衛門は幸が店主となるなら取引を継続しても良いと告げる。 ***これまでにない緊迫感溢れる、スリリングなシーンで今巻は終了。ただ、私が今巻で最も印象深かったのは、TVドラマでは描かれてなかった次のエピソード。幸は偶然再会した菊栄から、便利な鉄漿粉を紅屋が一手に扱うようになり、その鉄漿粉を広めるため、これから芝居小屋の座長に会いに行くのだと聞かされます。そして後日、富久と共に歌舞伎を観に出かけた幸は、舞台上で役者が話す台詞に驚愕。そこでは、腰元が嬉しげに「紅屋の鉄漿粉」の紙包みを客席に向けて見せびらかしていました。 「幸は五鈴屋を、私は紅屋を、陰で盛り立てて必ず栄えさせまひょな。 呉服に小間物は付き物だす。 いつか、一緒に何ぞ出来る日が来るよう、必ずその日ぃが来るようにしまひょ」(p.126)これも、きっと前もっての伏線を張っているに違いありません。幸と菊栄が力を合わせるお話が、今からとても楽しみです。
2025.08.12
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『水鏡推理Ⅵ クロノスタシス』以来、何と8年ぶりの続巻。 発行が講談社から角川に移ったので、 角川から改訂完全版が発行されつつありますが、 私はそれらは既読として、今巻から先を継続して読んでいくことに。 今巻の正式タイトルは『水鏡推理Ⅶ ソヴリン・メディスン』 「sovereign」は「統治者、支配者」、「medicine」は「治療薬」といった意味ですが、 さて、その意味するところは何なのか? その辺りも気にしながら、読み進めていきましょう。 ***報道番組コメンテーターやNHKアナウンサー、大相撲力士、フィギュアスケート選手、人気アイドル、プロ野球選手等々、コロナに罹患した著名人たちが、成清医科大付属病院で、開発段階のコロナ特効薬・リキュアA7を使用してたちまち回復。しかし、これは未承認薬であることから、病院は使用に対し慎重かつ真摯な姿勢を崩さなかった。科学技術・学術政策局研究環境課、研究公正推進室の水鏡瑞希は、先輩の瀬岐智紀と共に成清医科大付属病院へ薬剤サンプルと試験データ、化学構造情報などを受取りに行くことに。しかし、その前に病院の薬剤部薬剤研究課の田邊明彦から、気になる情報がもたらされる。それは、治験担当医・碓井弘幸が個人的にサンプル等を持ち出そうとしていたという内容。病院に出向くと、厚労省・佐久間英里子と医療系投資ファンド運用責任者・奥薗久司が現れ、結局4人が研究室前室で、研究員らにより運び込まれたデータ書類や試験管を確認することに。ところが、誰も気付かぬうちに箱の中の書類一式と試験管の中身が消え去ってしまう。そして、箱の中に唯一残されたメモ用紙には、次のように記されていた。 大変申しわけありません。薬剤とデータ一式、拝借いたします。 碓井弘幸 ***この後、瑞希と瀬岐は碓井の後を追いますが、意外な人物に辿り着くことに。さらに、リキュアA7とは一体何だったのか、薬剤とデータ一式は何故消えたのか、そして、この一連の出来事は、何者によって仕組まれたことなのかを解き明かしていきます。やはり『オリエント急行の殺人』ぐらいは、読んでおかないとダメですよね…
2025.08.11
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人気シリーズの第3巻。 今巻から銭天堂・紅子に対抗心を燃やす「たたりめ堂」のよどみが登場。 プロローグでは、早速若い男を呼び止め、わら人形焼きを食べさせます。 その後日談が「獏ばくもなか」で描かれ、さらに「エピローグ」へと続きます。 ***プロローグ「銭天堂」の壁をすりぬけて出てきた虫を目にもとまらぬ早業でつかまえた7歳位の少女。赤い彼岸花が一面に描かれた黒い着物、濃い紫色のおかっぱ髪、びっくりするほど白い肌。老婆のようにしわがれた声で若い男を呼び止め、その手を取るとある光景が浮かんでくる。それは、先輩社員が男の失敗を注意したり、代わりに上司に謝罪したりしているところ。「あんたあいつが憎いんだね」と尋ねると、男は「……ああ、憎い」と目を見開いた。獏ばくもなか4歳の娘・真理恵が悪夢にうなされ入院中の横手信孝(34)は、バスで病院に向かう途上、車中で紅子と出会い銭天堂に立ち寄ると、獏ばくもなかと逆襲ジンジャエールがあった。信孝は獏ばくもなかを購入し、それを食べた真理恵は、良い夢を見ながらぐっすりと眠る。その頃、信孝の会社では後輩社員の綿貫が七転八倒、金色の化け物に襲われると叫んでいた。娘を呪っていたものの正体に信孝は気付くが、綿貫はやがて会社を辞めてしまった。留守電でんシール井口智美(10)は、携帯電話を入手して最初は有頂天だったが、やがて対応に疲れるように。そこで、銭天堂で留守電でんシールを購入し、それを携帯電話に貼って対応を全て任せる。ある日、友人のさやかが帰宅していないと母親に聞かされ、留守電でんシールに確認すると、さやかは東京のカフェで雑誌の編集者と打ち合わせをすると言っていたと分かる。智美は、さやかの居場所を探してもらうと、シールが消滅するのを承知の上で探してもらう。絵馬せんべい 明日から3年生になる西谷勝(9)は、出張営業中の銭天堂で絵馬せんべいを購入すると、しょうゆペンで「あかりと同じクラスに、由香とは違うクラスになれますように」と書く。絵馬を神社で奉納したものの、翌日、由香は1組、あかりは2組、勝は3組になっていた。勝は紅子に文句を言うため銭天堂があった神社に行くが、そこで由香に出くわす。紅子は、客同士の願い事が重なって反発し、効果がなかったと詫び、二人に代金を返却する。しわとり梅干し孫の真子に「お顔しわしわだね」と言われた岡村雪江(68)は、しわとり梅干しを購入。ただし、一度にたくさん食べるとしわ逆流が起きるので、1日に数粒が限度との注意書き。さらに、しわ逆流が起きたときは、一つだけ入っている赤い梅干を誰かに食べさせると、そのしわが食べた人に移ると、びんのふたの裏側に記されていた。しわくちゃになった雪絵は、真子をさらおうとした若い男の口に赤い梅干を押し込んだ。兄弟だんご中村明(11)は、4人兄弟の一番上で、お兄ちゃんだからといつも我慢を強いられる。そこで、兄弟だんごを買って食べると末っ子になることに成功、以後かわいがられるように。ところが日が経つにつれ居心地が悪くなり、元に戻ろうと銭天堂を探すが見つからない。そんな時、長兄になった光が銭天堂でかりんとうを買ってきたので、明はそれを食べつくす。しかし、それは日替わりで役割が入れ替わる「かりんとうばん」だった。ミイラムネダイエットにはまっている小暮悠里(15)は、銭天堂でミイラムネを購入して飲む。ところが、途中で飲むことを止められなくなり、限度を超えて飲んだためミイラ化が始まる。そこに妹の桜子がやってきて、瓶の底に書かれた番号に電話をかけると紅子に繋がる。桜子は、その指示に従って「もとどおりの薬」をつくり、姉の体にぶっかける。棺桶に封印され2000年の眠りにつく寸前に助けてもらった悠里は、生活態度を改めた。エピローグ紅子が「たたりめ堂」のよどみと言葉を交わす。よどみが不幸虫を材料に作った「わら人形焼き」と、それを食べた男の顛末が判明、二人の菓子勝負が始まる。
2025.08.10
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副題は「メディアが報道しない多文化共生、移民推進の真実」。 著者は、フリーランスのジャーナリスト石井孝明さんで、 雁屋哲さんや香山リカさん、辛淑玉さんに対するコメントが騒動に発展、 本著が扱うクルド人問題でも、先日埼玉県鶴ヶ島市議会議員に提訴されました。 本著を含め、私たちはメディアを通じて様々な情報に触れることが出来ますが、 それらの真偽を、全て自分自身の手で確かめることは不可能です。 ただ、それらの情報を入手前から拒絶してしまっては、一歩も真実には近づけません。 ですから、間違いなく本著も読む価値のある一冊だと思います。本著には、クルド人が引き起こす問題で、埼玉県民が苦しむ様子が記されています。しかし、本著を読んだだけで終わるのではなく、さらに様々な別角度の情報を入手し続けることで、初めて自分なりの判断を形成し、この問題について発言する資格が得られるのだと思います。
2025.08.09
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人気シリーズの第2巻。 前巻のお話の中でも、エンディングが特に印象的だった「カリスマボンボン」。 その主人公・北島典行が、今巻「しっぺがえしメンコ」で思わぬ形で再登場。 前回にもまして、さらに悲惨な運命を辿ることに…… ***怪盗ロールパンこそどろの江城秀元(46)は、銭天堂で買った怪盗ロールパンを食べる。そして、何を盗んでも自分の仕業だと誰も気付かなくなると、警察署に挑戦状を送りつけ、厳重な警備の中、宝石店で狙った獲物を盗むように。ところが、博物館でロシア王族のものだったという王冠を盗んだとき、捕まってしまう。逮捕したのは伝説の刑事・三河で、銭天堂でヒーロー刑事プリンを買って食べていた。ドクターラムネキット楠本千里(5)は、銭天堂で買ったドクターラムネキットの中から白衣を取り出して着用、黒ぶちメガネの指示に従って母親に黄色のラムネを飲ませると、たちどころに頭痛が治る。以後、千里は町内で次々に病人やけが人を治していくが、面白くないのは町医者・犬丸忠志。千里が花園商店街野球チームに用意した元気ドリンクをすり替え、相手チームに渡すが、それは元気がありあまってる人が飲むと、逆に力が萎え切ってしまうものだった。お稲荷せんべい 野田早苗(12)は、銭天堂で買ったお稲荷せんべいを食べる。すると、おみくじキーホルダーを使って、お告げを聞くことが出来るように。早苗は、バスケットゴールが落下することを言い当てると、以後占いで大人気に。その力を他人に与えたくない早苗は、お告げに逆らって銭天堂を探しまわり、銭転堂を見つけ出すが、そこで買った巫女缶の中に飲み込まれてしまう。ミュージックスナックピアノのレッスンが嫌な立花響(10)は、紅子からミュージックスナックを買って食べる。すると、ピアノの前に座っただけで指が勝手に動き出し、見事な「トルコ行進曲」を演奏。またたくまに有名人になった響は、コンクールでシューマンの「幻想曲」を弾くことに。ところが、食べたスナックはモーツァルト風味のものだったので、指が全く動かない。響は、紅子が持つシューマン風味を断り、消し消しガムで起きてしまったことを消し去った。しっぺがえしメンコ探偵社の社員・長谷川大輝(42)は、北島という男の依頼で銭天堂の紅子を探していた。長谷川は紅子が中身を補充していたカプセルトイでしっぺがえしメンコを引き当てると、白いメンコに腹立たしい客・北島の名前を書き込んで、悪魔のメンコでひっくり返す。すると、テレビから北島が自動車事故を起こしたというニュースが流れてくる。それは、以前紅子からカリスマボンボンを買った元美容師・北島典行だった。おもてなしティー一人暮らしの有馬みどり(43)は、とても寂しくてたまらない時がある。ところが、銭天堂で買ったおもてなしティーをお客さん用のカップに注ぐと、次々にその時にふさわしい人が現れ、みどりの心を癒してくれる。そして、最後の一杯を注いだ時、現れたのは小学生の頃自分をいじめていた同級生・ゴッチ。その大好きなケーキ屋さんの店長の口から、思いもかけなかった真相が語られる。
2025.08.09
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コンクールが迫る中、体育祭が行われ、騎馬戦の大将になったハジメは、 精鋭メンバー3人による騎馬が敵から逃げ回り勝利を収める。 一方、部活対抗リレーでは、立花、律子、羽鳥、東金とバトンを繋ぎ、 トップでアンカーの筒井がスタートするも、競り負けて僅差の2位に終わる。 そして、コンクールまで1カ月を切り、ブロック練習が始まる。 管・弦・打楽器全てのパートが少人数で混ざり合い、A、B、Cの3グループに分かれて練習。 ハジメと相合傘で帰る姿を町井と平良に見られたことで、秘めた思いに気付かれたハルは、 そのことについての捉え方を改め、2人だけで一緒に楽器屋に行きたいとハジメに告げる。潮凪北中学校管弦楽部は金賞連続獲得の強豪校で、原田、佐久間を引き継いで立花が部長に。しかし、顧問が産休に入って立花の気合は空回り、部員を委縮させ銅賞に終わっていた。律子が立花からそのことを聞いた後、二人で練習していると佐久間がリズムをとってくれる。律子には相変わらず厳しい言葉を投げかける立花から、夜にはツンデレ・メールが届いた。発熱で練習を欠席したハジメは、佐伯からの電話で反省会で佐久間が発言しなかったと知る。後日、ハジメからまたしても激しい非難の声をぶつけられた佐久間は、 自分の意見が言える人 言えない人がいる。 実際僕にはこれだけ言えるくせに… みんなの前になると途端に黙り込むタイプでしょ?そして次回のミーティング、誰も意見を発しない中、ハジメは自分の考えを述べる。帰途、電車で隣り合わせた佐久間から、 時間がないんだからさ、 君はこれからAブロックのコンマスとして ガンガン皆を引っ張るつもりでやるんだよ? でもまあ… 今日は割と良かったけどね。 ***嫌味たっぷりの佐久間の本性が垣間見えた第8巻でした。でも、これのスタイルで、中学校の時は部長をやり切れたのかな?
2025.08.09
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源流篇に続くシリーズ第2巻。 すでにTVドラマは見ているので、お話の展開は分かっているのですが、 それでも、ドラマでは描かれていない部分もあって、読んでいて楽しい! ドラマ同様、もやもやした気分を引きずらない展開がとても良いですね。 ***幸が富久の言葉に従って一緒に北野村に出かけると、そこには津門村の彦太夫と母・房の姿が。治兵衛によって全てが整えられたその場で、幸は4代目徳兵衛の後添えになると知らされる。翌日、徳兵衛、惣次、治兵衛、富久がその件で話し合うが、徳兵衛が富久に暴力を振るい、さらにそれを押し留めた治兵衛を振り解くと、治兵衛は頭を押さえ畳に倒れ込んでしまう。医師に言葉や半身の自由を奪われる卒中風と診断され、五鈴屋を去ることになった治兵衛は、富久と共に後添えを幸とすることを徳兵衛に納得させると、幸にも自らの思いを伝える。覚悟を決めた幸は、富久と共に呉服仲間の寄合に出向くも、答えられない試問ばかりが続くが、幸が「商売往来」を一言一句間違えずに暗唱したことで、皆から後添えとして了承される。祝言後、徳兵衛は幸に、月の障りもない身体のうちは自分の目の届かぬ所で寝るよう言い放ち、町内への祝儀銀も出さないので、幸が富久と共に部屋見舞いに回っても手酷い扱いを受ける。しかし、治兵衛を訪ね、新たに番頭となった鉄助から色々教えてもらっていると伝えると、治兵衛は、次のように語る。 知恵は、何もないところからは生まれしまへん。 知識、いう蓄えがあってこそ、絞りだせるんが知恵だすのや。 商いの知恵だけやない。 生き抜くためのどんな知恵も、そないして生まれる、と私は思うてます。 せやさかい、盛大に知識を身につけなはれ(p.133)後日、惣次が上得意客のため苦労して入手した明石縮の上物を、徳兵衛が他者に譲渡してしまう。幸は惣次の指示に従って、南船場の店前現銀売の呉服店で明石縮の反物を銀60匁で購入すると、惣次に店前現銀売の店と掛け売りの店との商いの方法の違いについて尋ねる。さらにそのことを治兵衛に尋ねると、惣次の屋敷売りに一度同行させてもらうよう助言される。そして、遂に惣次の屋敷売りに同行する機会を得た幸は、惣次と治兵衛の -現銀売りと掛け売りでは、客の層が違うからや -物の売れ方、考え方が、江戸と大坂ではそれだけ違う、言うことだすという言葉を思い出すと共に、惣次の商人としての心構えや根底にある思いやりに気付かされる。惣次は、蔵の反物で売れ残ったものを、誓文払い限定で店先現銀売することを提案して実行。これが大成功を収めるが、徳兵衛は保管した銀貨を持ち出そうとする現場を押さえられてしまう。その際、散らばった銀貨を拾い集める手代たちに「猫糞するんやないで」と言い放ったことから、手代の留七と伝七は店主に愛想をつかし、五鈴屋を去って行った。年が明けて、治兵衛の息子・賢輔が丁稚奉公に上がり、さらに2年余の年月を経て、大坂一の呉服商・伏見屋為右衛門の末娘の婿養子に惣次を迎えたいという話が持ち上がる。ところが、酩酊したまま新町廓の呼屋を出た徳兵衛が堤から転落、そのまま帰らぬ人に。惣次は、幸を五鈴屋のご寮さんとして正式に迎えることが、5代目襲名の条件と富久に告げる。 ***町内の世話役たちが、徳兵衛が祝儀銀を納めないため下女扱いされ続ける幸のことを、「人妻らしいに帯は前で結ぶくせしてから、歯は鉄漿もなしに白いままだすやろ? ぐいち(ちぐはぐ)で、何や鵺(ぬえ)のようだすがな」と噂し合っていたことから、「私、鵺ですから」と言った幸に、惣次が「あんたが鵺なら私かて鵺や」と返します。このやりとりでもわかるように、幸と惣次の関係性は、ドラマで描かれていた以上に奥深いものがありました。相手に対する評価は双方ともにかなり高いものだと推測され、これなら、二人が婚姻に至るのも大いに納得です。次巻では、二人が力を合わせ、五鈴屋再建に向けて動き始めます。
2025.08.03
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聞き覚えのあるタイトルでしたが、どんな作品かは全く知りませんでした。 しかし、Eテレでアニメ化、さらに昨年は実写映画化までされていました。 今回、初めて読んでみましたが、これがなかなか面白い。 児童小説とのことですが、大人も十分楽しめます! ***型ぬき人魚グミ 水泳の授業が始まるのが憂鬱な篠田真由美(11)は、銭天堂で買った人形グミを食べる。すると、のどが渇いてたまらなくなり、真っ先にプールに飛び込んで一人で自由に泳ぎ回る。ところが、グミを食べ終わった後にはスプーン1杯の塩水を飲んでおかないと、徐々に体が人魚化していくと分かり、大慌てで同封されていた人間型グミを作って食べる。ただ、固める時間が少々不足だったせいか、人間に戻った真由美は水が怖くなくなっていた。猛獣ビスケット最初に猛獣使いのビスケットを食べると、猛獣たちはその人をボスと認め、おとなしく食べられるが、先に猛獣を食べると、仲間を食べた敵として襲い掛かってくる。銭天堂でそれをくすねた宮木信也(9)は、説明書を読まずに猛獣を先に食べて大ピンチ。そこに現れたのは、銭天堂でリング・キャンディを買った宮木恵美(7)。呪文を唱えると、恐いものをすいこんでくれる指輪の力で、兄の危機を救ったのだった。ホーンテッドアイス 食べ残しを冷凍庫に入れておくと、アイスのたたりで、家の中がお化け屋敷に大変身。工藤美紀(21)は、半分残したアイスを冷凍庫に入れたままにしてスリルを満喫していた。ところが、美紀が出張に出かけて家に帰ってくると、何と部屋に泥棒が入っていた。アクセサリーも服も盗まれていなかったが、冷凍庫の中のアイスがどこにもない。アイスを別の人が食べると、最後に食べた人は、おばけたちに一生とりつかれるのだった。釣り鯛焼き折りたたみバケツに水を入れて、同封の釣竿を使うと色々なサイズ・味の鯛焼きが釣れる。竹下慶司(8)は、外に遊びにも行かず釣り三昧、色々な鯛焼きを皆におすそわけする。が、姉・冬子が慶司の部屋にある図鑑を借りようとして、竿を踏んで壊してしまう。慶司は本物の釣竿を使うが、大きな魚に釣竿ごとバケツに引っ張り込まれそうになる。その時、冬子が窓から飛び込んでバケツを蹴り飛ばして弟を助け、釣竿も直してやった。カリスマボンボン 任されるのはシャンプーと店の掃除くらいのうだつの上がらぬ美容師・北島典行(28)。が、ボンボンを口にすると、客が押し寄せ、どんなカットでも腕前を褒め称えられるように。麻布一等地の店で20人のスタッフを使う程になるが、その一人・美鈴を訪ねて紅子が来店。紅子は美鈴に実力ボンボンを手渡すが、そうと知らない典行はそれを取り上げ口にする。それは、努力と実力に見合った評価を受けるようになるものと知り、典行は震え怯える。クッキングツリー大熊翔平(6)と北斗(4)の母親は、酒、たばこ、パチンコに明け暮れるネグレクト親。兄弟に優しい同じアパートに住む大学生・根川すみれ(21)の依頼で紅子がツリーを届ける。色んな味のする実がなる木には、食前食後に「いただきます」と「ごちそうさま」を。手を合わせてそれを言わないと、ツリーの怒りを買って、食べられてしまうという。心を食べられた母親は、これまでの行動を改め、きれい好きで優しく、子供好きになった。閉店銭天堂は、商店街のコロッケ屋と乾物屋の間にある細めのわき道の奥にある駄菓子屋。そこには、古銭の柄の入った、こい赤紫色の着物を着た、どっしり太っていて、大きく結い上げてある髪が真っ白で、顔にはしわ一つなく、赤い口紅をぬり、色とりどりの大きなガラス玉のかんざしを何本もさしている、おかみ・紅子がいる。その店の奥の地下では、金色の小さな幸運の招き猫たちが働いている。
2025.07.31
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TVドラマでは、既にシーズン2が終了し、 さらにシーズン3の制作が決まっている人気シリーズ。 放送開始時から欠かさず見続けてきた私は、今からとても楽しみにしていますが、 一足先に、既に完結している原作を読んでみることにしました。 ***私塾・凌雲堂主宰者で学者の父・重辰と母・房との間に尼崎藩が治める摂津国武庫郡津門村で生まれた幸は、長雨、冷夏、旱魃、稲虫の被害による飢饉の最中、兄・雅由と父親が立て続けに亡くなると、母や妹・結と別れ、大坂の「五鈴屋」に9歳で女衆として奉公に出されることに。「五鈴屋」は、伊勢出身の初代徳兵衛が「古手」で商いを始め、大阪天満裏店に暖簾を掲げると、2代目徳兵衛とその妻・富久が、古手商から絹織物を扱う呉服屋へと商いを移す。2代目没後、3代目徳兵衛が15年前に急逝すると、富久が番頭・治兵衛の後見を得て切り盛りし、3年前に3代目の残した3兄弟の長男を、17歳で4代目徳兵衛に据えていた。手違いで集まった4人の少女に対し行われた選考で、上物の半襟を選んだ幸は無事女衆となる。先輩女衆のお竹、お梅に日々の仕事を仕込まれつつ、丁稚が番頭から学ぶ姿に興味を持つ幸に、読書家の3男・智蔵は、丁稚たちが覗き込んでいる書物は『商売往来』だと教えてくれ、智蔵に頼まれた治兵衛は、丁稚に番頭が教える声が聞こえる中座敷で墨を磨るよう幸に命じる。4代目徳兵衛(22)との婚礼を終えた千場小間物商・紅屋多聞の末娘・菊栄(17)は、慣れぬ嫁ぎ先でも気丈に振る舞いつつ、幸に対して心を許すように。一方、商売に全く身を入れぬ徳兵衛と、商才に富み五鈴屋を真に支える次男・惣次は激しく対立。さらに、草子を書いていることを惣次に知られた智蔵は、自ら五鈴屋を去っていく。そして、徳兵衛の廓通いが菊栄の里にも知られるところとなり、子作りばかりを期待される菊栄は、里帰りを口実に五鈴屋を出発、二度と戻ってこなかった。紅屋に返却する敷銀35両に苦慮し、商いの存続の危機を迎えた五鈴屋。借金をするにしても、徳兵衛の身持ちを確かなものにすべく後添いを迎える必要があった。 ***TVドラマは、幸が奉公に出されるところから始まっていたと記憶していますが、原作では、それ以前のエピソード、特に兄・雅由との関りが丁寧に描かれていました。この兄が幸に与えた影響は多大なものがあり、以後のお話の展開、幸の行動がより納得出来るものになっているように思いました。もちろん、番頭・治兵衛の存在が格別なものであることは、原作でも同様。原作では、次のような言葉を幸に投げかけています。 ひとというのは難儀なもんで、物事を悪い方へ悪い方へと、つい考えてしまう。 それが癖になると、自分から悪い結果を引き寄せてしまうもんだすのや。 断ち切るためにも、笑うた方が宜しいで(p.116)まさに、師匠と弟子の関係です。
2025.07.30
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『バニラな毎日』の続編。 『パティストリー・ブランシュ』を再開し、気持ちよい朝を迎えた白井だったが、 店の前の道路が突如陥没し、卸売業者の冷蔵専用トラックがはまり込んでしまう。 その最中、ヴィクトーと別れフランスから帰国した佐渡谷を迎えに行くはめに。 翌日から店は臨時休業、白井は佐渡谷のためにスパイシーココアを作る。 後日、静と一緒に現れた佐渡谷のために、明日香のクライアント・三沢も加わって、 フランスとは違う国のお菓子を作ることになり、ニューヨーク・チーズケーキ作りに挑む。 しかし、出来上がったチーズケーキの味は、佐渡谷にヴィクトーを思い出させてしまい、 リベンジとしてバスク・チーズケーキ作りを敢行すると、大成功を収めたのだった。そして、白井がようやく店の再開にこぎつけた日、突然ヴィクトーが現れる。佐渡谷との関係を修復させるために、白井はヴィクトーに最高のお菓子を作るよう提案。ヴィクトーがフランを作るのを手伝い、佐渡谷を店に招いてそれを食べさせると、佐渡谷は、ヴィクトーが宿泊するホテルへと二人で帰って行ったのだった。去年亡くなった祖母と会話する明日香のクライアント・小学3年のが来店、ヴィクトーの提案で、苺大福みたいな苺のケーキ「フレジエ」を作ることに。その後、祖母が現れなくなった広貴が、白井に祖母の時と同様に色が薄くなっていると告げると、後日、スポーツ車が跳ね飛ばした鉄板が、店の前で掃除をしていた白井を直撃してしまう。退院後リハビリを続けるも、右手は以前と同じ状態には戻らないと医師に宣告された白井は、明日香から静のライブチケットをプレゼントされ、会場に足を運ぶ。翌日、店でソフトクリームを作った白井は、数日後、店に招いた佐渡谷から入籍の報告を受け、さらに、白井が完全復活するまでヴィクトーと店の営業をサポートすると告げられる。右手の状態が急激に改善した白井は、ヴィクトーと佐渡谷に結婚パーティーの開催を提案。白井は二人と一緒に「クロカンブッシュ」のウェディングケーキを作るが、店の大家からビルと土地を売るので、契約期間内に立ち退くように言われてしまう。店で開いた結婚パーティーの最中、白井は皆の前で渡仏を宣言する。 ***TVドラマは、『バニラな毎日』に本作を加えて脚本が書かれていたようですが、本作には、ドラマでは描かれていなかったエピソードもあり、楽しめました。また、エンディングも異なるものとなっており、双方ともに納得できる締めくくりでした。今後、賀十さんの他の作品も、読んでみたいと思います。
2025.07.27
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夏希は、5年生の児童に『ネットで楽しく話そう教室』の授業をするため、 少年育成課の小林凪沙巡査部長と共に私立・湘南ハルモニア学園小学校へ。 授業を終えた夏希が応接室で川勝教頭と話していると、6人の男女が校内に侵入、 5年生20人と担任の泉沢陽菜教諭を人質に視聴覚室に立てこもる。 夏希が、犯人から送られてきたメッセージに返信する形で対話を試みると、 犯人は、《ミネガイ》《プルトリア》《日岳物産》の3社に対し、 各社が世界で犯した大罪を告白し、不幸をもたらした人々へ謝罪するよう要求。 さらに、各社に10キロの金地金を身代金として支払うよう求めてくる。すると夏希は、化学製品大手メーカー《ミネガイ》相談役・小寺政之の孫・小寺政人、通信インフラ大手《プルトリア》相談役・稲葉道康の孫・白井愛莉、大手総合商社《日岳物産》相談役・白井治夫の孫・土橋春人の3人以外の児童の解放を要求。犯人は、17人の児童と夏希の交換を了承したのだった。 ***夏希が人質と交換になるのは、『ノスタルジック・サンフラワー』以来。あの時と同様、犯人と直接対面した夏希は犯人の心を解きほぐし、説得に成功します。それにしても、もう一人の協力者の存在には、本当に驚かされました。今回のお話にケリを付けるのは、常連のアリシアではなく、タイハクオウムのピリナです。
2025.07.21
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『新世界より 第4楽章』が始まった。 熱く激しい演奏の最中、部長・立石が、これまでの日々を振り返り、 次期コンマス・羽鳥が、現コンマス・原田からの言葉を思い出す。 そして、終演。 定演を終え、夏休みも残すところ1週間を切った部員たち。 そして、3年生が抜け、新体制での活動が始まった海幕高校オケ部。 11月には9連覇がかかるコンクールが行われる。 演奏する曲は「バッカナール」。ところが、朝練は閑散とした状態。打楽器・セクションリーダーの2年・佐久間優介は、弦楽器部員を直球非難した後、ハジメに向かって「僕…君のこと嫌いだなあ。」さらに、新コンマスとなった羽鳥に対しても、嫌味な言葉を連発する。新部長・筒井俊樹とコンマス・羽鳥、弦楽器・据野姫子、管楽器・東金梨香、打楽器・佐久間優介の各セクションリーダーに、これまでの1stヴァイオリンから2ndに異動してパートリーダーとなった滝本かよを加え、朝練についてのミーティングが行われ、1年生たちも大いに気をもむことに。滝本は、医学部受験に拘る母親と、部活は夏までと約束していた。ところが、福留心美が2ndヴァイオリンのパートリーダーになるのを固辞し、自身も部活を辞めたくない気持ちがあったため、それを引き受けてしまった。そんな中途半端な状態に悩む滝本が乗る電車に、ハジメは偶然乗り合わせることに。滝本は、仲の良かった日向がオケ部を辞めた時、陰で悪く言われるのを聞いて、彼女の頑張りが全部無かったことにされた気がしてムカつくと共に、一生懸命やる意味があるのかと冷めてしまったと、ハジメに打ち明ける。そして、「自分の意思」がないから、どうしていいかわからなくなる…とも。「お父さんのこと嫌い?」と尋ねられたハジメは、全力で拒絶するだけだったが、言ってやりたいことをもっと言っておけば良かったと、後悔していると話す。その後、滝本はコンクールまで部活に専念し、以降は席だけ置くと決断。母親を説得すると、鮎川、そして2ndヴァイオリンのメンバーにもその旨を伝える。 ***チェロの3年・つばさ先輩から山田への「やり方の違い」の話や、顧問・鮎川から原田への「部活と受験の両立」についての話は、吹奏楽部でもあるあるのお話で、まさに青春。そんな部活も、中学校では消滅する日に向けてのカウントダウンに入っています……
2025.07.20
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ヨコハマスカイキャビンの停止不能、 ランド・マリン・タワーの展望フロア行き高速エレベーター異常動作、 Yアリーナ横浜の超小型ドローン・ショー。 桃太郎、金太郎、浦島太郎から代わる代わる届く犯行声明に夏希が対応。 そして、パシフィコ横浜の《潮入りの池》への毒物混入の後、 桃太郎が、イーサリアムの口座に仮想通貨100イーサを振り込めと要求。 支払わないと、金太郎のクリッキング技術と浦島太郎のドローン&爆破技術、 さらに桃太郎の毒物技術を用いて、県民を危機に陥れると脅してくる。そんな中、加藤がドローン・ショーの準備・実行をした内田社長を見つけ出し、先日のやりとりの中で、夏希が浦島太郎の信頼を得ていたことが分かる。今回の恐喝がモジュール的犯罪だと気付いた夏希は、三太郎の繋がりを断ち切ろうと考え、浦島太郎だけに向け、自分の思いを伝えるメッセージを送信する。そして、桃太郎から怒りの返信の後、浦島太郎からも返信が。 - あんたを信じる。鷺舞橋11時。夏希は、加藤、小川、アリシアと共に現地に向かった。 ***今回は、割とシンプルなお話でした。いつもと同じぐらいのボリュームの一冊でしたが、夏希と三太郎とのやりとりのシーンでは、メッセージ毎に1行空欄になっていたので、総文字数は、いつもより結構少なめだったような気がします。
2025.06.29
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『マスカレード・ホテル』、『マスカレード・イブ』 そして『マスカレード・ナイト』に続く、シリーズ第4弾。 今回も、捜査1課係長・新田浩介警部がホテル・コルテシア東京で潜入捜査。 総支配人・藤木がロサンゼルスから呼び戻した山岸尚美も、そこに加わります。 その尚美が、新田との再会を果たした際の言葉は次のようなもの。 私が知っているのは、恨みを晴らしたい人々が力を合わせて、 それぞれの復讐を当人以外の者が共犯で果たしているらしい、ということです。 これまでに起きた3つの事件の被害者は、いずれも過去に人を死なせた経験のある人物で、 その時に亡くなった人たちの遺族には事件当日のアリバイがある。 そしてその3人の遺族が、今夜このホテルに宿泊予定だとか。(p.117)その過去に人を死なせた3人と、その被害者及びその遺族は次の通り。 入江悠斗 傷害罪(少年院送致) 被害者・神谷文和 遺族・神谷良美(母親) 高坂義広 強盗殺人罪(懲役18年) 被害者・森元俊恵 遺族・森元雅司(長男) 村山慎二 リベンジポルノ(懲3猶5) 被害者・前島唯花 遺族・前島隆明(父親)そして、新田は捜査で突き止めるポイントについて、尚美に次のように説明します。 ひとつ目は、誰の命が狙われているのか、ということです。 おそらく今夜の宿泊客だと思われますが、過去に人を死なせた経歴の持ち主だという以外、 今のところ手がかりは全くありません。(中略) 彼らが手を結ぶことになったきっかけは何か、出会いの場はどこか、ということです。 物理的な人間関係に関しては、すでに徹底的に調査が行われていますが、 これまでのところ、繋がりは何ひとつ見つかっていません。(中略) 遺族たちがどこで出会ったのかを突き止めると同時に、はっきりさせるべきことがあります。 それは、仲間は何人いるのか、ということです。(p.118)今回のクリスマス・イブの捜査には、捜査1課7係長の梓真尋警部も加わりますが、ホテルの許可を得ずにバーの様子を隠し撮りしたり、部屋を盗聴したりとやりたい放題。そんな中、沢崎弓江が佐山涼とコーナー・スイートにチェックイン。早々にルームサービスを頼み、さらに3人の仲間を加えてクリスマス・パーティーを始めます。そして、新田の大学時代の同期で元検察官の三輪葉月がデラックス・ダブルにチェックイン。彼女は、大麻取締法違反で逮捕歴がある佐山涼の行動を、新田から聞き出そうとします。さらに、小林三郎とその妻もデラックス・ツインにチェックイン。しかし、予約者リストの備考欄には「番号名義不一致」と記載されていました。やがて、森元雅司と思われる人物が運営している『不可解な天秤』のブログの中に、『刑事責任能力とは』という記事が見つかります。それは、20歳の女が、交際する男が自分と別れ他の女と付き合おうとしていると知り、大量に精神安定剤を服用した後に、錯乱状態になって男性を刺し殺したという事件を語ったもの。気を失った女は、意識を取り戻した後、「何が起きたのか全く覚えていない」と主張し、精神鑑定で心神喪失状態との診断結果が出たことで、不起訴処分になりました。加害者は長谷部奈央、被害者は大畑誠也で、その両親の氏名は大畑信郎と大畑貴子。そして、大畑信郎名義の運転免許証の写真の人物は、まさに……その人物は、インターネットで被害者遺族たちが情報交換するサイトに辿り着き、さらに、その運営者からダークウェブのネット集会「ファントムの会」を紹介されます。そこでは、理不尽な事件の加害者の近況について詳細な情報が交換されていました。そして、その人物は、理不尽な事故で娘を失った尾方道代という女性と教会で知り合います。尾方道代は、その人物から「ファントムの会」について教えられ、集会に参加するように。そして、「デスマスク」というハンドルネームで、長谷部奈央のSNSを発見したと報告します。その後、入江悠斗、高坂義広、村山慎二が、何者かによって次々に殺害され、長谷部奈央がクリスマスの日に渡米、前日はホテル・コルテシア東京に宿泊することが判明。さらに、長谷部奈央が何者であるかも判明し、その人物が、今日、展望コーナーで尾方道代と出会い、目礼だけしていたことが分かると、新田は尾方道代の正体に気付き、直接会って事情を問いただします。そして、尾方道代と長谷部奈央の関係、そしてその行動の意味が明らかになっていくのでした。 ***今回も、東野さんの作品らしい、とても悲しいお話でした。それでも、新田には新しい道が開け、次回作も期待できる締めくくりとなっていることが救いです。その際は、梓真尋警部もまた登場しそうですね。
2025.06.29
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いよいよ海幕高校オケ部の定演が始まる。 開演5分前、舞台袖の緊張感。 鼓動が高まる中、会場におもむろに流れる定演開始のアナウンス。 穏やかに響く拍手の中を、演奏者たちが厳かに入場。 そして静寂の中、鮎川のタクトが振り下ろされる。 『「カルメン」より前奏曲』を奏でつつ、これまでの日々を振り返る律子。 同じように、『「くるみ割り人形」組曲』ではハルが、 『「四季」より「春」と「夏」』では原田たち3年生が、これまでの日々を振り返る。さらに『「サムソンとデリラ」バッカナール』を聞いた後、ハジメの母親との言葉のやりとりの中で、武田が鮎川と過ごした高校時代を回想。そして、『新世界より』では、佐伯や3年木村、ハジメが、これまでの日々を振り返り、次はいよいよ終楽章、というところで今巻は終了。 ***今巻の中では、ハルと町井先輩のエピソードが、一番心に残りました。4巻でも、ハジメに大きなインパクトを残した町井先輩。とても良いキャラクター。引退しても、また登場して欲しいです。
2025.06.22
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現在放送中のTVアニメは、第4巻の終盤に差し掛かっていますが、 その部分のお話は確かに読了し、記事まで書いているのに、 6年半前に読んだそのお話は、アニメを見ていても、 そのストーリーを全く思い出すことが出来ないという情けない状況でした。 そこで今回、再度、読み返してみることに。 すると、アニメで描かれていたシーンが、確かに記述されている…… 先述したように、既に一度記事は書いているので、 今回は「21話 事の始まり」で楼蘭が紡いだ物語のみ、まとめておこうと思います。 ***神美の父親は奴隷交易で成功を収めていたが、女帝に目を付けられ、息子である先帝の上級妃に取り立てたいので、娘を後宮に差し出すよう命じられる。娘を質にとられた神美の父親は、奴隷交易を縮小せざるを得なくなり、それに代わる事業として、後宮の拡大を女帝に提言する。一方、子昌は一族の傍流に過ぎない男だったが、その聡明さや王母と同じ血筋であること、本家に後継者がいなかったことから、神美と婚約して本家の養子に入っていた。子昌は、先帝と女官(晩年は怪談話の収集を楽しみとしていた)との間に生まれた娘を匿い、娘が適齢期になると、先帝から娶るよう頼まれ、生まれた娘は子翆と名付けられた。やがて、神美の父親が病に伏すと、子昌が家督を継ぐことに。そして、神美が下賜され、子昌と神美の間に娘が生まれ、子翆と名付けられる。母親が亡くなり、名前を奪われた翆苓は、後宮の元医官の元へと引き取られていく。元医官は、後に砦で神美から不老の薬を作るよう命じられることになった。子昌は所詮養子であり、宮廷における権力に比べて、一族内での力はそれほどでもなかった。神美を思い、自分を虚仮にし続けた憎き国を滅ぼしたかった彼女のために行動しつつ、国のことも見捨てられない忠臣は、最期までこの国の腐敗を一手に集める敵役を演じきった。そして、楼蘭も父母双方の思いを叶えつつ、一族の未来を猫猫に託し、散っていったのだった。
2025.06.14
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入院中の母親に会いに行った帰り道、ハジメは中学生の時の担任・武田に会う。 色んなことに悩むハジメに、武田は「もっと周りを頼れ!」と言って立ち去る。 律子と電話で話した後、ハジメは佐伯を呼び出して自分の気持ちを語り始める。 そして、佐伯も自分の気持ちを語り始める。 激しくぶつかり合う感情。 そして、 俺… 本当は誰が父親とか どうでもいいんだ。 ずっと… 君に申し訳なくて… うしろめたかったけど… 君が「俺として」見てくれたからどうでもいい。 俺は…… 血の繋がりよりも… 今身近にいる人達との繋がりを大事にしたい。 …こいつ、 俺がずっと苦しんでたことを たった一言で片付けやがった。翌日、ハジメが久しぶりに部活に復帰すると、「新世界より」第4楽章の練習が始まる。そして、定演まで13日と迫った部活休みの夜、花火大会に一緒に出かけたハジメたち。金魚すくいや射的を楽しんで、佐伯の演奏で凹んだ経験を互いに語り合う。夜明け前、ハジメはユーモレスクを弾くうちに父親の言葉の数々を思い出す。 お前はもっと 音色のイメージを 明確にしろ。そして始まった再テスト。結果は、ハジメが表で、佐伯が裏。定演前日、原田や立石、そして鮎川が語る言葉に、全員で「一音一会!」。部員たちは、心の音をひとつにしたのだった。 ***ハジメと佐伯の感情がぶつかり合うシーンは、今巻最大の見せ場……のはずですが、私としては、今一つ気持ちを持ち上げきれませんでした。何故?数々の演奏シーンも同様。何故?夏休み中の緩いシーンなどは、読んでいて全く違和感ないのですが、肝心要のシーンに限って、気分が高揚してくれない……
2025.06.14
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著者の樋口みみさんは、1987年に日本で生まれ、 親の仕事の都合で幼少期をアメリカで過ごし、15歳で帰国、 大学進学の際に再び渡米し、留学先で台湾人の現在の夫と出会いました。 結婚後は台湾に住み、現在は3人の男の子の母親となっています。 本著では、台湾の食文化や生活習慣はもちろん、 台湾の人と夫婦になって台湾に住むこと、 義家族との関りや、自分の子どもを台湾で育てていくことについて 台湾生活12年目の著者が、赤裸々に語っています。隣国といえども、やはり海を隔てた異国の文化や生活習慣は相当な差異があり、濃密な義家族との関係や、台湾の国際的位置付けと国籍の問題、兵役の存在と学校教育等々、日本に住む者にとっては、アンビリーバブルと感じてしまうことも少なくありません。目の前に突然このような現実を突き付けられたら、精神的ストレスは計り知れないでしょう。著者の場合は、幼児期からアメリカで長期間過ごしていたことから、異文化の中での暮らしに相当慣れていたということと、義父母が義姉と共にアメリカに永住することになって物理的距離が出来、家族だけの時間を過ごせるようになったことが、とても幸いしたと感じました。台湾だけでなく、他国の方との結婚を考えられている方はもちろん、同じ国の方との結婚を考えている方でも、育った家庭の生活習慣や考え方、感じ方、行動には大なり小なり違いがあるものなので、本著を通じて、結婚の現実を知っておくのは、とても有意義なことだと思いました。
2025.06.14
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本書で著者が述べたいことは、最終章に集約されています。 そこに至るまでの構成は、こんな感じです。 まず、『序章 労働と読書は両立しない?』では、 映画『花束みたいな恋をした』を参照し、 なぜ働いていると本が読めなくなるという声が上がるようになったのか? という問題提起をおこなった。(p.238)とあるように、映画の主人公である二人の男女にスポットを当てながら、「文化的趣味に触れる姿勢の背後にある階級格差」について述べていきます。この映画は、たまたま私も観ていたので、述べていることがよく伝わってきました。そして、『第1章 労働を煽る自己啓発書の誕生 - 明治時代』『第2章 「教養」が隔てたサラリーマン階級と労働者階級 - 大正時代』『第3章 戦前サラリーマンはなぜ「円本」を買ったのか? - 昭和戦前・戦中』『第4章 「ビジネスマン」に読まれたベストセラー - 1950~60年代』『第5章 司馬遼太郎の文庫本を読むサラリーマン - 1970年代』『第6章 女たちのカルチャーセンターとミリオンセラー - 1980年代』『第7章 行動と経済の時代への転換点 - 1990年代』『第8章 仕事がアイデンティティになる社会 - 2000年代』『第9章 読書は人生の「ノイズ」なのか? - 2010年代』では、「残業国民」でありながら、「読書国民」である日本人が、どのようにして労働と読書の両立関係を生み出すことが出来たのかを、時代の変遷の中で考察していきます。第9章のp.206に図示された「知識と情報の差異」には、 「情報=知りたいこと」「知識=ノイズ+知りたいこと」 *ノイズ……他者や歴史や社会の文脈とあり、ノイズを受け入れることの大切さに著者は言及しています。そして、『最終章 「全身全霊」をやめませんか』では、著者の思いが爆発します。その締めくくりの言葉は、次のようなものです。 働きながら本を読める社会をつくるために。 半身で働こう。それが可能な社会にしよう。 本書の結論は、ここにある。(p.266)「働き方改革」が強く推進される時代ならではの一冊でした。
2025.06.13
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夏休みに入り、演奏会に向け本格的に「新世界」の合奏練習が始まる。 その終了後、ハジメは原田に質問しようとするが、多数の部員が彼を取り囲む。 ハジメは、3年1stヴァイオリン、トップサイドの町井美月に声を掛け、 「もっと他の楽器の音にも耳を傾けてみたらどうかな?」と助言される。 ハジメはチェロの山田と一緒に朝練、佐伯は個人練習でハルと合わせる。 そして、鮎川に指名されたハジメと佐伯、そして山田が、 弦楽器の1プルトの表5人が集まって練習するトップ練を一緒に見学。 先輩たちの心地良い演奏を聞いた後に佐伯が奏でた音楽に、ハジメは大きな衝撃を受ける。以後、テストが迫り焦るハジメは、佐伯を避けるように。そんな時、母親が倒れて入院、ハジメは練習を欠席する。心配した律子、ハル、佐伯、山田が家を訪ねると、ハジメは父親と母親、そしてヴァイオリン、佐伯の演奏について語り始める。そして、4人が帰った後、再び現れた佐伯は、さらに衝撃的な事実を語り始める。 …俺が日本に戻って来たのは… 君に会うためなんだ。 それは1人のヴァイオリニストの演奏の様子を映した動画だった。 その演奏に… 一瞬にして俺は惹き込まれた。 …彼の名前は 青野龍仁。 …お母さん そのヴァイオリニスト 知ってるの? …でも じいちゃんは あまり好きじゃないみたい。 …俺の母さんは 声楽家なんだ。 今はドイツのオペラ団体に所属して ソプラノ歌手をやってる。 …青野くん。 俺の父親は 青野龍仁だ。以後、ハジメは練習を休み続けます。そして、入院中の母親に部活を辞め辞めようと思うと伝えますが、即、却下されてしまったのでした。 ***なかなか、想像を超えた展開でした。でも、よくよく考えてみれば、というか注意深く見ていれば、予測可能だったかもしれません。やっぱりそう来たか……と言う感じで。
2025.06.08
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本著帯には「TVアニメ大ヒット放送中!!」の文字が。 (現在アニメで放送されているのは、4巻収録のエピソードです) さらには「シリーズ累計4000万部突破」とも。 前巻の帯には「シリーズ累計3300万部」とありましたから、本当にスゴイ。 私がこの作品を読み始めた頃には、予想もしなかった状況です。 ***皇帝の手術を終えて半月、日常を取り戻した猫猫でしたが、ある村で疱瘡流行との報が届き、その処置のため、老医官と猫猫の後輩・妤、さらに民間の医者・克用が都を発ちます。一方、皇太后(安氏)の異母兄・豪の娘・梔子の部屋の近くの軒下で、呪いの壺が見つかります。梔子は、妾の子で病弱なため後宮入りできず、腹いせに入内した妃を呪っていると疑われます。姪の嫌疑を晴らそうとする皇太后の依頼を受け、壬氏は猫猫と共に皇太后の実家に赴きます。猫猫は、毒を作ったのは妾であり、梔子はその毒で弱っていることに気付くと、豪の正妻・末摘花と元妓女の妾、さらにその娘・梔子の間に横たわる真相を解き明かします。そして、壬氏は梔子を羅漢邸で療養させることにしたのでした。その羅漢邸に姚と燕燕が長期間留まっていることに対し、猫猫の後輩・長紗が意見。羅半に対する自分の気持ちが掴み切れない姚でしたが、実家に戻る方向へと気持ちを動かします。一方、自身の所有する船が沈んでしまった翡翠翁に羅半が連れ去られるという事件が発生。三番と一緒に羅半を迎えに行った猫猫は事の真相に気付くと退散、やがて一件落着したのでした。そして、疱瘡の村の最初の感染者は子どもで、遠出をした際に通り魔に切りつけられた傷があり、近隣で似たような事件が何件かあったことも分かります。猫猫は壬氏と共に紅梅館に赴き、克用から牛や馬の疱瘡の実験について教えてもらいますが、その後、入り口で門番と小競り合いになっていた男が、小刀を手にこちらに向かってきます。馬閃が頬を傷つけられながらも取り押さえたのは、克用がかつて疱瘡の治療に当たった村の村長。克用ばかりが称えられることを逆恨みしながらも、克用の真似をしていたのでした。馬閃は疱瘡にかかる可能性があるため、強制的に10日間隔離されることに。その後、猫猫は克用と語り合い、彼が(彭侯のような男)だと再認識させられたのでした。 ***さて、最後に本巻で私が最も心に残った箇所をご紹介。それは、次の一文です。 視点によって、人によって、見える面は変わってくる。(p.301)この前に記されている猫猫が雀に言った 「人間の認識って立場によって違うものですからね。」という言葉も、頷けるものですね。
2025.06.08
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5年前に独立して開いた洋菓子店『パティストリー・ブランシュ』。 その店を閉め、元ライバル店だった『パスカル』でバイトを始めた白井は、 料理研究家・佐渡谷真奈美に、閉店した店の厨房を貸すことを了承。 そして、その厨房を使って、一人の生徒を相手にした料理教室が始まります。 病気休暇をとって会社休んでいた順子は、フルーツタルトとタルトタタンを、 中学3年生の結杏はマカロン、さらに母親や明日香と一緒にイートン・メスを作り、 なかなかいい曲が作れなくなった金髪の秋山静は、結杏と一緒にザッハトルテを作ります。 生徒は皆、佐渡谷の姪・明日香が営む『あすか心のクリニック』のクライアントたちでした。カーキ色の上下の作業服に厚底のブーツ姿の優美は、クルミを使ったクッキー2種を作った後に、優美の母が好きだったモンブランと優美が好きなチーズケーキをマリアージュした『謙虚で自由なモンブラン』を作ります。それがきっかけとなって、白井は2つ目のバイト先から開発部員としてスカウトされることに。そして、料理教室の最後の生徒は白井自身、佐渡谷と一緒にパウンドケーキを作ります。その際、佐渡谷がかつて働いていたフランスの『パティストリー・フェデリック』が、今でも営業を続けており、『マ・ナミ』というフィナンシェが売られていることが分かります。再びハートに火が点いた佐渡谷は、店主・ヴィクトーに会うべくフランスへと飛んだのでした。一方、白井は『パティストリー・ブランシュ』を再オープンすることを決意。準備の合間には、試作のパウンドケーキを持って予告なく母親を訪ね、小学4年生の時に、白井がひとりで分厚いホットケーキを焼いたことを語り合ったのでした。開店当日、結杏が手伝いに来てくれた店の前には、女の子たちがずらりと並んでいました。 ***TVドラマがとても良かったので、今回原作を読んでみました。読書開始時には、蓮佛美沙子さんや永作博美さんのイメージが強く残っていましたが、読み進めるにつれ、次第に原作が描き出す世界へと書き換えられていきました。全体として、お話も各キャラクターもTVドラマよりライトでスッキリした感じです。ドラマでは、秋山静が重要な役どころを果たしていましたが、原作では他のキャラと同列です。また、ドラマでは各キャラが背負う重たいものにしっかりと焦点を当てると共に、ラブコメ的要素も加味して描くことで、素晴らしい作品に仕上がっていました。でも、原作は原作で、全体を通して良い雰囲気が漂っていて、私はとても好きです。 ***それでは、最後に私が原作の中で心に深く残った箇所を紹介します。それは、明日香さんが結杏ママに言った次の言葉。 「探すのは悪いことじゃないと思うけれど、探すというのはフォーカスすることで、 ペンを探していれば、ペンしか見えなくなるでしょ? でも退いた目線で、広角レンズでぼんやりしてると、色々なものが見えて、 ペンの後ろにある意外なものが目に飛び込んでくるんじゃないかしら」(p.102)とってもイイな、と思いませんか?
2025.06.08
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