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ここのところちょっとマイナー気味な映画が続いてしまっているようなので、たまには超メジャー級の映画を批評したいと思います。 と言う訳で、本日の映画は「スパイダーマン2」です。 まずはストーリーです。 グリーン・ゴブリンとの激しい死闘から2年が経ち、ピーター(トビー・マグワイア)は大学生となり、アルバイトと授業に追われながらも正義のために戦う多忙な日々を過ごしていました。ですがそのスパイダーマンとしての華々しい活躍とは裏腹に、ピーターとしての生活が犠牲となり、その結果親友であるハリー(ジェームズ・フランコ)との仲はぎこちなくなり、想いを寄せていたはずのメリー・ジェーン(キルステン・ダンスト)には新しい恋人ができてしまったのです。凡てのことに嫌気がさしてしまったピーターは、ついにスパイダーマンをやめる決意をするのですが………、と言った感じです。 この映画は世界75ヶ国で愛読される人気アメリカン・コミックを映像化した映画「スパイダーマン」の続編で、今作も最新の映像技術を駆使し、迫力のあるアクション・エンタテインメントに仕上がっているのです。 まあ前作に引き続き言わずと知れた大ヒット映画ですので、今作だけを見る方は少ないと思われますが、一応ご説明しておきますと、主要な登場人物のキャスティングは前作とほぼ変わりません。ですから前作をご覧になっている方にはとても馴染みやすく、すぐにその世界観に入って行けるはずです。 もちろんストーリーの方も前作から引き継いでいますので、まだ前作を未見の方にしてみれば所々分からない点も出てくるでしょうが、ストーリー的にはヒーローものによくありがちな「ヒーローとして生きるか、それとも一般人として生きるか」と言った主人公の葛藤がメインの単純なものですので、今作からでも充分に理解できるはずです。 それにこの映画最大の見せ場はやはり、ビルとビルの間を蜘蛛の糸で飛び移って行くジェットコースターのような迫力のあるシーンですから、下手な理屈など抜きに誰でも楽しめるはずです。もちろん映画館で見られるのであれば、それがベストなんですけどね。 ただ一つ残念なのは、敵であるドック・オク(アルフレッド・モリナ)があまり手強そうな敵には見えないと言う点です。いくら金属製の人工アームが4本あるとはいえ、やはりそれだけではインパクトに欠けてしまい、観客の恐怖心を煽(あお)ることができないのです。できればもっと奇抜なアイデアが欲しかったと言えるでしょう。 それとこれはまあ余談なのですが、それにしてもキルステン・ダンストはやはりヒロイン役のイメージには合いません。私生活でもトビー・マグワイアと別れてしまっているのですから、二人の撮影がぎくしゃくするのは当然です。なのにそれでも彼女を起用するのには、もしかしたら何か裏があるのかもしれませんね。 果たしてキルステン・ダンストは次回作も続投するのでしょうか、その点もこのシリーズの見ものと言えるでしょうね。 監督 サム・ライミ制作年 2004年制作国 アメリカ上映時間 127分ジャンル アクション/アドベンチャー/青春出演 トビー・マグワイア/キルステン・ダンスト/アルフレッド・モリナ/ジェームズ・フランコ/ローズマリー・ハリス/J・K・シモンズ/ディラン・ベイカー/ビル・ナン/テッド・ライミ/エリザベス・バンクス/ブルース・キャンベル/ドナ・マーフィ/グレッグ・エデルマン/ダニエル・デイ・キム/クリフ・ロバートソン/ウィレム・デフォー/バネッサ・フェルリト
2005年03月26日
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だいぶ間が空いてしまったとは言え、「ゴスフォード・パーク」や「8人の女たち」と群像劇が続きましたので、ついでにもう一本だけ群像劇を批評したいと思います。 と言う訳で、本日の映画は「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」です。 まずはストーリーです。 かつてロイヤル・テネンバウム(ジーン・ハックマン)は、35歳で大邸宅を手に入れるほどの有能な法律家で、テネンバウム家の3人の子どもたちもみな若くして成功した天才児たちでした。ところがロイヤルの妻、エセル(アンジェリカ・ヒューストン)へ対する「ほんのわずかな誠実さの欠落」により2人は別居してしまい、それをきっかけに一家は崩壊してしまうのです。やがて時が経ち、再び家族の絆を取り戻したいと考えたロイヤルは一計を案じ、22年ぶりにテネンバウム家に戻ってくるのですが………、と言った感じです。 この映画はカルト的な人気を誇るウェス・アンダーソン監督が手掛けた異色のコメディで、崩壊してしまった家族が再び構築してゆく姿を感動的に描いた新世代の家族映画なのです。 まあコメディとは言っても、ただ腹を抱えて笑って見ていれば良いような映画とは違い、しっかりとした人間ドラマにしか見られない人々の滑稽(こっけい)さや、人生の皮肉さなどと言ったものをユーモラスに描いた作りになっていますので、爆笑したいと思っている方にしてみれば、ちょっと的外れとなるかもしれません。 内容的には先ほども言いましたが、ドラマの部分がしっかりと作り込まれていますので感情移入もしやすく、登場人物の多さも気になりません。また群像劇という観点から見ても、「ゴスフォード・パーク」や「8人の女たち」とは比べ物にならないくらい良く出来ていて独自の世界観を感じることができます。 ただ唯一残念なのは、冒頭で家族の歴史を紹介するシーンがあるのですが、観客はまだ登場人物の事を何も把握できていない状態なのに、いきなりハイテンポで様々な事を語ってしまうのです。あれではたいていの人がストーリーについて行けず、下手をすると途中で見るのを挫折してしまうのではないでしょうか。 せっかくジーン・ハックマンが味のある父親をより味わい深く演じているのですから、きちんと最後まで見てもらいたい映画ですね。監督・制作・脚本 ウェス・アンダーソン制作年 2001年制作国 アメリカ上映時間 110分ジャンル ドラマ/コメディ出演 ジーン・ハックマン/アンジェリカ・ヒューストン/ベン・スティラー/グウィネス・パルトロー/ルーク・ウィルソン/オーウェン・ウィルソン/ダニー・グローヴァー/ビル・マーレイ/シーモア・カッセル/クマール・パラーナ
2005年03月23日
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うーん、また随分と更新が遅れてしまいましたが、理由は「春眠暁(あかつき)を覚えず」と言う訳なのでご理解ください。 それでは久しぶりに本日も映画批評を始めたいと思います。 本日の映画は「8人の女たち」です。 まずはストーリーです。 1950年代のフランス。クリスマスを祝うため、雪に閉ざされた大邸宅に家族が集うこととなりました。そしてイブの朝、メイドのルイーズ(エマニュエル・ベアール)が、一家の主であるマルセルの部屋へ朝食を持っていくと、彼はナイフで背中を刺されて死んでいたのです。ところが調べてみると電話線が切られており、外から何者かが侵入した形跡もないことから、容疑者は邸宅に集まった8人の女たち全員であることが分かります。やがて互いの詮索が始まり、祝祭気分も吹き飛んで彼女たちは疑心暗鬼を深めてゆくのです。そしてその詮索の末に8人の女たちそれぞれの秘密が徐々に明らかとなり………、と言った感じです。 この映画はフランスを代表する8人の大女優が夢の競演を果たした事により話題となり、フランス本国ではあの「アメリ」をも抜くオープニング記録を樹立し、ついにはベルリン国際映画祭で8人の女優全員に銀熊賞が授与されたというまさに奇跡のような映画なのです。 まあこれだけ話題性があり、なおかつ国際映画祭でも評価されたとなればそれだけでも見る価値があるように思えてしまいますが、いざ蓋を開けてみますと、実はどこにでもあるような凡作でしかありません。有名女優を集めることに腐心したあまり、大事なものを見落としてしまったといった感じでしょうか。 これは先日の「ゴスフォード・パーク」の批評の時にも言いましたが、賞を取っていれば必ずしも良い映画とは限りません。いくら有名な女優がたくさん出演していようとも、その肝心な作品の出来が悪ければ凡て台無しになってしまうのです。 内容的には「ゴスフォード・パーク」と同様に群像劇によるミステリーなのですが、ミステリーとしてはだいぶ古臭いストーリーなので「なぜ今更?」といった感じがしますし、豪華さを演出するためかミュージカル要素も含まれているのですが、心に響く曲が一つもないので中途半端な仕上がりとなっています。 一応一人一人のキャラクターはそれぞれにスキャンダラスなドラマを持っているのでとても個性があって良いのですが、どのドラマも奇抜すぎて逆にリアリティーがなく、ちょっとやり過ぎの感があります。 まあそれでもやっぱりこれだけの有名女優が一同に会することは今後ないでしょうから、一見の価値があると言えるでしょう。なにせ見られないものを見ると言うのは、映画の醍醐味の一つなのですからね。監督・脚本 フランソワ・オゾン制作年 2002年制作国 フランス上映時間 111分ジャンル コメディ/ミュージカル/ミステリー出演 ダニエル・ダリュー/カトリーヌ・ドヌーヴ/イザベル・ユペール/エマニュエル・ベアール/ファニー・アルダン/ヴィルジニー・ルドワイヤン/リュディヴィーヌ・サニエ/フィルミーヌ・リシャール
2005年03月22日
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これはまったくの言い訳ですが、最近時が経つのがとても早く、気が付けば前回の更新から既に一週間も経過してしまい、このページを楽しみにしてくれている皆さんにはたいへんご迷惑をお掛けしています。 頂いたコメントの書き込みやトラックバックに関しても返信がだいぶ遅れてしまっていますが、できる限り返して行こうと思っていますので、今しばらくお待ち下さい。 と言う訳で、本日も寸暇を利用しての更新となります。 本日の映画は「ゴスフォード・パーク」です。 まずはストーリーです。 1932年11月、イギリス郊外。ウィリアム・マッコードル卿(マイケル・ガンボン)とシルヴィア夫人(クリスティン・スコット・トーマス)が主であるゴスフォード・パーク(カントリー・ハウス)にて、多くの貴賓たちが集う盛大なパーティーが催されました。ですがそんな貴賓たちが優雅に過ごす「上の階」とは対照的に、「下の階」ではメイドや従者たちがせわしなく働き、時として虚飾(きょしょく)に溢れたご主人たちの噂話に花を咲かせていたのです。そして2日目の晩餐に、客の一人であるアメリカ人映画プロデューサーが、この「鼻持ちならない」貴賓たちをネタにした最新作の構想を披露します。それはカントリー・ハウスを舞台にした殺人事件だったのです。ところがその夜、実際にウィリアム卿が邸内で殺される事件が発生してしまい………、と言った感じです。 この映画はイギリス上流社会をシニカルに描いたロバート・アルトマン監督の作品で、アカデミー賞脚本賞をはじめとする数々の映画賞を受賞した映画なのです。 とは言え、数多くの賞を取っているからと言って必ずしもそれが良い映画とは限りません。たとえ有名な賞の審査員や映画評論家を唸らせたとしても、それが一般の人に理解できない内容であるのなら、駄作と何ら代わらないのです。 なぜなら映画とは、最終的に一般公開を目的として作られているものなのですから、その一般人の観点をけっして蔑(ないがし)ろにしてはならないのです。そう言った面で見るとやはりこの映画はそのルールを完全に逸脱しており、監督の自己満足的な作りになっていると言えるでしょう。 ロバート・アルトマン監督と言えば、「ザ・プレイヤー」や「ショート・カッツ」などの有名な作品を数多く手掛けており、群像劇がお得意なのは周知の事実です。ですがいくら得手(えて)だからとは言え、何でもかんでも群像劇にしてしまうというのはちょっと度が過ぎるのではないでしょうか。 それにいくら群像劇とは言え、この映画に登場する人物はあまりにも多すぎます。もちろんそれぞれの人物が特徴的で、観客を惹きつけるだけの魅力があるのならば話は別ですが、どれもこれもエキストラ並みに個性が無く、半分以上は無駄な存在としか言いようがないのです。群像劇とは、ただ数多く役者を出せば良いと言うものではありません。 それともう一つ、一応ジャンルとしてはミステリーとなっていますが、この映画をミステリー映画として捕らえると痛い目に遭います。 何しろミステリーとしての醍醐味である謎やサスペンス、またはどんでん返しなどと言った要素がまるで含まれていないのです。それにもかかわらずこの映画をミステリー映画とカテゴリー分けしてしまっているのですから、まったく呆れ果ててしまいます。その図太(ずぶと)い神経の方がよっぽどミステリーと言えるのではないでしょうか。 まあそれでも映像の美しさやその時代の雰囲気はなかなか良く醸し出しているので、何とか30点台はキープすることができましたが、やっぱりお勧めすることはできませんね。監督・制作・原案 ロバート・アルトマン制作年 2001年制作国 アメリカ上映時間 137分ジャンル ドラマ/ミステリー/コメディ出演 マギー・スミス/マイケル・ガンボン/クリスティン・スコット・トーマス/ボブ・バラバン/カミーラ・ラザフォード/チャールズ・ダンス/ジェラルディン・ソマーヴィル/トム・ホランダー/ナターシャ・ワイトマン/ジェレミー・ノーサム/ジェームズ・ウィルビー/クローディー・ブレイクリー/ライアン・フィリップ/トレント・フォード/スティーヴン・フライ/ケリー・マクドナルド/クライヴ・オーウェン/ヘレン・ミレン/アイリーン・アトキンス/エミリー・ワトソン/アラン・ベイツ/デレク・ジャコビ/リチャード・E・グラント
2005年03月09日
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どうやらまた楽天さんが機能を向上させるためにシステムを少し改良したようですが、今回もまた不具合が出てしまったみたいですね。 まあ今回このシネマ雑報には何の悪影響も出なかったので良しとしますが、前回のシステム改良の時には随分と痛い目にあったのを覚えています。 ますます使いやすく便利になるのは結構なのですが、いままでできていたことが急にできなくなるとやっぱり戸惑ってしまいますので、そうならないためにももっと配慮がほしいですね。 もっとも、こんな話は楽天広場を使っている人にしか分からないことですので、そろそろ本題の映画批評を始めたいと思います。 本日の映画は「死ぬまでにしたい10のこと」です。 まずはストーリーです。 大学で清掃の仕事をしている23歳のアン(サラ・ポーリー)は、失業中である夫のドン(スコット・スピードマン)との間に2人の娘がおり、貧しいながらも4人で仲良く幸せに暮らしていました。そんなある日、アンは急な腹痛で倒れてしまい、病院に運ばれるのです。そして検査の結果、医師から余命2ヵ月の宣告を受けてしまいます。アンは考えた末に家族の誰にもそのことを打ち明けないと決め、深夜のカフェで「死ぬまでにしたい10のこと」を書き綴るのです。それは子供たちのために誕生日のお祝いメッセージを作ることや、家族でビーチに行くことなど、どれもささやかなものばかりでした。こうしてアンは、たった1人で死ぬための準備を始め………、と言った感じです。 この映画は「オール・アバウト・マイ・マザー」や「トーク・トゥ・ハー」などを手掛けたペドロ・アルモバドルが製作総指揮をしており、主演は「スウィート ヒアアフター」のサラ・ポーリーが、わずか23歳にして死の宣告を受けるという難しい役を演じています。 この映画も昨日ご紹介した「グッバイ、レーニン!」と同様に、ひじょうにもったいない作りの作品と言えるでしょう。 狭いトレーラーハウスで貧乏な暮らしをしているとはいえ、二人の娘と愛する夫に囲まれて幸せに暮らすアン。それにもかかわらず死の宣告を受けた途端に、その愛する夫以外の男性と恋愛をしてみたり、夫には早く新しい奥さんができるように祈ったりと、そこにはきれいごとだけでは済まされない、人間臭さが存在しているのです。 ですが、せっかくそれだけ素晴らしい要素が盛り込まれているのに、やはりラストはなぜかソフトな作りとなっており、家族や恋人との別れのシーンが一切描かれていないのです。これではアンによる単なる自叙伝(じじょでん)でしかなく、残された者たちはしょせん脇役に過ぎません。 「死」と言うものは凡ての人間に必ず訪れるものなのですから、イメージを気にして隠したりなんかせず、もっとしっかりと描くべきだったのです。 「不完全燃焼」という言葉がすごくぴったりと合う映画ですが、全体の作りは素晴らしい出来ですので、まだ未見の方には是非ともお勧めします。まあ残念ながら名作入り(80点以上)はさせられませんでしたけどね。監督 イザベル・コヘット制作年 2003年制作国 カナダ/スペイン上映時間 106分ジャンル ドラマ/ロマンス出演 サラ・ポーリー/スコット・スピードマン/デボラ・ハリー/マーク・ラファロ/レオノール・ワトリング/アマンダ・プラマー/ジュリアン・リッチングス/マリア・デ・メディロス/アルフレッド・モリナ
2005年03月04日
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先ほど先月の更新回数を数えてみたところ、映画批評の本数はたったの3本であることが分かりました。 まあ色々なトラブルが重なってしまったとはいえ、これは過去最低の数字であり、このシネマ雑報にとっては由々しき問題です。 と言う訳で、今月は少しでも多くの時間を割いて映画批評するつもりですので、みなさんもどうか見捨てないでやって下さい。 それではそろそろ本題に入りたいと思います。本日の映画は「グッバイ、レーニン!」です。 まずはストーリーです。 1989年、統一前夜の東ドイツ。10年前に父親が西側に亡命したアレックス(ダニエル・ブリュール)は、とても愛国心の強い母クリスティアーネ(カトリーン・ザース)と共に、平和な毎日を過ごしていました。ところがある日、反体制の考えを持っていたアレックスは反社会主義デモに参加し、警察に捕らえられてしまいます。そして偶然にもその瞬間を目撃してしまった母のクリスティアーネはショックで心臓発作を起こし、昏睡状態に陥ってしまうのです。やがて時が流れ、母が意識を失っている間にベルリンの壁は崩壊し、統一したドイツは資本主義国家となります。そして8ヶ月後、クリスティアーネは奇跡的に覚醒するのですが、医者から強いショックを与えてはいけないと注意されたアレックスは、クリスティアーネにドイツが統一したことを隠し………、と言った感じです。 この映画は、母親がショックを受けないようにと消滅前の東ドイツを必死に見せ続ける息子の奮闘をユーモラスに描いた感動ドラマで、ベルリン映画祭特別賞やドイツ映画賞銀賞など数々の賞に輝いたドイツ映画なのです。 とにかくこの映画は母のことを思うアレックス気持ちであふれています。アレックスの取る行動のほとんどは母親のためですし、そこにどんな苦労が伴おうとも身を呈して頑張るのです。そしてそのアレックスの献身的な愛情こそがこの映画最大の魅力であり、時に可笑しくそして時に切なくさせられてしまうのです。 なぜか古さを感じさせる独特な色合いの映像や、誰もが馴染みやすいスローなテンポの音楽が作り出す雰囲気も素晴らしく、まさに心癒されたい方には打って付けの映画と言えるでしょう。 ですが一つだけ残念なのは、ラストシーンが弱いということです。 これだけの材料が揃っているのであれば、もっと悲しく、そしてもっと切なく終わらせることができたはずなのです。それにもかかわらずあのような話のまとめ方するのは、恐らくこの作品をソフトなイメージのまま終わらせたかったからなのでしょう。できることなら最後の瞬間までもっとしっかりと描いてほしかったのですが、ひじょうに残念です。 と言う訳で、一応このシネマ雑報では名作(80点以上)に認定しましたが、あまり点数は伸びませんでした。もちろん、それでも充分にお勧めできる作品ではありますけどね。監督 ヴォルフガング・ベッカー制作年 2003年制作国 ドイツ上映時間 121分ジャンル コメディ/ドラマ出演 ダニエル・ブリュール/カトリーン・ザース/マリア・シモン/チュルパン・ハマートヴァ/フロリアン・ルーカス
2005年03月03日
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随分と長い間お待たせをしてしまいましたが、久しぶりの更新となります。 実はパソコンのウイルス騒ぎがやっと収まったと思いましたら、今度はどこかから風邪のウイルスを貰ってきてしまい、不覚にもダウンしていました。 まあお医者さんの所へは行かなかったので詳しいことは分かりませんが、どうやら症状の重さからいっても、インフルエンザだったようです。 もちろん寝込んでいる間に、せっかく長い時間家に居るのだから更新しようかとも思ったのですが、実際にはパソコンどころか自分さえも立ち上がるのが精一杯の状況でしたので、無理せず断念することにしました。 と言う訳で長いことこのシネマ雑報をほったらかしにしていましたが、風邪の症状もだいぶ治まってきましたので、また今日から映画批評を再開したいと思います。 本日の映画は「穴」です。 まずはストーリーです。 イギリスでも指折りの名門であるパブリック・スクールで、4人の男女生徒が行方不明になりました。そして失踪から18日後、その4人の生徒のうちの一人であるリズ(ソーラ・バーチ)だけが、なぜか薄汚れて憔悴しきった姿で発見されたのです。事の真相解明とリズの精神的ダメージを癒すために、犯罪精神科の女医フィリッパ(エンベス・デイヴィッツ)がカウンセリングをすることになります。ところがショックが大き過ぎたせいか肝心のリズの記憶は曖昧で、あまり信憑性(しんぴょうせい)がありません。ただ一つだけ分かっているのは、4人が第二次世界大戦時の防空壕の穴に入ったと言う事実だけで、そこで何が起きたのかは結局リズにしか分からず………、と言った感じです。 この映画は「アメリカン・ビューティー」や「ゴーストワールド」などで話題を呼んだソーラ・バーチ主演の映画で、原作はガイ・バートがオックスフォード大学在籍中のわずか18歳の時に書き上げた、ミステリー小説がもとになっているそうです。 まあ普通にゆけば、映画の原作がミステリー小説だった場合、意外性のあるストーリーや緻密なプロットによる見事な複線等々ストーリー面で楽しませてくれる作品が多いのですが、この映画に関してはどうやらそれは当てはまらないようです。 防空壕の存在やそこへ行くための動機、そして仲間たちの死因など、凡てのものや設定が不自然で説得力に欠けています。もちろんそう言った面が弱くても、他の良い面でカバーできれば何の問題も無いのですが、この映画には「売り」となるものが何も無いのです。 主人公のキャラクターもいまいち統一性が無く、制作者側の都合に合わせてその性格をころころと変えてしまっているのです。ですからラストシーンを見ても矛盾を感じるだけで、虚(むな)しさしか残りません。 そもそもこの主人公は、年頃の微妙な演技を得意とするソーラ・バーチのイメージにはまったく合わず、キャスティングからして間違っていたと言えるでしょう。もちろんソーラ・バーチにしてみれば、色々な役を演じるのはそれだけ役者としての経験値が上がると言うことですから、この映画は良い踏み台になったとも言えるでしょうけどね。監督 ニック・ハム制作年 2001年制作国 イギリス上映時間 102分ジャンル ミステリー/サスペンス/ホラー出演 ソーラ・バーチ/デズモンド・ハリントン/ダニエル・ブロックルバンク/ローレンス・フォックス/キーラ・ナイトレイ/エンベス・デイヴィッツ/スティーヴン・ウォディントン/エマ・グリフィス・マリン/ジェマ・クレイヴン
2005年03月01日
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正直言ってこのような映画を取りあげると、またマニアックな方々が黙ってはいないと思い長い間遠慮してきましたが、このシネマ雑報はありとあらゆるジャンルの映画を批評することを明言としていますし、どんな映画に対しても忌憚(きたん)のない批評をするのが特徴ですから、やはり本日も情(なさ)け容赦(ようしゃ)のない批評をしたいと思います。 と言う訳で、本日の映画は「リベリオン」です。 まずはストーリーです。 21世紀の初頭に起きた第3次世界大戦後、生き残った指導者たちは戦争勃発の要因となる人間のあらゆる感情を抑止するため、精神に直接作用する薬「プロジウム」を開発し、人間の感情を徹底的に取り締まる管理国家を作り上げました。国民はこのプロジウムを毎日投薬することを義務づけられ、感情を喚起する絵画や映画、詩集や音楽などの芸術活動を一切禁じし、それを所持しているだけでも処罰の対象となり、その違反者はクラリック(聖職者)の称号を持つジョン・プレストン(クリスチャン・ベイル)を中心とした警察に厳しく処罰されたのです。武術と銃の技術が融合した最強の武道ガン=カタの達人でもあるプレストンは、政府高官にも一目置かれている存在で、冷徹に任務を遂行する非情の殺人マシンでした。ところがある日、誤ってプロジウムの瓶を割ってしまった彼は、仕方なく薬を投与せずに仕事へ向かったのです。そして何年にも渡ってプロジウムを拒否してきた女性メアリー・オブライエン(エミリー・ワトソン)を逮捕するのですが、彼女と出会ったことからプレストンの心には思わぬ感情が芽生え始めてしまい………、と言った感じです。 この映画はカート・ウィマー監督自らが考案した、銃と武術を融合させた斬新なアクション・スタイル「ガン=カタ」が炸裂する近未来SFアクションで、主演は「アメリカン・サイコ」のクリスチャン・ベールが演じており、共演には「レッド・ドラゴン」のエミリー・ワトソンなども出演しています。 まあ右上に出ているパッケージを見てもらえば分かるように、良く言えばこの映画はあの世界的に有名な映画である「マトリックス」を彷彿(ほうふつ)とさせる雰囲気を持った映画だと言えるのでしょうが、これはどう考えても偶然に似てしまったのではなく、やはり意図的なものを感じてしまいます。 確かにこの映画で使われているアクションシーンは今までに見たことのないようなものなのですが、それを取り巻く世界観や設定、登場人物たちのキャラクターに至るまで凡てにおいてオリジナリティーがありません。 しかもその設定やストーリーは有り合わせのものを寄せ集めて使ったかのごとく安易で、その世界観は呆れるほどチープです。ですから映画のいたるところに矛盾が生じてますし、これでは観客もなかなかその世界観に入り込むことができません。 とくに気になったのは、違反者となってしまったプレストンを、感情が無いはずのブラント(テイ・ディグス)が罵(ののし)るシーンがあるのですが、あれは誰がどう見たって感情を露(あらわ)にしているようにしか見えないはずです。 もちろん所詮はフィックションですから矛盾があるのは当たり前ですし、リアリティーが無くても構いません。ですがその点ばかりが気になってしまうのは、やはり内容が詰まらないからでしょう。矛盾をも感じさせないほど面白ければ、多少の欠点は気にならないものです。 まあ唯一面白かったと言えるのはデュポン(アンガス・マクファーデン)とプレストンによる銃口の逸らし合いのシーンで、これはもう格好良いのか悪いのかよくわかりませんでしたが、この映画最大の見せ場と言えるでしょう。 とは言え、この映画をお勧めすることはハッキリ言ってできません。ですがマニアを喜ばせる要素(例えば日本刀など)などはふんだんに盛り込まれていますので、そういうのが好きな方にはたまらない映画なのかもしれませんね。監督 カート・ウィマー 制作年 2002年制作国 アメリカ上映時間 106分ジャンル アクション/SF/サスペンス出演 クリスチャン・ベイル/エミリー・ワトソン/テイ・ディグス/アンガス・マクファーデン/ショーン・ビーン/マシュー・ハーバー/ドミニク・パーセル/ウィリアム・フィクトナー/ショーン・パートウィー/デヴィッド・ヘミングス
2005年02月16日
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最悪です。パソコンがウィルスに感染してしまい、Cドライブが壊滅状態に陥りました。 何とか自力で復旧はしたものの、バックアップのデータが少し古ために、また使い易くカスタマイズするのには相当な時間が掛かってしまいそうです。 幸いに、Dドライブに入れておいた23本もの映画批評の下書きは失われずに済みましたが、やはりかなりの痛手となったことは間違いありません。 何とか暫くは更新を続けられそうですが、ペースダウンは必至となるでしょう。 まあ済んでしまったことをいつまでも愚痴愚痴と言っても仕方がありませんので、ここらで気分を入れ替え、映画批評を始めたいと思います。 本日の映画は、「ギター弾きの恋」です。 まずはストーリーです。 1930年代、シカゴ。派手で目立ちたがり屋のエメット・レイ(ショーン・ペン)は、才能あふれるジプシージャズのギタリストで、その美しい音色の演奏は誰もがうっとりと聞きほれるほどの腕前でした。ですが一方で彼は、娼婦の元締めという顔をもち、女遊びにも目がなく、芸術家にありがちな破滅的な生活を送っていたのです。そんなある日、エメットはニュージャージーの浜辺で出会った娘、ハッティ(サマンサ・モートン)をナンパします。ところが実は彼女はまったく口のきない娘で………、と言った感じです。 この映画は「世界中がアイ・ラブ・ユー」や「セレブリティ」などの話題作を手がけてきたウディ・アレンの30本目の監督作品で、主人公の「派手で目立ちたがり屋なギタリスト」であるエメット・レイを演じているのは、この作品でアカデミー主演男優賞にもノミネートされたショーン・ペンです。 まあストーリーとしては恋愛ものによく有り勝ちなパターンで、身勝手な男と純真で素朴な女の恋物語なのですが、一応は史実をもとに作られています。 そしてその見せ方がちょっと変わっていて、一つ一つのエピソードには監督のウディ・アレンやエメット・レイを知る人物たちによる解説が入り、そのいくつもの回想シーンによって映画が構成されているのです。 これは恐らくエメット・レイという人物の事をより詳しく知ってもらうための演出なのでしょうが、女性の方から見ればこのエメット・レイという人物は最低の男に映るかもしれません。次から次へと新しい女性を求め、飽きてしまえば捨ててしまい、まるで女性を物のように扱うのです。 ですがそんな彼が、ささやかな愛情こそが真の幸せであると気付く姿はとても切なく、思わずエメット・レイという人物に誰もが惹き込まれてしまうのではないでしょうか。 失ったものの大切さと言うのは、まさに失ってみなければ分かりませんが、誰もが一度は経験している事だけに、心に染み込みやすいのかもしれませんね。 まあ残念ながらこの映画を名作入り(80点以上)させることはできませんが、演技力の抜群なショーン・ペンとサマンサ・モートンの2人が作り出すささやかな幸せを、是非一度ご覧になってはいかがでしょうか。お勧めの映画です。監督 ウディ・アレン制作年 1999年制作国 アメリカ上映時間 95分ジャンル ロマンス/ドラマ/コメディ出演 ショーン・ペン/サマンサ・モートン/ユマ・サーマン/ウディ・アレン/グレッチェン・モル/アンソニー・ラパグリア/ブライアン・マーキンソン/ジョン・ウォーターズ
2005年02月13日
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今月も出だしがだいぶ遅れてしまいましたが、遅れた分を挽回するためにもここからは気合を入れてゆきたいと思います。 と言う訳で、さっそく批評を始めます。本日の映画は「ホーンテッドマンション」です。 まずはストーリーです。 不動産業を営むジム・エヴァース(エディ・マーフィ)は,仕事中毒で家族サービスもままなりませんでした。それでもなんとか今度の週末には家族旅行に出掛けようと、妻のサラ(マーシャ・トマソン)に約束をするのですが、旅行前日になってエドワード・グレイシー(ナサニエル・パーカー)と言う人物から、「ニューオリンズの富豪が南北戦争以前に立てた壮麗なゴシック風の大豪邸を売却したいから、下見にきて欲しい」との連絡を受け、ジムは人生最大のビジネスチャンスになるかもしれないと意気込んでしまいます。そして翌日、ジム一家は家族旅行の途中で仕方なくその屋敷に立ち寄ることにしたのですが、突然の嵐に見舞われてしまい、不気味な執事に促されるまま、一晩をその屋敷で過ごすこととなり………、と言った感じです。 この映画は「カントリー・ベアーズ」、「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」に引き続き、ディズニーランドの人気アトラクションをモチーフにしたホラー映画で、制作は同名のお化け屋敷「ホーンテッドマンション」に強いインスピレーションを受けたロブ・ミンコフ監督です。 一応アトラクションから生まれた映画ということもあり、それを意識した仕掛けやシーンなどは数多く見られるのですが、特殊効果やCG(コンピーター・グラフィックス)などが当たり前である映画の世界でそれを再現しても、インパクトが薄れるだけで映像的にはあまり意味がありません。 やはりアトラクションにはアトラクションにしか、そして映画には映画にしかできないことがありますので、その部分をもっと強調するべきだったと言えるでしょう。 内容としてはディズニーということもあり、残酷なシーンやグロテスクなものを一切排除したソフトなストーリーとなっており、お子様向けのホラー映画と言った感じがします。ですが、果たして本当に子供がこの程度の映画を見て喜ぶかどうかは疑問です。 とにかくひたすらに特徴がなく、とても印象に残りにくい映画なのです。 いったいディズニーがどのような経営戦略で次々にアトラクションを映画化しているのかは分かりませんが、どうせ作るのなら相乗効果のある映画を作るべきでしょう。これでは思わず共倒れを危惧(きぐ)してしまいそうです。監督 ロブ・ミンコフ制作年 2003年制作国 アメリカ上映時間 98分ジャンル コメディ/ホラー/ファミリー出演 エディ・マーフィ/ジェニファー・ティリー/テレンス・スタンプ/ナサニエル・パーカー/マーシャ・トマソン/ウォーレス・ショーン/ディナ・ウォーターズ/マーク・ジョン・ジェフリーズ/アリー・デイヴィス/ヘザー・ジャーゲンセン
2005年02月08日
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このシネマ雑報で批評している映画のタイトルは、何の法則性や順序も無く、まったく適当に選んでいます。 まあ時には同じ役者や監督の作品を取り上げたり、関連性のある映画を続けて批評する事もありますが、基本的にはまったくの思い付きにしか過ぎません。 ですが本日は特に何も閃(ひらめ)くことがありませんでしたので、さしあたって本日の批評は、先日の批評の中で登場した「永遠(とわ)に美しく…」にしようと思います。 まずはストーリーです。 1978年、落ち目の人気女優マデリーン・アシュトン(メリル・ストリープ)の楽屋に、学生時代からのライバルであるヘレン・シャープ(ゴールディ・ホーン)が、有名な美容整形外科医のアーネスト・メンヴィル(ブルース・ウィリス)と婚約したことを自慢しに来ます。ところが数ヵ月後にアーネストと結婚したのは、なぜかマデリーンの方だったのです。それから時が過ぎ7年後、過食症に陥ったヘレンは太り過ぎて療養所送りになります。そしてさらに7年の歳月が過ぎ、ビヴァリーヒルズの豪邸で暮らす身分でありながらも50代のオバサンとなったマデリーンと、葬儀屋に落ちぶれてしまったアーネストのもとに、あのヘレンから出版パーティの招待状が届くのです。そして会場で別人のように美しくなったヘレンを見て驚いたマデリーンに、エステの社長はリスル(イザベラ・ロッセリーニ)という美女を紹介します。やがてマデリーンは彼女から肉体の老化を止める秘薬を買い、マデリーンは顔と体にかつての美貌を甦らせるのですが………、と言った感じです。 この映画は女性の「いつまでも美しくいたい」という思いを描いたブラック・コメディで、SFX(スペシャル・エフェクト)をふんだんに使う事によって、女性の美に対する執念をより過激に表現しています。 普通これだけSFXを使ってしまうと、その特殊な映像に肝心なストーリーの方が霞(かす)んでしまい、見終わった後には映像のインパクトしか残りません。 ですがこの映画に限っては、その映像にも負けない要素である女性の嫉妬(しっと)や妬(ねた)み、欲望や執念などといったものを上手くストーリーに盛り込む事によって映像との調和を計り、映画そのものが強い印象を残す作品へと仕上がっているのです。 2人の女性に翻弄されるブルース・ウィリスもなかなか良い味を出しており、こうした人間模様は世界各国共通なので、思わず苦笑いしてしまう人もいるのではないでしょうか。 そしてこの映画は「不老不死」と言うものに対する捕らえ方もひじょうにユニークで、「どんな状態になっても死なないが、身体は壊れる」というルールが、強烈なラストシーンへと繋がってゆくのです。 娯楽性が高いのに、女性の心理まで深く抉(えぐ)ったこの映画、(まあ、かなり誇張はしてますけどね)是非ともお勧めします。監督 ロバート・ゼメキス制作年 1992年制作国 アメリカ上映時間 104分ジャンル コメディ/ファンタジー出演 メリル・ストリープ/ブルース・ウィリス/ゴールディ・ホーン/イザベラ・ロッセリーニ/シドニー・ポラック/ミシェル・ジョンソン/トレイシー・ウルマン
2005年01月30日
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映画のポスターやタイトルというのは映画を選ぶ時にひじょうに大きなウエイトを占めています。美しくてきれいなポスターだったり意味深なタイトルが付けられた映画だったりすると、それだけで「ちょっと見てみようかな」という気にさせられます。 ところがそうやって選んだ映画に限って内容が詰まらなかったり下らなかったりし、苦い思いをさせられた経験は誰にだってあるはずです。 そして恐らく、この映画もそうやって騙された人は多いのではないでしょうか? と言う訳で、本日批評します映画は「あの頃ペニー・レインと」です。 まずはストーリーです。 1973年、大学教授の母(フランシス・マクドーマンド)と暮らす知的で陽気な15歳の少年ウィリアム(パトリック・フュジット)は、姉アニタ(ズーイー・デシャネル)が教えてくれたロック音楽の魅力に取り憑かれ、学校新聞などにロック記事を書いていました。やがてその才能は伝説のロック・ライターでクリーム誌の編集長、レスター・バングス(フィリップ・シーモア・ホフマン)に認められ、さらにはローリングストーン誌からも声が掛かり、ウィリアムが愛する新進バンド、スティルウォーターのツアーに同行取材の仕事をもらいます。そしてさっそく取材で楽屋を訪れたウィリアムは、グルーピー(追っかけのグループ)の中にいたペニー・レイン(ケイト・ハドソン)に一目惚れをするのですが………、と言った感じです。 この映画は、製作・監督・脚本を務めるキャメロン・クロウが自身の体験を基に描いた自叙伝的な青春ドラマで、映画「永遠(とわ)に美しく…」などに出演していた名女優ゴールディー・ホーンの娘、ケイト・ハドソンがヒロインのペニー・レインを演じています。 まあこの右上に出ているDVDのパッケージを見てもらえば分かると思いますが、魅惑的な少女の写真といい、想像力を刺激するようなタイトルといい、一見「名作なのでは」と思わせる要素は充分に揃っています。 ところがその内容ときたら何もかもが酷く杜撰(ずさん)で、観客に何を見せたいのか、または何を伝えようとしているのか良く分かりません。 そもそもこの映画は監督のキャメロン・クロウの体験を基に描いたものとありますが、たいていの場合思い出というのはその本人にのみ「美しくも儚く、そして切ないもの」なのであり、他人から見れば所詮そんなものは単なる与太話にしか感じないのです。恐らくキャメロン・クロウ監督は、その事をわきまえずにこの作品に取り組んだのではないでしょうか。「あー、こんな事があったなー。あんな事もあったなー」などと感傷に浸りながらの映画作りでは、観客の心を捉えることなどできないのです。 まあ唯一笑えたのは飛行機事故のシーンで、死を覚悟したバンドのメンバーが次々にいろんな事を告白し、最後の「落ち」としての告白はなかなか意表をついて面白かったのですが、まさかそれを見せたくて作った映画ではないでしょうし、そこにいくまでの流れがとても単調だったからこそ、面白く感じただけなのでしょうけどね。 何の特徴もない垂れ流し的な映画ですので、最後まで見るのにはそれなりの覚悟が必要です。ですが、中にはこういった映画を好む方もいらっしゃるでしょうから、批評はこの辺で終わらせようと思います。 この映画を見る見ないの判断は、ご自身でどうぞ。監督・制作・脚本 キャメロン・クロウ制作年 2000年制作国 アメリカ上映時間 123分ジャンル ドラマ/青春/音楽出演 ビリー・クラダップ/フランシス・マクドーマンド/ケイト・ハドソン/パトリック・フュジット/ジェイソン・リー/アンナ・パキン/フェアルーザ・バーク/ノア・テイラー/ズーイー・デシャネル/フィリップ・シーモア・ホフマン/マイケル・アンガラノ
2005年01月28日
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今年は更新のペースアップを目標にしようと思っていたのですが、何気に気が付けば前回の更新から一週間以上も経ってしまい 、既(すで)に出だしから難航(なんこう)状態気味です。 このペースだと200本目の映画批評は夏ごろになってしまいそうなので、もう少し気合を入れて頑張ろうと思います。(まあ思うだけなら誰にでもできるんですけどね) と言う訳で本日も、取り敢えずの目標である200本を目指して、また1本映画批評をしたいと思います。本日の映画は「橋の上の娘」です。 まずはストーリーです。 パリのセーヌ川に掛かる名もない橋の上に、一人の女性、アデル(ヴァネッサ・パラディ)が立ち竦(すく)んでいました。彼女は男から男へと渡り歩き、すぐに捨てられてしまう自分の人生に悲観し、川へ身を投げ込んでしまおうとしていたのです。ですがそんな彼女をナイフ投げの曲芸師ガボール(ダニエル・オートゥイユ)が救い出し、ナイフ投げの「的」としてスカウトするのです。アデルとガボールのコンビは巡業(じゅんぎょう)に行く先々で喝采(かっさい)を浴び、それまで順調とは言えなかったガボールの人生にもツキが巡ってきました。ですがアデルはガボールに出会う前と何ら変わらず、懲(こ)りずに行きずりの男と逢瀬(おうせ)を重ね………、と言った感じです。 この映画は「髪結いの亭主」や「仕立て屋の恋」などで知られる名匠パトリス・ルコント監督の作品で、ストイックな愛の行方をモノクロームな映像で描いた純愛映画なのです。 パトリス・ルコント監督と言えば、どの映画にも独特な世界観を持たせ、彼ならではの芸術作品に仕上げているのですが、この作品に関してはモノクローム(白黒)の映像という小手先の技を使ってそれを表しています。 もちろんそれが悪いとは言いませんが、見ていてもそれが生かされているとはとても思えませんし、その必要性もまったく感じられませんでした。これではやはり、奇を狙っての策と取られても文句は言えないでしょう。 ですがまあ、恋愛映画としては有り触れた内容のものとは違い、独特な味わいがありますのでそれなりには楽しめるはずです。 アデルのことを想いながらも何も言えないガボールと、そんなガボールの想いを知りながらも次々と別の男と逢瀬を重ねるアデルは、見ていてとても歯痒いです。それにナイフ投げのシーンなどはとてもスリルがあり、かなり冷や冷やさせられるでしょう。 まあラストシーンは「なるほどね」と言った感じが強くあまりドラマチックな展開ではありませんが、一つの作品としては良いまとまり方をしていると言えるのではないでしょうか。 この映画もパトリス・ルコント監督の代表作の一つなので、彼の映画に惹かれは人には特にお勧めしたいと思います。監督 パトリス・ルコント制作年 1999年制作国 フランス上映時間 90分ジャンル ロマンス/ドラマ出演 ヴァネッサ・パラディ/ダニエル・オートゥイユ/ニコラ・ドナト/イザベル・プティ=ジャック/ナターシャ・ソリニャック/イザベル・スパッド
2005年01月25日
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昨日に引き続き、本日ご紹介する映画もかなり古い作品ではありますが、昨日ご紹介した映画が「プレデター」だったので、本日は当然、映画「エイリアン」の批評となります。 まずはストーリーです。 西暦2087年。資源を積んで地球に帰還する途中であったノストロモ号は、未知の知的生命体からの電波を傍受し、調査のために発信源と思われる惑星に着陸します。そして彼らはそこで異様な宇宙船を発見し、その内部で不気味な卵を見つけるのです。調査のために近付いたケイン(ジョン・ハート)は、突然卵の中から飛び出した未知の物体(エイリアン)に襲われ、ケインの顔面はその物体に覆われてしまいます。そしてその場でその物体を剥がすのが困難だと判断した他の乗組員は、ケインをその物体共々船内へ運び込むのです。ですがこの時すでにケインの体内はエイリアンに蝕まれており、体内で孵化したエイリアンは体を破って船内へ逃走し………、と言った感じです。 この映画は昨日ご紹介した映画「プレデター」と同様に、「エイリアンvs.プレデター」の原点となる映画で、映画「ブレード・ランナー」と並ぶリドリー・スコット監督の代表作なのです。 まあストーリー的には何も目新しい要素は無く、それほど練りこまれたお話ではありませんが、ホラー映画としては一番肝心なモンスター(エイリアン)のデザインを、グロテスクで斬新な絵を書くスイスの超現実アーティストであるH.R.ギーガーに依頼するなど、それまでのホラー映画とは一味違った要素を持っています。 誰も助けが来る事の無い宇宙船を舞台にしているという設定も良く、終始一貫(しゅうしいっかん)してその設定を壊す事の無い静けさも上手く表現されており、いつどこからエイリアンが飛び出して来るか分からないという恐怖感や緊張感が見ている側にも伝わってきます。 そして監督は人の驚かせ方も心得ているらしく、エイリアンが出てくるタイミングも絶妙です。あれにはきっと多くの人が驚かされるに違いありません。 まあこちらの映画もひじょうに有名ですので、未見の方は少ないと思われますが、いま見てもけっして色褪せないSFホラーの最高傑作ですので、もう一度ご覧になってはいかがでしょうか。シガーニー・ウィーヴァーの若さにも驚きますよ。監督 リドリー・スコット制作年 1979年制作国 アメリカ上映時間 118分ジャンル SF/ホラー出演 トム・スケリット/シガーニー・ウィーヴァー/ジョン・ハート/ヤフェット・コットー/ハリー・ディーン・スタントン/ヴェロニカ・カートライト/イアン・ホルム声の出演 ヘレン・ホートン(マザー)
2005年01月16日
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昨日、一昨日とジョン・マクティアナン監督作品をご紹介しましたので、まあこちらはちょっと古い作品ではありますが、もう一本だけ彼の代表作とも言える映画をご紹介したいと思います。 と言う訳で、本日の映画は「プレデター」です。 まずはストーリーです。 コマンド隊長ダッチ・シェイファー(アーノルド・シュワルツェネッガー)は、フィリップ将軍(R・G・アームストロング)に呼ばれ、3人の閣僚(かくりょう)を乗せたヘリが中南米某国の国境を越えた地点で撃墜されてしまったので、その3人の閣僚を救出するように命ぜられます。作戦にはCIA部員のディロン(カール・ウェザーズ)が同行し、コマンド隊は巨漢のプレイン(ジェシー・ヴェンチュラ)、黒人のマック(ビル・デューク)、ラテン系のラミレス(リチャード・チェイヴス)、アイルランド系のホーキンス(シェーン・ブラック)、インディアンのビリー(ソニー・ランダム)の5人だけによる編制でした。そしてジャングルの奥地へと進行し、ヘリの残骸を発見した一行は、更に奥地で皮をはがれて内臓をえぐり取られた4人のアメリカ兵の死体を見つけ………、と言った感じです。 この映画は、いま映画館で公開されている「エイリアンvs.プレデター」の原点となる映画で、アーノルド・シュワルツェネッガーが宇宙から来た肉食のエイリアン(プレデター)と戦うコマンド隊長を熱演し、世界中で大ヒットを記録した映画なのです。 内容としては大きく分けて、軍事による作戦を遂行(すいこう)する姿を描いた前半部分と、プレデターと対決する後半部分の2つによって構成されていますが、前半と後半ではストーリーの繋がりも希薄(きはく)で、まったく別の映画といった印象を受けます。 ですが当時、こうしたエイリアン系の映画としてはこのような展開を見せる映画は少なかったので、逆に印象に残る素晴らしい着想だったと言えるでしょう。 プレデターとの戦いも、非力な人間が(とは言っても普通の人よりは全然強いんですけどね)未知なる武器を駆使(くし)するプレデターに対し、ゲリラ戦(地形やその場にあるものを活用して戦う戦法)で挑む姿はひじょうに格好が良く、とても見応えがあります。 まあとても有名な映画ですので未見の方は少ないとは思いますが、一度ご覧になった方でも充分に再見の価値はありますので、映画館で「エイリアンvs.プレデター」を見る前にもう一度ご覧になってはいかがでしょうか、お勧めです。監督 ジョン・マクティアナン制作年 1987年制作国 アメリカ上映時間 107分ジャンル アクション/SF出演 アーノルド・シュワルツェネッガー/カール・ウェザース/エルピディア・カリーロ/ビル・デューク/ソニー・ランダム/ジェシー・ヴェンチュラ/リチャード・チェイヴス/R・G・アームストロング/シェーン・ブラック/ケヴィン・ピーター・ホール
2005年01月15日
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やっと昨日、「24 TWENTY FOUR」の3rd Seasonを凡て見終わり時間にも少し余裕ができましたので、久しぶりに2日続けての更新となります。 本日批評する映画は、「13ウォーリアーズ」です。 まずはストーリーです。 いまから約1000年前のとある北欧の地で、大使として赴いたイブン(アントニオ・バンデラス)はバイキングの傭兵たちと出会うのですが、彼らの故郷が謎の魔物たちによって壊滅的な状況に瀕していることを知ります。そして巫女の占いでは、異国の民の中から選ばれた13人の戦士こそがその危機を救うと言い、イブンも13人目の戦士として選ばれてしまい、王国を救う旅に同行することになるのです。やがて霧深い森の中へと分け入った一行はついにその魔物たちと遭遇するのですが、驚いた事にその魔物たちの正体とは………、と言った感じです。 この映画はベストセラー作家マイケル・クライトンの小説「北人伝説」を映画化したもので、監督は昨日ご紹介した「閉ざされた森」と同様にジョン・マクティアナンです。 ジョン・マクティアナン監督と言えば映画「ダイ・ハード」シリーズや、「ラスト・アクション・ヒーロー」など、アクション映画の監督としてはかなり有名な監督なのですが、やはり常に良作ばかりを作っている訳ではなく、たまにはこの「13ウォーリアーズ」のような駄作に属する映画も作っているのです。 ハッキリ言ってこの映画には「見せ場」となるシーンが何一つありません。 ストーリーはとても単調ですし、キャラクターたちにもこれと言った特徴はありませんし、肝心の戦闘シーンなどに至っては映像が暗すぎて何をやっているのかちっとも分かりません。これでは主人公たちが優勢なのか劣勢なのかはまるで判断が付きませんし、イブンがいくら敵と戦おうとも、見ている側にしてみれば嫌でも睡魔と闘わされる羽目になってしまうのです。 唯一観客の関心を引きそうな魔物の正体も早くに分かってしまいますし、その正体も「ふーん、それで?」と思わずにはいられない程度のものでしかありません。そもそもマクティアナン監督はこの映画で何を表現したかったのでしょうか?そっちの方がよほど気になります。 まあいくら暇な方でも、この映画だけはお勧めすることができません。どうせ見るのでしたら、他の映画を見る事をお勧めします。まったく無意味です。監督 ジョン・マクティアナン制作年 1999年制作国 アメリカ上映時間 102分ジャンル アクション/アドベンチャー/ホラー出演 アントニオ・バンデラス/ダイアン・ヴェノーラ/オマー・シャリフ/デニス・ストーホウ/ウラジミール・クリッチ/アリ・ラーター
2005年01月14日
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常連さんはもうお気付きだとは思いますが、実は去年の11月頃から漢字に読み仮名を入れるようにしてみました。 まあこんな事をすると中には読み難くなったと思われる方や、「この程度の漢字ぐらい読めるよ」とお思いの方もいらっしゃるのでしょうが、これはあくまでもこのページを訪れてくれる小学生などの若年層(じゃくねんそう)に対する配慮ですので、何卒(なにとぞ)ご了承ください。 それでは今日もそろそろ映画批評を始めたいと思います。本日の映画は「閉ざされた森」です。 まずはストーリーです。 ある夜、パナマの米軍基地から訓練に向かったレンジャー隊7名が、嵐の密林地帯で消息を絶ってしまいます。そして17時間後、3名の生存者が発見されるものの、彼らは味方同士で撃ち合いしており、一人が捜索隊の目の前で殺されてしまうのです。結局、重傷者を含む2名が救助されたのですが、彼らは調査を受け持つことになった女性大尉のオズボーン(コニー・ニールセン)に対して完全に黙秘をし、隊長のウエスト(サミュエル・L・ジャクソン)を含む4名はいまもなお行方不明のままでした。そこで事態を重く見たスタイルズ大佐(ティム・デイリー)は、かつてウエストに訓練を受けていた元レンジャー隊員で、尋問術に長けている麻薬捜査官トム・ハーディ(ジョン・トラヴォルタ)を呼び寄せるのですが………、と言った感じです。 この映画は一風変わったミステリー映画で、いままでのありきたりな設定のミステリーとは違い、レンジャー隊の訓練を舞台にした軍事ミステリーなのです。 もちろん一風変わっているとは言え、ミステリー映画であることには変わりありませんから、ミステリーとしての大まかな流れ(冒頭の謎、中盤のサスペンス、ラストのどんでん返し)はきちんと守られており、軍隊などに興味が無い人にでも馴染みやすいストーリーとなってます。 まあ語り手によって物語が全然違ってきてしまうと言う手法は目新しくも無く、最近では「HERO(英雄)」などでも使われていましたが、この映画は語り手たちの複雑な人間模様までをも巧みにストーリーに盛り込んでいますので、誰の話が真実なのかまったく予測が付きません。 特にラストの展開などはまさに予測不可能ですので、先読みの得意な方には是非とも挑戦していただきたい映画でもあります。 まあもっとも、ああ言うラストシーンにするのであれば、もっとそれに見合った伏線を張っておかなければ卑怯(ひきょう)と取られてしまいそうですが、実はあのラストシーンはもともとああ言う展開ではなく、出演者たちのわがままにより撮影の途中で変更したものだそうですので、仕方がないのかもしれませんね。 それにこの映画はあのラスシーンのお陰で凡作にはならずに済んでいますので、結果的に見ても途中でラストの展開を変えて正解だったと言えるでしょう。 決して記憶に残るようなタイプの印象深い映画ではありませんが、それでも見た時は充分楽しめるはずですので、お勧めしておきます。監督 ジョン・マクティアナン制作年 2003年制作国 アメリカ上映時間 98分ジャンル サスペンス/ミステリー/ドラマ出演 ジョン・トラヴォルタ/コニー・ニールセン/サミュエル・L・ジャクソン/ジョヴァンニ・リビシ/ブライアン・ヴァン・ホルト/テイ・ディグス/ティム・デイリー/クリスチャン・デ・ラ・フエンテ/ダッシュ・ミホク/ロゼリン・サンチェス/ハリー・コニック・Jr
2005年01月13日
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新年明けまして、おめでとうございます。 とは言っても気が付けばもう7日、正月気分からはもう抜け出さなければならないはずなのに、いまだに遅れた年賀状の返信を書いている始末です。 それでもまあ、ホームページの方はやっとの思いで、いままで表示が変になっていたショッピングのページを修復することができましたので、もし気になる商品がありましたら買ってみてはいかがでしょうか?もちろん手前味噌ではありますけどね。 さて、それはさて置き、本日の映画批評は「オー・ブラザー!」です。 一応本日の映画が今年に入ってから一本目の映画批評となりますので、辛口コメントにはならない作品をチョイスしてみました。(もちろん明日以降は何が飛び出るか分かりません)まずはストーリーです。 1930年代のアメリカ。ミシシッピー州の田舎町でエヴェレット(ジョージ・クルーニー)、ビート(ジョン・タトゥーロ)、デルマー(ティム・ブレイク・ネルソン)という3人の囚人たちは、昔エヴェレットが隠しておいた120万ドルもの大金が間もなくダム建設で川底に沈んでしまうと知り、脱獄を敢行します。そして3人は何とか刑務所から逃走したものの、ビートの従兄の裏切りにより保安官に捕まりそうになったり、伝説の銀行強盗ネルソン(マイケル・バダルコ)の車に同乗してしまったりとハプニングが続出します。そんな旅の途中、3人は悪魔に魂を売ったというギタリストの青年トミー(クリス・トーマス・キング)と出会い、目先の金を儲けようと、ラジオ局で「ズブ濡れボーイズ」と名乗ってレコードを吹き込むのですが………、と言った感じです。 この映画は「ビッグ・リボウスキ」や「バートン・フィンク」などで知られるコーエン兄弟の監督作品で、原作は古代ギリシャの詩人であるホメロスの叙事詩「オデュッセイア」だそうです。 ですがいくら原作があるとは言え大変に古い物語ですので、参考にできたのは大まかなストーリーの部分だけでしょうし、その壮大なストーリーを20世紀のアメリカを舞台に置き換えてしまう奇抜(きばつ)さなどから言っても、もうほとんどコーエン兄弟のオリジナルと言えるのではないでしょうか。 まあ映画の内容としてはコーエン兄弟にしては珍しく、彼らの映画の象徴とも言うべき暴力シーンはほとんどありませんのでがっかりされる方も多いかもしれませんが、会話のやり取りなどに見られるユーモアのセンスなどはやはりコーエン兄弟ならではのものですので、コーエン兄弟ファンの方はもちろん、そうでない方も充分に楽しめる作品です。 突拍子の無いこのストーリーは先の展開がまったく読めませんが、色々なシーンに話の伏線となる仕掛けがたくさん仕込まれていますので、物語的にはきちんとすじが通っています。 笑いがあり、夢があり、愛があり、そして流れる音楽や映像などには心和ませる要素がふんだんに盛り込まれていますので、お正月に家族みんなで見るのには相応しい映画なのではないでしょうか?もっとも、お正月はもう終わっていますけどね。 ちなみに、DVD版には「ズブ濡れボーイズ」のミュージッククリップ「 I Am a Man of Constant Sorrow」が収録されていますので、DVD版で見ることをお勧めします。監督・脚本 ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン制作年 2000年制作国 アメリカ上映時間 108分ジャンル コメディ/犯罪/アドベンチャー出演 ジョージ・クルーニー/ジョン・タートゥーロ/ティム・ブレイク・ネルソン/ジョン・グッドマン/ホリー・ハンター/クリス・トーマス・キング/チャールズ・ダーニング/デル・ペンテコスト/マイケル・バダルコ
2005年01月07日
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今日は大晦日です、いよいよ今年最後の映画批評となります。 今年の6月に開設したこのホームページも今日で満7ヶ月になりますが、楽しんでいただけたでしょうか? まだ始めたばかりの頃はホームページの事を何も知らずに四苦八苦していましたが、それでも頑張って毎日更新していたのが懐(なつ)かしく思えます。まあ今では忙しくて更新をほとんど疎(おろそ)かにしてしまっていますが、来年も映画批評は続けていきますので、これからもよろしくお願いします。 さて、そろそろ本題に入りますが、今年最後にセレクトした映画は「アルジャーノンに花束を」です。 この映画はだいぶ古い映画なのですが、最近になってDVD化されましたので、敢(あ)えて選んでみることにしました。 まずはストーリーです。 大人の身体でありながら精神はまったく子供というチャーリー(クリフ・ロバートソン)は、パン屋の雑用で生計を立て、せまい下宿部屋に住んでいました。そのチャーリーにとって一番の楽しみは、公園で子供たちと遊んだり、観光バスに乗ることだったのです。そんなチャーリーがある日、夜学の先生であるアリス(クレア・ブルーム)の温かい励ましと進言により、脳の手術を受けることになります。そして手術は無事に成功し、チャーリーの知能はもの凄い速さで成長したのです。やがて天才的な頭脳の持ち主となったチャーリーは、いままで献身的に尽くしてくれたアリスに対して恋心を抱くようになるのですが………、と言った感じです。 この映画はダニエル・キイス原作の同名小説を映画化したもので、日本でも2年前にフジテレビがユースケ・サンタマリアを主演に連続ドラマ化して話題になったので、知名度はかなり高いのではないでしょうか。 まあもっとも、この映画が日本で公開された当時のタイトルはなぜか「まごころを君に」だったそうなので、映画の存在を知らない人はたくさんいるかもしれませんけどね。 映画の内容はと言うと、ストーリー構成がまとまっているので一切の無駄が無く、そして誰にでも分かり易い展開なので、感情移入はしやすいはずです。 この映画の最大の特徴は、この映画のことを一概(いちがい)に「切ない物語」と言い切れないところにあります。 なぜならこの映画の主人公であるチャーリーは、知能が低い時も知能が高くなってからも、どちらの状態の時でも本人が「幸せ」であると感じているからです。 知能が低い時には公園で子供たちと遊ぶことに幸せを感じ、知能が高い時にはアリスとの愛に幸せを感じているのです。もちろん知能が高い時のチャーリーから見れば、知能が低い時の自分は「不幸」そのものにしか映らないのでしょうが、その時本人が幸せだと感じていたことはやはり事実なのです。 知能がまた低い時の自分に戻るかもしれないと知り、苦悩するチャーリーの姿は見ていてとても切なく感じるのですが、この映画を最後まで見て、チャーリーのことを「不幸」と感じるか「幸せ」と感じるかは、見た人の捉え方次第という事です。 ラストシーンは何となく尻切れトンボのように思えてしまうかもしれませんが、見た人それぞれに問題を提起(ていき)しているからこそ、あのような終わり方をするのかもしれませんね。 まあいずれにしろ感動できる映画ですので、一度はご覧になる事をお勧めします。 今年最後の映画批評を読んでもらってありがとうございます。このシネマ雑報を訪れた皆さんにとって、来年が良い年である事を祈ります。それではまた、来年の映画批評でお会いしましょう。監督 ラルフ・ネルソン制作年 1968年制作国 アメリカ上映時間 104分ジャンル SF/ドラマ出演 クリフ・ロバートソン/クレア・ブルーム/リリア・スカラ/レオン・ジャニー/ルース・ホワイト
2004年12月31日
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だいぶお待たせしてしまいました、約3週間ぶりの更新です。 正直言って今年はもう更新できないかと思っていましたが、突然いままでの環境が変わってしまうような出来事があり、またこうして映画批評をする暇が持てた次第です。うーん、人生って本当に何が起きるか分かりませんね。 と言う訳で、本日批評する映画も、まったく先が読めない映画「マルホランド・ドライブ」を批評したいと思います。 まずはストーリーです。 真夜中にロサンゼルスのマルホランド・ドライブを走る一台の車。中には二人の男性と一人の女性が乗っており、運転席に乗っていた男が車を止めると、助手席に乗っていた男は部座席に座る若いブルネットの美女(ローラ・エレナ・ハリング)に銃を突きつけ、降りるように命じます。ところがそこへ前方から猛スピードでやって来た車が衝突し、何とか一命を取り留めた彼女は大破した車から這い出し、負傷した体を支えながらも街へと降りて有名女優の留守宅に身を潜めたのです。そして記憶までも失っていた彼女は、そこへやって来た女優志望のベティに(ナオミ・ワッツ)に見つかってしまうのですが、彼女に同情したベティは彼女の失われた記憶をたどる手助けをすると言い出し………、と言った感じです。 この映画は2002年度の主要映画賞に60部門もの受賞やノミネートされた話題作で、あの「ツイン・ピークス」のような不条理(ふじょうり)な世界観が楽しめる、まさにデヴィッド・リンチ・ワールドの真骨頂(しんこっちょう)と呼べる映画なのです。 やはり「ツイン・ピークス」のように登場する脇役たちはみんな怪しげでいかにも意味深長(いみしんちょう)な人たちばかりですが、そこにどんな意味を見出すかは、この映画を見たそれぞれの人たちに委(ゆだ)ねられているといった感じです。 ここで勘違いされる人が多いので説明しておきますが、ローラ・エレナ・ハリングが演じるリタとカミーラ・ローズ、そしてナオミ・ワッツが演じるベティ・エルムスとダイアン・セルウィンはどちらも一人二役なのですが、実はどちらの二役もまったく別人物を演じているという事なのです。 つまり分かり易く言うと、リタとカミーラ・ローズは顔が一緒だけどまったく別人であり、それはベティ・エルムスとダイアン・セルウィンにも言えるという事なのです。 まあこう言った設定が物語を余計にややこしくしているのですが、結局その解釈の仕方は人それぞれであり、100人見れば100ものストーリーが、1000人見れば1000ものストーリーがそこには生まれるのです。 もちろん理路整然(りろせいぜん)とした映画ではないので、凡ての人にお勧めすることはできませんが、「ツイン・ピークス」の時とは違い、きちんとストーリーは一話で完結していますし、たとえそのストーリーが分からなかったとしても、その不思議な世界観は充分に堪能(たんのう)できますので、たまにはこう言った映画を見るのも良いかもしれませんよ。 ちなみにナオミ・ワッツとローラ・エレナ・ハリングの2人はこの映画でどちらも魅惑的(みわくてき)なヌードを披露(ひろう)しており、それだけでも一見の価値があると言えますが、それ目的だけでは見て欲しくない素晴らしい映画です。もちろん映画の楽しみ方は人それぞれなので、それ目的だけの人にもお勧めはしておきますけどね。監督・脚本 デヴィッド・リンチ制作年 2001年制作国 アメリカ上映時間 146分ジャンル ドラマ/ミステリー出演 ナオミ・ワッツ/ローラ・エレナ・ハリング/アン・ミラー/ジャスティン・セロー/ダン・ヘダヤ/マーク・ペルグリノ/ブライアン・ビーコック/ロバート・フォスター/アンジェロ・バダラメンティ/キャサリン・タウン/メリッサ・ジョージ
2004年12月28日
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うーん、忙しいと日にちが経つのも早いもので、先月はたったの8本しか映画批評を載せる事ができませんでした。いったい今月は何本更新をできるのか分かりませんが、できるだけ頑張ろうと思いますので、長い目で見てやって下さい。 恐らく年が明ければ少しは時間に余裕もできるはずなので、今しばらくの辛抱です。………たぶん。 と言う訳で、時間を無駄にせずサクサクと映画批評をはじめたいと思います。本日の映画は「アメリカン・サイコ」です。 まずはストーリーです。 好景気に沸く1980年代のニューヨーク。一流大学を卒業し、27歳の若さでウォール街の一流証券会社副社長にまで出世したパトリック・ベイトマン(クリスチャン・ベイル)は、高級品を身につけ、エクササイズで身体を鍛え、しかも美人のフィアンセまでいるという、誰もが羨む優雅な生活を送っていました。ところが、満たされない心の渇きから次第に奇行癖が現れ、夜の街をさまよいホームレスや娼婦を殺害し、そのことによって何とか心の均衡(きんこう)を保っていたのです。ですがやがて殺人への衝動は徐々に大きくなり、ついには自分でも抑えることができなくなってしまい………、と言った感じです。 この映画は原作が一度発売中止処分となり、映画化は不可能とまでいわれたブレット・イーストン・エリスの問題小説の映画化で、強烈なブラック・ユーモアが盛り込まれた上質のスリラーなのです。 とにかくこの映画の見所は、何と言っても主役のパトリック・ベイトマンの異常性にあります。 彼には様々な物事に対する独自のこだわりがあり、それは一般の人にはとても理解できるようなものではないのですが、見ていてとても楽しめるのです。 音楽に関して持っている豊富な知識や、名刺に対する独自のこだわりなどは特にそうで、少し厚手の紙に印刷された浮き彫りの文字がどうのとか、エンボス文字がどうのとか、聞いていてもどちらの名刺が優れているかなんて普通なら判断が付きませんが、彼の中ではそれは非常に重要な事らしく、相手の名刺を見るたびに敗北を感じてしまい、冷や汗を流したり卒倒しそうになったりするシーンには笑えます。 そしてメインとなる殺人のシーンも、残酷さよりもその異常性を強調しており、後半はその大暴走ぶりが楽しめるのです。特に素っ裸でチェーンソーを振り回すシーンなどは、あのジェイソンにだって真似はできません。 まあスプラッター・シーンは無いものの、やはりホラー映画が苦手だと言う人は遠慮された方が良いかもしれませんが、目に余る残酷なシーンなどは一切ありませんので、一度ご覧になってはいかがでしょうか?上質なブラック・ユーモアが楽しめますよ。 ちなみに、日本では未公開ですが、この映画には続編にあたる「アメリカン・サイコ2」と言うのがあり、DVDでは既に日本でも発売されているようです。はたして続編では、幻のレストラン「ドーシア」は登場するのでしょうか。そちらも見ものと言えるでしょうね。監督 メアリー・ハロン制作年 2000年制作国 アメリカ上映時間 102分ジャンル サスペンス/ドラマ出演 クリスチャン・ベイル/ウィレム・デフォー/ジョシュ・ルーカス/サマンサ・マシス/マット・ロス/ウィリアム・セイジ/クロエ・セヴィニー/カーラ・セイモア/ジャスティン・セロー/グィネヴィア・ターナー/リース・ウィザースプーン
2004年12月07日
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先日、このページの商品スクロールの表示がおかしくなっている事に気付いたのですが、忙しくて直している暇がありません。 恐らくは「楽天」さんの方で使えるHTMLタグに制限を付与(ふよ)したか使用不可にしたものがあり、それが原因でこのような事態となってしまったものと思われるのですが、どのタグにどのような制限をしたのかがまるで分からず、修復に手間取っています。 苦心して作り上げたのに、そしてただでさえ忙しくて更新するのも約1週間ぶりだと言うのに、本当に迷惑な話です。 とまあ、いくら愚痴(ぐち)ってみても何も状況は変わりませんので、ここらで映画批評をはじめたいと思います。 本日の映画は、大人の恋愛映画である「チョコレート」です。 まずはストーリーです。 アメリカ・ジョージア州のディープサウス。州立刑務所で死刑囚棟のグループ・リーダーを務めるハンク・グロトウスキ(ビリー・ボブ・ソーントン)は、今は退職した父親のバック(ピーター・ボイル)、そして息子のソニー(ヒース・レジャー)と親子3代に渡り同じ刑務所での看守の仕事に就いていました。そして11年間服役した黒人死刑囚ローレンス・マスグローヴ(ショーン・コムズ)が処刑される日、ハンクとソニーは死刑を執行しようとするのですが、最近看守になったばかりのソニーは任務を満足にこなせず、処刑後にハンクは息子の不甲斐なさを厳しく責め立てます。ところがその翌日、ソニーはハンクの目の前で自ら命を絶ってしまい、悲しみと自責の念に打ちひしがれたハンクは、父親の反対を振り切って長年務めていた刑務所を退職してしまい………、と言った感じです。 この映画は白人男性と黒人女性の愛を描いた物語なのですが、単なるラブストーリーとは違い、人種差別という難しい問題をテーマに掲(かか)げた作品なのです。 愛に飢えた女性、レティシアを演じる主演のハル・ベリーは、この作品で黒人女優初のアカデミー賞主演女優賞を受賞し、名実共に大物女優の仲間入りを果たしたと言えるでしょう。 映画の内容としては、ラブストーリーにしては珍しく親しい人物が次々に死んでしまい、まるでサスペンス映画をも彷彿(ほうふつ)とさせるのですが、その事によって生じる残された者の心の変化を丁寧(ていねい)に描いており、ただ出会っただけでときめいて恋に落ちてしまうような、そんなチープな恋愛ものとは一味も二味も違います。 まあ、誰か親しい人物が亡くならなければ変わる事ができないと言うのは、「人」としてはいかがなものかとも思いますが、その心の葛藤(かっとう)や成長は素晴らしく、見ていて心温まるはずです。 もちろんチープな恋愛ものが好きな方にしてみれば物足りない内容かもしれませんが、相変わらず無口で渋い演技を見せるビリー・ボブ・ソーントンや、美しく見事なスタイルの裸体を披露してくれるハル・ベリーなど、たいへんに見所の多い映画ですので、恋愛映画がちょっと苦手な方でも少しは楽しめるのではないでしょうか。まあ無理にお勧めはしませんけどね。監督 マーク・フォースター制作年 2001年制作国 アメリカ上映時間 113分ジャンル ドラマ/ロマンス出演 ビリー・ボブ・ソーントン/ハリー・ベリー/ピーター・ボイル/ヒース・レジャー/ショーン・コムズ/モス・デフ
2004年12月01日
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今月はいままで以上に忙しくてなかなかこのページも更新できずにいますが、恐らく来月はもっと忙しくなってしまうと思いますので、こうしたちょっとした時間をも無駄にせず、更新に励みたいと思います。 と言う訳で、本日の映画は「バートン・フィンク」です。 まずはストーリーです。 1941年、ニューヨーク。社会派劇作家バートン・フィンク(ジョン・タトゥーロ)は、庶民を祝福した芝居の成功により一躍有名人となり、ハリウッドからも映画のシナリオ依頼として招かれることとなります。そしてロサンゼルスへやってきたバートンは、仕事場としてさっそくホテル「アール」にチェックインするのですが、そこは薄暗くて不気味な雰囲気が漂っており、あまり居心地の良いホテルではありませんでした。さらに部屋の中は暑苦しくて蚊まで飛んでおり、いくらバートンがタイプライターに向かっても、なかなか思うようには集中できませんでした。そんな中、隣室からは不気味な笑い声が聞こえてきて………、と言った感じです。 この映画はカンヌ映画祭で3冠(グランプリ、監督賞、ジョン・タトゥーロの主演男優賞)を獲得した秀作で、もともと実力のあったコーエン兄弟が、その名を一気に世界へ知らしめる事となった作品でもあるのです。 まあ内容的にはシュールな作りとなっており、かなり個性の強い作品ではありますが、ストーリー運びがとても丁寧(ていねい)に作られていますので、誰にでも呑み込めて楽しめる物語となっています。 とくにこの映画はそのシュールな映像が素晴らしく、映像がセリフ以上に色々な物事を物語っているのです。中でも、人の気配が感じられないホテルの廊下に大量の靴が並んでいたり、壁紙がゆっくりと剥れてくる様子などは、まさに何かのメッセージ性を感じてしまうでしょう。 登場する人物たちもみんな灰汁(あく)が強く、人の話を聞かないキャピトル映画の社長リプニック(マイケル・ラーナー)や保険セールスマンのチャーリー(ジョン・グッドマン)とのやり取りなどはひじょうにコミカルで、間違いなく笑えるはずです。 世の中にはシュールで詰まらない映画は数多くあり、そのほとんどは製作者たちの勝手な思い込み(「理解できる人にだけ理解してもらえれば良い」と言った考え方や、単なる自己陶酔(とうすい)の世界)によって作られており、見る側の気持ちなどは蔑(ないがし)ろにされてしまっていますが、この映画はシュールでありながらもきちんと見る側のことは考慮(こうりょ)されていますので、シュールな作品が苦手だと言う方でも楽しめると思います。 この映画でしか味わえない独特の映像美はそれだけでも必見の価値がありますので、未見の方にはとくにお勧めしたい作品です。監督・脚本 ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン制作年 1991年制作国 アメリカ上映時間 116分ジャンル ドラマ出演 ジョン・タートゥーロ/ジョン・グッドマン/ジュディ・デイヴィス/マイケル・ラーナー/ジョン・マホーニー/トニー・シャルーブ/ジョン・ポリト/スティーヴ・ブシェミ/ミーガン・フェイ
2004年11月23日
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間もなく冬になりますが、味覚の秋にちなんでこんな映画はいかがでしょうか? と言う訳で、本日批評する映画は「ディナー・ラッシュ」です。 まずはストーリーです。 ニューヨークのトライベッカ。イタリアン・レストラン「ジジーノ」のオーナーであるルイス(ダニー・アイエロ)は、ビジネス・パートナーを殺害される事件に巻き込まれます。そんな中、彼の息子でコック長を務めるウード(エドアルド・バレリーニ)は、長年街の人々に親しまれてきたこの店を、流行の最先端を行く高級レストランへと変えてゆくのです。やがて夜になると、この一流レストランには個性豊かな客が集まります。店の乗っ取りをたくらむチンピラたちや、ウード(エドアルド・バレリーニ)と愛人関係にある女性料理評論家などなど。そして店は一日の内で最も忙しい時間帯、ディナー・ラッシュへと突入するのですが………、と言った感じです。 この映画はニューヨークのトライベッカに実在するイタリアン・レストランを舞台にしたサスペンス映画で、監督のボブ・ジラルディは、この「ジジーノ」の実際のオーナーでもある人物なのです。 内容としては、レストランのディナー・ラッシュ時と言う慌ただしい時間帯に起きる人間ドラマをメインとしているのですが、上映時間のほとんどをそれに割り当てているために、逆に単調でスピード感の無い展開となってしまっています。 そしてまるで群像劇のように様々な人々を映し出し、登場人物たちのリアリティーを高めるのは良いのですが、そのどの人物にもまったくと言っていいほどドラマ性がなく、キャラクターとしての魅力はゼロに等しい状態です。 劇中に登場する料理も映画のタイトルから連想するほどは出てきませんし、どの料理も映像的にはないがしろにされてしまっているせいか、とても高級レストランとは思えないほどみすぼらしく、間違っても「美味しそう」と言う言葉が出てくることはないでしょう。 そして「これではいったい何が売りの映画なんだ」と誰もが感じた頃合に、忘れられていたサスペンスへと物語が変化し、ラストを迎えるのです。 まあかなり変わったタイプの映画ではありますが、見た後には何の後味も残りませんので、偏食気味の方でも安心して見られる映画でしょう。もちろんお勧めなんてしませんけどね。監督 ボブ・ジラルディ制作年 2001年制作国 アメリカ上映時間 99分ジャンル ドラマ/サスペンス出演 ダニー・アイエロ/エドアルド・バレリーニ/カーク・アセヴェド/ヴィヴィアン・ウー/サマー・フェニックス/マイク・マッグローン/ジョン・コーベット/マーク・マーゴリス/サンドラ・バーンハード/ポリー・ドレイパー/ジェイミー・ハリス/テッサ・ガイリン
2004年11月18日
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僕の愛読誌のひとつに「レオン」と言う男性用ファッション雑誌があるのですが、最近になってその姉妹誌として「ニキータ」と言う女性用ファッション雑誌が創刊され、しかもそれがかなりの人気を博しているらしいので、本日はその雑誌の名前の由来となった映画「ニキータ」を批評したいと思います。 まずはストーリーです。 麻薬中毒である少女ニキータ(アンヌ・パリロー)は、薬屋を襲撃した際に駆けつけ来た警察官を射殺してしまい、裁判で無期懲役刑を言い渡されます。ところが彼女に工作員として素質を見いだした政府の秘密機関は、彼女に秘密工作員として働くことを強要するのです。もちろん初めのうちはニキータも抵抗していたのですが、次第に選択肢は一つしかないことを知り、教育係のボブ(チェッキー・カリョ)による厳しい訓練に耐え、3年後には美しい女殺し屋に変貌していたのです。ですがそんな彼女にも恋心が芽生え、それをきっかけに自分の置かれた立場の現実に気がつき………、と言った感じです。 この映画はリュック・ベッソン監督の代表作のひとつで、映画「レオン」と同様に殺し屋を主人公とした「純愛映画」なのです。 どちらの映画も殺し屋としての「孤独」と「切なさ」を描いているのですが、「孤独」と言う点に関してはこちらの「ニキータ」の方がより鮮烈に描かれており、自分のことを婚約者にすら打ち明けられないと言う辛さを、セリフではなく映像で見事に表現しているのです。 とくに新婚旅行にまで暗殺指令が出され、ターゲットに狙いを定めながらも、その事を悟られないようにとバスルームのドア越しに夫のマルコ(ジャン・ユーグ・アングラード)と話をするシーンは秀逸で、スリリングさと切なさの交じり合ったこの映画最大の見せ場と言えるでしょう。 ですが残念ながらその後の展開は緩やかな下り坂となっており、ラストはいまいち盛り上がりに欠ける内容となっています。 まあ後半には「掃除屋」としてジャン・レノも登場し、彼ならではの渋い演技を見せてはくれるのですが、ストーリー的にそれほど重要な役割を持っている訳ではなく、実は単なるトラブルメーカーでしかないのが非常に残念です。 恐らくラストを悲劇にすればもっと良い映画なったのかもしれませんが、このままでも充分名作ですので、未見の方にはとくにお勧めしします。監督 リュック・ベッソン制作年 1990年制作国 フランス上映時間 117分ジャンル アクション/サスペンス/ドラマ出演 アンヌ・パリロー/ジャン=ユーグ・アングラード/ジャンヌ・モロー/チェッキー・カリョ/ジャン・レノ/ジャン・ブイーズ/フィリップ・ドゥ・ジャネラン/ロラン・ブランシェ/フィリップ・ルロワ/マルク・デュレ/ジャック・ブーデ
2004年11月11日
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先日、映画「ターミナル」の宣伝のために主演のトム・ハンクスが来日しました。(まだ日本に滞在しているのかな?声優として出演している「ポーラ・エキスプレス」の宣伝もするらしいです) 「ターミナル」はスピルバーグ監督の最新作で、トム・ハンクスと組むのは「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」以来です。 と言う訳で、本日は映画「ターミナル」に先駆けて、「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」を批評したいと思います。 まずはストーリーです。 1963年、ニューヨーク州ブロンクスヴィル。16歳のフランク・アバグネイル・ジュニア(レオ ナルド・ディカプリオ)は、尊敬する父が母と離婚すると聞き、ショックで衝動的に家を飛び出してしまいます。そして生活のためフランクが思いついたのは、偽造小切手の詐欺を始めることでした。もちろん最初はなかなか上手くいかなかったのですが、大手航空会社のパイロットに成りすます事によって、誰もがもののみごとに騙されてしまったのです。これに味をしめたフランクは、小切手の偽造を繰り返して巨額の資金を手に入れるのですが、やがてFBIが動き出し、巨額小切手偽造詐欺事件を捜査していたFBI捜査官カール・ハンラティ(トム・ハンクス)も徐々に犯人像を絞り込み、そしてついにはフランク容疑者へとたどり着くのですが………、と言った感じです。 この映画は「シンドラーのリスト」の時と同様に、スティーヴン・スピルバーグ監督が「実話」と言う強い武器を引っ提げて挑んだ作品だったのですが、残念ながらこの映画が前回のように功を奏する事はありませんでした。 ハッキリ言ってこの映画には悪い点が山ほどありますが、その凡てをあげていたらこのページのサーバーがオーバーヒートしてしまいかねませんので、おおまかなものだけを説明したいと思います。 まず第一に、この映画は非常にテンポが悪いです。何だか全体的にまったりとした空気が漂っていて、ストーリーもなかなか先へは進まず、その結果無駄に尺の長い映画となってしまっているのです。 これは最近のスピルバーグ作品に多く見られる特徴で、昔の作品群とは明らかに作風が違います。 昔の作品はエンターテイメントが主体として作られたものが多く、分かりやすいストーリーとテンポの良さが売りだったのですが、最近の作品は下手に感動を狙ったものが多く、この映画のように主人公の生い立ちや生活などをだらだらと見せる事によって、感情を移入させようとしているのです。 ですがそれにもかかわらず、その肝心の主人公のキャスティングを、なぜかアイドル役者としての皮を脱皮することができていないレオナルド・ディカプリオにしてしまっているので、ディカプリオのファンならともかく、感情移入などしょせん砂上の楼閣にすぎず、そのほとんどが何の意味も持たないシーンと化してしまっているのです。 そして名優であるトム・ハンクスにはたいした見せ場も与えず、何のためにトム・ハンクスを出演させているのか良く分かりません。まあディカプリオにしてみれば、トム・ハンクスと共演することによって学ぶことは多かったのでしょうけどね。 内容的にはフランクとカールが初めて対面するシーンはなかなか面白かったのですが、それ以外はどうでもいいようなシーンの積み重ねでしかなく、暇を持て余している方以外にはとてもではありませんがお勧めすることはできません。 素材となる「実話」は非常に良かったものの、それを料理する監督の腕が鈍っているために詰まらない映画になってしまったという、良い見本といえるでしょう。まあその素材を見つけた着眼点は、素直に誉めてあげたいと思いますけどね。監督 スティーヴン・スピルバーグ制作年 2002年制作国 アメリカ上映時間 141分ジャンル コメディ/ドラマ/犯罪出演 レオナルド・ディカプリオ/トム・ハンクス/クリストファー・ウォーケン/マーティン・シーン/ナタリー・バイ/エイミー・アダムス/ジェニファー・ガーナー/フランク・ジョン・ヒューズ/ブライアン・ホウ/ジェームズ・ブローリン/スティーヴ・イースティン/エリザベス・バンクス
2004年11月07日
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昨日に引き続き子供向けの映画ではありますが、このシネマ雑報では今のところ第2位の点数をキープしている映画「ライフ・イズ・ビューテフル」の監督であるロベルト・ベニーニの作品ですので、敢えてご紹介しようと思います。 と言う訳で、本日批評します映画は「ピノッキオ」です。 まずはストーリーです。 イタリア、トスカーナ地方。夜明け前のフィレンツェの街を200匹のネズミに引かれた馬車が走り抜け、その馬車に乗っていた青い妖精が放った青い蝶は、一本の丸太に止まります。するとその丸太はまるで生き物のように跳ね回り、街中を転がってジェッペットじいさん(カルロ・ジュフレ)の住む家へと飛込み、それを見たジェッペットじいさんはその木で男の子の人形を作る事を思いつきます。そしてさっそく作業へと取り掛かり、やがて完成した人形にピノッキオ(ロベルト・ベニーニ)と名付けるのですが、ピノッキオは完成したとたんにあちこちへと走り回り、好き勝手のし放題です。そんなイタズラなピノッキオの前に青い妖精が現われ、ピノッキオは良い子になって人間になることを誓うのですが………、と言った感じです。 この映画は世界的に有名な「ピノキオ」(正式には「ピノッキオ」と言うイタリアの児童文学)のお話を、生誕120周年を記念して映画化したもので、原作を忠実に再現しています。 もともとはイタリアの故フェデリコ・フェリーニ監督の企画だったのですが、それをロベルト・ベニーニ監督が引き継ぐ事によって完成された映画でもあるのです。 まあ内容的には誰もが知っているピノキオのお話ですので敢えて説明はいたしませんが、やはり映画化するのにはちょっと無理があったのか、原作からは多少削られている演出などもあり、「映画ならでは」と言う点には欠けています。 それでも演技と言う点においては独特のこだわりがあり、主役のピノッキオには子役を使わずにロベルト・ベニーニ自身が演じたり、青い妖精もニコレッタ・ブラスキ(ロベルト・ベニーニの妻)が演じたりなどして、熟年たちによる「ピノッキオ」を作り上げているのです。 まあ子供がこの作品を見た時、最後まで飽きずに見られるかどうかはちょっと疑問に思いますが、日本語の吹き替えではピノッキオ役をユースケサンタマリアが担当していますので、馴染みやすいのことは確かです。 まるで映画の中で舞台を見ているような映画ではありますが、原作の「ピノッキオ」自体はとても素晴らしい童話ですので、もし知らないのでしたら見てみるのも悪くはないかもしれません。もちろん、あまりお勧めできるようなタイプの映画ではありませんけどね。監督 ロベルト・ベニーニ制作年 2002年制作国 イタリア上映時間 111分ジャンル ファンタジー/ミステリー 出演 ロベルト・ベニーニ/ニコレッタ・ブラスキ/カルロ・ジュフレ/ミーノ・ベレイ/キム・ロッシ・スチュアート/ペッペ・バーラ/フランコ・イァヴァローネ/ブルーノ・アレーナ/マックス・カヴァラリ/コーラッド・パニ/ルイス・モルテーニ/アレッサンドロ・ベルゴンゾーニ
2004年11月04日
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昨日一昨日と2日間も続けて化け物系?の映画をご紹介してしまいましたので、本日はお口直しの意味合いも含めて、もう一本だけモンスターが出てくる作品をご紹介したいと思います。 と言う訳で、本日批評します映画は「モンスターズ・インク」です。 まずはストーリーです。 モンスター・シティ最大の電力会社「モンスターズ・インク」の社員は、夜な夜な子供たちを驚かせてはエネルギー源となる悲鳴を集めていたのですが、最近の子供はあまり怖がらないので、経営は悪化の一途をたどっていました。それでもこの会社のトップエリートであるサリー(声:ジョン・グッドマン)と相棒のマイク(声:ビリー・クリスタル)は、日々の厳しい訓練の成果を発揮し、悲鳴獲得ポイントNo.1の座を守っていたのです。ですがそんな彼らにとって実は人間の子供は有害であると信じられており、人間界の物は靴下一枚であっても、モンスター・シティに持ち込むことは禁止されていたのです。ところがある日、一人の人間の女の子がモンスター・シティに紛れ込んでしまい、当局に知れたら自分たちも隔離されてしまうと考えたサリーとマイクは、こっそり女の子を人間界に戻そうと奮闘するのですが、よりによって女の子は彼らになついてしまい………、と言った感じです。 この映画は全編フルCG(コンピュータ・グラフィックス)によって作られており、「トイ・ストーリー」や「バグズ・ライフ」で知られるピクサー・アニメーション・スタジオが5年もの歳月を費やして作った超大作のアニメーション映画なのです。 普通こういったフルCGアニメーションと言うのは、作り手側の見せたい最新の技術や映像ばかりが優先されてしまい、ストーリーなどは御座なりになってしまうパターンが多いのですが、(その良い例が「ファイナルファンタジー」でしょう。あれはまさに日本の恥と言えます)この映画に関しては決してそんなことはなく、ストーリー構築に3年もの歳月を掛け、今までにないようなまったく新しいハートフルな作品へと仕上げているのです。 とくにサリーが女の子に対して見せる優しさなどは、本当に心が温まるはずです。 まだ言葉を喋れないくらい幼い女の子が、悲鳴獲得ポイントNo.1のサリーになついてしまうというのは、外見に捕われずにその優しさを見抜くからであって、それを上手く表現しているこの映画は、例えCGアニメーションではなかったとしても大ヒットしたのではないでしょうか。 もちろん使われているCGにも独特なこだわりはあって、サリーの200万本以上ある体毛は、その一本一本にまで長さや傾斜などと言った情報をコンピューターに入力してはじめて、あの柔らかでふさふさな感じを表現できたそうです。 数多く出で来るモンスターたちもその個性がとても分かりやすく作られており、それを演じる声優も個性豊かな俳優たちによってアテレコ(映像に声を入れる事)されていますので、子供が見てもすぐに感情移入ができるのではないでしょうか。ちなみにマイク役のビリー・クリスタルは、アテレコの時に勝手なアドリブばかりを入れるので、NGの数がダントツだったそうです。 いままで子供向けの映画だからといって敬遠されていた方には、特にお勧めしたい映画です。一応アニメーションではありますが、シネマ雑報でこの映画を名作(80点以上)に認定します。監督 ピート・ドクター制作年 2001年制作国 アメリカ上映時間 92分ジャンル ファンタジー/コメディ/ファミリー声の出演 ジョン・グッドマン/ビリー・クリスタル/メアリー・ギブス/ジェームズ・コバーン/スティーヴ・ブシェミ/ジェニファー・ティリー/ボニー・ハント/ボブ・ピーターソン/ジョン・ラッツェンバーガー/フランク・オズ/ダニエル・ガーソン日本語吹替版 石塚英彦/田中裕二/井上愛理/大平透/青山譲/高乃麗
2004年11月03日
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昨日の「ロッキー・ホラー・ショウ」に引き続き、本日もゲテモノ系の………いえいえもとい、個性的で特殊な魅力に溢れた映画「プリシラ」を批評したいと思います。 まずはストーリーです。 ショウガールの仕事で結ばれた、誇り高い性転換者バーナデット(テレンス・スタンプ)とバイセクシュアルのミッチ(ヒューゴー・ウィーヴィング)、そして若く世間知らずなフェリシア(ガイ・ピアース)の3人のドラッグクイーン(女装のゲイ)は、オーストラリア中部の砂漠の真ん中にあるリゾート地でショウを行うため、大都会シドニーから「プリシラ号」と名付けたバスに乗り、3千キロの旅に出ました。ところがバスの故障や各地でのゲイに対する偏見など、様々なトラブルに巻き込まれ………、と言った感じです。 この映画はドラッグクイーンと言うまさに知られざる世界を描いた作品であり、これもまたある種の熱狂的なファンの多い映画ではあるのものの、昨日ご紹介した「ロッキー・ホラー・ショウ」よりは一般の方にも分かりやすく作られていますので、マニアではなくともそれなりには楽しめるでしょう。 まあストーリーは余りにもゆっくりと進みますので、少し退屈さを感じでしまうかもしれませんが、所々に出てくる「ショウ」のシーンが必ずやそんな気持ちを吹き飛ばしてくれるはずです。 なにしろ70年代の大ヒットディスコ・ソングに合わせて踊る彼らのコスチュームは、いままでに見たことのない独自の芸術的感性が生み出した超ド派手なものであり、下手なCG(コンピュータグラフィックス)なんかを使った映画よりも、映像に圧倒的なインパクトがあるのです。 しかも驚いたことにこの映画の主演を務める3人は今やどれも大物で、特に「メメント」で主役のレナード役を演じたガイ・ピアースや、「マトリックス」シリーズでエージェント・スミスを演じたヒューゴー・ウィーヴィングなどは誰もが知っているくらい有名で、そんな彼らがこのような役を演じていたとは、まさか夢にも思わないでしょうね。まあどんな大物の俳優にだって、下積み時代はあると言うことです。 ちなみにこの映画は、同年のアカデミー賞の衣裳デザイン賞や、英国アカデミー賞でも衣装デザイン賞とメイクアップ&ヘアー賞を受賞しています。もちろんあれだけインパクトのある映像を作り出しているのですからそのことには頷けるのですが、他の賞にはかすりもしていないと言う事実にも頷けてしまいます。まあその程度の映画と言うことなんですけどね。 一言で例えるなら「毒の花が咲いた」感じの映画ですが、未知なるものに感心のある方には是非ともお勧めしたいと思います。監督 ステファン・エリオット制作年 1994年制作国 オーストラリア上映時間 103分ジャンル ドラマ出演 テレンス・スタンプ/ヒューゴ・ウィーヴィング/ガイ・ピアース/ビル・ハンター/サラ・チャドウィック/マーク・ホームズ/ジュリア・コーテス
2004年11月02日
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先日の「フロム・ヘル」の映画批評に対するコメントが少し白熱してしまったようなので、ここらでこのシネマ雑報がどのような趣旨で映画に点数を付けているのか、改めてご説明したいと思います。 基本的にこのシネマ雑報が目指しているのは、1000本分の映画に批評と点数を付けることであり、そうして出来上がる点数表(ベスト1000)は自己満足などと言った下らないもののために作っているのではなく、あくまでも一般の方々が映画を見る時の参考にしてもらうためのものとして作っているのです。 最近では映画以外にも様々な娯楽があるせいか、映画はたまにしか見ないと言う人が増えてきています。そしてそういった方々が映画を見る際に詰まらない映画などを選択してしまうと、余計に映画離れが進んでしまう事となるのです。「あーあ、詰まらない映画だった。時間を無駄にした」そういった映画に対する悪いイメージや喪失感を無くすためにも、一般の方向けの分かりやすい映画批評と点数表が必要であり、シネマ雑報はそういった一般の方々のためのサイト作りを目指しているのです。 ですから映画好きのマニアックな方々にしてみれば、自分の深い思い入れのある映画や大好きな映画などに低い点数を付けられて憤慨することがあるかもしれませんが、それが一般の方々にはお勧めできない映画である以上、ご了承して頂くしかありません。 もちろんそういったマニアックな映画には芸術性の高いものが多く、その点では評価することができるのですが、しょせんその芸術性も高ければ高いほど理解者は減ってしまい、結果として低い点数を付けざるを得なくなってしまうのです。 ちなみに、知名度が高かったり有名な監督や役者が揃っているのにもかかわらず、詰まらない内容で一部の人にしか楽しめないような映画などに対しては、より一層厳しい点数を付けることにしています。なぜならそういった映画は他の映画よりも一般の方が見る確率が高く、それに従って後悔してしまう人も大勢出てしまうからです。 以上がこのシネマ雑報の採点に関するコンセプトなのですが、ご理解頂けたでしょうか。 もしこの文章を読んで、このページは自分に向いていないと思う方がいらしたとしても、それは致し方のないことで、このページを活用して下さる人のためにこそ、このシネマ雑報は存在するのです。ですから受け入れるか否かの判断は、みなさん自身にお任せしたいと思います。 また長々と批評以外のものを書いてしまいましたが、そろそろ本題の映画批評をはじめたいと思います。 これはかなり古い作品になりますが、以前「ビートル・ジュース」を取りあげた時にコメントの中にこの映画のタイトルが書き込まれていましたので、批評しておく事にしました。 と言う訳で、本日の映画は「ロッキー・ホラー・ショー」です。 まずはストーリーです。 ある嵐の夜、婚約中のカップルであるブラッド(バリー・ボストウィック)とジャネット(スーザン・サランドン)は知人の大学教授に会いに行くため車を走らせていました。ですがあまりにも激しい雷雨と稲妻のために車が立ち往生してしまい、2人は仕方なく近くにあった古城へと助けを求めに行くのです。ところがその古城は近くで見るととても不気味で薄気味が悪く、恐れおののいていた2人の前に現れたのは世にも怖ろしい形相の背虫男リフ・ラフ(リチャード・オブライエン)でした。リフ・ラフは電話を借りたいと言う2人を快く城の中へと招き入れるのですが、城の中では女装趣味の主、フランクフルター博士(ティム・カリー)が作った人造人間ロッキー(ピーター・ヒンウッド)の誕生パーティーが催されている真っ最中で、その怪しい倒錯の宴に始めは戸惑っていた2人も、次第にその世界へと引き込まれてゆき………、と言った感じです。 この映画は1973年にロンドンで初演されて大ヒットした同名ロック・ミュージカルを1975年に映画化したもので、原作と作詞・作曲はリチャード・オブライエンという人物によるものであり、彼は映画の中で背虫男のリフ・ラフとしても登場しています。 そしてまだ若き日のスーザン・サランドンもヒロインとして登場しており、始終下着姿のままで演技する彼女は、他の映画に出演している時とのイメージがだいぶ掛け離れており、ある意味一見の価値があるかもしれません。 まあハッキリ言って古い作品ですから、いまさら見てもそれほどのインパクトを感じることは無いでしょうが、恐らくこの映画が公開された当時は、メイクや衣装や色使い、そしてそのブッ飛んだ世界観など、この手の映画の中においては卓越した存在であり、ある種の方々にしてみればとても感銘を受ける映画だったようです。 もちろんストーリーや映像、そのどのシーンを見ても一般の人には理解しがたく、とてもお勧めすることのできるような映画ではありません。ですから知られざる世界を知りたい方以外には、時間の浪費となってしまうことでしょう。 でもこれだけの映像を見てもインパクトを感じないと言うことは、時代の流れに伴い、それだけ世の中に様々なジャンルの世界が広まっているということの証なんでしょうね。監督 ジム・シャーマン制作年 1975年制作国 イギリス上映時間 99分ジャンル ホラー/ミュージカル出演 ティム・カリー/バリー・ボストウィック/スーザン・サランドン/リチャード・オブライエン/ジョナサン・アダムス/ミート・ローフ/チャールズ・グレイ/パトリシア・クイン
2004年11月01日
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昨日に引き続きまたもや低い点数の作品になりますが、歴史上の有名な事件をテーマとしている映画ですので、一応ご紹介しておこうと思います。 と言う訳で、本日の映画批評は「フロム・ヘル」です。 まずはストーリーです。 1888年、ヴィクトリア朝末期のロンドン。犯罪の巣窟となっている貧民地区ホワイトチャペルの路上で、喉を切り裂かれた娼婦の惨殺死体が発見されます。事件の担当となったアバーライン警部(ジョニー・デップ)は懸命に捜査にあたりますが、手掛かりも見つからないまま、次から次へと娼婦たちがナイフの餌食となっていくのです。その残忍な手口から犯人は「切り裂きジャック」と呼ばれ、ロンドン中は騒然となるのでした。アバーライン警部は若くて美しい娼婦メアリと、女王の侍医ウィリアム・カル卿(イアン・ホルム)の協力を得て、犯人を追い詰めていくのですが………、と言った感じです。 この映画はイギリスの犯罪史に残る連続猟奇殺人犯「切り裂きジャック」の謎に迫る映画で、現在ではもっとも有力とされている説に独自のアレンジを加えたストーリーとなっています。 出演者たちの顔ぶれも豪華で、「キリング・ミー・ソフトリー」のヘザー・グラハムや「ロード・オブ・ザ・リング」のイアン・ホルムの他にも、個性派俳優のジョニー・デップやジェイソン・フレミングなどといった名優まで揃っています。 そして当時を完璧に再現したという大掛かりなセットは、ロンドンの貧民地区をリアルに再現しており、いまにも匂ってきそうな独特な雰囲気はまさにこの映画に相応しいと言えるでしょう。 名優と呼ばれる役者たちにリアルな舞台、そして筋の通ったストーリーと、普通これだけの材料が揃えば名作が生まれてもおかしくはないのですが、その使い方を間違えてしまったのかそれとも最初から使い方など知らなかったのか、どちらなのかは分かりませんが、この映画は間違いなく駄作に属する仕上がりとなっています。 その原因の一つはストーリーの展開のさせ方にあり、このような単調でもたつきのあるストーリー展開では人々の心を惹きつけておくのは難しく、逆に退屈感と眠気を催す結果となってしまっているのです。 それといま一つ登場人物たちも描き切れていなく、アバーライン警部を意味もなくアヘン常習者にして個性を出そうとして頑張ってはいるのものの、それ以外のシーンでは単なる普通の男でしかなく、これでは感情移入などとてもできたものではありません。 実はこの映画と非常に良く似た映画で、やはりジョニー・デップが主演の「スリーピー・ホロウ」と言う映画があるのですが、あちらの方が凡てにおいて秀逸で、ジョニー・デップも彼ならでは演技を披露できるように作られているのです。 もし暇があれば、2つの作品を見比べてはいかがでしょうか。映画作りの良し悪しが分かると思います。監督 アルバート・ヒューズ/アレン・ヒューズ制作年 2001年制作国 アメリカ上映時間 124分ジャンル サスペンス/ホラー出演 ジョニー・デップ/ヘザー・グレアム/イアン・ホルム/ジェイソン・フレミング/ロビー・コルトレーン/スーザン・リンチ/レスリー・シャープ/テレンス・ハーヴェイ/カトリン・カートリッジ/イアン・リチャードソン
2004年10月28日
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やはり下調べしてあると更新が順調に進むようで、本日は2本目の映画批評です。出来ることならもう一本更新したいところですが、これちょっと無理かな………。 と言う訳で、本日の映画は「ラン・ローラ・ラン」です。 まずはストーリーです。 午前11時40分、ベルリンにあるローラ(フランカ・ポテンテ)の家の電話が鳴ります。電話の相手は裏金の運び屋をしている恋人のマニ(モーリッツ・ブライブトロイ)で、10万マルクを電車の中に置き忘れ、それがないとボスに殺されてしまうと言うのです。残された時間は20分、ローラは受話器を投げ出しお金を工面するため、そしてマニの命を救うために街へと飛び出し、ベルリンの街をひたすら走るのですが………、と言った感じです。 この映画は数年前に話題になった新感覚のニュー・ウェイブ映画で、サンダンス映画祭ではワールドシネマ観客賞を受賞し、主演のフランカ・ボテンテはこの作品で新世代ドイツ女性のファッション・リーダーとなるなど、人気の高い映画なのです。 ですが人気の高さと映画の出来栄えというものは必ずしも正比例するものではなく、そのポップでおしゃれな映像とは裏腹に、内容自体は非常にお粗末でずさんな作りとなっており、三流のどたばた劇にも達していないと言うのが実情でしょう。 何気にすれ違った人の「その後……」みたいなものを見せたり、いきなりアニメシーンを挿入してみたりと、最初の内はその斬新な映像が面白くも感じるのですが、この映画の最大の欠点は、それをなんと3度も繰り返して見せてしまい、観客を飽きさせてしまうということなのです。 ストーリーがバットエンドになる度に最初のシーンからやり直し、ほんの少し別の行動を取ってみたら結末がどのように変わるのか、これはそんな違いを楽しむために作られた映画らしく、繰り返す度に内容と映像の所々が微妙に変化してゆきます。 ですが、制作者側のそんな勝手な意図を見抜き、しかもそれを楽しむなんてことはハッキリ言って一般の人にはできませんし、誰もそんなものは望んでいません。恐らくそんなものを心待ちにして心底喜べるのは、マニアックで天邪鬼な方々ぐらいでしょうね。監督・脚本・音楽 トム・ティクヴァ制作年 1998年制作国 ドイツ上映時間 81分ジャンル ドラマ出演 フランカ・ポテンテ/モーリッツ・ブライブトロイ/ハイノ・フェルヒ/ヨアヒム・クロール
2004年10月27日
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さーて、久しぶりの更新となってしまいましたが、昨日は一日掛けて映画批評23本分の下調べをしておきましたので、暫くの間は批評が滞ることはないと思います。(………たぶん) それでは早速映画批評をはじめたいと思います。本日の映画は「HERO(英雄)」です。 まずはストーリーです。 紀元前200年、戦乱の世の中国。ある日、のちに始皇帝と呼ばれることになる「秦王」チンワン(チェン・ダオミン)のもとに、「無名」ウーミン(ジェット・リー)と名乗る一人の男が拝謁します。無名は秦国の寒村の官吏でしたが、十歩の距離であればどんな相手でも一撃で倒せるという無敵の剣術を習得しており、無名はその「十歩必殺」という技を駆使して、中国全土で最強と言われる3人の刺客を倒し、その証としてそれぞれの刺客たちの名が刻まれた一本の槍と二本の剣を携えいたのです。これまで秦王は暗殺者たちから身を守るために百歩以内に誰も近づけようとしませんでしたが、無名のその功績を認め、特別に十歩の距離まで近づくことを許したのです。そして早速無名に、3人の刺客たちを討ち取った経緯を語るよう促すのでしたが………、と言った感じです。 この映画は、映画「初恋のきた道」のチャン・イーモウ監督が、同じくその映画で主演を務めたチャン・ツィイーや、その他にもジェット・リーなどといったアジア映画の大スターたちをキャストに迎えて作り上げた、歴史超大作アクション映画なのです。 「これぞ中国映画」と言わんばかりの壮大なスケールで作られたこの映画は、大勢のエキストラを起用して迫力のある映像を作り出し、それをサポートするために使われているCGも映像と見事に融合しているので、美しく臨場感のある映画に仕上がっています。 映画の基盤となるストーリーもかなりしっかりしており、二転三転と展開するそのテンポの速さはとても心地が良く、最初から最後まで飽きることなく楽しめるでしょう。 そして映像の中に盛り込まれたアイデアも素晴らしく、本来なら決して映ることのない無名の殺気を蝋燭の炎の揺れで表したり、登場人物たちのそれぞれの物語を色分けしてシーンのイメージカラーにしたりと、ある種のこだわりが感じられます。 ただひとつ残念なのは、戦闘シーンを盛り上げるため使われているワイヤーアクションです。あれほどまでにワイヤーアクションを多用するのはちょっとやり過ぎですし、あれでは逆に興醒めしてしまう人の方が多いのではないでしょうか。 とくに湖の上を飛び回るシーンなどは、もう剣の達人なのか何の達人なのか訳が分からなくなってしまいます。 まあそれでも、ワイヤーアクションが大好きな方にはたまらない映像なんでしょうけどね。 トータル的に見て充分にお勧めできる映画なのですが、こちらはどうやら最近TVでも放映されたらしいので、もう既にご覧になられた方が多いかもしれませんね。監督・脚本 チャン・イーモウ制作年 2002年制作国 香港/中国上映時間 99分ジャンル アクション/歴史劇/ミステリー出演 ジェット・リー/トニー・レオン/マギー・チャン/チャン・ツィイー/ドニー・イェン/チェン・ダオミン
2004年10月26日
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たまには新作のDVDから、話題の映画をご紹介したいと思います。 と言う訳で、本日批評します映画は「デイ・アフター・トゥモロー」です。 まずはストーリーです。 気候学者のジャック・ホール(デニス・クエイド)は、南極調査中に大規模な氷棚のひび割れに遭遇してしまい、危うくひび割れには落ちなかったものの、それは二酸化炭素の大量排出に伴なう地球温暖化によって、海水の温度が上昇しているという証拠だったのです。異常を察知したジャックはすぐさま副大統領に避難を進言しますが、一笑に付されてしまいます。ですが地球は確実に崩壊へのシナリオをたどっており、ついには世界規模の大災害が起こってしまうのです。ニューヨークは津波で街が水没し、ロサンゼルスでは巨大な竜巻が街を襲い、東京ではゴルフボール大の雹が降りしきるなど、世界各地で天変地異が観測されるのでした。そしてやがて、氷河期のような絶対零度の世界が北半球に襲いかかって来て………、と言った感じです。 この映画は、「インデペンデンス・デイ」のローランド・エメリッヒ監督による、温暖化にともなう地球崩壊をテーマにしたスペクタクル・パニックムービーなのです。 まあもちろんパニックものですからストーリーなんてものは二の次で三の次ていどで、壮大なスケールのCGを楽しむために作られた映画と言えるでしょう。 一応ストーリーは定石通りに作られており、その手のことに詳しい科学者がいて、その科学者が警告を出すのに誰も信じず、案の定大災害が起きるという昔ながらのパターンです。ですがスリル感を出すのには異常気象というテーマはいまいち向いてなかったようで、狼を逃してみたり、無意味に救助隊の一人を高い所から転落させてみたりと、かなりの無理が感じられます。 それでもやはり売りとなっている様々な異常気象の映像は素晴らしく、一見の価値があると言えるでしょう。まあ東京で雹が降ってくるシーンなどは、変にオリエンタルチックな雰囲気といい、妙な日本語といい、あれではギャグにすらならないでしょうけどね。 そして出演者たちも、演技する場面がそれほど要求されない内容のためか、それともCGに予算をつぎ込み過ぎて出演料があまり無かったためか分かりませんが、大物の俳優や女優などは一切出演していません。 まあ強いて言えば映画「ドニー・ダーコ」に出演していたジェイク・ギレンホールがまたもや高校生役で似たような演技をしていましたが、彼が今後大物になるか人知れず消えてゆくのかは、見ものといえるでしょう。 全体的に色々な矛盾点が目立つ映画ですが、この映画が表現しようとしているのはストーリーのリアリティーではなく映像のリアリティーですので、寛大な心をもって見ることをお勧めします。監督 ローランド・エメリッヒ制作年 2004年制作国 アメリカ上映時間 124分ジャンル SF/サスペンス/パニック出演 デニス・クエイド/ジェイク・ギレンホール/イアン・ホルム/エミー・ロッサム/ジェイ・O・サンダース/セーラ・ウォード/アージェイ・スミス/タムリン・トミタ/オースティン・ニコルズ/ダッシュ・ミホク/カール・アラッキ/ケネス・ウェルシュ
2004年10月23日
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本日は久しぶりに、スタンリー・キューブリック監督の映画をご紹介したいと思います。 キューブリック監督の映画はいままでにもいくつかご紹介してきましたので、非常に残念なことですが残すところ後数本しかございません。ですが、だからと言って出し惜しみしても余り意味がありませんので、できれば年内に残る凡ての作品を批評しようと思っています。(まあ、これはあくまでも予定ですけどね) と言う訳で、本日の映画は「フルメタル・ジャケット」です。 まずはストーリーです。 南カロライナ州の合衆国海兵隊新兵訓練基地。ヴェトナム戦争のさなか、8週間の地獄の特訓を受ける新兵たちが入隊してきました。ジョーカー(マシュー・モディン)、パイル(ヴィンセント・ドノフリオ)、カウボーイ(アーリス・ハワード)といった面々も早速頭を丸刈りにされ、整列させられて鬼のような訓練教官のハートマン(リー・アーメイ)からウジ虫呼ばわりの厳しい訓示を受けるのです。実際に訓練は苛酷で厳しく、さらにハートマンのシゴきは容赦ありませんでした。特に何をやらせてもノロマで不器用なデブのパイルは、シゴきの対象とされてしまい、挙句の果てにはパイルのミスのとばっちりが他の訓練兵にまで及び、仲間からもリンチにあうのです。そんなパイルをジョーカーは精一杯かばうのですが、パイルは徐々に精神に異常をきたしてしまい………、と言った感じです。 この映画は大きく分けて2部構成のストーリーで形成されており、そのどちらのストーリーもキューブリック監督ならではの戦争批判のメッセージが込められているのです。 まずは前半の新兵訓練基地でのストーリーですが、これは完全にパイルが主人公の物語となっており、笑顔を崩すことの出来なかったパイルが、いかにして精神を蝕まれてゆくのかが描かれています。 鬼教官の下品で情け容赦ない言葉攻めにもかなりのインパクトは感じるのですが、それにも増してパイルの変貌した顔にはきっと誰もが驚くことでしょう。何しろ入隊した時とはまるで別人の様に目つきが悪く、いかにも何かしでかしそうな顔つきしかできなくなってしまっているのです。(それを見事に演じたヴィンセント・ドノフリオにも、賞賛です) そして後半は戦場でのストーリーになるのですが、こちらの内容もまた衝撃的で、エイトボール(ドリアン・ヘアウッド)とドク(ジョン・スタフォード)、そしてカウボーイの仲間3人を撃ち殺した凄腕の狙撃兵が実は年端もいかぬ少女兵で、敵である以上その少女にはとどめを刺さなければならず、ジョーカーが銃口を少女に向けるシーンは、戦争の恐ろしさと虚しさを嫌というほど分からせてくれるでしょう。 とくに兵士たちが、「ミッキーマウス・クラブ」の歌を唱和しながら前進を続けるラストシーンなどは、キューブリック監督による戦争批判の痛烈な比喩と言えるのではないでしょうか。まあもちろん、そのシーンをどう受け止めるのかは見た人それぞれなんでしょうけどね。監督・脚本 スタンリー・キューブリック制作年 1987年制作国 アメリカ上映時間 116分ジャンル ドラマ/戦争出演 マシュー・モディーン/アダム・ボールドウィン/ヴィンセント・ドノフリオ/R・リー・アーメイ/ドリアン・ヘアウッド/アーリス・ハワード/ケヴィン・メイジャー・ハワード/エド・オロス/ジョン・テリー
2004年10月19日
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もうほとんどこのページは不定期更新と成りつつありますが、時間に余裕ができれば空いてしまった日にも映画批評を載せていこうと思っていますので、これからもシネマ雑報をよろしくお願いします。(あー、毎日更新してた頃が懐かしい………) と言う訳で、本日も着実に映画批評をしたいと思います。本日の映画は、「ボーイズ・ドント・クライ」です。 まずはストーリーです。 1993年、フォールズ・シティに1人の青年がやって来ました。彼の名前はブランドン・ティーナ(ヒラリー・スワンク)と言い、そのソフトな物腰と優しい表情に街の女達はたちまち魅了されるのでした。そんなブランドンが、バーで知り合った不良グループのジョンやトムたちに仲間として迎え入れられ、魅力的な女性・ラナと恋に落ちるのです。もちろんラナを始め、誰もが彼は「男」であると信じて疑いました。ですが実はブランドンは性同一性障害者の女性であり、名前もティーナ・ブランドンというのが本名だったのです。真実を知った人々は驚愕し、ブランドンを罵ったり変態扱いしたりしますが、ジョンとトムはそれだけでは物足りず、ついにはブランドンを………、と言った感じです。 この映画はとても痛々しくかなりヘヴィーな内容ですので、これからご覧になられる方はかなり用心された方が良いでしょう。 まあ前半は何の特徴も無い安っぽい恋愛映画風の作りになっていますので、大抵の方は欠伸が出てしまうかもしれませんが、後半のラスト30分は衝撃的なシーンが怒涛の如く続き、思わず息を呑み込んでしまうことでしょう。 その始まりは、ブランドンが「性同一性障害者」であることが周囲の人々に知られてしまってから起こるのですが、それを知った人々の態度の豹変振りは異常なくらい残酷で、とくにその事で怒りを露にするジョン(ピーター・サースガード)とその弟分のトム(ブレンダン・セクストン3世)の2人は、ブランドンに尋常とは思えない程の仕打ちをするのです。 そして迎えるラストシーンにも救いなどは何も無く、誰もが「何でこんな気分の悪くなる様なストーリを?」思った矢先に、この話が実話である事が明かされるのです。 そうなのです、これはアメリカで実際に起きた事件をもとに作られた、ショッキングでとてもセンセーショナルな映画だったのです。 この映画を見て意外に思うのは、自由の国アメリカですら「性同一性障害者」に対する人々の偏見が強いと言うことでしょう。まあ事件の起こったのがネブラスカ州のリンカーンと言う田舎の町だからかもしれませんが、これはかなりイメージするアメリカ像とは違うはずです。 もちろん実際に「性同一性障害者」の人が身の回りにいなければ、「自分がそういう人たちに対してどの様に接するか」などと言う事は考えないでしょうから、この映画にはそういった問題提起が隠されているのでしょうね。監督 キンバリー・ピアース制作年 1999年制作国 アメリカ上映時間 119分ジャンル ドラマ出演 ヒラリー・スワンク/クロエ・セヴィニー/ピーター・サースガード/ブレンダン・セクストン三世/アリソン・フォランド/アリシア・ゴランソン/マット・マクグラス/ロブ・キャンベル/ジャネッタ・アーネット
2004年10月18日
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ご紹介する順番がバラバラになってしまいましたが、本日は「デスペラード」や「レジェンド・オブ・メキシコ」へと続いてゆくロバート・ロドリゲス監督の第一作目の映画、「エル・マリアッチ」を批評したいと思います。 まずはストーリーです。 メキシコの国境の小さな田舎町に、ギターケースを抱えたマリアッチ(流しの歌手/カルロス・ガラルド)が仕事を探しにやってきました。一方同じ頃、刑務所を脱獄したアズール(レイノル・マーティネス)は、盗んだ金をひとり占めした昔の仲間、モーリシオ(ピーター・マルカルド)の配下を皆殺しにしていました。アズールはマリアッチと同じような黒いギター・ケースにマシンガンを入れ、同じような黒い衣装に身を包んでおり、手下を殺されたことに激怒したモーリシオは、アズールの行方を追い、町中に黒いギター・ケースを持った黒服の男を探し出すよう指令を出したのでした。そして、何も知らぬマリアッチはホテルにチェックインするのですが、フロントがモーリシオに知らせたために殺し屋たちがホテルに駆けつけ………、と言った感じです。 この映画は制作費7千ドル(日本円に換算すると約77万円)、撮影日数14日間という脅威のスピードで撮り上げたロバート・ロドリゲス監督のデビュー作で、当時まだ24歳だったロバート・ロドリゲスは、監督の他にも脚本や撮影、編集などいった作業を一人で7役もこなしてこの作品を作り上げたのです。 まあ内容的にはやはりB級映画のノリで、80分という上映時間は映画としては短いはずなのに、とても長く感じてしまいます。 その主な原因となっているのが単調な展開のストーリーで、主人公であるマリアッチは終始ただ町の中を逃げ回っているだけでしかなく、戦ったり葛藤したりすることはありません。これでは退屈せずにはいられないでしょう。 それでも所々にロバート・ロドリゲスお得意のユーモアは散りばめられており、Barには歌手ではなくエレクトーン奏者がいたり、荷台つきの黄色い車には黒い字で「FORD」と書いてあったりと、チープなギャグのセンスはやはり彼ならではのもので、これを楽しみにしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。 まあ主演もアントニオ・バンデラスではありませんし、ヒロインもサルマ・ハエックではありませんのであまりお勧めはできませんが、「デスペラード」を見て、なぜエル・マリアッチがギターを弾けないのか気になる方は、ご覧になればきっとすっきりするでしょう。(本当にただそれだけの映画なんですけどね)監督・原案・脚本・撮影・制作・編集・SFX ロバート・ロドリゲス制作年 1992年制作国 アメリカ上映時間 80分ジャンル アクション出演 カルロス・ガラルド/コンスエロ・ゴメス/ジェイム・デ・ホヨス/ピーター・マルカルド/レーノル・マルティネス
2004年10月13日
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うーん、なんだかんだいいながらも更新が遅れてしまっているのに、それでも新規でコメントを書き込んでくれる方がいらっしゃるので、本日も眠いのを我慢して映画批評をしたいと思います。 と言う訳で、本日の映画は「シャーロット・グレイ」です。 まずはストーリーです。 第二次世界大戦下のロンドン。シャーロット(ケイト・ブランシェット)は看護婦としてごく当たり前の生活をを送っていましたが、パーティーで知り合ったパイロットのピーター(ルパート・ペンリー=ジョーンズ)と恋に落ちてしまいます。ですがその出会いから数週間後、ピーターは行方を失ってしまい、彼の友人から辛うじて、「彼はフランスで拘束されているらしい」との情報を得るのです。そしてフランス語に堪能だったシャーロットは、以前から誘われていたスパイとしてナチス・ドイツに占領されたフランスに渡り、レジスタンス活動をサポートする決心を固め………、と言った感じです。 この映画は、イギリスで1999年に大ベストセラーとなった同名小説を映画化したもので、主人公のシャーロットを演じるのは、映画「ロード・オブ・ザ・リング」にも出演していたケイト・ブランシェットなのです。 いままでにも第二次世界大戦を時代背景にした映画(シンドラーのリストや戦場のピアニストなど)はいくつかご紹介しましたが、この「シャーロット・グレイ」はそういった作品とはまた一風変わった作りになっており、戦争そのものよりも、あくまでもシャーロットに重点を置いた恋愛映画となっているのです。 まあその割には、ピーターに出会ったその日にベットを共にしてしまうシャーロットには、多少感情移入がしにくいかもしれませんが、実はそれには訳があり、ラストまで見れば何でそんなに簡単にシャーロットが恋に落ちたのかが分かるでしょう。(これは物語の中での「訳」ではなく、作者の都合上での話です) ストーリー的にはゆっくりとした流れなので、人によっては退屈してしまうかもしれませんが、抑えるべき点は確実に抑えてあるので、それなりに楽しめるストーリーのはずです。 とくに人間ドラマには不可欠の「究極の二択」が絶妙な使い方でストーリーに練りこまれていますので、それをレジスタンスのリーダーであるジュリアン(ビリー・クラダップ)がどちらを選ぶのか、見ていてちょっと切ないです。 実在する街を使ってのロケーションもきちんと映像に反映されており、美しい町並みや建物だけではなく、そこに出演するエキストラの人たちも凡てが街の住人であるというから驚きです。 戦争ものは苦手だと言う人にも、この映画ならお勧めでるでしょう。まあ評価(点数)としては、それほど高くはないのですけどね。監督 ジリアン・アームストロング制作年 2001年制作国 イギリス/ドイツ/オーストラリア上映時間 121分ジャンル ドラマ/戦争/ロマンス出演 ケイト・ブランシェット/ビリー・クラダップ/マイケル・ガンボン/ルパート・ペンリー=ジョーンズ/ジェームズ・フリート/アビゲイル・クラッテンデン/シャーロット・マクドゥーガル/ロバート・ハンズ
2004年10月12日
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ここのところまた更新が遅れてしまっているので、できれば本日中にもう2本ぐらい映画批評を載せたいのですが、今日もやらなければならないことは山積みなので、果たしてどうなることやら………。 と言う訳で、取り敢えず本日一本目の映画批評は「インビジブル」です。 まずはストーリーです。 国家最高機密に属する研究プロジェクトを率いている天才科学者のセバスチャン・ケイン(ケヴィン・ベーコン)の目標は、人間を透明にすることなのですが、すでにDNAを操作することによって動物の透明化には成功していました。ですがその程度で満足などできないセバスチャンは、皆の反対を押し切って自ら人体実験の被験者となってしまうのです。ところがここで思っても見なかった誤算が生じてしまい、透明化た彼の肉体は可視化の血清には反応せず、回復不能の状態に陥ってしまうのでした。そしてもとの姿へ戻れないことに苛立ってきたセバスチャンは、勝手に外出して女性にいたずらしたり、国防総省の老人を殺したりと、段々と自由と神の感覚に目覚めてゆき………、と言った感じです。 この映画はH.G.ウェルズ原作の「透明人間」を下敷きにしたSFホラーで、当時では最新のCGを駆使して撮影され、皮膚、筋肉、血管、骨の順番に透明化してゆくシーンなどは、この映画最大の見せ場と言えるでしょう ですがその一方で、肝心のストーリーやドラマ性といった部分は蔑ろにされており、ただその最新のCG技術を見せたくて作ってしまった映画のようにも見えます。 そもそもセバスチャンには、最初から最後まで博士らしい一面がまったく無く、隣のアパートに住む女性が着替えるのを見ただけで「たまんねーぜ」と言うシーンなどには、知性のかけらすらも感じられませんし、そんな男が研究プロジェクトチームのリーダーであるという設定自体、かなりの無理があるのではないでしょうか。 それに、もとの姿へ戻れないことに苛立ってきたセバスチャンが、凶暴化して人を殺してゆく過程の心情もまったく描かれてはおらず、これではこの博士がもともと殺人鬼であったのかそうでないのかは、まったく区別がつきません。 そんなどうしようもないキャラクターであるセバスチャン役を演じるのはなんと、名優ケヴィン・ベーコンなのですが、彼は透明になってからはまったくスクリーンには映りませんので、別にこの役は誰が演じても良かったと言えます。 まあ解剖学や人体生理学に興味のある人にはお勧めできますが、そうでない一般の方々には見る価値などない映画でしょうね。監督 ポール・ヴァーホーヴェン制作年 2000年制作国 アメリカ上映時間 112分ジャンル ホラー/SF出演 ケヴィン・ベーコン/エリザベス・シュー/ジョシュ・ブローリン/キム・ディケンズ/ジョーイ・スロトニック/メアリー・ランドル/グレッグ・グランバーグ
2004年10月11日
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昨日ご紹介した映画「デンジャラス・ビューティー」の主演がサンドラ・ブロックだったので、本日も彼女が主演の映画「完全犯罪クラブ」を批評しようと思います。 まずはストーリーです。 カリフォルニア州の小さな町、サン・ベニート。ハンサムで育ちがよく、ハイスクールで一番の人気者のリチャード(ライアン・ゴズリング)と、クラス1の頭脳を持ちながらも皆からは敬遠されている存在のジャスティン(マイケル・ピット)は、一見接点などはなさそうに見えますが、実はある特別な絆で結ばれており、彼らが夜毎秘密の隠れ家で密会して自分たちの優秀さを世間に顕示するため、「完全犯罪計画」を練っていたのです。そして2人は遂にその計画を実行に移し、犯行は一見成功に終わったかのように見えました。ですが事件に疑念を抱いた女性捜査官キャリー・メイウェザー(サンドラ・ブロック)の執拗な捜査によって、2人は次第に追い詰められてゆき………、と言った感じです。 この映画は、1924年にアメリカで実際に起きた「レオポルド&ローブ事件」をモチーフに作られた映画で、現代風にするためにいくつかのアレンジが施されています。 主演のキャリー・メイウェザーを演じるサンドラ・ブロックは、「デンジャラス・ビューティー」の時とはまったく違ったタイプの女性捜査官を、まるで別人の様に見事に演じ切っていますが、残念なことにその役にはキャラクターとしての魅力が何も無いため、見ていても感情移入などはできず、たとえキャリーがピンチに陥ってもスリルやサスペンスを感じることはありません。 ストーリー的にもとくに目新しいものはなく、宮部みゆき原作の映画「模倣犯」にそっくりな話なのです。 もちろんこちらは1924年に起きた事件をもとにしている訳ですし、あのろくでもない映画である「模倣犯」(点数を付けたら間違いなくマイナスです)よりは断然出来が良いので、楽しめることは楽しめるのですが、わざわざ見る価値があるかどうかは個人の好みによるでしょう。 リチャード役のライアン・ゴズリングとジャスティン役のマイケル・ピットの2人もいまいち演技が冴えず、リチャードには人より優れた知性などまるで感じられませんでしたし、ジャスティンの危うさも型通りの詰まらないものでしかありませんでした。 ラストまで見れば「これのどこが完全犯罪なんだ!」と叫んでしまいたくなるかもしれませんが、それでも火曜サスペンスが好きな方には楽しめるかもしれませんよ。何しろラストはお約束の断崖でのシーンなのですからね。監督 バーベット・シュローダー制作年 2002年制作国 アメリカ上映時間 120分ジャンル サスペンス/犯罪/ミステリー出演 サンドラ・ブロック/ベン・チャップリン/ライアン・ゴズリング/マイケル・ピット/アグネス・ブルックナー/クリス・ペン/R・D・コール/トム・ヴェリカ/クリスタ・カーペンター
2004年10月06日
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先日の掲示板に、常連さんからの質問で「これはリアルタイムでアップしているのではないですよね。昔に見たもののレビューは覚えているものですか?」というのが載っていました。 もちろんその方のページへ行って直接答えても良かったのですが、もしかしたら他にも同じ疑問をもっている方がいらっしゃるかもしれないので、ここで答えさせてもらうことにします。それに掲示板には、文字数に制限がありますからね。 まあ最近の映画は別として、ここに載せている映画のほとんどは公開された当時、もしくはレンタルが始まってすぐに見てしまっていますので、批評を書く時はいつも記憶力に頼るしかありません。 僕の場合、良い映画でも悪い映画でもたいていは記憶に残っており、「その時自分が何を感じたのか」という事柄に関しては、けっして忘れたりするようなことはありません。 ですがもちろん、例外となるような映画は当然存在する訳で、良くも悪くもない映画、つまり何の感心も与えてくれない垂れ流し的な映画などは、たとえ1週間でも記憶に残すのは困難で、一度見ているのにもかかわらず、批評できずにいる映画は実は多数あるのです。 最近で言えば、先日ご紹介した「ドニー・ダーコ」がそれに当たるのですが、映画を見てから批評をするまでの期間は確か一週間足らずだったはずなのに、いざ映画批評をはじめてみたら、思い浮かぶシーンなどは何ひとつなく、結果として映画の内容にはあまり触れない批評となってしまいました。 まあ最近ではDVDソフトも安く手に入りますので、なるべく見直してから批評するようには心掛けていますが、何しろ毎日が時間に追われるような忙しい日々を送っていますので、たとえDVDソフトを持っている映画でも、やはり記憶力だけで批評しているというのが現状です。ご理解いただけたでしょうか? また今日も長々と批評には関係のない話を書いてしまいましたが、そろそろ本題である映画批評をはじめたいと思います。本日の映画は「デンジャラス・ビューティー」です。 まずはストーリーです。 グレイシー(サンドラ・ブロック)は男勝りの腕力と知力を持ったFBI捜査官ですが、色気と愛想と化粧っ気はまったく無く、エリック(ベンジャミン・ブラット)を初めとする同僚たちからも男同然の扱いを受けていました。ですがある日、指名手配中の連続爆弾魔からミス・アメリカ・コンテスト会場の爆破予告が届き、グレイシーは潜入捜査のためにミスコン出場者に扮するように命じられるのです。もちろんミスコンを軽蔑している彼女はそれをきっぱりと断ったのですが、ある事件のミスで現場を外されていた彼女は、上司に復帰のチャンスと説得されてしまい、仕方なく捜査を引き受けることにするのです。そしてコンテスト理事長・キャシー(キャンディス・バーゲン)に決勝出場を取り付け、凄腕の美容コンサルタントのビクター(マイケル・ケイン)に美の教育を受けるのですが、鼻を鳴らしガニ股で歩く彼女の醜態にはビクターもまったくのお手上げ状態でした。ですが開催日当日、エリックの前に現れたのは目を見張るような美女に大変身したグレイシーで、なれないハイヒールに何度もコケながらも、グレイシーはさっそく潜入捜査を開始しするのですが………、と言った感じです。 この映画は一応サスペンスではありますが、あくまでもコメディ映画ですので、面白ければ何でも有りというノリで作られた映画なのです。 ですからストーリーや設定に多少の無理ががあっても、登場人物たちが誰一人としてFBI捜査官に見えなくても、そしてそのFBI捜査官たちが捜査らしい捜査を一切していなくても、それはそれで構わないのです。とにかく理屈抜きで笑わせてくれますので、小さなことにはこだわらないで下さい。 とくに、パソコンを使ってミスコンの潜入捜査員を選出するシーンなどは、まるでドリフターズのコントのように分かりやすく、その先の「落ち」まで読めてしまうのですが、それでも面白くて笑えてしまいます。 このハチャメチャなコメディ映画をここまで面白くしているのはひとえに、グレイシーを演じるサンドラ・ブロックの素晴らしい演技力の成せる技でしょう。彼女はまさにこの映画のはまり役で、彼女のする引き笑いなどは「演技ではないのでは?」と思わせるほど上手く、色気の無いグレイシーを見事に演じているのです。 ストーリー展開のテンポも良く非常に娯楽性の高い映画ですので、ストレス解消にはもってこいです。きっと大声を出して笑えるでしょう。監督 ドナルド・ペトリ制作年 2001年制作国 アメリカ上映時間 110分ジャンル コメディ/サスペンス出演 サンドラ・ブロック/マイケル・ケイン/ベンジャミン・ブラット/ウィリアム・シャトナー/アーニー・ハドソン/キャンディス・バーゲン/ジョン・ディレスタ/ヘザー・バーンズ
2004年10月05日
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昨日の映画「ビートル・ジュース」に引き続き、本日もティムバートンワールドの真骨頂とも言うべき映画「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」をご紹介します。 この作品は、シネマ雑報初のアニメーション映画になります。もちろんトップページには「ありとあらゆるジャンルの映画」と書いてありますので、これからも色々なジャンルの映画を取り扱って行きたいと思います。 それではまずはストーリーです。 ハロウィンタウンに住むカボチャ大王のジャック・スケリントン(声 クリス・サランドン)は、毎年毎年ハロウィンの夜に人々(魔物たち)を驚かせて楽しむだけの人生にうんざりしていました。そんなある日、ジャックは親友の幽霊犬ゼロとともに森の中で奇妙な形の扉がついた木々を見つけます。そしてその中のひとつ、クリスマスツリーの形をしたドアをくぐり抜けると、真っ白な雪と明るいデコレーションに包まれた街、クリスマスタウンへと繋がっていたのです。ジャックはその白い雪と絶えることのない笑い声に満ちた幸福な世界に魅了されてしまい、ハロウィンタウンに戻ってから早速クリスマスの研究に没頭するのですが………、と言った感じです。 この映画は残念ながら、監督をヘンリー・セリックと言うティム・バートンのディズニー時代からの盟友が務めており、肝心のティム・バートンは原案と制作に留まっています。ですが、魔物たちやその世界観を見てもらえれば分かる通り、何もかもが完璧なティム・バートンワールドで形成されているのです。 ジャンルとしてはストップモーション・アニメーションと言い、全編人形をコマ撮りにして一つ一つのシーンを撮影しているのですが、とてもコマ撮りしているとは思えないほど人形たちの動きは滑らかで、ちゃんと音楽のリズムに合わせて歌ったり踊ったりするのです。 もちろんミュージカル仕立てに作られた映画ですので、音楽はとてもノリが良く、思わず一緒に口ずさんでしまうものが多いはずです。とくにロック、ショック、バレルの悪戯っ子3人組が登場するシーンの音楽は、個人的に一番好きです。 ティム・バートンならではのブラックなユーモアはこれでもかと言うほど満載されており、ジャックが人間の子供たちを怖がらせるシーンなどは心底笑えるでしょう。 まあ多少グロテスクなシーンも含まれていますが、ストーリーの展開などはとても分かりやすく、小さなお子様でも楽しめる内容ですので、一度ご覧になってはいかがでしょうか。キャラクターは知っているけど映画は見たことがないと言う人には、とくにお勧めします。監督 ヘンリー・セリック制作・原案 ティム・バートン制作年 1993年制作国 アメリカ上映時間 76分ジャンル ファンタジー/アニメーション声の出演 クリス・サランドン/キャサリン・オハラ/ウィリアム・ヒッキー/ダニー・エルフマン/ポール・ルーベンス
2004年10月03日
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ここのところ重いテーマの映画ばかり紹介していましたので、たまにはこういったお気楽な映画を見てはいかがでしょうか? と言う訳で、本日批評する映画は「ビートルジュース」です。 まずはストーリーです。 ニュー・イングランドののどかな田舎町に住むアダム(アレック・ボールドウィン)とバーバラ(ジーナ・デイヴィス)の若夫婦は、不幸にも矯の上から自動車ごと転落してしまい、あえなく死亡してしまいます。そして幽霊になってしまった2人は、自分たちが住んでいた屋恨裏部屋で「新しく死者になった者へのガイドブック」を見つけ、立派な幽霊になるための修行をするのです。ですがそんなある日、自分たちが住んでいる家にニューヨークから成金一家が引っ越して来て、彼らの傍若無人な態度に業を煮やした2人は、その一家を追い返そうとするのですがなかなか上手くいかず、ついには霊界の用心棒(バイオ・エクソシスト)であるビートルジュース(マイケル・キートン)に依頼するのです。ですが実はビートルジュースは霊界一のトラブル・メーカーで………、と言った感じです。 この映画はストーリーがたいへん分かりやすく、笑いあり、ミュージカルありでお子様でも楽しめる作りのエンターテイメント映画なのです。 まあ最近ではこの系統の映画で「ホーンテッドマンション」が話題になっていましたが、こちらの「ビートルジュース」の方が世界観が完成されていて、クオリティーは高いと言えるでしょう。 相変わらずティム・バートン作り出すユニークな幽霊たちは見ていても飽きませんし、映画の随所で見られるブラックなユーモアには思わずニヤリとしてしまうはずです。 マイケル・キートンが演じるトラブル・メーカーであるビートルジュースは、映画「マスク」の中でジム・キャリーがマスクを被った時のキャラクターにそっくり似ていますが、もちろんこちらの映画の方が先です。 内容的にはどのシーンも面白いのですが、とくに注目してもらいたいのはチャールズ一家にバナナ・ボートを踊らせるシーンです。これはミュージカル仕立ててとても面白く、気分が盛り上がること間違いなしです。 出演者も何気に豪華で、コメディで有名なマイケル・キートンの他にも、「ロング・キス・グッドナイト」で主演を演じていたジーナ・デイヴィスや若き日のウィノナ・ライダーなども出演しています。 まあ少々古い映画ではありますが、ティム・バートン監督が初めて脚光を浴びた映画ですので、ティム・バートンファンの方にはもちろん必見ですし、そうでない方にも充分楽しめる映画です。古さなどまったく感じさせませんよ。監督 ティム・バートン制作年 1998年制作国 アメリカ上映時間 92分ジャンル コメディ/ホラー出演 マイケル・キートン/アレック・ボールドウィン/ジーナ・デイヴィス/ウィノナ・ライダー/キャサリン・オハラ/シルヴィア・シドニー/グレン・シャディックス
2004年10月02日
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突然ですが本日から、映画批評の中に書いてあるストーリーの部分の文字の色を少し変えて載せることにしました。そうすることによってこの映画批評が3部構成であることがひと目で分かり、必要の無い部分は読まなくて済むからです。 基本的に映画批評の構成は、次の様になっています。 1.映画批評にはほとんど関係が無く、個人的な出来事やシネマ雑報のリニューアル情報など。 2.批評する映画の「あらすじ」となるストーリーで、これはDVDのパッケージの裏に出ている「あらすじ」などから引用したものですが、自分なりの読みやすい文章にするため、編集や直しなどを入れてあります。 3.ここが核心の、映画批評の部分です。 つまりこれは、長い文章を読むのが苦手だと言う人に対する配慮なのです。(訪問者の中には、若年層も含まれていますからね) まあ僕的にはそれほど長い文章を書いているつもりはありませんが、映画批評とは関係の無い事を書いているのも事実ですので、これからは好みによって読みたい部分だけを読んで下さい。 もちろん過去のページに関しては、暇を見つけて直してゆくつもりです。 本来ならば遅れた映画批評の更新や色々な直しなど、やらなければならないことは山積みなのに、またこうして新しいことをはじめてしまいました。いったいどうなることやら………。 とまあこうしてまた色々と関係の無い事を書いてしまいましたが、そろそろ本題の映画批評をはじめたいと思います。本日の映画は「ファイト・クラブ」です。 まずはストーリーです。 高級マンションに1人で暮らすジャック(エドワード・ノートン)は、不眠症のヤング・エグゼクティブで、他人に悩みを告白し合う「支援の会」に出席することが、彼の唯一の心の慰めだったのです。そんなある日、自宅が謎の爆発事故で全壊してしまい、ジャックは偶然知り合ったタイラー(ブラッド・ピット)という男の家に同居することになります。宿泊の条件として自分を殴るように頼むタイラーでしたが、殴り合いを続けるうちに見物人が増え、やがてタイラーは素手でケンカすることを目的とする「ファイトクラブ」の設立を宣言するのです。そしてクラブは組織化され、次第に過激な方向へと進んでゆき………、と言った感じです。 この映画はチャック・ポーラニックの処女小説を、映画「セブン」の監督であるデイビッド・フィンチャーが映像化したもので、暴力をテーマに現代社会を鋭く批判した作品に仕上がっています。 この映画の面白いところは、登場人物たちのキャラクターにあります。 病人でもないのに「支援の会」に出席し、そこで泣くことに快感を覚える主人公のジャックや、脂肪吸引で取った人間の脂肪から石鹸を作るタイラーなど、どれも普通では考えられないキャラクターたちばかりなので、とても興味が湧きます。 とくにタイラーを演じるブラッド・ピットは、相変わらずこの手のいかれた役を演じるのが上手く、彼の出す危険な香りはスクリーンを通しても感じられるはずでしょう。 それとファイ・トクラブのメンバーたちがタイラーの出した宿題で喧嘩を売るシーンがあるのですが、これはかなり笑えて面白いと思います。 ひとつ残念なのはラストの「落ち」で、これはちょっと古臭くてまるで一昔前に流行ったミステリー小説のような展開をしてしまうのですが、それでもそれなりには楽しめる映画なのです。まあ敢えてお勧めしようとまでは思いませんけどね。監督 デヴィッド・フィンチャー制作年 1999年制作国 アメリカ上映時間 139分ジャンル ドラマ/アクション出演 エドワード・ノートン/ブラッド・ピット/ヘレナ・ボナム=カーター/ミート・ローフ・アディ/ジャレッド・レトー/ザック・グルニエ/ピーター・ラカンジェロ
2004年10月01日
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トップページを見てもうお気付きとは思いますが、いままではDVDソフト(各批評ページの画像からショップへリンクしてます)しか扱っていなかったアフィリエイトを、今日からはジャンルを増やして本格的にはじめることにしました。 もちろんこのホームページはシネマ雑報なので、映画に関係するものしか載せるつもりはありません。 目指すはポイントでノートパソコンをゲットし、外出先でもこのページを更新できるようにすることです。ハッキリ言って現在遅れている12件分の映画批評を取り戻すのは、容易な事ではありませんからね。 と言う訳で、もし気に入った品がありましたら購入してやって下さい。ご協力、お願いします。 まあだらだらと前書きが長くなってしまいましたが、本末転倒にならないように、本日も映画批評はしっかりやろうと思います。本日の映画は、「アザーズ」です。 まずはストーリーです。 1945年、第2次世界大戦末のイギリス。深い霧に覆われた孤島で、戦地に行った夫の帰りを待つ美しい人妻グレース(ニコール・キッドマン)は、幼い2人の子供アン(アラキーナ・マン)とニコラス(ジェームズ・ベントレー)と一緒に屋敷で静かに暮らしていました。屋敷の中は子供たちが死を伴う重度の光アレルギーため、光はすべて遮断されている状態でした。ある日グレースは、屋敷を訪れたミセス・ミルズ(フィオヌラ・フラナガン)とリディア(エレイン・キャシディ)、そしてミスター・タトル(エリック・サイクス)の3人を使用人として雇うことにします。グレースはこの屋敷における注意点を3人にきつく言い渡しますが、この3人が来てからというもの、屋敷では次々と奇怪な現象が起こるようになるのです。無人の部屋から流れるピアノの音や、子供の泣き声、そして子供たちの書く絵に現れる謎の「存在」(アザーズ)。不安が増す一方のグレースは、新聞社に出したはずの求人募集がまだ投函されていなかったことに気付き………、と言った感じです。 この映画は、似たようなタイプである映画「シックス・センス」よりも後に公開されたためか、「シックス・センス」ほどのヒットはしませんでしたが、映画の出来栄えで言うと、こちらの方がクオリティーが高いと言えるでしょう。 まあ前半部分は余りストーリーも展開しないのでもたつきを感じてしまいますが、それでも一貫した暗闇へのこだわりが映像からも感じ取れますし、その暗闇にキャンドルの僅かな明かりで浮かぶニコール・キッドマンの姿は、とても儚げで、この世のものとは思えないほど美しいのです。 普段は気丈で気高く振舞っているグレースも、夫の前では女性としての弱さを見せるシーンなどは、やはりニコール・キッドマンの演技力と美しさがなければ成立はしなかったでしょう。 ただストーリー的にはひじょうに良くまとまっているものの、「落ち」じたいは目新しいものではないので、人によってはラストの展開が読めてしまうかもしれませんね。 ですが映画と言うのは「落ち」だけが凡てではありませんので、そういう観点から言わせてもらえれば、やはり「落ち」だけにこだわってしまった「シックス・センス」よりも、「アザーズ」の方が作品としての価値はあると思います。お勧めの映画です。監督 アレハンドロ・アメナバール制作年 2001年制作国 アメリカ/スペイン/フランス上映時間 104分ジャンル サスペンス/ホラー出演 ニコール・キッドマン/フィオヌラ・フラナガン/クリストファー・エクルストン/エレイン・キャシディ/エリック・サイクス/アラキーナ・マン/ジェームズ・ベントレー/ルネ・アシャーソン/アレクサンダー・ヴィンス/キース・アレン
2004年09月26日
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さーて、久しぶりの更新です。実はここのところ大変忙しくてパソコンすらも立ち上げる暇がありませんでしたが、今週は少し時間に余裕があるので、遅れていた更新をできるところまで埋めてゆくつもりです。 毎日このシネマ雑報を訪れてくれているみなさんには本当にご心配をおかけしましたが、これからもできる限り映画批評は続けていきますので、どうか長く付き合ってやって下さい。 それではさっそく映画批評をはじめたいと思います。 今日批評します映画は、総評を見ても分かるように久々の酷評となりますので、この映画が好きだと言う方や関係者の方々は読まないで下さい、不快な思いをするかもしれません。 と言う訳で、本日の映画は「ジェヴォーダンの獣」です。 まずはストーリーです。 革命直前のフランスのジェヴォーダン地方で、女性と子供ばかりが100人以上も忽然と姿を消すという事件が発生しました。発見された彼らの死体には、野生動物によるものと見られる無惨な傷痕が残っており、この事は時の国王ルイ15世のもとにまでも届いたのです。そして国王は、謎の野獣の正体を突き止めるために科学者兼騎士のグレゴワール・デ・フロンサック(サミュエル・ル・ビアン)をジェヴォーダンに派遣しました。フロンサックは自然をよく知るアメリカ先住民のマニ(マーク・ダカスコス)とともに、そのジェヴォーダンへと赴いたのですが………、と言った感じです。 この映画は、18世紀のフランスで実際に起こった「ジェヴォーダンの野獣事件」をモチーフにして作られた映画で、未だに謎に包まれているその事件の真相に現代的なアプローチで迫っています。 とまあ、ストーリーやその背景を読めば面白そうな映画だと思うかもしれませんが、実際には獣などそっちのけのでたらめな映画なのです。 まずジェヴォーダンに派遣されたフロンサックたちは、なぜか娼婦の館へ赴きます。そしてフロンサックたちがそこでさんざん戯れた映像の直後に「ジェヴォーダンの獣は、まったく姿を見せなかった」というナレーションが入るのですが、そんなことをしていても獣が見つかるはずないでしょう そもそもフロンサックたちは討伐隊のくせに獣を探そうとはしませんし、映画の後半になるまでは獣がストーリーに絡んでくることもありません。しかもやたらと出てくる女性の裸は恐らくサービスカットなのでしょうが、これもストーリーにはまったく関係がないのです。 それでいていざ肝心の獣が出てくれば、これまた情けない容姿をした犬の化け物でしかなく、ゼンマイ仕掛けのおもちゃよりもぎこちない動きをするのです。だいたいにおいて人々を震え上がらせる獣を描くことができないのであれば、最初からこんな映画は作るべきではなかったのです。 そして映画のラスト30分の展開はもうはちゃめちゃで、科学者であるはずのフロンサックは映画「ランボー」のように一人で暴れまくり、次々と陰謀(こんな陰謀で国政が揺らぐはずはありませんけどね)に絡んだ人たちを葬ってゆくのです。ハッキリ言って獣以上に残忍です。 しかもそれだけの強さを見せておきながら、なぜかあっけなく逮捕されてしまったりと、どうやらこの映画の監督は見せ場を作るためには大きな矛盾すらも恐れはしないようです。 まあ普通に見たら詰まらない映画ですが、そのいい加減さを楽しむには打って付けの映画です。監督 クリストフ・ガンズ制作年 2001年制作国 フランス上映時間 138分ジャンル アクション/サスペンス/ファンタジー出演 サミュエル・ル・ビアン/ヴァンサン・カッセル/モニカ・ベルッチ/エミリー・ドゥケンヌ/ジェレミー・レニエ/マーク・ダカスコス/ジャン・ヤンヌ/ジャン=フランソワ・ステヴナン/ジャック・ペラン/ヨハン・レイセン/エディット・スコブ
2004年09月19日
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本日ご紹介する映画は、余りにもシュールな内容で解釈に困るような映画ですので、一般の方向けではありません。ですから本当は映画批評などしたくはなかったのですが、とある事情で勧められてしまい、仕方なしにこうして映画批評をすることにしたわけです。 どんなに詰まらない映画でも、映画批評のために見たと思えば無駄にはなりませんからね。 ですがこのようにして映画を勧められた時、問題になってくるのは勧めた本人が心底面白いと思っている場合でしょう。もちろんそれが友達ならば思ったことをそのまま伝えれば良いのですが、これがご近所付き合いしている人だったり会社の上司だったりした場合には大変です。ただ関係がぎくしゃくしてしまうというだけなく、下手をすると自分の立場まで危うくしてしまいますからね。まるで宗教の勧誘やコンピュータウイルスの様に厄介で迷惑千万な行為なのです。 まあだいぶ話がそれてしまいましたが、そろそろ本題に入りたいと思います。 と言う訳で、本日批評する映画は「ドニー・ダーコ」です。 まずはストーリーです。 1988年、アメリカ・マサチューセッツ州ミドルセックス。ある晩、高校生ドニー・ダーコ(ジェイク・ギレンホール)の前に銀色のウサギが突然現われ、ドニーはウサギに導かれるままにフラフラと家を出て行きます。そしてウサギから、世界はあと28日と6時間42分12秒で終わると告げられてしまうのです。翌朝、ドニーはゴルフ場で目を覚ますと腕にはなぜか「28.06.42.12」の文字が書き込まれており、帰宅してみるとそこにはジェット機のエンジンが落下していたのです。しかもそれはドニーの部屋を直撃しており、何がなんだか分からないながらも九死に一生を得たドニーでしたが、その日から彼の周囲では不可解な出来事が次々と起こり始め………、と言った感じです。 この映画は2001年のサンダンス映画祭で「メメント」や「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」とともに話題を呼んだ異色の青春ムービーで、ドリュー・バリモアがその脚本に惚れ込み、出演のみならずプロデュースまでをも担当したらしいのですが、それはただ単に蓼食う虫も好き好きであって、他の人がこの映画を見ても惚れ込むようなことはまずないでしょう。 そもそもこの映画に登場する登場人物たちはどの人物も感情が希薄であり、とても感情移入などはできません。登場人物たちがただセリフを読まされているだけに感じてしまうは、脚本か役者、もしくはその両方に原因があり、脚本だけが飛び抜けて素晴らしいなどということはあり得ないのです。 もちろんこれは、シュールな映画全般を批判しているのではありません。たいていのシュールな映画は一貫性のある世界観を持っており、たとえストーリーや設定が理解できなくても、雰囲気や映像などを充分に楽しめる作りになっているのです。 ですがこの「ドニー・ダーコ」にはそう言ったものが一切存在せず、逆に他の映画からの流用が存在するのです。主人公のドニー・ダーコの胸から出てくる透明でムニュムニュとしたものなどは、映画「アビス」そのものでしかありませんでした。 ラストシーンにもまるでインパクトがなく、鑑賞後には心に何も残らない映画ですので、ハッキリ言って見れば時間の無駄になるでしょうね。監督 リチャード・ケリー制作年 2001年制作国 アメリカ上映時間 113分ジャンル 青春/ミステリー/ファンタジー出演 ジェイク・ギレンホール/ジェナ・マローン/メアリー・マクドネル/ドリュー・バリモア/パトリック・スウェイジ/ホームズ・オズボーン/キャサリン・ロス/ノア・ワイリー/ベス・グラント/マギー・ギレンホール/デイヴィー・チェイス/ジェームズ・デュヴァル/スチュアート・ストーン/ゲイリー・ランディ
2004年09月13日
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さて、本日ご紹介する映画は昨日に引き続き、第二次世界大戦が時代背景となっている映画「ライフ・イズ・ビューティフル」です。 それではストーリーです。 1939年、戦火迫るイタリア。いつも笑顔を絶やさないユダヤ系イタリア人のグイド(ロベルト・ベニーニ)は、本屋開業のためにトスカーナのある街にやってきました。そこで小学校教諭のドーラ(ニコレッタ・ブラスキ)と出会い、恋をします。困難の末に結ばれた2人にはやがて息子ジョズエ(ジョルジオ・カンタリーニ)が誕生し、一家は笑顔の絶えない幸福な毎日を送るのです。ですがジョズエの5歳の誕生日に、ついに戦火はこの街にもおよび、グイドたちは強制収容所へ送られてしまいます。グイドは家族のために、そして息子の命を守るためにある「嘘」をつくのですが………、と言った感じです。 この映画は、いままでにご紹介した「戦場のピアニスト」や「シンドラーのリスト」のように、ドイツ軍の捕虜となり強制労働させられるユダヤ人たちの姿を描いた映画なのですが、この映画だけがフィクションなのです。 もちろんこういった戦争ものに関しては、実話を映画化したものの方がストーリーや映像にも重みがあり、感動できると言う人もいるかもしれませんが、悲惨な戦争を舞台に、やはりこれだけ感動できる映画を作るというのは容易ではありませんので、フィクションだと言って毛嫌いせず、是非とも見てもらいたいです。 ちなみにシネマ雑報では、この3本の映画の中ではこの映画が一番高得点の評価となります。 映画の内容ですが、前半はグイドとドーラの出会いが中心となったストーリーで、後半は強制収容所を舞台にした、グイドとジョズエの親子の絆を描いた2部構成となっています。 まずは前半ですが、グイドはドーラの心を惹くために色々な奇跡を見せるのです。もちろんその奇跡には凡て仕掛けがありますので、ちょっとしたグイドの仕草やセリフには注意して見ていないと、そのからくりが分からなくなってしまいます。 そして後半ですが、グイドはそこが強制収容所であることを悟られないようにするため、ジョズエに嘘を吐くのです。どんなにボロボロになるまで働かされても、愛する息子ジョズエのためにはそんな素振りも見せず、明るく優しい嘘を吐きます。 この映画の中でジョズエが泣くことは一度もありません。ジョズエが常に笑顔でいられるのは、やはり心優しき父、グイドのお陰なのです。 この映画は戦争による残酷なシーンが極力排除されていますので、この映画を見る前に「戦場のピアニスト」か「シンドラーのリスト」のどちらかを見ておくことをお勧めします。より大きな感動が得られるはずです。監督・脚本 ロベルト・ベニーニ制作年 1998年制作国 イタリア上映時間 170分ジャンル ドラマ出演 ロベルト・ベニーニ/ニコレッタ・ブラスキ/ジョルジオ・カンタリーニ/ジュスティーノ・デュラーノ/セルジオ・ブストリック/マリサ・パレデス/ホルスト・ブッフホルツ
2004年09月12日
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本日ご紹介します映画は「シンドラーのリスト」です。この映画はだいぶ前から批評をリクエストされていたのですが、なかなか忙しくて今日になってやっと取りあげることができたしだいです。 更新の方も7日分も遅れてしまっていますので、サクサクと批評をはじめたいと思います。 それではいつものように、ストーリーです。 第二次世界大戦が勃発した1939年。ナチス・ドイツ軍が侵攻したポーランドのクラクフにやって来たドイツ人実業家のオスカー・シンドラー(リーアム・ニーソン)は、ユダヤ人が所有していた工場の払い下げを受け、ユダヤ人たちをただで使って事業を軌道に乗せます。やがてユダヤ人たちは強制収容所に送られ始め、ナチスの親衛隊員が彼らを虐殺するのを目撃したシンドラーは、私設収容所を設け、アウシュヴィッツなどの死のキャンプに送られるユダヤ人たちを救おうと、労働力としてユダヤ人労働者を要求し、1200人をリストアップするのですが………、と言った感じです。 この映画は、スティーヴン・スピルバーグ監督がアカデミー賞狙いで作った映画の一つで、先日ご紹介した「カラーパープル」から数えると3本目となる人間ドラマの映画です。 さすがに3度目の挑戦となると要領を得たのか、実話と言う強い影響力を見方を付け、見事に念願かなってアカデミー賞を受賞することができました。しかも作品賞だけではなく、監督賞、脚色賞、撮影賞、編集賞、美術賞、作曲賞と全部で7部門も制覇し、歴史に名を連ねる監督の仲間入りを無事に果たすことができたのです。 ちなみに2度目の挑戦となるはずだった「太陽の帝国」(こちらはもし気が向いたら、批評することにします)は、アカデミー賞にはノミネートすらされませんでした。 まあこうしてズバリと「アカデミー賞狙い」なんて書いてしまうと、それだけで猛烈な批判コメントを頂いてしまいそうですが、映像をわざわざモノクロにして記録フィルムのような演出をしたり、大作であることを印象付けるかのように、意味も無いシーンを増やして3時間以上の長い作品に仕上げたりと、こうした小手先の技を敢えて使っている事実からも、それがまんざら嘘ではないということが分かるはずです。 それでもやはりオスカー・シンドラーの生き様や、彼の心変わりしていく様子などは丁寧に描かれているので、アカデミー賞受賞も一応は頷けます。 3度目の挑戦ともなると少し映画作りにも余裕が出てきたのか、「カラーパープル」などには見られなかったスピルバーグらしさがやっと出てきて、一人だけ赤い服を着た女の子がいたり、実際にはあり得ないような活躍を子役たちにさせたりと、観客を飽きさせない演出は、やはりさすがスピルバーグ監督ならではだと言えるでしょう。 そして映画のラストでオスカー・シンドラーが言う「俺はもっと多くの人を救えたはずなんだ」という言葉は、邪推なしに心の底から感動できます。 問題点も含めてトータル的に見れば間違いなくお勧めの映画なのですが、この感動は作品がもたらすものではなく、史実からくるものであるという点を差し引いてしまうと、残念ながらシネマ雑報ではいま一歩のところで名作(80点以上)に認定することはできませんでしたので、どうかご了承ください。監督 スティーヴン・スピルバーグ制作年 1993年制作国 アメリカ上映時間 195分ジャンル ドラマ/戦争出演 リーアム・ニーソン/ベン・キングズレー/レイフ・ファインズ/キャロライン・グッドオール/ジョナサン・サガール/エンベス・デイヴィッツ/マルゴーシュ・ガベル/シュムリク・レヴィ
2004年09月11日
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うーん、どうやら不覚にも風邪を引いてしまい咳が止まりませんが、更新がだいぶ遅れてしまっているので、とにかく頑張って更新だけはしておこうと思います。 と言う訳で本日は昨日の予告どおり、映画「告発」を批評したいと思います。 まずはストーリーです。 1941年、サンフランシスコ。若きエリート弁護士ジェームズ・スタンフィル(クリスチャン・スレイター)の初仕事は、アルカトラズ刑務所内で起きた殺人事件でした。被告は25年の刑に服役中のヘンリー・ヤング(ケヴィン・ベーコン)という若い囚人で、はじめは心を閉ざしていたヘンリーも、ジェームズの度重なる訪問に少しずつ心を開くのですが、肝心の事件のことには触れたがりませんでした。ですが彼の発するわずかな言葉の端々から刑務所内の実態が明らかにされ、その真相に激しい憤りを感じたジェームズは、彼を救うために勝つ望みのない裁判を戦い抜く決意をするのです。そして裁判が始まると、ジェームズは非人道的な刑務所の歳月がヘンリーに殺人を犯させたと、逆に刑務所を告発するのですが………、と言った感じです。 この映画は昨日ご紹介した映画「アルカトラズからの脱出」と同様に、実際に起った事件を題材に作られた映画なのですが、このヘンリー・ヤング裁判の方が、フランク・モーリスの脱走事件よりも先に発生しています。 面白いことにこの「告発」と「アルカトラズからの脱出」には奇妙な共通点があり、どちらも食堂にあったスプーンが事件を起こす道具となっていることです。片方は脱出するための道具となり、もう片方は人を殺すための凶器として使われてしまうのです。同じ物でも、使う人の心次第と言ったところでしょうか。 まあそれはさておき、この映画はハッキリ言って「アルカトラズからの脱出」とは違い、かなり痛々しい内容の映画です。 3年間も光すら入らない独房に閉じ込められ、一年に一回、しかも30分だけしか外に出してくれなかったり、その劣悪な環境の中での副刑務所長グレン(ゲイリー・オールドマン)の残忍な拷問を受け続けたりと、凡てが事実であるだけに悲惨としか言い様がありません。 とくに、女性経験の無いヘンリーのために、ジェームズが拘置所の中にまで娼婦を連れ込んで相手をさせるシーンは衝撃的で、その時のヘンリーの様子は悲しすぎます。 そしてこれほど難しいヘンリー・ヤング役を見事に演じたケヴィン・ベーコンは、まさに天才的で一見の価値があります。 ヘンリー・ヤングが心の底から求めていたものは何なのか、この映画を見てそれを知ればきっと誰もが涙するでしょう。必見の映画です。 監督 マーク・ロッコ制作年 1995年制作国 アメリカ上映時間 124分ジャンル ドラマ出演 クリスチャン・スレイター/ケヴィン・ベーコン/ゲイリー・オールドマン/エンベス・デイヴィッツ/ウィリアム・H・メイシー/スティーヴン・トボロウスキー/ブラッド・ドゥーリフ/R・リー・アーメイ/キラ・セジウィック/ステファン・ギラシュ/ジョアンヌ・ウォーリー=キルマー
2004年09月10日
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