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2006年05月14日
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カラン。

からになったグラスの氷が澄んだ音をたてて崩れた。

カノジョは、もうかれこれ1時間も、カウンターに頬杖をついて、
古いタンゴを聞いている。

3杯目のグラスがからになった。

髪の毛に指をからませ、無造作にかきあげる。

「ほっ。。。」

カノジョの口から何度めかの溜息が漏れる。

バンドネオンの嘆きに酔うように目をとじて、カノジョは頬杖をついている。

だが、美しい女が切なげに人生に酔いつぶれていくのを眺めているのはワルくない。
公介は映画の1シーンを眺めるように、この景色を楽しんでいる。

いつもならドヤドヤと無遠慮に入り込んで来る、常連たちが今夜は何故か顔を見せない。
公介はこの幸運を享受すべく、自分のグラスに酒を注いで呑み始めた。

外は雨が降り始めたようだ。切り窓の向うの坪庭が、フィルターをかけたように霞んでいる。
こんな夜は心地よく酔える。
もう少し、あのアンニュイなべールをまとった切ないカノジョを眺めながら、タンゴを聞いていよう。
センチメンタルも恋のうちさ・・・・・・・。


「あなた、クダサイませ、もう一杯。」

カノジョの日本語は少しおかしい。英語の構文みたいに順番が変だ。

「大丈夫?。」



「えーっと、おんなじのでえーかいなぁ?」

「・・・。あなた、呑んでるは、なんていうお酒ですか?」

「あー、これは日向古秘。宮崎のお酒でね。昔ながらの黒麹仕込み、瓶で3年寝かせた芋焼酎。
深い香りとほんのりとした甘味があってなかなかうまい酒だーで。」

言いながら、公介は日向古秘のボトルをカノジョの方におしやった。しばらくボトルをながめて、


「古秘・・・いにしえに秘めたるモノ。・・・・・ロマンチックな名前ね。
・・・・・何を秘めたのかしら????。・・・・・・・あなた、わたしにもこれください。」

「ロックでえーかえ?」

「おまかせします。」

ロックグラスを置くと、カノジョは細い指で少しグラスを回し、酒を口に含んだ。
カノジョはほんとに美味そうに酒を呑む。いと惜しむように口の中で弄び、
ゆっくりと白い咽を鳴らす。
そんな大人びた仕種が、やっぱり、ノスタルジックなタンゴに似合う。

「今、懐かしいって言いなったけど、前にも倉吉に来なったことがある?。」

「いいえ、はじめてです。だけど・・・、何故か懐かしい。」

「白い壁と赤い屋根の蔵。美しい水の流れる小さな川と石の橋。
前にも見たような気がする。あの橋を渡った土蔵の中から機を織る音が聞こえる。
遠い昔、わたし、知っていたような気する。・・・・・・・この店もなにか懐かしい。・・・」

公介はちょっと笑って見せ、また、自分の椅子で酒を楽しみはじめた。
カノジョの中で、今、上映されている古いトーキーのようなキネマを邪魔するのは不粋だ。

黙って眺めていよう。

今夜は心地よい夜だ。



「ごちそうさま。ありがとう。」

「あっ?!、帰んなるか。ハイヤー呼ぼうかぁ?。」

「いえ、もう少したけ、歩きますね。」

「雨だよ。」

「倉吉の町、霧のようなしとしと雨が似合います。灯りがにじんで、きっと綺麗ね。
・・・・・帰国するまでに、もう一度来ます、多謝、ありがと。」

「そう、じゃ、気をつけて帰えんないよぉ。」

勘定をすませて、カノジョが立ち上がった時、入り口から男が入って来た。
男はカノジョとはち合わせして、驚いたように息を呑んだ。
カノジョが入り口を出ていくと、男はカウンターに腰を下ろした。
衣笠泰雄。老舗の呉服店「衣笠」の店主。近所の旦那衆の中では人望が篤く、
兄弟のいない公介は子どもの頃から可愛がられた。公介とは五つほど上のはずだ。

「公ちゃん、いつもの。」

公介は、地酒「元帥」の大吟醸とアゴチクワを厚く切ってゴマ醤油と和えた簡単な肴をカウンターに置いた。

「今の人ははじめてのお客さんかえ?」

「ええ、そうです。言葉がちょっと変だったから、もしかすると中国の人かなぁ???。
はじめて倉吉に来ただけど、なんだか懐かしいやぁーなだって。」

「ふーん、そうかいな。」

衣笠はそれきり黙り込んでしまった。もともと口数の多いほうではないが、愛想の悪い人ではなく、
いつもニコニコしている。
それが、今夜は、何故か、黙りこくったまま、苦そうに盃を口に運んでいる。

「なんかあったですか?。」

「ふん?。なんで?。」

「いや、なんか苦そうだから・・・。」

衣笠は慌てて作り笑いをうかべた。

「そがなこたぁ、あらせんわいや。かわらんで、いっつもと。」

「ああ。それならいーんですが・・。何かあったら言ってくださいよ。何でも手伝いますけぇ・・。」

「あはははは。なんにもない、なんにもない。」

しかし、やっぱり衣笠の酒は苦そうだった。
落ち着かぬ様子で、酒を飲み干すと早々にひきあげていった。

公介はいぶかしく思いながらも、今夜は、それより、この理由なき幸福な気分をこわしたくなっかった。
センチメンタルってやつに浸りながら、ひとり酒をやることにして、看板の灯を落した。

祖母の代からの町家旅館を改造したバー「侘屋」。
いにしえに秘したるもの・・・・・・。
「日向古秘」の芳醇なグラスを傾ける公介に、
文字どおり「詫びた」ひとりだけの時間が流れていく。




第1章-1=/アンニュイでセンチメンタルな夜「了」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

構想半ば、見切り発車的に本章を書き始めてしまいました。
きっと、後でもこの暴挙を後悔することになるのですが、
今は「まっ、いーか。」ちゃな気持ちで書いております。

まだ、どんな事件も起っておりませぬが、次の更新ではちと事件がもちあがります。
いよいよ、本シリーズの主人公たちが顔を揃えます。

どーか、しばらくの間お待ちくださりませ。

でぇ、今宵もひとつ、ご支援のポチッを何卒よろしくねー。m(_ _)m

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Last updated  2006年05月16日 19時13分35秒
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Re:天の河瀬に船浮けて【第1章-1/アンニュイでセンチメンタルな夜】(05/14)  
「侘屋」。なかなかニクイ名前ですね。

それにしても「いつもの」が大吟醸にあごちくわとはごっつい分限者のようですね。
(2006年05月15日 01時27分16秒)

Re[1]:天の河瀬に船浮けて【第1章-1/アンニュイでセンチメンタルな夜】(05/14)  
solya  さん
VIENTOさん

-----
あははははははは。
いゃぁ、衣笠の旦那さん。

これは、もう、いー男ですよ。
分限者です!!

侘屋に呑みに来てごしなはれませなぁ。 (2006年05月15日 01時41分50秒)

常連達が侘屋に・・・だんだん顔を  
恵 香乙  さん
 揃えて来るのが楽しみ。 侘しい夜、侘しくない男達が?  お写真の氷が美しい女の身体の一部か心のよう・・あまりに質の高い作品の出だしに、思いは言葉にしずらい。 オバカな私が表現すると作品が台無しになりそうです。  (2006年05月15日 16時11分34秒)

帰国の前にもう一度来てくれるのか? ほんとに来てくれよ? 待っとるけぇな・・・。  
小夜子姉貴  さん


とっときの衣揃えて待つがよし。

日向の国は高天原──神話の国。
彼女も神話の生まれか・・・・。

どきどきどきどき。


(2006年05月15日 18時25分36秒)

Re:帰国の前にもう一度来てくれるのか? ほんとに来てくれよ? 待っとるけぇな・・  
solya  さん
¥ャ夜子姉貴さん

-----
ありゃぁ!!
なんで、とっときの衣知っとるん?!

この事件はとっときの衣に重要な鍵が隠されているのだよ。
(2006年05月15日 23時25分32秒)

Re:常連達が侘屋に・・・だんだん顔を(05/14)  
solya  さん
恵 香乙さん

-----
いやいや、恵さん発言、励みになります。
どんどん言って!!

ありがとう。

恵さんの感想から、どんどん艶っぽくなったりしてます。 (2006年05月15日 23時28分10秒)

solyaさん、おはようございます。  
楽天得子  さん
初めてきたところなのに、なぜか懐かしいところってありますよね。
でももしかしたら、もっと違う謎があるのかな?
中国人らしき彼女、帰国前にもう一度現れるのかな?
衣笠さんの憂いの原因は何かな?続きが楽しみです。 (2006年05月16日 06時46分32秒)

Re:solyaさん、おはようございます。(05/14)  
solya  さん
楽天得子さん

-----
倉吉は、きっと誰にとっても懐かしい町だと思います。誰の心の中にもある郷愁をくすぐるような。
しかし、カノジョにとっては、もうひとつ重大な理由があるのでございます。

さてさて、いかに。 (2006年05月16日 16時19分45秒)

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