名無し人の観察日記
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今話題になっている事の一つに、皇位継承問題があります。この論争の基本的な問題は1:女性天皇を認めるか2:女系天皇を認めるか の二つにあります。 皇室は現在皇位継承の条件を「男系男子であること」としています。すなわち、父親が天皇である男子のみが皇位継承権を有する、という事で、皇室は初代神武帝以降この原則を貫いてきた、とされます。 ですが、現在皇室には次次代の皇位継承権を持つ若い男子がいません。1965年に秋篠宮親王がお生まれになってから、40年間男子が生まれていない事に加え、戦後にGHQの指示で宮家が大量に皇籍から離脱させられた事の影響も大きいとされています。 このため、皇太子ご夫妻に親王が生まれない限り、現状の男系男子に皇位継承権を限定すると言う制度では、皇統が断絶するのではないか、という危惧が生まれ、これが女性天皇・女系天皇を容認するか否か、という議論の出発点になっています。 歴史を紐解いてみると、女性天皇に関しては前例があります。有名なところでは推古天皇でしょう。ただ、これらの女帝はたまたま次の皇位継承者となるべき男子が若すぎるなどの理由があり、幼帝(たいていは国の乱れの元)よりはベターな選択肢として即位したもので、今回議論されている背景とはまた事情が違います。 とはいえ、前例がある分受け入れやすいのも事実であり、女性天皇容認の声は非常に大きくなっています。一例をあげると、昨年末の毎日新聞の世論調査では、女帝容認派が8割を超える結果となっています。 一方、歴史的にも前例がない女系天皇に関しては、賛否が激しく分かれる形となっています。賛成派・反対派のどちらの主張にも正当性があるように見え、私自身この問題はどちらが妥当なのか決めかねていました。 しかし、自分なりに考えた結果として、私自身の結論は「女性天皇・女系天皇とも容認すべき」 となりました。 理由としては「優先されるべきは天皇家・皇室制の存続」というのが第一に挙げられます。 確かに、遠い過去から現在にいたるまで男系男子で継承してきた、と言う伝統には重いものがあり、容易に変える事は困難であると思います。しかし、「現行制度下では数十年後には皇統断絶の恐れがある」というのは「容易ならざる」深刻な危機と言えます。 天皇は日本最大の権威であり、いかなる為政者も天皇の承認無しにはその正当性を主張できません。西洋キリスト教社会における神と同等の存在です。権威が失われると言う事は極めて重大な事態であり、多くの場合は社会の破滅的な分裂を招く事になります。良い例がキリスト教を否定した結果、泥沼のような恐怖政治とテロの応酬と化したフランス革命でしょう。 こうした危険を避けるためにも、まずは皇室の存続を第一に考えて制度を変更する事自体には問題がないと思います。 もちろん、制度変更には様々な意見があり、男系維持論の中にも「旧宮家の復活」など、男子の継承者を増やすための提案があります。しかしながら、一夫一妻の制度をとる現在では、出生率低下などの影響もあり、男子の継承者が生まれない可能性が非常に高くなっており、完全な解決策とは思えません。 第二に、男系維持派による女系容認反対論の中に、むちゃくちゃな言いがかりとしか思えないものが混じっている、と言うことを挙げておきます。 例えば、男系維持派の中には次のような主張が見られます。「男系により継承されてきたものを天皇家というのであり、皇統が女系により継承されたとしても、それは天皇家とはいえない」(「語られなかった皇族たちの真実」竹田恒泰著 より抜粋) こうした意見を唱える人々の言い分では、女系を容認すると、例えば愛子さまが将来皇位を継承された場合、女系で祖先を遡ると、雅子さまの実家小和田家に行き着くため、これは「小和田家による皇位の簒奪」と言う事になり、正統な皇位が断絶する、とされています。 これが正しいのかどうか、皇位継承問題を論じている「皇室典範に関する有識者会議 」の報告書で検証してみましょう。同報告書では、改正後の皇位継承資格の候補として次の4つを上げています。1) 長子優先:男女を区別せずに、現行の継承順位の考え方を適用して、天皇の直系子孫をまず優先し、天皇の子である兄弟姉妹の間では、男女を問わず長子を優先する。2) 兄弟姉妹間で男子優先: 1)と同様に、まず天皇の直系子孫を優先した上で、天皇の子である兄弟姉妹の間では男子を女子に優先する。3) 男子優先: 現在、男系男子のみが皇位継承資格を有することから、直系子孫を優先することよりも男子を優先することを重視し、まず、皇族の中で男子を優先した上で、その後に女子を位置付けることとし、男子、女子それぞれの中では、直系、長系、近親を優先する。4) 男系男子優先: 3)において、「男子」に替えて、「男系男子」を優先する。 この4つをあげた上で、同有識者会議では「直系を優先する制度、すなわち、1)「長子優先」又は2)「兄弟姉妹間で男子優先」が望ましい」との結論を出しています。 一見してわかるとおり、有識者会議の結論は「今後は皇位は女系で継承する」ではありません。「長子優先・男子優先を問わず、天皇の直系の子孫に皇位継承権を認める」です。つまり「親が皇族ならその子も皇族」ということに過ぎません。 男系維持論者の「女系容認=皇位簒奪」という危惧はあくまでも「女系優先で皇位継承」という制度の場合にのみ成立するものであり、報告書の内容を見る限り「杞憂」でしかありません。 また、仮に愛子さまが皇位を継承し、夫を得て子供が授かったとします。その子供はどんな血筋を引いているかといえば、やはり「天皇の直系の子孫である」としか言いようがありません。もちろん小和田家や夫の血も引いてはいますが、それがどんな問題だと言うのでしょう。 古代エジプトや三国時代の朝鮮のように「王族同士でなければ婚姻できない」というのでもない限り、必ず皇室には外部の血が入ります。そして、近親婚よりも他族婚の方が倫理的にも遺伝的も健全であると言うのは常識です。 他家の血が入っているからといって「正統な皇族ではない」などと主張するのは、皇族を尊重しているように見えて、実は軽んじた言い分であると私は思います。そもそも、今上陛下が伴侶として選ばれた方も日清製粉社長令嬢だった方ですし。女系になった途端に民間人の血統を殊更問題視せねばならない理由が私にはわかりません。 第三に、世論調査の結果などを見る限りでは「男系でも女系でも、皇室の権威が揺らぐ事はない」と判断できる事を挙げます。 皇位継承問題に関しては、国民の関心も大きい事から新聞社をはじめとするマスコミが数度に渡って世論調査を行っています。その結果、女系容認論は全体の6~7割を占めていることがわかります。調査機関 女系容認 女系反対 調査時期読売新聞 60% 19% 2005.12.14毎日新聞 71% 22% 2005.12.13朝日新聞 71% 17% 2005.11.30日経新聞 77% 6% 2005.11.02共同通信 71% 16% 2005.12.04 明確に女系継承を否定する産経新聞は、この話題では世論調査を行っていないようで、数字が見つかりませんでした。 男系維持論派の中には「女系にする事で皇室の権威が低下する」と言う主張もあるようですが、この数字を見る限り、「男系であろうが女系であろうが皇室は皇室である」と考えている人が多いと言う事であり、「女系継承容認=権威低下」はやはり杞憂であると思います。……と言うか、「女系容認=皇位簒奪」とか「女系容認=権威低下」と言っている人たちは、「ただ単に女性が気に食わない」と考えているようにしか見えない気がするのですが。中には「愛子さまが皇位を継承して結婚し、子供が生まれた場合は女系で遡ると小和田家、男系で遡ると夫の家系に続くから、どっちにしても皇位簒奪」などという意見があり、こうなると「女性が皇位継承に絡む事自体がけしからん」と言っているようにしか見えません。 まして、これが「ジェンダーフリー論者の陰謀」「左派による皇室破壊の陰謀」などと言い出す人たちに至っては、「OK、良くわかったから水でも飲んでちょっと落ち着け」という感じです(苦笑)。 女系継承を容認する、と言うのは決して皇室の伝統と歴史を無視したものではなく、むしろその伝統と歴史を尊重したうえで、それが断絶することなく安定して存続するために有効な手段として女系継承容認が最善手である、と考えた上での事です。 伝統と歴史は大事ですが、それに固執して滅亡を招いては、頑迷な保守性ゆえに時代に適応できず滅びていった多くの国や制度を笑う事はできないでしょう。 最後に、有識者会議報告書の中で、一番参加者が言いたかったであろうと思われるところを抜粋してみます。それを見ながら、果たして本当に有識者会議は皇室の権威を軽んじた人々であるのかどうか考えてみてください。「古来続いてきた男系継承の重さや伝統に対する国民の様々な思いを認識しつつも、議論を重ねる中で、我が国の将来を考えると、皇位の安定的な継承を維持するためには、女性天皇・女系天皇への途を開くことが不可欠であり、広範な国民の賛同を得られるとの認識で一致するに至ったものである。 皇位の継承は国家の基本に関わる事項であり、これについて不安定な状況が続くことは好ましいことではない。また、皇族女子が婚姻により皇族の身分を離れる現行制度の下では、遠からず皇族の数が著しく少なくなってしまうおそれがある。さらに、将来の皇位継承資格者は、なるべく早い時期に確定しておくことが望ましい。このような事情を考えると、皇位継承制度の改正は早期に実施される必要がある。 当会議の結論が、広く国民に受け入れられ、皇位の安定的な継承に寄与することを願ってやまない」 (「皇室典範に関する有識者会議報告書」結びより抜粋)
2006.02.01
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