2026
2025
2024
2023
2022
2021
2020
全14件 (14件中 1-14件目)
1

Photo by kitakitune05さん 日向の視線に頷きながらタクシーを降りた美月が、小雨の中に消えていく。路上は仄かに反射し、折れそうなハイヒールを痛々しく眺める。灯りの消えたいくつもの窓が並ぶアパートの階段を上りはじめた時、背中でタクシーが走り去る音を聞いた。 「守ってやりたい」 公園のブランコでひとり寂しく揺れている美月がいたなら、そっと近づき言うだろう。「こっちへおいで! そんなに漕いだら危ないよ。 さあ、降りておいで・・・・・・。 震えた手でグラスに琥珀色の液体を注ぎ、馴染めぬ空間に戸惑いながら焦点の合わぬ絡みや仕掛けに目をぱちぱちさせてきた君。 扉を開けた男たちが何を求め、どうすれば惜しみなく払われる万札に見合う気配りができるか? そんなことをまともに背負ってノートにせっせと記しながら、やがて華を知り、男を知り、夜を知ってきた君。それでも心を着飾ることなく紫音に溶け込み、いつしか奇妙な存在感を醸し出す。「ちやほや」に酔うこともなく、目の前のひとりを大切に液体を注ぎ、心を注いだ君。 ある時は嫌悪と怒りを払い除ける為、危険に惜しみなく身をさらしてきた三日月。鋭いナイフが闇夜に刺さり、しっぽを巻いて去った欲望の牙からの復習。 出逢い。紳士なリーダーは菩薩観音が彫られた背を黒で纏い「何かあったら力になる」と言う。荒げた客に八重歯の視線を向けた後、対等にして限りなく優しい佇みに守られる君なのに。 さあ! もうブランコから降りておいで! 何をそんなに頑張るんだい? 空に舞い飛ぶほど漕がなくたって空は逃げない! 」 美月は冷えたベッドで自分で自分を抱きしめながら、悦史との別れを受け入れまいと夢に落ちる。夜行列車「能登」 上野発21時30分 金沢行き白い紙を握り締め、枕を濡らしながらゆらゆらと夢に落ちる。 「この子、これでなかなかやるのよ」 日向が囁く。 「だろうな」 「勘違いしてんじゃねえよ! 紫音のベテランの姿がこれかよ! ん? 姉ちゃん達よう!情けなえなあ、おまえ等!」 美月が叫ぶ。 「そうかと思うと恋には馬鹿がつくほど純で甘ちゃんなの」 「だろうな」 「ねえ、あのベンチまで、こうやって、ほら! お姫様のあれ! 抱っこして?・・・・・・えっ? 聞こえなかった。 もう一度言ってよ、ねえ」 「うちの組に来ないか」 「固くご辞退させていただきます」 「気にいったよ、美月ちゃん」 もし今、夢から覚めたら叫ぶのだ。交差点の真ん中で膝を抱えてしゃがみこみ、煙草を一本吸ってから潔く立ち上がり桃白色の陽光が頬を照らさぬうちに、叫ぶのだ。「朝よ! 来ないで!」 続く
2006/10/29
コメント(8)

Photo bypooh0529さん 心の闇につけこんだ夜空に星はない。一言の悲劇「家族がいます・・・・・・」うっすらとぼやけていた雲が明快な言葉になったとき、美月の胸の錘(おもり)が破裂した。 日向とタクシーを降りると、比較的ネオンが少ない闇に「オレンヂ」と書かれた看板が目に入った。 「美月ちゃん、ここよ」「はい・・・・・・」 なぜか「はい」と返事をしながら、僅かに夕焼け色のライトに引き込まれて行った。紫音から離れた場所にある和風スナック「オレンヂ」の扉を開けると、その狭い空間に助けられた思いがした。 古い壁紙にもうひとつ「追恋路」おれんじと言う文字があった。 男が一人カウンターで日向に優しい目を向けた。「マスター、悪いわね」「どうぞ、好きな席に。 見ての通り、いつもの連中は今さっき帰っていったよ」 日向の揺り篭は、その姿に似合わぬ古い小さなスナックだった。だから美月は日向が好きなんだと思いながら、日向が迷うことなく向かった奥のボックスに静かに腰掛けた。 憩いの空間、癒して充電する揺り篭がどの華にもある。美月の揺り篭は狭いアパートのレモン色のテーブルの上だった。 そこにいつもあるノートとペン。いつでも疲れた美月に「おかえり」と微笑んでくれるのだ。 「美月ちゃん、軽く呑む? 」「温かいものをお願いします」 からだが冷えていた。 心に付き添って冷えているからだを暖めたかった。 日向も、たぶんいつもより言葉少なに美月に添ってくれている。 その空気を男がよむ。「マスター、私はいつものね! それからこの娘に何か温かいものを」痩せた男がカウンターの向こうで合図地をうつと、日向がバックから金色の刺繍が美しいポーチを取り出した。「さあ、話していいかしら? 」 事後の漂いならいいものを「あとずさり」したくなるような時に挟まれた漂いは苦手だ。だから美月はポーチから目を離し、素早く日向に覚悟の視線を送ったのだ。「あなたの恋人、わかるわね? 実はね、彼がいる病院のつまり担当医、私のこれなの」親指をさりげなく色っぽく示した日向に言葉を失った美月。その目が一瞬大きく見開いた。「それで?」と後を急ぐこともできぬまま唖然とした。「どうして?・・・・・・」「頭を強く打ったことは警察から聞かされたでしょう? それから・・・あなたも辛いわね」そう言った後、まるで忘れていた飲み物がテーブルに運ばれてきた。 品の良い器にお通しがふたつ。漬物が数枚並んだ小皿がふたつ。 男の気配りに美月の神経が少し潤んだ。「店の名前、紫音。 それから貴女の名前、つまりそういうこと。 運ばれたベッドの上で彼はそれを何度も口にしちゃってたのね。 ああ、いやだ! ついでに私の親指もベットの中では医者を捨てたのかしら? 私の魅力のせいね、きっと」「私の名前を? あの人が? でも警察は、金沢から追ってきた・・・・・・」「あっちの事件にハメられた人、でも金沢署が家族に知らせて到着する前のことよ。 安心なさい。 あなたそこの所も気になったのね? 馬鹿ね、本当に・・・じれったいわ」「私達のことをどうして? 」「わかりやすいの、あなた達。 明海が言ったでしょ? ねえあなた、そういう女だから」「すみません」「どうして謝るるの? それから今言ったわね?私達のことって。 あなた悪い事ができない。あっはははっ! 美月ちゃん、渚や胡美を相手に、悪の上原相手に途轍もない度胸が座る。組からお誘いが来てもいい女。なのに全く裏腹を持ち合わせてて、おまけに純で!」 紫音という紅つけ指が争う空間で自信に満ちた和服の女王。今ここにいる陽気で自然な一人の女。 美月は同時に影と陽を受け入れながらこう言った。「あの人に会いたいんです! どうしても! 日向さんの恋人は何て? 」「正直ね、惚れたのね?それもまた素敵なこと! あなたは過去に辛い思いをしたでしょう?また同じ目に合う。 でもどこかが違う・・だから人肌脱ぐ気になったの、わかるかしら? 」「過去のそれとは違うんです! 私は違うんです! この覚悟が有耶無耶な過去を消す。私はあの人とけじめをつけなければ、私は私のままなんです! だから・・・・・・」「私を召し上がれ! そういうことが出来ないから苦しむのよ貴女。 昔の私ね・・刺激が強い言葉だったわ。彼は来週退院する。 日本海に帰って行く・・現実が蘇ったと同時に貴女との月日が消えた。どうする? 」 美月は淡々と吐かれた極めつけに留めを刺された思いがした。それは日向が一番伝えたかったことであり、躊躇の末の優しさでもあった。ぽん!と托された事実を引き出しにしまおうか? 覚悟で呑みこもうか? 少しの沈黙があった。「普通の暮らしが待っているなら、引きかえにされた記憶で私が去ってしまったなら・・・・・・あの人を温もりの彼方へ返してあげないと! ね? 」 日本海のしがない漁港・・罠・・幻覚の白い粉・・宿命・・。 あの人と出逢えた訳、悪戯な訳が今度は私からあの人を奪っていく・・・・・・美月は囁いた。「温もりの中で感じていました。 あの人にはきっと、どこかで待っている人がいるって。だから、ずっと記憶が戻らなければ!って願っていた私。 罰があたった、きっとそう」「逢いたい? 」「逢いたい! 最後にひと目」「彼は貴女がわからない、いいのね? 」「消えてしまったなら、都合がいい。 大切な人にも悟られなずにお別れができる・・・・・・私は運がいいのかな? ね? 日向さん? 」 咽びながら泣き、泣きながら咽ぶ美月にカウンターの男がじっと耐えていた。お気に入りのポーチから白い便箋を出すと日向が言った。「手を貸すわ! はい、これ! けじめ、つけていらっしゃい」 夜行 急行「能登」 上野発ー金沢行き 21時30分発 続く
2006/10/27
コメント(8)
今日の予定「ラストチャンス」は都合により、明日夜UPします。 恵 香乙・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 編集者との打合せ 「 」の使い方。 半角ずらすなど。 ひらがなの方がいい言葉。「全て」・・・「すべて」 「傍で」・・・「そばで」 「暫く」・・・「しばらく」 「欲しい」・・「ほしい」 文中の・・の「・」は6つ。 「愛してる・・・・・・」となるらしい。 横書きから縦書きに製本されることで%はパーセントへ 40歳は四十歳へ happyは「ハッピー」へ !や?の後は空白、ワンスペース。 小学校で習ったことも多々。 文学科などとも縁がなかった普通のおばさん、好奇心と書くことが好き、、ただそれだけの主婦を相手に、とても親切な編集者さん。表紙、帯の言葉(前と後の文の違い)、あとがきについて等打合せ。3月1日~15日には全国300書店に並ぶ。 事前に毎日新聞「新刊紹介」に出る。たくさん大事なことを聞いたのだろう。 他人ごとのような感じ。 疲れたのかな?未だピンときてなくて・・・・・・。同時に気になる「紫輝」の最終審査。 中途半端な「入選」「佳作」に○○権が発生して?なことになる。 ポプラ社の募集もちょっと気になるけど、遅い。昨日の性格診断の通り、考えるより行動!がこういう時はマイナスに働くのかな。「紅つけ指」のワード打ち込みと整理の作業も一端中断だ。 講談社&TBS ドラマ原作大賞第一回。 プロの方がどれだけ応募するんのだろう。しみじみ知らされた自分の無知識と無才能と、何より「現実」。 かなり図々しいしし! あははっ! 身の程知らずただ、チャレンジ精神は失いたくない! シナリオにも興味がある。 無いのは才能と時間。 正直に書いてしまったな。 ありのままだ! これでパソコンのボタンを押せば、ね? でも、私は押すんだな。 ここの部屋の仲間が大好き。 「紫音」はみんなで考えた店の名前だったし。 帆影、夕舞、いろいろあったな。 来春出版の本、「奏でる時に」はタイトル変更なし。 作者「恵 香乙」もそのまま。 表紙は作者の希望、イメージをデザイン担当者に伝える。 2006年1月16日から「夏色のときめきを」「奏でる時に」「天使の梯子」 「紫輝 「紅つけ指」を休みなく書いてきた。 その中で自分の自分らしい、 そして「奏でる時に」の 主人公「加奈子」らしい表紙が出来そう! これは嬉しい。 編集者Yさん 「今どきは、加奈子さんのような女性はいないんでしょうね?・・きっと」 香乙 「そうですね、加奈子さんのような決断、んー・・・・・・たぶん?」 では おやすみなさい
2006/10/25
コメント(12)

photo by kazu0873さん ~ 日本歴史占い ~ 粋なベイシスト♪ makobassさんの23日の日記からお借りしました。 いろんな占いを楽しめます。 で、、今回は我が家でも大受け! 笑いは健康にいいから、身内、友人の分までやってしまい、大笑い。 何故って? 当たってるらしい、、うん、たぶん。 あなたは・・・「応仁の乱」のきっかけを作ったトラブルメーカー 日野富子 刺激を求めて走り回る行動派。あなたが苦手なのは平凡と退屈。 おしゃべりしていないとストレスが溜まるので、常に動いていないと気がすまない。何をするのも手早いのですが、うっかりごとが多いのでトラブルも続出。 口が災いすることも、ままあります。室町幕府8台将軍の妻も、タイミングの悪さつきまといました。 気性は激しいのですが裏表がなくフランクなので、友人には大事にされます。頭脳、知性・・・・頭の回転が速いが、一つのことに執着しない。 次々と新しい遊びを見つける発見のプロ。センス・・・・・・短期集中型。 その都度、結果結論を出したいタイプ。 短いスパンで明確な目標が設定されたら強い。 一気化成にやり遂げる。 感情・・・・・・・感情がストレートに顔に出る。 嬉しい時は子どもみたいに無邪気、怒った時はまるで鬼。 気性が激しいと思われているが、実は裏表がなく正直者の証拠。外見、言葉・・・・人が1つ言う間に、10くらい言っている。 情報の絶対量が多い分、トラブルを引き起こす確率が高い。 反応が早いので、早とちりもするが、明るさと活発さで フォローする。行動・・・・・・・軽快なフットワークが持ち味。 考えるより先に体が動き出し、勢いよく弾んだゴムマリみたい に一目散に駆け出している。 しかし、行き先を確認しないことがある。 途中で気が変ることも。 愛犬「オグリキャップ」
2006/10/24
コメント(13)

photo by kitakitune05さん なぜか未だ見た事のない日本海が頭の上で、荒波を立てて叫ぶ。金沢署が押さえた輪島漁港。 白い粉が地味に出入り可能な目隠し・・・入手の手口も闇の靄も萎びた平穏に付け狙うルートなど、今の美月にはどうでもいい事。刑事の僅かな言葉より、寒々しい荒海の見える岸壁に佇む悦史の夢を見ながら、うなされる。何度も何度も打ち寄せた波に消えはしないかと両手を伸ばす。 荒んだ暮らしが続いた。紫音の隙間を埋める背の高い観葉植物の影から、日暮が窮地に立たされた月を見つめる。「ここからが勝負だな・・美月!・・咲くか朽ちるか? おまえはどっちだ?」明海が他席に動いた後、黒のご一行から移動をしてきた美月。まるで意思のない足取りで浅島の横に腰掛ける。 「いらっしゃいー! やっと隣にすわれる・・・この席が一番安らぐのよ私・・」無防備な言葉に慣れた浅島が思うのだ。 (そんなことを言うのは、ここだけだろうね? 君が言うと、お世辞にも社交にもならない)「煙草、吸い始めたんだね・・・」 浅島がシガレットケースだけを見て、そう言った。「ええ、、ホステスだから」 つっけんどうな正直。 V.S.O.P.をグラスに注ぐと、目を合わせずにいる浅島に寄りかかりたい衝動にかられる。不自然な空間が出来上がってしまったと思いつつ、時は静かに流れてしまう。日暮は悦史と美月がその席で無言でまどろんでいた晩を思い出す。 「駄目だよ、そんな呑み方は・・」 浅島が言った。美月が両手て強くグラスを握り、胸にそっとあてていた。浅島への安堵と懐かしい父性感、最後の一滴が全身にまわると、ラストの曲が流れた。ピアノマンは静かに悟っていた。 孤独な男は空間のもつれを音色で柔らかく解きながら揺れる。「太陽がいっぱい・・」 奏が閉じられる頃、浅島が言った。「・・・話したくなったらいつでも力になる・・・必要なければそれでいい」切り刻まれてきた心が、まな板の上で悲鳴をあげる。美月の唇が僅かに震えた。「そんなに酔って! 言ったでしょう! 店に来たら私生活を脱ぎなさいって! ホステス失格・・まったくこの子ったら!」 凄まじい明海の言葉が響く。 もう一つの優しさが包んだ。「美月ちゃん、うちに泊まっていきなさいよ、あなたの部屋より近いし・・」純子が腕を優しく捕まえて、そう言った。「大丈夫ですよ私、何でもないんだし。 嫌だー!みんなでどうしたの? 酔ってなんかない!」白髪交じりの紳士、浅島が動ぜずして言い残した言葉より引き付けるものは何一つない。ただ、ありがとう・・と心がうねる。 悦史を連れ去ってしまうであろう日本海の波に負けない叫びで、心がうねる。 うねってうねってどうしようもない。 やがて美月はゆらゆらと波に揺れながら店を出て行った。 穏やかな口調、遠い昔に感じた懐かしい匂いに混じって、異質が続々と現われる。 「この女、たまらないだろう?!」 上原。 「日本の女に飽き飽きだ・・」 華連を狙った嫌な奴。 ありとあらゆる出たら目、女に貢がせる天性の持ち主。 硬い仮面を被って、ひょうひょうと悪を働くお役人。 どこか憎めぬ、金いらずの遊び人。 華を華として扱った数人の男達、弁護士、ニュージーランド牧場主。 美月が自分を高めた厚いノートが文字で埋まっていた。そうして最後のページに一列に並んだ華の名前。 純子・・・最初に声を掛けてくれた人。 上原の牙を交わした、、ざまー見ろ! 明海・・・自分にも人にも厳しいベテラン。 スパン!とした気性が好き。 日向・・・黒のご一行に添う、限りなく魅惑の人。 華連・・・暮らしの為に日本の景気を利用する健気と利口と不器用と・・・。 揺香・・・無意識な存在感。 清楚で可愛い華一輪。 渚・・・・はしゃぐ敵?あるいは味方、エネルギッシュ。 胡美・・・リンチ、嫉妬。 ストレートな若葉の魅力。 マネージャー日暮・・・命の恩人、それは忘れないように! ね。 美月!と言い聞かせ・・。 ピアノマン・・・・・・奏。男の粋、苦労と遊びの一体。 紫音の大切な宝。 カウンターマン・・・・扉の向こうとこっち。 きっと知り尽くした裏方ふたり。私を取り巻く仲間達。 中身の無い白い冷蔵庫、裸のハンガー、締めっきりのカーテン、転がった空き缶、溜まった吸殻、走り書きのメモ。「美月ちゃんへ 明日、スナック「オレンヂ」へ・・・店が引けたら。 日向より 」 更衣室からいそいそと去る寸前に、帯から抜いた白いメモ。冷え切った手に握らせた温度のある薄っぺら。 和服の添い加減に似た流れるような文字。 ( スナック「オレンヂ」・・・あえて、選んだ遠い店。 あなたの大切な人のこと・・・来る来ないはあなた・・・) 悦史の病室が落ち着き始めた頃、美月の心が葛藤の渦に泣き叫ぶ。 沈む事を人にさせない月が自分を沈ませずにいられるか、、今、再びの瀬戸際。 レモン色のテーブルに頬を置き、幻想に刺されながらうとうとし始める美月。意地悪な朝陽がカーテンの色を明るく変えていった。 続く 明後日「ラストチャンス」
2006/10/23
コメント(7)

photo by pooh0529さん 美月が顔の前で可愛く手を振った。「ここよ! ねえ、、どこを見てるの? 何を考えてたの・・・?」「別に・・」「怪しいー・・!」格子の引き戸の奥に存在感のない狭い和室。 迫る襖を開けると十畳程の部屋があった。お行儀よく並んでいた座布団が、座卓と一緒に脇にずれていた。真っ白い寝具が眩しい。 ふたつ敷かれた布団を照れくさそうに見ながら言った。「遅かったな・・」「・・で、しびれをきらせて部屋に戻ったの? 普通はお風呂の出口で待ってるのよ」「そういうことは苦手だ・・」「温泉に来て、何を格好つけてるの? おかしな人!」 毛並みの無いツルンとしたカーペットの上に籐の椅子が二脚、丸いガラスのテーブルが顔を出して二人を見る。窓辺に立った悦史を覗き込むように見た美月の髪がさらりと解けた。「見てごらん、・・・山が眠り始めた」「んー? ・・・」 窓にオデコを当てて腰を屈めて「どこー?」と美月が言うと長い髪に少し触れてみたくなった。 その手は浴衣の帯紐に向かった。「本当! 月と星しか見えないー。 山が眠った証拠ね」悦史は即座に両手を引っ込めた。 「俺の月はここにもいるよ・・」 咄嗟に誤魔化してみた。「あっ! 今、何かしようとしたでしょ? どうして止めたの? 意気地なし!」「困った人だな、君は・・背中に目がある」「そうよ、あるのよ・・ほーらね」近づけた美月の背中と悦史の胸が密着した。 両手が美月の胸の前で絡み始めた。 「よく眠っています・・・薬が効いてますから」「はい、・・気がつくのでしょうか? 先生?」「大丈夫ですよ。 意識も戻ります」「・・・あなた・・」ぽたりぽたりと落ちる点滴の音か、滴る血液の音か、 寄り添う人の涙の音か、、静寂の中で周囲を観察するもうひとりの自分がいた。 ふたつの世界を行ったり来たり、揺れる波にひたひたと背中を浮かせ水底から不思議な光を浴びたかと思うと、空から誘う陽光が誘い上げる。次第に宙に浮く。 凍りついた身体が一瞬金縛りに合う。 「行かないで!・・・ひとりにしないで! 傍にいて・・身体を放さないで、隙間をつくらないで!」 突然、しなやかな手が伸びる。 すると、背にあたる柔らかな陽射しが揺り篭へと導く。屈託のない笑顔がふたつ。 少し事情が違うなどと戸惑いながら、健やかに馴染んでいく。風化しつつある街並み。 潮風に吹かれながら心温まり街に微笑みかける。燈る灯り。 遠ざかったいた安定に連れていかれる。 割り込んできた小悪魔が天使の顔を見せながら、扉を開く。ミラーに映る華達は、色とりどりのドレスを纏い、ラメをきらきらさせながら微笑の光線を仕掛けてくる。 手を引いた小悪魔がもたれかかり、囁いた。「ずっと、待っていたのに。 このソファー覚えがあるでしょ? ロックでいいわね?ピアノはひまわりでいいわよね? 紫音の美月・・・忘れたの?」調和のとれた時間と空間にまどろみながら、悲しげな瞳で見つめれらると何故か自分が自分でなくなっていく。 「本来」がありえない方向へ心地良く向かって行く。明日のことは思わない! 昨日のことも・・・今このひと時さえあればいい!肌を重ねるたびに、そう女は繰り返す。 愛しいもだえ、激しい息使い、やがて到達した空中から、真っさかさまに振り落とされる。 「全ては終わったのよ、ねえあなた。 いつでも帰ってきていいの」「利用され続けるなんて、あなたらしい。 許せ!なんて言わなくていい。 私達の所に帰りましょう。 日本海・・あなたが好きな水平線・・ちょっと寄り道しただけ。 影は見なくていいの、陽のあたる所に戻りましょう」安らかな眠りに変った。 気がかりが去っていった。 失った記憶が戻ったその時、運命がオマケの悪戯をした。半年間の記憶が消去された。 罠と知らずに運んだ白い粉も、誘惑の肉体も、企ても脅しも、ゼロになったと同時に、鉄の扉が閉じられた。 そうして扉は悲しいことに、美しい月の姿を夜空から消し去ってしまった。ひきかえにされた記憶は埋没に向かってあっけなく遠ざかった。 続く 次回月曜 「荒波」 美月は今月いっぱいでさよならします
2006/10/20
コメント(7)

紫音が穏やかに明けて暮れる。訪れる客にも迎える華にも日々変化があるにも関わらず、何食わぬ顔で佇む空間。 それは悦史に手を振ってから二日目の晩だった。活気の上昇が早く、下方のワインレッド、真ん中のミラー、トップから落ちる光色がいつもより鮮やかに映る。彼等は曲線を織り成す華達を追いかける。 作られたキューブに運ばれるボトル、交わされるグラスに笑顔が何よりのツマミになっていた。日常を脱ぎ捨てた男達は鬱屈を解き、少しのハードルを越えてきた華に癒しを求める。 純子は白と黒の大胆な切り替えのタイトスーツで、優雅にキューブの光を浴びる。そうして対角線上にいる美月をちらりと見る。夜の世界に降りてきたばかりの美月のお気に入りを、純子は何度か美月に貸した。「今日はこれにする! いい? 純子さん・・いつもいつもごめんなさい・・初給料が入ったら、クレジットで買う。 マネージャーの言葉に甘えて、それから純子さんにもすっかり甘えて・・・」「そんなことはいいのよ。 サイズが合うから良かった! ねえ、これ好きなの?」「ピアノの鍵盤みたい・・・白黒はっきりしていて、めりはりついてて、、、ね!」 そんな会話を交わした頃から輝きを増していった美月が、儚げな表情で浅島の席に添っていた。 艶やかな唇を魅せる明海が、浅島と美月の間で少しのジェラシーの距離を保とうとしている。 「どうって事ないわ!」 明海の仕草がそう語る。 「美月ちゃん・・」 言葉の変わりの合図だった。日暮がこぶしを軽く耳にあてた。暗号に見えてならなかった。 直感が空間を数ミリずらした。「事務所ですか? ピンク電話?・・」「事務所・・」日暮はろくに顔も見ずにフロア-に消えてしまった。浅島と明海に「ちょっと・・・」と言い残し、ピアノの後ろを速やかに歩いて事務所入った。 黒い受話器を持った。「もしもし!・・」「金沢警察の小室と申します。 突然ですが、、クラブ紫音の美月さんですね?」「金沢・・?! はい、美月ですが?」「林崎悦史さん、ご存知ですね? あなたの名刺がありました。」「彼が何か! 何かあったんでしょうか!?」 美月の前に黒い雲が覆った。「事故です。 あっ、命に別状ありません。 ただ・・地元の署まで来ていただけますか?」「病院は何処です?! 教えて下さい! 怪我は? 怪我はないんですか?!」表情が変わった。 足が振るえ、受話器に力が入った。 大きな欠伸をしながら支配人が入って来た。「落ち着いて下さい・・・、とにかくこちらの署でお待ちしてます」「支配人! 早退します! マネージャーに伝えて下さい。 急用だって!」「ちょっとー! ・・・」 支配人を振り払い、何をどうしたのかわからぬ状態で外に出た。雨で路上が濡れていた。 空車もタクシーが目の前を通り過ぎて行く。「何なの! 止まって!・・・行かないで!」 ブレーキの音の後、後方の扉が「待ってました」とばかりに開いた。偶然だった。あの晩の運転手が振り返った。 上原の牙を交わした純子と美月を乗せた孤独の走り屋。「お見事ですね!」 そう言って軽く微笑んだ男がいた。「あなた、、でしかた? どこまで?」「警察! 急いでくれる?」「はい、・・・あなたはいつも危険と隣り合わせだ」不安定な身体で助手席のシートを後ろから抱き抱えた。無言の男が夜の街を急いだ。 乱れた髪から雨の雫が滴った。硬い塊に囲まれながら美月は急いで階段を上がった。 張り裂けそうな心臓が悲鳴をあげる。 取って付けたような間仕切りの奥にやっとの思いで腰掛けた。「大丈夫ですか?・・濡れてますよ」刑事の冷静に腹を立てながら、呼吸を整えよ!と自分に言い聞かせた。「美月です! 彼の病院は? 会わせて下さい、お願いします! どうして、、どうして金沢なんですか? ここは・・違う街です・・」「落ち着いて下さい! 貴方の本名を聞かせていただけますか?」「・・・」「警察です。ここは・・そういうところです。 ある事件が絡んでいます。 その為に我々はここにいるんです。 もう解決に向かいますが、、念のため」「高田美波です。 美波・・・です」 遠ざかっていた自分を口にした。気のせいか、まるで他人の名前を呼んだような気がした。もう一人の男がペンを走らせる。 (とっくに調べているくせに、、?それは無理か?)「林崎悦史さんは、お客様ですね? あるいはそれ以上の・」「そうです! だから会わせて下さい。 何も隠しません! 彼が何をしたんですか?事故は何処で何時?」 一変した空間の中であの度胸の引き出しが開いた。次に来るであろう「ひた隠し」への覚悟はすでに出来ていたのかもしれない。それでも、ろくなことがないのなら、今、この場から立ち去りたい! 片っ端から病院を探せばいい。 そういう衝動に襲われながら美月はゆっくり腰を上げた。「お待ち下さい! 大事なことを伝えてない。 さあ、、掛けて。」「・・・」「病院、、病室にはご家族がいらっしゃいます」「家族...?」 血が引いていった。 水槽の底から足が離れた。「はい。 奥様と4歳になる息子さんです・・・ただ、貴方の名前を呼んでいました。頭を強く打っています。 異常はありませんが、ただ・・・あなたご存知だったでしょう?彼が記憶喪失だった事を」「・・・はい・・・。 戻るんですか? 記憶?」「さあ・・・。 林崎の事にかかわりが無い、、今のあなたはそういう事ですね」どうでもいいことを凹凸のない言葉で並べているのか、少しの哀れみが隠れているのか「名前を呼んだ」・・・その言葉だけを繰り返しながら、あの晩のことを思った。 photo by yuu yuuさん 「俺が、もし・・」 「ん? なーに?・・」 「いや・・」たくましい腕を枕に聞いた悦史の言葉は重かった。 だからその後、空いた右手を隣の胸で這わせながら、言いかけた独り言を追い払おうとした。 「きれいさっぱり忘れてあげる! 」裏腹が叫んだ。 緩やかな下り坂を心のカカトが独り歩きしていく。何処で飢えを凌ごうか?何を思い巡らせようか?濁りきった川に沿って、行く宛てもなくとぼとぼと歩くのか? 少し目じりが落ちた刑事が咳払いを一回すると、そのまま俯いた。うろたえながら冷静を作る健気な月が色を失っていった。 予感がせせら笑った。 「ざま-見ろ!・・・」 (今にきっと! 運命、あなたこそ、、今に泣きを見るのよ! 私を見くびらないで!)結論は出ていた。 自分が自分である為のそこに、必死で辿り着く為に・・・ 美月は泣いた。 閑散とした空洞に静々と涙が散っていった。 続く (明日、「悲嘆...引き換え」)
2006/10/19
コメント(6)

photo by kitakitune05さん 運命が嘘をつけばいい。思い切り嘘をついてくれればよかった。 そっと握った束の間。 手を少しずつ開いて満足げ。 僅かな思案顔に桃白色の陽光がさし、天使は微笑む。秋の悪戯に日焼けのしたくをする山々を後に、車が現実に帰って行く。 程よい乱れの明けた後、ききわけの悪い美月を降ろした悦史。心のこもった「おきざり」をミラーで何度か見ながら、アクセルを踏む。「ばーか! もう会ってあげない! 乗ってあげないー!」 などと言ってみせる美月もふたりに「次」があると信じる。 気持ちを着替えて紫音の華に変身し、グラデーションの仲間入り。ジュエリーのような華やかな空間でもなく、僅かに錆びた夕焼け色の空間でもない。クラブ「紫音」 美月の居場所。ピアノの上の蕾のライトが点灯し、こぼれる光が美しい影を織り成しながら舞い始める。 愛撫の後遺症を見逃さない明海が、肉付きのいい足をめいっぱい伸ばしてすわっている。純子はお気に入りのコンパクトでスタンバイの化粧直し。 揺香は日向と隅っこで着替え多くを語らない。 胡美と渚はキャーキャー浮かれながら客の噂話に花が咲く。 華連が美月に声をかけた。「おみやげ、ありがとう。 子ども、喜んだよ」 片言の日本語が愛らしい。「そう?! 良かった。 また遊ぼうって、、ね? 伝えて」「美月、あなた、大丈夫? 上原の話、危険、聞いた、噂あるよ。 私の為にまた危ない事した? それ、良くない!」「しない、しない! (黒のご一行にほんの少し声をかけて大人しくあの男を追っ払った)大丈夫よ華連! あの手の男は目的の為には手段を選ばない、と言っても、たいした事ない奴が多いから簡単」「美月、私が母国へ帰る、日本を去っても、そんな事はもう止めないと、、」「わかったよ。 もうしない! (・・・とも限らない) 」 しなやかな中指から外されたホワイトジルコン。 美月は数ヶ月後に日本を離れる愛くるしい華連の指にそっと入れる。「・・? why?」「お守り! ぴったりね。 I hope you will be happy forever.ん、了解?」やがて去って行く華に出会いの感謝。 母の想い出を心を込めて・・・。 気になっていた黒い影。感じ続けた視線を一人になった悦史の男が境界線の向こうへ行く。長閑な一時、最後の煌き。 身が持たないと思いつつ、違和感でさえ愛に変わる美月をポケットの奥にしまいながら・・・振り返った。「ついてくるなら、来い!」追従は一定の速度を保ちながら、あるいは目的を限りなく短縮させながらやって来る。静笑する奴等の正体を暴いてやる! 悦史が奮い立った時、誰かが笑った。 緊迫は悦史を追い込んだ。 運命は使命に燃えて迫ってくる。握ったハンドルが汗で濡れた。 いつもの激痛が走った。 頭が締め付けられる、やってくる凄まじい恐怖感。「くそう!・・・」 シルバーメタリックの異常に気付いた追従車。 直後の追突は闇を切った。ハンドルを切った先のコンクリート。 最後の力を振り絞り、暗闇と戦いながら悦史は大きな衝撃音のパイプの中を落ちていった。暗闇に転落する自分を、もう一人の自分が冷静に見ていた。 港町、 潮風、 西陽の当たる窓辺、 ぬくもり、 纏わりつく幼児、 えくぼ、白いエプロン、 作業着、 なびく風、 一本の電話、 スナックカウンター、 笑う女罠、 誘惑、 まどろむベッド、 利用、 あざ笑う男、 飛び散った白い粉、 逃走、悲鳴、 裏切り、 サイレンの音、 赤い点滅、 封じられた口、 乗せられた車、運ばれる体、 去って行く現実、 短くない時間のもがき。脱出の瞬間、・・・・・。 トンネルが角度を変えた。フラッシュバックにやられながら、痛めつけられられた身体で雨の闇夜をひた走る。生きているのか死んでいるのかわからぬまま、現実と非現実か見極める術もなく、ただ、ただ彷徨う。 見知らぬ街に辿り着き、こじあけた扉の闇に身を潜める。 若い女が現われた。痛めつけられた冷えた体、殺す息さえない数秒。女を背後から押さえつけた。 口を封じ「頼むから叫ばないでくれ!」と言った。女は運悪く、ひび割れた心の持ち主だった。 叫びを食い止め、気を失わせてしまった女を抱き上げる。(一瞬蘇る、、感触。 別のスクリーンが降りてくる。 那須高原、、陽射しを受けた木の葉が魅せた精一杯の煌きの中、ベンチまでの数十歩。 お姫様抱っこ・・くすぐったい)「すまない! すまない!」 何度も詫びた。雨が軋む窓に叩き込む。 こぼれる涙、震える手足。白い顔で眠る疲れた天使を横目で見ながら、途切れていく記憶を追いかける。激痛が走る。 呼吸が叫ぶ。 もう、もどらないでくれ!と叫ぶ。 気が付くと、包丁を震わせた女が立っていた。一歩、二歩、、「刺せますか?」刺さないことの前提が、すでに出会いの兆しの悪戯とわかっていたのは運命だけだ。ふたりの周波が乱れながら歩み寄った。境界線で狂気と殺気の交差がしびれを切らせた。 だから飽きずに眺めた運命が微笑んだ。 差し出されたタオル。 「風邪、ひきますよ・・これで・・」優しい目に変わった。 潤んだ瞳の奥で寂しげがしがみ付き、何かをせがんでいた。 取り巻く悪の群れが次第に遠のき、やがて消えた。間断の音なき道が現われた。密着への導き、偶然の再会と危険に居合わせた二度。 女が「三度」と言ったわけ。今、それが明らかになる。 背中会わせにふたりで不運を挟み込み、横歩きしながら愛にしがみ付いて燃えた。 暗がりの扉の向こうで女が囁く。蕾からこぼれる涙をぬぐいながら・・・呟く。 「ねえ・・! 後ろからだきしめて?」 運命よ、永遠の嘘をついてくれ! 過去は消えたと言ってくれ! 続く(20日金曜日 「俺がもし・・」)
2006/10/17
コメント(8)

photo by しっぽ2さん(この詩はしっぽ2さんのページで 拝見し、お借りしたものです) ~ 永遠の嘘をついてくれ ~ 作詞、作曲:中島みゆき アレンジ: 恵 香乙 イメージ:美月ワールド この街を見限ってやるのは俺の方だと ほざいたくせに 今日もまた この街で俺は酔っている 傷ついた獣達は 最後の力で牙をむく 放っておいてくれと 最後の力で嘘をつく 永遠のさよならのかわりに やりきれない事実のかわりに たとえ繰り返し なぜと尋ねても 探しに来るなと 振り払え! 風のように鮮やかに. 人はみな 望む答えだけを聞けるまで 尋ね続けてしまうもの 見知らぬ誰かの代筆で 俺は 永遠の嘘をつく 探しに来るなと 結んでとじる 今はまだ 旅の途中だと... 永遠の嘘をつきたくて...つきたくて... 悦史 この街に降ってきた夜 あざけ笑う人の波を掻き分けて 透明に漂った私なのに たどり着いた 扉のむこうで 今夜もまた 酔いしれる 傷ついた天使達は はかなげな瞳で微笑んで 羽を脱ぎながら 嘘をつく 永遠など ありえないと やりきれない不安をぬぐいながら たとえ繰り返し なぜと尋ねても もう 一人にしてと 振り払う 風のように鮮やかに. 人はみな 望む答えだけを聞けるまで 尋ね続けてしまうもの 去った自分の代筆で 私は 永遠の嘘をつく 戻って来ないでと 結んで閉じる 今はもう 夢と化したと 永遠に嘘をつかないと..つかないと... 美月 君よ 永遠の嘘をついてくれ いつまでも 種あかしをしないでくれ 永遠の嘘をついてくれ 一度は 夢をみせてくれた君じゃないか 出逢わなければよかったなどと 言わないでくれ 何もかも 愛のゆえだと 言ってくれ 悦史 貴方 永遠に嘘をついていて いつまでも 種あかしをしないでね 永遠の嘘をついて去って 一度は愛を寄せてくれた貴方なのに 出逢わなければよかったなんて 言わないで 何もかも 愛のゆえだと 言って消えて 美月 「君よ 永遠の嘘をついてくれ」 愛がこぼれる君へ 愛しい人へ 愛の為に去っていく・・・・あなたへ photo by しっぽ2さん (次回 火曜日「紅つけ指」 第3章 「追突」)
2006/10/15
コメント(13)
photo by しっぽ2さん 耳を傾ければ何かを語りかけてくるような木漏れ日の中。 悦史が言った。「ふらっと来てしまったな・・・」「明日の午後までずーっと一緒! ね?」 小鳥の囀りような心地よさが舞った。「明日の晩にはちゃんと紫音に返すよ・・」 寂しさがふと美月の心を沈ませた。 クラブ「紫音」、暗がりにほんわり浮かぶワインレッドの空間。 現実に戻された美月が空を見上げ、両手を挙げて大きく伸びをして見せた。「ああ・・・・気持ちいいー! 秋の匂い!」 心をごまかした。「酔ったんだね、いろは坂で」 僅かな風と光が美月を夢に戻すようにと促した。「うん・・・山のジグザグ! あれは駄目。 気持ち悪くなっちゃった」少し慌てた悦史の心を気遣った美月が振り返って微笑む。 整った二重まぶた、アーモンド型の大きな目が悦史は好きだった。そうしてその強い目に時々やられる。 自分には見えてないであろう目に・・・やれれる。美月は少し前を歩きながら、器用に髪を高く結んだ。 太陽が美月を照らした。「ああ! 眩しい! 私は月だから、きっと太陽にいじめられるんだー」「ん・・?」振り向いて後ずさりをはじめた無邪気が微笑んだ。「月と太陽と同じ空にいるでしょう? ね、、太陽は月をさらって行くのよ、いつもいつも」「ちゃんと捕まえに行くよ! 俺・・」「え? 聞こえなかった、なんて言ったの? もう一度?」「その手には乗らない」 心を緩ませた悦史は、くつろげて尚悪戯な月に心地よく反応した。 ちらりと見える美月の不安は、気に入った言葉を繰り返させようという企みに変わる。「不思議だな・・・君との出会いは・・紫音に引き寄せられた」「そうなの? 違うでしょう・・」 小声になった。「ん? どうして?」 また悪戯な言葉がやってくるのか? 木々の間から光が差し込み、時々ふたりを覗きにくる。 そうして、揺れもしない振り子にしがみついた愚かに手を差し伸べようとする。{違うでしょ! ある晩突然雨と一緒にやってきて私を背後から押さえつけて、恐怖の底に突き落としたでしょう? ・・・私は包丁を震わせて貴方に向かっていったでしょ? なのに「刺せますか・?」・・・・あなたはそう言ってうな垂れたまま私を困らせた。覚醒の一夜が明けると、そう、、貴方は消えでしょう? 「すまなかった・・・」ほら! こうしていつも大切に持っているよ、しわくちゃな白い紙・・貴方の文字。それが出会いでしょう?! 一人だけ忘れてズルイ! 発作が私を止めるんだ・・} 胸にこみ上げてくるものを抑えながら、言葉を引き出しに仕舞い込んだ美月が、つい大きな声を出した。「ねえ!」「ん?! どうした?」悦史が胸のポケットからつぶれたタバコの箱を取り出した。「吸っちゃ駄目! その手で抱っこして! こうやって、ほら、お姫様抱っこ!」目の前のアクションに思わず苦笑しながら、やはりタバコを一本出した。「あそこのベンチまで! ね? ズルイんだから」「ズルイって何が?」{ふたりで過去に触れないことが・・・不自然にズルイでしょ、当たり前にズルイでしょ・?}「いいから、こうやって抱いてよ。 王子様にしてあげるからさ・・・」「やってられるか! そんなこと・・」 背を向けると下から覗き込んだ秋の地べたがクスッと笑って悦史を立たせた。 やがてたくましい腕が美月になじんだ。長くしなやかな両手が王子の首の後ろで絡んで懐いた。 美月は右の頬で悦史の動悸を奪った。「見るな!」 「照れてるの?」「うるさい姫だ!」振り回さされる悪戯天使に酔いながら、我がままな姫をベンチに下ろすと熱くなった体を冷ますために再びポケットに手を入れた。{横顔、見ないでくれ} {照れを煙で吹き飛ばそうなんて、甘いのよ!} 疲れたベンチの僅かな隙間を埋めようと美月がずれてきた。 触れた肩の温もりを無視して気持ちよさそうに煙を吐き出す悦史にもたれかかった。「煙草、おいしいの?」「吸ったら許さない!」 {夢なら覚めないでほしい!・・・・} {嘘ならつき通してほしい!・・・・} 赤裸々をもてあそび、青に身を潜め、戯れを見下ろす真昼の月。 もうひとつの視線。「永遠」が約束されぬなら、せめて運命よ! 永遠の嘘をついてほしい。 悦史は空と話した。「さあ・・・行こうか?・・・」 続く 次回月曜日 風にふかれて 「永遠の嘘をついてくれ」
2006/10/12
コメント(10)
photo by Pooh0529さん「馬鹿ね、貴女!...」明海の言葉が耳にしがみ付いたイアリングのように離れない。付きまとう不安に理由がない。 だから程よい軋みを感じながら目の前の人を愛する。こんなことを覚えてしまった。 美月はにぎわいだ紫音の空間に馴染み、フロアーにヒールの音を残しながらあくる日も、次の晩も、時間と「心のちょっと寝」に訪れる男達に気持ちを注いだ。目の前の人を最大にもてなし、心満たすことが出来ないのなら、華は高価な花瓶の中で突っ立っていればいい。 サパークラブを出たふたり。悦史がエンジンをかける。 何時しか覚えた音と癖に美月は反応する。そう、エンジン音、、このドアの閉まる音・・これ・・指令のエコーに心が躍り、血が騒ぎはじめる。 助手席の小悪魔が天使の羽をちょっぴり魅せる。「ねえ、何処へ行くの?・・・ねえ?」土曜の晩、店が引けてからの待ち合わせ。 何処からともなく約束の場所にやってくる過去の見えぬ男。封じ込めたそれを荒れた指で弄ることを今は止めよう・・・美月は悦史の横顔を見つめた。「行こうか・・」「うん、行こう! 初めての旅、ね?」深夜の高速、音のない秋の夜空を飛ぶ花火のチカチカ、星の演出。月を独り占めした悦史のハンドルがきられた。 隣の無邪気が浮かれた声で喋り始めた。「ねえ、朝になったら、どんな絵の中にいるんだろう? 私達、ね?」「ん?・・」悦史は体も心も、さほど安定を崩さず静かに頷く。「通り雨? ほら!」 フロントガラスに雫が光った。「・・・らしいな。 すぐ止む」 悔しい位に動じない危険な香り、甘い温もり。美月は左の窓にオデコを押し付け、じっと外を見ていた。「どうした?・・」待っていた言葉が来てくれた。「どうした?って何が?」 淡々と答えた。「いや・・」 平淡を装った。美月が心にもない反応で焦らした後悔。 すぐに自然に言葉になった。「あのね、ほら? これ涙にみえるでしょ? 伝わる雫・・・」「雨のこと? 」「そっ! 雨の雫よ。 ほらね? 風で飛んで行く、斜めに逃げて行く。 これもそれから、ほら、またこの涙も・・ね?」 細い指をガラスに這わせる。「美月には、涙に見えるんだな?」「あっ! 今、名前初めて呼び捨てにしたー! もう一度言って! 呼び捨て・・・」「馬鹿言うな!・・・」「ズルイー! 呼んでくれなきゃ飛び降りてやる!」 「那須に入った」 悦史が前方を見てそう言った。「話を変えた!」 「休もうか・・?」 知らん振りが美月は嫌いではない。 心の照れが言葉より態度に出るわかりやすい悦史が好きだから、だから着いて来たんだと言い聞かせる。 ブレーキを踏んだ。追う車、黒い影・・・ふたりはまだそれに気付いていない。深夜のサービスエリアは大型のトラックが指定席に落ち着いている。 人影は見えない。 車が止まった。 雨も止み、悦史がハンドルから両手を離した。 サイドブレーキを引いた。沈黙の一瞬の後、どちらからともなく身を寄せ合った。大きな両手がしなやかな月を抱き寄せた。 崩れなかったのは心だけだった。 せがんだ唇に応じた悦史は、阿婆擦れた女には無い「脅える大胆」を持て余しながら抱いた。 ひたすら抱きしめた。たまらない密着に呑まれ、深夜の靄に紛れて溶けるふたり。 遠くから、近くから、過去から、あるいはとんでもない未来から、眺める静寂。 恋路を行く船が遠くに見える帆影に戸惑う、それでも美しい月がゆらゆらと湖に浮かぶのからしかたない。 なまめくから・・・しかたない・・・・。 追う車・・・色も音もない空間、闇の展開にただただ釘付けになっていた。 続く 次回12日金曜 第二章終「 真昼の月 」
2006/10/10
コメント(12)
photo by しっぽ2さん・・・・・・・美月です! こんばんはm(--)m・・・・・・ いつもクラブ「紫音」の扉を開けて下さり、ありがとうさて、美月を書いてくれている香乙姉。 皆さんもご存知の通り、ああいう方です!つまり、無防備、無鉄砲、無邪気、無意識、無茶苦茶・・・いくら言っても聞きません 年甲斐もなく、あっちにこっちに好奇心を抱き、ああみえて案外生真面目に頑張る。そんなオバカの香乙姉が、ダウン。~ヨロヨロ~~フラフラ~ 視神経使い過ぎ(9ヶ月間、文字とパソコンと睨めっこ その前は競馬新聞・・・) 過労と寝不足(4時間以上不可、睡眠障害) 更年期障害の兆し多々 持病の肋間神経痛、他。 悲鳴をあげた「不機嫌な体」にムチ打って、頭痛薬を飲みながら過ごしたオバカ。 そして今月から、3月出版に伴い出版社、編集者とのかかわりもスタート。よって、大切な時期に差し掛かっていることを自覚させました。 小説のUPは週1~2度、目と頭と相談しながら。皆さんの所にご訪問する機会も減ること、コメントを書けないこともある事、ご理解下さい。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 今日は母香乙の代理に息子の俺が母の下書き(ひっちゃかめっちゃか)を見ながら書きました。 はい! 息子です。 母がお世話になっております。苦労してます。 笑える母、驚かせる母に未だ親子であることが・・俺は父親似です!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「紅つけ指」 忠告 華連の部屋のカーテンが開いた。夕べの余韻を残しながら、越してきた華連の部屋を見上げる。朝帰りの女が静かに階段を上って行く。 ストン!と朝刊がポストに落ちる。 やがて賑わう商店街。 威勢のいい花屋の夫婦、花の好きな美月が通う店。空部屋ありを利用した。少し眠って、午後から華連の子供達といつもの公園で遊ぼう・・美月は再び振り向いた。「欲望から健気を守る、 あんな男は許さない」 「馬鹿は落ちて行く・・・・・」支配人が回転椅子を軋ませながら、腹を突き出して美月を見上げた。日暮が定まらぬ視線と落ち着かない両手に戸惑いながら、美月の斜め後ろに立っている。なで肩からずり落ちるドレスの紐を何度か押さえながら、口を尖らせた美月が琥珀色のイヤリングを揺らしていた。冴えない蛍光灯の下でシルクのドレスがイジケテいる。無断で店を休み、たぶん正体不明の悦史との関係を早々に悟った男が睨む。 やがて日暮の咳払いが沈黙にけじめをつけた。「まずいよなー美月ちゃん。 NO.1、、客が減るよ」 支配人がぼそっと言った。まだキーキーと音をさせている丸い椅子。 (煩い・・・) 「すみません・・・・今度は連絡します。 すみません・・」「違うでしょ、違うでしょ! わかりやすいな君は! 話はそこじゃない!」いったん背を向けた美月が振り返った。「簡単な女じゃない!・・・私は違う!」「わかってるよ、美月ちゃん、いいから・・・」 日暮がすかさず言った純子の顔が浮かぶ。日暮は白くなだらかな肩をドアの方へ向けながら 「振り向かないでさっさと行って!」と両手で合図した。 口を尖らせたまま更衣室へ駆け込んだ。 「あら、、紫音のNO.1さん!」自信に満ちた胸の谷間を覗かせた明海が微笑んだ。艶のある唇に挟まった煙草、左手でライターをカチカチとさせ、組まれた足は程良く肉が付き、美月は目のやり場に困ってロッカーを開ける。ベテラン明海が「ここに掛けたら?」と椅子を指差す。去って行く胡美と渚に「おつかれ!」と手を振った後、美月は覚悟を飲み込んだ。 「NO.1はねえ、客と寝ちゃ駄目よ。 しかも惚れた男ね、、馬鹿ね貴女!」 突進する若い津波。 いつか訪れる波紋。やっと得た安らぎ、小さな安全地帯に予告が舞った。 続く(次回火曜日予定 「静笑 追われる車」)
2006/10/05
コメント(12)
お写真=pooh0529さん 「紅つけ指」 ピンクの封筒は前ページに 舞台裏の主役達 昨日、市民文化会館で「チャリティー公演」があった。 この舞台の為に、半年間レッスンを重ね老体を励ましてきた。1000円のチケット代は市の社会福祉施設整備基金に寄付。 後援:市教育委員会、市文化団体教会 主催:芸術同好会 「音楽と舞のコラボレーション」舞台監督: 後に東宝株式会社に合併した東京発声映画製作所の元助監督を経て、戦前、戦後と長年にわたり、舞台、映画監督に従事。作品には「青春」 「純情一路」 「金剛山の四季」 「シンデレラ」 等日本テレビ開局により東芝(株)のCM作品数本監督プロデュース。東映東京撮影所に入社後「殺されてたまるか」 三田佳子、梅宮辰夫主演作品他従事。東映アニメ 「狼少年ケン」 「少年忍者風のフジ丸」 「レインボー戦隊ロビン」「魔法使いサリー」等の監督.出演団体:10 (バレー、太極拳、日舞、琴、マリンバ、ピアノ、和太鼓、ダンス他)バレー部門からは「ボリショイバレー団」に引き抜かれ、来年留学決定の未来のプリマが。ピアノ演奏者からは、国際芸術連盟新人オーディション合格、審査員特別賞受賞。第6回朝日新聞社賞受賞者が出演。 そんな舞台ほ把握もないまま、天然のまま好きなダンスをいつも通りにコナシテきた。多忙なせいにしたくないが、行き当たりばったり。 目の前の事をこなすのが精一杯。土曜日のリハーサルでタイトルの趣旨や内容、事の重要性がわかった。 プログラムを渡され、昨日の本番までのまる二日。 私は魅せられた 控え室から観客席、ロビー、舞台を行ったり来たり、走って、コケテ、叱られて、自動販売機から迷子になって、アナウンスで呼ばれた土曜日。 昨日はブログ仲間や友人、家族の不安を含む声援のもと緊張の本番を迎えた。ダンス4曲は、思い切り舞えた。舞台から転げ落ちることも無く、人と反対の動きをすることの無く、何とか終わった。他の出演メンバーの足を引っ張るような部分も無きにしもあらずだったかもしれない.それだけ、他部門のレベルが高い! もうため息! 感激! それ以上に私が見惚れてしまったものもうお別れ?・・なんか去りがたい。 言っても言い尽くせぬ思い。 裏方のスタッフの皆さん!高齢の監督はもちろん、ナレーション(主婦)、照明、カメラ、幕、音響、会場整理、受付、設営、メイク、清掃の方がた、楽器を運んだ業者さん、、、本当に「ありがとう!」 当たり前のことかもしれない。 たった数時間の舞台の為に、その影でこれだけの人達が黙々と汗して下さった。ライトを浴びる事はない彼等の、仕事を終えた後の「いい顔」 地味な裏方さんにこそ、大きな花束をあげるべきだと私は思う。そして、裏方に惚れた。 ああ・・・すぐこうなんだ~家に帰れば普通のお父さん、お兄さん、オバサン、お姉さん。 なのにカッコいい!いつまでもウロウロしながら、一人一人に「ありがとうございました!」と言った。本当はもっと感謝の気持ちを伝えたい! なのにさらりと交わされ、、それがまたそそる。 「俺はやったぞ!」 「私がやったのよ!」と言う顔をしてない。 舞台を引き立て、成功に導いて下さった無冠の友に最大の感謝を込めて頭を下げた。仕事をやり終えた満足の表情と、少しの「はにかみ」が心に染みた。 どうしよう?こんなに沢山の人にいっぺんに惚れてしまって身が持たない。 紅つけ指 「忠告」は木曜日。 頭と体と心を切り替える時間を持ちたいのでm(--)m
2006/10/02
コメント(20)
Photo by kitakitune05さん 月の綺麗な晩だった。オレンジの光を放ちながら、夜空の脚光を浴びて微笑む。目に曇りが無い者だけが感じる月夜。 おそらく心に地球儀を持って生きる天才も、下ばかりを見て事象を感じない凡人もふと頭を上げて、ゆとりの眼を空に向けたなら、きっと素敵な月に出会え、うっとり心が和むのだろう。 ピアノがバラードに変った時、紫音の扉が開いた。ラストに近い時間帯、空間に微妙が漂った。美月は対角線上にあの人を見つけてしまうと、不自然に目を背けた。絶えず付きまとっていた寂しさが消えたと同時に、体が熱く滴った。何ボルトの電流が流れたのだろう? と美月は戸惑う。ボックス席から美月が去ると、僅かな不満に頭を下げる日暮がいた。ひと席にゆっくり沿えないことは、華にとっても気持ちがいいことではない。指名の数より、使命の方に心を注ぐ華ほど、皮肉に持て遊ばれるものだ。 そしてわずか20分、、、美月は悦史のテーブルに付いた。多くを語ることもなく、ロックのグラスを見つめながら俯く点。点を目掛ける視線のいくつか、、日暮、純子、浅島、明海・・・・。「後で少し、話そうか・・」悦史がもらした。コースターで遊びながら、はしゃぐ事も笑うこともしない無邪気から、あの度胸の存在を探る悦史。 襲った男達に立ち向おうとするあの子は? 幾人もの女が存在した。「少し・・・・・?」「・・店が引けたら、あそこで待つ。 車、わかるね?」 悦史が去った。 華達が支配人と日暮の前に並んだ。オーナーが毎月用意するピンクの封筒、NO.1。その晩、華たちに給料が手渡された後、何時ものそれが始まった。時間ばかり気になる美月を横目で見る明海と純子。 二人は既に美月の今宵を知っている。どこで、どんな人と、どんな時を過ごすのか・・・くっきりはっきり見えている。その夜の月のように、次第に陽炎に染まる落ち着きのない美月。 「はい! それでは、今月のナンバーワン賞。 美月ちゃん! 」「・・・」「早く前に出て!」 日暮が言った。支配人が心ここにあらずの美月を捕らえた。仲間がざわめき、拍手が沸いた。「美月ちゃんだってー! 半年でナンバーワンよー」「男を操ることも知らない癖に、ズルイ!」 トイレリンチの主犯だった胡美が言った。 無意識の積み重ね、ピンクの封筒。美月はしなやかな両手でリボンの付いた封筒を手にしてしまった。純子、明海、日向を抜いた指名の証。 どうでもいいそれ。 更衣室でそそくさと着替えた美月は華達の注目を他所に店を飛び出した。「少し話そうか・・・」半年前は色の無かった失意落胆の月が、舞うように外に飛び出ていった。「少し」で終わらぬ夜をオレンジの月が追う。 走った先の車の中で男にしがみ付くもう一つの月がいた。「会いたかった! 凄く凄く、会いたかった!」悦史は健気を優しく包み込んだ。 続く (火曜日 忠告)
2006/10/01
コメント(11)
全14件 (14件中 1-14件目)
1


