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撮影しっぽ2さん 心なし 人が早く過ぎ去る きのうと同じ歩幅なのに 心なし 街灯が目にしみる これ以上うつむけと言うのか 花屋の前に差しかかる エプロン笑顔に一瞬見せた思案顔 さっとかわして足早に 耳にかけた長い髪を戻し 頬を隠す 黄色いマフラーを二重に巻いて 顎を引く 役に立たない小細工に 容赦なく 陽気声「今夜はいいの? カスミ草? 」 線路つたいに並んだ自転車 私の隣にいなくなる 寂しさ抱えてひたすら歩く 闇に同化した外壁に 月あかりをおびた白い格子窓 私が灯りをともす部屋 ひんやり冷めた一握り 日になんども握りしめた恋の電波 息もせず もちろん言葉も失って 当然 気も失いかけて バックから放り出されたオレンジメタリック 目を反らして 心反らさず やたら肌触りのいいラグカーペット 温もりに落下しただけ幸せと思え たかが70センチの衝撃 着信あり 田原 朗 落下の訳 「今夜は最高だったな 東京湾の夜景も捨てたもん じゃないな」 私は夏海 そう,NATUMI! 「もう一年か 君に言われて、ああそうかと思ったよ」 私は夏海 ホテルの最上階を知らない ナツミ! 今夜はひとりの夏海 そう、なつみ! 男の愚か 自分の愚か 進化の愚か 軽率の愚か オレンジメタリックは愛の囁きも裏切りも知り 許容を超えて 捨てられた しとやかに 騙され続けるか そうして 復讐にまわるか 受信 一件削除しますか YES 削除しました 馬鹿げたことで錆びるほど 落ちぶれはしない 恋の仕掛けに浮き沈み うつろいで 消えるに任せる 私は知らない ラグのぬくもりに落ちた物体が 脈打ち 息を吹き返していることなど 未だ知らない そんな日がやって来ようとは たった一度のふり返り 未知の背中 見聞の声 無機質がささやく ラグの上で静かに微笑む「 充電中! 」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・香乙・・・・・・・ 携帯電話 青春時代にこんなものがあったら? 10円玉が落ちる音を気にしながら、外で今か!今か!と待つ人を気にしながら、 恋人と話す時間の短さよ 待ち合わせの勘違い、東口、西口、、待てど暮らせど現れない。 もう振られたのか? 事故? そんなやきもきも無い現代。 「ねえ、今どの辺? じゃあそっちに向かうわ! 」 便利は便利。 一歩間違えると、、、浮気がバレル。 これほど確実なものはない 本日はそんなシーンを そうして今、ハマっているもの「私 」 ここにブルーベリージャムと黄粉と擂りごまとプロテインを入れてよーく混ぜて食べる。 ヘルシー
2006/11/30
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いつもの店でかるく一杯ひっかけて さっきの女(ひと)はどこに消えたのだろうかと 日比谷方面を浮かべながら 俺は駅に向かう 気がすすまなくたって 沈んだ夜は必ず明ける その気にならなくたって ぬくもりのない部屋の扉を開ける あいつは言う 「おかえり! 」 俺はご機嫌のさらにその奥に潜む あいつのご機嫌を また感じなくてはならない 探る必要がなくなったそれは 艶やかな色を俺に見せつけ 色以外のすべてを隠し続けて笑うんだ 多くを語らない俺が 嘘をつき通すあいつが 風通しのいい部屋であたかも幸せを装う ダクトレールから零れるスポットライト 明かりはテーブルのシチューやサラダを照らす たぶん ことこと煮つめられたのは あいつの心の先ばかりで 時を誤魔化し シチューに溶け込んだあいつを 俺は すすりながら見つめる 心ここにあらず そして窓辺で陽を浴びたらしき 鉢植えのグリーン 名前「みかえり美人」 浮きすぎる白のレースに かわいそうに 俺はたまらない 260センチの天井に 吊り下げられた眩しい白が たまらない そこに美しく佇む 観葉植物 鉢に刺さった文字 すれちがった女 みかえり美人 もう二度と会うことはない その人を 思った瞬間 同じ罪ではないと 大きなスプーンで皿をすくった その朝も 夕暮れも ラッシュ通過後も どいつもこいつも携帯電話を心臓の脇に隠し つり革の数ほど存在する唇と血管に瞬きもせず 交差の中で 電磁波にやられながら ひとり小説を読む愚か 受信 そんな文字に心ときめく日が おとずれるはずがない 誤算 俺のたぶん最初で最後の誤算 バイブレーション 体の一部がわずかな振動に歓声を上げ 心を着替えて わかりきった自分に浸る僅か数秒 メール受信 一件 受信BOX 8:55 流れ星NATUMI 電流が走る 指が走る そんな日がやってこようとは 俺がもし・・・・・・・・・・・・・・・ 香 乙・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 最高のお天気 今日は髪をCUT ロングに見切りをつけれないからセミロングで 明日から「奏でる時に」~ 出版に伴う作業、打ち合わせ。 このシリーズは続行。 もう書いてないといられない体に 撮影ANEさん
2006/11/29
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すこし萎びた有楽町のガードをくぐり 左の路地をたぶん180度以内におさまる視野に入れながら 右に丸の内のオフィース街を意識しながら 正面に日比谷ツインタワービルの白さに驚きながら 私は歩いた 蔦のからまる古い喫茶店を見上げると さっきの男(ひと)もこの前を通ったのだろうかと もう一ぺん後ろを振りかえる そうしてコンマ1秒の誤差もなく たぶん惹かれてできた瞬間の視線の送りっこに 星の数ほどの男と行き交う都会の路上の偶然に 侘しくもあり 未だ捨てたものじゃない などと 胸の火傷に言い聞かせ 地下鉄の階段を 足早に降りながら 気になるひんやりに指が触れる 絞られたバックの口をこじ開け 右手で握ったタイミングを待つ やっぱり今かと 立ち止まり 人気の少ないタイルの壁によりかかり さも私はいい女と言わんばかりのポーズで 実は一番できなかった決断のボタンを押す 着信履歴 全消去しますか YES 暗証番号は ------- 迷うことに疲れた今 左の親指が私の心にけじめをつけに 作動する まるで別の誰かのように 親指が4桁の数字を押しに来てくれ それはあっけなく終わった 着信履歴はありません 全着信 0 事は早かった 過ごしてきた時間の長さなんかまるで無視して 溜め息と一緒に宙に消えた そうして新しい笑顔の唇の隙間から 幸せを入れ込めばいい だってそうでしょ? 受信メール削除しますか OK 削除しました 田原 朗 メールアドレス削除しますか? YES メールアドレスを削除しました 地下道にモワーっと熱気がやってくる 私に急げとやってくる 地上では何食わぬ顔で ガード下の屋台の男達のように 映画館の看板を見上げるカップルのように 普通が夜にとけこんでいるなんて 思わず愚かな寄りかかりから体を離し みきりの一歩を踏み出すんだ そうして地下鉄に乗って いつもの指定席に立って 銀色の手すりの縦を右手でにぎって 走り行く黒に自身の姿を時折映し 目の前の見慣れた乗り降りに 心を背けて 片隅に体を馴染ませ続ける やがて地上の灯りが縦長の窓に姿を現す 息苦しさから開放される瞬間が いつもなら好きなのに 今夜はずっと黒いトンネルに包まれていたい 撮影kitakitune05さん・・・・・・・・・・・・・・・・ 香乙 ・・・・・・・・・ 今ひとつのお天気。 洗濯の中途半端をコインランドリーで乾燥! 気分爽快に。 なんせアトピーが一人いるものだから、量が多い。 私、平日はほとんどスッピン。土日は家族が「お~! 塗装作業ご苦労さん 」という。 けして厚化粧ではないのだけれど。 おでんをことこと煮ながら、東野圭吾の「手紙」を読んでいた。昨日までは村上春樹。 さてと! おでんで一杯・・・じゃない! 今夜はJ.ダンス。 ヨガとストレッチ、そうしてダンス。 今宵はこれにて・・・
2006/11/28
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俺がもし あの街角で 君を見つけていなかったら 俺の風向きは 変わることなく 僅か数センチ 砂漠に足が触れぬように 僅か数ミリ 海面に指が触れぬように 刺激とも平穏とも 甘さとも危険ともかかわることなく 低空飛行を続けていたんだ そうして 焦点が絡まぬ時の流れを 退屈にただ見届けていたのだろう 君がもし あの雨の街角で 合図も無しにふりむかなければ たとえ俺が 君の煌きに負けて 雨のささやきに負けて わずか120度ばかり 去っていく君の背を追いかけたとしても 愛の仕掛けにやられることはなかった 雨の街角で 俺は君に 心の溜め息をもっていかれた 限りなくスローに せつなく過敏に ほど良く絡んだ視線を もう ほどく事などできない 濡れた路上で 置き去りにされた 透明の傘のように 少しの倦怠と未だ捨てきれぬ期待を 惜しみなく俺に魅せつけた 知らないなんて言わせない どこか冷めた瞳の奥で そのまま過ぎ去るには惜しいのだと 言わんばかりの悪戯に 俺はやられた 背と背が離れていくことに 戸惑いながら もう二度と逢えぬ人だと せかされながら 絡んだ偶然を振り払い 去って行った君を追うことができない・・・・・・・・・・・・・恵 香乙・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 詩の連結作業で「STORY」という列車が夜空を走ったらいいなあ そんな遊び心がふつふつと・・・一回こっこりで終わったらごめんなさい 撮影pooh0529さん
2006/11/27
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一説によると遺伝子が関係しているともいわれるストレス。冷静になれば深刻なことでもないのに、その時の心の状態で必要以上に過敏になる。受けとめ方の個人差。 あるな~ 今日、ある本を読んでいた。 傾向性の一例 性格 几帳面でまじめ 神経質で、ものごとにこだわる 感じやすい 周りの人に気をつかいすぎる 融通がきかない ライフスタイル 仕事にかかる比重が高い 気分の切りかえが下手 生活に変化がなく刺激がない 趣味がなく暇な時はごろごろしている こんな感じだった。 健康な心の9か条というのも・・・誠実であること・・・自身に誠実、他人の為に自分を必要以上に犠牲にしない責任を負うことができる寛容であること・・・自分の考えと異なることでも受け入れることができる確実でないことも受け入れられる・・・変わる可能性のあることも容認できる考え方が柔軟であること客観的に考えられる・・・自己中心的でなく周りの人間関係についても~。かかわり合いをもてる・・・人生のいろいろな状況に関心をもち~。挑戦できる・・・必要とあれば多少の危険をおそれずに挑戦してみようという気持ち自分を受け入れられる・・・長所、短所含め、自身を受け入れ、生きていることに感謝 時代が大きく変わる、社会不安の波がこころの時代をゆるがしている。こころの不安は、ストレスと向き合う力を低下させ、やがてからだの調子も狂わせる。「楽観主義」がいいみたい。 簡単に理解しただけ楽観主義と自己中とは違う。 これを勘違いしている人はたぶんストレスをばら撒いてる。 ~~~~~~さて! 今日は定期的に行っている眼科へ。コンタクトを取りに、メンドクサイ~「検眼してからお渡しします」「 C 」・・・上、 右、 左、 下 正直、ほぼ暗記しちゃってる「 い へ く ま よ ~~」・・・これもだいたいポジション覚えちゃったし検診(検眼)の意味あるのかなあ? その後は○ックタウンに買い物明日は土曜日、よって今日お給料日の方も多く銀行も列、宝くじ売り場も列、レジも列。振込みになって「一ヶ月ご苦労様! 」の言葉が日本の家庭から妻から消えたのでは?私もそうだった。 だから今日は勇気を出して・・・渡された明細を手にして小さなささやき・・・いつもはあんなに大きな声で笑ったり怒ったりするのに駄目だな私。 買ってきたものを整理して、洗濯物、お布団をとりこんで、バタバタ。CD1970代の曲(THE 70’S no.2)を聴きながらそのうち体が動きだし、週2行ってるダンスの振り付けの練習に変わった。それから、アクションにめりはり付けるドラムが気になり、2階へトコトコ「ああ、かわいそう! 眠っているわ・・・」 夕飯の準備をしないと5時半には家族が帰る。 エンジンの音は時刻を知らせる。 信号でずれたりしないのか? 不思議な車。夕方、子どもの声がしていたあの頃。今は犬がワンワン吠えるばかり。 散歩コースになっている家の前の道。風景が変わった。子どもが成長して、おまけに少なくなった近所。あの夕暮れのにぎわいは何処へ 私は5人兄弟の長女。 偉そうに言えない! 一番親不孝してきたかも末の弟とは14歳離れている、たぶん。 たくさんいて忘れた。高齢化社会に少し貢献。 彼と尚ちゃん(かわいいお嫁さん)は4人も子どもを! (今年の七五三の写真)私は一人しか生めなかった。 尊敬だ~! では今宵はこのへんで・・・香乙
2006/11/24
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終着駅(ラストシーン) ラストの交差点。 余韻に浸りながら、さて「 何を言いたい小説だったのか? 」 もやもやしながら、KEYを打っている自分。 エネルギーを使い果たしてしまったかな さて! 頭をリセットして、体も心もリセットして、一年を素敵に締めくくろう3月1日~ たぶん全国300書店の片隅に並ぶ本のタイトルは「奏でる時に」。うちの家族は 「奏でる欲望」 と言っていた。 情けない・・・ 真面目な顔をして話していたから黙ったいた ~ 30年後の玉手箱 ~ あと30年、生きたとして、可愛いおばあちゃんになっているか、醜いおばあちゃんになっているか(心身共に)、それは生き方次第。 生きられたらいいなあ・・・と今は思う。 これだけの時間があれば(脳と体が自由のは10年かな)いろんなことが出来るはず。それは今年、ブログをアップして尚、強く感じたことでもある。見知らぬ人との出会い(画面上だからこそ本音を言えたり、不思議な世界だった)自分への新たな挑戦、もともとの思い切りの良さ(=無防備な大胆と度胸=長所=欠点)が幸いして(=災いして)アンテナに素敵がいっぱい。 ツリーより素敵!現実ではないのに限りなく大きな存在。 心温まる居場所がもうひとつできた。 今年の大収穫。・・・と同時に、自然体と天然で(言い訳)ひと言、ふたこと、三言、振る舞いなんかで傷つけた人もいるかもしれない。 心のままにただただバカ正直に突っ走る私は・・・やっぱり未来線の運転手はできないのかな? とも思う。 自分がいやになる。 「 ごめんなさい! 」 ただ、5つの物語を書いた今年、エネルギー燃え尽きつつも・・・やっぱり今後も書き続けていきたいと思う。 バカはバカなりに書ける。 私の色がきっとある未来線に乗ってどこまでも、体と頭と時間と心が許す限り。読後感が「いいな~! 」 ってものを書きたい。 文章に埋もれたたわいも無い一言には多くの思いが込められている。他の小説や詩、随筆などから、どれだけ希望を貰ったか。 その為に、微妙な曲がり角にきている心身の健康(年齢とも言うかおばさん!とはっきり言おう、潔く! )を今は大事にしないと。そうして来年、形になって世に出る本を横目で見ながら、自由にのびのび書いていきたい。その為に、(土日の本業で得る些細な収入で)旅もしたい! 芸術(ライブや美術館、自然)にもっともっと触れていきたい! 人とも会って語らいの中から嫌味なく自然取材して (常識的に)アンテナに宝石をくっ付けたい。 感動したい! 共感したい! たくさん笑いたい!そうしてもっと成長したい! もう若くない。 でも時間が許す限り、一度しかない人生、今生きていられることに感謝して羽ばたきたい!「ああ、だんだん元気になってきた! 書くってこういう効果があるんだ~」 撮影 kitakitune05さん
2006/11/23
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photo byしっぽ2さん 玉手箱の紐を解く。紫音を去って一年半が過ぎた。スクランブル交差点。 人の波が無頓着にクロスしてあっけなく散る。梅雨が明けるのを待ちわびる太陽が悪戯に顔を出し、光のシャワーを注いでいた。上手に交わした太陽は雲を追い払い、時の流れを静かに見守る。背を丸めたサラリーマン、密着したアベック、流行のファッションで身を包むOL.夕暮れは三色のシグナルで速やかに移動する彼等を、心拍数を高めながら見届ける。「なぜ、そんなに急ぐのか? 」 女は出版社の名前が入った封筒を小脇に抱え、知的な額ににじむ汗を拭きながらシグナルの青を待つ。 きりっとした猫目が女の意思を見せていた。「急がないと! 」 白いシャツを捲り、腕時計を見る。 対角線上に舟形に髪を結った和服の女がシグナルの青を待つ。紫色の桔梗のかんざし。 白いうなじが男達を振り向かせ、尚艶やかに頬を染める。 鮮やかに染まり行く大都会のネオンにくちづけをしようと、夕暮れがやってきた。シグナルが青に変わった。ふたりの女は中心に向かう。 軽快に、そしてそよそよと磨耗から復元した意思を抱いて歩き出す。小走りの女の肘が和服の女にぶつかった。「ごめんなさい! 」「いいええ・・・」 ふたりは一瞬振り向いた後、波の移動に逆らえぬまま行くあてに進む。「千春さんかと思ったわ! まさかね・・・・・」「元気のいい子だこと。 昔いたわね、ああいう子。 美月ちゃんを思い出したわ・・・まさかねえ? 」 千春はしっとり去っていく。美月も待つ者の元へ走っていく。太陽と月が空にあった。 両者はにっこり微笑んだ。 意思と感情の強弱の狭間でもがきながら時が過ぎた。 明快は希望という効用によって真正面に虹を架ける。 闇から過去からくぐり抜け、架けられた虹の下をゆっくり歩けばそれでいい。七色にまどろみながら、捨てない希望を小脇に抱えて泣きながら微笑めばいい。 もう一つの玉手箱が開いた。 さらに2年が経った。男はゆるやかなメトロノームの音を聞いた。あれから四年。 停滞の中でわずかに聞こえる鍾乳洞の囁きに似た声。歳月を頭上に見送り、時折それに耳を傾けながら再び立った大都会。不規則な氷が琥珀に溶けだし、カキンと音をたてるまで見惚れた指先。 見惚れた瞳。 夕暮れの交差点。 隣の親子になぜか五感が反応する。懐かしい口調に覚えがあった。「ねえママ、あれが東京タワー? 」「うん。 尖っているでしょ? お空に向かって。 ね? 」「海も見えるの? あそこから」「どうかな? 今度行こうか、ママと海に。 ね? 」「お仕事止めたから、ママ、僕を連れてってくれるの? 」「うん。 悦郎も海が好き? ママもよ。 ね、金沢に行こうか! 海だけを見に! 」「うん、行きたい。 それ、遠くにあるの? 」「お顔に電気のお目めが二つ付いた電車に乗っていくのよ。 ね? 」 「・・・・・ね? 」 男は戸惑った。 多くの細胞から汗が噴出した。「あ! 悦郎、信号がウィンクしてる! さあ、走ろう! ね? 」「転ばないでね、ママ! 」 隣にいながら金縛り。 時は悪戯に早く過ぎた。 男は瞬間、幼児の手を引く女の背中を捕らえた。「うしろから抱きしめて! 」 その声を聞いた。戸惑いと金縛りに負けた数秒、人波に攫われたふたりはどんどん小さくなっていく。女の背中は男と同じ温度を残して街にのまれ、やがて消えた。 月が叫んだ。「追いかけて来て!・・・・・・」 完 長い間、ありがとうございました。カメラマンの皆さん、つたない文章をこんなにも引き立てて下さり感謝しております。 恵 香乙
2006/11/21
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photo by kitakinute05さん ぬかりなく望ましい指示に心が決まる。遭遇する出会いや出来事は、しなやかな強さと代謝のよさで美月に生への歓びをもたらす。「だから・・・事実と紫音を交換しに行くんだ私」 赤らんだ満足げを見送りにでた華たちは、街行く男達の視線を集めながら月の反射に煌いた。「またのおこしを! お待ちしておりますよ社長! 」「ああ、ありがとう」 一人が去った。「早坂様、お気をつけて」「今度は美月ちゃんに会えるだろうね? 」「ええ、それはもう! きっと・・・・・・」 純子が抱えた不安の百倍の笑みと蓄えた美声を夜に放した。黒塗りの車が静かに止まった。日向がそっと手を振ると、御一行が黒岩を囲って静かな夜を閉じて消えた。艶やかな日向がふわりと身を翻すと、華たちが一斉に街に背を向けた。「おい! 日暮! いるか?・・・・・・」事務所に小走りにやってきた日暮は、支配人が手にした白い封筒を見た。「何か? 何かありましたか? それは・・・・・」 日暮は差し出された温もりを手にした。 優しい温度が指に伝わった。「退職届? 」「馬鹿な女だ! この業界でこんな物を見たのは初めてだ、ん? 何を考えている?今、あの娘を手放せないぞ日暮! 」 日暮は眉間にしわをよせた支配人から目を反らした。「はい! ただ・・・・」「最近、何か変わったことは? はりきっていただろう? 新しい客もついた」「それはもう! だから・・・・きっと彼女は戻らない。 よくよくのことでしょう。残念です。 いつもあの子は突然で、連れ戻せるならそうしたい」「男か? 馬鹿は落ちたということか? 」「そうではないでしょう! 」 素早い一発に悲しげな余韻を残し、やがて言葉を失ったふたりはフロアーに向かった。「みんな、今日もご苦労さん。 ちょっとかけてくれ・・・・・・」 華たちはロングソファーに沈みはじめた。 渚と胡美、純子と明海、日向と揺香、そしてルナが不安な面持ちで腰掛けた。ミラーに囲まれた空間にワインレッドが浮き上がると、日暮が便箋を開いた。 切ない咳払いの後、それは流れた。 「 紫音のみなさんへ 突然の我儘を許して下さい。 扉を開いて十ヶ月、何もわからぬ素人の私に優しくしてくれてありがとう」「美月ちゃん!? そうなの? マネージャー? 」 渚が遮った。 てんでに顔を見合わせ、深夜の突然に慌てふためく。「最後まで聞きましょう」 日向が幅をきかせて不安を斬った。「みんなの顔を見ると辛くなる。 だからこれをマネージャーが読む頃はきっと私はこの街にいない。 すみません。 そしてありがとう。 日向さん、けじめをありがとう! 明海さん、華の誇りをありがとう! 純子さん、最初に声を掛けてくれてありがとう! 上原を交わした晩、懐かしい。 揺香さん、華連さんとふたりで守ってくれてありがとう! 渚さん、風雅でのコーヒー、楽しい語らいありがとう! 胡美さん、ケンカのホロー、ありがとう! ルナさん、武器を・・・ありがとう!裏方キッチンのお二人さん、カウンターでの内緒の一杯、内緒の相談ありがとう! ピアノの奏さん、素敵なメロディーをありがとう!日暮マネージャー、多くの配慮をありがとう! よきリーダーに恵まれました。最後に支配人、こんな私を拾ってくれて・・・ありがとう!あの晩私に「このままここで! 」と勇気の声を、本当に本当に感謝しています。 美月は大丈夫。 きっとまたどこかで再会の乾杯を! 辛くなるのでこの辺で。 昭和51年 12月26日 美月 」「馬鹿ねあの子ったら。 この業界でホステスが・・・退職届だってさ。 最後まで天然記念物だわ、本当! 馬鹿! 」 明海が目を潤ませてそう言った。僅かに声が震えていたことで、静まり返った空間に意地っ張りの涙がこぼれた。日暮は純子と目を合わせ、ひずんだまどろみを噛締めた。そのわけにある確信を得た日向が、いったん崩れたバランスを取り戻そうと煙草に火をつけた。大きな溜め息にのった煙が、囲まれたミラーの真ん中に肥大しながら広がった。 威勢の華が一輪消えた。疎外も希薄も寄せ付けない、本当は普通でありたい華が静かに街を去った。 年が明けた。 クラブ「紫音」 いつものロングソファーに純子と揺華がなめらかに佇む。隣でのんきに紅を指す胡美と渚に目をパチパチさせるルナが微笑む。「ねえ、口紅の色を変えたの。 わかる? ほら? 」「わからない」「見てないくせに、ほら! 美月ちゃんの忘れ物よ、このリップ」「それが言いたかったのね。 ねえ、日向さんみたいにこの指でこうして・・紅をつけられると色っぽいと思わない? 」「十年早いわよ貴女! そうそう、帆影の千春さん、東銀座にお店をだすそうよ」 明海がやってきたタクシーが止まってくれるのを確認した後、浅島に言った。「ねえ、見て? 綺麗な月! 」「本当だね」「星がこんなにたくさん! 」 明海は月を囲む宝石に見惚れた。「あの子、どうしているかしら? 」「ああ・・・・・・」 タクシーのドアがあいた。 まるでいつものように街は流れ、夜空がネオンに微笑みかける。「いらっしゃいませ。 ようこそ紫音へ」 次回 「紅つけ指」 最終回 「あなたに托します・・・・『追いかけて! 』 」
2006/11/19
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撮影・・kitakitune05さん 届かぬ手紙 悦史へ 日向さんよ、見て! ねえ。 夜行列車「能登」を教えてくれた。 あなたと左手だけの別れをさせてくれた人。 私よ、見て! ねえ。いつかこんな女になっている。 その時記憶が戻っても、あなたは私をわからない。まだ持ってるの、あの時の文字。くしゃくしゃよ、雨にぬれた手で書いたからよ。 「すまなかった 怖い思いをさせた あなたでよかった・・・・」 文字を見れば 声が聞きたくなる 声を聞けば 会いたくなる 会えば 肩を寄せたくなる 触れれば 唇を重ねたくなる まどろめば 肌のぬくもりを感じたくなる 合わせれば 離れられなくなる ずっと 一緒にいたくなる いられなければ 辛くなる そうして いっそう惹かれてしまう 愛は天国? 愛は落とし穴? 天使の素振りに躊躇い、 小悪魔の悪戯に落ちる 追いかけっこに疲れても 身をかわされると そっと下から覗き込む 「こっちを向いて! 」 そんな迷路をうろうろと 時も所も無いくせに 溶けたふたりの束の間が なぜか奔放に 戯れはじめる・・・・・・今、ここに。 あなたを追わない美月より 絵画・・小島 茂氏 65歳 いただきものです。 前回「風にふかれて」のチャコちゃんの絵と同じ位、大切なものです。
2006/11/18
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photo by pooh0529さんさん 声は心に乗っていく。 そしてその心には色も形もない。それでも声は沈みや歓びや戸惑いや期待を含んで放つ・・・嘘もつけずに。 紫音は活気に満ちていた。じっくりと酒を味わい、華と語らい憩う。 ピアノの傍では美月が言った「武器」を披露するルナがいた。 クラブ帆影の千春と会った晩、ルナを大輪に紹介した。「噂のルナさんね? ぜひ一度あなたの歌を聴きにいきたいわ」サパークラブ夕舞でのひと時は、ルナに釘を刺す美月のお節介に過ぎなかった。それでも今できること。 喪失、継続、保身、放任、好意、反発、それらを当てはめて行動は思考より早く一人歩きする。 巻きこむかもしれない感情や危険を省みることも予知能力も欠けたまま事を進めてしまう。 そうやって自分を保ってきたのかもしれない。運がよかった。 見守る者がどこかに控え、諍いを逆手に取って味方に変えた。 ただ、危険を救った悦史との再会。 落ちた恋。 別れのプラットホームがなかったならば美月の無防備に追い討ちをかけることは無かったのだろうか。 「あの子、変わったわ! 態度も体も小さくなったわ」 渚がピアノの横でしっとりと歌い上げたルナを見てそう言った。隣で明海が美月に視線を移した。「変わったのは彼女の方かもしれない」 琥珀の液体のまどろみを色も形も見えない心で見つめながら、隣の団欒に肩を寄せる。「美月ちゃんのイブのパーティー券、ルナが全部さばいたって自慢していたのよ」客を取られたも同然よ」 ヘルプでついた胡美が囁く。 美月の微笑返しが承知の視線、明海の目にしっかり届く。 揺香は更衣室で戻ってきた現金をバックにしまったおうとして、再び便箋を開いた。美月の文字がさらさらと流れていた。「揺香ちゃん、これで何も聞かずにいてくれる? もう大丈夫。 きっと大丈夫だから、ね?・・・・・・」 何かが始まり、何かが起きてなにかが終わった。 揺香は人が戻らぬうちに部屋を出た。 それでも地球はまわっていた。明くる晩も、その次の晩も、同じように夜が落ちて微笑む月に星が散りながら悦んだ。「いらっしゃいませ早坂様。 美月と申します」「やあ! 美月ちゃんだね? さっ! 掛けてよ。 帆影の千春から聞いてきたんだ。 ライバル店の女王に可愛がられるホステス、君だったの? 」「そうでしたか! 千春さんには可愛がっていただいています」 いつからどのように繋がったかわからない人がいる。自然のままに、時のすすむままに、関わりも別れも流れ流れて海に行く。「今後とも帆影ともども御ひいきに! 」 ルナの歌がステージ化され、8時になるといつも紫音は満席になった。イブの賑わいと売上げを先取りした空間に大きな男の笑いが止まらない。美月は日暮の合図で、キューブにパンプスの音を引きつれ名刺を差し出す。そうして程よい笑顔で静かに言うのだ。 「美月と申します」 日暮は空間に神経を張り巡らせ、華たちに数種の合図を送って空間を仕切る。サービスの限りを尽くすため、ヘルプの四人が使命に徹する。 自信を得た使者は嬉しい指名を得て新たな華へと変身をとげる。「マネージャー! 日向さんの席、あと二十分待ってください。 これではお客様が落ち着きません」「美月さん、よろしければ私がその間? 」「頼むよ、晴美ちゃん」「それから純子さんの席、どうでしょう? 大人数の接待です。 ルナさんは? 」「了解だ」 日暮は気配りが行き届く美月にわずかな不安を抱きながら、ルナに合図をした。ピアノマンの指は心の響きを鍵盤に充電して打っていく。 まるでドラムを叩くように。軽快なジャズが流れると、体を揺らし、かかとでリズムを取る男達がミラーに映った。 贅沢なイブが終わった。 融合はいくつかの分離をかき集め、夜のステージを最高のものにした。 「紫音」始まって以来のスタッフと華とリーダーの団結心、客の満足げ。「シャンパンを! 」「メリークリスマス! 」「乾杯ー! 」 男達は紫のリボンで包んだ小箱を手に、ビルの階段を上った。 「ああ! いい夜だった」 街のネオンを再び浴びて、夜風に頬を冷やしてもらうと彼等は散った。まるで万華鏡に散りばめた色彩の破片のように、速やかに街へ散った。 弛みない指令のスイッチがオフになった。選択は、美月の前にある日暗幕のように降りてきた。復活の扉を閉めるのか? 美月は駅の傍の歩道橋の上に立った。昼夜活動を止めいタクシー、人の群れ、ホームのアナウンス、活気の暮らしを見下ろした。天体の中で小さな営みが繰り返される。 「この街が好きだった・・・・・・」 過去に手を伸ばそうと掴めぬブランコを引っ張った。 涙が溢れた。 続く (取材ご協力ありがとうございました) {ご紹介}・・携帯に入ったものです。「亡き少女の作品、コメント・・泣いてしまいました。ひかれる男性~同性から好かれる人。包容力のある人 来世も一緒にいたいと思う人。一線を超えぬ大人の愛~B.そんな人もいると思う。 私は全身で愛したい!都内でバリバリ仕事を。すでにお孫さんがいる美しき親友からでした.
2006/11/17
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心のままに この絵、私が3年前から大切にしてるもの。彼女チャコちゃんは高校2年生でした。 動物の絵、ヒーロー、アイドル、花等、彼女は才女だった。お母さんとは友達。 絵を書いた子のお姉ちゃんが、息子と同級生(小学生時)。3年前、姉妹は国道16号線で右折の際、直進トラックにぶつかりました。雨の土曜日夕方のことでした。 残念ながら、20歳と18歳の未来ある姉妹は亡くなりました。 ほとんど即死でした。今でもあの日のことは鮮明に覚えています。 ニュースにもとりあげられ・・・・辛かった。 数ヶ月後、町の芸術祭(小規模ですが)が行われました。会場のインテリアを任された私、作品のデイスプレーを考えながら、彼女の絵を思い出しました。お母さんに「ぜひ!」と相談して油絵含む7点程お借りすることができました。当日、彼女の作品の前に「元気な笑顔」の亡きチャコちゃんの写真を置き、ちょっとだけ他より(漆塗り、硝子芸術、習字、短歌、手芸の数々、押し花、他)力を入れてしまいました。 当日、訪れた方の中に、彼女の作品を前に泣き崩れる同級生もいました。 彼女の絵は校長先生も、担任も、クラスメートも才能を認めていて学校の数箇所に彼女の大判の絵が飾ってありました。 芸術デザインの専門学校へ進む予定だったのに。 お母さんは、2年程娘さんの部屋の掃除も、カーテンも洗うことが出来なかった。私は同時に二人の子を亡くした彼女と、ただただ一緒にいることしかできなかった・・・ご主人とおばあちゃんも涙の日々。 今、三人は少し笑顔を取り戻し、仲良く暮らしています。 夏の終わりに、「何か1枚チャコちゃんの絵を欲しいな! 」そう言って頂いた絵が上の物。 小学生に人気のキャラクター?らしい。絵の下の「ありがとう!」の文字にチャコちゃんのすべてが出ていると思いました。誰にでも好かれる明るく元気が子。 皆に同じように優しくできる人気者。お姉ちゃんは偶然私と同じ名前。 おとなしくて(私と同じ)真面目で家族を大事にする子だったな。 息子も二人の死を・・・ 独り言 若者の会話から拾った・・・・・「ブラジャーって詐欺だよな! 」 ある病院で誰かが・・・・・・・MR検査。 トンネルが怖くて準備の着替えを済ませても 躊躇。 どうしよう! トンネルから出られなかったら? 「準備できました? 」 「はい・・・・」 検査室で思い切り泣きそうになった。 やったら「なーんだ! こんなもんか!」 恥ずかしいミス・・・・・・・「おとしまえ、つけな! 」 紅つけ指、前回の章のラストの啖呵。「つけな!が漬け菜!になってるよ~」 美月ごめん! カッコいい啖呵が『漬物』になってどうする~ ある晩のこと・・・・・・・・「オフクロ~! 最近二階の観葉植物どう? 元気?」 「はー? 何でまた? 」 息子の言ったのは「青年の木」 「どうして? 気になるの? とっても生き生きしてるけど」 「そうか、ならいい」 にやり 「言いなさい! 観葉植物に興味あったっけ? 」 「・・・俺が飲みきれなかった酒、たまに捨ててるんだ、鉢に」 焼酎が多いらしい。 取材。ご意見をお願いします 女性の方へ・・・・・あなたが「ひかれる人」(男性)とは? 簡潔にm(--)m 男性軍へ・・・・・・あなたが「かわいい人」(女性)と思う人は? 々 一線を越えぬ大人の愛と勇気・・・A.きれい事だよー!と思う.あり得ない B.あったら素敵だと思う、有り得ると思う。(独身同士ではない設定で。3月出版予定の「奏でる時に」のあとがきの文章で参考にしたいと思っています。 ) ケ・セラセラ 声を出して笑う自分がいる。 同じ位、最近涙も流す。 同じ位、ズボラになってる。 まあ、それもまたいいか! なるようになれ~ 次回予定 「社宅ときめき物語り」 ある繋がりからの年頭からのリクエスト 「もう一度、読みたい! 」 平成4年作。 廻り回って、今だ原稿が帰って来ない。 「次はアレね! ねえ社宅のアレ! 」 簡単に言うけれど、思い出しながら書くしかない。 たぶん、来年。 では・・夕飯の支度にかかります。 主婦 恵 香乙
2006/11/15
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Photo by kitakitune05さん 待機用のロングソファーにルナがズドン!と腰かけた。するとしなやかに脚を組んでいた純子がふっと浮き上がった。「うさん臭い子だわ! 」 胡美がぼやいた。バランスを崩した心がやっと始動し始めた美月は、苛立ちの声を聞きながら日向の隣に座った。「指定席はいいの? 」「ええ、そんなもの最初から無いんですよ」 渚がハート型のピアスを揺らしながら耳元で囁いた。「美月ちゃんのパー券、あの子が全部さばいたのよ! 生意気に」「そう、ありがたいわ。 一週間休んだ罰ね。 イブはヘルプで頑張るわ」 ルナがヒソヒソに気付いて美月の前にやってきた。純子がまたソファーに沈んだ。美月は大胆な切り替えのあるドレスを見上げた。「美月さんっていうの? 私、ルナ。 よろしくね」「こちらこそ」「私の歌を遮るほどの魅力があるのね、きっと貴女」「遮ったつもりはないのよ。 ごめんなさい・・・まだ半年目の若葉なの、お手柔らかに」自信ありげは小心者の裏返し。 下出にでてゆっくり探る。 敵も味方も紙一重。 あらかたの客がルナの歌と活気上昇の紫音を満喫して上機嫌で去って行く。まどろんだ優雅で高貴な空間に、スタミナのあるメリハリが付くことに戸惑う間もなく時間が去った。 新しい刺激を楽しむ常連、ルナとともに雪崩れ込んだ客は個性の華に魅せらる。そうして、いつしか接待にもってこいのクラブ「紫音」が再開しはじめた。 更衣室で揺香の困惑の瞳を捉えた。華連が香港へ帰ったように、こんどは台湾に帰るなどという究極はないだろうか?美月は少し錆びたロッカーにもたれかかった揺香に尋ねた。「どうした? 」 心を映し出す鏡が歪んでいる者同士は、バランスを崩して出くわせる。その晩、シガレットケースを取りに戻った美月は見た。反射的なポーズに言い訳は似合わない。 ルナが揺香のロッカーの前で振り向いた。「何していたの? 手を開いて見せて! 」「別に! 何か用事? 」「それはこちらのセリフでしょ! 早くその手を開いて! 」 揺香の言葉がやってきた。『たびたび・・・。あの子が店にやってきてから』『You doubt her? 』 疑っているの? 彼女を・・・・・・『・・・・・・』 それまで無かった事がある時を境に起こった場合、自然に考えられる答えを揺香もうすうす感じていた。 証拠がない。 よって固有名詞は口にしない。 美月は賭けに出た。 「さあ! その手に握ったもの、見せなさいよ、早く! 」「どうにでもしなよ! しょっ引くならどうぞ! 」「開き直るの? 見苦しい女ねえ、 落とし前つけなさい! 」「何だよそれ! 」 ルナは汗で濡れた合鍵を床に投げた。「癖なら今直ぐ出て行きな! 汚い流れ星はさっさと消えな! 」「美月、あんた何様? 」「雑音なんか聞きたくないんだよ! あんたの歌が雑音なら、その札も偽札だ! 」「雑音? 」 ルナが大きな体で立ち上がると、目を痙攣させながら美月の肩を突いた。「ほーら! 誇りがあるのね、歌に。 少しは見直したわ。 あんたね、転落するならまっさかさまに落ちろ! 半端なことやってんじゃないよ! ん! 人の健気を盗むなよ! 」 ルナの手が震え出した。 湖のような瞳の持ち主、やつれかけた慎ましやかな体、剥き出しにされたパワーはいったい何処に潜んでいたのか? ルナはたちまち言葉を失った。「消えるなら今すぐ! 残るなら・・・残るなら、てめえの武器で落とし前つけな! 」 続く
2006/11/14
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Photo byしっぽ2さん 夢うつつが頭の上をかすりながら去っていく。突っ張った心がポキンと折れても、意地悪がこれでもか!という程追いかけてきても息を止めずに、心が指差す方向へ歩いて行けばいい。 噛締めることに疲れた唇に紅を指して向かった先は夜の故郷。少しでも空に近づくようにと背すじを伸ばす美月。 クラブ「紫音」の文字がほんのり灯っていた。 いつか降りた階段と同じ感触をヒールの底で味わいながら重い扉を開けた。「試しに一曲歌わせたんだ! いや、これが上手いんだなあ、今まであんな歌の上手いホステスは知らないよ! 」 大きな体から有頂天が露出していた。険しい顔が待っているはずだった。 悦史とのけじめ、その為に仕事に穴を空けている。支配人は事務所に入った美月に気付いていない。 まるでコインの表と裏。状況は刻々と変化し、人の心も同じところに留まりはしない。「クリスマスは紫音がいただきだな。 顔の造作もあの歌がカバーしてるさ!贅肉? そんなものご愛嬌だー」 やがて無神経な受話器が置かれ、回転椅子がくるりと回った。「ん? なーんだ! 美月ちゃん、生きていたのかい? 」 百歩譲って楽観と受け取る最後の言葉。「すみません! 今夜から店にでます」 (客と寝るバカは落ちて行く! 私はそれを言わせないんだ! ) 上機嫌は、浅島が話していた歌の上手な新入りのお陰だと再確認した後静かに事務所を後にした。「こんなものよ」 そう思いながら華連からもらった桃白色のチャイナドレスに着替え、孤独感に苛まれぬよう濃い目の紅を指した。 扉を開けた。 空間は声量のあるルナの歌で快活な別世界になっていた。空気の肥大を感じながら、懐かしいワインカラーに目を向けた。満席だった。 注目が美月に傾きながらストップモーションの映像が流れた。「美月ちゃん! 」 思わず声をあげた純子に続いてポロポロと華たちが振り向く。ひとつ、ふたつ。 ぼやけたスクリーンにくっきりと仲間の顔だけがアップになった。一瞬ルナと目が合った。 それでもルナは大きなアクションとパンチの効いた歌声で客を引きつけていた。 リクエストのメモがピアノに並ぶ。 「いいねー! なかなかじゃないか! 」ルナを追ってきた客と常連があちらこちらに散っていた。 昨夜、言葉に出来ぬ心を汲み取ってくれた浅島がいた。 月に触れることもなく微笑みかけた真心の発露が美月の温もりに入り込んだ。そうして空間が鮮色から淡色へ変わったことに日暮の機転が始動する。「美月ちゃん、日向さんの席へ」「はい」 黒の御一行が賑わいだ空間に馴染むことなく淡々と時に酔っていた。「おかえり、美月ちゃん」「ただいま、姉さん」 黒岩が若い男に合図をすると、美月の前にグラスが置かれた。 素早さはどんな華も敵わない。 「けじめに乾杯!」 日向がグラスをあげた。「バーボン? 」 日向はそれ以上触れなかった。 悦史のことも急行「能登」のことも・・・何も。それでも心は多くを語っていた。 ルナという茎の太い華を迎えた空間。 少しシラケタ華たちが美月に視線を流す。遠くから近くから、賑わいを放りなげてグラスを交わした。キューブの中で華が微笑んだ。「美月ちゃん、お帰り! 待っていたのよ、きっと戻ってくるってね」 続く
2006/11/13
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PM 8:50仕事から帰宅。 2時間半、乗り換え意外は眠っていたな。乗り越さなかっただけましかも。 携帯のバイブが起こしたくれた。いつもは二つ先の駅まで行って、反対のホームへ何事もなかったかのように向かうんだ私。階段もしんどい、凄いロス! 寝ぼけ眼で恥ずかしい。 でも帰宅後、こんな届け物があった。さっそくインテリアに。「やったー! 」いきなり笑顔! 嬉しいな~。 手つくりだし・・・・・・あっちにうろうろ、こっちにうろうろこっちは玄関の花瓶の下に敷いた。 写真が大きいのは喜びの大きさ「お袋、飯食ったら? 」「お風呂、入ったら? 」そして、今夜はお風呂が先。 まどろんで癒されて、いろいろ思い浮かべて 「紅つけ指」 次回「アンバランス」の章を書いていたら、自分がアンバランスになった~なんで! 影響されやすいな、私。 バランスをとりもどしたら、アップしようと思う。 意外な美月のラストを是非見て下さい。 アンバランス 消えた月 あなたに托します(最終章) では、おやすみなさい。 恵 香乙
2006/11/11
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Photo by yuu yuuさん 分別を握り締め、美月は浅島の待つ夕舞へ向かった。「ごめんなさい! 」 浅島は緩やかな角度で息を切らせてやってきた美月を包み込んだ。長く感じた一週間の空白を埋めるのにふさわしい形無き一瞬の抱擁。分別が優しく微笑んだ。でしゃばらないセンスと知性だから傲慢などという厄介が存在しない。安堵のグラスがふたつ並んだ。 「元気そうだね」 あえてそう言った不自然が美月の心を詰まらせた。「浅島さん? 」「なんだい? 」「縦糸は涙。 横糸はね、ほら、こーんな感じの笑顔、ね? わかる? 」「うん、そうだね」 主語のない話が痛々しい。 (あるがままに受け入れよう! さあ、楽にならないと・・・・・・)「紫音はどうですか? 」 美月の話が反れた。 「浦島太郎にはなっていないよ。 安心していい」「そう? みんな元気なのかな? 明海さんも、純子さんも・・それから・・・・・」「ああ、君を待っているんじゃないかな」「明日から店にでようと思うの。 だから、けじめ! けじめなんだ」「そうか、俺は無害だからな」 穏やかな口調に優しい眼差しの香辛料が加わる。「そうじゃない、いえ、そうかもしれない。 浅島さんじゃなきゃ駄目な『けじめ』」 儚い束の間の快楽はいらない。 心を埋めるどころか新たな傷を増やす愚かもいらない。「けじめの乾杯といこうか! 」「すみません・・・・・・」「なんだ、口癖だな。 すみませんはいらない、さあグラスを持って」「・・・・・・」「こんな私の為に・・・私はどこかで利用している。 きっとそう! あなたじゃなきゃ駄目」「危ない言葉だな。 最後のひと言」 無防備は相手を選ぶことを心得ている。 (忘れさせて!なんて言わないから)(だからこうして会いに来た) 絡んだ視線のまどろみが危険から去った。 男にも女にもなり得る悪戯を、懸命な浅島が速やかに追放した。「もうすぐクリスマス。 クラブのイブは初めてだろ? 忙しいよ美月ちゃん」「イブ? そういえば、街の灯りが緑と赤に変わってる。 ね? 」「君がいないと店は月のない夜空になる」「星がたくさんいるでしょう? 」「月のいない晩は星もいない」 美月は心に安らぎを覚えた。 まるでビクともしない大木に寄りかかって小鳥のさえずりを聴いている心地になる。 「歌の上手い子が一人、入った」「歌? そうなの? 私先輩になったのかな? なーんて偉そうに言えないね、馬鹿だから私」 美月はいつのまにか浅島のペースに馴染んでいた。 単純なのか、素直なのか、染まり易いのか、察知直後の利口の作動か、今だ掴めない浅島。男を横に置き去りにしたまま、魅せる月の軌道を横道からさり気に戻す。「無理は禁物だよ美月ちゃん」「はい」 浅島は追加の本心をグラスに托した。 氷をカラカラさせながら琥珀と話した。(復活して大いに咲き誇るといい。 存分に咲いた後、引き際のチャンスがやってくる。タイミングを逃さず、月から太陽になるといい。 その時はいつでも『けじめ』になる。」 美月は去っていったタクシーをしばらく見届けた後、あえて消さなかった部屋の灯りを見上げた。 夜露がしんみりと肩を冷やしても灯りが暖めてくれることを覚えてしまった。「もう、暗がりの扉にはしっかり鍵をかけたから! 私は大丈夫! ね? 」
2006/11/08
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Photo by pooh0529さん バラードが奏でられる。曲線のおりなすリズム、光のグラデーション、華の香り。三重奏は空間をゆらゆらと舞う。 昨夜まで奥ゆかしく灯っていたライトスタンドが、早々に置かれたツリーの煌きに追いやられ、ひっそりと佇む。 まるで姿の見えない美月のように身を潜めている。 閉店後、クラブ「帆影」と同じ光景が繰り広げられる。日暮がクリスマスパーティ券を華たちに配った。 華やかなイブの夜の裏には浮かない顔がいくつも並ぶことを街は知らない。 他店や仲間同士の競い合いを生じるにふさわしいチケット。 強いられたノルマ。 ただ一人、大きな腹と楽観を露出した支配人が、売上げ貢献にもってこいの異質な華の飛び入りに喜ぶ。 美月の留守中に流星のようにやってきた新入り・・・幹の太い華。 予想のつくロボットのような人間には興味が向かない。 何をしでかすか見当がつかない人間には近寄らない。 そして人は必然と偶然の間を無意識の安全地帯として生きることしかできない。 美月は去った愛の後遺症の錘を引きずりながら、スズランから零れる灯りを悲しげに浴びていた。 冷えきった部屋、秒針の音が妙に響きはじめると何処からともなくやって来る。 あの青い物体、夜行急行「能登」。 虚ろな闇に引き込まれながら覚醒に陥る。「ねえ、悦史? 聞こえる? 」「ああ・・・・・・眠れないの? 」「違う。 もったいない、眠ったらすぐに朝がきちゃうでしょ! 」「しかたないな、こっちへ来る? 」「嫌だ、行かない! 私の方へ来れば? 」「俺は行かない」「じゃあ寝よう! お や す み 」「・・・・・・」「ねえ、寒い。 まだ冬じゃないのに足が冷たい」「だから? 」「暖めて? 」「駄目だ」「どうして? 」「俺が冷たくなる」「いいじゃない! さっきまで熱かったんだし」「可笑しなことを! 意味が通じない」「昼間のもみじのように、ほら!まだ青い。 赤く染まりたいってこの手も、ね? 」 美月は手の平を毛布から出して、隣のベッドに見せつける。「それなら素直にこっちへ来ればいい」「私のこと好き? なら来て、こっちへ」「うるさい! 眠れなくなった」「ああーっ! 照れてるの? 困ってるの? 」「・・・・・・」 そうして濃紺の夜の彼方へ再び消える。 気力のないふたつの目を光らせながら切ない声でうなりながら、悦史を連れて暴走する。 しらじらと夜が明けた。 スズランの灯りが朝陽に負けていた。手を離した瞬間、悦史は新たな線路を行った。 行く先に待っているのは温もりだけではない。 緩やかな暮らしが直ぐに両手を拡げているとも限らない。 それでも生きていくしかない。美月も時の悪戯にぐずぐず痛めつけられる事を好まない。 ならば・・・・・・「浅島常務さん、いらっしゃいますか? 」 それは一本の電話から始まった。 続く 次回「時の悪戯 2」
2006/11/07
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「紅つけ指」 第一章闇花 たぶん私は 陽炎 夕星 バカは落ちていく 美月デビューの晩消えない灯り 殺気「雨の訪問者」 消えた訪問者 綺羅星 はじめての指名「黒の御一行」 華達の戦い このままじゃ終わらない 第二章紫音香「再会」 消えた客席 誘惑 小悪魔の条件 あの人・・・・・・紅をさす時 うしろから抱きめて・・1~3 扉があく時 リーダーの小指華連 ピンクの封筒 忠告 静笑「追われる車」 真昼の月 第3章追突 俺がもし・・・・・・ 荒波 ラストチャンス 朝よ来ないで! ぬくもりふりむかないで・・・1,2 今後の予定~ 時間の悪戯 アンバランス 消えた月 最終章「あなたに托します!」 クラブ「紫音」 美月&遠くにいる悦史 あえて連名にて
2006/11/06
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Photo by kitakitune05さん なめらかな膨らみのある唇に煙草を近づけた渚が思い出したように言った。「ナンバーワンもたった一発の打ち上げ花火だったわけ? 」「そんな言い方するものじゃないわよ」「ああ、やっぱり男なのね。 今の純子さん見てわかったわ! 一週間近く店を休む理由は他にないものね」 純子はロッカーの扉をガタン!と閉めた。かつて純子の妹分だった胡美が、渚の隣に腰掛けた。金ラメをあしらった黒のドレスは華連のお気に入りだった。 純子は香港へ帰った華連のドレスを、まるで当たり前のように着ている胡美に少し腹がたった。「美月って、ジェットコースターみたいだわ、まったく! 」 純子は自由奔放な二人の会話を背中で聞きながら更衣室を出ようとした。「気取った冷たさもあるけど、飾り気が無いから許せるのよ」 鮮烈なデビューを果したクラブ「紫音」の異質な華一輪。 気品も誇りも縁遠い夜の華、独自のこだわりを繰り返す華・・・美月。 ただ甘いだけの果実を零しながら、おおらかに戯れる渚と胡美。 おぼつかなげな光をおび、肌触りのよい毛布で体の隙間を埋めながら昨晩ベッドの中で純子に言った日暮の言葉。「周りを放っておけないから、周りも放っておかないんだ」 交わりの余韻にまどろみながら、何となく頷いていた自分が蘇る。 純子が我にかえって「さあ、そろそろ開店よ! 」と言う。渚はハンガーに掛かった華連のドレスを手早に見始めた。「ねえ、これなんかどう? 私も頂こうかしら? 」「馬鹿ね! チャイナドレスはね、揺香さんみたいに首がこうーやって長くないと似合わないのよ」 胡美が笑いながら顎を天井に向け首を摩って見せた。「美月ちゃんが帰ってきたら、どれを着るつもりかしら? 」「気になるのね、彼女のこと」「てめえら! 嘗めんじゃねえよ! これが紫音のベテランの姿かよー! ってあの子、いい度胸してたじゃないね」 二人はリンチの晩を思いながら、姿が見えなくなって知った月の存在をか噛締めた。 16番ホームが現れた。 美月がのぼった階段の先に閑散としたプラットホームが待っていた。8号車の位置する辺りに疲れたベンチがあった。美月は氷のようにつめたいベンチに静かに腰掛け、見たくない時計に目をやった。9時10分。 人の気もしらないアナウンスが流れた。深呼吸を数回しながら夜空を見上げた。 ふたりだけのスクリーンが展開された。「どこが好き? 」 「アルプス」「何が好き? 」「りんご、オーロラ、それから・・・・・・あなた! 」 クールな顔がほんのり和らいだ。 「お巡りさんみたいな連発」「連発に即答してるな、君らしい。 りんごとオーロラがどう繋がる?」「じゃなくて、りんごと俺が何故同じ答えの中に存在する?って言いたいくせに! 」 やがて階段から聞こえる子供の声でスクリーンが閉じられた。幼い男の子の手を引いた小柄な女性に添って悦史が現れた。美月は反射的に顔を反対側に向け、限りない他人になりきった。旅を終えた晩、涼しい笑顔で手を振った悦史が違う笑顔で佇んでいる。いとおしい気持ちが許容量を越え過ぎた。 16番線にのっそり青々とした車体が入ってくるなり、美月は体の振るえを必死にくい止めた。悦史と妻子を包み込むように添う、もう一人の男が美月に気付いた。「まさか! 」の視線が一瞬美月に刺さったが、いとも容易く平常心を取り戻すと男は悦史に全神経を向けた。 「金沢署です。 クラブ紫音の美月さんでしょうか? 」 見覚えが的中した。「大丈夫! 私は何にもしない。 ほんの数秒の目的の為にここにいるだけ! 」美月は列車がブレーキを踏むまで、ベンチから離れず男に信号を送った。そうしてコートから小さい両手を出して見せた。 男は意思のある動作を見逃さず美月の覚悟を信じる動作を返した。 囲いのある空間には確かにあったぬくもりがすっぽり消えたホーム。夜風がしなやかに通り過ぎる。 美月の片腕分の半径の中に悦史がいたならきっとしがみ付いて離れない。 悦史を連れ去る青い物体はホームにぴったり寄り添ってしまった。 夜空から可動の合図があった。 美月はベンチからゆっくり立ち上がった。 その瞬間を迎えた。妻子と悦史の間に男が入り込んだ。 妻子に微かな笑顔を浮かべながら話し掛ける。一歩を出した。 列車に向かって数歩あるくと直ぐに方向を変え、列車と平行に進みだした。 熱く燃えたいとおしい恋人が他人になってすぐ傍にいる。秒針と鼓動が同時に波打って美月を誘導していった。列車の扉が開かれた。 悦史のすぐ脇に辿り着いた美月の左手、通りすがりの見知らぬ女の左手が、悦史の左手をぎゅっと握り締めた。わずか一瞬の出来事だった。 静かな予感が漂った。「気づかないで! そして、少しだけ気がついて! 」 今ひとたびの哀れが微笑んだ。 導線上にもう誰もいなくなった途端、神経の集中から開放された細胞の多くが崩れ始めた。 「ん?・・・・・・」 悦史が振り向いた。 人のいないホーム、そして女が去って行った。確かに感じた手のぬくもり、懐かしい感触が残った。 悦史は左の手のひらを見た。「さあ! 林崎さん、乗りましょうか」 男が悦史の肩に手をかけた後、足早に去って行く美月の後ろ姿を見た。掴んだぬくもりをポケットに仕舞い込むと、悦史との最後を見届ける星の群れが精一杯の煌きを放ちながら、たった一つの月を励ました。小さな手に充電させた悦史との想い出を、誰にも奪われることもなく生きていける。漏れていく潤いが雫の形を失って唇に流れ込むと、肩が僅かに震え始めた。「さようなら・・・・・・私を見ないで! 振り向かないで、さっさと消えて!能登に乗って彼方に去って! 」 21時30分、急行「能登」金沢行きが発車した。 続く
2006/11/04
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Photo byしっぽ2さん 何くわぬ顔で太陽が顔を出す。光に包まれた街を見下ろしながら、母国香港へ早々に帰って行った華連を想う。 ベランダには息絶えぬ鉢がいくつか並んでいた。余力で水を注ぎ零すと、乾いた土が素早くそれを吸いんでいった。 「惜別の涙が枯れてないのなら、時よ! 早く目の前から消えて行け! 」 美月はやがて何処からともなくやってきた飛行船に目を移す。それはあまりに無神経で平穏で、どうしようもなく幸せそうに浮かんでいた。裏腹に背を向け、手にした便箋を読み返す。「日暮マネージャへ いつも配慮をありがとう。 今夜もまた、わがままを許して下さい。 店に行かれなくなりました。 黙って去ることはしません、美月は・・・・・・ 同伴の約束の浅島様は明海さんにお願いしました。 黒岩様には日向さんから、美月が留守のことを伝えてもらいます。 けじめをつけてから紫音に帰ってきます。 純子さんにも心配しないよう伝えて下さい。 それから華連さんが辞めた時においていったドレス、勝手をしました。 今夜、クリーニングからもどるはず。 胡美さん、揺香さん、渚さんが時々着てくれたら喜ぶと思います、華連さん。 よろしくお願いします。 ご迷惑をおかけします。 美月より 」 あっけなく日が落ちていった。 雑踏を見つめながら、硝子ごしに「上野駅」の文字を目に叩きつける。冷めたコーヒーを最後の一滴まで喉に通し、人垣の移動の繰り返しを見届けた。交差点ではいくつもの人生がすれ違う。 家路に向かう人、これから始まる夜の世界へ気持ちを着替える人。 透明なバリアを突き抜けながら裏腹がすれ違う。 「時」がやってきた。 どんな荒んだ景色もやがては人込みにまぎれて輪郭を失うのだろう。 シワくちゃになった心も、やがてざわめきが剥れていくのだろう。 美月は決心を立てた。北の玄関口に向かって歩き出す。 明るさを寄せ付けないその駅に一歩を入れた。「上野発21時30分 急行「能登」金沢行き。 16番ホーム 8号車」白いコートの襟を立て、夜の華を脱ぎきれない女が意思を持って歩く。コツコツとパンプスの音が響く。 「あと30分」 時計をちらりと見た。 横たわる漂泊者を視野に巻き込みながら、低いコンクリートの天井に圧迫されながら疲れを漂わせた空気をいっそのこと体に染み込ませながら・・・・・・歩く。 続く
2006/11/02
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Photo by kitakitune05さん 「届かぬ手紙を書きます。 悦史様・・・・・・ まずは、ありがとう!を言わないと、ね? あんな出会いの後、こんな意地悪な別れが来るなんて あなた、想像していた? 失った記憶、いえ失わされた記憶のお陰で せっかくあなたの温もりに出会えたのに 触れ合えたのに 愛し合えたのに 突然の深夜の訪問者に包丁を向けた私 刺さないんですか? そう言った覚悟の瞳 あなたの中に私を見た時、私はあなたの濡れた髪を拭いた 消えてしまったあなたとの再会「紫音」 あそこはね、私を救ったお部屋なの どうしてふらっと来てしまったの? ねえ? 過去を押しつぶそうとして少しもがいた私 明日を恐れない私を作ろうと、ちょっと頑張っていた私 ふたりはきっと無意識層の底の底で呼び合った、ね? 綺麗な目をしてロックを呑んでた 平静を装い、運命の悪戯に「なんてことしてくれたの!」 「ありがとう! 」でもなく、「困るじゃない! 」でもなく ただただ、目の前のあなたを静かに受け入れる振りをした そうして運命の子悪魔が三度目の悪戯をしにやってきた 今度はあなたが私を助けにきてくれた たったそれだけの事、ね? どうって事ないじゃない、ね? 車で抱き合い、束の間の幸せをかみ締める旅に出た 後ろから、何度も抱きしめられた 多くを語らないあなたの呼吸をいつも聴いてた 胸の鼓動と煙草の匂いが好きだった 愛は時間の長さじゃなかった、ね? 引きかえにして持っていかれた私との想い出 私は返して!とは言わない 言いたいけれど、言わないんだ 明日、行くからね プラットホームで最後のあなたを感じにいくから 夢の中に連れて行ってくれたあなたに そっと手を振りにいくからね だからもう・・・・・・泣かないんだ私 消えた記憶のお陰で 私達は「永遠」を手に入れた、ね? 封じ込めた愛の「ひたすら」があれば 犯されない「絆」があれば 無邪気と照れの「惹かれあい」がふたりをきっと 素敵にしてくれる だから強くなるんだ私 いつかどこかで 爽快な青空の下、スクランブル交差点で もし私とすれ違ったならば 愛のキューブを丸くしようか! どんどん溶かしてしまおうか、ね? 溶けた時からふたりではじめようか、ね? 何を?って、今度こそ意地悪な出会いじゃないんだから 一緒にずーっと、ずーっと一緒にいたいんだ! 傍にいて欲しいんだ! 大きな腕で包んでほしいんだ! 私も微笑みかけるから! もう泣かないから! ね? 美月
2006/11/01
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