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著者; 荻原浩 仕事運にも恋愛運にも見放され、今や自殺願望しかない主人公:江沢潤という若者が、窓越しに聞こえる祭囃子に導かれ近所の神社へと向かう。金魚すくいの屋台に立ち寄り、狙いを定めた1匹の小さな赤い琉金に自分の明日を託す。「もしとれなかったら、その時は、この辺りでいちばん高いマンションの屋上へ行く…」 「この世から消えるのは別に怖くない。息をするだけで苦しい毎日から逃れられるのだから。」でも、琉金をすくい上げた潤は、琉金と赤い水草と水の入ったビニール袋を受け取り、トボトボと家路に戻り途中の古本屋で金魚の飼い方の専門書を買う。急いで買った[金魚傳(きんぎょでん)著者:長坂常次郎]と書かれた古本は文章だらけの古い書物で、その冒頭に、「金魚の歴史は、今を遡ること凡そ千七百年前、中国の晋の時代を嚆矢(こうし)する。長江(揚子江)水系の深山に棲息するヂイ(中国ブナ)のうちの一匹に、「火の如く赤い魚」が現れた。」と書かれている。潤は部屋に戻り応急処置として、破局した彼女が残していった大きい広口瓶に温度調節したミネラルウォーターを注ぎ、琉金と一緒に貰った水草を入れる。「とりあえず仮住まいだ。ひと晩だけ我慢してくれ」「水道水に残留する次亜塩素酸カルシウムは、紫外線により揮散する。『ひなた水』は誠に心地好い環境を整えてくれる。」金魚傳。 潤は洗面器と鍋に水道水を満たしてベランダに置いた。 「メモリアル商会」という仏壇・仏具販売のノルマ実践会社に籍を置く潤は、斎場や霊園に出向き顧客を獲得しようとするが成績が上がらない。会社員になりたいという強い思いから職種を選ばずやっと就職できた会社が超ブラックだったことに絶望を抱いている。 その夜、潤の部屋の暗闇にずぶ濡れの若い女が現れる。いにしえの時代から時空を超えてやって来たような赤く裾の長い衣装の美しい姫が立っている。 「ど、こ、だ。」姫の唇が動く。 混乱状態の潤は、自分は統合失調症を患って幻覚を見ているに違いないと理解するが恐怖で意識を失ってしまう。目覚めると姫の姿はなくいつもの朝があり、傍らの広口瓶に昨日金魚すくいで捕った小さな琉金が泳いでいる。潤はこの琉金に「リュウ」と名付る。でも、前触れもなく現れるずぶ濡れのお姫様との奇妙で摩訶不思議な同居生活も同時に展開されていく。 中国は晋の時代、残虐で恐ろしい運命に命を落とした高貴な男女の悲恋物語を軸に、(怨念と復讐心はさておいて)天真爛漫な赤い琉金のリュウの世話をするうちに心から愛してしまう主人公を切なくユーモラスに描いたとても面白い小説でした。〈全ては繋がっている〉長坂常次郎の言葉。「え!」って思える展開がある悲恋物語だけど、とてもさわやかな最終章でした。
2019.05.16

2019.05.05

新天皇陛下は五月一日午前、皇居・宮殿の正殿「松の間」で、皇位継承儀式「剣璽(けんじ)等承継の儀」と、国民の代表と会う「即位後朝見(ちょうけん)の儀」に臨まれました。 お言葉全文日本国憲法および皇室典範特例法の定めるところにより、ここに皇位を継承しました。この身に負った重責を思うと粛然たる思いがします。顧みれば、上皇陛下にはご即位より、三十年以上の長きにわたり、世界の平和と国民の幸せを願われ、いかなる時も国民と苦楽を共にされながら、その強い御心をご自身のお姿でお示しになりつつ、ひとつひとつのお勤めに真摯に取り組んでこられました。上皇陛下がお示しになった象徴としてのお姿に心から敬意と感謝を申し上げます。ここに、皇位を継承するに当たり、上皇陛下のこれまでの歩みに深く思いを致し、また、歴代の天皇のなさりようを心にとどめ、自己の研鑽に励むとともに、常に国民を思い、国民に寄り添いながら、憲法にのっとり、日本国および日本国民統合の象徴としての責務を果たすことを誓い、国民の幸せと国の一層の発展、そして世界の平和を切に希望します。剣璽等承継の儀と即位後朝見の儀は、憲法に定める天皇の国事行為として行われた。剣璽等承継の儀では、陛下が皇位の証しとされる「三種の神器」のうち、剣と勾玉(まがたま)(璽(じ))、国印の国璽(こくじ)と天皇印の御璽(ぎょじ)を継承されました。即位後朝見の儀では陛下のお言葉に続き、安倍晋三首相が国民代表として「天皇陛下を象徴として仰ぎ、平和で希望に満ちあふれ、誇りある日本の輝かしい未来を創り上げていく決意です」などと祝意を述べられました。 「初春の令月(れいげつ)にして、氣淑(きよ)く風和(やわら)ぎ、梅は鏡前(きょうぜん)の粉(こ)を披(ひ)き、蘭は珮後(はいご)の香(こう)を薫(かお)らす。」 万葉集は天皇や貴族、防人や農民まで各地の幅広い立場の人たちが詠んだ、およそ4500首がおさめられた1200年前の歌集、日本の国柄を現し世界に誇れるもの。人々が美しく心寄せ合う中で文化が生まれ育つという意味が込められている。梅のように咲き誇る花を咲かせる日本でありたい。厳しい寒さの後に春の訪れをつげ、咲き誇る梅のように人々がそれぞれの花を咲かせることができるということを込めて「令和」とした。国民ひとりひとりが希望に満ちあふれた時代、ひとりひとりが大きな花を咲かせて欲しいという願いが込められる。
2019.05.02
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