2015年05月の記事一覧 | 夏希ヒョウの世界へようこそ

「ジョー」と「一歩」を比較する～３～

カリスマ･テーマ･読者の想像を超えた展開など「一歩」には不足していると述べましたが、もう一つは“ヒロイン”の存在です。ジョーがパンチドランカーになったのも、力石が死んだのも、カーロス･リベラが廃人になったのも、全ては葉子が原因である。もちろん、彼女の思惑とは別の結果。力石は過酷な減量に耐え切れなくなって、遂に水を求めて水道の蛇口に向かってしまった。しかし、見張り役の練習生が（葉子の指示で）蛇口に針金を巻きつけて、水を出せなくなっていた。それでも、減量に耐えかねて水を求めて暴れる力石に、人間としての弱さを見た葉子は嬉し涙を流しながら、「これを飲んだからといって　力石徹が力石徹でなくなることなんて絶対にないのよ!　　私は、あなたが人間としての弱さを少しでも持っていてくれたことが、とても嬉しい」と、コップ一杯の水を差し出した。その言葉で自分を取り戻した力石は、水を捨てて“打倒矢吹”に更なる決意を誓った。しかし、その葉子の言葉がアダとなって力石は帰らぬ人に。カーロス･リベラは、（力石を殺して、ボクサーとして立ち直れない）ジョーの野生を蘇らせるために葉子がベネズエラから来日させた。そして、ジョーと戦い廃人に。野生･ジョーはリベラとの試合で再生したかに見えたが、まだ納得しない葉子は「野生児･ハリマオ」を刺客として送り込んだ。結果、それがジョーのパンチドランカーの症状を悪化させる原因になった。彼らは葉子に翻弄されたといえる。（だから女は恐ろしい）財閥の娘がボクシング界に関わることで色んな弊害（へいがい）を生んだが、一番そのことを表しているセリフがあった。それは、試合中にコーナーで休憩しているジョーが、リングのコーナーから（リング外の）葉子に向かってうがい用の水をブッ掛けながら、「女が俺達の世界に顔を出すんじゃねぇー!!」と、怒鳴るシーンである。ただの町のチンピラにセレブなお嬢様が恋をする……という設定は、原作者の意向だと思われるが、これが作画家にはよく分からなかったらしい。だから、紀子が出てきたと思われる。（原作には、紀子はいなかったらしい）普通の娘が“ささやかな幸せ”を求めてジョーに恋をするが、結局彼にはついていけなかった。完全無欠の世界チャンピオン、ホセ･メンドーサとの試合で廃人になるかもしれないリングに向かうジョー。しかし、葉子は控え室で愛の告白をすると共に（パンチドランカーの）ジョーを引き止める。「廃人となる運命が待つリングに、あなたを行かせるわけにはいかない」という、葉子を振り払うジョーのセリフが格好よかった。「リングには、世界一の男が俺を待っているんだ」ジョーは試合が終わった後、葉子に試合で使ったグローブを手渡す。「これを……アンタに、受け取って欲しいんだ」これは、ジョーの精一杯の愛情表現だったのだろう。実はジョーは葉子に初めて会った時、一目惚れしていた。しかし、意地っ張りな彼は、そのことをひた隠しにして葉子に突っ張っていたのだ。それも、好きなればこそ。自分に素直になれない子供のような心境である。しかし当初、葉子はチンピラ･ジョーには目もくれず、力石に恋をしていたと思われる。（力石もまた葉子に恋をしていた）それが、結局は巡り巡ってジョーと葉子が……という運命のいたずら。そのジョーは、葉子によってパンチドランカーを加速させ、廃人に……。やはり「あしたのジョー」は、いろんな意味で名作である。つづく。

なぜメイウエザーに、マネーが集中するのか

『華麗なる』ボクシングであることに変わりはないけれど、そして勝つことのみに徹すれば、五階級制覇「シュガー・レイ・レナード」（中量級の元祖・スーパースター）ですら攻略は難しいといわれているメイウエザーですが、決して危険な橋は渡らない・冒険はしない・倒しにかからないという、安全運転的なボクシングに対して、なぜ人気（金）が集まるのか……？おそらく米国人は、かつてのタイソンやデラホーヤといった自国民のスター選手に飢えているのでは？（無敗＝最強？　いや、洗練されたスタイルに人気か？）ヘビー級も久々に米国人の王者が出たけれど、まだ真の王者と呼ぶにはこれから実績を積まなくてはならない。そのワイルダーが、ウラジミール・クリチコ相手にKO勝利ができれば、メイウエザーに取って代わる存在になりえるかもしれません。（ヘビー級王者は、強い米国の象徴であったはず。）今後のボクシング界は、S・ウエルター級のサウル・アルバレス（メイウエザーに判定負け）が、スーパー・スターの第一候補でしょう。何といってもあのパワーあふれる強打が魅力。彼がミドル級に上げて、WBC王者のコットや現在ミドル最強といわれるWBO王者のゴロフキンらと闘えば、ビッグファイトの期待が集まる。そして、村田選手がどう絡むか？

（完全版）メイウエザーｖｓパッキャオ、テレビ観戦記。

メイウエザーの判定勝ちという、結果は予想どおり。「凡戦」といった声など賛否ありますが、緊迫したアイコンタクト、絶妙なフェイント、激しい打ち合い、華麗で強固なディフェンス、凄まじいスピード……さすが、当代トップである二人のボクサーに相応しい内容だったと思います。パッキャオの鬼気迫る形相は、今までで一番気合いが入っていた証拠でしょう。ただ、メイウエザーは自身の無敗レコードもあるので、精神的には絶対に負けられない「背水の陣」で試合に臨み、試合中も崖っぷちの心境だった。それが時として安全運転となって、批判される……。その点、パッキャオは、彼ほどのプレッシャーはなかった。負けることに対して。しかしパッキャオに、いつもの突進が少なかったのは、メイウエザーの右カウンターが邪魔だったから。マルケス戦での（右カウンターによる）失神KO負けもトラウマとして脳裏に焼きついていて、それは頭で考えるより本能が躊躇させたのかもしれません。それにしても、あの（マルケスと同じパンチを狙った）右カウンターとパッキャオに対しても後ろへ下がるだけでなく逆にプレッシャーをかけたのは、作戦勝ちというか、メイウエザーの底力を見た思いがしました。パッキャオが右肩を痛めて試合延期も考えたというのは、負けた言い訳にも聞こえますが、世紀の一戦を控えてそれだけの激しい練習と、過去の激戦も無関係ではないでしょう。痛み止めの注射を（コミッションから）止められたのは不運・可哀想でした。やはり試合のVTRを見返すと、（コット戦、マルガリート戦、モズリー戦と比べて）右の鋭いリードジャブがあまり打ててない。おそらく右フックではさほど痛みを感じないけれど、ストレートのように前に出すと激痛が走ったであろうことが分かります。医師の診断結果では、右肩は『鍵盤断裂』（けんばんだんれつ）で近日中に手術をするという。しかも試合3週間前に痛めたというから、一番大事な時期に怪我をしてしまった……。確かにこの時期は、疲れが溜まりはじめるときです。これから試合に向かってさらにハードな練習をしなければならないし、疲れがピークに達する（試合の）一週間前ぐらいから徐々に疲れをとるというのが通常のパターンなはず。おそらくはメイウエザーも万全ではなかったと思われますが、勝ったのだから結果オーライといったところでしょうか。（拳を痛めていたらしい）ただ、肩の筋肉は複雑に出来ています。よって痛めやすく、治りにくい。強打者はサンドバッグ打ちで肩を痛める場合が多いですが、たとえば10Rのバッグ打ちなら強く打つのは少なくして、スピード重視で打ったり、リズムやテンポ・フットワークを使ったりして、出来るだけ肩に負担をかけないようにしたほうが……。小泉さんが「メイウエザーは、おそらく再戦は受けない」といっていましたが、パッキャオの怖さを体感したメイウエザーは、その可能性が高いでしょう。（二度戦った）マイダナより、パッキャオのほうが危険です。仮に今回以上の報酬を得られたとしても、彼にはこれ以上稼ぐ意味がありませんし。しかし、ある意味パッキャオと再戦せずに9月の試合を最後に引退するほうが勇気がいるでしょうが。それは、ボクシングが博打に近い競技だからです。一発のパンチ、一瞬の判断で勝負が決まるという……。だからボクサーは、ボクシングが辞められない場合が時としてある。『ボクシング・ジャンキー』（中毒）とは、そのこと。『パンチドランカー』とは頭を打たれることがある種快感になって、パンチに酔う状態のことです。なぜ快感になるかというと、打たれると意識がボーっとなり虚（うつ）ろになって、それが気持ちいいと感じるからです。だから、ジャンキーとは違う。打たせないメイウエザーにとってボクシングとは、人生の中でこれ以上ない、スリル満点の生きている時間。それは彼だけでなく、全てのボクサーにいえることです。しかもメイウエザーの場合は、破格の報酬を得て、世界中から羨望の眼差しを受ける。そう思うと、もしかしたらメイウエザーは再戦に応じるかもしれません。単なる殴り合いを芸術の域まで高めることが、ボクシングの到達点であるといえるでしょう。それがフロイド・メイウエザーというボクサーなのです。対してパッキャオのほうは、負けるまで戦うような気がします。もっと大きく、危険な相手を選ぶことも考えられます。しかし、パッキャオの方こそ引退してほしい。長年蓄積されたダメージは計り知れないから。普段は海外のボクシング試合など放送しないニュース番組でも、両者のファイトマネーの合計が3百数十億、リングサイドの料金は報道各社によって違うが、2千万～4千万円。（これはおそらく、時間が経つほど高額になったのでは？）　そして入場料収入が90億、総収入が500～600億。というイベント規模の大きさから、一般視聴者向けに騒いでいたのが面白かった。「これがボクシングの凄さだ、可能性だ、見たか！」と。日本でボクシングがマイナーな理由は、格闘技ファンからしてみれば「ボクシングなど手（パンチ）しかない。蹴りや寝技に持ち込まれたら無理」という見解があります。一般の人からみれば「ボクシングみたいな格闘技は野蛮」なので、フィギアスケートの羽生やゴルフの石川に人気があります。しかし、頭を打たれる格闘技はスポーツとは違います。もっと格闘技の選手は報酬がアップし、社会的ステイタスも上がらないと競技自体がマイナーのままでは若い選手が育ちません。（総合やキックも同じ）アメリカ人のヘビー級王者が、やっと7年ぶりに誕生したことも、運動神経に優れた若者が四大スポーツである野球・バスケット・フットボール・アイスホッケーに流れるからではないでしょうか。頭を打たれる（＝脳にダメージ）というのは、リスクがあるのです。だから、それに応じた対価がないと。元K－1王者の京太郎選手がボクシングで日本王者になったとき、リング上で寝転がって「間違いなく、今までの闘いの中で一番嬉しいです」と泣いていたのが印象に残っています。つまり「K－1で世界王者になったときより嬉しい」と言いたかったのでしょう。それだけの魅力がボクシングにはあるのです。だから、ラスベガスのスーパーファイトでは数十億の報酬が得られる。しかし、日本では同クラスに世界王者が二人いても決して対戦はありません。人気選手同士の対戦もありません。リスクがあるからです。ここに、マイナーで盛り上がらない理由があるのです。アメリカではテレビ局やその他の問題があろうと、パッキャオVSメイウエザーのように実現させます。それがさらに人気を呼び、報酬UPへ、そしてステイタスが羨望へとつながる……。

いよいよ本日、史上最大の300億円決戦。

パッキャオVSメイウエザーについての情報ですが、通常、ラスベガスでボクシングのビッグファイトがあると、ラスベガス全域のホテル宿泊料は約2,5倍になります。しかし、今回は10倍以上とのこと。それでも、会場のMGMホテルは試合決定と同時に満室になったそうです。今回に限らずボクシングのスーパー・ファイトはあらゆるプロスポーツの中で最も稼げる試合です。サッカーのワールドカップの決勝をも凌ぎます。ワールドカップは国と国の代理戦争といわれています。片やボクサーなど、本を糺（ただ）せばただの悪がき。つまり、ガキの喧嘩が国の戦争を超える……男にとって、これ以上のロマンがあるか。