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さて意外なほどの多くのアクセスを戴いている、この「対決!フェイコマシーン」シリーズですが、今日はその第3弾です。 3番手はコンタクトレンズでも有名なボシュロム社の「ステラーリス」です。最新鋭のマシーンですね。 (↑ 本人様、ブログ登場了解済みです) このステラーリスは、ペリスタかベンチュリーのどちらかのポンプを選んで購入する形になるのですが、写真にも登場して頂いたメーカーの担当の方が言うには「9割はベンチュリーを選ばれてますよ」とのことでした。 このステラーリス、とにかく学会場の内外で評判が高く「とにかく凄いらしい」、「前房(ぜんぼう:目の中の手術エリア)が驚異的に安定して安全らしい」、「このマシーンを買ったら、良すぎてもうテクニックの見せ所が無いらしい。その意味では技術が退化してしまって逆に危険らしい。」などの噂を私も元々聞いていました。 セミナーでは、このステラーリスが何故凄いのかの話がありました。具体的には、とにかくUSチップと、チューブシステムの出来が良い、ということでした。ただ、「エアバブルが発生しやすく、一日にたくさんの手術をすると水晶体の核がチューブに詰まりやすい、また、従来型のマシーンに較べて吸引圧の上がり方が異なるので注意が必要」などの欠点についても説明がありました。このステラーリスだけは私は実際に使ったことがないので、これ以上のコメントは現段階では差し控えますが、7月下旬より当院でも実際にデモさせて頂けることとになったのでとっても楽しみです。 まとめると、ステラーリスはどうやら凄そうだが良く分からない。日本市場に進出してきたばかりで、購入後のメンテナンス体制にも少し不安を感じる、というところかと思います。(続く)
2011.07.14
さて「対決!フェイコマシーン」、2番手はアボット社の「シグネイチャー」です。 このシグネイチャーは、1台のマシーンにペリスタとベンチュリーという異なった2つのポンプシステムを持つ贅沢なマシーンです。実際の手術では安全性に優れるペリスタと効率の良いベンチュリーを、柔軟に瞬時に切り替えて使用することが出来ます。更にアボット社のペリスタポンプと言うのは元々優れていましたが、このシグネイチャーになって更に良くなり他社の追随を許さないものがあります。 私も実際にマシーンをデモさせて頂きましたが、極めて快適に効率よくかつ安全に手術が施行出来ます。特に核片を1かけら処理した後はベンチュリーポンプに切り替えると、UStipを目の真ん中のセイフティーゾーンに置いておくだけで、核片の方が勝手にどんどん寄ってきてくれる感じで気分良く処理できます。この時後嚢(こうのう:水晶体の袋の後ろの部分)が微動だにしないのはまさにベンチュリーならではで、「あぁ、白内障手術機械はこんなに進化したんだな!」と実感します。このベンチュリーの使用感と言うのはちょっと癖になるような麻薬的な爽快感があります。(ただし、チン氏帯という部分が弱い患者様ではベンチュリーは危険な場合もあるので決して万能ではありません)。 また破嚢(はのう)という、水晶体の袋が破れてしまった時に使用するA-VIT(エービット)というモードがあるのですが、これが他社に較べて圧倒的高回転の2500回転まで回るというのも大きな利点です。要は「ピンチに強い」ということですね。演者の先生も「1台だけ買うなら、絶対シグネイチャーでしょう。」と力説されていました。 逆にこのマシーンの欠点ですが、現段階ではエリプスという横発振のプログラムがアルコン社のインフィニティに及んでいないと個人的に感じられること、またUStipという水晶体を削る機械の洗練度がやや他社に対して物足りない、ということだと思います。ただUStipに関しては、21G(ゲージ)の新型チップが近々登場予定とのことでしたし、シグネイチャーはまだ発売後日が浅いこともありこれからの更なる成長も期待できると感じています。 まとめると、シグネイチャーは現在伸び盛りの魅力的なマシーンであり、ダブルポンプ搭載で極めて戦闘力の高い機械です。今後の他社との死闘が非常に楽しみである、ということになると思います。(続く)
2011.07.12
さて驚異的な熱気を帯びて始まった「対決!フェイコマシーン」のセミナーですが、トップバッターは日本アルコン社の「インフィニティ」でした。過去数年に渡って人気ナンバーワンのまさに「王者」とも言えるマシーンです。発売後かなり時間が経過していますが、逆に言えば改良を重ねて「円熟の境地」に達しているという言い方も出来ます。 このインフィニティは世界で初めて、超音波の横振動を取り入れたマシーンでその効果は凄まじいものでした。ただ大きな弱点として吸い込んだ水晶体の核が詰まりやすいと言うことがあったのですが、現在は「オジールIP」という新プログラムでそれもほぼ解消されています。私も実際に体験したから良く分かるのですが、セミナーでも「手術の疲れが少なくなった。破嚢(はのう)という合併症が明らかに減った」と絶賛されていました。ただ欠点としては「機械につながるチューブが固くて操作性が悪い。後、核の引きがけという操作がしにくい。そのために、縦発振のみのモードを入れて、それを足で切り替えて使用する必要がある」と言う点と「マシーンの能力を発揮させるためにはケルマンチップという先っぽの曲がったやや特殊な道具を使う必要があり、術者によっては適応できない」点の2つが挙げられていました。 私もしばらく前にこのインフィニティをデモさせていただいたのですが、その完成度は驚異的と感じました。ただ会場でも指摘されていた欠点は確かにあり、水晶体の核を引き出す時に、横発振の超音波が強すぎて皿状にしてしまい思わぬ修羅場を迎えてしまう、ということも実際にありました。その点は気を付けないといけないと思います。 インフィニティは過去数年圧倒的に優れたマシーンだったのは間違いなく、更にライバルが出現した現在でも極めて良いマシーンです。ただ欠点も少ないですがあります。後、これは未確認情報ですがベンチュリーポンプ搭載の新型マシンの登場が近いという噂もあり少し注意が必要かと思います。以上をまとめると、ポイントはこの王者、インフィニティに他社のマシーンがどこまで迫れるか、もしくは追い抜けるのか、だと感じました。(続く)
2011.07.11
さて6月18日(土)のお昼のランチョンセミナー(ご飯を食べながら勉強できる)は、レンズメーカーのHOYA社が主催した、「対決!フェイコマシーン」に参加しました。 フェイコマシーンというのは「白内障の手術機械」のことです。非常に高額(大体どれを買ってもメルセデスベンツのSクラス以上、高いものだと多分フェラーリも買える!)な上に、最近は新製品の発売ラッシュということもあり、その販売競争は現在熾烈を極めています。 今回のセミナーは、4社の機械の内どれが優れているかを、日本を代表する著名な白内障術者4名が徹底的に討論すると言うものでした。会場に早めに着いた私は、美味しいお弁当を戴きながら始まるのをのんびりと待ちます。 ところがお弁当を食べていると、なんだか場内が異常にざわついています。会場の最前列に座っていた私が後ろを振り返って見渡すと、 どうやら眼科医だけではなく、眼光の鋭い明らかに機械メーカーの社員と思われるビシッと決まったスーツ姿の方が大量に陣取っていて、異様な熱気と活気です。 私は今まさに次のフェイコマシーンを選んでいるところであり、自分にとってのベストの機種を求めて勉強中です。そのためこれからその会場内での話を自分用のメモ書きとして、自らの使用経験と感想も含めて率直に詳細に書きますが、どのメーカーに対しても全く他意はないので御了承下さい。(笑) (続く)
2011.07.08
さて、ようやく学会場に到着しました。今回の日記、学会場に着くまでが長かったですね。ただし、この後も激アツな話が続くのでJSCRS参戦記は少しロングシリーズとなる予定です。御了承下さい。 最初に参加したのは、 「全身疾患と白内障手術」というシンポジウムでした。もちろん会場の最前列に座って気合を入れて勉強しました。 この中で勉強になったことを自分用のメモ書きとして下にまとめておきます。一般の方で難しい場合は読み飛ばしてください。 1. アトピー性皮膚炎がある患者様の白内障手術はとにかく要注意。鋸状縁(きょじょうえん:目の奥の網膜の一番隅っこの見えにくい場所)付近の毛様体上皮裂孔や、網膜剥離裂孔を伴っていることが多いので、強膜圧迫による手術中の眼底検査が必要である。 2. 前立腺肥大で排尿障害の治療のためにα1遮断剤というお薬を飲んでいる患者様が激増している。具体的には「ハルナール、フリバス、ユリーフ」などの商品名のものが多い。これらが日本では現在なんと年間で8億個!も処方されている。泌尿器科の先生はカジュアルに気軽に処方するが、これらの薬を飲んでいると白内障手術時に40%の確率でIFIS(アイフィス:術中虹彩緊張低下症候群)というやっかいな合併症を起こす。 これはα1遮断剤が「瞳孔散大筋のブロック」を起こすからだが、α1受容体を選択的に活性化させる「フェニレフリン」という薬剤でこのIFISは予防できる。ただしミニムスという使いきりタイプの点眼剤を個人輸入しないといけない。後、一般的な散瞳剤の「ミドリンP」にもフェニレフリンは入っているが、原液でないと前房内濃度が足りない。ミドリンPには防腐剤が入っているので原液使用は無理。 3. 糖尿病を合併している患者様の白内障手術は非常に多いわけだが、手術前にHbA1C値を3ヶ月で3%以上、つまり1ヶ月で1%以上改善させると、元々中等度以上の非増殖性網膜症では高率に術後に網膜症と黄班浮腫が悪化する(いわゆる糖尿病治療後網膜症)。そのため、内科の先生方に対して我々眼科医側から、「手術のための急速な血糖改善はかえって良くない」ことをしっかりと伝えていく必要がある。 後、糖尿病の基準が11年ぶりに改定されて、「HbA1C6.1%以上」となった。 4. 白内障手術前に抗血栓療法(ワーファリンや、アスピリンなどの抗血小板薬)を一旦中止すべきかどうかということが以前から議論されてきたが、基本的に休薬の必要はない。 (2009年の循環器科の治療ガイドラインにも記載されているとのこと) 白内障術中には0.04%の確率で「駆逐性(くちくせい)出血」という恐ろしい合併症が起こるわけだが、最近は「極小切開なので更に減っているでしょう」と。 「むしろ休薬によって高頻度(1%)の確率で虚血性の恐ろしい脳梗塞や心筋梗塞などのイベントが起こるので、そっちの方が危ない」 とのこと。そのため、「休薬する場合は必ず同意書を戴く必要がある」と。 ちなみに当院では開院時から抗血栓療法薬の休薬はしていません。 非常に勉強になるシンポジウムでした。(続く)
2011.07.06
さて今週からデモを開始させて頂いた、新型白内障手術機械のシグネイチャーですが、そのファーストインプレッションを個人的なメモ書きとして残しておきます。なお、本日の日記も眼科専門医向けのやや特殊な内容となっていますことをご了承下さい。一般の方向けにはこの後また新シリーズを予定しています。 1. US時の溝堀りがストレス無く快適に出来るようになった。シグネイチャーの前機種のソブリンを私は以前使用していたのだが、ソブリンは溝堀をするときに削っている面がガタガタになるという欠点があった。超音波発振を高いレベルで繊細にコントロールするのが難しいマシンという印象があったが、その悪癖は見事に解消されていた。 2. 楕円運動のエリプスの効果なのか、溝堀時に溝が少し自然に横に幅を持って掘れる様な気がする。そのためいわゆる「スリーブ蹴り」が発生しにくく、無理無く深い溝を作成できる。 3. 溝堀後のモードでも、エリプスの効果は確かにある。グレード3.75くらいの固めの核を今週2例したが、弾く事も無くジュルジュルとまでは言わないが無理無く吸えた。ただ硬い核に関しては今のところアルコン社のインフィニティにはやや及ばないと言う印象はある。今後のセッティング次第かもしれないが。 4. 核を4分割した後は、メーカーはベンチュリーポンプでの処理を推奨している。今週のOP7例中の1例のみで試してみたが、確かに効率良く処理できる感じはした。ただ、私は今までペリスタポンプのマシンしか使ってこなかったので、この点に関してはまだなんとも評価しにくい。 5. アボット社の白内障手術マシンは以前からそのペリスタポンプの精度には定評があり、具体的にはIAが良かった。前機種のソブリンも良かったが、今度のシグネイチャーは更に超絶品。IAに関しては間違いなくインフィニティよりも優れていると思う。ちなみにIAに関しては日本の二デック社のフォルタス(CV30000)もかなり良い。 6. まとめると、USに関してはこの1週間の経験ではインフィニティの方が上、IAはシグネイチャーの方が上。ただどちらのマシンも極めて高いレベルに仕上がっており、実際にどのマシンを購入するかということについては楽しい悩みが増えた、と感じている。来週も引き続きシグネイチャーをデモさせて頂けるので、本当に嬉しい。
2011.06.22
現在当院では、製造販売元のアボット社様及びディーラーのアーガス社様の御厚意で、新型白内障手術機械のSignature(シグネイチャー)をデモ中です。 このシグネイチャーには、いくつかの特色があります。一番の特色は、 「エリプスFX」と言って、水晶体を削るUSチップと言う機械が前後×左右に同時にブレンドされて楕円運動で動くことです。これにより、 従来型の縦振動のみの機械よりも破砕エリアが拡大し、濁って白内障になってしまっている水晶体を効率よく安全に処理することが出来ます。 また、USチップの先っぽが真っ直ぐでも曲がりでもその能力を発揮することが出来ることも大きな利点です。 更にこのシグネイチャー、 ペリスタルティックポンプとベンチュリーポンプという、2つのポンプシステムを内蔵しているのも魅力です。ペリスタポンプはコントロール性に優れ安全、ベンチュリーポンプは効率が良い、というそれぞれ独自の長所があるのですが、このシグネイチャーは、この2つのポンプを手術の各場面において瞬時に使い分けることが出来るのです。 そのため、水晶体の核を分割し1つ吸うまでは安全にペリスタで、その後はベンチュリーに切り替えて効率よく短時間で処理する、などという芸当が実際に出来てしまうのです。 おぉ、こう書いてくるとシグネイチャーは凄いマシンですね。現実に使ってみてどうだったのか、カタログスペック通りの能力を発揮したのか、皆様気になりますよね。(恐らく眼科専門医だけでしょうが) 実際に使ってみて、感じたことは、、、、、、(続く)
2011.06.21
今日の日記は新型白内障手術機械インフィニティの、白内障進行具合別の自分用の設定のメモ書きです。眼科専門医向けのちょっと特殊な内容ですので興味のない方は読み飛ばしてください。 UStipは0.9mmミニフレアーABS Ozil12 45°を使用。フルケルマン使わなくてもこれで十分という印象だった。 グレード2.0~3.5くらいまでの通常症例では、 水晶体核の溝堀 その後の処理 ↑ 吸引圧は、230から280まで最後は上げたが、それでも前房は全く安定しているので問題なかった。 Ozil IP IA グレード3.5~4.25くらいの固い症例では、 溝堀 ↑ かなり縦を入れている。このくらいはないと無理。 その後の処理 ↑ 同じく吸引圧は230から280へ最終的には上げたが、全く問題なかった。 表画面はグレード2.0~3.5用のモードに近いが、、、 ↑ 裏のOzil IPのthreshold(閾値)を93%に落とし、phaco pulse on timeも20に上げている。 グレード4.25以上の、従来ならECCEで対応していた症例。 溝堀 その後の処理 ↑ グレード4.25~は暫定的に設定してみただけ。実際にはまだ使用していないので、購入した場合には今後更に詰める必要がある。 インフィニティ、確かに極めて良いマシンですが、設定出来る項目が非常に多く、使いこなすにはその全てをしっかりと詰める必要があり、それは結構ハードルが高いと言う印象でした。ある先生が「インフィニティ、業者の方が入ってくれると抜群にいいんだけど、いなくなって一人になっちゃうとうまく使いこなせないんだよなあ。設定が難しいんだよ。」と仰っていましたが私も良く分かります。 もしも実際に買う場合には、更なる猛勉強が必要と感じました。
2011.06.20
今日の日記は眼科専門医向けのやや特殊な内容を含むものとなっていますので御了承下さい。 さて現在当院でデモさせて頂いている新型白内障手術機械のインフィニティですが、その特色である超音波の横発振によって、 1. 水晶体の核の動きが安定しており、まるで掃除機のように効率よく吸える。 2. 核を捕まえやすいのでUStipをあまり動かさずに処理が出来る。これは目の中の「セイフティーゾーン」のみで手術できることを意味し、従来型のマシンに較べて安全度が高い。 3. 術後の患者様の目の炎症が少なくて、手術した次の日から良い視力が出る場合が多い。 などのメリットを十分に実感することが出来ました。ただし、このインフィニティの能力を発揮させるためには、 ↑ 上記のような先端の曲がった、従来型とはやや異なる特殊な道具(UStip)を使わなくてはならず独特の難しさもあります。 また水晶体を効率良く処理するロジックも、従来型の機械とは少し異なります。 ↑ 何と言うか、「周りから攻めると◎」という感じなんですね。 さてこのインフィニティの具体的な設定ですが、現在は白内障グレード3.5くらいまでの通常症例に対しては、 水晶体核の溝堀 ↑ 最初は横発振のみでOPしていましたが、どうもイマイチなので縦発振をリニア(一定)で20%入れてみました。ただどうもまだ少しもっさりした感じでしっくり来ないので、 ↑ 縦発振を20%スタートで最大40%、横発振を50%スタートで最大80%にしました。この設定だとほぼストレス無く掘れますが、逆に核の突き抜け(punchout)には十分な注意が必要です。 その後の処理 ↑ 最初は水晶体核を引き寄せる力を示す吸引流量を26でしていたのですが、私にはUStipを目の中のセイフティーゾーンからほとんど動かさないという癖があり(これは自分が何よりも手術の安全性を重視しているからですが、逆に効率が悪く時間がかかるという欠点でもあります)、日本アルコン社の設定のプロの方と相談しながら現在はその流量を30に上げています。 Ozil IP IA ↑ 最初は吸引圧500、吸引流量26でOPしていましたが、私はIOL挿入時にヒーロン+ビスコートのダブルブロックをするため、挿入後に残ったビスコートが吸えない感じなので少し設定を上げました。この設定だとストレスがない感じです。 という設定で手術を行っています。現在までに合計4日使用したのですが、設定を詰めていくことにより使い心地はかなり良くなりました。マシンの持つ能力の高さ、潜在力の凄さを実感していますが、まだもう少し設定を詰めて行かなくてはならないと感じています。(続く)
2011.05.21
当院では現在、製造販売元の日本アルコン社様、及びディーラーの吉田メディカル様の御厚意で、新型白内障手術機械のインフィニティをデモ中です。 このインフィニティは現在の日本では恐らく人気No1の実力派マシンなのですが、それにはある理由があります。 通常の白内障手術機械は、水晶体を削るための超音波が縦にしか出ないのですが、このインフィニティは縦だけでなく横にも出るのです。 そして横に出る超音波というのは、縦に較べて効率が良い上に目へのダメージが少ないのです。 ただ横発振だけでは白内障の進行が激しい場合などに手術が難しい局面もあるので、従来型の縦発振をどうブレンドするかがこのマシンを使いこなすポイントとなります。 このインフィニティはOzil IP(オジールアイピー)と言って、横発振だけでは無理でどうしても必要な時のみに縦発振を入れることが出来ます。車でいえばターボみたいなものですね。要はものすごくポテンシャルの高いマシンということです。 ただしこのインフィニティ、特色である横発振を活用するためにはケルマンチップという特殊な先っぽの曲がったUStip(水晶体を削るための道具)を使わなくてはならず、またそれぞれの術者に合わせてセッティングを最適化するのがなかなか難しい機械でもあります。 そのため私はこの2週間ほど、 DVD等のたくさんの手術教材で猛勉強を続けながら実際の手術に臨んでいます。マシンを使ってみての実際の感想はまた後日書きます。(続く)
2011.05.17
私が専門とする白内障手術、技術的にはほぼ完成し洗練されたものなのですが、それでもなお小さな技術革新・進歩・改善が続いています。私も常に自らの術式を厳しく見つめ、より安全で確実な手術を施行できるように努力をしています。 白内障手術では、濁ってしまった水晶体の核(中身)を後嚢(こうのう)という袋から剥がす、「ハイドロダイセクション」という重要な手技があるのですが、これが意外と完全に剥がすことが難しいんですね。 私は2009年から「倉知式ハイドロニードル」という新しい針を使っているのですが、 この針は、水晶体の前嚢(ぜんのう)という袋の裏側に平べったく絶妙にフィットする感じで、 このハイドロダイセクション(以下、ハイドロと略す)がかなりうまくできるんですね。ただ、それでも完全に施行できないことがあり、私は更に良い針がないかずっと捜し求めていました。 そしてしばらく前に、「ダブルノズルカニューラ」という新しい針を試してみました。 この針は、拡大してもなかなか見えにくいのですが先端に角度の違う2つの穴が開いています。 これで上記の「ハイドロ」という手技をしてみると、水流が2方向に進むので極めて成功率が高いんですね。ただ逆に効率が良すぎる面があるのでCBS(後嚢(こうのう)という水晶体の後ろ側の袋がぱっくり割れる合併症)には気をつけないといけないという注意点もあるのですが。 私はこの1ヶ月ほど、従来使用していた「倉知式ハイドロニードル」と「ダブルノズルカニューラ」を使い較べて、私の手技にはこのダブルノズルカニューラの方が合っているという結論に達して、先週から全ての手術にこの新型の針を導入しました。 それにしてもこのダブルノズルカニューラを使用したハイドロ、抜群の水の回り方です。「ハイドロが回りにくい、成功率が低い」と感じていらっしゃる全国の先生方には魅力的なオプションなのではないか?と感じています。
2011.04.09
当院では開院以来、怠ることなく常に設備投資を続けています。それは進化の激しい眼科医療の世界では極めて大切なことです。検査機械は新しく更新しなくてもそれなりの診療はもちろん出来るのですが、少しずつ全国標準の眼科医療レベルからは乖離してしまうことになります。 私は八幡浜地域の皆様に常に全国レベルの眼科医療を提供したいと願っており、開院2年目には糖尿病網膜症などの治療で使用する「レーザー光凝固機械」を緑色単色のものから緑色と赤色の2色が打てるもの(赤色は白内障があってレーザーが入りにくい患者様に使用)に買い換えましたし、3年目の今年はこのブログでも以前から紹介しているOCTと言う機械を新規に購入しました。 そして今月に入って、更にまた新たな機械を当院に迎え入れることが出来ました。日本のトーメー社製の光干渉眼軸長測定装置の「OA-1000 Advance」です。 これは白内障手術前の検査に使う機械で、具体的には目の表面から奥までの長さ(眼軸)を正確に測るものです。旧型のOA-1000も以前にデモさせて頂いたことがあったのですが、今回購入したのはその進化版のOA-1000 Advanceです。旧型機に較べると新しい「カタラクトモード」というものが搭載されていて、白内障が進行してしまっている患者様での測定可能率が上がっています。 シンプルで極めて使いやすい機械です。白内障手術前の検査精度が更に上がるものと期待しています。
2011.03.29
さてここからは「眼科診療アップデートセミナー2011 in 京都」で勉強した中で、特に印象に残ったことを自分のメモ代わりに簡潔に書いていきます。 セミナーでは角膜移植に関する講義が複数あったのですが、この中では、「角膜移植は全層移植から、悪い部分だけを交換するパーツ移植の時代になった」、という話が印象的でした。 角膜移植というのは長い間、角膜全部を入れ替えるPKP(ピーケーピー)と言うやり方が一般的だったのですが、このやり方には、術後の乱視が強い、縫った部分からばい菌に感染することがある、拒絶反応が強い、移植した角膜が長持ちしにくい、などの欠点がありました。 それに対して最近では、角膜の表面側が悪い場合には輪部移植やDALK(ダルク)、角膜の裏側が悪い場合にはDSAEK(ディーセック)などというように、「悪い部分だけを取り替える」パーツ移植が出来るようになってきているのです。その中でも特にDSAEKが有望な手術法として広まろうとしています。 このDSAEKは、角膜内皮(+後部実質)という角膜の裏側の部分だけを入れ替えるもので、縫わなくて済むので乱視が少なく術後早期から視力が出る、感染が少ない、などの大きな利点があります。更にこのDSAEK、以前よりも術式が改良されてきており、かなり魅力的な手術になってきていることが実感できました。 眼科の手術と言うのは常に少しずつ進歩しています。それは角膜分野でも例外ではないんですね。
2011.03.18
さて先日の日記の続きです。怖い怖い「白内障術後眼内炎」の発症予防には、手術終了時に前房(ぜんぼう:目の中)に抗菌剤を投与するのが効果的であるという2006年のヨーロッパでの発表は我々白内障手術医に大きな希望を与えました。 そして今回の論文で患者様に投与されたベガモックス点眼液は、 最新の第4世代フルオロキノロン系抗菌剤で、様々なばい菌をやっつけてくれる広域スペクトルと最小発育阻止濃度(MIC)を誇る、現段階で「眼科最強」の戦闘力を持つ目薬なのです。更に防腐剤無添加の目薬なのでTASS(中毒性前眼部症候群)のリスクも極めて低く、投与法も目薬をそのまま目の中に入れるだけという簡単さです。 論文によると、ベガモックス0.1mlを前房内に投与するとその濃度は952μg/mlとなります。ベガモックスが眼の中でばい菌をやっつけてくれる濃度であるMIC中央値は3μg/ml以下なので、単純に考えると絶対に必要な濃度の300倍の濃さで手術終了時の眼の中が満たされることになります。これは凄いですね。眼の中の水(房水:ぼうすい)というのは自分で作っているのでだんだん入れ替わっていくのですが、それでもこの濃度だと術後最低5時間は安全なMIC濃度を保つことが出来ます。 また別の報告では、このベガモックスを目の中専用のBSSという液で10分の1の濃度に希釈して手術終了時に投与する(この場合は前房と言う部分を全置換)というやり方も紹介されていましたが、この場合でも濃度は450μg/ml程度と十分です。 理論的にはこれらは眼内炎予防に驚異的に効果がありそうです。ただこの論文ではベガモックス投与の安全性を実証しただけで、その効果の検討はまさにこれからの課題ではあります。
2011.03.01
さて大変勉強になった第34回眼科手術学会が終了して愛媛に戻った私は、学会場で聞いた「ベガモックス点眼液を白内障手術終了時に前房(目の中)に投与して安全性をみた論文がフィリピンの先生から出ている」という話を元にその論文を捜し求めました。 これがその論文です。それによると65人の患者様に白内障手術終了時に0.1mlのベガモックス点眼液を直接前房(目の中)に投与したが、視力・前房反応・角膜の厚さ・角膜内皮細胞密度(手術でダメージがあると減る)の点で非毒性(害がない)であったということでした。 しばらく前の日記でも書いたように、白内障手術後には500~2000例に1例の割合で眼内炎という感染症が発症し、最悪の場合には失明につながることもあることが知られています。またこの眼内炎は最近主流となっている角膜切開という手術法によって以前より増えてきているという報告も多くあります。 この怖い眼内炎を予防するために我々白内障手術医は以前から様々な工夫を凝らしてきたのですが、つい最近までは多数の論文解析で唯一効果があると判定されたのは「ポピドンヨード(いわゆるイソジン)による眼表面の消毒」のみでした。しかも、そのエビデンスレベルは「中等度の臨床的推奨(B)」に過ぎず、我々白内障手術医は、恐ろしい術後眼内炎に対してほとんど有効な対策を持てずにいた、というのが本当のところだったのです。白内障手術前後の抗菌剤の点眼、術後の抗菌剤内服、こういった現在の標準的な治療は眼内炎発症阻止には残念ながら無力だった、ということなのです。 こういった厳しい状況の中で、ヨーロッパから2006年に画期的な発表がありました。数千人規模での研究であったESCRS眼内炎研究班によると、白内障手術終了時に前房(目の玉の中)にセフロキシムという抗菌剤を投与すると、怖い怖い眼内炎の発症率が5分の1になった!というのです。 私も「そんなに安全なら是非自分もしたい!」と思いましたが、実は大きな問題がありました。というのはこのセフロキシムというのは本来は全身薬であり、眼に入れるためには煩雑な操作で濃度を調整する必要があるのです。調整に失敗すると中毒性前眼部症候群(TASS)という病態を発症する事もあり、そのため現在のところは日本ではあまり広まっていなかったのです。またこのセフロキシムは眼専用に作られた抗菌剤ではないので、その作用範囲があまり広くないなどの弱点もありました。 (続く)
2011.02.24
さて昨日の手術から実際に新型白内障手術機械CV-30000(通称フォルタス)を使い始めたわけですが、 使ってみての最初の印象は「とにかく前房(ぜんぼう:目の中のこと)が安定している!」ということでした。私の現在の愛機CV-7000もかなり前房の安定性が良いマシンなのですが、CV-30000は確実に1レベル~2レベル上にいます。後嚢(こうのう:水晶体の袋の後ろの部分のこと。これを破らないように我々白内障手術医は日々死力を尽くしている)が微動だにしない感じで、手術時の安心感がグッと増しています。 それ以外では吸引系も明らかに良くなっています。このCV-30000、基本性能を徹底的に鍛え上げてきたのが使ってすぐに分かる、滅茶苦茶良いマシンに仕上がっています。これは欲しいですね。。。 手術が終わった後には、自分に合わせて更に機械の設定を微調整して貰いました。 来週も、まだ四国では販売実績がないという(これだけ良いマシンなのにそれも不思議ですが)新型機、CV-30000を使って実際に白内障手術をします。楽しみで待ちきれないですね。
2011.02.17
私は開業以来この3年間、日本の二デック社のCV-7000という白内障手術機械を使って手術をしてきました。このマシンは極めて基本性能が高くかつ信頼性と耐久性抜群(開業以来トラブル0)で現在でも特に不満はないのですが、今回ニデック社様及びディーラーの吉田メディカル様の御好意で、その後継機の新型マシンCV-30000(通称Fortus:フォルタス)をデモさせて頂けることになりました。そして、実際のマシンが今日当院へ搬入されました。 操作画面が旧型のCV-7000に較べてかなり洗練されていますね。明日から実際の手術で使うので、今日はDVDなどで機械について勉強をしていました。 細かな改良を積み重ねて、より安全で安定したマシンに仕上がっているようです。 元々極めてよいマシンだったCV-7000がどれほどの進化を遂げているのか、明日からが楽しみです。
2011.02.15
さて学会には、医学書の専門書店がたくさん出張していて色々な本を見ることが出来るのも楽しみの一つなのですが、今回も良さそうな本をいくつか買ってきました。 その中で、 と言う本が非常に出来が良かったです。帯に「この本で上達しなかったら手術を諦めて下さい!!」まで、書いている割にはなんだか貧相なペラペラの本で値段も10000円以上もするし、買うべきかかなり悩んだのですが買ってよかったです。 手術手技以前の「器具の動かし方、ベクトルを意識した3次元操作」の大切さと具体的な方法を強調した本で、他の手術教科書とは一味違う仕上がりの名書でした。特に第1章と3章が良かったです。白内障サージャンでまだ未読の方は是非一度手にとって見てください。 さてこの日の夜は、 京野菜カレーを食べました。京都は野菜の美味しい街ですね。 手術学会2日目の夜はこうして過ぎていきました。。。。
2011.02.14
さて京都市で行われた、第34回眼科手術学会体験記を続けます。素晴らしい特別講演が終わると、1月29日(土)夕方は、 「今日の白内障手術の論点」というシンポジウムに参加しました。 この中では、 「眼内炎の現状、予防と治療」という講演が非常に勉強になりました。 角膜切開という手技で手術を行うと、眼内炎の頻度が強角膜切開(私の手術手技でもある。安全性が高いという長所があるが、その反面手術時間が余分にかかると言う大きなデメリットもある)に較べて3.36倍になる。 白内障手術終了時に、セフロキシムという抗生物質を前房(ぜんぼう。目の玉の中)に投与すると、眼内炎の頻度が5分の1になる。 など、豊富なデータを元にした発表で非常に分かりやすかったです。 セッション終了後に抗生剤の前房内投与に関する具体的な方法を講演された林先生に直接質問してみると、 「投与する抗生物質は、ベガモックス点眼液(防腐剤フリーの現在日本最強レベルの抗菌点眼薬)の方が良いかもしれない。フィリピンの先生から安全性に関する論文が出ているし、安全性さえ担保されるのならばそれがベストかもね」とのことでした。 これは非常に良い話で、早速地元の愛媛に戻ってからその論文を探すことにしました。このように学会場では日本トップレベルの先生に直接質問することが出来るので、本当に勉強になるんですね。
2011.02.11
さて1月29日(土)午後の特別講演は、 私が所属する愛媛大学医学部眼科学教室のボスである、大橋教授による「白内障術後眼内炎ーEvidence Based Preventionの時代へ」でした。 白内障手術というのは日本国内で年間に100万例前後が行われているというメジャーな手術ですが、その術後には500~2000例に1例くらいは眼内炎という感染症が発症することが知られています。この眼内炎になると最悪の場合失明につながることもあるため、我々白内障手術医は「いかに眼内炎のリスクを減らせるか?」を常に考えて続けているのです。 今回の大橋教授の特別講演は、この怖い眼内炎予防のために大切な現時点での最新の知見が散りばめられた本当に素晴らしい内容でした。 この講演の中ではいい話が多かったのでちょっとまとめておきます。眼科医以外の方にはやや難しい内容かもしれないですがご了承ください。 1. 手術前にアジスロマイシン点眼(内服薬のジスロマックというニューマクロライド系抗生剤を目薬にしたもの。アメリカではすでに何年も前から発売中だが、日本では未だに治験中で個人輸入でしか使えない。この新薬の承認が遅いという「ドラッグ・ラグ」は日本医療の大きな問題点の一つだが、眼科でもそれは同じ。本当に何とかして欲しい。)を使うことの有用性を指摘。 2. 白内障手術終了前のI/A(アイエー)という目の中の洗浄手技のときに、Tapping(タッピング)といって眼内レンズを傾けながら粘弾性物質(目の中を保護するゼリー状の物質)を吸い取る手技を左右で5秒間×4回、合計で20秒すると、BHL(ビハインド・ザ・レンズという眼内レンズの裏側を吸うやや上級者向けの手技)とほぼ同等の効果があることをスジャータスタディで実証。 3. 術後早期(手術終了直後)からの抗菌点眼薬開始が大切である、何も次の日まで待つ必要はないということ。 4.破嚢(はのう。水晶体の袋の一部が破れること。平均4%の症例に起こる)などのハイリスクイベントが発生した症例に対しては、抗菌薬の前房内投与が必要なこと。 私もこれからも眼内炎を極力起こさないような、より安全な手術手技を求めて努力していきたいと、改めて思いました。
2011.02.07
さてホテルで朝ごはんを食べて、 学会場に出発です。 国際京都会館は地下鉄の最終駅。ちょっと不便な場所ですね。 1月29日(土)午前中のセッションの目玉は、 「難症例に対する白内障手術」。日本を代表するトップ白内障術者集結の豪華なセッションです。ただ、私はその前の他のプログラムに参加していて会場への到着が遅れてしまい、着いてみるとすでに満席&立ち見ぎっしり!でした。 「困ったなあ」と思いながら、会場の最前列まで行ってみると(満席と思っても、一番前のほうに空席があることが意外と多いので)、 最前列まで全てぎっちり満席なのですが、唯一「座長席」だけが空いています。だめもとで「ここ、座ってもいいですか?」と会場スタッフの方に聞いてみると「あ、いいですよ」とのこと。ラッキー。最前列での参戦です。 白内障では浅前房(せんぜんぼう)という、目の中の作業スペースが少ない方は手術が難しいのですが、「チン氏帯(水晶体をつないでいる筋肉)が弱いが故の浅前房が多い」とか、「CTR(カプセルテンションリングという、チン氏帯が弱い患者様に使う特殊な器具)を使う際には後ろの穴に10-0ナイロン(という細い糸)を絶対にレスキュー用に通しておいたほうが良い」など、ハッとしたり、なるほど、というためになる話が満載でした。座っているだけでどんどん賢くなる感じです。やっぱり学会はガンガン参加しないと駄目だな、と改めて思いましたね。。。
2011.02.02
私が専門としている白内障手術、今や術式は高度に洗練され短時間で安全に受けられる手術として多くの患者様に認識されています。 ところがこの白内障手術、手術医としての立場から見ると一つ一つの手技に様々な落とし穴が潜んでおり、「やればやるほど難しい手術である」というのが実感です。実際、1年に数千例の白内障手術を行うような日本のトップサージャンでも「白内障手術は簡単だ」などという方は聞いたことがありません。 白内障手術は日本で年間に100万例近くが行われそのほとんどが上手くいくのは事実ですが、それは我々白内障手術医の毎日の必死の努力の積み重ねの結晶でもあるのです。 私も今までに2000例以上の白内障手術経験がありますが、常に安全な手術を行うために、「安全な白内障手術施行のための15か条」というものを作っており、毎回それを熟読してから手術室に向かうようにしています。今日はそれがどのようなものなのかちょっと難しいかもしれないですが見て頂きましょう。 1. 手術制御糸は上も下も絶対確実に取る。取れなかった場合は躊躇なく取り直す。 2. サイドポート(角膜の横2ヶ所に開ける手術のための穴)作成時には、眼球位置が緊張で変位している患者様が良くいるので、その場所で本当に良いかどうかもう一度確かめる。 3.ビスコート(目の中を保護するゼリー状の固い物質)はしっかり入れる、ただし入れ過ぎない。 4.CCC(水晶体の表面の皮をめくる、手術で最も大切な手技の1つ)を始める前に、何よりも眼位が正位に保たれているかを確認し偏位していれば指示して修正する。CCCは「初めは大きく後は小さく」を徹底する。中心よりやや右側で穿孔し、切れ方をしっかりと目視しながらある程度大きめを意識して進める。そのとき、常にフラップを確実に作ってそれを持って安全にCCCを進めることを意識するのが大切である。後半の3分の1くらいになったら色気を出すと流れやすいので、そこはもう無理しない。 5.手術切開創は「輪部に近い2面、長すぎない3面」を心がける。そのくらいの創の方が操作性が良い。特に溝堀で有利になる。 6.ハイドロダイセクション(水晶体の皮と中身を水の流れで分離する手技)は最低でも2箇所以上から回す。1箇所だけだと効ききっていないことがある。後、ハイドロ針は十分に奥まで突っ込んで使用する。水流は強すぎるとCBS(水晶体の皮の裏側が裂けてしまう事)のリスクがあるが、かといって弱すぎると回らない。更に大切なことは注水後上からハイドロ針であまり核を押さないこと!(あまり押さえると水が逃げてしまいかえって回らなくなる) 7.溝堀はとにかく「掘って掘って掘って掘って掘って掘って、止めて割る」を徹底する。グレードが高くても逆に低くてもしっかりとした溝さえあれば必ず割れる。全例D&C(ディバイド&コンカー:術式の名前)の私にとっては「溝がすべて」であることを自覚する。 8.4分割時はUStip(超音波を発信する白内障手術器具)を刺す位置が浅くなりすぎないように気をつける。また不完全分割にならないように粘って粘って確実に割る。 9.IA(水晶体の皮質という部分を取る器具)では、皮質を捕まえたら網膜方向(Z軸方向)に少し引いて取っていくようにする。 10.IOL(眼内レンズ)挿入前にはヒーロン(目の中を保護するゼリー状の柔らかめの物質)でバッグ(水晶体の袋)をパンパンにし、更に必ずビスコートブロックをする。 11.プリセットIOL(私が現在使用している眼内レンズは、インジェクターという目の中への挿入機械の中に前もってレンズが装填されている)はたまにおかしなセッティングになることがあるので、懸念を感じるときには迷わず新しいものに交換する。 12.IOL挿入時には動きを良く見て先行ループ(レンズに生えている足)を必ずin(水晶体の袋の中)に入れる。その後左手をしっかりと回外して、IOLをリリースする。 13.ヒーロンをたっぷりと追加してバックを膨らませた上で、「視神経乳頭に向かって押す」 を意識しながらフックでIOLを収める。 14.最後のIA(目の中の最後の仕上げの掃除)は時間をかけて丁寧にやる。眼内炎(術後の怖い感染症)発症阻止に最も大切。 15.wound(傷口)からリーク(水の漏れ)がないことをMQA(スポンジの名前)でしっかりと確認する。リークがあれば確実に止まるまでハイドレーション(漏れを止める手技)する。 この内容は、常に自分自身の手術を厳しく見つめ反省しながら細かく微調整しています。 これからも1つ1つの白内障手術を「自分の両親の手術を手がける気持ちで」丁寧に確実に施行していきたいと思っています。
2011.01.15
今日が年内の最終手術日でした。そこで、今年の白内障手術成績をまとめておきます。 この1年(1~12月)の白内障手術総数は295例、その内大きな合併症は破嚢(はのう:水晶体を入れている袋が破れること)のみで4例(1.4%)でした。この1.4%というのは「悪くない」成績で、私としては1年間平均してまずまずのクオリティの手術を行えたと自負しています。 この破嚢(はのう)という合併症は、我々白内障手術医は全員絶対に大嫌いです。というのは、この破嚢率はその術者の白内障手術能力を分かりやすく示すものなので、低ければ低いほど良いからです。ただ、難しい手術を中心に手掛ければどうしても合併症の確率も上がってしまうので、この破嚢率だけがその術者の実力を反映するものではもちろんありません。 そうは言っても、もし「私の破嚢率は年間10%です。」という眼科医がいれば恐らくその先生の手術レベルは全国平均に達していないだろう、という判断はできます。というのは、私のような白内障手術医の多くが所属している日本眼内レンズ屈折手術学会の調査では平均破嚢率は3.8%(2000年)と報告されているからです。 このように、破嚢というのは白内障手術医なら誰もが「絶対に避けたい」と考えている合併症なのですが、水晶体の袋というのは非常に薄く、一番薄いところでは1000分の4ミリ!しかありません。なので、どうしても破嚢率を0%にするということは至難の業なのです。ただ、そうは言っても合併症が少ないに越したことはないので、来年も一つ一つの手術に全身全霊で立ち向かい常に丁寧で確実な手術を心がけていきたいと考えています。
2010.12.21
今日も、先月末に参加してきた白内障学会の機械展示での印象記です。 私は白内障手術時に使うナイフ類は基本的に「マニー」という会社のものを使用しています。ナイフ類は多くのメーカーから色々な種類のものが出ているのですが、今まで様々なメーカーの製品を使ってきた中で、マニー社のものが切れ味がナンバーワンだったからです。切れないナイフは危ないですからね。 今回の機械展示でもマニー社のブースに立ち寄りました。ちなみにこのマニーは手術用縫合針・眼科用ナイフでは世界的に有名な日本の会社です。 色鉛筆みたいでカラフルで綺麗ですね。ナイフ類は全てベトナム工場で作っているのですが、何故「世界の工場」である中国製ではないのか?ブースにいらっしゃった社員の方に質問してみました。 すると、「中国は基本的に個人主義が強過ぎて当社のような超微細な製品づくりにはあまり向いていない。ベトナム人はベトナム戦争に勝ったことでも分かるように、粘り強くて根気があり手先も非常に器用なのでナイフ作りにはピッタリである」ということでした。なるほど、勉強になりますね。 ところでマニー社は何故この社名なのでしょうか? 答えは、、、、 社長さんが「松谷さん」だからです。まつたに→まにー というダジャレなのかな?と思っています。会社名と言うのは、このように気軽にお気楽に決まっているところが驚くほど多いんですね。 社長さんが石橋さんなのでストーン(石)+ブリッジ(橋)で「ブリジストン」、社長さんが鳥居さんなので逆さまにして「サントリー」、外国製のジーンズに負けないぞ! 江戸で勝つぞで「エドウィン」なんかと一緒ですね。(笑) さてこれで、学会体験記はおしまいです。3回にわたってお付き合い頂き有難う御座いました。
2010.07.05
さて引き続き先週の白内障学会での機械展示ブースをめぐっての感想の話です。 私は白内障手術で、NIDEK(二デック)社のCV-7000という機械を使っているのですが、 その後継機種に当たるCV-30000(Fortas)が展示されていました。 新しいテクノロジーで前房(ぜんぼう)という手術空間の安定性が格段に増しているとのことでした。いつか機会があったら是非使ってみたいと思っています。 とにかくこのNIDEK社の製品はさすがに「メイド・イン・ジャパン」だけあって、信頼性・耐久力が抜群です。私が今使用しているCV-7000も開業後2年少し経ちますが発生したトラブルは0、本当にタフで頼れるマシンです。 ブースをウロウロしていると、 白内障手術で、濁った水晶体を削る先端部分であるUSチップの新商品が発表されていました。 先端の形状が工夫されており、小さな傷口から挿入しやすく手術効率も良くなっているとのことで、これに関しては早速当院でも実際に使ってみようと思っています。 学会と言うのは、このように色々な発見があるので非常に勉強になるんですね。
2010.06.29
さて先日に続いて今日は、最近の私の白内障手術の進化・改善点についてお話してみたいと思います。 白内障手術では水晶体の前面の膜、前嚢(ぜんのう)を丸くめくるCCCという手技が極めて重要であることは前回の日記でも書きましたが、白内障が進行していると視認性低下のために非常に困難な場合があります。 そういった時には前嚢を染めて見えやすくして手術を行うのですが、数ヶ月前までの私はICG(インドシアニングリーン)という緑色の薬剤を使用していました。ただこのICGは溶解液が作成しにくい、染まりがやや悪いなどの欠点がありました。 そのため、当院では2月から「トリパンブルー染色」という新しい染色法を導入しました。 このトリパンブルー染色液は従来のICG染色液に較べて溶解液が作成しやすく、かつ前嚢が良く染まります。具体的に見てみましょう。 薄い水色に前嚢が綺麗に染まっていますね。上の図のハート型に切れているのがCCCという手技になります。このCCCの後、水晶体の中身を吸い取って行くんですね。 このように当院では常により安全な手術を目指して努力を続けています。もちろんこれからも更に術式を洗練させて、八幡浜地域の皆様の目の健康づくりのお役に立ちたいと考えています。
2010.04.23
私が専門とする白内障手術、私が眼科医になった10年前にすでに「技術的に完成されている」と言われていたのですが、実際にはその後も進化が続いています。 医学の現場というのは常に変わり続けているんですね。 例えば傷口の大きさは10年前は4.1ミリ前後が主流でしたが、その後の機材・術式の進化で今は2.2~2.8ミリが主流となっています。(私自身は傷口の大きさ・操作性・使用する眼内レンズなどの総合判断から、全症例を現在2.4ミリの極小切開で行っています) 今日は、この1年で自分自身の手術にどのような進化があったのかの1例を書こうと思います。 白内障手術では、水晶体の前嚢(ぜんのう)という膜をめくるCCCという手技があり、これを成功させることがきわめて重要なのですが、これに使う道具を全て最新型のものに変更しました。 ↑ 「池田式マイクロカプスロレキシス摂子 BEAK」というのがそれで、器具の先端が鳥のくちばしのように尖っていて操作性が抜群です。 私はそれまでも旧型の「池田式マイクロカプスロレキシス摂子」を使っていたのですが、旧型の操作性を65点とすると新型は90点、手術の安全性・安定性が飛躍的に高まったと思います。ただこの道具、1本16万円もする上に全ての患者様で使うために一度に5本買ったのでかなり勇気が要りましたが、、、 これからも患者様に少しでも安全で確実な手術をお届けするための努力を怠らずに頑張って行きたいと考えています。
2010.04.21
当院では白内障手術を行うときに、目尻(外眼角といいます)に「下分氏外眼角リトラクター」という器具を引っ掛けて施行します。私が開業している愛媛県八幡浜地域には、奥目だったり目が細かったりして手術中に術野に水が溜まりやすい方が多いのですが、この器具を使うと水捌けが良くなって手術がやりやすいのです。 ↑ これがその優れものの器具なのですが、 この一週間で、2つが立て続けに壊れてしまいました。(もちろんすぐに新品を注文して手術に影響が出ないようにしています。) 当院もそろそろ開院して2年が経ちますし、色々な器具に勤続疲労が出てくる時期なのかもしれないです。手術機械・器具の状態を常にベストに保って、これからも慎重に手術に取り組んで行きたいと考えています。
2010.04.13
進行すると最後は失明してしまうことのある怖い病気緑内障、治療は主に目薬で眼圧を下げることですが、目薬ではどうしても目標とする眼圧まで下がらない場合に外科的な手術を選択することも当然あります。 手術は、大多数の場合は目の中の水の出口(線維柱帯:せんいちゅうたい)の一部を切り取って眼圧を下げる、「線維柱帯切除術」が行われます。 上の写真で水色の部分の奥に線維柱帯があり、それを切除したことによって房水(ぼうすい)という目の中の水が外に流れ出し、濾過胞(ろかほう)という水ぶくれ(上の写真でblebと書いている所)を目の上の部分に造ることによって眼圧を下げています。 ところがこの緑内障の手術というのは、術後に一定の確率で感染症を起こすことがあるのです。文献によって多少差はありますが、平均で2~3%の頻度でこの濾過胞(=bleb)感染が起こると言われています。 そのため当院でも年に1人くらいはこの濾過胞感染症(=blebitisと言います)の方の治療をすることがあります。つい先日、このblebitisを発症された患者様が来院されたので、それがどのような状態のものなのかを実際に見て頂きましょう。 この患者様は「4、5日前から左目がかゆい、おかしい」と言って来院されたのですが、上の写真で真ん中にある濾過胞が黄白色に混濁し周りも強く充血しています。 この炎症が目の中にまで及ぶと最悪の場合失明してしまうこともあるため、速やかに強力な治療を開始する必要があります。この方に関してはニューキノロン系+セフェム系という2種類の広い範囲のばい菌に効く目薬を1時間ごとに点眼するという治療を開始し、 次の日には症状はかなり改善しましたが、まだ油断できない状態が続いています。 このように緑内障の外科的手術を受けた患者様には、常に術後の感染症発症のリスクが付きまといます。なので、強い目の痛みや充血などを感じたときには、すぐに我々眼科専門医を受診するようにして下さいね。
2010.03.19
私はいつもこの日記でも書いている通り白内障手術を専門としているわけですが、我々白内障手術専門医には一つ 「天敵」 とも言える病気があります。 それがなんだか分かりますか? いきなりそんなこと言われても難しいですよね。 実はそれは、、、、、 「術後眼内炎」と呼ばれる、白内障術後に起こる感染症なのです。これは2000人に1人の確率で発症すると言われており、最悪の場合には失明に至る事もあるので我々は常にこれを起こさないような安全で丁寧な手術を心がけているのです。 ただ実は手術が終了した直後の目の中は完全に無菌状態ではなく、 7.5~22%の方は細菌が検出されたという報告があり、これが現状なんですね。 なので、私は手術終了時に徹底的に目の中を水(BSSという目の中専用の水です)で洗うように心掛けていますが、それでも感染の可能性を0にすることは出来ません。手術である以上100%ということはないんですね。どれほど進化しても医学とはそういう不完全な部分のあるものなのです。 では、その怖い怖い「術後眼内炎」が起こったらどうするか? それに対しては私が所属している「日本眼科手術学会」から、「初期治療プロトコール(どのように治療していくかという手順)」が発表されています。いざという時に慌てない様、当院ではそのプロトコールをすぐに取り出せるようにし、 治療に必要な薬剤も当然常備しています。 「全ては患者様のために」 この気持ちを忘れず、常に最悪の場合をも想定して、スタッフ一同日々研鑽に励んでいます。
2010.03.10
私が専門としている白内障手術、もちろん素手でするわけもなく専用の機械を使って行っています。その機械にエラーメッセージが出たので念のためメンテナンスをして頂きました。 いくつかの部品を交換していて貰ったので安心です。 ↑ ちなみに機械の中身はこんな感じです。 白内障手術機械ではアルコン社やAMO社などの外国製の機械が最新テクノロジー満載で人気があるのですが、私は二デック社という国産メーカーのCV-7000という機械を愛用しています。 その理由は、 1.性能的にも外国製のマシンに決して劣らない。(劣っていると漠然と考えている眼科の先生が多いと思うのですが、是非一回使ってみてください。驚くほどいいですよ。) 2.国産マシンだけあって故障が少なく耐久力に優れている。(この点については間違いなく外国製より上です。私は開業して1年半ですが、手術中のトラブルは今までゼロでした。勤務医時代に過去に使ってきた外国製のマシンでは年に数回はちょっとしたトラブルが出るのが平均値でした。) 3.二デック社の製品と言うのは白内障手術機械だけでなく、視力測定装置、眼圧測定装置、超音波診断装置、眼底カメラなど色々なものがあるのですが、どの製品も技術力が高くて優れている。つまり眼科内での「ブランド」力が高くて信頼できる。また営業の方もメンテナンス担当の方も親切で熱心で安心できる。 ことです。 これからもこの二デック社のマシンと共に、白内障手術に励んで行きたいと考えています。
2010.01.29
私が専門としている白内障手術、これは顕微鏡下で両手・両足を使い1ミリ以下の精度(例えば器具を出し入れする傷口の大きさは2.4ミリ、その傷口の深さは0.35ミリと私は決めており、それぞれ専用のナイフで作成します)で行う極めて微細で神経を使うものなのですが、そのため私は前日から手術はすでに始まっているものとして入念な下準備と自らの体調管理に努めています。具体的には、 1.過去に自分が行った手術に関しては膨大なノート(最近はパソコン上)にまとめてあり、それをしっかりと見ておく。 2.明日手術する患者様のカルテを隅々までチェックして手術時の個別の注意点を書き込み、実際の手術時にはそれをモニターに写して行う。 3.ヘルシーな夕食を食べ、その後は出来る限り温泉に出かけ心身の疲れを取る。お酒が実は好きなのだが、手術前日は量を控える。 あたりです。今週も8例の白内障手術を予定しています。万全の準備をして臨みたいと考えています。
2010.01.25
当院では本日より今年の白内障手術を開始しました。毎年のことですが最初の手術はちょっと緊張します。患者様の大切な眼をお預かりしての手術ですので、1例1例気合を入れて全力で頑張っていこうと思っています。 今年も一人でも多くの患者様に視力回復で喜んで頂けるように、丁寧で確実な手術を心掛けて行こうと考えています。
2010.01.05
今年の白内障手術も来週月曜日でラストとなります。そこで少し早いですが今年の白内障手術成績をまとめておきます。 この1年(1~12月)の白内障手術総数は274例、その内大きな合併症は破嚢(後嚢という水晶体を入れている袋が破れること)が4例(1.5%)でした。 この破嚢(はのう)という合併症は、我々白内障手術医の誰もが避けたいと考えている合併症なのですが、この水晶体の袋というのは非常に薄く、一番薄いところでは1000分の4ミリ!しかありません。 そのため破れてしまうこともどうしてもあります。全国平均は3.8%(2000年日本眼内レンズ屈折手術学会会員への調査による)なので、今年の私の1.5%という成績もそう悪いものではないですが、来年は更にこの合併症率を下げることが出来るよう、1例1例今年以上に丁寧な手術をすることをここに誓います。 ちなみにこの破嚢した4名の患者様ですが、その後の追加処置を行い全員が1回目の手術で目の中にレンズを挿入出来ており、問題なく視力を回復されています。 来年も八幡浜地域の皆様の眼の健康づくりのお役に立てるように、全力で白内障手術を頑張ろうと思っています。
2009.12.18
私が専門としている白内障手術、術式としてはかなり完成され一般的にいって成功率も高い手術なのですが、それでも合併症も起こるときには起こります。 そのため手術に際して私が常に肝に銘じているのは、 1.手術前に万全の準備をしておくこと。 2.とにかく丁寧に手術をすること。 3.仮に合併症が起こった場合でもそこからの処理をきちんとすること。 の3つです。皆様の大切な眼をお預かりしての手術ですので当たり前のことばかりですが、今日はその手術前の準備の話を少ししてみようと思います。 手術前には全ての患者様について、それぞれの目の状態を徹底的に分析し、使用する薬剤、道具を微調整します。このカルテの患者様で言えば、 1.かなり緊張される性格なので術前に不安を和らげる注射をする。2.瞳が開くのにやや時間がかかるので、手術開始直後に瞳を開くミドリン水という薬を使う。3.眼の長さ(眼軸長)が21.5ミリと普通の方より短くて手術時の作業スペースが狭いので、いつも以上に丁寧な手術操作を心がける。 という戦略を立てているわけです。そして手術室でも常にこの画像を表示し、手術前の戦略どおりに手術を進めるようにしています。 もう一人、別の患者様も見てみましょう。 この患者様では、 1.若い患者様でCCCという操作時にやや危険を伴うので、そこに意識を集中させる。 という「大切な1点」にフォーカスする、という戦略を立てています。 このように、私はとにかく「一つ一つの手術にベストを尽くす」ことを手術眼科医としての最大の目標にしています。もちろん常に勉強を続けて、自分自身の腕も更に少しでもあげるように頑張っていきたいと考えています。
2009.09.15
血管に富んだ組織が角膜(黒目)の真ん中に向かって侵入してくる、翼状片(よくじょうへん)という病気があります。 はっきりとした病因は不明なのですが、紫外線(太陽の光)や慢性的な機械刺激などが原因になると言われており、「みかんと魚の街」で、紫外線にさらされることの多い八幡浜市では非常にたくさんの方がこの翼状片になっています。 この翼状片、進行した場合は手術しか治療法がないのですが、単純に切除しただけでは50%!という高率で再発することが知られており、なおかつ悪いことに再発した場合は「より凶悪にパワーアップして進行」します。 そのため初回手術が非常に大切で、私は「有茎結膜弁移植」という手法で極力再発しないような丁寧な手術を手がけています。上の写真の患者様の術後はこのようになります。 ただ、どんなに丁寧に手術をしても再発する方はします。そのためずいぶん昔には再発予防のために切った後、そこに抗がん剤を塗って再発を抑える手術法が多く取られていました。ところが、この術式を受けられた方のなかに10年以上経って、 その抗がん剤を塗った部位が弱くなってしまう合併症が頻繁に見られるようになりました。 なので、私は現在では初回手術ではこの抗がん剤を使用しないことにしています。(再発した場合は使用することはあります) 手術というのは、した後もずっと患者様の状態に責任を持たなくてはならないものなので、「長い眼で見て一番有利」という術式を常に追い求めていこうと考えています。
2009.09.11
私が専門としている白内障手術、少しでも手術の成功率・安全性を高めるために毎日努力を重ねています。この1年間でも傷口の大きさを2.8ミリから2.4ミリに縮めたことは以前の日記で書いた通りですが、最近になって更に手術法を改良しているので今日はその話をしてみたいと思います。 白内障手術では、濁ってしまった水晶体の核(中身)を後嚢という袋から剥がす、ハイドロダイセクションという手技があるのですが、これが意外と完全に剥がすことが難しくて、私もなかなかうまくいかないことが良くありました。 ところが「倉知式ハイドロニードル」という新しい針をお試しで使ってみたところ、 これが前嚢の裏面(水晶体の袋の裏側)に平べったく絶妙にフィットする感じで、 その手技が抜群にうまくできるんですね。以下に実際の手術時の写真を載せておきます。 そのため今週からはすべての患者様に対してこの新しい針を使って手術をさせて頂いています。これからも努力を欠かさず、より安全で確実な白内障手術を提供できるように頑張っていこうと考えています。
2009.08.19
目の表面の角膜(黒目)にエキシマレーザーを照射して、角膜の一部を削る(蒸発させる)ことにより視力を矯正する手術、レーシックがこの数年で爆発的に広まっています。今年1年で50万人以上が手術を受けられるだろうという予測もあります。ここまでレーシックが普及したのには、 1.手術の安全性が極めて高いこと。 2.ほとんどの症例で術後すぐからすぐれた裸眼視力が出て患者様自身が手術の効果を実感しやすいこと。 3.格安料金を売りにする大手レーシッククリニックの急成長に伴う手術数の爆発的な増加。 の3つの要因があると思うのですが(特に3番目の理由が大きい)、それに伴って 「レーシック手術の負の側面」 も目立つようになってきています。 今週号の週刊文春に、 「レーシック手術が危ない」という記事がちょうど出ていたのですが、 この記事はレーシック手術の問題点を鋭く指摘しています。 しばらく前に銀座眼科でのレーシック術後の集団感染症の発生が大きな話題となりましたが、この感染症というのはしっかりしたクリニックならば発生頻度は非常に低く通常それほど恐れる必要はないと思います。 ただレーシック手術というのは角膜の知覚神経を切ってしまう手術なので、術後にはドライアイがほぼ必発します。ほとんどの方は点眼薬治療で3カ月もすれば自覚症状は改善しますが、中には症状が残ったり、強い頭痛や肩こり、集中力低下などの自立神経失調症状が出ることもあるので、決してこのドライアイを甘く見ることはできません。 また意外と知られていないのですが、レーシック治療は保険のきかない自由診療なので、術後の治療も自費になり保険は効きません。 私のクリニックにも大阪などの大都市圏のレーシック専門クリニックで手術を受けられ、簡単な紹介状を持たれて術後の診察を受けに来られる方が増えていますが、その診察が自費となることを説明されていない方がほとんどです。大手のクリニックは術後のフォローアップに関して、悪い言い方をすると「手を抜いている」ために格安料金を設定できている部分があることは皆様にも知っておいて欲しいと思います。 もちろん当院では他院でのレーシック術後に関しても丁寧に全力でフォローさせて頂きますが、手術後もずっと診てもらえる施設で手術を受けるのが原則(仮に手術代金が高くても、それは術後のフォロー代金も入っているわけで、単純に手術代金のみではクリニックの良し悪しは決められない) であることは強調しておきたいと思います。
2009.08.01
私が専門としている白内障手術、当然機械を使ってやっているわけですが、 私はこのCV-7000という機械を使っています。製造しているのはニデック社というところで愛知県に本社のある国産メーカーです。 白内障手術の機械ではアルコン社、AMO社などの外国の会社の製品も人気があります。技術的に先端を行っているのはこれらの外国製の機械かもしれないのですが、 1.日本製の機械は耐久力があり故障が少ない。 2.外国製の機械を含めて色々な機械を使ってみた上で、自分にはこのニデック社の製品が良く合っていた。 という理由で、私はこのCV-7000という機械を愛用しています。開業後1年手術機械のトラブルは全くありませんでしたが、今日はニデック社の技術の方に来て頂いて「1年点検&メンテナンス」をして貰いました。 全く異常はなかったとのことで一安心です。また今後も半年毎にメンテナンスをして貰い、常に機械を万全の状態に保って白内障手術を行っていきたいと考えています。
2009.06.12
私は白内障手術を専門としており、日々より安全で確実な手術ができるように勉強を重ねています。 開業前の市立八幡浜総合病院眼科勤務時代の私は、目の上の強膜というところを2.8mm切開して手術を行っていましたが、 この1年間でいくつかの改良を加え、今月からはその切開幅を2.4mmにまで縮めています。 切開は小さければ小さいほど術後の傷の治りも早く、目の中にばい菌が入る危険も減り、また切開による乱視も起こさないのでいいこと尽くめなのですが、我々手術眼科医にとっては「目の中での操作がしにくくなる」ため、厳しい部分もあります。それではこの1年間でどのように手術を改善したのか具体的に見ていきましょう。 これはCCCという水晶体の皮(前嚢という)をめくる極めて重要な手技なのですが、左側から入っているのが「池田式CCCセッシ」というもので、極めて小さな傷口から操作できる優れものです。非常に高価なためまだほとんどの公立病院でも全例採用しているところは稀ですが、私のクリニックでは4ヶ月前から全ての手術をこれで行っています。 これがその2.4mmの切開です。拡大しているので大きく見えるかもしれないですが、実際の切開幅は驚くほど小さく、術後の傷の治りも抜群です。 ただその小さな切開に対応するために、USチップという水晶体を削る道具もSSタイプ(非常に細いタイプ)に変更しなくてはなりませんでした。これにより若干手術効率が落ち、わずかに手術時間も長くなりますが、そこはやむを得ない部分です。 目の中に入れるレンズも、小さな切開に対応して新しいもの(HOYAというメーカーの2.4mmの小さな傷から入るレンズ、日本のメーカーだけあって外国のメーカーより開発スピードが速くて優れている)に替えました。このレンズに関しては設計の進化が激しいこともあり、当院でもいずれは2.0mmから入るものに変更するかもしれません。その場合は切開は2.4mmから更に小さくなる可能性もあります。 このようにたった一年でも術式には大きな変化がありました。これからも努力を怠らず八幡浜地域の皆様に全国レベルの白内障手術を提供できるように頑張っていこうと考えています。
2009.06.09
私は白内障手術を専門としており、毎日より安全な手術を目指して努力をしています。当院はもうすぐ開院1年を迎えますが、この一年間でもいくつかの術式の改良点がありました。 1.瞬目麻酔という耳の下への麻酔を全例で追加して、術中のまばたきを抑えて手術の安全性の向上を図った。 2.水晶体の前嚢という皮をめくるCCCという手技があるのですが、この手技の安全性を高めるために「池田式CCCセッシ」という、小さな傷から挿入できる器具を全例に採用した。(この器具は非常に高価なためほとんどの公立病院では保有していても数本であり、全例に採用している施設はまだ稀だと思います。) この器具を使ってどのようにその前嚢をめくるのか、一例を下にお示しします。左側に見えている器具がその池田式CCCセッシです。 丸く、皮がめくれているのがお分かり頂けると思います。 これ以外でも、当院ではより小さな傷口からの手術を目指して更なる機材の変更を検討しています。日々努力を怠らず八幡浜地域の皆様に安全で快適な医療を提供できるようにこれからも頑張っていこうと考えています。
2009.04.27
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