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2009.01.17
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~明石書店、2005年~

 数年ぶりの再読です。
 編者の一人、浜本先生の著作は、既に一作記事を書いたことがあります。
浜本隆志 『紋章が語るヨーロッパ史』 白水uブックス、2003年
 伊藤誠宏先生も浜本先生と同じく関西大学教授で、専攻はフランス語学だそうですが、本書では心理学的アプローチの章を担当しておられます。
 本書の構成は以下のとおりです。

ーーー

序 章 色彩のプリズム(浜本隆志)
第1章 聖なる色・邪悪なる色(浜本隆志)
第2章 青のヨーロッパ―その軌跡を追って(柏木治)
第3章 黒の横顔―影絵のポートレート
第4章 東西美術の光り輝く色彩
第5章 色彩と心理(伊藤誠宏)
終 章 色彩のカノン(規範)は死んだか?(伊藤誠宏・浜本隆志)
あとがき(伊藤誠宏)

索引
ーーー

 はじめに、で色彩の関わるテーマの広さに簡単にふれた後、序章は本書の4つのアプローチを提示しながら、簡単に各章の紹介をしてくれます。まず、社会学的アプローチが第1章、文化史的アプローチが第2章と第3章、美学的アプローチが第4章、最後に心理学的アプローチが第5章ということになります。通読した感じでは、第5章を除けば、主にヨーロッパを中心とする広い意味での文化史、という印象を持ちました。

『図柄と色彩』 所収の諸論考)ので、目新しい感じはありませんでした。ちょっと気になったのは、紋章の起源について、「戦場や騎乗槍試合において騎士が防御用ヘルメットをかぶり、 視界が制限されたので 、敵味方を識別するために、しるしとして楯に文様を描いたことによるとされている」(57頁。下線のぽねこ)とある部分です。パストゥロー氏の研究を読んできた限り、「視界が制限されたので」というよりは、防具が顔を覆う面積が広くなり、そのため誰が誰だか見分けがつかなくなったから、という理由が大きいのでは、と思い、ちょっと違和感がありました。それにトーナメントでは、観客が参加者たちを見分けやすいように、という効果もあったでしょうし…。

 第2章は、そのタイトル通りミシェル・パストゥロー 『青の歴史』 (『色彩の魔力』刊行当時は邦訳未刊)も参考文献に挙げていて、内容的にはこれに多くを負っているように思います。読んでいて面白いと思ったのは、ゲーテが青を評して言った「刺激する無」という言葉を、こんにちの青の性格を位置づける示唆的な言葉として強調していることです。たとえば、青は赤や黄色に比べ象徴性が弱いということとして、交通標識に多用される青は図としてではなく地としてである、という指摘もあります。また、青は(政治的にも)中立的な色である、という指摘などなど、「刺激する無」―象徴性を持たず中立的でありながら人を引きつけるもの―としての青の性格付けが興味深いです。
 大筋とは別に興味深かったのは、(フランスで)男女の衣服に性差が生まれるのは、それまでは身分ごとに衣服が規定されていたのを撤廃し、男女を問わず、誰でも好きな服を着ていいとフランス革命中に宣言されてから、ということです。その、はっきりと衣服に性差が生まれていく過程も分析できたら面白いでしょうね(既に研究はあるかもしれませんが)。


 特にドイツでの影絵の流行(ゲーテも影絵好きだったようです)や、影絵の描き方について紹介した後、同時代の自然科学が輪郭(頭蓋骨の形)を重視していたという点を挙げ、流行と科学の関連を指摘します。話が具体的で、対象の時代も地域も私が専門に勉強しているそれとは異なりますが、興味深く読みました。
 それに、たとえば、影絵の流行のきっかけは、フランスのエティエンヌ・ド・シルエット公爵(1709-1767)―彼は大蔵大臣をつとめた時代には極端な節約令ばかり出すという無能な人で、影絵を描いたりしていたそうです―であるといったネタもあり、楽しいです。

 第4章は、東西美術に見られる金銀についての考察となっています。ヨーロッパについての記述ももちろんですが、日本についての記述も割合楽しく読みました。

 第5章は、色彩に関して学生に行った調査の分析となっています。具体的には、(1)「安全」「危険」「愛情」…といった言葉から何色を連想するか、(2)そこで選ばれた色について、どういう印象をもつか、といったアンケートをもとに、特に「幸福」と「不幸」について細かい検討が行われます。また、(1)への回答で選ばれる色彩には男女間で差がある、ということも明らかにされます。あくまで一つのケーススタディ、という位置づけですが、こういう調査から得られたデータ(結論)を意味づけていくのは難しい作業だなぁ、と感じながら読みました。テーマ自体は面白いです。

 終章は、色がもつカノン(規範)は、一方では普遍性も持ちながらも、他方では、時代や社会、いってみれば広い意味での「文化」によって相違があり、変遷していく、ということを述べます。ちょっと疑問に思ったのは、第5章での心理学的アプローチを受けての、「今日では、色彩に投影された人びとの感情、価値観や思いなどの類似・共通性がカノンの構築へとつながる時代なのである」(233頁)という記述です。第五章では、たとえば連想する色彩について男女間で違いが見られるということが示されますが、色の連想それ自体が一定のカノン(規範)を受けての色彩イメージによるものかも知れません。この手の因果関係に言及するのは難しいなと、あらためて思います。
 それはともかく本章は、本書全体を受けての興味深いまとめとなっています。

(2009/01/13読了)


※なお、本書は西洋史を扱っている部分が多いことから、テーマも所有作品一覧も、西洋史(邦語文献)に分類しています。





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Last updated  2009.01.17 15:49:47
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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