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2009.09.23
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~創元社、1993年~
(Robert Delort, Les Elephants, piliers du monde, Gallimard, 1990)

『動物の歴史』で著名な中世史家、ロベール・ドロールが象をテーマに著した一冊です。
 本書の構成は以下のとおりです。

ーーー
日本語版監修者序文(長谷川明)

第1章 象の生態
第2章 アジアとアフリカ:生と死のイメージ
第3章 ヨーロッパの記憶


資料編―人と象、その交流をめぐる考察―
1 文化の違いを越えて
2 シベリアのマンモス
3 象のコミュニケーション
4 人間のともだち
5 神聖な白象
6 大地を支える象
7 アフリカの伝説
8 兵器になった象
9 アフリカ奥地への旅
10 バスティーユ広場の象

12 保護に向けて
13 マンモスの復活
14 アフリカの見方
ーーー

 理学士でもいらっしゃるドロールは、 『動物の歴史』

 第2章は、アジア(特にインド)の神話を中心とした記述が多くなっています。史料の関係もあるのでしょう、アフリカの状況については相対的に記述が少なくなっています。
 本書の原題は、『象―世界を支える柱―』と訳せますが、その副題の背景には、インド神話の、世界を支える象たちがいます。ヒンドゥー教の神の一人、インドラ(雨と雷と戦の神)は、象に乗っています(インドラは雨を降らせる神ですが、ちなみにインド神話では象と雲が同一視されるそうです)。
 もうひとつ、象面の神ガネーシャ(図版がありますが、とても穏やかな表情をしています)も印象に残りました。物事の始まりを支配する神、事業や試験の守り神だそうです。

 第3章では、ローマ時代の有名なポエニ戦争のことがクローズアップされます。ローマと戦ったカルタゴ側の名将ハンニバルによる、象のアルプス越えですね。中世はさらっとしか触れられませんが、本物の象を見た人が少なかったため、『動物誌』に描かれた象はもはやなにやら…というかたちになってしまっています。もっとも、西洋中世の動物は、私の最近の関心事のひとつなので、興味深く読みました。

 第4章は、象の乱獲を批判する内容ですね。いろんな国の利害や考え方が対立するので、一概に何が正しいというのは難しい問題だなぁと思いながら読みました(乱獲がダメなのは言うまでもありませんが…)。
 特に興味深かった一節があります。
ここで問題なのは、象と象牙を抱える国々の大半が貧困に苦しんでいるということである。これらの国々が人類すべてのために地球の財産である象を守り、そのために象牙も売らずに苦しんでいるというなら、他の国々は象の保護を援助するばかりか、その損失を埋めることも考えるべきだろう。かつて流行にのって象牙を買いあさり、象の大量殺戮の元凶となった豊かな国々は、いまこそ象の救済に貢献し、場合によっては密猟監視組織を作ったり、出資したりすべきなのだ 」(130頁)
 なるほどと思う提言でした。

 資料編では、賢い動物の王者である象が、ずる賢い野兎にだまされるお話を紹介する「7 アフリカの伝説」が特に興味深かったです。

 本書は、「知の再発見」双書の1冊です。この双書はとても図版が多いので(本文に食い込むレイアウトが時に読みにくいのが難点ですが)、早く読み終わることができます。
 ずっと読みたいと思いながらなかなか手にとれていなかった1冊なので、今回通読できて良かったです。

 最後に参考として、象の歴史に関して、井上正美先生の論文を二つ挙げておきます。

・井上正美「ジャンボ―その生涯と人気の秘密」『立命館文学』597、2007年、277-287頁
・井上正美「ゾウの西洋史―ヨーロッパにおいてアフリカゾウはいつ大きくなったのか―」『立命館文学』604、2008年、579-588頁

(2009/09/21読了)





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Last updated  2009.09.23 07:22:26
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