南トルコ・アンタルヤの12ヶ月*** 地中海は今日も青し

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2005/01/21
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 夫とともに迎えるクルバン・バイラムは初めてのこと。
といっても、実家に戻って親戚めぐりをするのでもなければ、クルバンを切るわけでもなく、まるで外国人のように周囲の浮き立つ様子を傍観しているだけの私たち。

 天気も良く、朝から後ろのアパルトマンでクルバンを切る様子を見学させてもらった。
 毎年のように羊やヤギを切っている彼らは、肉屋並みの器用さで皮を剥ぎ、解体していく。私は後でルポルタージュでも仕上げるようなつもりで、その様子を写真に収める。
 その後で、近所に開設されているクルバンの販売所、兼屠殺場の見学に赴いた。

 アンタルヤの各地区にひとつは、このような販売所兼屠殺場が設けられていて、クルバンを切るのはこのような指定の場所と決められている。
 新興住宅地であるこの地区には、今年新設されたものらしい。
 屋根付き市場のような仮設の建物が2棟続きで建てられており、建物の周囲には、囲いの中にクルバン用の羊やヤギが集められている。


(しかし、残念ながら、説明された内容については、まったく思い出せない)

 まるで屋根付き市場だなあ、という第一印象は、そう間違ったものでもなかった。
 ふた棟に分かれているのは、ふたつのチームに手際のよさや、技術などを競わせて、施設全体のモラル・アップを図るためのものらしく、まるでロンドンの証券取引場のように、ユニフォームの色分けがされているのである。
 自動でゆっくりと動いていくフックに吊り下げられたクルバンたちが、熟練した肉屋たちの手によって、見る見るうちに裸にされていく。そこには断末魔の叫び声や、血の臭いはほとんど見られなかった。オープン・スタイルの食肉工場のようなものである。
 私は、参考資料として何枚もの写真を撮りながら、裏手の方にも回ってみる。
裏手には、剥がされた皮や角などが、それぞれ分別されて集められていた。

 一周して戻ると、先ほど挨拶された屠殺場の責任者に、別の人物を紹介された。施設の裏に隣接して建っている学生寮の責任者だという。
 精力的に写真を撮る私の姿に、こちらも取材して欲しいと思ったのか、「よろしければ案内しましょう」とおっしゃる。トルコの学生寮を見るチャンスも早々ないと思ったので、有り難く見学させていただいた。

 ゆったりとしたエントランス周りには椰子の木が植えられ、まるでお役所のような立派な外観。
 中に入ると、当番になっている学生がスリッパを出してくれ、私たちは父兄との面会室、自習室、図書室、トイレなど順番に部屋を案内された。これら共有の空間は、なかなか贅沢に作られていて、見事な絨毯まで敷かれているのに対し、最後に案内された学生の寝室は、まるで兵舎並み(といっても、実物は見たことはないのだが・・・)の簡素さなのに驚かされた。細長く薄暗い部屋に10台ほどの2段ベッドが並んでいて、私物を入れるロッカーが申し訳程度に添えられている。勉強や宿題は、自習室で行うのだそうだ。
 豪華なシャンデリアの下がる立派な会議室でお茶をいただきながら、日本について質問を受けたりした後、学生寮を辞退し、付属の庭などを見学させていただいてから、帰ることにした。


 それに、公園のあちこちに置かれたガーデン・テーブルでは、上の屠殺場で切り分けた肉を持ってきて、早速マンガル(バーベキュー)をしている家族連れの姿もある。
 捌いたばかりの新鮮な肉でカヴルマ(細切れにした肉を塩やコショウなどで炒めたもの)でも作るのだろう、寮の関係者らしき人間が巨大な鍋を持って現れたのを合図に、私たちは帰途についた。

 後で聞いたところによれば、この広大な土地を有する学生寮は、さるイスラム原理主義団体の運営になるものだとのこと。成績優秀ながら、貧しいために勉学の機会に恵まれない学生に、寮費と学費の面倒を見ることで機会を与え、同時に団体の幹部候補生を養成する狙いもあるのだろう。

* * * * * *


 テレビでは毎年のように、各地の海、川が血に染まった様子、暴れる牛の角で傷ついたり、打ちどころが悪くて亡くなった人のニュース、逃げ出した牛の捕り物帳など、バイラム時期特有の光景が片や面白おかしく、片や嘆きの声と共に報道されている。

 一見、清潔でより簡単に思えるこのシステムであるが、ここまでくると、「神への生贄」という意味がその行為に介在しているのか、疑問に思えてくる。生贄を神に捧げる。それは本来、自らの手を血で汚すことで、自らの信仰を神の前で証明する行為ではなかったか?

 私はクルバンを屠る伝統的習慣には賛成も反対もしない。しかし、ただ残酷で野蛮な伝統と非難する立場に対しては、疑問を呈したい。
動物愛護派の人々にとっては、許しがたい動物虐待と映るかもしれないが、そんな人々の一体何%が、完全なるベジタリアンであろうか?
自ら手を下すのは野蛮で受け入れ難くとも、プロの手で一から十まで処理してもらうならオーケーなのか?おすそ分けだけなら、大歓迎なのか?

 私はむしろ、イスラム伝統のこの宗教祭事が、本来の宗教的意味を失って形骸化している、商業目的化していることの方を危ぶむ。
 マーチャンダイズ化、オートメーション化が進むことで、クルバンとして屠られる動物の絶対数は年々増加しているに違いない。さらに、クルバン・バイラム時期だけの飽食状況はどうなっているのか?お祭り、祭事なのだから、気前よく、ケチなことは言わない方がよいのだろうか?

 問題は、伝統そのものではない。それを継承する人々の意識や手段にあると思う。残酷で野蛮なのは、クルバンを切る行為そのものではない。倫理感と知識、熟練の手を失った人間が、お金と腕力にものを言わせて、本来の儀礼に則らない暴力的なかたちで動物を殺そうとするところにある。

 かつては、五穀豊穣を神に感謝しながら餅をつき酒を造り、神に捧げていた日本人が、今では工場で作った餅は黴させ、残った酒は劣化させてゴミとしているのだから、人のことを言えた義理ではないのだが・・・。






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最終更新日  2005/03/02 06:17:03 AM
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