2004年04月11日
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 ようやく住処が決まりました。
 こっちでは“studio”と呼ばれているタイプで、日本で言うところの1LKアパートメント。とは言え、そこはやっぱAmerican! その1Lがやたら広いし(たぶん12畳くらいある)、キッチンもレジやコンロが非常にゆったりしており、少々ムリすればテーブルを置いて食事ができるくらいのゆとりもあったりする。
 建物は2階建て。白塗りで、恐らく木造かウレタン製のため、全体的に温かみが感じられる佇まい。さらに、青々と芝が茂った中庭を囲むようにコの字型に建っているため、緑と白のコントラストがなんとも鮮やか。湿気が少なく透明度の高いLAの空気を通り抜けてきた陽光たちが白い壁で跳ね返り、木々の間でさえずっているよう(なんのこっちゃ!)。
 しかしそれ以上に印象的なのが、このアパートメントのマネージャーさん。年の頃は、恐らく20代後半(ガイジンさんの年齢はさっぱ解らんのでもっと若いかもしれんが)。目は大きく、鼻はすこぶる高い。尖った顎に肩甲骨くらいまで伸びたフワフワな金髪と、“いかにも”な西洋人ルックスの持ち主。部屋の中にはルームランナーまで置いてあるなど、我々アジア人が抱くガイジン像を完璧なまでに体現している、ステキなお姉さんである。
 でも、なんかちょっとヘンな感じ。“マネージャー”という言葉から連想する人物像からは大きくかけ離れた、ちょっとした“不思議っ娘ちゃん”といった感じだ。
 例えば、彼女はいつも電話で誰かと話してる。しかも、日本ではとんとお目にかけない、イヤホンで通話するタイプの携帯を使用しているため、パッと見では、独り言を言っているようにしか見えない(ま、これは別に彼女のせいではないんだけれど)。初めてこのアパートメントを訪れ、たまたま中庭で電話をしていた彼女の姿を見かけたときは、いわゆる“文学な人”かと思ったくらい。「ここのマネージャーは居ますか?」と聞いた際に「It's me!」と答えられたときは、けっこうタチが悪い類の“文学な人”だと思ってしまった。そして、実際に彼女が部屋の鍵を持ってきて空き家を見せてくれたときは、「このアパートメントは、かなりヤバい」と思ったものだ。ま、その電話に関する勘違いは後に解消されたわけだけれど。
 でも、それを度外視してもなかなか趣のある人物であることが、徐々に明らかになっていったのだ。
 なんやかんやでかなりそのアパートが気に入り、「では契約しようかな?」と言うことになったわたしたち。そんなわれわれを、彼女は温かく部屋(事務所?)に招き入れてくれた。そのアパートメントのルームナンバー4に構えられた彼女の事務所の入り口には、「平」と書かれた玄関マットが敷かれていた。室内は綺麗に片付けられており――というより、事務所なんだか普通の部屋なんだか判別つきかねる感じ――、中には、先にも触れたようにルームランナー、大きなクッション、テレビ(なぜかケーブルには繋がっておらず、ビデオ専用の模様)、そして石庭のミニチュアのようなオブジェが飾ってある。加えて、綺麗なシャムネコ風の猫が2匹。彼女はこの2匹を「ファミリー」なのだと紹介してくれた。「名前は?」と聞くと、「コイツたちには名前がないの。だからわたしは“boy&girl”と呼んでるわ」とのこと。
 おー、それはなかなか悪くない! まるで『Breakfast At Tiffany's』のオードリー・ヘップバーンのようではないか!! と、興趣を覚えたのもつかの間。「じゃあ契約書を書いてちょうだい……あらっ、契約書が切れてるわ」………って、オイ!! どういう管理人ですかぁ!? 

 後日、正式に契約を結ぶために部屋を訪れると彼女のご主人も一緒だった。左腕に大きく“平”の文字のタトゥーを入れ、頭を見事にそりあげている。しかしそんな厳ついオプションとは裏腹に、ソラマメのようなやや下膨れの顔に目じりの下がったつぶらな目が張り付いた、柔和な表情の好青年といった風体だった。
 彼はわたしたちを紹介されると、ただでさえ下がった目じりをさらに下げながら、「Hi! I'm ジョン!」と手を差し出した。先に訪れた際に、Thelesa嬢から彼は日本通だと言うことを聞かされていたので、そのスキンヘッドさんに「日本に行ったことはあるのか?」と問うと、「CMの撮影のために1度訪れたことがあるんだ」と言う。………CM!? いったい、なんの!? そもそも彼、いったい何者!? 
 そんなこちらの胸中を察したのか、彼はニコニコと笑いながらビデオテープを手にしてテレビに向かった。そうか……ケーブルの繋がっていないテレビは、来客にこのビデオを見せるためのシロモノだったか!?
 LAの郊外。有名大学の学生さんたちが多く下宿するアパートメントの一室のテレビから、なんとなくわたしにも見覚えのある日本のCFが流れ始めた。
 “自宅のテーブルにつき、珈琲か何かの飲み物を口にする女優(黒木瞳のように見えたけれど、ちがうかも)。すると突然音楽が高らかになり響き、ビートルズそっくりの格好をした外国人4人組が彼女の後ろに現れる”……と、その場面になるとジョンは「It's me.」と、ビートルズのひとりを指差した。茶髪のマッシュルームカットではあるが、確かに顔の造作は彼そのもの……のような気がする。CFは最後、メンバーのうちのひとりがカップに紅茶を注ぎながら、女優に向い「アナタニハ、Liptonがヒツヨウデ~ス」と言って終わるのだが、そのときにもジョンは、紅茶を注ぐ人物の後ろに立っているひとりを指しながら「It's me.It's me!」と言った。
 俳優なのかと聞いたら彼はYesと答えたが、彼からもらったbusiness cardには“singer/song writer”と書かれている。結局のところ正体がよく解らないこの人物についてさらにわかったことと言えば、彼はどこかの大学か何かで日本語を勉強中らしいということ、本名はGreorgeであること、そしてわたしたちが出会った前日に31歳になったということだった。

 という訳で、かなり味わい深い夫婦が管理するアパートメントに住むことになりました。今後の日々には、どんな予想不可能な出来事が待っているのか……? ケ・セラセラで、楽しみにしております。





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最終更新日  2004年04月11日 09時56分39秒
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