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2010.10.23
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『きれぎれ』町田康(文春文庫)

 えー、この小説は、なんですね。
 この小説は、普通の関西人の男なら必ずみんな一日に一度は言うやろう(人によってはもっとしょっちゅう言うやろう)こんなせりふと一緒ですね。これです。

 「さ、仕事も済んだし、家帰って屁ぇこいて寝よ。」

 一寸下品ですかね。すんません。
 このフレーズを、標準語に直すと、こんな風になります。

 「さぁ、仕事も終わったことだし、家に帰って眠るとするか。」

 こんな感じですかね。え? どっか抜けてますか? 「屁ぇこいて」がないって?
 よぉわかりましたね。そやけど、これでええんですわ。
 ご指摘の部分は、いわば言葉の調子を整えるためのフレーズなんです。そやから、意味なんて初めっからあらへんのです。
 そんなら何のために喋ってんねんといえば、それが関西弁やから、としか言いようがあらへんですね。

 関西弁には、こんな風な、誰に言うわけでもない、そやけど言わずにはおられへんようなフレーズが、しょっちゅう顔出してくるんですわ。

 実はこの小説が、これと一緒やねと、まず思いました。
 つまり、これは関西地域に昔から広く生息してる「しょーもないこといい」の男の系譜ですわ。

 「しゃべくりの話芸」いうたらちょっと上品すぎるような気もしますが、それを芸というねんやったら、間違いなくこの「しょーもないこといい」は、関西弁芸のコアの部分に位置するもんですね。
 そういうたら、筆者の最近作に浪曲講談をモチーフとした作品があるっちゅのは、もっともなことやと思いますなー。

 ただ、以前この筆者の小説を読んだ時の感覚と較べると、なんやちょっと違う感じがするんですわ。
 以前は確かこんな風に感じてたんですね。
 「しょーもないこといい」と「不条理」を足して、さらにそれを「スラップスティック」に雪崩れ込ましたらこんな小説になりよる、と。

 そやけど今回は、ちょっと違うなーという気が、かなりしてるんですわ。
 何か、ちょっと、違う。スラップになりきってぇへん。

 最初の方のタクシー待ちの場面とかランパブの場面なんかは、まさにその通りになってますね。
 そもそも不条理っちゅもんは、サミュエル・ベケットの例を持ち出すまでもなく、ユーモアと、そしてその先に存在の悲しみがあるもんやと思うんですね。この辺にはそんなどたばたが、不条理な登場人物の言動と共に描かれています。

 ところがその先の、母親の死のあたりになると俄然リアリズム、素直な落伍者(わりとええとこのぼんぼんの出来の悪いやつ、つまり「へらへらぼっちゃん」やね)のモノローグになってしもたように感じました。

 それは、自らの心情に対して悲しいくらいに素直に描かれとって、なんや読んでるこっちまで心洗われるような気ぃがしてくるんですわ。
 せやけどこの筆者は、いっつもこんなに哀愁を漂わせてたんやろか。

 ところが、作品はもう一転します。
 その先からまた、話がわけわからないようなっていくんですわ。
 幻想描写と現実描写の接点が紙一重で、くっついたり離れたりしながら捻れ捻れて進んでいきます。そやけど悪夢というほど悪夢じみてもいません。狂気と言うほどその突き詰めも感じられません。
 近いところで考えると、これはいわば、不条理にしばしば見られる「被害妄想」、なんやろか。

 そして作品が唐突に終わっていくその時に、ああこれやこれや、この終わり方や。町田康独特の「情緒エンド」や。
 『くっすん大黒』も『夫婦茶碗』も、なるほどこの「情緒エンド」でした。

 とすると、やはり本作も、町田康小説の本道なんやろかねー。
 「スラップ」と「情緒エンド」のさじ加減。
 ついでに「しょーもないこと」を付け加えときますと、この作品は芥川賞受賞作です。
 (そやからさじ加減がいつもより少しウェット、と考えるんはゲスの勘ぐり?)

 しかし最後に一つ、上に書いた二つをつなぐ言語表現・しゃべくりオーバードライブ文体の強烈に独創的なイメージの噴出については、これはやっぱり、誰が何というても、抜群の力業や、町田康の吃驚するような才能やと、感心しきりではあるんですけどね。


 よかったら、こっち別館で休んでってんか。↓

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Last updated  2010.10.23 08:02:26コメント(0) | コメントを書く
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シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21) 純文さんへ  あたたかいお返事ありがとう…
analog純文 @ Re[1]:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  シマクマ君さんへ。  おや、思わぬお方…
シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  いつも読ませていただいてます。あのせ…
analog純文 @ Re[3]:無理筋仮定を考えてみる(12/28)  七詩さんへ、重ねてのコメントありがと…
七詩 @ Re[2]:無理筋仮定を考えてみる(12/28) analog純文さんへ 私もときどき読書日記を…

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