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2010.10.27
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『楢山節考』深沢七郎(新潮文庫)

 しかし、人間の記憶なんて、……いえ、人間などと一般化してはダメですね、私の記憶の話です。言い直します。
 以前よりうすうすと我が灰色の脳細胞に対して、特に近年は加齢のせいもあって、急速に不信感を抱きつつあったんですが、この度我が事ながら全く信用をなくしてしまいました。我が記憶力はほぼ役立たずであります。

 今回取りあげた小説を私が初めて読んだのは、高校3年生くらいの時だったでしょうか。まー、考えてみたら、今でも世の中のことについてほとんど何にも分かってない私でありますのに、ましてや高校三年生時の私であれば、ほぼ社会全面的・全方位的に破壊的に無知状態であったと思われ、誤解が生まれたことについては、少々むべなるかなと言う側面もあると思うんですが。(身びいきですかね?)

 つまり本書を高校生の私は、「小説としては少しできが悪いながら、人生についてなかなか深い洞察を含んでいる小説だ」と理解したんですね。
 もちろん、そんなもの、「受け売り」にきまっていますよー。
 なーんも考えていない高校三年生に、「人生についての洞察」なんて分かるものですか。自慢じゃありませんが、今の私にだってこれっぽっちも分かっちゃいません。エヘン。

 しかし今回私が問題としたいのは、18才の私の受け売り理解の、その前半部分であります。
 つまり、「小説としては少しできが悪いながら」の部分。この思いこみはいったいどこから来たんでしょうかね。

 思い当たるのは二つの文章です。
 一つは三島由紀夫の『小説とは何か』。小説を巡る三島のこの絶筆エッセイの中に、確か本作が取りあげられていました。
 作者深沢七郎の「異常」な才能に感心しつつも、作品にある種の不愉快を感じるという主旨だったと思います。もう少し丁寧に思い出せば、それは三島由紀夫が中央公論新人賞の審査員をしていた時、応募作としての本小説を読んだというものでした。夜中に読み始めた三島は、最初なんだかだるい感じの文章で眠くなりそうだったと書いてあったように私は覚えていたんですね。これが一つです。

 もう一つは、多分文庫の解説に正宗白鳥の、この作品に対する批評として、「私はこの作品を一小説として読んだのではない。人生最大の本として読んだ」といった感じの文章があったと覚えていたんです。

 で、この二つの表現を足して勝手なバイアスを掛けて二つに割った18才の私は、この作品は小説としては少しできが悪い云々、と思ってしまったんですねー。
 そして、その思いを四半世紀以上も引きずったまま、今回、再読してみました。

この小説、めちゃめちゃできがいいですやん!

 ぼそぼそとだるいどころが、前半部のエピソードの配列など全く間然としたところも無くピリッと引き締まっていますし、文体についても丁寧で分かり易い表現ながら胸に染みこむように入ってきます。
 そして後半の「楢山参り」は、これはまた何と凄絶な「苦いヒューマニズム」の結晶でありましょう。雪積もる楢山山中の独りぼっちの「おりん」の姿は、鳥肌が立つほど哀切で美しいイメージであります。

 そんな名作に対して私を誤解に導いた(!)三島と白鳥の文章を、怒りと共に読み直してみました。(逆恨みかーい。)こんな内容でした。

いくつかの候補作に倦んじ果てたのち、忘れもしない或る深夜のこと、炬燵に足をつつこんで、そのあまり美しくはない手の原稿を読みはじめた。はじめのうちは、何だかたるい話の展開で、タカをくくつて読んでゐたのであるが、五枚読み十枚読むうちに只ならぬ予感がしたきた。そしてあの凄絶なクライマックスまで、息もつがせず読み終ると、文句なしに傑作を発見したといふ感動にうたれたのである。(『小説とは何か』)

「ことしの多数の作品のうちで、最も私の心を捉えたものは、新作家である深沢七郎の『楢山節考』である。(中略)私は、この作者は、この一作だけで足れりとしていいとさえ思っている。私はこの小説を面白ずくや娯楽として読んだのじゃない。人生永遠の書の一つとして心読したつもりである。」(『楢山節考』新潮文庫解説文より正宗白鳥の文)

 うーん、細かな記憶の違いが、結果として大きく「小説としての出来はあまりよくない」にミスリードしたニュアンスは、何となく分かりますね。
 しかし、この細かな記憶の誤りが作品そのものの評価をゆがめてしまったことについて、私は私の記憶力を断罪せねばならぬと、この度大いに思いました。

 一方今回読んだ本書についての感想ですが、それはすでに三島由紀夫の文章が充分に語っていると思います。
 本書は、日本文学史上に屹立する、細くはありましょうが遥に高い一つの頂であります。文句なしに名作と言える数少ない短編小説であると言えましょう。

 ただ、今「短編」と書きましたが、もちろんこの長さで間然とするものはないのですが、読者としましては、もう少し長く作品を楽しみたかったと、少々愚考もするものでありますが。

 最後に、上記に書きました「我が記憶力への断罪」ですが、一体どんなことをするのかと考えて見ますれば、……えーっと、「自分で自分の大ボケを認める」って、ことかな。
 えーっと、すみません。


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Last updated  2010.10.27 06:35:50 コメント(2) | コメントを書く
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Comments

シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21) 純文さんへ  あたたかいお返事ありがとう…
analog純文 @ Re[1]:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  シマクマ君さんへ。  おや、思わぬお方…
シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  いつも読ませていただいてます。あのせ…
analog純文 @ Re[3]:無理筋仮定を考えてみる(12/28)  七詩さんへ、重ねてのコメントありがと…
七詩 @ Re[2]:無理筋仮定を考えてみる(12/28) analog純文さんへ 私もときどき読書日記を…

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