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2012.09.27
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『銀座復興』水上滝太郎(岩波文庫)

 岩波文庫に長く『大阪の宿』以外の小説を持たなかった(小説以外では『貝殻追放』という随筆集があり、またかつては『大阪』という、『大阪の宿』の姉妹小説がありました)水上滝太郎に新しい文庫ラインナップが出版されました。
 奥付による第1刷の発行年月日は、「2012年3月16日」となっています。(ここまでするなら「3月11日」にしてもよかったのにと考えるのは顰蹙ですかね。)

 言うまでもなく、関東大震災後の『銀座復興』と東日本大震災とを関連づけた出版となっていますが、私は読んでみて、結果的に関東大震災時の復興が「古き良き時代」(語弊のありそうな書き方で申し訳ないのですが)のように感じてしまいました。

 本書の解説を坂上弘という方がお書きですが、まぁ、なかなかそうも行かない諸事情があるのだろうとは推測できますが、東日本大震災に触れながら原発事故について全く触れられていません。私は、今回の地震から原発事故の要素を取り去って語ることは、もはや全く不可能ではないかと思うものですが、いかがでしょう。
 現代文明は、引き起こされた災害についても、そんな素朴さでは対応しきれない時代になっていることを白日の下に曝した、と私は愚考いたします。

 話は少し飛びますが、少し前に庄司薫の『赤頭巾ちゃん気をつけて』を読みました。
 もう、かなり古い小説で、そして若かった頃私がとても影響を受けた小説だったので、今回再読するに際しては、実は少しこわごわ読んだのですが、それなりに今読んでも面白かったのでほっとしました。
 しかし、やはりあの時代の作品、特に『赤頭巾…』に強く表されている、今となっては「無辜」なばかりの「知性に対する全面的信仰」は、もはや完璧に色あせてしまったという感慨は持たざるを得ませんでした。

 原発事故は、今回の地震と関東大震災との間に決定的な差異を見せています。
 それに触れないで、同じ震災復興なのだと語るのは、……うーん、少々言葉を選びますが、「偽善」、とは、やはり言いすぎでしょうか。
 しかし私は、それに近い感想を持ってしまいました。

 とはいえ、今述べたものは、本書の内容そのものの批評には、当たり前ながら、なりません。ただやはり、本書にも素朴な文明信仰があり、それが水上滝太郎らしい健康的な作風にマッチしてはいるのですが、上記『赤頭巾…』の例で触れたように、やはり時代的な限界を感じてしまいました。

 今、私は水上滝太郎の健康的な作風と書きましたが、それは以前『大阪の宿』を読んだ時にも同様に感じたものでありました。
 今回の岩波文庫で言えば、収録されている『果樹』という短編が、その作風について際だっており、かつとてもユニークなものになっています。

 この作品は一言で言えば「心洗われる話」であります。
 しかし、なかなか本物の「心洗われる話」でありまして、私が過去に読んだ作品でそんなのを思い出してみると、……んー、太宰治『黄金風景』、森鴎外『田楽豆腐』、志賀直哉『好人物の夫婦』、……こんな感じでしょうかね、なかなか類書が思い浮かびません。(あ、落語の『芝浜』なんかもそんな感じですかね。)

 そして類書がうまく思い浮かばないことについて考えますに、確かにこの手の本は読めば心温かくはなるのですが、さて、文学作品として考えてみると、これは「本道」から外れるのではないかと思います。

 人間世界に怒りがあり悲しみがあり苦しみがある中、実際心洗われてばかりもおれず、だから(「だから」というのが正しいかどうか分かりませんが)これらの「心洗われる話」は短編ばかりであります。

 今回読んだ文庫本の解説の中に、筆者が「二足の草鞋」をやめたがっていたと言うことが書かれていました。(ご存じのように水上は明治生命保険の重役職をしていました。)
 鴎外と同列に説くことは出来ないまでも、「二足の草鞋」の文学者には、例え残された業績がどれほど素晴らしくとも、もし文学専念していれば、と思わせる部分が確かにあります。

 水上について言えば、まれに見るユニークな作品である『果樹』にしても、描写力として円熟境地にある『大阪の宿』にしても、どこか、力を注ぎ尽くせていない感が残ります。
 文学に専念したい意欲を持ちながら、結局それが叶わなかった筆者の人生を思う時、『果樹』のウォームフルな素晴らしさは、一点淋しさに繋がっていると私が感じるのは、結果論の穿ちすぎでありましょうか。


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Last updated  2012.09.27 06:46:32コメント(0) | コメントを書く
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Comments

シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21) 純文さんへ  あたたかいお返事ありがとう…
analog純文 @ Re[1]:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  シマクマ君さんへ。  おや、思わぬお方…
シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  いつも読ませていただいてます。あのせ…
analog純文 @ Re[3]:無理筋仮定を考えてみる(12/28)  七詩さんへ、重ねてのコメントありがと…
七詩 @ Re[2]:無理筋仮定を考えてみる(12/28) analog純文さんへ 私もときどき読書日記を…

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