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2012.11.18
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『青年茂吉』北杜夫(岩波現代文庫)

 本文中にこんな部分があります。

しかし、私は或る古本屋の主人より、こんな言葉を聞いたことがある。
 「近頃の歌人の中にはもう茂吉の歌はむずかしくてわからないと言う人がおりますよ」
 また、つい先頃出た「国文学解釈と鑑賞」(一九八八年十一月号)に、大学院修士課程一年の或る女性が、「今の若い人で、茂吉が好きという人を知らない」という書き出しの一文を寄せている。


1988年の時点で既にこうであります。
 確かに私も、全くその通りだと思ってしまうんでありますが。いえ、じっくり読むと、まぁなんだかんだ言っても三十一文字の短歌ですから、判らないと言うことはないんですが、例えば歌集『赤光』中もっとも有名な連作「死にたまふ母」の歌。

みちのくの母のいのちを一目みん一目みんとぞただにいそげる
  のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて足乳根の母は死にたまふなり


 ……なんといーますかー、まず凄い歌だなー、と思うんですね。何といっても、これはとってもとっても凄い歌でありましょう、確かに。
 「一目みん一目みん」ですよ。すごいですねー。全く気合い入りまくりではありませんか。
 (全くついでの話ですが、斎藤茂吉の孫といってもよし北杜夫の娘と言ってもよい斉藤由香が、初めてこの歌を読んだ時、ひどく感心してご両親に報告なさったそうですが、その時この個所を「いちもくみんいちもくみん」と読んで、母親から叱られ、父親北杜夫もさすがに少し厭な顔をしていたと、確か斉藤由香の文章で読んだ覚えがありますが、冒頭の院生のセリフもさもあらんと言うところでありますね。)

 要するに、やはりこんな凄い歌は、敬して遠ざけたくなるんですよね。
 一方、冒頭に挙げた北杜夫の文章ですが、すぐ後にこんな一文が載っています。

いつぞや辻邦生氏が、「君やぼくが、何年もかかって大長編を書いたにしろ、茂吉の歌一首におよばないね」と言ってくれたことがある。辻氏の文学は別として、私はまったくその言葉に同感し、感謝したものであった。

 もちろんこの言葉は、茂吉の子である筆者に対する「お世辞」の様な部分はありながら、しかしわたくし思ったのですが、さほどに斎藤茂吉の評価は高いのだ、と。

 確かにそう言われてみれば、今まで何回か本ブログで触れている「筑摩書房・現代日本文学大系97冊」でも、茂吉は一冊丸ごとの配当であります。
 正岡子規でさえ3人で一冊、その他の詩人、俳人、歌人は2人、3人で一冊がせいぜい、大抵は10人近くで一冊配当であります。
 そんなに茂吉って、凄いんだ。

 しかしね、しかしわたくし、はて、と考えるんですがね。
 もしも斎藤茂吉の文学がそんなに凄いものならば(事実凄いとは思いますが)、なぜ全く読まれなくなるんでしょうか。読まれなくっていいんでしょうか。

 北杜夫よりも辻邦生よりも遙かに凄くって(わたくし、北杜夫は『楡家の人びと』を読んで以来その凄さが判りました。辻邦生は一作くらいしか小説を読んでいず、それでも凄さは判りまして、その後『背教者ユリアヌス』全3巻とか『西行花伝』とか、やたら長い小説を買い、そしてその長さゆえにまだ手が出せないでいますぅ)、ということはどの当たりのレベルに位置するのでしょうか。
 どちらにしても、そんなハイレベルの文学が読まれないと言うのは、とってももったいないことのように思うのですが、いかがでしょう。

 例えば、実際に作られた平安朝の物語は、現存の物語の何百倍(何千倍?)もあったであろうと言われていますね。ほとんどの作品は歴史の中で散逸してしまったわけです。では、なぜ散逸したか。
 それは簡単ですね。要するに面白くないからであります。

 もっとも、1000年も昔の話であり、印刷事情が(そもそも印刷なんてない)全く異なった時代の話ですから、一概に比較はできませんが、読まれないものは、結局おもしろくないわけでありましょう。

 さて、ここで誰もが感じる次の論点であります。
 それは「おもしろい」とはどういうことなのか、ということですよね。
 ……うーん、確かに『源氏物語』なんて、ストーリーとしても面白いし、登場人物の生き方などを考えてみると、ぐっと心に来るものもありそうですし。
 なかなか、一朝一夕で答えの出てきそうな問ではありません。

 ともあれ本書は、北杜夫が偉大なる父親を書いた4部作の最初の一冊ですが(実は息子が偉大なる父親を語るという本はほとんどありません。娘が偉大なる父親を語るというのなら山ほどありますのに)、ほとんど茂吉のことを知らなかった私にとってはとても面白い一冊でありました。
 この後の連作も楽しみだし、北杜夫は『楡家の人びと』以外にも小説仕立てで他に父親を語っていそうですから、その辺の作品を読んでいく楽しみもまた生まれてきました。


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Last updated  2012.11.18 10:10:20
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シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21) 純文さんへ  あたたかいお返事ありがとう…
analog純文 @ Re[1]:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  シマクマ君さんへ。  おや、思わぬお方…
シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  いつも読ませていただいてます。あのせ…
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