片栗の花

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2007年01月26日
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カテゴリ: 今日は何の日


葬儀のとき山形の一番上の姉の娘(孫)さんが、仕事で
忙しくてどうしても来れなかった兄の弔辞を代読しました。

おばあちゃん
たまに山形から訪ねていくと”あらあ純ちゃん良く来たこと”と
あなたは笑顔で迎えてくれます。いつも穏やかな笑顔でした。
小さい頃は”純坊”と呼ばれていました。中学生になった頃からは
”純ちゃん”に出世しましたが、その後は頭がだいぶ白くなって
きても相変わらず”純ちゃん”のままでした。あなたの孫のままでした。

の縁側に机を並べて寺子屋のような私塾の先生でした。

私も近所の子供らに混じって勉強させられました。珠盤の授業のとき、
それまで触ったこともないので珍粉漢粉(ちんぷんかんぷん)でいると
あなたは大変あわてた様子でした。”この子の将来は危うい”と思った
のかもしれません。翌日から毎日珠盤でした。

 だからかどうか私が高校、大学に入ったとき、又学位を修得した時など
一番喜んでくれたのもあなたでした。夏休みが終わり山形に帰るときは
どこか泣き出しそうな笑顔でした。”それじゃ又ね、バイバイ”独特な
手の振り方でした。幼稚園児が星の瞬きを演じるように顔の横で手を
ひらひらと回しての見送りでした。

その頃サギ草という植物を教えてもらったことがあります。花の形が

サギの名前がつくとサギ以外のものに見えなくなるから面白くないと屁理屈を
捏ねると、そんな小学生の餓鬼が言ったことを真に受けて”なるほどそんな
考え方もあるねえ”と妙に納得した様子で、かえって驚かされました。

あなたは誰よりも日本の言葉に親しみ日本の言葉に通じ愛していました。
源氏物語を原文のまま全て読み上げたという伝説のような話もあなた

笑いの種のつもりで2種挙げたときのことです。


わがそばに乙女来たりてどてら焼きしみじみ食いて去りたるかなや


するとあなたは”いやあすばらしいねえ”と真顔で頷いていました。
これはとてもかなわないなあとつくづくと思い知らされました。

青葉城恋歌という曲が流行すると”この歌詞は全て大和言葉で綴られて
いるから優しく美しく響くんだねえ”と解説していました。
いったい誰がそんなことに気付くでしょう。自ら文章を書けば、
達筆で言葉は優しく美しいものでした。

 85歳で胃がんの手術を受けたときは正直もうだめかもしれないと思いました。
貧血がすすんで輸血をしたと聞けばいよいよかと身構えたりもしました。
それから12年、あなたはなお見事に生き続けました。感嘆しています。

 数ヶ月前、病室を訪れたときは、もうその美しい言葉を聴くことが叶い
ませんでした。たぶん自分の意思とは無関係に顔や首やらを回すばかりでした。
こちらの言葉は通じているのかしら、私にはよくわかりませんでした。
久しく手を握った後、”じゃ又来るからね”と自分に言い訳をするように
挨拶するとその手がこちらに伸びて、ひらひらと回っていました。
涙が出るほど感動しました。

 最後にお会いしたのは亡くなる前日でした。呼吸は浅く喘ぐようでした。
耳元で私が自分の名前を告げると、2度うんうんと頷きました。分かるのか
しら、少しの間静かに見守っていると同じように頷きます。さすがにこれは
たまたま首がそう動いただけなのかもしれないと思いました。
それでももう一度痛いところはないか、大丈夫かと問うと決して大丈夫で
あろうはずもないのに、又2度頷きました。

ここにいたってようやく確信しました。あなたは分かっていただけではない。
この無意味とも思える問いかけにすら気を使って頷いていてくれていたのだ
ということを。そしてもしかしたらこの時、夫や亡くなった娘さん(おばさん
たちと)話をしていたかもしれないということを。

最後の最後まで優しく孫に甘いおばあちゃんでした。
私はあなたの孫として生まれてきて本当に良かったと思います。
これからもずっとあなたの孫で居させてください。

               平成19年1月26日    純  





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Last updated  2007年01月30日 16時54分45秒
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