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表題作の他、5つのお話から成る短篇集。 しかし、読み始めると「これ、本当に伊坂さん?」というのが第一印象。 短篇だから? それとも意図的にいつもと違う書きぶりをしている? その真相は、巻末のや「文庫化記念インタビュー」で明らかに。 ***「逆ソクラテス」。面白いタイトルだなと思っていたら、実はかなり意味深長。 「草壁、それは違う、 さっきも言ったように、 ソクラテスさんは、自分が完全じゃないと知っていたんだから。 久留米先生は、その反対だよ。逆」(p.33)これは、小学6年生の安斎が同じクラスの草壁に言った言葉。久留米先生は、安斎たちのクラスの担任です。そして、安斎は、これも同じクラスの加賀にこんなことも言っています。 「あるよ。だって加賀のお父さんが情けないかどうかは、 人それぞれが感じることで、誰かが決められることじゃないんだ。 『加賀の親父は無職だ』とは言えるけど、『情けないかどうか』は分からない。 だから、ちゃんと表明するんだ。僕は、そうは思わない、って。 君の思うことは、他の人に決めることはできないんだから」(p.26)さらに続けて 「久留米先生はその典型だよ」(中略) 「自分が正しいと信じている。 ものごとを決めつけて、それをみんなにも押し付けようとしているんだ。 わざとなのか、無意識なのか分からないけれど。 それで、クラスのみんなは、久留米先生の考えに影響を受けるし、 ほら、草壁のことだって、 久留米先生が、『ダサい』とラベルを貼ったことがきっかけで」そして、安斎の「久留米先生の先入観を崩してやろうよ」の言葉を契機にして、小学6年生たちが行動を開始し、後に一人のプロ野球選手を生むことへと繋がっていくのです。一人の教員が全教科を教える学級担任制、その学級担任の影響力の計り知れない大きさに、今更ながら気付かされると共に、担任の先生方には反面教師として欲しいお話でした。「逆ワシントン」の中で、謙介の母親が、姉のクラスで語った言葉(p.270~273)もスゴイです。ぜひ、ご一読を!
2023.09.27
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前巻を受けての、南領を舞台とするお話の締めくくり。 玲琳と入れ替わった慧月は、尭明に命じられた茶会を敢行。 芳春は、慧月を陥れようと、他家の雛女たちに巧みに言葉を連ねますが、 慧月はその言葉を逆手に取り、他家の雛女たちの認識を改めさせることに成功。 茶会後、慧月は尭明から今回の事件の真相を聞かされ、共に邑へと向かいます。 その頃、玲琳は、瀕死の重傷を負った雲嵐を必死に治療していました。 途中、彼女にしては珍しく挫けてしまい、危うい行為に及ぼうとしかけます。 しかし、辰宇や尭明に押しとどめらるうちに、雲嵐が意識を取り戻したのでした。江氏や林煕が邑に辿り着くと、そこでは予想外の光景が繰り広げられていました。慧月が舞い、邑の女たちが田植え歌を紡ぎ、尭明が豊穣祭の執行を宣言。そして、皆の前で江氏の悪行が次々に暴かれると、彼には天罰が下ります。さらに、尭明は林煕に、今回の件は既に藍家当主に伝達済みだと知らせたのでした。そして、舞台は雛宮へ。玲琳と芳春のその場が凍りつくような舌戦を、慧月がハラハラしながら見守ります。やがて、二人は本性をあらわにして言葉をぶつけ合い、慧月もそこに引きずり込まれ……双方とも一歩も譲ることなく、今回のバトルは終了。 ***絹秀が亡き妹・静秀に語りかけた「最高だな、おまえの娘は」に続く「-そして、最低だ」の声が、とても気になります。そして、特別編「微笑と予言」も、景彰の心の葛藤が丁寧に描かれたものでした。著者の感情を細やかに描き上げていく筆力には、感心させられます。
2023.09.08
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前巻が発行されたのが2021年09月末。 その時に比べれば、今巻の発行は随分早かった…… 羽海野先生も、お元気そうで何より。 ブンちゃんが導いてくれたチャビちゃんとの出会い、本当に良かった。 ***まずは、次回師子王戦挑戦者決定トーナメント、零と二階堂の対局。手堅くじっくりと積み上げ、重厚な一局を目指していた二階堂に対し、ジャックラッセル化した零が、心が沸き立つような明るい将棋を展開。しかし、69手目の「5三銀打」は「7九金打」に至る深謀遠慮に基づいてのものでした。一方、あかりは、柳通りにあった元布団屋の改築現場で働く職人たちに、おやつの出前を始めますが、その現場前で時間限定の団子販売も開始。すると、お隣りの喫茶店やはす向かいの肉屋、文具屋まで巻き込んで大盛況に。さらには、職人のために作ったはずのカレーライスまで、客の要望に応え販売し始めます。そして、次回挑戦者決定トーナメントは、二階堂を破った零と島田の対局に。またしても島田研究会同士の対戦となったものの、面々は島田家に集って検討に精を出します。すると、そこへ土橋との対局を明後日に控えたスミスがやって来て、共に検討に勤しむことに。島田は、大きな代償の末に得た現状を噛み締めながら、零との対局に闘志を燃やすのでした。一方、あかりは、銀座のお店でおばが入手した電気圧力鍋で次々に新メニューを開発。料理は大人気となるも、あまりの店の変貌ぶりにおばは心が折れ、普通のバーに戻すことに。 ***今巻の3分の1の紙幅を割いて描かれた対局は、これまでで最も白熱した激闘となりました。二階堂の想いや師匠・花岡との関係性も見事に描かれており、相変わらずのハイクオリティ。これだから、次の新刊が出るまでに、どれほど時間がかかるのか皆目分からなくても、読者はその日を楽しみにしながら、じっと待ち続けることが出来てしまうのです。今巻は、川本家三姉妹では、長女・あかりの独壇場で、次女・ひなの登場機会は、ほぼ皆無。14巻や15巻のような甘々のシーンも、また見て見たいですが、巻末の「いよいよ本当のラストスパート」という羽海野先生の言葉が、気になります。あとどれ位、お話は続くのでしょうか?
2023.09.03
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