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2014.10.10
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『「うつ」は病気か甘えか。』 で、名著として紹介されていたので読んでみました。
 結論を言えば、間違いなく名著です。
 『「うつ」は病気か甘えか。』の著者のスタンスから、
 薬剤使用に否定的な内容を想像していたのですが、そうではありませんでした。

 それなりの心理的理由があっておこる心理的反応ではなく、
 ひとりでにおこる種類のうつ病。
 「第三者にわかりにくい程度」のうつ病、
 それを「軽症うつ病」と本著では呼んでいます。


 私がこれまで読んだどの本に書かれていたものより、ピタッとフィットするものでした。

   ***

  「ゆううつ」が「不安」と「おっくう」を伴ってこういう三角形の構造をもっているとき、
  それに何週間も耐えつづけることは
  ファイトと能力を兼ね備えたこの男にさえむつかしかったのです。(p.21)

この男というのは、著者の長い友人である55歳のサラリーマンで、
大製造業界の責任ある地位に就いていた人物です。

  夜中に目が覚めて、あとが眠れない。(中略)
  この夜中の陰気な気分、悲しい気分は、朝まで尾をひき、
  目が覚めているのにおきあがる気力が出ない。(中略)
  食事もうまくない。

  やっと仕事に手をつけても、すぐにイヤになる。(p.23)

とにかく、職場に辿り着くまでが一仕事。
さらに、着いたら着いたで、仕事にならない……

  その上、ときにイライラしてくる。
  身体がそうなるのか心がそうなるのか、そのところははっきりしないのだが、

  人にわからないように、そのあたりをウロウロしてみたり、体操をしてみたり、
  ため息をついたりしてごまかしている。(p.24)

このイライラ、じっとしていられない症状については、
この男性だけでなく、他の女性の症状でも、示されています。

  イライラする。こうして椅子に座っていても、じっとしていられない。
  身体のイライラなのか、心のイライラなのかよくわからない。
  いつもイライラといっしょに不安がある。
  理由がないのに不安とイライラが湧いてくる。
  イライラしだすと溜め息ばかりがでてくる。(p.94)

椅子にじっと座っていられないことは、想像以上にとても辛いことです。
家にいても、職場にいても、電車やバスの中でも、座り続けることが出来ません。
家の中なら、横になってしまうことも出来ますが、他の場所ではそうもいきません。
電車やバスの中では立っていればいいですが、職場ではデスクワークが出来ません。

さらに、同じ場所で、じっと立っていることが出来なくなると、もっと困ります。
ずっと手足のどこかを小刻みに動かすか、先の男性のようにウロウロすることになるからです。
さらにさらに進むと、じっと横になっていることさえ苦痛になってきます。
こうなると、寝ることもままならなくなってしまいます。

  たとえば、少し「おっくう」になり仕事の能率がおちると、
  能率を維持するために一段と入念に仕事をしたり、
  時間を延長して残業を増やしてしまう人がいます。
  上司の目を気にしてそうするというよりは、そうしないと自分の気がすまなくなるのです。
  中年期にはじめてうつ病になる人のなかには、後に述べますが、
  元来几帳面で仕事熱心な性格傾向の持ち主が少なくありません。
  彼らは「ゆううつ」が始まると、持ち前の几帳面さを増強させます。
  むしろ意地になるのだ、という人さえいます。
  休息すればよさそうなのに、休息しにくくなります。
  そうして、引き返しにくいところまで心の疲れを増幅させていきます。(p.70)

「そうしないと自分の気がすまなくなる」ところまでくると、もうどうしようもありません。
しなくてもいいことまで、しないではいられなくなってしまいます。
自分でも、してもムダなことだと分かっているのに、それを止めることが出来ません。
しないままにしておくと、不安で不安でしかたがなくなるからです。

  この婦人は自分から夫を説得してやってきました。彼女はいいます。
  「ゆううつ」気分は外見から推測するよりはずっと苦しい体験だったから、
  精神科であっても治してもらえるならどこでもいくという気持だった、と。(中略)
  むしろ、紹介する人のほうが、精神科へ、といったら患者さんに失敬ではないか、
  嫌がられないか、と心配顔のことが多いようです。(p.39)

自分で自分をコントロールできなくなる、自分が自分でなくなる感じ、
さらには、やるべきことをやらないと、不安で不安でしかたがないのに、
それが、自分の手でどうしてもやれなくなってしまったら、もうお手上げです。
「治してもらえるならどこでも行く」というのは、率直な気持でしょう。

  「おっくう感」はうつ病にとって
  先の「不安・イライラ」「ゆううつ気分」につづく第三の大事な精神症状です。(中略)
  ただ、こうした外面的な抑制症状は軽症うつ病ではそれほど目立ちません。
  しかし、外的ならぬ内的な、
  つまり主観的心理的な抑制症状は軽症の段階ですでにはっきりあります。
  ここで「おっくう感」というのがそれです。(中略)
  また表現しようとしても言葉のうえでは、
  ごく普通の倦怠感をあらわす以上の表現が容易にみつからないのも、
  他人に伝達されにくい一因でしょう。
  しかし、困ったことにこの症状は「不安感」や「ゆううつ感」が消えたのちにも、
  最後までしつこく残ることが多いのです。
  そういう場合、専門家ですらそのどこまでが症状で、
  どこからが怠け心なのか、区別しにくいことがあります。(p.102)

この「おっくう感」が最後までしつこく残るというのも、辛いところです。
自分自身でも、それが症状なのか怠け心なのかが分かりません。
以前なら、簡単に出来ていたことが出来ない、する気にすらならない。
「自分の弱さ」のせいではないかと、ここでも苦しむことになります。

   ***

全体を通してとても丁寧な表現で、著者の診察・治療に対する真摯な姿勢が滲み出ていました。
精神医療に携わっている方が、著者のような方ばかりだと本当に素晴らしいのですが……
最初は、タイトルにある「軽症」という言葉に、
いわゆる「新型うつ病」を扱った書籍だと勘違いしてたのですが、全く違いました。

「うつ」に関わる方には、間違いなく必読の一冊です。





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Last updated  2014.10.10 18:10:51 コメントを書く
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