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この春、ドイツ周辺の情勢は厳しさを増していた。オーストリア軍はイタリアでの手痛い敗北から回復すべく、ドイツ方面の指揮を預かってきた皇弟カール大公と3万の兵を、対ボナパルトの押さえとして北イタリアへ配置。その結果、昨年はライン河流域で優位に立ってきたドイツ諸侯の守備が手薄になるのは必至である。そのような折りも折り、イタリア北東部のフリアウルとティロルを防衛拠点としたカール大公のもとに、驚くべき知らせがもたらされた。フランスの再侵攻を今かと待ち受けていた、4月の中旬のことである。「なに、まことか・・・・エルヴィン・フローベルガー大尉からの使者であると!」大公も側近達も、この知らせには耳を疑い、次に喜んだ。マントヴァ近郊の激戦でエルヴィンの中隊は壊滅し、命を落としたと見られていたからだ。そのエルヴィンの使いとあれば、軍務に忙殺されている大公も即座に目通りを許可した。使者を天幕に招いてみると、確かにエルヴィンの部下、ディートリッヒという男であった。大公は興奮をおさえられない様子で、使者に尋ねる。「よく生きていてくれた。兄上も心を痛めておられたのだよ。一体エルヴィンはどこで、どうしていたのだ。怪我はないか。」しかしディートリッヒは硬い表情のまま、こう返答したのだった。「お許し下さい、殿下・・・エルヴィン様からの使者というのは、偽りでございます。マントヴァの乱戦ではぐれたきり、あの御方の行方は私にも分かりませぬ。」「・・・ディートリッヒ!何という・・・・では、そなたなぜ嘘をついて面会を求めた。」「処罰は承知で、殿下にご覧いただきたいものが。」ディートリッヒの取り出した紙片が、近習の手を経由して大公に渡る。「エルヴィン様が、ご自分の使命と信じ調査しておられた結果です。」文字列を目で追う大公の顔が、徐々に険しくなる。「フライハルトとバイエルンが・・・婚礼の取り決めを進めていると。」ディートリッヒが確信していると見て取ると、大公は紙片を折りたたみ低い声で続けた。「興味深い情報ではあるが、どうして私のもとへ来た。エルヴィンは兄上の臣下であろう。」「エルヴィン様はフライハルトの動向に関して、幾度も皇帝陛下に注進されておられました。しかし、陛下は興味をお示しにならなかった・・・・エルヴィン様のご無事も分からぬ今、最も有効に活用していただける御方にお渡しするのが、あの御方の意志にかなうことと存じます。」フライハルトの女君主、レティシア・・・帝国に恭順な素振りをみせる裏で、どんな企みを進行させているのか。対仏戦線が長期化し、ドイツ諸侯の疲弊と不満が増す中、叛意の芽は迅速に摘まねばならない。 * * *時を同じくして、いよいよフライハルトではレティシアの行幸の隊列が宮廷を出発して、北を目指していた。あくまで表向きは、ミハエル大聖堂を改修するための寄進と礼拝という事になっている。そのため付き従う護衛の兵も200名余りと少数で、ユベールは竜騎兵隊から精鋭を選んで王家の馬車の側方を固めていた。燦々(さんさん)と降りそそぐ暖かな陽光と、華やかな色づかいの紋章に飾られた車体。サーベルとマスケット銃で武装した自分の隊が、妙に場違いに感じられるほど穏やかだ。だが車内のレティシアは緊張しているのか、無表情に近い顔でゆっくりと流れる景色を見つめている。日が高くなった頃、一行は湖畔の町に立ち寄って休息をとった。馬車の扉が開き、騎士フォルクマールに手をとられたレティシアが、若草色の土地に足を下ろす。昨夜の雨が残したぬかるみをよけて歩きながら、彼女はユベールの名を呼んだ。「陛下、お顔の色が優れぬようですが・・・」「長距離の移動は久しぶりだから、少し疲れただけです。歩けば気分もよくなるわ。」彼女がフォルクマールの視線を気にしているのを感じて、とっさにユベールは彼女を自分の体の影に隠すように移動した。遠くで竜騎兵達が、ユベールと女王の親しげな様子を改めて驚嘆の眼差しで見ている。彼女は湖の方角へ、先に立って歩き出した。後を追いかけて横に並んだユベールは、今朝方の光景を思い起こしてしまった。女王の出立を見送る廷臣達の中に、珍しくグストーの姿があったのだ。彼はレティシアに声をかけるでもなく立っていた。ただ彼女が馬車に乗り込む直前、ほんの数秒の間だが、二人の視線は互いを捉えていたように思う。「ユベール。」「・・・はい。」「何をぼうっと考え込んでいるの。あと一歩で私は泥に足を踏み入れそうよ。」レティシアは足場の悪い地面の手前で、不服げな声をもらす。「これは、失礼を。」慌てたユベールをしり目に、彼女はさっさと自分で迂回してしまった。ユベールは息を吐き出し、自分を戒める。実を言うと他にも気がかりな事があって、注意散漫になってしまったのだ。行幸に同行するはずであったアドルフが、いまだにフライハルトへ戻っていない・・・マインツのアルブレヒトと接触できたかすら不明だ。「ザンクトブルクへ戻っていたのですって?」水辺までやって来たところで、レティシアが口を開いた。「・・・えぇ、二日間だけですが。慰霊祭に参席してきました。」ユベールが率いるザンクトブルク竜騎兵隊で、犠牲になった者のための式典である。地元の有力者がこぞって出席する一方、ロイ・コルネールの姿はなかった。出迎えの観衆の中に、彼の妻エリーゼを見たような気はする。ともかく友人が無事に帰還しているのは確かで、それで十分とするしかない。群生する水仙の見事な大輪に、レティシアは手を伸ばして鑑賞している。「いい式でした。ただ・・・誰も私を責めないのが哀しかった。部隊の三分の一近くを故郷に帰してやれなかったのに。残された家族は、私によく戦ってくれたと。本音では苦しいでしょうに。」フランスの脅威は人々の愛国心をかき立てた。それと同時に、国民は戦いを否定できなくなったのだ。人々があれを致し方ない犠牲と受けとめてしまうなら、自分は彼らの良心を欺むいている気がしてならない。「分かっています、陛下。私は軍人で、いつまでも泣き言をいう青二才ではいられない。以前より遙かに強く、人々はフライハルト人であることを意識しているし、私は期待に応えて戦う。それにも係わらず、国内が二手に分かれて反目しているのは皮肉ですが。」レティシアは立ち上がり、摘み取った一輪の水仙をユベールの胸に押しつけた。「その通りよ。あなたも、私も。己の道を悲嘆している余裕はないわ。フライハルトは、じきに統合される。どのような誹(そし)りを受けても、私は当事者であることから逃げたりしない。」「陛下・・・・?」彼女の言葉を理解できずにいるユベールに向かって、レティシアは笑みを投げかけた。「そろそろ馬車に戻りましょう。」「はい。」「こうして貴方と歩くのは好きよ。他の者達は私に合わせようとするけれど、貴方とは自然に歩調が合う・・・そういう存在は貴重なの。」ごく当然のように向けられるレティシアの信頼が、ユベールの胸に温かい思いを吹き込む。帰国した当初は、彼女との感情的な交流をいっさい拒もうと決めていたが、こんな風に言葉を交わせるのなら、側にいる意味もある・・・二人が隊列に戻ると、めいめい散ってくつろいでいた兵や侍従が、一斉に集合する。休息をとって英気を回復した馬たちに鞭が当てられ、一行は再び街道を北へと向かった。
2009/06/24
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AXNが流してる「グレイズ・アナトミー」のCM曲がとても印象的で、題名を探していました。といっても、どうやって探せばよいやら、ネット上を右往左往。なんとかドラマ本編の使用楽曲リストにたどり着きましたが、(コレ)いつのシーズンの何話かも見当つかないので、リストにあるものをひたすらyoutubeで検索、検索、検索すること二時間。ようやく感動の再会を果たしました!^ ^;探していたのは、この曲。「High」発見してみれば、歌っているのはJames Blunt。「ユァ・ビュティーホー」ってテレビやラジオで流れすぎて、イギリスで禁止令が出たという噂のアノ人ですよね。なんだ、こんなメジャーな人だったんか、すごく苦労したのに。と思いつつ。早速iTunesにダウンロードしました。サビがほんと綺麗なメロディーなんですよね。タイトル通り、空に抜けてく感じの歌声が心地よいです。つい繰り返し聞いてしまう・・・。
2009/06/23
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番外編 ロイ・コルネール氏の長い休日ザンクトブルク 1797年4月12日 午後2時城下町の目抜き通りでは、互いに密着した3階建ての家屋がずらりと並び、それぞれの生業を営んでいる。その中の一軒は白壁に中世風の濃茶の縁どりが印象的なたたずまいで、表の戸口には“十字に交わる二本の剣とイバラ”の紋章が掛かっていた。家主が、ザンクトブルク守備隊に属する印(しるし)である。「ロイ、もうすぐ時間よ。」上着を抱えたエリーゼが、書き物机についたままの夫に声をかける。「ほら、支度をして。」ロイの真横に立った彼女は、軽く背をかがめてロイの額に口づけした。彼女の声は柔らかく、まるで唄うように言葉をつむぐ。だがロイ・コルネールは顔も上げずに、羽ペンをインク壺にひたしながら答えた。「昨日も言っただろ。俺は行かない。帳簿の確認も残ってるし。」「帳簿なんて後でいい。本当に守備隊のお仕事をしなくていいの?ユベールさんが宮廷から戻ってくるのに・・・」「行かない。休みをとったんだから。」「だったら、私があなたの名代としてユベールさんに会ってくるわ。」「勝手なことするな!」「ロイの分からず屋!」エリーゼは珍しく怒った風にして、表に待たせてあった馬車に乗り込んでしまった。ザンクトブルクの城がある小高い丘のふもとには、マイン河の支流が流れ込み、人々の生活を潤している。今日、その一画が式典会場となるため、沿道は人であふれかえっていた。もうじき合同慰霊祭が始まるのである。ローレンツ老侯爵の指揮のもとマインツへ渡った兵士と、その子息ユベールが率いた竜騎兵隊の戦没者が天に迎えられるよう祈りを捧げる典礼だ。石畳の街道に先触れの喇叭が重々しく鳴り渡り、喧騒が潮の引くように静まる。身重のエリーゼは周囲を下男に守られながら、人々の列に加わって成り行きを見守る。幾重もの馬蹄の響きと共に、姿を現した竜騎兵たちの厳粛な行進。その先頭に立つのは将来のザンクトブルク領主、ユベールである。彼はイタリアからの帰国直後に一度凱旋していたが、今回は式典のための二度目の帰郷になる。(・・・ユベールさん・・・・)エリーゼは真剣な眼差しを褐色の昔なじみに向ける。イタリアから戻って以来、ロイは表面上これまで通りに振る舞っている。しかしユベールとの友情を失ってしまったことを、ずっと気に病んでいるのは隠しようもない。ロイが自分で会う勇気がないなら、自分がきっと仲を取り持とう。隊列が行き過ぎる時、前方をまっすぐ見すえていたユベールが、ふと自分の方に視線をやったような気がした。式典会場に掲げられた四竿の軍旗が、風に流れはためく。教会の祈りの鐘が鳴り渡った。円形の広場の中央に祭壇がもうけられ、大小の燭台が厳(おごそ)かに並べられている。式典はフライハルト女王から贈られた哀悼文で始まった。彼女の側近によって代読されていく文章は、聖書を巧みに織り交ぜ、言葉は平易ながら人々の耳に美しく響く。正装に身を固めてサーベルを刷いたユベールも、壇上で目を閉じて聞き入る。女王に近い者なら知っていることだが、この文はマルセルという年若い官僚が書き上げた。平民ながら大学に上がり、今の宰相に見いだされた人物である。「・・・陛下の目がザンクトブルクに向いているとはなぁ。ローレンツの若君様のおかげで、この街も変わった。」隣に立っていた壮年の男が嘆息する。隊列を組んだ兵士達により、天に向かって礼砲が打ち鳴らされた。賛美歌が歌い継がれ、祭壇の前へ並んだ市民達が、順に献花していく。中には手に蝋燭を持った人々がいるが、彼らは故人の家族だ。この地方の伝統で、葬儀で灯された祭壇の炎を近親者が蝋燭に移し、家に持ち帰る。エリーゼも献花の列で順番を待った。祭壇に花を捧げる時、ユベールとの距離は、ほんの数ヤード。きっと彼は、自分に気付いてくれるだろう。そうしたら・・・・「エリーゼ!」いよいよ自分の順が近づいてきた時、誰かが小声で、しかし強く袖を引いた。思わずよろけた彼女を、男が抱きとめる。「え・・・ロイ?」「しぃっ」それは間違いなく夫なのだが、使用人と見間違えそうな質素な黒服に帽子までかぶって、一瞬誰だか分からなかった。ロイは彼女の手を引いて、列の後方へやってしまった。「ロイ、いいかげん覚悟を決めて。せっかく今・・・・」「頼む、やめてくれ。ユベールに・・・俺の話なんか、しないでくれ。」ロイは彼女の腕を掴んだまま、壇上のユベールに視線をやる。ユベールは祭壇の隣に立って、燭台の炎を持ち帰る家族を一組ずつ呼びよせている。残された妻らしき女や、年老いた両親の肩に触れ・・・彼らの哀しみに震える手に、己の手を重ね。「あいつ、話して聞かせてるんだ。あの家族の息子や夫の戦場での様子や・・・どれだけ勇敢な最期を迎えたか・・・」ユベールは、部隊の兵士と親しく交わる種類の指揮官ではない。そのぶん彼は兵を観察し、またアドルフやティアナの目を通して掴み、神に召された今はこうして家族へ伝えるため、一人一人を理解しようと努めてきたに違いなかった。「分かるだろ、エリーゼ・・・・俺には、あの場に立つ資格がない。」「・・・・・。」ロイが負傷兵として故郷へ戻った時、彼を批難する人間はいなかった。彼が上官命令に逆らって追放されたことは公にならず、ザンクトブルク守備隊の中隊長にも復職して、彼の名誉は守られている。「けれど、ロイ・・・時間が経つほど難しくなるわ。だからユベールさんとお話ししよう思ったの。どれほどロイが後悔して、もう一度会いたいと願っているか。」本当のことは、このエリーゼにしか打ち明けていない。ロイは感謝していると伝えるために、彼女の手を握りしめた。「ロイ・・・」「ごめんな、エリーゼ・・・。もしユベールが俺を許すと言っても、俺が俺のままじゃ意味がないよ。」彼女の体が冷えないようにストールを掛け直してやって、彼は再び家の方角へ歩き出す。「待って!」エリーゼは祭壇を振り返る。そこでは新たな家族が“フライハルトの英雄”の前に進み出て、魂の慰めと栄誉を受け取っている。きっと自分達があの場所へ行くには、まだ時間が必要なのだろう。エリーゼは早足で夫に追いつくと、彼の腕に手を回して寄り添った。「それで、どうやってユベールさんに誇れる自分を取り戻すの?」「・・・それ、そんな事わからないよ、俺には。」大体、これまでだって友に誇れるものがあったか怪しい。「だめじゃない。」「な・・・今はまだってだけ!行くぞ!」間断なく流れる賛美歌に包まれ、日没の時が柔らかく近づく。優しい夕暮れは、迷える者の胸にもささやかな希望を宿す。悲観することはない、誰しもいまだ完結することのない道の途上にいると。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~*あの人は今・・・だったロイの再登場です。^ ^;レティシアの行幸直前ですが、ユベールは慰霊祭のためザンクトブルクへ来たようです。(アドルフもティアナも国外に出てしまっているので、今回は彼一人。)相変わらず、いまいち緊張感をキープできないロイですが、彼なりに人生と格闘している様子。最近、久々に小説書きのペースが掴めてきました。この調子で続けていきたいなぁ・・・。
2009/06/21
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馬蹄にえぐられた土が、宙に舞う。首筋に浮かんだ玉のような汗が、風に散る。アドルフ・ギーゼンは主命を帯びて、行き過ぎる街ごとに馬を替え、ひたすらにマインツを目指していた。意図的に人事案が晒(さら)されるという奇妙な事件の翌未明、彼はユベールに一通の書簡を託され、王都を出立した。ゆうに250キロを越えるマインツ-フライハルト間を、一週間で往復しようという強行軍である。マインツ・・・対フランス戦線で、常にドイツの防波堤の役割を果たしてきた、アルブレヒトの駐留する街。(今日は、この辺りが限界か。)出立から二日目の日没が近づいて、アドルフは街道沿いの小村で宿を求めた。供も連れずに単身で任務にあたっているのは、移動を素早くするためでもあるが、何より国内の諸侯に動きを察知されないための用心だった。特に、あの奇妙な鳥姿の女は帰国して以来見かけないが、今でもユベールの監視を続けているかもしれない。アドルフは宿の主人に前金で支払いを済ませ、ついでに受付を兼ねた酒場のカウンターで麦酒を一杯飲み干した。この村はフライハルトとの最短経路上だから、ティアナも近くを通過しただろう。ふとそんな思いがよぎった時、彼は背中に視線を感じた。気配を押し殺しているような、じっとりと張り付くような視線だ。さりげない様子を装ってアドルフはグラスを置き、階段を上って部屋に戻る。その後ろを、二人組のフードの男達が追った。彼らは階段の途中で囁きを交わし、片方が頷くと一気にドアを蹴破って室内へ突入する。ひやりとする夜風が、侵入者たちの頬をなぜた。「・・・・。」怒気を含んだ呻(うめ)きがもれる。部屋の窓は開け放たれ、標的は荷物と共に姿を消していた。 * * *一方、自分の居場所も分からず監禁されたままのティアナは、ベッドの上で幾度も寝返りをうっていた。「・・・・どうすればいいんだろう・・・。」考えるほど、奇妙な状況だ。尋問されることもなく、ただ時間が過ぎていく。温かい食事と着替えまで用意され、部屋から出られない事を除けば快適とさえ言える環境。“二週間で迎えをやる”あの伝言を信じて、大人しく助けを待つべきだろうか?ティアナは起き上がり、星明かりに浮かび上がる鉄格子の窓を見つめた。二週間・・・正確な日付は分からないが、きっと女王の巡幸が終わる頃だろう。(・・・・・だめだ!)確信に似た焦燥感が、ティアナを襲った。(だめ・・・二週間も待ったらいけない・・・!)ここに閉じこめた首謀者は、何が望みなのか。自分のような身分の者が、人質としての価値を持つとも思えない。だとすれば、ひょっとして・・・(足止めが目的・・・?そう、アルブレヒト様との手紙も、最近は途切れがちと言っていた。連絡を遮断している人間がいる?)すると二週間待てという伝言も、本当の助けか策略なのか、疑わしく思え始めた。ティアナは再び思案を巡らせる。こんな時、敬愛するアルブレヒトなら慎重に状況を見極めるだろう。もしユベールなら・・・自分の直感に従って行動するに違いない。ティアナは頷いた。二週間が過ぎれば、何か重大な出来事が彼女を素通りしたまま終わってしまう、そんな気がする。時間の猶予がないなら、脱出の手段や好機は自分で作り出すしかない。
2009/06/13
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昨日アップした小説ですが、途中、レティシアとユベールの会話あたりを書き換えました。少し重要な事実が追加してあったり、その後のアドルフとのやり取りが次回分に回ったりしています。(これは、どうにも分量と流れが悪かったので。)修正前にお読みになった皆様には申し訳ないです。^ ^;お暇がありましたら、修正後の分もご覧下さいませ。
2009/06/08
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鉱物と金属のこすれる音と共に、わずかな粉塵が舞う。「このっ、このっ・・・・くっ・・・・・」ティアナは格闘の手を止めて、がっくりと肩を落とした。ベッド脇の石壁に、ベルトのピンで穴を空けようとしていたのだ。石と石の隙間は思いのほか硬く、巡回の目を盗んで作業するなら、石一つぶん外すのに月単位で時間が必要だろう。(やっぱり、手っ取り早く・・・・)荒っぽい考えが頭をよぎる。ここは監獄とは違う。部屋から出るだけなら、食事の世話に来る監視をフォーク一本で脅すことも出来そうだった。ただ、その先の様子はまったく予測がつかないが。逡巡している内に、例の給仕係の少年がやってきて几帳面に皿を並べ始めた。「いつも随分丁寧だね。私は囚人なのに?」ティアナの問いかけにも、少年は無言で作業を続ける。「君はずっとここで働いてるの?ねぇ、何か話そう・・・・」さりげなく体を近づけると、彼がするりと身をひるがえして警戒の表情を作る。その動きが思いのほか敏捷で、ティアナは驚きを隠すのに努力が必要だった。「パイ、ちゃんと全部食べて。」感情の乏しい声で告げると、少年は再び部屋を出て扉を施錠する。落胆したティアナが、鶏肉のパイ詰めに乱暴にフォークを突き刺す。「・・・?」何か奇妙な手応えがあった。フォークを引き抜き、今度は慎重に切り分けていく。「これは・・・」底面のパイ生地の合間に隠されていた、薄い紙片を取り出した。“ 二週間で迎えをやる それまでは従順に ” * * *午後8時過ぎタン、タンと小気味のよい音が連続で響く。レティシアの執務室と壁一枚隔てた支度部屋で、レオンハルトがダーツの真似事を始めたのだろう。財務長官ノルベルト・クロイツァーが、非難がましい目を真横の宰相に向けた。「あなたの部下でしょう。いいかげん、言い聞かせて下さい。」グストーは我関せずといった顔で、銀時計のネジを巻いている。「しつけには忍耐も必要だ。」両者のやり取りを聞きながら、レティシアは苦笑した。議題の結論は出ているのに慎重すぎて決断できないノルベルトを、レオはわざと苛立たせて喜んでいるのだ。音が止んで、扉の隙間から張本人が顔を出した。「陛下にお客人です。だいぶピリピリしてるようですよ。無理もないけど。」10分ほど待たされた後で、ユベールは執務室に通された。退席する高官達とすれ違う。クロイツァーに会釈を返した後、反射的にグストーの姿を目で追ったが、彼は年若い青年将校に注意を払う様子もなく廊下へと行き過ぎる。「ローレンツ大尉、どうぞお席へ。」室内の片付けを終えた侍女、イステル夫人がユベールをうながす。窓際に立っていたレティシアが歩み寄り、彼の腕に軽く触れた。「ユベール、あなたを呼び出したのは他でもない・・・さぞかし驚いたでしょう。不意打ちですもの、あなたにとっては。」「不意打ちどころか、今日一日でフライハルト中の諸侯を敵に回しました。皆、私が陛下に参謀総長の椅子をねだったと考えている。」人々の嫉妬や怨恨は、戦場の敵よりやっかいだ。今回の件で、ユベールへの一足飛びな昇進案はもちろん、軍の中枢系統からジークムント公の影響力を徹底して排除しようとするレティシアの意図が漏れたことになる。「フラウ・イステル、貴女も下がっていいわ。」女王は珈琲を注いでいた侍女に声をかける。軽く会釈して立ち去るイステル夫人の姿を見送って、ユベールは呟いた。「・・・・近頃は、彼女がお気に入りのようですね。」夫人はユベールとレティシアの連絡役でもあるが、以前であれば、そういった役目はイルゼが果たしていたはずだ。「イルゼはフォルクマールと結婚したばかりだから、夕刻には帰してやらないと。彼女もよく気の利く人よ。」信頼できる相手なのかと、尋ねようとして彼は言葉を呑み込んだ。今回の騒動の犯人は、遅かれ早かれグストーの諜報網が逃すまい。問題はグストー自身が、レティシアに対し真に忠実かということであって・・・(・・・またか。いい加減、おせっかいな考えは捨てたいものだ。)知らず知らず、彼女の身を案じる方へと流れていく自分を、ユベールは引き戻す。「陛下・・・この件に関しては私も当事者です。説明を求めても構わないでしょう。なぜ、あのような人事を?」「それほど奇抜な案でもないでしょう。ピットが首相に任命されたのは24の時よ。現陸軍大臣ローレンツ候の子息で、実戦経験のある貴方が軍の要職につくのは妥当なはずよ。」「それはイギリスの話で・・・それに私の事だけでなく、軍の編成の刷新まで。諸侯の私兵は活躍の場を奪われ、中央集権化がひと息に進む。このように性急な変革案を、長官の方々やアルブレヒト殿は承伏されたのですか。」「もちろん発表はしばらく先のつもりだったし、対案がないわけでもないけれど。」レティシアは茶器にゆっくりと手を伸ばした。レースで飾られた袖が滑るように机上を動き、白磁に注がれた珈琲を口元に運ぶ。直前で、ふと上方に弧を描いた器が軽く唇に押し当てられ、的確な傾斜を作る。帝都ウィーンで数多(あまた)の高貴な女性達を目にした後でも、これほど優美な振る舞いは他にないとユベールは思う。だがレティシアの心は、彼に対して開かれていない。「陛下。」彼は席から立ち、鏡面のように磨かれた国主の執務机に右手を添えた。「まだ質問が?」「私があと少し陛下への忠誠を失っていたなら、あの人事案は偽物だろうと問い詰めるところだったでしょう。」レティシアは碧い瞳を細め、微笑を作る。「あなたこそ、奇妙な事を言い出すのね。」「アルブレヒト殿は、陸軍最高司令官の地位など望まれない。何よりグストーが、それを望むはずない。陛下・・・私を巻き込むおつもりなら、真実をお聞かせ下さい。」静かな吐息と共に、彼女は両手を膝の上に置く。軽く小首をかしげた眼差しは、あくまで穏やかだ。「ユベール。何も心配はいらないのよ。あなたの身に危険が及ばないよう配慮します。だから自分の仕事のことだけ、考えて。」それは聞き分けのない弟を諭(さと)す姉のような顔で、これ以上の会話を拒んでいるのだった。 * * *闇色の空間に集う人々の断片を、燭台に灯された明かりが照らし出す。ゆらゆらと揺れる炎に囲まれ、男は身を固くして宣告を待つ。「首尾は上々、か。よくやった。」四方に、声をひそめた囁きが広がる。壁に掛けられた幾丁もの軍用銃の隣に、勇壮な戦(いくさ)絵図が見える。「お誉めにあずかり、光栄の・・・」「今のは、そなたの妻に対してだぞ。持つべきものは、賢き伴侶だな。」周囲から失笑が聞こえ、男は額の脂汗を手でぬぐった。「公爵殿下・・・・」座の主、ジークムント公は、手渡された巻紙を広げて光にかざす。浮かび上がった図面に、思わず口元が歪んで笑みがこぼれた。「なるほど、これが行程図か。」部屋の中央でかしこまる男を公爵は高圧的に睥睨し、言い渡す。「安心するがいい。儂は約束を守る人間だ。領地を手放さずとも済むよう、取りはからってやる。それで良かろう、イステル中尉。」返答を待たず、ジークムントは隣の私兵隊長に話を向ける。「時は熟した。レティシアには積年の罪を贖(あがな)ってもらうとしよう。」
2009/06/07
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久々に重症の風邪をひいてしまいました。^ ^;やっぱり食事は大切というか、自炊をサボると効果テキメンですね。今、ようやく治りかけてきたトコです。最近は新型インフルもあるから、人前で咳とかクシャミしづらい。「まさかインフルじゃないよね?!」的な・・・面倒がらずに、ちゃんとご飯作って食べよう、薄着しないで寝ようと心に誓いました。
2009/06/06
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