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マインツの中心部近く、某子爵が提供した館に、連合軍の守備隊本部は設けられている。エントランスから会議場のある中央ホールまでの廊下は、将校や使者達がひっきりなしに行き交っているが、多くの諸侯が対仏戦争から離脱した現在、数年前の溢れかえるような喧騒はない。「定時報告、デュッセルドルフ方面、すべての観測地点において異常ありません。」「今日も変化なしか。連中め、じらしてくれる。カノン砲は引き続き北北西へ向けておけ。」オーストリアの司令官が命令を下す横で、黒衣のアルブレヒトは立ったまま後ろ手を組み、背丈ほどある北ドイツの地図を見つめていた。南北に流れるライン河の青い線をたどって、彼のまなざしはドイツ中南部、フライハルトへと移る。周囲からは読み取れぬだろうが、アルブレヒトの思いは故国に馳(は)せられていた。「おや、ブランシュ君。あれを見たまえ。」左胸を所狭しと勲章で飾った司令官が、唐突にアルブレヒトを呼んだ。見ると、報告の使者達の間から押し出されるようにして、軍装の少女が彼らの前に立った。「アルブレヒト様・・・いいえ、ブランシュ参謀長官様・・・!」その声音には、隠しようもない歓びがあふれてる。流れるような金色の髪も涼しげに、中性的なたたずまいが人目を引いた。「ティアナ・・・。」アルブレヒトの声に、かすかに驚きが混ざった。「ローレンツ大尉の伝令として参りました。」ティアナは膝をついて深々と礼をする。その統制のきいた無駄のない身のこなしに、彼女の成長が感じとられる。「フライハルトから、馬を駆ってか。」「はい。」「では、報告は別室で受けよう。」「ほほう、彼女がローレンツ候のご子息とイタリア遠征に同行したという?」司令官が横から口を挟んだ。「これほど可憐なお嬢さんだったとは。噂になるのも道理なことだ。ぜひとも今宵の晩餐に同席して、食卓に華を添えていただきたいが。ブランシュ君、いかがかな。」「・・・この者は戦闘に従事する騎士見習いに過ぎません。ご婦人方を歓待するような格段のご配慮は無用かと。」アルブレヒトは目礼すると、ティアナに退席するよう命じた。彼女はアルブレヒトと共に館の二階に上がり、彼の居室へ移動した。部屋の内部は壁にも棚にも、装飾類はほとんどない。教養としての芸術には造詣深い彼だが、趣味で物を飾る習慣がないのは以前と変わらない。その代わり、銀の指輪が忠誠の証(あかし)となって、彼の右手にはめられている。「伝令であれば、使いを寄こせばよいものを。お前自身が来るとは、よほどの事か。」「私、本当はお暇をいただいているんです。今回は事情が複雑で・・・・」どこから話せばよいのか迷ってしまったティアナを、アルブレヒトはソファに座らせた。「ティアナ、息災なようだな。」落ち着き払った深みのある声に、にじむ慈愛が感じとられる。突如、彼女は胸にこみ上げるものがあって、言葉に詰まった。「アルブレヒト様・・・・」彼の眉根も彫りの深い目元も、ティアナの記憶に比べ何と険しくなったことか。国防の重責を担い、絶え間なくフランス軍の攻撃にさらされてきた辛苦が、彼の面(おも)差しに現れているのだとティアナは思った。「・・・これを。ローレンツ様の書簡です。」ティアナが差し出した手紙を受け取ると、アルブレヒトはそれを裏返して確かめた。封蝋にはローレンツ侯爵家の紋が押されている。しかし彼はすぐに開けず、手に取ったまま何かを沈思しているようだった。重々しく刻まれる振り子時計の振動音が、やけに耳につく。彫(ほ)り起こされた神像のように静寂なアルブレヒトの、灰色の瞳だけが吸い込まれそうなほどに深い。「・・・ティアナ。三年前、大尉に同行するようお前に命じた時に、私が何と言ったか覚えているか。」「はい。常にローレンツ様のお側で学び・・・あの御方を知るようにと。」「その通りだ。」黒獅子の騎士は立ち上がり、机上に書簡を置いてティアナの方へと振り向いた。「お前が彼に、深く信頼を寄せるようになったのは知っている。だからこの手紙を読む前に、私に聞かせてほしい。彼の思考、感情、望みについて知りえたことを。忠実に。」
2009/07/21
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悲鳴に近い金切り声が、回廊の低い天井に木霊(こだま)する。「早く、早くあの娘を捕まえな!」限界速度で、ティアナは狭く急な階段を駆け下りる。手すりを飛び越えて、踊り場で待ち構えていた男二人をかわす。不安定な段差に着地したので、前のめりになりながら、さらに階下をめざす。背後から放たれた銃弾が足元の石を削った。「馬鹿!娘に傷をつけたら金にならないよ!」監獄を取り仕切る女主人が口元を手で覆い、立ちこめる煙を防ぎながら叱りつけた。「あぁ、何て忌々(いまいま)しい事だろう・・・!」ティアナの監禁されていた部屋には、すっかり煙が充満し、鉄格子の窓から外へ溢れ出している。燃えているのは、寝台の詰め物とシーツ。食事の獣脂を染みこませた中綿に、看守のカンテラ油と炎が燃え広がったのが原因だ。夕食を運びこむ隙を狙って、ティアナが火を付けた。煙の立ちこめる屋内は、ひどい混乱である。しきり役の女は、思わず舌打ちした。階下でガラスの割れる音がする。食堂の窓をティアナが砕いて、外へ出たに違いない。しかし、彼女の大胆な逃避行もそこまでだった。煙を吸い込んだせいで呼吸が浅く、足元がふらつき始める。数十ヤード前方に、この土地と外界を遮断する石壁が左右に広がっているが、そこへたどり着いた時には乗り越えるだけの体力が残っていなかった。暗がりの中、思わず膝をついたティアナの周囲から、獣の低いうなり声が幾つもにじり寄ってくる。「抵抗しない方がいい。ここの番犬は人を噛むのに慣れてるんだ。」後ろを振り返ると、見覚えのある給仕役の少年が手に荒縄を持って立っていた。「・・・私を傷つけるなって、命令じゃないの。」「犬には、うっかりって事もある。」彼の背景に、自分を閉じこめていた牢獄の姿が初めて視界に入る。それは薄灰色にそびえる古塔で、手入れもされておらず、離れた場所から見れば朽ちかけて人の住みかには見えない。「無茶をするね。放火なんて、下手すれば煙に巻かれて死んでいた。伝言は教えたのに。」「悠長に助けは待ってられないの。私は戻らなくちゃ。」ティアナが言い終わらないうちに、少年は手にしたロープを石壁に向けて勢いよく投げた。先端が、鉄製の侵入者よけの突起にかかり、ピンと張られる。「ティアナ、取引をしてもいい。」「え・・・?」少年は声をひそめ、闇に青白く浮かぶ顔を彼女の耳元に近づけた。「この塔から君を出してあげる。その代わり、僕の頼みをきいてもらう。」「頼みって、何。」塔の方角から、複数の明かりが明滅して近づいてくる。「時間がない。さぁ、ここを出るの、出ないの。」 * * *ノックというには乱暴な振動がするたびに、薄い戸板がびりびりと震えた。「ティアナ・・・!」意識を取り戻した彼女は、返事をしようとして喉がひどく痛むことに気づいた。飛び起きると、周囲を確かめるより先に扉に近づき、内側の閂(かんぬき)を外した。この声には、答えても大丈夫だと知っている。「・・・ティアナ・・・やっぱりお前か。」両肩を引き寄せられたので、鼻に彼の軍服の金ボタンが当たった。大きな肉厚の手が戦友をいたわるように、しっかりとティアナの体を支えている。「アドルフ・・・さん。」その後の台詞は、両者同時だった。「どうして、ここに?」ティアナは、ようやく自分の居場所を眺め回した。干し草の敷かれた土の床・・・倉庫だろうか、農耕具が所構わず立てかけられている。「お前を捜していたんだ。そうしたら明け方、この農家屋を訪ねてきた娘が似てるって話を聞いてな・・・」だが、彼女は当惑した顔で首をひねる。「すみません、私、混乱していて状況が・・・アドルフ殿がいるということは、ここはフライハルト?」アドルフ・ギーゼン少尉は息を吐いて、彼女を干し草の束の上に座らせた。咳き込んだティアナに、水筒の水を飲ませて落ち着かせる。正午を過ぎた太陽の光が、明かりとりの窓から細く差し込んでいる。この窓には鉄格子がないことに、ティアナは驚いた。「いいか、ティアナ。ここはマインツまで馬で半日っていう村だ。俺がどうしてお前さんを捜してたかは、長い話になるが・・・・」この数日前、アドルフは追跡者を振り切ってマインツ近郊にたどり着いていた。ところが追っ手は街の門衛を抱き込んでいるらしく、彼は容易にマインツ内部へ入ることができなかった。仕方なく胸壁の外に駐屯するフライハルト将校たちを頼ったが、彼らはアルブレヒトとの面会の取り次ぎを頑として拒絶した。苛つくアドルフに、中佐の階級章を付けた年配の男が重々しく口を開いた。「あの御方のお立場を分かっておいでかな。デュッセルドルフ近郊のフランス軍は今にも進駐してくる。重大な軍事対応のために、面会順を待っている人間がどれほどいるか。」上官のユベールは別働隊の隊長にすぎない上、平民である自分の存在が軽んじられている。アドルフは方法を変えることにした。「では、ティアナ・エーベルヴァイン殿に。彼女なら必ず私に会うと言うでしょう。」「ティアナ・・・?」「そうです、中佐殿。彼女がアルブレヒト殿のもとを訪れているはず。」「まさか。あの娘さんを見たのは何年前のことか。マインツにいるはずがない。」 * * *ティアナは水をもう一口ふくみ、今度は自分の身に起こった数奇な出来事を語った。喉の痛みがなければ、悪い夢のようにも思える・・・あの塔を出てから後のことは、記憶が途切れているのだ。渋い顔をしたアドルフは、頑健な膝を手のひらで叩いて言った。「お前をさらった連中の正体は分からんが、ともかく俺たちをマインツに近づけたくない人間がいるってことだ。ティアナ、危険な目にあったばかりで酷な頼みだが・・・・」「えぇ、私がアルブレヒト様にお会いして、ローレンツ様のお手紙を届ければよいのですね。」ティアナはアルブレヒトの縁者。軍の将校達と合流さえできれば、彼らが面会の手はずを整えてくれるだろう。「軍の宿営までは送り届ける。だが俺は、すぐに国へ戻らねばならん。レティシア女王の大聖堂行きに同行するはずが、日程に遅れているんでな。」「私なら大丈夫。早くローレンツ様のもとへ戻って差し上げて下さい。」頷いたティアナの胸中には、もう慕わしいアルブレヒトの面影が鮮やかに宿っていた。
2009/07/13
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昨日、久しぶりにヒュー太をお風呂に入れて気づきました。被毛が退色してるし、なんかパサパサだよ。orz元は淡いブルーグレーなんですが、おでこの辺りとかシャンプーしても茶ばんでるし。汚れじゃなかったんかい、それ。(T_T)理由を予測してみた。1:いつも窓際で外を見てるので、初夏の強い紫外線のせい。2:最近、食事の質が落ちていた。う~~ん、両方あると思うけど、2は確実にそうかも。以前は「サイエンスダイエット・プロ・キトン」と他のフードを混合であげてたのに、引っ越してから「プロ」を置いてるお店が近所になくて、普通のサイエンスダイエットにしてたんです。「プロ」の方が、オメガ3&6脂肪酸(健康な被毛作りに必要な栄養素)の含有量がだいぶ高いようで・・・体調的には変わらなくても、違いが毛に出たか、という感じ。元々、ヒュー太は毛ぶきが良いとは言えない子なので、反省してネットで「プロ」を購入しました。^ ^;今回初めて知ったんですが、いったん被毛が退色してしまっても、色補正できるシャンプーがあるんですねぇ。黒い子用のほか、白系用、茶系用もあるとか。少しお値段張りますが、ヒュー太に試してもらおうかと思います。
2009/07/05
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我が家のヒュー太は、ラタンの猫ベッドで寝ています。▽これ▽ご幼少のみぎりは、こんな風に片隅でちんまり、おりましたが・・・・▽現在よく育ったなぁ・・・・。(=_=;)
2009/07/04
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