やっぱり読書  おいのこぶみ

やっぱり読書 おいのこぶみ

2008年09月18日
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カテゴリ: 読書メモ

 まず 『冷血』 を読んだ。事実を調べて書いた「ノンフィクション・ノベル」というそうだが、まったくの創作のようにな構成で、この作家の天才的な魅力に捉えられた。

 一家四人殺し事件の殺された方の立場も、犯人のやむところのない心情も余すことなくつかめる。殺伐たる事件、非道である。しかしカポーティ味付けはファンタジーの様相をおびて、何か人好きのするようなぼんわかしたものが浮かんでくるのである。

 そんな~、何の罪もないひとたち一家4人を殺してしまう犯人達を許してはいけない!と思いつつ 、言ってしまえば情が移ってしかたない。

 しかも、罪のない尋常に暮らしていた、あるいは豊かに暮らしていた被害者の家族達を何も他人に害がないため、罪があるような錯覚もおきてしまう。

 なんだろう?なにゆえに?これは作家の何かなのだ!ろう。考えさせられる。

 「ティファニーで朝食を」はオードリー・ヘップバーンの不思議な魅力と主題曲「ムーンリバー」の印象で忘れがたい映画だった。それなのに原作者のトルーマン・カポーティという作家を意識していなかった。

 原作の中篇作品 『ティファニーで朝食を』 は映画とはぜんぜんちがう。ハッピーエンドではない。風に吹かれるようにながれながれてもの哀しく終わる。でも、描き方の独特がそこはかとなく魅力なのである。

 一緒に収められている 『わが家は花ざかり』『ダイヤのギター』『クリスマスの思い出』 の作品もひとつひとつが印象深く、やはり主人公を魅力的に想った。

 つまり主人公の性格描写、心理状態(カポーティの等身大と思う)が気になるのだ。野性味のような自由さ、退廃的な、なげやりな柔軟さ。

 そこで 『冷血』 読むまでは松本清張のように実事件に即して、解き明かしたり肉付けしたりして淡々と物語られると思ったのが、違った。むごいのに暗くない、けして解決があるわけではないから明るくはない。

 根源的な「育ち方」、「もの心ついたときの状態」が不如意、不幸だったら、一生に与える酷薄な運命が待ち受けているのではないか!とカポーテーはいいたいのではないか。

 そしてカポーテーの初作品 『遠い声 遠い部屋』 。これぞゴシックロマン風の少年期もの。現代の恐ーいファンタジージーも真っ青。ゾクゾクッとしながら読んで興深い。自伝もふくまれているらしいからカポーテーの思想もわかろうというもの。

 だからといって許せはしない、身も凍る殺人実事件である。現代でも嫌なことにたくさん同様の事件が起こっているではないか。と、読後感が良かっただけでは終わらない 『冷血』

 この9月はカポーティを続けて読んでしまったわけ、である。

 ところで読んだ 『冷血』 は笹田雅子の新訳である。 『ティファニーで朝食を』 の訳者、龍口直太郎訳のもあったらしい。どんなだろう?カポーティ、もっと読みそうな予感。






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最終更新日  2008年09月28日 09時34分38秒
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Re:9月はカポーティ(09/18)  
msk222  さん
この作品を取材した作者は、加害者との交流を深めるなかで「加害者を少しでも長く生きさせたい」という気持ちと「作品を発表するために、早く死刑が執行されて欲しい」という2つの感情の葛藤にさいなまれた。
ということですが、「死刑」制度に対する、われわれの矛盾。つまり、事件との距離によって、べつべつの感情が生まれる。
結局、「死刑制度」があるべきなのか、廃止すべきなのかも、永遠の議論のようになってしまうのでしょうね。
ところで、この作者はこれ以後きちんとしたものは書けなかったということですから、そんなに読めないのでは…。
(2008年10月09日 20時05分39秒)

msk222さん  
ばあチャル  さん
>ところで、この作者はこれ以後きちんとしたものは書けなかったということですから、そんなに読めないのでは…。

あとがきの略伝を見ると、カポーティ自身不幸な寂しいおいたちと、生涯家庭を持たなかった性向が孤独を生んで破滅的だったのですね。数少ない作品の昇華された芸術(ある意味いいなー)。
(2008年10月10日 07時45分28秒)

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