ビストロフの橋

ビストロフの橋

December 9, 2005
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テーマ: 連載(82)
カテゴリ: カテゴリ未分類
 「当たり前だけど、全然変わってないわ」
 ウィルが中に入ると、マゼンダは何事かつぶやきながら杖を振り、洞窟の真中にリンドウ色の炎を呼び出した。
 ずっと歩き詰めだったから気がつかなかったが、洞窟の中はかなり底冷えがして寒かった。
 ゆっくりと洞窟内を見渡したマゼンダが、一番奥のの大きな岩の右側へと移動し、クスッと笑った。何があるのかとウィルも後を追っていって驚いた。
 周囲一メートルほどの岩が青く光っている。
 何が光っているのだろうと、身を乗り出してウィルは気がついた。岩は光っているのではなかった。磨かれでもしたのか表面がスベスベになっていて後ろの炎の光を反射しているのだ。
 「昔ね、ちょっと魔法薬の調合に失敗して私が溶かしたの」岩を溶かすほどの失敗がちょっとな訳はないとウィルは思ったが、マゼンダが懐かしさ以上の何かを込めて話しを続けたので喉元まで出かけた言葉を飲み込んだ。
 「本当なら、全身に魔法薬を浴びて、私は死ぬはずだった。でも、私が扱うには難しすぎる薬を、魔法薬教室から持ち出したことに気がついた上級生が私を追いかけてきてて、薬が跳ねる直前に鍋をここに弾き飛ばした。さすがに血の気を失って立ちすくむ私に、その人は長々と説教をしたわ。『あの薬は六分以上火にかけてはいけないんだ』、『正しい扱い方も知らないのに、魔法薬の材料を持ち出すな』ってね。それが、セブルス・スネイプ、よ」
 だから、ハンナの手際の悪さをあんなになじったのか。でも、だったらそう言えばいいのに、あんな皮肉口調じゃなくて。

 思い出を振り切るような勢いでマゼンダはウィルに向き直り、真剣な顔でウィルの顔をのぞき込んだ。
 「あの薬がなんなのか、聞かせてもらいましょうか」
 リンドウ色の炎をはさんで、ウィルとマゼンダは向かい合って座った。
 炎は淡い光で洞窟内を照らし、暖かな空気を隅々にまで広げている。何よりも、普通の炎と違って煙が出ないのがありがたい。
 「うちの父さんああ見えて几帳面なの。開業して以来の受注は全て控えてあったわ。もちろん、あなたが探していたのもね。それがこれよ」マゼンダは古びて擦り切れた羊皮紙を差し出した。端に穴が二つ開いているのは紐か何かで束ねていた名残りだろう。
 羊皮紙に書かれた文字は、間違いなくサマンサのものだ。日記とまったく同じ筆跡で整然と材料の名と、分量が書き込まれている。
 分量! ウィルは思わず身を乗り出した。
 そこに書き込まれた分量はありえないほど細かく指定されていたのだ。
 『アスフォデルの球根3分の2ヶ』ならともかく、『ヒキガエルのミルク8.2グラム』とか『ドラゴンの牙の粉末0.28グラム』、『スフィンクスの肋骨1.34グラム』なんて、注文書の数値と言うより完全にレシピどおりの数値と思えた。
 「予算が足りなくて、本当に必要なだけしか注文できなかったってことかな?」ウィルが考え考えつぶやくと、マゼンダは大きくうなずいた。
 「そうとしか考えられないわ。でも、だからこそわからないの。私ね、魔法薬の調合に関する知識ならセブルスにだって負けない自信があるのよ。なのに、この材料をこの通りの分量で交ぜ合わせてできる薬なんて考えられない。いったい何を作りたかったのか、あなたはわかってるんじゃないの?」

 瞬間的にウィルは目を逸らした。できうる限り三人だけで調べを進めよう、といっていたキャロルの言葉が思い出される。
 だけど・・・。
 直後、ウィルは意を決して視線を戻し、マゼンダの視線を真っ正面から受けとめた。
 こと、薬に関しては自分たちだけで調べるのは限界だと感じていた。作り方が正確にわかっているのを作るならともかく、調合法自体を調べ、確認しながら作るなんてまねが学生、それも一年生の自分たちにできると考えるほど、ウィルは自信家でも楽観主義者でもなかった。
 「・・・秘密は守ってくださいね」





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Last updated  December 9, 2005 10:17:02 AM
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