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2018.04.08
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カテゴリ: 読書案内
【高村薫/マークスの山】

ミステリー小説が好きな方は、必ず一度は手にするのが高村薫ではなかろうか。
松本清張にも似て社会派で、森村誠一のようにドラマチックなところは、年齢性別問わず評価されるゆえんであろう。
『マークスの山』は1993年に早川書房より単行本として刊行されたものだが、その後、文庫本化もされており、100万部を超える大ベストセラーとなった。(ウィキペディア参照)

高村薫は大阪出身で、国際基督教大学卒。
言わずと知れた直木賞作家で、超の付く売れっ子女流作家である。
どれもこれも売れているので代表作はほとんど全てだが、『レディ・ジョーカー』は中でも第一級の逸作だ。

『マークスの山』は映画化、テレビドラマ化されており、原作を読んでいなくても内容は知っているという方々も多いのではなかろうか。
どんな感想を持つかは人それぞれだが、私個人としては『レディ・ジョーカー』の方が数段おもしろかったように思える。
とは言え、警視庁警部補である合田雄一郎を主人公としたシリーズの第一作に当たるので、まずは『マークスの山』を読んで手ごたえを感じなくてはなるまい。


岩田幸平は学もなく、手に職もなく、中学を出て上京すると山谷をうろついたあと、土木建設会社の作業員となった。
二度目の女房に逃げられてからは、南アルプスの作業小屋に寝泊まりするようになった。
酒浸りの日々で、脳の機能がおかしくなるのは当然のことで、晩秋の南アルプスの夜、小屋にやって来た登山者を熊か何かと間違え殴り殺してしまうのだった。
一方、そのころ南アルプス夜叉神峠付近の路肩で、一家心中する神奈川ナンバーの乗用車が発見された。
排気ガスを引き込んだ車内で男女は絶命していたが、現場から離れたところで九死に一生を得た子どもが見つかった。
だが、その子ども、水沢裕之は一酸化炭素中毒のために重度の統合失調症を患うこととなる。
水沢はそんな精神疾患のために入退院を繰り返した。
一時は遠縁の豆腐屋夫妻の養子となり、社会生活を送っていたものの、やはり病気が病気なだけにうまくいかず、養子縁組も解消してしまう。
定期的に精神に変調を来す水沢は、まともな医師や看護師のいない病院でベッドに手足を拘束され、自分の排泄物にまみれ、唸り声を発して暴れていた。
とくに、山崎という看護師は最低の男で、暴れる患者を手あたりしだいに殴って歩くのだった。
水沢の中のもう一人の人格である「マークス」が、そんな山崎を許すはずがなく、殺害に至る。


ざっくり言ってしまえば、様々な人物がそれぞれの思惑から引き起こす殺人と、その動機と証拠をかき集めて犯人を追う合田雄一郎ら刑事部捜査一課の面々、とでも説明しておこう。
ウィキペディアによれば、最初に単行本として刊行されたときと、文庫本化されたあとではかなり内容に相違があるらしい。
著者による加筆や修正が入ったのだと思われる。
私が読了したのは初版なので、文庫本化されたあとのものと読み比べて、どこがどう変わっているのか知りたい。
刑事らが、血と汗と涙を流しながら捜査を進めていくプロセスは、驚くほどの臨場感に溢れていて見事である。

喧噪と騒音の最中、犯人の抱く得体の知れない闇を突き付けられる思いだ。
ただ残念なのは、ディテールにこだわりすぎて間延びしてしまっていることだ。(もしかしたら、そのあたりはすでに修正されているのかもしれない。)

『マークスの山』は長編ということもあるので、GWのような長期の連休を利用し、くつろぎながら読みたい作品である。
手に汗を握る本格ミステリー小説を、ぜひとも多くの方々に楽しんでもらいたいものだ。


『マークスの山』 高村薫・著



コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から



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最終更新日  2018.04.08 08:00:13
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