師匠の立川談志は、とても理不尽な上司でした。
ある時こんなことを言われました。
薬局がとっくに閉まっている真夜中に、「今すぐ、風邪薬を買ってこい」と命じる。
その理不尽な要求に対して、弟子がどう対応するかをじっと見ているのです。
普通、理不尽で非常識な師匠の言葉に対して、精一杯反抗するでしょう。
言い訳を考える。感情を爆発させる。出かけて、時間稼ぎをしてごまかす。
こんな師匠についていては、自分の将来はないと師匠の下から逃げ出す。
談志師匠にとっては、そんな弟子には用はないわけです。
落語家の場合、理不尽なことだらけ、矛盾だらけです。
そこから逃げ出さないで、落語家になる夢を追い求めている。
そこをクリアーしていない落語家は、面白みのある噺ができない。
談志師匠は理不尽にきちんと向き合い受け入れる人は落語家はなんともいえない人間味、味わいを作り出すと考えているのです。
立川一門からは、人間味のある落語家を育てるという固い決意の表れだったのです。付き人や前座の仕事を無理やりやらされていると思っているような人は、徹底してこき下ろしました。
逆に貴重な体験をさせてもらっていると思って、ていねいに取り組んでいる人は、引き立ててくれるのです。実際そういう人がどんどん伸びていくのを目の当たりにしました。
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