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週末に読みたいこの1冊 「慶喜と隆盛」福井孝典 安政4年、西郷吉之助(隆盛)は13代将軍家定に年賀の挨拶をするために各地から訪れた大名や役人たちの中に現れた越前福井藩士・橋本左内に、ある会合に来るよう声をかけた。集まったのは、肥後の横井小楠、水戸の平岡円四郎、そして徳川慶喜。長い鎖国時代を揺るがす国際情勢のなか、次期征夷大将軍にぜひ優秀な慶喜を担ぎたいという思いのもとに集まった一橋派の面々だ。 当の慶喜はそれを望んでいないものの、西郷は慶喜こそ将軍職に就くべきだと主張する。しかしその後、南紀派の井伊直弼が大老となり、朝廷を無視して日米修好通商条約に調印。さらに将軍家定が次期将軍を喜福(家茂)にすると発表してしまう。西郷の主君・島津斉彬が上洛を画策するが突然急死し、西郷は流刑、左内と吉田松陰が処刑、慶喜は登城停止の憂き目に遭う。多くの処分者を出した安政の大獄によって、西郷の願いはついえたかに思えたのだが……。 安政の大獄から明治へと激変していく武士の時代の終焉を描いた歴史小説。フランスやイギリスの動きなども加え、薩長史観とは一線を画す多角的な視点が興味深い。 (作品社 1400円+税)
2020年08月22日
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ノーベル賞作家のカズオ・イシグロの作品を一つ読んでみたところ、これがおもしろく、一気に長編作品を全部読んでしまうこととなった。すなわち「遠い山並みの光」「浮世の画家」「日の名残り」「充たされざる者」「私たちが孤児だったころ」「わたしを離さないで」「忘れられた巨人」である。 自分の作品でも充分意識しているところだが、物語が展開される場所とその風景、これがそれぞれ興味深い。戦後まもなくの長崎、東京の下町と思われる焼け跡の都市、1956年と戦前のイギリス、中欧と見られる夢幻的なある都市、1930年代の上海、クローン人間を集めた全寮制の学校、アーサー王統治後のブリテン島。決めつけられないが簡単に言ってしまえば、幻想小説、探偵小説、SFミステリー、ファンタジーがある。 それぞれが一流だが、単純にそう思わせない点がある。それがイシグロ文学である。叙述の妙味である。これだけで読ませる。しかし平易な文章で淡々と書いてあるようだが、これが一筋縄ではいかない。現実に起こっている世界と、叙述とが微妙にずれているのだ。語り手の記憶の問題もある。「忘れられた巨人」では、あからさまに人々の記憶が失われている設定になっている。 人間の記憶や思いの不確かさについては、歴史を見れば誰もに思い当たるところがあるだろう。日本でもイギリスでも、勿論アメリカ、中国でも人類的問題として意識しなければならない課題だ。
2020年08月19日
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