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新潟県三条市には、今ではあまり知られていない不思議な昔ばなしが残っている。
その名も「火井(かせい)の火」とも呼ばれる話である。
これは、雪深い越後の冬と、人の善意、そして地の底から湧き出す不思議な火が結びついた物語だ。
【貧しい夫婦の大晦日】
むかしむかし。
三条の如法寺の村に、貧しい夫婦が暮らしていた。
夫婦は、わずかな暮らしの足しにするため、自分たちで布を織っていた。
大晦日になると、その布を背負い、雪の降る三条の町へ売りに出かけた。
しかし、布は一枚も売れなかった。
重たい雪。
冷たい風。
空腹のまま、夫婦は肩を落として帰り道を歩いていた。
【雪をかぶった六地蔵】
その途中、道ばたに六地蔵が立っていた。
お地蔵さまたちは雪をかぶり、凍えるように立っている。
それを見た夫婦は、
「せめて寒くないように」
と、売れ残った布を地蔵の頭にかけてやった。
自分たちは貧しく、正月の支度もできない。
それでも、人を思いやる気持ちだけは失わなかったのである。
【大晦日の夜】
その夜。
夫婦の家に、六人のお遍路姿の旅人が現れた。
旅人たちは次々に贈り物を置いていく。
正月の餅
正月飾り
黄金
米
鮭
貧しい家にはもったいないほどの品々だった。
夫婦が驚いていると、最後の一人が囲炉裏の前へ進み出た。
そして杖で、囲炉裏を「とん」と突いた。
【地の底から現れた火】
すると――
囲炉裏から、火が現れた。
その火は不思議な火だった。
薪がなくとも消えず、青白く燃え続けたという。
人々はこれを「火井の火」と呼び、長い年月、大切に守った。
言い伝えによれば、その火は三百年も燃え続けたという。
【明治天皇も見に来た火】
時代が下り、明治時代。
その不思議な火の噂は全国に知られるようになり、北陸巡幸の際には、明治天皇も実際にその火を見に来たと伝えられている。
現在の 三条市 には、「火井」あるいは「燃える風」に関する記録や伝承が残されており、地中から天然ガスが噴き出して燃えていたことが確認されている。
つまりこの昔ばなしは、単なる空想ではなく、実際に存在した「燃える井戸」を背景にして生まれた物語なのである。
【越後の土地が生んだ物語】
三条は古くから鍛冶の町として栄えてきた。
火は暮らしを支え、鉄を鍛え、人を生かす力だった。
だからこそ、この土地では、
消えない火
神仏が授ける火
地の底から現れる火
といった話が、人々の信仰と深く結びついていったのだろう。
雪国の静かな夜。囲炉裏の火を囲みながら、こうした昔ばなしが語り継がれてきた情景が目に浮かぶ。
「かせいの火」は、越後の人々のやさしさと祈りが残した物語なのかもしれない。
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